<論文>
現代における定時制・通信制高校の意義と役割意識
―2019 年度全国高等学校定時制・通信制課程調査より―
大谷直史・柿内真紀
Significance and Role Awareness of Part-time and Correspondence High Schools:
Using the Data of the Nationwide Survey
OOTANI Tadasi, KAKIUCHI Maki
キーワード:不登校,逸脱,周縁化,定時制高校,通信制高校
Keywords: Absenteeism, Deviation, Marginalisation, Part-time High Schools, Correspondence High Schools
1 課題
定時制・通信制高校は,本来対象とされていた勤労青年に加え,非行傾向のある生徒,やがて不登校や障がい などその他さまざまな困難を抱える若者の学びの場として機能していることは,古賀(2017),財団法人全国高 等学校定時制通信制教育振興会(2012),伊藤(2015)など多くの先行研究で指摘されているところである。本 研究は,定時制・通信制高校がこうした古くからそして新たに周縁化された若者に対する教育機能を有するだ けではなく福祉的機能を持つことを仮説としている。 本稿は,2019 年8月に実施した「全国高等学校定時制・通信制課程調査」(定時制高校 277 校(回収率 44.3%), 通信制高校 74 校(同 30.7%))の調査結果を取りまとめたものである。この調査は,筆者らが 10 年前(2009 年)に実施した同様の調査との比較も意図して実施された。多様化する定時制・通信制高校の類型化を試みた 10 年前の調査とも比較しながら,定時制・通信制高校に通う生徒の様子や高校の役割意識,図書室や保健室の 居場所としての機能など類型化を通して検討する。 図1.定時制高校生徒数推移(人数/年) 図2.通信制高校生徒数推移 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 2020 定時制(男) 定時制(女) 0 100,000 200,000 300,000 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 2018 2020 通信制(男) 通信制(女) (人) (人) (年) (年)さて定時制高校生徒数は 1960 年代後半から 70 年代の急減の後,通信制高校生徒数は微増傾向を持ちながら ほぼ一定数で推移している(図1・2,各年度の学校基本調査より)。そして 2019 年度の全日制高校生に対す る割合は,定時制が 2.6%,通信制が 6.4%を占めるに過ぎず,数の上では少数と言える。なお現在通信制高校 では約7割が 15~17 歳であり,いわゆる高校生年齢のみでは全日制高校生の 4.5%程度の生徒数となる(図3)。 図3.通信制高校生15~17 歳割合の推移 図4.通信制年度途中入学者割合の推移 ちなみに通信制高校は 1990 年代後半以降,公立通信制高校の生徒数の減少を補う形で,私立とりわけ広域制 通信高校の生徒数が増加し,4 月入学以外の生徒の増加(図4)などから生徒層の転換があったと指摘されてい る(内田ほか,2019)。図3からは,2000 年代半ば以降,15~17 歳割合が増加していることが読み取れ,中学卒 業後の進路の一つとしての存在になりつつあるであろうことも示唆される。 また定時制高校は 1990 年代以降,3修制や多部制等の改革が行われ,この両者は数が少ないながらも,現代 的な周縁部の変容に対応した構造変容を見せている。筆者らはこうした定時制・通信制高校を類型化し,多部 制定時制高校において多様な生徒が集まっていることを明らかにした(柿内ほか,2010)。そこでは定時制高校 を,教育困難校と問題混在校に区分し,とりわけ問題混在校は多様な生徒を引き受けざるを得ない状況である ことを指摘した。その困難は指摘しながらも,それをいかにして克服しているのかという筋道までは示すこと ができていない。
2 調査概要
全国の定時制・通信制課程の高等学校のリスト(定時制 625 課程,通信制 241 課程)を作成し,すべての学校 に対して下記3種の調査票を同封し,それぞれに適した回答者に記入・封入の上まとめて返信を依頼した。課 程別に送付しているため,高校数よりも多くなっている。調査時期は 2019 年 8 月であり,回収数は定時制 277 校(回収率 44.3%),通信制 74 校(同 30.7%)であった。 主な調査項目は次の通りである。 〈学校調査〉入学者選考基準,勤務校の生徒の様子,生徒の居場所,学校の役割,心理教育等 〈図書室調査〉利用状況,居場所としての機能 〈保健室調査〉相談内容,居場所としての機能 また 2009 年 8 月にも同様の調査(学校調査のみ)を行っており,定時制 370 校(回収率 50.9%),通信制 69 校(同 34.5%)から回答を得ている。当時の問題関心は,定時制高校の改革が全国的に進み,とりわけ多部制 の定時制高校が増加したことで,従来の定時制高校の役割が変わる,あるいは機能的に分化していることを明 らかにすることであった。10 年後に行われた本調査では,その変容のあり様に加え,居場所としての機能の詳 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 2020 2018 2016 2014 2012 2010 2008 2006 2004 2002 2000 1998 1996 1994 1992 1990 1988 1986 0.0 10.0 20.0 30.0 2019 2017 2015 2013 2011 2009 2007 2005 2003 2001 1999 1997 1995 1993 1991 1989 1987 1985 (%) (年) (%) (年)細を明らかにすることを目的として行った。なおデータ処理に当たっては,SPSS24.0.0.0 を使用した。
3 調査結果
部編成,昼夜間別,課程別に5つの類型を作成し,それぞれの主要な結果を記す。内訳は,1 部制夜間 176 課 程,多部制夜間 29 課程,1 部制昼間 14 課程,多部制昼間 50 課程,通信制課程 71 課程である。 まず調査対象校の現状を確認する。各課程の所在地の人口規模は,高校改革の進展度合いの違いも想定され, 1 部制夜間及び昼間の所在地は比較的人口規模が少なくなっている(図5)。ただし 10 万人未満の都市に存して いても,通学範囲には複数の定時制高校があるとの回答は 70%を超えており,通学時間を問わなければ選択の 余地がないわけではない。 図5. 課程類型別所在地の人口規模(上:2019 年,下 2009 年) 図6.課程類型別定員充足率類型(上:2019 年,下 2009 年) 21.2 16.1 26.7 15.4 12.2 25.1 16.1 40.0 11.5 9.5 35.2 51.6 20.0 53.8 51.4 8.4 9.7 6.7 9.6 10.8 9.5 6.5 6.7 9.6 16.2 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 15.3 8.0 51.9 15.9 8.7 23.0 16.0 14.8 15.9 15.9 39.7 52.0 22.2 43.2 55.1 9.4 12.0 3.7 15.9 7.2 10.8 8.0 7.4 6.8 10.1 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 5万人未満 5~10万人未満 10~50万人未満 50~100万人未満 100万人以上 無回答 33.5 32.3 9.6 8.1 40.2 25.8 46.7 17.3 20.3 18.4 16.1 40.0 15.4 18.9 6.1 16.1 13.3 28.8 13.5 9.7 21.2 10.8 12.2 5.8 16.2 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 9.1 12.0 3.7 4.5 17.4 31.0 28.0 29.6 11.4 7.2 31.7 28.0 14.8 11.4 17.4 23.0 20.0 29.6 45.5 10.1 4.2 12.0 7.4 15.9 10.1 14.8 9.1 18.8 18.8 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 0~20%未満 20~40%未満 40%~60%未満 60%~80%未満 80%以上 100%以上 無回答図6には各課程の定員充足率類型を示した。総じて夜間部は定員充足率が低く,3 割強が 20%未満,半数以 上は40%未満となっている。多部制昼間部や通信制は 20%未満から 100%以上までばらつきが大きい。2009 年調査と比較すると,全体的に定員充足率が低下していることがわかる。 勤労青年のための教育機関としての役割はどの程度果たされているのだろうか。図7に課程類型別の就業者 割合類型を示した。就業者割合が最も多いのは1部制夜間であり,半数以上が40%以上の就業率となっている。 財団法人全国高等学校定時制通信制教育振興会の調査(2011 年)では定時制生徒の就業率は 42.0%(そのほと んどは非正規)であった。フルタイムで働きながら夜に学ぶというスタイルはもはや少数ではあるが,かとい って全日制とは大きく異なっており,依然として働きながら学ぶ(学びながら働かざるを得ない?)ことが定 時制の特徴ではある。そうした特徴は1 部制の夜間・昼間に強く,多部制や通信制においてはそもそもそうし た集計がなされていない(関心を持っていない)状況となっている。無回答の変動も大きく,2009 年との比較 は困難であるが,例えば通信制においては0~20%未満の層が増加しているなどの変化が見られる。 図7.課程類型就業者割合類型(上:2019 年,下 2009 年) では新しい役割としての不登校経験者の受け入れはどうだろうか。図8に中学校での不登校経験者の割合を 尋ねた結果を示した。1部制昼間で不登校経験者が少ないが,それでも半数が40%以上と回答している。 13.3 15.4 18.9 5.6 16.1 20.0 25.0 13.5 32.4 22.6 46.7 32.7 24.3 40.8 16.1 13.3 1.9 12.3 9.7 6.7 7.8 32.3 25.0 39.2 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 8.0 18.5 4.5 12.9 32.0 14.8 50.0 7.2 49.8 36.0 22.2 18.2 17.4 24.4 20.0 3.7 2.3 2.9 5.2 7.0 4.0 37.0 25.0 69.6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 0~20%未満 20~40%未満 40%~60%未満 60%~80%未満 80%以上 無回答 13.3 8.9 6.7 7.7 5.4 21.8 19.4 13.3 25.0 23.0 27.9 29.0 46.7 30.8 24.3 21.2 29.0 6.7 23.1 17.6 11.2 12.9 6.7 18.9 6.7 6.5 6.7 9.6 10.8 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制
図8.学校類型別中学時の不登校経験者割合(上:2019 年,下 2009 年) どこまで厳密な集計がなされているかは不明だが,「80%以上」の回答も多く(通信制では 18.9%に及ぶ), それが印象であるとしても,不登校経験者の進学先として定時制・通信制高校が選ばれていることは明らかで ある。2009 年から見ても全体的に増加傾向を示している。 図9は中退経験者割合である。通信制で中退経験者が多く,4割程度の学校で40%以上が中退経験者であ ると回答している。2009 年からはこの割合は減少傾向にあり,高校中退者数の減少を反映している。 図9.学校類型別中学時の中退経験者割合(上:2019 年,下 2009 年) より詳しく生徒の様子を確認するため,表1の各設問に対し,「あてはまる」から「あてはまらない」の5 件法で尋ねた。表1は定時制・通信制別にその回答分布を示したものである。「あてはまる」を5点,以下順 に「あてはまらない」に1点を割り振り,その全回答の平均値の高い順に項目を並び替えている。表2はその 因子分析結果である。なお7項目は複数因子に高い因子負荷量を示すなどして省かれている(「不登校の生徒 が多い」等)。スクリープロットから5因子を抽出し,それぞれ設問から「反社会因子」「脱社会因子」「貧困 因子」「外国因子」「非社会因子」と命名した1。なお命名は,権威・権力関係と仲間関係という2種類の関係 性への困難の抱え方の違いが集団適応に影響している(前者への不適応が反社会,後者への不適応が非社会, 両者への不適応が脱社会)という仮説による。 1.4 7.4 2.3 15.7 12.0 14.8 11.4 15.9 36.2 28.0 37.0 22.7 26.1 27.9 44.0 25.9 43.2 26.1 9.4 4.0 7.4 15.9 20.3 7.7 12.0 7.4 4.5 8.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 ほとんどない 20%未満 20~40%未満 40%~60%未満 60%~80%未満 80%以上 無回答 38.0 25.8 60.0 30.8 14.9 41.9 58.1 33.3 57.7 40.5 14.0 3.2 1.9 18.9 2.2 6.5 13.5 6.8 2.8 6.5 6.7 9.6 4.1 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 12.9 16.0 63.0 25.0 13.0 59.2 40.0 25.9 54.5 24.6 16.0 28.0 3.7 15.9 30.4 3.1 4.0 3.7 11.6 15.9 8.4 12.0 3.7 4.5 2.9 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 ほとんどない 20%未満 20~40%未満 40%~60%未満 60%~80%未満 80%以上 無回答
表1.勤務校の生徒の様子 (%) 定時制 通信制 あて はま る ややあ てはま る どち らとも いえ ない あまり あて はまら ない あて はま らな い 無回 答 あて はま る ややあ てはま る どち らとも いえ ない あまりあて はまらな い あて はま らな い 無 回 答 低学力の生徒が多い 63.9 28.9 5.4 0.7 0.0 1.1 59.5 28.4 9.5 0.0 1.4 1.4 生徒たちの習熟度の差が大きい 58.1 32.1 6.5 2.2 0.0 1.1 71.6 25.7 1.4 0.0 0.0 1.4 経済的な困難を抱えている生徒が多い 44.0 46.2 7.6 0.4 0.0 1.8 27.0 51.4 16.2 2.7 0.0 2.7 ひとり親家庭の生徒が多い 33.2 48.7 13.7 1.4 0.0 2.9 21.6 44.6 28.4 1.4 0.0 4.1 在学中に大きく成長したと思える生徒が多 い 27.1 52.7 17.0 1.1 0.0 2.2 27.0 47.3 20.3 4.1 0.0 1.4 友人関係で傷ついた経験を持つ生徒が 多い 23.1 56.0 17.7 1.4 0.0 1.8 23.0 60.8 14.9 0.0 0.0 1.4 幼稚さの残っている生徒が多い 21.3 47.7 20.2 8.3 0.7 1.8 8.1 54.1 31.1 4.1 0.0 2.7 学習意欲が低い生徒が多い 24.9 39.4 22.7 10.8 0.7 1.4 10.8 36.5 37.8 13.5 0.0 1.4 他の生徒となかなか馴染めない生徒が多 い 12.3 47.3 28.2 9.7 0.7 1.8 18.9 54.1 23.0 2.7 0.0 1.4 発達障がいを持つ生徒が多い 10.5 47.7 26.0 11.9 1.4 2.5 6.8 59.5 25.7 2.7 2.7 2.7 先生と友だちのようにつきあおうとする生 徒が多い 10.1 37.2 32.5 15.5 2.5 2.2 1.4 31.1 37.8 18.9 9.5 1.4 学校行事に熱心に取り組む生徒が多い 4.7 36.5 41.2 15.5 1.1 1.1 1.4 24.3 37.8 24.3 9.5 2.7 教師に依存的な生徒が多い 4.0 25.6 41.2 22.4 5.1 1.8 4.1 25.7 47.3 16.2 4.1 2.7 異年齢生徒間の交流が多い 6.9 21.3 34.3 29.2 6.5 1.8 8.1 20.3 31.1 24.3 14.9 1.4 不登校の生徒が多い(高校で) 7.6 22.0 23.1 33.2 11.9 2.2 13.5 32.4 29.7 17.6 5.4 1.4 中途退学をする者が多い 4.0 21.7 25.6 37.2 10.1 1.4 2.7 9.5 28.4 36.5 21.6 1.4 進路未定者が多い 4.7 20.9 26.4 34.3 11.9 1.8 13.5 28.4 40.5 12.2 4.1 1.4 知的障がいを持つ生徒が多い 1.8 23.5 32.5 24.5 15.2 2.5 5.4 23.0 39.2 18.9 10.8 2.7 生徒の自傷行為がある 5.4 22.4 23.8 29.2 17.0 2.2 4.1 17.6 25.7 35.1 16.2 1.4 部活動に熱心に取り組む生徒が多い 1.4 22.4 31.0 29.6 13.4 2.2 0.0 4.1 13.5 40.5 35.1 6.8 授業をサボる生徒が多い 1.4 18.8 25.6 41.5 11.6 1.1 0.0 5.4 29.7 39.2 24.3 1.4 友人関係のトラブル(いじめ等)が多い 2.2 16.6 24.5 43.7 11.2 1.8 0.0 2.7 20.3 44.6 31.1 1.4 授業中,私語をする生徒が多い 1.1 16.2 26.4 43.3 11.2 1.8 0.0 5.4 13.5 45.9 33.8 1.4 教師と関わろうとしない生徒が多い 1.1 7.6 28.9 51.6 9.0 1.8 2.7 14.9 45.9 29.7 4.1 2.7 校則を守らない生徒が多い 0.7 8.3 24.2 49.1 15.9 1.8 0.0 4.1 16.2 55.4 23.0 1.4 外国とつながりがある生徒が多い 5.4 14.8 13.4 31.8 32.9 1.8 1.4 6.8 16.2 44.6 29.7 1.4 日本語指導が必要な生徒が多い 5.8 15.9 11.2 28.9 36.8 1.4 0.0 12.2 6.8 33.8 45.9 1.4 性的トラブルに巻き込まれている生徒が いる 1.4 12.3 23.1 32.1 28.9 2.2 0.0 9.5 28.4 35.1 24.3 2.7 教師への反抗心が強い生徒が多い 0.0 3.6 19.1 55.6 19.9 1.8 0.0 0.0 8.1 56.8 33.8 1.4 教師とのトラブルが多い 0.0 4.3 16.2 54.2 23.5 1.8 0.0 1.4 5.4 50.0 41.9 1.4 表2.勤務校の生徒の様子に関する因子分析 反社会因子 脱社会因子 貧困因子 外国因子 非社会因子 教師への反抗心が強い生徒が多い 0.885 -0.031 -0.045 0.024 -0.014 教師とのトラブルが多い 0.804 0.068 -0.122 -0.026 -0.036 授業中,私語をする生徒が多い 0.736 -0.166 0.124 0.029 -0.074 校則を守らない生徒が多い 0.706 -0.072 0.091 -0.086 0.029 授業をサボる生徒が多い 0.554 0.039 0.037 -0.013 0.11 友人関係のトラブル(いじめ等)が多い 0.501 0.259 -0.018 -0.009 -0.079 先生と友だちのようにつきあおうとする生徒が 多い 0.347 0.099 0.174 -0.063 -0.105 生徒の自傷行為がある -0.063 0.862 -0.188 0.096 -0.100 性的トラブルに巻き込まれている生徒がいる 0.109 0.720 -0.12 0.06 0.023 他の生徒となかなか馴染めない生徒が多い -0.045 0.585 0.118 -0.097 0.164 友人関係で傷ついた経験を持つ生徒が多い -0.105 0.534 0.299 -0.152 -0.071 発達障がいを持つ生徒が多い -0.038 0.475 0.146 0.075 -0.086 教師に依存的な生徒が多い 0.058 0.441 -0.032 -0.078 0.049 知的障がいを持つ生徒が多い 0.102 0.369 0.118 0.179 0.049 ひとり親家庭の生徒が多い 0.021 -0.015 0.744 0.059 0.01 経済的な困難を抱えている生徒が多い 0.026 0.041 0.689 0.007 -0.015 低学力の生徒が多い 0.098 -0.082 0.417 0.083 0.045 日本語指導が必要な生徒が多い -0.041 -0.037 0.058 0.856 0.045 外国とつながりがある生徒が多い -0.049 0.069 0.044 0.752 -0.056 学校行事に熱心に取り組む生徒が多い -0.078 0.116 0.03 -0.096 -0.674 部活動に熱心に取り組む生徒が多い 0.153 -0.007 0.006 0.067 -0.628 進路未定者が多い -0.054 0.175 0.119 -0.063 0.373 教師と関わろうとしない生徒が多い 0.236 0.25 -0.031 0.026 0.328 因子相関 反社会因子 0.392 0.216 0.247 0.170 脱社会因子 0.457 0.305 0.247 貧困因子 0.149 0.075 外国因子 0.170 因子抽出法: 最尤法 回転法: Kaiser の正規化を伴うプロマックス法
こうして得られた因子得点をクラスター分析によって5類型にまとめたのが図10 である。それぞれの因子 得点から,「順社会層」(79 校)「非社会層」(86 校)「複合層」(56 校)「貧困層」(56 校)「反社会層」(50 校)と命名した。 図10.生徒類型(クラスター中心因子得点) この5つの層の割合を課程類型別に示したのが図11 である。あくまでこの結果は回答者の認識・印象を基 にしており,実態を示すものではないことに注意が必要である。たとえば荒れる定時制高校という前提をもっ ていれば,それに比べてそれほどではないと少なめに見積もられる可能性はある(逆もまたしかり)。図11 か らは,課程類型によって生徒層の認識が異なることが示される。1部制において「順社会層」,多部制におい て「複合層」,通信制において「非社会層」という認識が強いことが確認される。また1部制昼間部において 「反社会層」が多く,多部制の夜間と昼間ではあまり認識の差異が見られない。また「複合層」というより多 くの困難を抱えるであろう学校は,多部制昼間・多部制夜間・1部制昼間の順に多く,多部制では特定の生徒 像を想定しづらいという困難があるように見受けられる。 図11.課程類型別生徒類型 こうした現状において,定時制・通信制高校の役割及び役割意識は変容していることが想定される。図12 は,示された項目に対して5件法で問うた回答を示したものであるが,勤労青少年の教育機会の拡大という従 来からの役割意識が減少する一方で,不登校をはじめ多様な生徒に対する役割意識が高まっている。 -1 0 1 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 反社会因子 脱社会因子 貧困因子 外国因子 非社会因子 30.2 9.7 20.0 7.7 20.3 18.4 22.6 19.2 48.6 12.8 25.8 26.7 30.8 6.8 23.5 9.7 13.3 9.6 5.4 12.3 19.4 40.0 21.2 6.8 2.8 12.9 11.5 12.2 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 無回答
図12.定時制・通信制高校の役割意識(上:2019 年,下 2009 年) こうした役割意識の多様化はとりわけ複合層や貧困層を抱える高校において顕著である。たとえば「中学校 時代の不登校経験者への教育機会の拡大に貢献するべきである」という問いに対する回答が図13 である。 図13.生徒類型別不登校経験者への役割意識 25.4 17.9 21.9 36.5 45.6 15.4 19.9 16.2 10.0 14.2 5.7 51.0 47.6 55.3 47.0 42.5 32.8 50.7 37.9 33.6 45.0 21.7 17.9 26.2 18.8 14.5 10.8 35.0 23.6 34.2 42.7 30.5 51.9 6.6 11.4 8.5 10.3 8.5 14.2 0% 20% 40% 60% 80% 100% 勤労青少年の教育機会の拡大に貢献するべきである 成人の教育機会の拡大に貢献するべきである 低学力者への教育機会の拡大に貢献するべきである 経済的に困難を抱えた者への教育機会の拡大に貢献するべきであ る 中学校時代の不登校経験者への教育機会の拡大に貢献するべきで ある 学校文化になじまない逸脱傾向のある者への教育機会の拡大に貢 献するべきである 高校中退者への教育機会の拡大に貢献すべきである 居場所のない若者に,居場所を提供するべきである 外国につながる生徒の学びの機会拡大に貢献すべきである 特別な支援が必要な生徒の学びの機会拡大に貢献すべきである 夜間中学校との連携をすすめるべきである 強くそう思う そう思う どちらとも言えない そう思わない 全くそう思わない 無回答 31.9 15.5 13.9 35.4 30.5 7.7 13.3 8.2 50.7 53.8 53.3 50.0 50.4 21.2 41.8 22.1 13.3 24.1 24.1 12.6 15.5 38.1 33.2 37.4 7.1 23.2 9.7 21.9 0% 20% 40% 60% 80% 100% 勤労青少年の教育機会の拡大に貢献するべきである 成人の教育機会の拡大に貢献するべきである 低学力者への教育機会の拡大に貢献するべきである 経済的に困難を抱えた者への教育機会の拡大に貢献するべきであ る 中学校時代の不登校経験者への教育機会の拡大に貢献するべきで ある 学校文化になじまない逸脱傾向のある者への教育機会の拡大に貢 献するべきである 高校中退者への教育機会の拡大に貢献すべきである 居場所のない若者に,居場所を提供するべきである 強くそう思う そう思う どちらとも言えない そう思わない 全くそう思わない 無回答 30.4 45.3 57.1 60.7 44.0 53.2 44.2 32.1 28.6 44.0 16.5 9.3 10.7 8.9 8.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 強くそう思う そう思う どちらとも言えない そう思わない 全くそう思わない
以上のような困難を抱える定時制・通信制高校において,生徒指導上様々な取り組みがなされていることが 予想される。その一例として職員室・図書室・保健室の居場所機能を提示することで,今後の定時制・通信制 高校の役割を考える手掛かりとしたい。 図14.職員室が居場所となっているか 図15.図書室が居場所となっているか 7.3 9.7 31.3 12.9 40.0 15.4 31.8 19.4 40.0 30.8 28.5 51.6 20.0 48.1 6.5 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 6.3 8.0 5.9 7.7 6.7 23.4 30.0 23.5 34.6 28.9 29.7 36.0 27.5 26.9 28.9 40.6 26.0 43.1 30.8 33.3 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 利用されている ある程度利用されている あまり利用されていない 利用されていない 無回答 16.4 42.9 30.8 36.2 23.3 23.6 42.9 38.5 36.2 37.2 18.2 14.3 23.1 19.1 16.3 34.5 7.7 4.3 23.3 7.3 4.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 11.4 26.4 25.6 22.0 34.5 29.5 26.4 35.9 22.0 41.4 18.2 18.9 17.9 12.2 17.2 29.5 24.5 20.5 36.6 6.9 11.4 3.8 7.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 利用されている ある程度利用されている あまり利用されていない 利用されていない 無回答
図16.保健室が居場所となっているか 図14 から 16 は,職員室,図書室,保健室の居場所としての機能の実際を尋ねた結果であるが,職員室では 1部制の定時制高校が居場所機能を有しているとするところが多い一方で,保健室は多部制定時制高校の割合 が高い。保健室や図書室は,ほぼ過半数が「利用されている」「ある程度利用されている」と回答しており,そ れらが果たすべき本来の機能に加え,生徒の(学業)生活に貢献していることが示された。生徒類型別では反社 会層の学校で居場所としての利用が多い傾向があるが,今後より詳しく検討する必要がある。
4.今後の課題
定時制・通信制高校に通う生徒は多様化し,その存立条件(主に課程編制)によって生徒層は異なることが示 された。そしてその傾向は10 年前よりも進行しているように思われる。おそらくは意図せざる形で様々な困難 を抱える生徒を受け入れることとなった定時制・通信制高校(不登校の受け入れに関して広域制通信制高校は むしろ意識的であっただろうが)は,授業等の工夫に加え心理教育や日本語教育,その他福祉的なかかわりを 行っていると思われる。これらの設問の分析を進め,生徒層に即してどのような取り組みがなされているのか, とりわけ複合的な困難を抱える高校において,いかなる支援が必要とされているのかを考えていきたい。 その手がかりのひとつに,福祉的なかかわりとしての居場所機能の学校への持ち込みとして,高校内の居場 所カフェがある。神奈川県立田奈高等学校の「ぴっかりカフェ」や,大阪府立高校で展開されている高校生居場 所カフェなどが挙げられる。カフェは学校図書館で開かれている場合もある。田奈高校のカフェは図書館で開 かれている。学校図書館は学校内にはあるが,久野(2020)が指摘するオルデンバーグの「サードプレイス」(第 3 の場所)として,または田奈高校のカフェに携わってきた松田らによる第 2 の場所と第 3 の場所をつなぐ「2.5 プレイス」モデル(鈴木ほか,2013)としての機能を果たしているとも言えよう。そこに集う人びとにとっての つながりは社会関係資本のひとつにもなってゆく。筆者らの上述の調査結果にも学校図書館の持つ可能性が示 唆されていた。複合的な困難を抱える高校における居場所機能が,周縁化にさらされる生徒たちへのどのよう な支援になり得るのかという問いである。また,そうした支援は日本特有の高校の持つ課題なのだろうか。実 は,ヨーロッパでも中等教育段階で学校を離れていく若者たち(早期離学)をどのように支援していくのかが 18.9 18.8 35.7 20.9 36.2 36.7 50.0 21.4 44.2 29.3 18.3 25.0 35.7 11.6 6.9 23.7 6.3 7.1 20.9 24.1 3.4 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1部制夜間 多部制夜間 1部制昼間 多部制昼間 通信制 25.7 22.9 30.4 15.4 28.6 20.0 31.4 37.0 42.3 54.8 21.4 14.3 17.4 21.2 9.5 30.0 27.1 15.2 21.2 4.8 4.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 順社会層 非社会層 複合層 貧困層 反社会層 利用されている ある程度利用されている あまり利用されていない 利用されていない 無回答教育・職業訓練分野の主要課題となっており,各国の異なる社会経済や文化的状況のもと,要因の追究とさま ざまな手立てが進められつつある(園山ほか,2021)。ヨーロッパの事例との比較考察も念頭に置きながら,上 述の問いに取り組むことを今後の課題としておく。さらに,新型コロナウィルスの広がりによって,学校での 授業や学校運営,居場所カフェや図書館の運営に新しい課題がつきつけられていることへの着目も今後の研究 には必要となる。 ※本研究は,JSPS 科研費 16K01869(「子ども・若者の親密圏に関する総合的研究」)(研究代表者:大谷直史)の助成を受け たものです。 大谷直史(鳥取大学教育支援・国際交流推進機構 教員養成センター) 柿内真紀(鳥取大学教育支援・国際交流推進機構 教員養成センター) 1 念のため定時制のみのデータでも確認したが、同様の5因子を抽出可能であった。 <引用文献・主な参考文献> 伊藤嘉啓(2015),「高等学校定時制課程に関する史的研究の課題と展望―教育課程に関する研究へ向けて―」,『名古屋大学 教育論叢』第58 号。 居場所カフェ立ち上げプロジェクト編(2019),『学校に居場所カフェをつくろう!-生きづらさを抱える高校生への寄り添 い型支援』,明石書店。 内田康弘・神崎真実・土岐玲奈・濱沖敢太郎(2019),「なぜ通信制高校は増えたのか:後期中等教育変容の一断面」,『教育 社会学研究』第105 号。 柿内真紀・大谷直史・太田美幸(2010),「現代における定時制高校の役割」,『鳥取大学生涯教育総合センター研究紀要』第 6 号。 久野和子(2020),『「第三の場」としての学校図書館-多様な「学び」「文化」「つながり」の共創-』, 松籟社。 古賀正義(2017),「定時制高校における中退問題の実証的分析―補償と排除の間で―」,『中央大学教育学論集』,第 59 号。 財団法人全国高等学校定時制通信制教育振興会(2012),「文部科学省平成23年度高等学校教育の推進に関する取組の調査 研究委託調査研究報告書」。 鈴木晶子・松田ユリ子・石井正宏(2013),「高校生の潜在的ニーズを顕在化させる学校図書館での交流相談 : 普通科課題集 中校における実践的フィールドワーク」,『生涯学習基盤経営研究』 (38), 1-17,東京大学大学院教育学研究科生涯学習基 盤経営コース内『生涯学習基盤経営研究』編集委員会。 園山大祐編(2021),『学校を離れる若者たち』,ナカニシヤ出版(近刊)。 松田ユリ子(2018),『学校図書館はカラフルな学びの場』,ぺりかん社。