香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),32:15-26,2016
国語科若年教員の授業力向上に関する一考察
川田 英之
(附属坂出中学校)
762-0037 坂出市青葉町1-7 香川大学教育学部附属坂出中学校
One Consideration about the Lesson Power Improvement
of the Young Japanese Teacher
Hideyuki Kawata
Sakaide Junior High School Attached to the Faculty of Education, Kagawa University, 1-7 Aoba-cho,Sakaide 762-0037 要 旨 香中研国語部会での若年研修の振り返りから,国語科若年教員の授業力向上に向け ての方策について考察した。調査の結果,「横のつながり」「縦のつながり」を組織化するこ とに一定の効果があることが確認できた。今後は,協同的・相互的に学び合う自主研修の場 を組織することが,若年教員の授業力向上に有効であろう。 キーワード 若年教員の育成 授業力の向上 教科内容 縦と横のつながり 自主研修組織
1 はじめに
現在,教員の高齢化と大量退職(香川県では 平成24年度からの10年間に約40%の教員が退 職)に伴い,学校現場においてベテラン教員の 専門的な知識や技術の伝承が課題とされてい る。 従来であれば,勤務校の中でこうした伝承は 自然に行われ,スムーズな世代交代がなされて きた。また,授業力に関しても,校内の研修組 織で学ぶ中で向上が図れていた。しかしなが ら,児童・生徒数の減少に伴う教員採用数減の 時期の影響から,現在は団塊の世代と若年教員 の間の中間層の教員数が極端に少なく,学校内 での研修が効果的に行われていない現状があ る。さらに,数年後には若年層の教員が学校の 大半を占める学校も珍しくなくなり,研修体制 そのものが維持できないことも危惧される。こ うした状況は,その他自主研修への参加意識の 低下等にも表れている。 児童・生徒が多様化し,学習や生徒指導上 様々な問題が散在する現在の学校教育におい て,若年教員の授業力向上は緊急の課題であ る。 こうした課題について,香川県内の自主研修 組織である香川県中学校教育研究会(以下,香 中研)が平成25年度から始めたのが「若年研修」 (平成26年度から「若年授業力向上研修」と名 称が変更されたが,本論では「若年研修」に統 一する)である。これまで公的な研修組織であ る香川県教育センターでは,若年研修として初 任者研修,1経研修,5経研修が義務づけられ立場から考える力 ⑯ 教育の実践的問題とは直接の関連はない が,自分にとって関心のある学問や研究を 深めていくこと ⑰ その他 もちろん,ここに挙げた以外に求められる力 もあるだろう2。教師にはそれほど多様な力が 求められているといえる。 筆者は教師としての資質を「A 授業力」「B 生徒指導力」「C 自己研修力」「D 熱意や情 熱」「E 組織力」の五つと捉える。これに先 ほどの項目①~⑯を当てはめると次のようにな る。 A 授 業 力……①②⑤⑥⑫ B 生徒指導力……②④⑤⑥⑨ C 自己研修力……⑧⑩⑬⑭⑯ D 熱意や情熱……③ E 組 織 力……⑦⑪⑮ 図示すると下図のようになる。 【図 教師の資質の要素(筆者作成)】 「A 授業力」「B 生徒指導力」は相関する ものであり,別個に考えるべきではない。学校 生活の大部分の時間を占めているのは授業であ り,授業力が向上してこそ生徒指導にも効果が ある。逆に生徒指導力があってこそ,よい授業 も行える。ABで②⑤⑥の項目が重複している のもそのためである。 A,Bを支えるのが「C 自己研修力」3と「D 熱意や情熱」4である。熱意や情熱が増し,裾野 が広がることで,自己研修力も増し,授業力や 生徒指導力も高まってくる。 さらに教員間の「E 組織力」5による相互作 用により,個人の教員の資質はより高まってい く。研究授業をはじめとした授業を公開し学び 合う中で,授業が自己流に陥ることなく,授業 A授業力 B生徒指導力 C自己研修力 D熱意や情熱 A授業力 B生徒指導力 C自己研修力 D熱意や情熱 E組織力 行われてきた。しかし,5年経験までに教員間 の指導力に新採時に比べて大きな差ができるこ とから,1経研修と5経研修の間の3年間の研 修を香川県教育センターと連携しながら香中研 で行う運びとなった。 筆者は,平成23年度から香中研国語部会の事 務局長を務めている。香中研の提案を受け,平 成25年度から若年研修を組織し,実施にあたっ た。本研究では,平成26年度の研修の振り返り から,若年教員の授業力向上に今後必要とされ る方策について考察することを目的とした。
2 教師としての資質
教師としての資質は,狭義では授業力を意味 するが広義では人間性までをも含む。例えば, 小学校教師に必要な力量として,次のような項 目が挙げられている1。 ① わかりやすく授業を展開する力 ② 子どもの学習状況,悩み,要求,生活状 況などを適切に把握する力 ③ 子どもに積極的に関わっていく熱意や態 度 ④ 子どもの資質や適性を見抜く力 ⑤ 子どもの思考や感情を触発し発展させる 表現力 ⑥ 子どもの集団を把握し,まとめていく力 ⑦ 子どもや学校の問題を広い視野から見る ことができる度量の広さ ⑧ つねに研修・研究に励む能力 ⑨ 必要に応じて子どもに対して毅然たる態 度をとることのできる強さ ⑩ 芸術や文学に対する豊かな感性や理解 ⑪ 同僚と協力しながら教師集団の質を高め ていく力 ⑫ 教科書の中で教材を様々な角度からとり あげ指導する力 ⑬ 教育に関する諸問題を自分なりに筋道を 立てて論理的に考えることができる力 ⑭ 教師自身の体育・音楽・図工などの実技 能力 ⑮ 学校運営全体の中で自己を位置づけそのについての視野が広がっていくのである。 かつては校内の研修組織で学ぶ中でこうした 好循環が自然に行われていた。若年教員が授業 や生徒指導でつまずいたとしても,この組織力 により,技能を高め,自己研修力が増し,熱意 や情熱を取り戻すことができていた。しかし, 現在,この組織力が弱まっているがゆえに,授 業や生徒指導でのつまずきが自己研修力を減退 させることになり,結果,熱意や情熱も失い, 失望して離職していくという悪循環に陥る教師 が増えてきているのも事実である6。
3 若年研修の組織と内容
香中研国語部会による平成25年度からの若年 研修は,校内で弱まっている組織力を再構築 し,若年教員の国語の授業力を向上させる目的 で始まった。平成26年度は18名の若年教員を対 象とし,年間4回の研修の機会をもった。内容 は次の通りである。 ①第1回(6月1日実施) ・指導の先生との顔合わせ ・個人研究の進め方 ・1年間の研究目標及び研究方法の設定 ・研究書籍配布 ②第2回(9月11日) ・附属中学校における研究授業参観 ・授業討議並びに課題についての共有 ③第3回(10月23日) ・公立中学校における若年教員の研究授業 参観 ・授業討議並びに課題についての共有 ④第4回(1月4日) ・課題についての共有 ・1年間の研究のまとめ 本研修の特徴は二つある。一つは若年教員同 士の横のつながりである。よく似た年齢ではあ るが,所属する学校の現状は多種多様であり, ある意味異質な教員同士が気兼ねなく悩みを話 し合ったり,授業について語り合ったりする横 の学びの場を設けるようにした。もう一つは若 年教員と指導教員との縦のつながりである。若 年教員所属校の近隣の学校にいる教頭を始めと した指導者に若年教員数名を担当してもらい, (26年度は6名の教頭に各3~5名の若年教員 の指導をお願いした)意図的な徒弟制を構築し て,年間を通して指導が行われるようにした。 課題についての報告を兼ねて,年に数度指導を 受ける機会をもつことで,所属校内では困難に なりつつある上下関係による縦の学びの場を設 定した。 こうした横と縦の組織力を構築することで若 年教員の国語の授業力向上を目指した。4 若年教員の国語の授業力についての
意識
「2」で教師としての資質を狭義に「授業力」 と述べたが,授業力にも様々な要素が含まれて おり,その基準については一致し難しい面もあ る。 国語科教育の大きな特徴として,「教科内容 の曖昧さ」が挙げられる。柴田義松の指摘にあ るように,<教科内容>と<教材>の区別7が 他教科のように一般化されていない。故に未だ 「教材を教える」意識は根強く,教師にとって 「何を教えたらいいか分からない」授業が行わ れている現状がある。 では若年教員の授業力の意識はどうか。第1 回の研修で若年教員一人一人が現在の自分の授 業の課題について意見交換をする場をもった。 欠席者を除く参加者14名の現在の課題はおおよ そ次のように分類できた。 ① 話し合い活動(9名) ② 生徒の意欲(7名) ③ 学力の低い生徒への指導(3名) ④ その他(1名) (14名中。複数回答) ①は授業での話し合い活動がうまくできない という課題である。「話し合わせてもうまく深 まる話し合いができない」「話し合いをさせる と授業が荒れるので,どうしても一斉授業の形 態の授業をしてしまう」等である。②は生徒が意欲的に取り組む授業が行えないという課題で ある。「授業はスムーズに流れていくが,生徒 が意欲的でない」「意欲がない生徒の指導に困 る」等である。ここには,先に述べた国語科の <教科内容>の曖昧さがその一因としてある。 生徒にとって「学びがいのある授業」「上達感 のある授業」が展開できていないのであろう。 ③は低学力の生徒への対応である。「低学力の 生徒の指導法が分からない」「生徒間の学力差 が大きく,どのレベルに合わせて授業をすれば いいのかわからない」等である。④は「生徒が クラスで2人ほどで,授業の進め方に困ってい る」といったへき地校ならではの課題である。 ①~④を総合すると,教育現場で既に2年~ 4年以上の授業経験がある教員には「授業をど うすればいいのかわからない」「授業が成立し ない」等の課題をもつ者はいなく,「よい授業 をしたい」という意識を全員がもっていた。さ らに「よい授業=生徒が意欲的に学び合う授業」 という協同的・相互的な学びの授業イメージを もっていることも明らかになった。
5 研究授業の参観・討議を通しての若
年教員の意識の変容1
(1)研修の内容 第2回の研修では,筆者自身が勤務校で公開 授業を行い,若年教員が参観した。第1回目の 課題の共有を受け,筆者が授業を公開する際に 意識したのは,<教科内容>の明確化と「学び 合い」である。「話し合いで理解を深めよう」(東 京書籍1年)の単元において,マンガを教材に し,「エピソード」「オブジェクション」といっ た<教科内容>を明確にした上で,話し合いを 深めていくことに焦点を当て,授業を行った8。 授業後には,討議を行いつつ,課題について共 有し合う場をもった。 (2)若年教員の意識の変容 研修参加者18名の研修の振り返りのレポート 内容を「2」で示した教師の資質の項目ごとに 分類すると,おおよそ次のようであった。(複 数に分類できるものは複数で数えた。記述内容 は一部抜粋) A 授業力に関するもの(18名) ○話し合いの活動をする場合,意見のぶつ け合いから,単なる言い合いになってし まう場合が多い。しかし,今回授業を参 観して,話し合いを深めていくためには, 手順を踏んで話し合いをさせていくこと, 教師が交通整理の役をする(発問をした り生徒の意見を拾い上げたりしながら意 見を整理していく)ことが重要であると わかった。 ○国語科でつける力は感情ではない。自分 の意見を相手に伝えるために,感情がな いのでは元も子もないが,感情に流され てしまっては,相手に正しく伝えること ができない。先生は「エピソード」「オブ ジェクション」という二つの観点を折に 触れて生徒に確認させていたのが印象に 残った。 ○説得力をもたすために必要な言葉を押さ えるものの,形式的な会話ができればよ いと思いがちになってしまう。ところが, 今回の授業では,生徒が魅力を感じる課 題を出すことで話し合いに対して積極的 な態度で取り組ませていた。そして,そ の話し合いで使われた「エピソード」や「オ ブジェクション」などの技術をその場で 取り上げていた。熱中する話し合いのな かで,「話すこと・聞くこと」の技術の習 得ができていたことがすごかった。 B 生徒指導力に関するもの(3名) ○自分が話し合いの授業をする時に,つい見 逃してしまうような細やかで的確な指導も 勉強になった。例えば「友達の意見は消え ていくので,メモをとりましょう」「聞こ えない,もっと大きな声で」「最後まで言 いなさい」「意見を言っていない人は言い ましょう」といったものである。声が小さ いと,つい代わりに言ってしまったり,一部の生徒の意見だけで授業を進めてしまう ことが多いので改めて反省をした。 C 自己研修力に関するもの(12名) ○今まで授業の中で「落ち着かない」「私語 が増える」「時間がかかる」という理由で 話し合い活動を積極的に行っていなかっ た。実際に昨年度,話し合い活動を授業 に取り入れたがうまくいかず,結局一斉 授業の形に戻してしまった経験があった からだ。(中略―筆者)この研修会以降, 授業に一度は必ず話し合い活動を取り入 れ,より議論が深まるような課題を設定 し話し合わせるような工夫を行うことに した。生徒はこれまで以上に生き生きと 活動し,個人や班の意見を全体で集約し やすくなるなど授業の方法も少しずつで はあるが変化してきているように思う。 D 熱意や情熱に関するもの(9名) ○(話し合いの)必要性を感じながらも迷 いの中にいる私にとって,川田先生と附 属坂出中の生徒たちの50分は大変参考に なった。(中略―筆者)自分の意見を相手 に伝えたいという願望は,人間だれしも もつものである。しかしその願望は,時 に伝え合う作業を困難にさせる。「言語活 動」の重要性が声高に叫ばれている今,国 語科に求められているのは,どんな相手 でも納得させられる,筋の通った言葉を 使って伝える技術ではないだろうか。そ のためには教師側が明確で具体的な指導 の手だてをもっていなくてはならない。 これまで手探りで迷いながら,不安なま ま進めてきた「話すこと・聞くこと」の 道が,今回の授業を通して見つけること ができた。先生がおっしゃっていたこと を含めて,授業では生徒に力がつくよう な授業づくりをしたい。 E 組織力に関するもの(2名) ○授業後に若年研修の先生方と話し合いを もつ時間があった。そのときに,毎時間 の言語活動や話し合うことの実践につい て情報を共有した。また,各自がもって いた悩みを相談できる時間をいただいた。 私のグループではA中学校の先生が生徒 に合わせて授業を工夫しようとしている 話をされた。粘り強く指導されている様 子や,良い授業を見た後はすぐに実践し てみようとする姿勢が勉強になった。B 中学校の先生は,何年も前から,一単元 につき必ず一度話し合い活動を取り入れ ていることを話してくださった。多くの 先生方が自分の授業スタイルを模索され ていることを知り,大きな刺激になった。 (3)考察 研修に参加した若年教員全員が,研修に意味 があったと記述していた。やはり教員にとって 研修の場は重要であると再認識した。 また,研修自体は「国語の授業力」の「学び 合い」に焦点を当てて進めた。よって「A 授 業力に関するもの」が18名と多いのは当然であ るが,その内,「オブジェクション」といった <教科内容>の学びについて記述した若年教員 は11名いた。国語科教育における教科内容の曖 昧さが,若年教員の普段の授業の課題とも重な るようである。 また,「B 生徒指導力に関するもの」「C 自己研修力に関するもの」「D 熱意や情熱に 関するもの」を学んだと記述した若年教員も多 いことから,教師は授業の直接的な内容だけで なく,自分自身に引きつけながら,その他の教 師としての資質も同時に学んでいることが明ら かになった。 さらに,「E 組織力に関するもの」を記述 した若年教員も2名いた。中学校では勤務校内 に同年代の同じ専門教科の教員がいることは少 なく,県や郡市レベルでの研修では,若年教員 はなかなか発言できない場合もある。今回の研
修で目指した「横のつながり」による組織化の 成果の一端を見ることができる。
6 研究授業の参観・討議を通しての若
年教員の意識の変容2
(1)研修の内容 第3回の研修では,若年教員(4経)の代表 者が勤務校で公開授業を行い,他の若年教員が 参観した。「モアイは語る」(光村図書2年)を 教材に,説明文の内容を理解するための「学び 合い」の授業であった。尚,研修の都合上,授 業後の討議は行ったが,課題について若年教員 同士で共有し合う場はもてなかった。しかし, 討議後には若年教員同士が集まり,授業につい て互いに話し合う姿が多く見られた。 (2)若年教員の意識の変容 研修参加者13名の研修の振り返りのレポート 内容を,「5(2)」同様に教師の資質の項目ご とに分類すると,おおよそ次のようであった。 (複数に分類できるものは複数で数えた。記述 内容は一部抜粋。) A 授業力に関するもの(13名) ○50分の授業の中で2回,話し合い活動(グ ループ学習)を取り入れているところが印 象的だった。1回目の話し合い活動の,段 落の並び替えでは,グループの中での話し 合いも,また,ホワイトボードを活用した グループごとの発表も生徒が主体的に動 き,自分の意見を根拠を交えて話すことが できていたように感じた。しかし,2回目 の言葉が指し示す事柄を説明し合い,理由 を考える場面では,話し合いが停滞気味 で,先生のヒントにより気づく生徒の方が 多かった。また,ヒントの出し方も,私自 身も課題とするところだが,生徒に気づか せるというより,教師の意図することへの 誘導になってしまいがちで,そこが難しい と感じた。 ○本文を段落で切り分けて,順序を考えさせ るという方法をとっていたが,つながりが はっきりせず難しかったように思う。例え ば接続詞の役割に着目させるとか,事実と 理由をはっきりさせるなど,その順番に並 び替える根拠が説明しやすいものの方が良 いのではないか。並び替えをさせる目的と 意図を明確にすることが重要だと考える。 B 生徒指導力に関するもの(8名) ○授業では,かなり高いレベルを求められ ているはずの生徒が,「先生の研究授業を 成功させたい」「先生の思いに応えたい」 という思いで必死に考え,競って発言し ていた。生徒を惹きつけるには,まず生 徒との信頼関係が大切なのだと,改めて 感じた。 ○まず,生徒の表情がとても明るく,前向 きに授業に取り組む姿勢がうかがえ,教 師と生徒の間に良い人間関係が築けてい ることが伝わってきた。教師の発問と生 徒の発言のテンポもよく,分からないこ とを素直に分からないと言えるあたたか い雰囲気があった。 ○授業とは直接関係はないが,教室掲示が とても参考になった。勉強時間や自主勉 強ノートのページ数を記した掲示物と, それに添えられた先生の温かい言葉。こ ういった細やかな気配りのある学級経営 が,今日の素直で伸び伸びした生徒の反 応に結びついていると感じた。ぜひ今後 の自分自身の学級経営に反映させたい。 C 自己研修力に関するもの(8名) ○単にグループで話し合うのではなく「学び 合いのルール」を明確にした話し合いが効 果的である。私は普段,学び合いや話し合 いのルールを提示することができていない ので,どのようなものが良いか練りたいと 思った。であろう。 2点目は,「B 生徒指導力に関するもの」 を記述した者が多いことである。特に授業者と 生徒のやりとりや教室掲示に注目しながら授業 を観察している点が研修1とは異なる。これも 同年齢の教員同士の学び合いによるものと思わ れる。 研修2では課題について共有し合う場をもた なかったため,「E 組織力に関するもの」を 記述した者はいなかったが,研修1とは異な る,同年齢同士の研修ならではの良さが見受け られた。
7 意図的な徒弟制による若年教員の意
識の変容
(1)研修の内容 若年教員が各回の研修の振り返りの報告を持 参し,担当の指導者に指導をもらう機会をもっ た。これにより若年教員一人が3回以上の指導 の機会をもつことができた。指導内容について は,指導者に一任したため,内容などについ て,後日アンケート調査を行い,実態を把握し た。 (2)若年教員の意識の変容 若年教員の回答数は11名(61%)で,回答内 容は資料1のとおりである。 ①②より,直接的な研修内容やレポート内容 だけでなく,日々の授業についての具体的な指 導が行われていたことが伺える。また,「研修 以外の時間にも指導を受けたり励まされたりし た経験がある」と答えた若年教員も3名おり, 研修を通して人間関係が構築されている一端も 伺えた。③の「今後も指導の先生に指導いただ く機会があればいいと思いますか」については, 全員の若年教員が肯定的な回答(「4」「3」) をしており,否定的な回答(「2」「1」)をし た者はいなかった。 ○今回の単元のように「読む」から「書く」 活動や「話す」活動につなげるとき,単元 を貫く目標の意識づけが大変大事であると 感じた。(中略―筆者)今後さまざまな問 題に遭遇した際,解決できるようにするた めには,話し合う方法を身につける必要が ある。私も今回の研修で学んだことを,自 分の授業に生かしていきたい。 D 熱意や情熱に関するもの(8名) ○経験年数や年齢が増えるにつれ,周囲か らの期待値が上がり,任されることも増 える。そう分かっていながらも,今の自 分はまだまだ甘えがあると思う。任され ることに試行錯誤しながらも,自信を もってやり遂げられたという結果につな げるためにも,来年度は地道な時間の積 み重ねに手間と力を惜しまない自分であ りたい。そして,1年後には5年経験者 になる年を迎える。日々の授業に自信を もって取り組める自分に,今より少しで も近づくための努力をしていきたい。 E 組織力に関するもの(0名) (3)考察 研修1同様,参加した若年教員全員が,研修 に意味があったと記述していた。また,授業力 だけでなく,他の教師としての資質も同時に学 んでいたことも同様であった。 しかし,研修1とは次の2点において違いが 見られた。 1点目は,「A 授業力に関するもの」の内 容である。授業で学んだことと同時に課題につ いて言及している者が多かった。<教科内容> に関する記述は少なく,3名のみであり,授業 方法に関する記述が多かった。授業の課題につ いて記述した若年教員は,13名中10名いた。も ちろん授業1とは授業者の経験年数,授業内容 が異なるが,参観授業を無条件に受容するので はなく,対象化して批評的に見る視点があるの は,同年齢の教員同士という関係性によるもの(3)指導者の意識 徒弟制の指導者対象のアンケートでは,6名 中半数の3名から回答を得た。回答内容は資料 2のとおりである。 ④より,若年教員の取り組みぶりは概ね熱心 であったことが分かる。また②③より,指導の 際にも,若年教員の意をくみ取りながら一緒に 考えたり,自ら授業を公開して範を示したりし たことが伺える。ただ,徒弟制が授業力向上に 役立つかどうかについては疑問を呈しており, 若年教員の意欲の向上や本当に実のある研修の 機会の増加を求めている(①⑤⑥)。 (4)考察 若年教員と指導者の意識調査から,本研修で 組織した意図的な徒弟制はある程度の有効性を もつと言える。 ただ,若年教員と指導教員とでは,若干の意 識のずれがある。若年教員は今回の徒弟制によ る研修に意義を感じている者がほとんどである が,指導者は今回の研修だけでは不十分で,内 容,機会共にさらに充実した研修を求めている ことが明らかになった。 若年教員の中にも,研修以外での指導者の指 導を求めている者が多いこと,指導者もさらに 指導の機会をもつ意欲をもっていることから, 今後は,各地域で「自主研修」の機会をもち, 研修を充実させていくことが,若年教員の授業 力向上に有効であると思われる。
8 若年研修全体の振り返りによる若年
教員の意識
若年研修全体を振り返っての若年教員のアン ケート結果は次の通りである。 ○若年研修で役立ったと感じたものはどれで すか ① 附属学校の研究授業 11名(100%) ② 公立学校の研究授業 8名(72.7%) ③ 同期の先生方との情報交換 7名 (63.6%) ④ 指導の先生との対話 6名(54.5%) ⑤ 研究書籍の配布 5名(45.5%) ⑥ レポート作成 0名(0%) (11名中。複数回答) ①②の数値が高いことから,若年教員はまず 何より他の授業を見ることに研修の意義を感じ ていることが分かる。また,本研修で意識した 横のつながり(③),縦のつながり(④)の組 織化も,一定の効果があったと思われる。9 終わりに
本研究では,香中研国語部会の一年間の若年 研修における若年教員および指導者の意識調査 から,今後の若年教員の授業力向上に必要な方 策を考察することを目的とした。考察の結果, 若年教員同士の横のつながり,指導者との縦の つながりといった「組織力」を高めることに一 定の効果があることが明らかになった。また, 「授業力」だけでなく,「生徒指導力」「自己研 修力」「熱意や情熱」といった面も,授業研修 の中で暗黙知の内に学んでいることが明らかに なった。組織力を高めることで総合的な教師と しての資質が向上し,ひいては国語の授業力に つながるのである。 以前であれば学校内の組織力で対応できてい た部分ができにくい現状であるからこそ,今回 行ったように意図的に組織化する意義はある。 <教科内容>の曖昧さを始め,国語科教育は他 教科には見ない困難な状況がある。よって,学 校内で専門的な国語教員の組織ができにくい現 実がある以上,地域でまとまり組織化して学び 合う機会が必要である。さらに,それを基盤と して,自主研修の組織が活性化することが,若 年教員の授業力向上への有効な手だてであると 思われる。教育委員会主催の参加義務のある研 修だけでなく,自ら進んで参加する自主研修が 今後はより大きな意味をもつであろう。 香中研国語部会の前身であるかつての香川県 国語教育研究会(以下香国研)では,国語教師 になった者は,その組織に入るのが当たり前とされた。若年教員にとって,同僚の教師が数多 く存在することによる横のつながりは,お互い に相談しながら高め合えるものであり,また野 田弘9を筆頭とした縦のつながりの中で先輩教 員から授業力を始めとした教員の資質を徒弟的 に学んでいたようである。かつての香川の学力 の高さを支えていたのは,こうした自主研修組 織による意義が大きかったとも言えよう10。現 在の香川の国語学力の低下11が課題とされてい るのも,自主研修組織の形骸化12と無関係では ない。 一方で,教師の授業力は一般化して論じるこ とが困難であることも事実である。授業は,そ の時々の状況や文脈に依存する面が強いからで ある。若年教員はともすると発問,指示,机間 指導といった授業の外面的・表面的な部分のみ を見たり真似したりしてしまう。よって,硬直 化した組織であれば,ベテラン教師が授業法を 無条件に教え,若年教員が無条件にそれを受け 入れてしまうということにもなりかねない。こ れでは若年教員に真の授業力がつくとは言えな い。(このことはかつての香国研の組織が硬直 化し,崩壊したこととも無縁ではない。)そう した意味において,今回の若年研修の徒弟制に おいて,指導者自身が授業を公開したり一緒に 考えたりした研修方法は大いに参考とすべきで ある。ベテラン教員が若年教員に一方的に教え るのではなく,相互に学び合う研修の姿こそ が,求められているのではないか。 今後,県また郡市レベルでの協同的・相互的 な学びの場としての,熱意のある新たな自主研 修が組織され,国語科若年教員が進んで学ぶ場 が作られていくことが,「1」で述べた現状の 課題を克服する方法であると思われる。 註 1 稲垣忠彦・寺崎昌夫・松平信久編『教師のライフコー ス~昭和史を教師として生きて』東京大学出版会, 1988,265頁 2 例 え ば, 堀 裕 嗣 編 THE教 師 力 編 集 委 員 会 著 『THE教師力』明治図書,2013,では,16人の教 師により「志力」「言葉の力」「辞めないこと」等 が語られている。 3 西尾実は「国語教育として最も直接な問題は教師 その人の国語力である」とし,「教師その人の不断 の努力と内省による読書生活の確立が要せられ, 日記なり,手紙なり,歌俳なり創作なりあるいは 注解・評論なりによって自己の力を試み,自己の 世界を自覚しようとする絶えざる修行が必要とな る」と述べる。『西尾実国語教育全集 第一巻』教 育出版,1974,158頁 4 「熱意や情熱」は広く「人間力」と捉えることがで きる。斎藤喜博は「授業者としての力」のまえに, 「教養」や「経験」の蓄積によって生じる「人間的 な力」の必要性を説く。斎藤喜博『教育学のすすめ』 筑摩書房,1969,89頁 5 佐藤学は,学校や授業を変えていくためには,教 師たちが日頃から授業を公開し学び合うような「同 僚性」の関係を作ることが重要だと述べる。佐藤 学『授業改革をデザインする』岩波書店,1999, 30頁 6 文部科学省の報告(「教員のメンタルヘルスの現状」 文部科学省,平成24年1月22日)によると,在職 者に占める精神疾患による病気休職者の割合は, 平成12年から平成22年の10年間で約3倍増加してい る。 7 柴田義松『現代の教育学』明治図書,1981,16頁 8 「沈黙の艦隊(かわぐちかいじ)…政治家の判断を 問う」谷川彰英『マンガ-教師に見えなかった世界』 白水社,2000,147頁,をもとに筆者がアレンジし て授業を展開した。 9 野田弘と香国研は,説明的な文章の学習指導にお いて「筆者」の存在を正面から取り上げた「筆者 想定法」で知られる。野田弘・香国研『筆者想定 法による説明的文章の指導』新光閣書店,1970等 参照。 10 志水宏吉は香川の学力の高さを支えるものとして, 昭和20年代から始まった,参加率の極めて高い教 科別の自主研修会の存在を挙げている。志水宏吉・ 高田一宏編著『学力制作の比較社会学 国内編 全国学力テストは都道府県に何をもたらしたか』 明石書店,2012 11 かつての学力調査で全国上位であった香川県では あるが,平成26年度全国学力学習状況調査では,
中学校国語の本県の正答率は〔国語A:主として 知識〕79.3%(全国平均-0.1%),〔国語B:主とし て活用〕51.4%(全国平均+0.4%)であり,平成27 年度同調査では,〔国語A:主として知識〕76.0%(全 国平均+0.2%),〔国語B:主として活用〕64.9%(全 国平均-0.9%)という結果である。 12 例えば,香中研国語部会が毎年行っている夏季研 修会の県内国語科教員の参加率は,筆者が事務局 長を務めている平成23年度以降,ほぼ2/3ほどであ り,1/3の教員は参加していないのが現状である。 郡市レベルの国語科自主研修の場も,現在はほと んど存在していない。
資料1 若年教員アンケート結果
資料1 若年教員アンケート結果
① 指導の先生にどのような指導を受けましたか ・レポートの添削 ・指導案の書き方 ・指導においての留意点 ・教材研究の方法 ・授業で大切にすること ・研究授業の参観のあと,自分の授業にどう取り入れていくかの相談 ・自分の課題についてどのようにアプローチするか ・一回一回の授業を生徒がどのように自己評価するべきか ・授業についての悩み相談 ・グループワークをしている際の悩みをレポートに書いた際,具体的な助言をいただいた ・校内で研究授業があった際,当日に向けて指導案についての指導や授業づくりのアドバイスをいただ いたことがとても勉強になり,意欲向上につながった ② 指導された中で特に印象に残っていることはありますか ・課題の立て方 ・どのような課題が生徒におちていくか ・「そのまま素材を出しても子どもはおいしいと思わない。素材をおいしく料理してから出さなければ ならない」という言葉 ・授業の振り返り方について,一つの案として毎回の授業でノートの終わりに一筆書かせるという方法 もあると教わった。それまでは評価用ワークシートを使うことしか考えていなかった ・どう学習課題を設定し,1時間の授業の中でどこを評価するのか。また学習指導要領との関わり ③ 今後も指導の先生に指導いただく機会があればいいと思いますか 4(8人)3(3人)2(0人)1(0人) (主な理由) ・現在はそういう機会がないので ・大会や現教の授業の指導案などで悩んだときには ご指導いただければ,大変ありがたいですが,お忙 しいところご指導いただいて申し訳なくもあるので, 数が多いと恐縮しています ・私自身のことをよく分かってくださる方にご指導 いただけるのが最も良いから資料2 指導者アンケート結果