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日本甲殻類学会 ReportCarcinological Society of Japan
報告
Cancer 26: 51–52 (2017)
西表島で採集されたオカヤドカリの奇形個体
Malformation of the land hermit crab Coenobita cavipes collected on Iriomotejima Island,
Ryukyu Archipelago, Japan
三田哲也
1*・浜崎活幸
1Tetsuya Sanda and Katsuyuki Hamasaki
はじめに オカヤドカリ類は世界の熱帯から亜熱帯の島嶼域 に広く分布する陸生甲殻類であり(Hartnoll, 1988), 日本では南西諸島や小笠原諸島を中心に生息してい る（鹿児島県教育委員会，1987；沖縄県教育委員 会，1987, 2006；東京都教育委員会，1987）．日本国 内に生息するオカヤドカリ科のうち，オカヤドカリ 属 (Coenobita) 7種は天然記念物に指定されており， ヤシガニ属 (Birgus) のヤシガニBirgus latroについて も資源の減少が危惧されている．著者らが所属する 東京海洋大学増殖生態学研究室では，オカヤドカリ 類の生息域内保全に関する研究に取り組んでおり， 本稿では2014年7月に沖縄県西表島にてオカヤドカ リ類の分布調査を実施した際に採集されたオカヤド カリCoenobita cavipesの左鋏脚の奇形個体について 報告する． 材料と方法 西表島での調査は2014年7月3日と4日に実施し た（藤河ら，2017）．島内に設けた調査点を昼間と 夜間に徒歩で探索し，各種オカヤドカリ類を素手で 捕獲するほか，バケツを砂浜に埋め，養鶏用飼料を 誘引物とした落とし穴トラップを併用した．捕獲し た個体はNakasone (1988) と朝倉（2004）に従い外 部形態によりその場で種を同定し，前甲長の計測と 抱卵の有無を確認した後に放した．なお，調査は文 化 庁 の 許 可 を 得 て 実 施 し た（2受 庁 財 第4号 の 2058）． 1 東京海洋大学海洋生物資源学部門 〒108–8477 東京都港区港南4–5–7
Department of Marine Biosciences, Tokyo University of Marine Science and Technology, 4–5–7 Konan, Minato, Tokyo 108–8477, Japan E-mail: hamak@kaiyodai.ac.jp * 現所属(Present address)：国立研究開発法人水産研 究・教育機構 西海区水産研究所 亜熱帯研究セン ター 〒907–0451 沖縄県石垣市浮海大田148
Research Center for Subtropical Fisheries, Seikai National Fisheries Research Institute, Japan Fisheries Research and Education Agency (FRA), 148 Fukai-Ota, Ishigaki,
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Cancer 26 (2017) 三田哲也・浜崎活幸 結果と考察 左鋏脚の奇形を有した個体は，2014年7月3日夜 間に西表島北部の海岸にて砂浜を歩行しているとこ ろを素手で採集された．本個体は，左鋏脚の可動指 が鋏状を呈していた（図1）．本個体の体測定値は 以下のとおりであった．前甲長21.1 mm, 鋏脚前節 長34.2 mm, 可動指（鋏脚指節）上縁長20.0 mm, 同 下縁長13.0 mmであった．なお，同海岸ではオオナ キオカヤドカリC. brevimanus, ナキオカヤドカリC. rugosus, ムラサキオカヤドカリC. purpureus, ヤシガ ニとった各種オカヤドカリ類も確認された． 甲殻類の鋏脚の奇形に関する報告は多く，例えば ケガニErimacrus isenbeckiiとズワイガニChionoece-tes opilio（鈴木・小田原，1971），ベニズワイガニ C. japonicus （本尾，1971），オオエンコウガニCha-ceon imperialis（柳本，2012）などがある．それら の原因は外傷を受けた部位が異常再生したものであ ると考えられている．オカヤドカリ類における奇形 の報告は過去になく，著者らが3年間の調査で目視 した数千尾のオカヤドカリ類で奇形個体の確認は本 事例のみである． 甲殻類は脱皮により欠損した部位を再生すること ができる特性を持つが，一度通常と異なる形に硬化 した場合に，果たして脱皮が成功するのか大変興味 深い． 文 献 朝倉 彰，2004．ヤドカリ類の分類学，最近の話題－ オカヤドカリ科．海洋と生物，26: 83–89. 藤河俊介・浜崎活幸・三田哲也・石山尚樹・水流拓 馬・團 重樹・北田修一，2017．石垣島と西表島 沿岸域におけるオカヤドカリ類の分布特性．日本 生物地理学会会報，71: 25–38.Hartnoll, R. G., 1988. Evolution, systematic, and geographi-cal distribution. In Burggren, W. W. & McMahon, B. R. (Eds), Biology of the Land Crabs: Cambridge Universi-ty Press, New York, NY, 6–54.
鹿児島県教育委員会，1987．鹿児島県のオカヤドカリ 属―生息実態緊急調査報告書―．鹿児島県教育委 員会，鹿児島，64 pp．
本尾 洋，1971．ベニズワイガニ左鉗脚の奇形2例． 甲殻類の研究，4/5：184–190.
Nakasone, Y., 1988. Land hermit crabs from the Ryukyus, Japan, with a description of a new species from the Philippines (Crustacea, Decapoda, Coenobitidae). Zoo-logical Science, 5: 165–178. 沖縄県教育委員会，1987．沖縄県天然記念物調査シ リーズ第29集 あまん オカヤドカリ生息実態調 査報告．緑林堂書店，宜野湾，254 pp． 沖縄県教育委員会，2006．沖縄県天然記念物調査シ リーズ第43集 オカヤドカリ生息実態調査報告書 II．沖縄県教育委員会，那覇，262 pp． 鈴木 博・小田原利光，1971．2種のカニの鉗脚にあ らわれた奇形について．甲殻類の研究，4/5: 191– 195. 東京都教育委員会，1987．小笠原諸島オカヤドカリ生 息状況調査報告．東京都教育庁社会教育部文化 課，東京，98 pp． 柳本 卓，2012．天王海山産オオエンコウガニの鉗脚 に見られた奇形．Cancer, 21: 33–37.
