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地域在住前期高齢者に対する運動プログラムの転倒予防に焦点をあてた費用対効果分析

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 420 47 巻第 5 号 420 ∼ 430 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 研究論文(原著). 地域在住前期高齢者に対する運動プログラムの転倒予防に 焦点をあてた費用対効果分析* 加 藤 剛 平 1)# 倉 地 洋 輔 2). 要旨 【目的】本邦における健常な地域在住前期高齢者に対する運動プログラムによる転倒予防の費用対効果 を明らかにした。 【方法】公的医療・介護の立場から分析した。質調整生存年数(Quality Adjusted Life Years:以下,QALY)を効果,医療費と介護費を費用に設定した。マルコフモデルを構築して,65 歳 の女性と男性の各 1,000 名を対象に当該プログラムを実施した条件における 10 年後の増分費用対効果比 (Incremental Cost-Effective Ratio:以下,ICER)を シミュレーション分析した。費用対効果が良好とす る ICER の閾値は 5,000,000 円 /QALY 未満とした。 【結果】女性,男性集団の ICER は順に 1,550,900 円 / QALY,2,277,086 円 /QALY であった。 【結論】本邦において,当該プログラムの費用対効果は良好である 可能性が高いことが示唆された。 キーワード 地域在住前期高齢者,転倒予防,費用対効果,マルコフモデル,運動プログラム. 部・転子部骨折につながるため 9),本人の健康を著しく. はじめに. 阻害する。また,転倒に伴って大.  65 歳以上の人口が 3,558 万人と総人口に占める割合が 28.1%となり. 1). ,高齢社会を迎えた本邦では,高齢者の. 骨頸部・転子部骨折. が生じた場合は,それに要する手術・入院費用は 140 ∼ 180 万 / 人,要介護状態となり介護福祉施設への入所に. 余命の延長に加えて,健康寿命の延伸が求められるよう. 要する介護費用は 242 万円 / 年と推計されている。. になった。同時に本邦における医療費と介護費は上昇傾.  このように,転倒を予防することは高齢者の健康維持. 向にあり,2018 年度の医療費は前年度から 0.9 兆円増加. 向上に求められるだけではなく,社会経済面においても. して 42.2 兆円. 2). ,2016 年度の介護費の総費用は前年度. 9‒11). 。転倒は後期高齢者に生じる. となった。このよう. 9) ことが多いとする報告もあるため ,高齢者が前期高齢. な状況の中,高齢者人口の増加は医療費・介護費の増加. 者であるうちからその予防に取り組み,健康寿命を延伸. から 0.3 兆円増加して 10.4 兆円 に関与するとの指摘があり. 3). 強く求められている. 4). ,医療費・介護費の節減と. させて就労を継続することは. 12). ,本邦がめざす生涯現. 13). を実現するためにもきわめて重要である。. 高齢者の健康の維持・向上の両立が本邦の課題となって. 役社会. いる。.  これまで,転倒を予防するために,運動,ビタミン.  高齢者の健康を阻害し,経済的損失をもたらす代表的. D の投与,服薬状況の管理,環境の調整,そしてこれら. な問題のひとつとして,高齢者における転倒の発生があ. を 2 つ以上組み込んだ多因子性の転倒プログラムが開発. る *. 5‒7). 。転倒は,日常生活活動の制限. 8)9). や,大. 骨頸. Cost-effective Analysis of Exercise Programs Designed for Fall Prevention among Healthy Younger Old Community-dwelling Adults 1)東京保健医療専門職大学リハビリテーション学部理学療法学科 (〒 135‒0043 東京都江東区塩浜 2‒22‒10) Gohei Kato, PT, PhD: Department of Physical Therapy, School of Rehabilitation Tokyo Professional University of Health Sciences 2)からだ康房 Yosuke Kurachi, PT: Karada Kobo # E-mail: [email protected] (受付日 2019 年 11 月 7 日/受理日 2020 年 3 月 7 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 8 月 4 日]. されてきた. 14). 。多因子性の転倒予防プログラムは,複. 数のプログラムを組み合わせるためその内容は多岐にわ たるが,特に運動要素を含むものが効果的であるとされ ている. 15). 。.  こうした運動プログラムは,実際に本邦の医療施設に おいても,内科医と整形外科医による診療に加えて,生 活指導,および,運動指導の実施という形式で地域在住 高齢者を対象に実践されている. 16). 。このことから,医. 療分野における運動指導で中心的な役割を担う本邦の理.

(2) 運動プログラムによる転倒予防の費用対効果. 421. 表 1 移行確率に関するパラメータ 範囲 下限値. 上限値. 範囲の 設定方法. 仮定した 分布. 基本値の 引用元. 9.0. 4.4. 13.7. 95% 信頼区間. 三角分布. Yasumura 30). %/ 年. 17.0. 11.2. 22.7. 95% 信頼区間. 三角分布. Yasumura 30). 男性・女性. 倍/年. 0.79. 0.68. 0.91. 95% 信頼区間. 三角分布. Guirguis-Blake 14).  重症度Ⅱ. 男性・女性. %/ 回. 39.0. ディリクレ分布. Staleholef 32).  重症度Ⅲ a. 男性・女性. %/ 回. 4.0. ディリクレ分布. Staleholef 32).  重症度Ⅲ b. 男性・女性. %/ 回. 1.6. ディリクレ分布. Staleholef 32).  重症度Ⅳ. 男性・女性. %/ 回. 0.4. ディリクレ分布.  死亡. 男性・女性. %/ 回. 0.02. ディリクレ分布. 男性. 倍/年. 3.67. 2.26. 5.94. 95% 信頼区間. 鈴木 35). 女性. 倍/年. 2.22. 1.44. 3.43. 95% 信頼区間. 鈴木 35). 男性. 倍/年. 2.80. 2.66. 2.85. 95% 信頼区間. Campbell 36).  1 年後. 男性・女性. 倍/年. 2.78. Katsoulis 37).  2 ∼ 5 年後. 男性・女性. 倍/年. 1.89. Katsoulis.  6 ∼ 9 年後. 男性・女性. 倍/年. 2.15. Katsoulis 37).  10 年後. 男性・女性. 倍/年. 1.79. Katsoulis 37). パラメータの項目. サブグループ. 単位. 基本値. 男性. %/ 年. 女性. 転倒発生への移行確率. 転倒の予防に要する運動プログラム 転倒発生後のイベントへの移行確率. 転倒発生後の再転倒リスクの増加. 転倒の発生後に増加する死亡リスク. 仮定 消費者庁. 34). 大腿骨頸部・転子部骨折の発生後に増 加する死亡リスク. 学療法士が転倒予防に対して果たすべき責務とその成果. 37). 対象と方法. に対する期待は大きいといえる。  仮に,このような運動プログラムの費用が社会的な許. 1.分析方法. 容範囲内にあり,かつ,健康寿命の延伸につながる可能.  運動プログラムの実施の有無の条件において期待され. 性が高ければ,それは社会的に有益な公衆衛生プログラ. る QALY,および,医療と介護の費用(Cost)を算出. ムであると評価し得る。. した。次に当該プログラムを実施しない条件に対して,.  特定の公衆衛生プログラムを評価する有用な手法のひ. 実施した条件における ICER を,マルコフモデルを用い. とつに,マルコフモデル レーション分析がある. 17). を用いた費用対効果のシミュ. 18). 。実際,この分析方法により. オーストラリアの地域在住高齢者を対象とした各種転倒 19). たシミュレーション分析により算出して,当該プログラ ムの費用対効果を明らかにした。 23).  分析の立場は「公的医療・介護の立場」. とし,第. 。. 三者支払機関である本邦の公的健康保険および介護保険.  しかし,医療分野における費用対効果の分析では,地. の支払者とした。さらに,より広範な費用を考慮する立. 予防プログラムの費用対効果が明らかにされている. ,諸外国に比し. 場からの分析を行うために,支払い意思の値を便益に. ,また,医療制度の異なる. 換算して増分純金銭便益(Incremental Net Monetary. 域の特性を考慮する必要があるため て転倒の発生率が少なく. 20). 21). 23). 。. 本邦においても,マルコフモデルを用いて運動プログラ. Benefit:以下,INMB)を算出した. ムによる転倒予防の費用対効果をシミュレーション分析.  モデルのパラメータには,転倒に関連する移行確率,. することが望ましい。. 生活の質を示す効用値,運動プログラムの費用,転倒の.  これまで本邦では,転倒予防プログラムによる介入効. 発生により生じる医療費と介護費を用いた(表 1,表 2) 。. 果. 8). や経済的側面 22)についての議論がなされてきたが,. これらは,過去の文献,政府発表の統計資料に基づいて. マルコフモデルを用いたシミュレーション分析によって. 引用するとともに,可能な範囲で国内の調査結果を優先. 費用対効果を分析したものは少ない。. 的に使用した.  そこで,本研究はマルコフモデルを用いた分析によ. かったパラメータについては下記に示す数式で 1 年間の. り,本邦における健常な地域在住前期高齢者に対する運. 粗リスク比に換算して. 動プログラムの転倒予防に焦点をあてた費用対効果を明 らかにすることを目的とした。  . 23). 。なお,相対リスク比が示されていな 24)25). 用いた。.

(3) 422. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 表 2 費用,効用値,割引率に関するパラメータ パラメータの項目. 範囲 下限値. 上限値. 範囲の 設定方法. 仮定した 分布. 基本値の 引用元. 56,871. 45,497. 68,245. ± 20% 範囲. 三角分布. 上岡 16). 円/年. 226,700. 181,360. 272,040. ± 20% 範囲. 三角分布. 江上 39). 男性・女性. 円/年. 1,600,000. 1,400,000. 1,800,000. 仮定範囲. 三角分布. 太田. 男性・女性. 円/年. 3,370,800. 2,696,640. 4,044,960. ± 20% 範囲. 三角分布. サブグループ. 単位. 基本値.  転倒の予防に要する運動プログラム. 男性・女性. 円/年. 大 骨頸部・転子部骨折以外の骨折 の入院費用. 男性・女性. 費用.  大. 骨頸部・転子部骨折の入院費用.  特別養護老人ホーム入所費用. 22). 厚生労働省 40). 効用値  転倒が発生していない状態. 男性・女性. 1.00. 1.00. 1.00.  重症度Ⅰ. 男性・女性. 0.90. 0.72. 1.00. ± 20% 範囲. 三角分布. 中西 31).  重症度Ⅱ. 男性・女性. 0.75. 0.60. 0.90. ± 20% 範囲. 三角分布. 中西 31).  重症度Ⅲ a,重症度Ⅲ b. 男性・女性. 0.56. 0.45. 0.67. ± 20% 範囲. 三角分布. 中西 31).  重症度Ⅳ. 男性・女性. 0.40. 0.32. 0.48. ± 20% 範囲. 三角分布. 中西 31). 0.00. 0.00. 0.00. 仮定. 3. 0. 5. 仮定.  死亡 割引率. 男性・女性. %.  粗リスク比の 95% 信頼区間の算出には R version 3.5.3. 仮定. 対象者の年齢は 65 歳とした。. 26). (R Core Team) を用いた。モデルの分析には TreeAge Pro Healthcare 2011(TreeAge Software 社 製 ) を 用. 3.1 年後の状態への移行確率の設定. いた。.  健常な地域在住前期高齢者の 1 年間における転倒の発 生への移行確率は,Yasumura ら(1994)が示した 65. 2.モデルの構造. ∼ 69 歳までにおける転倒の発生率を採用し,男性集団.  65 歳の健常な地域在住前期高齢者の女性集団と男性. は 9.0(95% 信頼区間,4.4 ‒ 13.7) %,女性集団は 17.0(95%. 集団の各 1,000 名を対象者に仮定した。本研究は,転倒. 信頼区間,11.2 ‒ 22.7)%. の発生が男性に比して女性に多いこと. 27). に考慮して分. 析するため,女性集団と男性集団に分けてサブグループ 解析を実施した. 28). 。. ラム. とした。これらの転倒の発. 生への移行確率は,実施条件においてはモデルの開始時 点においてのみ 0.79(95% 信頼区間,0.68 ‒ 0.91)倍 / 年に減少し,この範囲で三角分布すると仮定した.  対象者には,本邦における医療機関による運動プログ 16). 30). として,1 年に 1 セットの内科医と整形外科医. 13). 31). 。. なお,転倒が発生した者に対する運動プログラムによる 転倒予防の効果は明らかになっていないため. 14). ,対象. による診療に加えて,生活指導,および,運動指導を実. 者に転倒が発生したサイクル以降においては,運動プロ. 施した条件(実施条件),および,実施しなかった条件. グラムを実施しないこととし,同時に,それ以前に得た. (非実施条件)を設定した。分析サイクルは 1 年間とし て 10 年後の予後をシミュレーション分析した。なお,. 転倒予防の効果も消失することとした。  転倒の発生によって生じる障害の重症度. 31). ,および,. 31). は,①「転倒したがごく軽度であっ. 各サイクルにおいて生じ得る状態への移行は 1)転倒歴. それらの移行確率. がない状態,2)転倒が発生した状態,3)死亡の 3 つの. た」が重症度Ⅰで 55.0%,②「骨折しなかったが再転倒. 状態を仮定した。これらの状態への移行は 1 サイクルに. への恐怖が強い」が重症度Ⅱで 39.0%. つき 1 回のみ発生すると仮定した。また,転倒の発生に. 頸部・転子部骨折以外の骨折で日常生活は自立しており. よるサブイベントとして障害の発生,死亡を扱うことと. 自宅で生活できる」は重症度Ⅲ a で 4.0%. した。なお,転倒が発生した後のサイクルでは,転倒に. 倒による大. よって生じた対象者の効用値は現状維持,あるいは悪化. 2.0%. のみに変化するとし,改善は考慮しないものとした。費. 傷時に自宅に住んでいた 243 名中,転院の有無にかかわ. 用および効用値は,1 サイクルの中間時点で加算し 年率 3% で現在価値に割引換算した. 17). ,. 28)29). 。分析の過程. 32). 32). ,③「大. 32). 骨. とした。転. 骨 頸 部・ 転 子 部 骨 折 へ の 移 行 確 率 は. とした。さらに,大. 骨頸部・転子部骨折の受. らず自宅へ退院した例は 192 例であったとの報告 ら,重症度の内訳は④「大. 33). か. 骨頸部・転子部骨折により. で は 小 数 点 第 5 位 ま で の 数 値 を 扱 っ た が, 本 文 中 の. 日常生活制限があるものの自宅で生活できる」が重症度. QALY および費用の表記では順に小数点第 2 位および. Ⅲ b で移行確率が 1.6%,それ以外が⑤「大. 整数を用いた。シミュレーション分析を開始する時点の. 転子部骨折後に特別養護老人ホームに入所した」で重症. 骨頸部・.

(4) 運動プログラムによる転倒予防の費用対効果. 423. 度Ⅳとし,移行確率が 0.4% になるとした。また,転倒 によって死亡する確率は,平成 28 年度における高齢者 の「不慮の事故」による人口 10 万人あたりの死亡者数 20.7 人であったとの報告から 0.02%. 34). とした。これら. の移行確率は,各々の値に 1,000 を乗じて得た値を α 値 とするディリクレ分布にしたがうと仮定した。  転倒後の再転倒率は,直前の転倒率に対して鈴木ら 35). (1999). の 5 年間にわたる追跡調査の結果を 1 年間の. 粗リスク比に換算して,男性集団は 3.67(95% 信頼区間, 2.26 ‒ 5.94) 倍 / 年, 女 性 集 団 は 2.22(95% 信 頼 区 間, 1.44 ‒ 3.43)倍 / 年に上昇するとした。なお,再転倒し た場合においては,転倒率が再度上昇することはないと 仮定した。また,転倒の発生後の死亡率は,女性集団に おいて有意な変化が認められていなかったため. 36). ,男. 性集団においてのみ,直前値に対して 2.80(95% 信頼区 間,2.66 ‒ 2.85)倍 / 年に上昇するとした えて,大. 36). 。これに加. 骨頸部・転子部骨折(重症度Ⅲ b あるいはⅣ). の場合は,1 年後の死亡率が男性集団と女性集団ともに 2.78 倍 / 年,2 ∼ 5 年後までは 1.89 倍 / 年,6 ∼ 9 年後 までは 2.15 倍 / 年,10 年後は 1.79 倍 / 年に上昇すると した. 37). 。これらのうち,範囲を記載している比は三角. 分布すると仮定した。  転倒によらない死亡率は本邦における平成 29 年度簡 易生命表. 38). における男女別の 65 ∼ 75 歳時点までの各. 年齢における死亡率を用いた。このため,女性集団では 65 ∼ 66 歳は 0.00%,67 ∼ 75 歳は 0.01%,男性集団では 65 ∼ 68 歳は 0.01%,69 ∼ 74 歳は 0.02%,75 歳は 0.03%. 図 1 モデル(マルコフモデルにより構築). を死亡率とした。  本研究はマルコフモデルを用いて,これらの仮定した 対象者における状態が変化する過程を示した(図 1)。. 1,600,000(仮定範囲,1,400,000‒1,800,000)円 / 年とした。 さらに,重症度Ⅳの場合は,身体介護や生活支援を受け. 3.費用の設定. ながら特別養護老人ホームに居住すると仮定して,その.  費用は「公的医療・介護の立場」から設定し,対象者. 費用は平成 29 年度介護給付費等実態調査の概況. の自己負担分も含めた医療費と介護費を算出した。運動. ける介護福祉施設サービスの 1 人あたりの平均月額に 12. プログラムの費用は,本邦において実践されたもの. 16). 40). にお. を乗じて 3,370,800(± 20% 範囲,2,696,640‒4,044,960)円. をもとにした。具体的には,医療機関による内科と整形. / 年とした。施設への入所は,死亡あるいは 10 サイクル. 外科を中心とした健康診断と計 4 回の運動と生活指導,. が経過するまで継続するとした。これらの費用は上述し. そ し て 担 当 医 に よ る 事 後 指 導 に 要 す る 費 用 と し て,. た範囲で三角分布するとした。なお,海外の文献におけ. 56,871 円 / 年( ± 20% 範 囲,45,497‒68,245 円 / 年 ) に. る費用と比較するため,本研究では米国 1$ を 100 円に換. 設定した。転倒が発生した以降のサイクルでは,実施条. 算して解釈した。. 件における対象者は運動プログラムを受けないため,そ の費用は発生しないとした。. 4.効用値の設定.  転倒後の骨折に伴う医療費は,受傷した年においての.  65 歳時点で健常な地域在住前期高齢者の効用値を. み発生するとした。大. 1.00 QALY とした。転倒後は,国内の Time Trade Off. 骨頸部・転子部骨折以外の骨折. に伴う医療費は,226,700(± 20% 範囲,181,360‒272,040) 円/年. 39). とした。大. 骨頸部・転子部骨折に伴う医療. 31) の手法で求められた効用値 (± 20%)を参考に,また,. 1.00 QALY を超えないものとして,重症度Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ. 22). の順に,0.90(0.72‒1.00)QALY,0.75(0.60‒0.90)QALY,. が示されていることから,その範囲の中間値をとり,. 0.56(0.45‒0.67)QALY,0.40(0.32‒0.48)QALY とした。. 費 は, こ れ ま で 1,400,000 ∼ 1,800,000 円 と 推 定 範 囲.

(5) 424. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 表 3 10 年間のマルコフコホート分析の結果 累積効果 (QALY) 女性集団. 男性集団. 非実施条件. 7.38. 実施条件. 7.52. 非実施条件. 7.29. 実施条件. 7.43. 増分効果 (QALY). 累積費用 (円). 増分費用 (円). ICER ( 円 /QALY). INMB (円/年). 231,832. 1,550,900. 51,558. 314,549. 2,277,086. 37,613. 226,650 0.15. 458,482 109,824. 0.14. 424,373. QALY: Quality Adjusted Life Years ICER: Incremental Cost Effective Ratio INMB: Incremental Net Monetary Benefit. 死亡は 0.00(0.00‒0.00)QALY とした。これらは上述の. ションを試行回数 1,000 回で実施した。得られた結果か. 範囲で三角分布すると仮定した。. ら x 軸を増分効果値,y 軸を増分費用値とした散布図を 作成して WTP の閾値を示す 5,000,000 円 /QALY を示. 5.増分費用対効果の評価. す直線と 95% 信頼楕円を図示して,ベースケースの結.  1,000 名の男性集団と女性集団について,実施条件と. 果の頑健性を視認するとともに,1,000 試行の結果の数. 非実施条件における 10 サイクルのマルコフコホート分. 値の内訳を確認した. 析を実施し,1 人あたりの累積 QALY,および,累積医. ある領域はベースケースにおいて 95% の確率で得られ. 療費・介護費の期待値,そして ICER を算出し,これら. る ICER の領域を示す。閾値を示す直線よりも下側にあ. の結果をベースケースとした。運動プログラムによる介. る値と 95% 信頼楕円の領域は,ICER が 5,000,000 円 /. 入の費用対効果は ICER を用いて評価した。支払い意思. QALY よりも低い値,領域を示す。本研究では,図示. (Willingness To Pay:以下,WTP)の閾値は 5,000,000. した閾値を示す直線よりも下側にある点が多いほど,そ. 41). 43). 。なお,95% 信頼楕円の内側に. とし,これを ICER が下回った場合に費用. し て 楕 円 の 領 域 が 広 い ほ ど, 「ICER が 5,000,000 円 /. 対 効 果 が 良 好 で あ る と 評 価 し た。 さ ら に 1 QALY を. QALY を下回る可能性は高い」という結果の頑健性が. WTP の閾値である 5,000,000 円に換算して,運動プログ. 高くなると解釈した。. 円 /QALY. ラムの実施の有無における INMB を算出し,その値か ら「公的医療・介護の立場」より広範な費用を考慮する. 7.倫理的配慮. 立場から運動プログラムの費用対効果を評価した。具体.  本研究は連結不可能匿名化された既存の公開資料のみ. 的 に は, ま ず 10 サ イ ク ル に お け る 増 分 QALY 値 と. を用いたため,倫理審査については「非該当」とした。. WTP 値 で あ る 5,000,000 円 の 積 を 求 め て 増 分 効 果. 資料の利用にあたっては,出典を明記した。. (QALY)を便益(円)に換算し,それから増分費用を 減じた値(円)を 10 年間のシミュレーション期間にお. 結   果. ける INMB(円 /10 年)として算出した。さらに,それ. 1.ベースケースの結果(表 3). をシミュレーション期間である 10 年で除して 1 年あた.  マルコフコホート分析によるシミュレーションの結. りの INMB(円 / 年)を求めた。. 果,女性集団の 10 年後時点のベースケースの内訳(非 実施条件 vs. 実施条件)は,転倒歴なしが 143 人(14.3%). 6.感度分析. vs. 217 人(21.7%),重症度Ⅰが 152 人(15.2%)vs. 148.  各パラメータが ICER に与える不確実性を検証するた めに,ICER に対する一元感度分析を実施した. 42). 。運. 人(14.8%) ,重症度Ⅱが 486 人(48.6%)vs. 466 人(46.6%) , 重症度Ⅲ a が 94 人(9.4%)vs. 83 人(8.3%) ,重症度Ⅲ b. 動プログラムによる転倒の発生に対する介入効果,1 年. が 39 人(3.9%)vs. 34 人(3.4%) ,重症度Ⅳが 10 人(1.0%). 間の転倒への移行確率,各費用のパラメータを 95% 信. vs. 9 人(0.9%) , 死 亡 が 76 人(7.6%)vs. 75 人(7.5%). 頼区間,± 20% の範囲,仮定した範囲で推移させ,各. であった。1 人あたりの累積 QALY および累積費用は. パラメータが ICER に及ぼす影響の大きさを確認した。. 順 に 7.38 QALY vs. 7.52 QALY,226,650 円 vs. 458,482. なお,割引率は 0 ∼ 5%の範囲で変化させた. 18). 。.  次に,得られたベースケースの結果の頑健性を確率的 感度分析. 43). によって確認した。分布を仮定した各パラ. 円であった。10 年間における非実施条件に対する実施 条件の増分効果は 0.15 QALY,増分費用は 231,832 円, ICER は 1,550,900 円 /QALY,INMB は 51,558 円 / 年で. メータについて,モンテカルロシミュレーションを実施. あった。. するとともに,1,000 人に対するマイクロシミュレー.  同様にして,男性集団の 10 年後時点のベースケース.

(6) 運動プログラムによる転倒予防の費用対効果. 425. 表 4 一元感度分析の結果 項目 女性集団. パラメータの変化. 転倒の予防に要する運動プログラムの効果 割引率 転倒の発生率 重症度Ⅱの効用値 転倒の予防に要する運動プログラムの費用. 0.68 →. ICER の変化 低値→. 高値. ICER の変化幅. 順位※. 0.91(倍 / 年). ¥960,172 →. ¥3,719,626. ¥2,759,454. 1. 5.0 →. 0.0(%). ¥1,151,320 →. ¥3,270,372. ¥2,119,052. 2. 22.7 →. 11.2(%). ¥1,097,130 →. ¥2,461,251. ¥1,364,121. 3. 0.60 → 45,497 →. 0.90(QALY). ¥1,156,039 →. ¥2,355,429. ¥1,199,390. 4. 68,245(円 / 年). ¥1,197,900 →. ¥1,903,900. ¥706,001. 5. 重症度Ⅰの効用値. 1.00 →. 0.72(QALY). ¥1,305,721 →. ¥1,835,638. ¥529,916. 6. 再転倒発生のリスク比. 3.43 →. 1.44(倍 / 年). ¥1,400,392 →. ¥1,718,411. ¥318,019. 7. 0.45(QALY). 重症度Ⅲの効用値. ¥1,467,925 →. ¥1,643,817. ¥175,892. 8. 特別養護老人ホームへの入所費用. 2,696,640 →. 4,044,960(円 / 年) ¥1,525,109 →. ¥1,576,691. ¥51,582. 9. 大. 1,400,000 →. 1,800,000(円 / 回) ¥1,542,604 →. ¥1,559,196. ¥16,593. 10. 0.32(QALY). ¥1,546,168 →. ¥1,555,661. ¥9,493. 11. ¥1,547,138 →. ¥1,554,662. ¥7,523. 12. ¥3,841,708. 1. 骨頸部・転子部骨折の治療費用. 重症度Ⅳの効用値 大. 骨頸部・転子部骨折以外の骨折治療費用. 0.67 →. 0.48 → 181,360 →. 272,040(円 / 回). (ベースケース値:¥1,550,900) 男性集団. 転倒の予防に要する運動プログラムの効果. 0.68 →. 0.91(倍 / 年). 転倒の発生率. 13.7 →. 4.4(%). ¥1,427,189 →. ¥4,903,535. ¥3,476,346. 2. 重症度Ⅱの効用値. 0.90 →. 0.60(QALY). ¥1,839,238 →. ¥2,988,532. ¥1,149,294. 3. 転倒の予防に要する運動プログラムの費用. ¥5,294,844. 68,245(円 / 年). ¥1,795,169 →. ¥2,759,003. ¥963,834. 4. 重症度Ⅰの効用値. 1.00 →. 0.72(QALY). ¥1,963,383 →. ¥2,623,338. ¥659,955. 5. 再転倒の発生リスク比. 5.94 →. 2.26(倍 / 年). ¥2,142,241 →. ¥2,420,738. ¥278,498. 6. 5.0(%). ¥2,116,572 →. ¥2,390,192. ¥273,620. 7. 割引率. 45,497 →. ¥1,453,136 →. 0.0 →. 重症度Ⅲの効用値. 0.67 →. 0.45(QALY). ¥2,201,184 →. ¥2,358,408. ¥157,224. 8. 転倒後の死亡の発生リスク比. 2.85 →. 2.66(倍 / 年). ¥2,256,780 →. ¥2,305,626. ¥48,846. 9. 特別養護老人ホームへの入所費用. 4,044,960 →. 2,696,640(円 / 年) ¥2,263,392 →. ¥2,290,779. ¥27,387. 10. 大. 1,584,000 →. 1,056,000(円 / 回) ¥2,277,585 →. ¥2,294,060. ¥16,476. 11. 0.32(QALY). ¥2,273,391 →. ¥2,280,792. ¥7,400. 12. ¥2,274,256 →. ¥2,279,915. ¥5,659. 13. 骨頸部・転子部骨折の治療費用. 重症度Ⅳの効用値 大. 骨頸部・転子部骨折以外の骨折の治療費用. 0.48 → 181,360 →. 272,040(円 / 回). (ベースケース値:¥2,277,086) QALY: Quality Adjusted Life Years ICER: Incremental Cost Effectiveness Ratio ※ : 項目間における ICER の変化幅の大きさの順位. の内訳(非実施条件 vs. 実施条件)は,転倒歴なしが 321. 入効果のパラメータがもっとも大きく ICER の変化幅へ. 人(32.1%)vs. 395 人(39.5%) ,重症度Ⅰが 107 人(10.7%). 影響していた。転倒の発生率の変化が及ぼす ICER の変. vs. 96 人(9.6%) , 重 症 度 Ⅱ が 255 人(25.5%)vs. 218 人. 化幅への影響は,女性集団においては 3 番目に,男性集. (21.8%) , 重 症 度 Ⅲ a が 45 人(4.5%)vs. 38 人(3.8%) ,. 団においては 2 番目に大きかった。ICER に対する支払. 重症度Ⅲ b が 13 人(1.3%)vs. 11 人(1.1%) ,重症度Ⅳが. い意思の閾値である 5,000,000 円 /QALY を超える値を. 5 人(0.5%)vs. 3 人(0.3%) , 死 亡 が 255 人(25.5%)vs.. とるパラメータは,男性集団において運動プログラムに. 239 人(23.9%)であった。1 人あたりの累積 QALY およ. よる転倒予防の効果が 0.91 倍 / 年の状況であった。. び累積費用は順に 7.29 QALY vs. 7.43 QALY,109,824 円 vs. 424,378 円であった。10 年間における非実施条件に対. 3.確率的感度分析の結果. す る 実 施 条 件 の 増 分 効 果 は 0.14 QALY, 増 分 費 用 は.  女性集団における確率的感度分析の結果を図 2 に示. 314,549 円,ICER は 2,277,086 円 /QALY,INMB は 37,613. す。10 年間における転倒の発生の 1 人あたりの平均回. 円 / 年であった。. 数は非実施条件において 2.8 回で,実施条件で 2.4 回で あった。このため,1 回の転倒の予防に要する運動プロ. 2.一元感度分析の結果(表 4). グラムの費用の平均値±標準偏差は 682,065 ± 212,031.  女性集団,男性集団ともに,運動プログラムによる介. 円であった。非実施条件に対する実施条件の増分費用,.

(7) 426. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 図 2 女性集団における確率的感度分析の結果(n=1,000). 図 3 男性集団における確率的感度分析の結果(n=1,000). 増分 QALY,ICER,INMB の平均値±標準偏差は順に,. す。10 年間における転倒の発生回数の平均±標準偏差. 231,512 ± 55,896 円,0.15 ± 0.03 QALY,1,615,037 ±. は非実施条件において 1.6 ± 0.1 回で,実施条件で 1.3 ±. 491,366 円 /QALY,50,914 ± 14,347 円 / 年であった。非. 0.1 回であった。このため,1 回の転倒の予防に要する. 実施条件に比して実施条件の増分効果が 0 より高く,か. 運動プログラムの費用の平均値±標準偏差は 1,351,616. つ,ICER が 5,000,000 円 /QALY 未満であった回数は 1,000. ± 419,008 円となった。非実施条件に対する実施条件下. 回(100%)であった。また,非実施条件に対する実施条. の増分費用,増分 QALY,ICER,INMB の平均値±標. 件下の INMB が正であった回数は 1,000 回(100%)で,. 準偏差は順に,316,051 ± 35,493 円,0.13 ± 0.04 QALY,. 最小値は 9,451 円 / 年,最大値は 102,388 円 / 年であった。. 2,599,083 ± 1,386,940 円 /QALY,35,868 ± 18,278 円 /.  男性集団における確率的感度分析の結果を図 3 に示. 年であった。非実施条件に比して実施条件による増分効.

(8) 運動プログラムによる転倒予防の費用対効果. 427. 果が 0 よりも高く,かつ,ICER が 5,000,000 円 /QALY. 確率的感度分析においても 5,000,000 円 /QALY を超え. 未満を示したのは 970 回(97%) ,非実施条件に比して. る試行は観察されなかった。一方で,男性集団において. 実施条件による増分効果が 0 より高かったが,ICER が. は介入効果が 0.91 倍 / 年よりも高くなる,すなわち運. 5,000,000 円 /QALY 以上を示したのは 30 回(3%)であっ. 動プログラムによる転倒予防効果が低い場合において,. た。また,非実施条件に対する実施条件下の INMB が. ベースケースの ICER が WTP の閾値を超えることが明. 正であった回数は 970 回(97%)で,最小値は ‒26,350. らかになった。しかしながら,確率的感度分析の結果は. 円 / 年,最大値は 97,227 円 / 年であった。. ICER が 5,000,000 円 /QALY を超える可能性を示したも のの,その頻度は 30 回(3%)と少なかった。これらから,. 考   察. 性別によらず健常な地域在住前期高齢者に対する運動プ.  本研究により,マルコフモデルを構築して,本邦にお. ログラムによる転倒予防は「公的医療・介護の立場」か. ける健常な地域在住前期高齢者に対する運動プログラム. ら費用対効果が良好である可能性が高いと推察した。. の転倒予防に焦点をあてた費用対効果を明らかにした。 3.「公的医療・介護の立場」より広範な費用を考慮する 1.本邦における地域在住前期高齢者に対する運動プロ グラムの転倒予防に焦点をあてた費用対効果. 立場からみた運動プログラムによる転倒予防の費用 対効果.  ベースケースの結果から,女性集団と男性集団ともに.  ベースケースの結果から,女性集団および男性集団と. 非実施条件に対する実施条件の ICER は WTP の閾値で. もに INMB は正の値を示した。このことは,65 歳時点. ある 5,000,000 円 /QALY を下回る値を示すことが明らか. の健常な地域在住前期高齢者の 1 年間における経済的な. になった。このため,運動プログラムが健常な地域在住. 生産性を 5,000,000 円とした場合,運動プログラムを実. 前期高齢者の転倒予防において費用対効果が良好である. 施する条件では,非実施の条件に比して,費用対便益の. ことが明らかになった。既報のオーストラリアにおける. 面でも優れていることを支持する結果であった。本邦の. 研究では,地域在住前期高齢者に対して多因子性の転倒. 60 歳以上の労働者人口は 2015 年には 1,263 万人となり,. 予防プログラムの ICER は 13,013,900 円 /QALY であっ. 全労働者の 19.8%を占め,国際的にも高い水準とされて. た. 19). 。この値は本研究よりも高く,本研究が定めた基. いる. 13). 。少子高齢化社会を迎えた本邦において,地域. 準では,費用対効果が良好でないことになる。この相違. 在住前期高齢者に対して運動プログラムによる転倒予防. が生じた理由として,既報の多因子性の転倒予防プログ. を実施し,健康的な生活を支援して就労の継続につなげ. ラムの費用が 124,400 円であったのに対して,本研究の. ることは. それは 58,000 円と半分以下であったことが関与したので. 観点からも社会的にも有益である可能性が示唆された。. 44). ,労働資源の確保と経済活動の維持という. はないかと推察した。また,本研究では仮定しなかった ものの,既報の研究では仮定していた転倒予防プログラ ムの内容には,作業療法士による転倒予防に向けた家屋. 4.費用最小化に向けた運動プログラムによる転倒予防 の実施. 調整,視力検査があった。仮にこれらの内容を本研究が.  一元感度分析の結果から,女性と男性の両集団におい. 仮定した運動プログラムに加えて,その費用が 20% 増. て,運動プログラムによる転倒予防の効果が ICER の変. 加したとしても,ICER は両集団において 5,000,000 円 /. 化幅へもっとも大きく影響したパラメータであった。こ. QALY 未満となることから,本研究において運動プログ. のことから,費用の最小化に向けては,既存の運動プロ. ラムによる転倒予防の費用対効果が良好であるとする結. グラムによる転倒予防をより効果的かつ標準的なものに. 果が覆る可能性は低いと推察した。. 改善を進めることが,もっとも大きく費用の最小化に結.  また,こうした転倒の予防に要する運動プログラムの. びつく可能性が高いと推察した。. 費用が異なっていた背景には,医療制度の違いから,本.  さらに,ベースケースの結果において転倒の発生率の. 邦よりもオーストラリアにおける転倒予防プログラムの. 低い男性集団に比して女性集団の ICER が低い値を示し. 実施に要する医療技術料の単価が高いことが背景にある. たことに加えて,一元感度分析の結果において転倒の発. 可能性が高く,これは費用対効果の分析において地域の. 生率が女性集団では 3 番目に,男性集団では 2 番目に,. 特性を考慮する必要があること. 20). を改めて示唆する結. 果であった。. ICER の変化幅に大きく影響を与えるパラメータであっ た。これらは,運動プログラムの対象者を転倒リスクの 高い地域在住前期高齢者に制限することが費用の最小化. 2.ベースケースの結果の頑健性. につながる可能性を示唆する結果であった。このことか.  一元感度分析の結果,女性集団において,ICER が. ら,費用を最小化するためには,健常な地域在住前期高. 5,000,000 円 /QALY を超えるパラメータはなく,また,. 齢者に対して,Berg Balance Scale score,Timed Up and.

(9) 428. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. Go times,5 times sit-to-stand times などのパフォーマン スを評価する精度の高い転倒予測スクリーニング. 45). に. より,真に転倒リスクの高い地域在住前期高齢者を抽出 してから,運動プログラムを実施することが有効である 可能性が高いと考察した。 5.本研究の限界  本研究にはいくつかの限界がある。第 1 に,本研究で 用いた運動プログラムの費用はそれにかかる各種の介入 行為に要する費用をすべて包括したものである。費用対 効果の分析においては,費用は介入行為ごとに,単価と 資源消費量を掛け合わせることによりその小計を計算す ることが原則とされている。今後,より正確な費用対効 果を推定するためには,運動プログラムにおける各介入 行為の質と量とそれらの転倒予防に対する効果を明らか にして,より詳細な分析を実施する必要がある。第 2 に, 本研究で用いたモデルは本邦の医療・介護制度を仮定し て構築した。このため,本研究で得られた結果を諸外国 のものと比較する際には注意を要す。第 3 に,本研究は 地域在住前期高齢者を対象に仮定した。過去の報告で は,本邦の男性における転倒の発生率は年齢が高いほど 高かったとしており. 29). ,その傾向は 75 歳以上の集団に. おいて顕著であった。このため,本研究の結果を後期高 齢者に一般化することは難しいと考える。ただし,転倒 の発生率が高いほど ICER は減少傾向にあったことか ら,75 歳以上の集団にあてはめた場合でも,運動プロ グラムの費用対効果は良好である可能性は高いと考え る。第 4 に,本研究は転倒によって生じた障害の治療に よって生じる医療機関への外来通院費を計上しなかっ た。このため,転倒に伴う医療費を低く見積もった可能 性がある。しかし,一元感度分析の結果は医療費や介護 費が増加するほど ICER が低くなる傾向を示した。この ことから,外来通院費を含めた場合においても,ICER はさらに低値を示すことになり,運動プログラムによる 費用対効果が良好であるとした本研究の結果が変わる可 能性は低いと考える。 結   論  本研究はマルコフモデルを構築して,本邦における健 常な地域在住前期高齢者に対する運動プログラムの転倒 予防に焦点をあてた費用対効果を明らかにした。本邦に おいて,その費用対効果は良好である可能性が高いこと が示唆された。 利益相反  開示すべき利益相反はない。. 文  献 1)厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ  令 和 元 年 版 高 齢 社 会 白 書. https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/ zenbun/pdf/1s1s_01.pdf(2019 年 8 月 10 日引用) 2)厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ  平 成 29 年 度 医 療 費 の 動 向. https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/17/index. html(2019 年 8 月 10 日引用) 3)内閣府ホームページ 介護費の動向について.https:// www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/ wg1/280323/shiryou4.pdf(2019 年 8 月 10 日引用) 4)上田淳二,堀内義裕,他:医療費及び医療財政の将来推計. 京都大学経済研究所 Discussion Paper Series.2010; 907. 5)Sousa LMM, Marques-Vieira CMA, et al.: Risk for falls among comm unity-dwelling older people: systematic literature review. Rev Gaucha E nferm. 2017; 37: e55030. 6)Peel NM: Epidemiology of falls in older age. Can J Aging Rev Can Vieil. 2011; 30: 7‒19. 7)藤田博曉,潮見泰蔵,他:地域在住の大 骨頸部・転子部 骨折後患者における ADL と運動機能との関連.日本老年 医学会雑誌.2006; 43: 241‒245. 8)鈴木隆雄:転倒の疫学.日本老年医学会雑誌.2003; 40: 85‒94. 9)川上 治,加藤雄一郎,他:高齢者における転倒・骨折の 疫学と予防.日本老年医学会雑誌.2006; 43: 7‒18. 10)林 泰史 : 高齢者の転倒防止.日本老年医学会雑誌.2007; 44: 591‒594. 11)Mori T, Tamiya N, et al.: Estimated expenditures for hip fractures using merged healthcare insurance data for individuals aged >/= 75 years and long-term care insurance claims data in Japan. Arch Osteoporos. 2018; 13: 37. 12)加藤剛平,岩本幸英,他:高年勤労者に特徴的な身体状況 と勤務状況の検討.日本職業・災害医学会会誌.2019; 67: 73‒79. 13)厚生労働省ホームページ 平成 28 年版厚生労働白書―人 口高齢化を乗り越える社会モデルを考える―.https:// www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/all.pdf(2019 年 8 月 10 日引用) 14)Guirguis-Blake JM, Michael YL, et al.: Interventions to Prevent Falls in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review for the U.S. Preventive Services Task Force. Evidence Synthesis. 2018; 159. 15)Hopewell S, Adedire O, et al.: Multifactorial and multiple component interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2018; 7: CD012221. 16)上岡洋晴,黒柳律雄,他:在宅高齢者における転倒事故が 家計に及ぼす影響について.身体教育医学研究.2002; 3: 35‒46. 17)Sonnenberg FA, Beck JR: Markov models in medical decision making: a practical guide. Med Decis Making. 1993; 13: 322‒338. 18)Drummond MF, Stoddart GL, et al.: Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes Second Edition: Oxford University Press. 1997. 久繁哲徳,岡 敏 弘(翻訳) :保健医療の経済的評価.その方法と適用.じ ほう,東京,2003) 19)Church J, Goodall S, et al.: An economic evaluation of community and residential aged care falls prevention strategies in NSW. New South Wales Public Health Bull. 2011; 22: 60‒68. 20)Isaranuwatchai W, Perdrizet J, et al.: Cost-effectiveness analysis of a multifactorial fall prevention intervention in.

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(11) 430. 理学療法学 第 47 巻第 5 号. 〈Abstract〉. Cost-effective Analysis of Exercise Programs Designed for Fall Prevention among Healthy Younger Old Community-dwelling Adults. Gohei KATO, PT, PhD Department of Physical Therapy, School of Rehabilitation Tokyo Professional University of Health Sciences Yosuke KURACHI, PT Karada Kobo. Purpose: The aim of this study is to reveal the cost-effectiveness of exercise programs designed for fall prevention among healthy younger old community-dwelling adults in Japan. Methods: The analysis was conducted on behalf of public insurers for health and long term care services. Quality-adjusted life years (QALY) and expenses for health services and long-term care services were described in terms of “effectiveness” and “cost,” respectively. The assumed subjects were healthy community-dwelling females (n=1,000) and males (n=1,000) aged 65 years old. The incremental cost-effective ratio (ICER) of the program was analyzed and simulated using a 10-year cycle Markov model (base case). The threshold for assessing cost-effectiveness was set at less than 5 million Japanese yen/QALY. Results: The ICER for the female group was 1,550,900 Japanese yen/QALY, and 2,277,086 Japanese yen/QALY for the male group. Conclusion: An exercise program for fall prevention among healthy younger old community-dwelling adults could be cost-effective in Japan. Key Words: Younger Old Community-Dwelling Adults, Fall Prevention, Cost-Effective Analysis, Markov Model, Exercise Program.

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図 1 モデル(マルコフモデルにより構築)

参照

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