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ヤシガニの資源管理 : 繁殖生態からのアプローチ(日本におけるヤシガニ研究の現在)

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C arcinological S ociety o f J a pan

ヤシガニの資源管理一繁殖生態からのアプローチ

C o c o n u t crab resource m a n a g e m e n t b a s e d o n reproductive ecology

佐 藤 琢

l T a k u S ato 圃 は じ め L 多くの生物種において,体サイズは繁殖適応度に 影響を与える最も重要な形質のひとつである. 例え ば,雄では繁殖可能回数 (Satoet al., 2005) や射精 量 (Jivoff,2003). 受精率 (Satoet al., 2006). 配偶 者を巡る雄問競争 (Jormalainen,1998). 雌からの配 偶 者 選 択 (Sato & G oshima, 2007) な ど に お い て , 雌では産卵数 (Satoet al., 2007) や卵サイズ (Goni et al., 2003). 子の体サイズ (Smith & Ritar, 2007). 子の飢餓耐性 (Molandet al. , 2010). 雄からの配偶 者選択 (Aquiloni & Gherardi, 2008) などにおいて, 大型個体になるほど繁殖適応度の増加に有利な特徴 を示すことが甲殻類においても知られている . その ため大きな個体ほど個体群の繁殖 ・増殖に貢献し て いると考えられる しかし私たちによる生物資源の利用パターンは ランダムではなく,意図的もしくは非意図的に,資 源の再生産 に大きく 貢献している大きな個体を選択 的 に 利 用 す る こ と が 多 い (Fenberg & R oy, 2008). 近年,その ような大型個体に集中した利用パターン が資源の個体群構造( 体サイズ ・年齢組成や性比) を改変することに よ り,再生産 ・増殖率に悪影響 を 与 え る こ と が 明 ら か に な ってきている (R ow e & H 耐u帥 i叩昭昭s,2却O

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Sa加 蜘a瓜胸tωo&Gωos油him汀m叫l I (独) 水産総合研究センター西海区水産研究所亜 熱帯研究センター 干907-0451 沖縄県石垣市梓海大田 148-446 Research Center for Subtropical Fisheries, Seikai Na-tional Fisheries R esearch Institute, Fisheries R esearch A geny, 148-446 FukaトOta,Ishigaki, Okinawa

907-0451 , Japan

E-mail: takusato@ af仕C伊 jp

2007; Fenberg & R oy, 2008; V enturelli et al., 2010). そ のため,持続的な生物資源の利用のためには. 1) 現在の資源利用パターン (体サイズ・年齢や性な ど) と2)その利用が個体群構造に与える影響.3) 対象種の繁殖生態をあわせて調べ,それらをもって 1) 現行の資源利用パターンが資源の再生産 ・増殖 率に与える影響 の予測と 2) その影響を最小限に抑 える資源管理方法の策定を行うことが重要である ヤシガニは,古くからインド洋や西太平洋の海洋 島興国において 食材等に利用されてきた しかし 現在多くの地域では乱獲等 によって絶滅の危機に瀕 している (Fletcher,1993). 日本においても ,特に 近年,地域特産種として観光客に食されるように な ってから ,生息数の 急 激な減少が懸念されてい る. このような現状にもかかわらず,本種の利用を 規制する法令等は日本では沖縄県宮古郡多良間村の 「ヤシガニ保護条例」のみであり,本種に対する資 源管理はすすんで、いないのが現状である. そこで, 私たち西海区水産研究所亜熱帯研究センターでは, 本種に対する適切な資源管理策の提案を目的に . 1) ヤシガニ資源の利用パタ ー ンと 2) 利用対象個体群 の個体群構造. 3) 雌雄の体サイズと繁殖能力 ・繁 殖特性の関係について調べた 現在,本種資源、のどのような個体が利用されてい るのかについて調べるため ,主な捕獲時期である4 月- 12 月に,沖縄県石垣島に てヤ シガニ料理を提 供している居酒屋が入荷したヤシガニの体サイズと 性別を記録した その結果,利用されている個体の ほとんどは胸長約4 0 m m (体重約 500g) 以上の大 きな雄であり ,雌はほとんど利用されていなか った 日本甲般類学会 伽 脚

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n U 雄の体サイズと交接の成否との関係 そこで,まず野外調査によって, どのような体サ イズの雄が実際に繁殖を担っているのか調べた. 本 種は交接前にガードペアを形成せず,かつ交接シ ー ンの観察もごく稀である ため,繁殖を担っている雄 の体サイズを直接調べることは至極困難である そ こで. 1) 雌は交接から 1 週間程度の間,雄から受 け取った精包塊を体表に保持し,そのような雌なら 野外で観察できること (Sato& Yoseda,

2009). 2)

雄の胸長と精包の体積との聞に正の関係があること (Sato et al., 2008) を利用して ,繁殖を担っている雄 の体サイズを推定した. 具体的には,野外にて雌に 付着している精包塊の一部を採集して実験室に持ち 帰り,実体顕微鏡下にて精包の体積を調べ,その値 から交接雄の体サイズを推定した. その結果,ほと んどの雌は自身 より大きな雄と交接を行 っており, かつサイズ同類交配の傾向が見られた( 図2) なぜ,ほとんどの雌は自身より大きな雄と交接し ていたのか? その要因として,雌をめぐる雄間競争 や雌による配偶者選択などが考えられる. そこで, 飼育容器内に雌雄 l個体ずつを収容することによっ て雄間競争を排除した状態で交接実験を行い,その ペアにおける雌雄の体サ イズ差とそのペアでの交接 の成否との関係を調べた. その結果,雄が雌と同程 度以上の大きさの時はほぼ常に交接が見られるのに 対して,雄が雌より小さい場合ではほぼ交接は見ら . 雄の体サイズと繁殖能力 ヤシガニ資源の利用パターンと個体群構造への 影響 a)食材として利用される個体の体サイズ 組成;b)鳩間島での個体群構造 Sato & Y oseda

(2010)

より改変。 図1 . (図 la). 大きな雄を選択的に利用している背景に は「大きな雄がいなくな っても ,その代わりに繁殖 を担 ってくれるだろう小さな雄と卵を産む雌を保護 していれば,資源状態を維持することができる」と いう地元の方々の考え方があるようである (佐藤, 私信) • では,このような大型雄選択的利用を受けている 本種資源の個体群構造はどうな っているのだろう? そこで沖縄県竹富郡鳩間島において野外調査を行 い,利用対象個体群の個体群構造を調べた. 本来, 本種は体サイズにおいて明確な性的二型を示し,雄 の方が大きくなる (Fletcheret al.,

1991 )

しかし 利用対象個体群では雌雄の平均体サイズはほぼ同じ であり,かっ性比は雌に偏っていた (図 lb) これ は現行の大型雄選択的利用の結果であると考えら れ,利用対象個体群では獲り残された小さな雄が多 くの交接を担っていると予想された 大型雄選択的 利用による雄の小型化と 交接回数の増加は,本種資 源の繁殖にどのような影響を与えるのだろうか? . 大型雄選択的利用による個体群構造への影響

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3 0 3 5 4 0 4 5 5 0 雄の体サイズ( 胸長 ,m m ) 5 5 図4. 雄の体サイズによる交接回数と射精精子数の関 係への影響. Sato et al. (2010)より改変。 どの交接回数においても大きな雄ほど常に多くの精 子を雌に提供した 目 また ,胸長 4 5 m m 以下の雄で は,交接2回目, 3回目での射精精子数は非常に少 なかった. 本稜では小さな雄ほど保有精子量が少な く(Satoet al., 2008). かつ精子回復速度が雄の体サ イズによらず非常に遅い (Satoet al., 2010) ため, 小 さな雄ほど交接回数の増加 によって射精精子数が 顕著に低下 (早々に保有精子量が枯渇) したと考え られた. これ らの結果は ,本種では大きな雄ほど高い繁殖 能力を有し,資源、の再生産に大きく 貢献しているこ とを示している 室内実験によ って 調 べ た 胸 長 30 m m 程度の雌雄 圃 雌 の 体 サ イ ズ と 繁 殖 特 性 は鳩間島において最もよく見られる体サイズであ か そ れ に 対 し て胸長 4 0 m m 程度の雄は最も よ く 利用さ れている体サ イズである (図 1). その結果, 大きな雄は小 さな雄の 1.5 倍強ほどの多くの精子を 雌に提供した (Satoet al., 2010) そのような大きな 雄と交接した雌の受精率はほぼ 100% であ ったのに 対して,小さな雄と交接した雌では受精率の低下が みられ,雄からの精子提供量が不十分なことがその 原因として考えられた (Satoet al. , 2010). 次に,雄の交接回数の増加が雄の繁殖能力に与え る影響を調べるため, さま ざま な体サ イズの雄に連 続して3 回の交接を行わせ,交接回数の増加 による 射精精子数の変化 を室内実験によ って調べた その 結果,雄の体サイズにかかわらず,交接回数の増加 に伴 って射精精子数は減少した (図 4) しかし では,雌の繁殖特性は体サイズに よって異なるの か? そこで,繁殖期直前にさ まざまな体サイズの雌 を 捕 獲 し 雌 が 持 っている卵母細胞数から雌の体サ イズと産卵数の関係を調べた. その結果,大きな雌 ほ ど 多 く の 卵 を 産 む こ と が 推 測 さ れ た (Sato

&

Y oseda, 2008). 次に ,雌の体サイズによる幼生の特性への影響に ついて室内実験によ って調べた. まず,野外にて幼 生を鮮出させる直前の抱卵雌を 捕獲して実験室に持 ち帰り,水槽内にて幼生を鮮 出 させる ことによっ て,雌の体サイズと幼生の体サイズとの関係につい て調べた その結果,大きな雌ほど大きな幼生を鮮 出することがわか った (図 5a). また,解出させた 幼生を無給餌条件で飼育した結果,大きな雌から産 C創 鴎r2 0 (2011)

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するーそのため,いくらかの雌は交接可能な期間内 に好みな雄と出会うことができず,繁殖に参加でき ないかもしれない. 生存に優れた幼生を多く産む大 きな雌ほど,そのような危険が高くなると考えられ る. 実際に野外において未受精卵を持った雌が観察 されており( 佐藤,未発表) ,このような懸念は十 分に起こりえるだろう

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精子制限 大きな雄が集団内からいなくなると,小さな雄が 多くの交接を担うことになるだろう. しかし現在 自主的に保護されている胸長40 m m 以下の小さな 雄は,特に交接の2回目以降では少しの精子しか射 精できない. そのため,多くの雌は獲得精子量の不 足によって受精率が低下する精子制限に陥ることが 予想される 実際に利用対象個体群において, 1) 低い受精率を示す雌が複数見られること, 2) 交接 時期の終了間際には半数の雄が保有精子を枯渇させ るほど多くの交接を行っていることから,大型雄選 択的利用は精子制限による増殖率の低下を招いてい ると考えられる CSato,2011 ), 以上のように,よかれと思 って行われている現行 の大型雄選択的利用は本種の再生産・増殖率に悪影 響を及ぼしていると考えられ,それらを最小限に抑 える資源利用方法を構築する必要がある 、,, , ' h u

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20 雌の体サイズによる幼生の特性への影響。a) 幼 生の頭胸長;b)幼生の飢餓耐性, Sato & Suzuki (201 0) より改変. 図5. ヤシガニ資源に対して講 じるべ き資源管理策 それでは,今後持続的に本種資源、を利用していく ためには,どのような資源管理策が適しているのだ ろう? 考えられる資源管理策のひとつに体サイズや 性による捕獲規制が挙げられる. 資源、量が減少して いる今,地元の方々が行っている「卵を産む雌

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や 「小さな雄」の保護は資源、の維持に有効だろう そ れに加えて,上述されたように高い繁殖能力を有す る「大きな雄

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の保護も本種資源の増殖率の維持に は必要と考えられる. では,今後どのような個体を 私たちは利用していくべきなのか? ひとつの案とし て,

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まれた幼生ほど長期間にわた って生存し,高い飢餓 耐性を示した( 図5b),一般に海産生物の多くで は,浮遊期における被食と飢餓が幼生の生残に大き

く影響するが (Bai1ey & H oude, 1989),大きな幼生 ほど被食回避や飢餓耐性に優れていることが知られ ている (Pepin,1989) したがって,本種の大きな 雌は単に多くの卵を産むだけではなく,生存に優れ た幼生を産むことによっても,資源の再生産に大き く貢献していると考えられる. 上述の本種の繁殖生態から考えると,現行の利用 パターンによって個体群から大きな雄が減少するこ とは資源、の再生産に下記のような悪影響を与えるこ とが懸念される. 圃現行の大型雄選択的利用が繁殖に与える 影響 雌の交接機会の消失 大きな雄が集団内からいなくなると,雌が自身よ り大きな雄,つ まり好みな雄と遭遇する頻度が減少 C a n僧r20(2011) 9 0

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が繁殖に参加することができる. また,その結果, 資源の再生産に大きく貢献するだろう大きな雌も好 適な配偶相手と繁殖できる 主に手によって捕獲さ れることからキャッチアンドリリースが有効な本種 では,このような捕獲規制の適用は利用による資源 の再生産・増殖率への悪影響を軽減し,資源量の維 持・増大に大きく貢献するだろう. ヤシガニ料理を提供している方々への聞き込みに よると,市場にて最も需要のある個体は決して大き な個体ではなく,胸長40 mrnか ら50 mrn程度の中 くらいの個体とのことであり( 佐藤,私信) ,市場 での需要を考慮したうえでも,雄選択的slot size limitsは本種に対して有効な資源管理策のひとつで あると考えられる. ただしこの捕獲規制を行う際 には,利用対象となる「中くらいの雄」の一部が将 来「大きな雄j に成長できるように,資源利用の量 的規制も同時に行う必要があり,今後は資源量,成 長速度,市場流通量等についても調べていく必要が ある. 本種資源の維持・増大に有効と考えられる捕獲規 制としては他にも,繁殖期中は捕獲禁止とする手段 や捕獲禁止区の設定などが挙げられる. し か し 捕 獲規制が資源量の維持・増大に貢献するには,第一 に本種の生活史を通した生息場所の保全が必要不可 欠であることを忘れてはならないだろう. . 文 献

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