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日本甲殻類学会 ReportCarcinological Society of Japan
報告
Cancer 28: e102–e104 (2019)
紀伊半島初記録のホシクサビラタマコブシ(新称)
First record of Pariphiculus stellatus Ng & Jeng, 2017 from Kii Peninsula, middle part of Japan
平林 勲
1Isao Hirabayashi
はじめに タマコブシ属Pariphiculus Alcock, 1896はコブシガ ニ上科Leucosioidea Samouelle, 1819に属し,国内か らコフキコブシP. agariciferus Ihle, 1918,タマコブシ P. coronatus (Alcock & Anderson, 1894), P. stellatus Ng & Jeng, 2017の3種が記録されている(酒井,1976; 三宅,1983; Galil & Ng, 2007; Ng & Jeng, 2017).これ らのうち,P. stellatusは台湾とフィリピンから得られ た標本を基に2017年に新種として記載された種であ り(Ng & Jeng, 2017),国内では池田(1998)によっ てPariphiculus sp. として報告された相模湾産の1標 本が該当するとされている(Ng & Jeng, 2017). このたびP. stellatusの新たな標本が和歌山県那智 勝浦町浦神沖から得られたのでここに紀伊半島初記 録として報告し,本種に対してホシクサビラタマコ ブシの新標準和名を提唱する. 調査資料 2018年1月30日に当該海域の水深約150 mより, 採集網を用いた宝石サンゴ漁によってP. stellatusが 混獲された.採集された標本は串本海中公園セン ターにおいて飼育,展示を行っていたが,同年3月 30日に死亡が確認されたため,死後まもなく80% エタノールにて固定した.本標本は現在,和歌山県立自然博物館(Wakayama Prefectural Museum of Nat-ural History)に収蔵されている.
結果および考察
ホシクサビラタマコブシ(新称) Pariphiculus stellatus Ng & Jeng, 2017
(Figs. 1–2)
Pariphiculus stellatus Ng & Jeng, 2017: 140–153 (part), figs. 1E, F, 7, 8, 9, 10, 11B, D, F, 12B, D, F, 13E–H. Pariphiculus agariciferus; 松沢,1977: pl. 89, fig. 4. Pariphiculus sp.; 池田,1998: 29 (part), pl. 21. 調査標本.標本番号:WMNH-INV-2018-101(和歌 山県立自然博物館収蔵),1雄,25.2×29.7 mm(棘を 含む最大甲長×最大甲幅),産地:和歌山県東牟婁郡 那智勝浦町浦神沖,水深約150 m,採集日:2018年1 月30日,採集者:大岡和久(船名:大和丸). 記 載.甲幅は甲長の1.18倍あり,甲表面は大小 様々な茸形をした突起で覆われる.茸形突起の上縁 は不定形をなし,不規則な泡状の顆粒で覆われる (Fig. 1C).甲域はやや不明瞭であるが,額域は上方 に膨らみ(Fig. 1E),後鰓域と心域および腸域は明瞭 な凹みによって分けられる(Fig. 1A).前側縁には3 棘,後側縁には2棘の太く鈍い茸形突起を有し,突起 の表面は不規則な泡状の顆粒で覆われる(Fig. 1E). 甲の後縁は低く短い3棘を有し,中央の1棘はやや短 い(Fig. 1B).眼窩下縁の棘は鈍い三角形で前方に突 出しない(Fig. 1D).鉗脚は細長く,座節から掌節に かけて低い茸形の突起に覆われ,突起の上縁部は不 1 串本海中公園センター 〒649–3514 和歌山県東牟婁郡串本町有田1157 Kushimoto Marine Park Center, 1157 Arita, Kushimoto,
Higashimuro, Wakayama 649–3514, Japan E-mail: [email protected]
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Cancer 28 (2019) 平林 勲 規則な泡状の顆粒で覆われる.掌部は先端にかけて やや細くなる.指部は細長く先端にかけて内側に緩 やかに曲がり,外縁には小さな突起を多数有するが 鋸歯状に突出しない(Fig. 1F).歩脚は後方につれて 短くなり,座節から前節にかけては先端に不規則な 泡状の顆粒を有する低い茸形の突起に覆われる.指 節は先端が鋭く尖り,短い剛毛を多数有する(Fig. 1A, B).腹部は中央部と両側縁に低く大きな突起を 有し,突起の表面は不規則な泡状の顆粒で覆われる (Fig. 1B).雄の第一腹肢は約10 mmと比較的長く, 下部は緩やかに内側に湾曲するが先端部は直線状で 外側面を中心に多数の毛の列を有する(Fig. 2A).第 二腹肢は約4 mmと比較的長く,緩やかに湾曲し先端 は花弁状に開いた形態を示す(Fig. 2B).生時の体色Fig. 1. Pariphiculus stellatus Ng & Jeng, 2017, male (CL25.2 mm×CW29.7 mm), WMNH-INV-2018-101. A, overall dorsal
view; B, ventral view; C, tubercles and granules on the surface of carapace; D, frontal view; E, right lateral view; F, outer view of right cheliped.
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Cancer 28 (2019) ホシクサビラタマコブシ(新称)の記録 は全体が赤褐色を呈し,鉗脚指部の先端から2/3程は 濃く鮮やかな橙色.腹側の色彩は全体に薄くやや黄 色がかり,胸部腹甲と腹部は白色を呈する. 新称和名.本種には標準和名が与えられていない ため,本種の種小名である“stellatus”の由来となっ た甲や鉗脚の表面が星様の茸形突起に覆われる特徴 に因み,新標準和名「ホシクサビラタマコブシ」を 提唱する.なお,標準和名の基準となる標本には本 研究で調査を行った標本(WMNH-INV-2018-101, 1 雄,25.2×29.7 mm)を指定する. 備考.ホシクサビラタマコブシは甲の胃域と鰓域が 比較的膨らまないこと,甲,鉗脚,第三顎脚上の茸形 突起が比較的低く,突起の上縁が明瞭に星様の形をな すこと,額域後方の凹みが緩やかで浅いこと,眼窩下 縁の棘が低く突き出ないこと,鉗脚掌部が細長く,指 部外縁の顆粒が低く鋸歯状にならないこと,腹部にあ る突起や顆粒は大きく融合する傾向にあること,雄の 第一腹肢が比較的細く長いことから形態の類似したコ フキコブシと区別することができ(Ng & Jeng, 2017), 今回調査を行った標本の形態もよく一致した.Ng & Jeng(2017)はさらに両種間の体サイズの違いについ ても指摘し,コフキコブシは甲長が22 mm未満の小型 の種であるのに対し,ホシクサビラタマコブシは明ら か に 大 きいとした.本 研 究 の 調 査 標 本 は 甲 長 が 25.2 mmであり,既存のホシクサビラタマコブシ7標本 (甲長13.8–30.3 mm)の中では中間的なサイズであった. ホシクサビラタマコブシは台湾のKeelung市北東沖の 水深170 mから得られた雄の標本をタイプとし,台湾, フィリピン,日本の水深70–200 mから記録されている (松沢,1977; 池田,1998; Ng & Jeng, 2017).池田(1998) は松沢(1977)が高知県室戸岬町三津からコフキコブ シとして報告したものは,相模湾産のPariphiculus sp.と 同種であることを示唆しており,本研究においても松 沢(1977)が図示した個体はホシクサビラタマコブシに 再同定された.本研究の調査標本が紀伊半島南部沖か ら得られたことから推測すると,ホシクサビラタマコブ シは国内において相模湾以南の太平洋岸に広く分布す るものと思われる.なお,本報告は国内における3例目 の記録であり,紀伊半島からは初記録となる. 謝 辞 本稿をまとめるにあたり大和丸船長の大岡和久氏 には貴重な標本を提供いただいた.また,葉山しお さい博物館元館長の池田等氏,串本海中公園セン ター元館長の野村恵一氏には素稿を読んで頂き多数 の有益なご助言を頂いた.以上の方々に記して厚く 御礼申し上げる. 文 献Galil, B. S., & Ng, P. K. L., 2007. Leucosiid crabs from Pan-glao, Philippines, with descriptions of three new species (Crustacea: Decapoda: Brachyura). The Raffles Bulletin of Zoology, 16: 79–94. 池田 等,1998.相模湾産深海性蟹類.葉山しおさい 博物館,神奈川,180 pp. 松沢圭資,1977.室戸産海岸動物図鑑.室戸産海岸動 物図鑑発行委員会,126 pls. 三宅貞祥,1982.原色日本大型甲殻類図鑑(II).保育 社,大阪,261 pp.
Ng, P. K. L., & Jeng, M.-S., 2017. Notes on two crabs (Crustacea, Brachyura, Dynomenidae and Lphiculidae) collected from red coral beds in northern Taiwan, in-cluding a new species of Pariphiculus Alcock, 1896. ZooKeys, 694: 135–156.
酒井 恒,1976.日本産蟹類.講談社,東京.英文解
説773 pp.和文解説461 pp.251 pls.
Fig. 2. Male right first (A) and second (B) gonopods of
Pariphiculus stellatus Ng & Jeng, 2017 (CL25.2 mm× CW29.7 mm), WMNH-INV-2018-101, Scale=2 mm.