は じ め に 鼻中隔手術は鼻閉改善を目的とする手術であるが,ど こまでの範囲を矯正するかにより術式は異なり,難易度 も異なる.前弯や上弯,外鼻変形が顕著な症例に対して は,通常の Killian アプローチ1) による鼻中隔矯正術で は鼻閉が改善されないこともある.このような症例に対 し て は,hemitransfixion ア プ ロ ー チ に よ る 前 弯 矯 正 術2)3),外 切 開 に よ る 鼻 中 隔 外 鼻 形 成 術4)5)(以 下 open septorhinoplastyとする)などの術式が必要である.本 邦において前弯矯正術や open septorhinoplasty は,耳 鼻咽喉科医にとってまだ経験の浅い術式である.しかし 鼻閉の改善という機能改善を担うのは,耳鼻咽喉科医の 役割である.正確な鼻内所見の把握と鼻閉の評価ができ るのは耳鼻咽喉科医であり,耳鼻咽喉科医には機能改善 させるための術式すべてが施行できることが求められ る.本論説では現在施行している modified Killian アプ ローチによる鼻中隔矯正術,hemitransfixion アプローチ による前弯矯正術を中心に述べ,今後の展望について考 察する. 鼻中隔・外鼻の解剖(図 1 ) 鼻中隔は主に鼻中隔軟骨,篩骨垂直板,鋤骨によって 構成される.周囲は,鼻骨,前頭骨鼻棘,蝶形骨吻,上 顎骨・口蓋骨鼻稜,前鼻棘などの骨組織と接合してい る.鼻中隔軟骨後方は篩骨垂直板と鋤骨の間にはまりこ んでおり,篩骨垂直板と鋤骨の間に入り込む蝶形骨突 起,鋤骨内に陥入する鋤骨突起という後突起を形成す る.骨部は後上部の篩骨垂直板,後下部の鋤骨,前下部 の上顎骨鼻稜とその後方の口蓋骨鼻稜から形成されてい る6)7) . 鼻中隔軟骨の鼻背,尾側 10∼15mm は,鞍鼻・鼻尖 下垂を起こさないために残すべき部分であり L―strut と いわれる4)8) (図1a).また鼻中隔軟骨と篩骨垂直板の 接合部は,上方で鼻骨に付着している.この部位は鼻背 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科 鼻閉の改善のためには,その原因や病態を的確に捉えたうえで鼻腔形態の矯正 を行うことが重要である.鼻中隔弯曲症は鼻閉を来す代表的な疾患であり,鼻中 隔矯正術を施行するためには,鼻中隔の解剖や鼻中隔弯曲症の成因についての詳 細な理解が必要である.術式選択には,どこまでの範囲が鼻閉の原因となってい るのか,その病態はどうして生じたのか,どのようにして矯正すれば良いか,の 判断が求められる.適切な術式選択がされず軟骨および骨を過剰切除したため に,鞍鼻,鼻尖下垂という術後合併症が報告されている.術式決定は,鼻中隔の 形態のみから判断するのではなく,鼻腔形態・外鼻変形なども考慮し,鼻中隔と 外鼻を立体的な一つの構造物と考え矯正するべきである.温存しなければならな い部位の矯正術は,鼻中隔切除術ではなく再建も行う形成術となる.本邦におい て hemitransfixion アプローチによる前弯矯正術や外切開による鼻中隔外鼻形成 術(open septorhinoplasty)は,耳鼻咽喉科医にとってまだ経験の浅い術式であ る.今後,耳鼻咽喉科医の発展のために,前弯矯正術・鼻中隔外鼻形成術は必要 な手術手技と考える. キーワード : 鼻閉,鼻中隔矯正術,hemitransfixion アプローチ, 鼻中隔外鼻形成術,open septorhinoplasty
の構造の維持に重要であり keystone area8) と呼ばれ, 軟骨が鼻骨から外れると鞍鼻を来す(図1b,c). 鼻骨は上方で前頭骨,外側は上顎骨前頭突起,下方で 外側鼻軟骨と付着する.鼻中隔弯曲にかかわる硬組織と しては,鼻骨や外側鼻軟骨も関与しており,外鼻形態や 機能的鼻閉には鼻翼軟骨も関与している. 鼻中隔弯曲症の成因9) (図 2 ) 鼻中隔は外鼻および鼻腔の形態を維持しており,周囲 を鼻骨,頭蓋底,上顎骨といった骨組織で囲まれてい る.成長の過程において,篩骨垂直板,鋤骨,鼻中隔軟 骨といったすべての鼻中隔組織は発育成長する.発育方 向として篩骨垂直板は頭側に頭蓋底があるがために頭側 図 1 鼻中隔・外鼻の解剖 a : 鼻中隔軟骨鼻背,尾側部の 10∼15mm は,外鼻形態を保つために必要な支持組織であり L―strut といわ れる. b : おおよそ鼻骨の鼻腔側は鼻中隔軟骨から篩骨垂直板にあたり,下方の外側鼻軟骨の鼻腔側は鼻中隔軟骨 にあたる.これら4つの構造物はお互いに強固に骨膜,軟骨膜,線維組織で結合しており,鼻背の構造 の維持に重要であることから keystone area といわれる. c : keystone area において接合部を過剰切除すると,軟骨が鼻骨から外れ鞍鼻となる.(文献7より改変) 図 2 鼻中隔弯曲症の成因(図2b,c,d,e : 文献9より引用) a : すべての鼻中隔組織(篩骨垂直板,鋤骨,鼻中隔軟骨)は矢印の方向に発育成長する. b : 骨組織(鼻骨,頭蓋底,上顎骨)で囲まれた枠の中で,鼻中隔は成長の過程で余剰となり, 余剰組織が弯曲,稜,棘,斜鼻などの歪を形成する. c : 鼻中隔軟骨が高度に成長すると,鼻背方向に向かう内力が生じる. d : 高度に成長した鼻中隔軟骨の内力は,外鼻を高くする. e : 強度の内力は,力をそらすために外鼻を曲げ,斜鼻を形成することもある.
から尾側へと成長し,鋤骨は下方に上顎骨があるため後 方から鼻背へと成長し,鼻中隔軟骨は全方向へと発育す る(図2a).そして骨組織の枠の中で,鼻中隔それぞ れの組織は枠の面積より多少とも大きく成長する.枠の 中でおさまりきれない分は曲がるか折れるか,あるいは どこか成長力の抜けるところに収まる.曲がるのが「弯 曲」となり,折れるのが「突起(稜や棘)」となり(図2 b),力をそらすのが「外鼻の隆起(斜鼻など)」にな る.つまり骨組織で囲まれた枠の中で,鼻中隔は成長の 過程で余剰となり,その不均衡が原因で余剰組織が弯 曲,稜,棘などの歪を形成し,鼻中隔弯曲症が生じる. さらに鼻中隔軟骨は骨に比べ増殖能力が強く,弾力があ り,外力に対して抵抗が強い.そのため,折れないで曲 がるほうに力が強く働くと外鼻は高くなるだけでなく (図2c,d),外鼻が曲がってきて斜鼻を形成すること もある(図2e). 術式の変遷(図 3 ) 一般的な鼻中隔矯正術は,鼻中隔中央部の矯正術であ り,従来は Killian 切開により粘膜下窓形切除術,軟骨 再挿入法により機能の改善が図られてきた6) .弯曲して いる軟骨や骨はできるだけ大きく切除した方が矯正され る.しかし軟骨および骨の過剰切除は,外鼻形態を保つ ための強度が落ち,術後にさまざまな合併症・後遺症を 起こす可能性がある.鼻中隔矯正術の合併症には,鞍 鼻,鼻尖下垂という術後変形が報告されている10)11).そ のため近年では鼻中隔軟骨を温存し5) (軟骨保存法) (図3a),弯曲に関与してない硬組織は可能な限り温存 する方法が推奨されている12).L―strut や keystone area の温存が重要とされる. 鼻中隔中央部の矯正術を施行するも術後に鼻閉感を訴 える症例が存在する.この原因としては,鼻中隔の前弯 および上弯の矯正ができず弯曲が残ってしまい鼻閉の改 善が十分に得られない場合,また鼻腔形態は改善される も鼻弁狭窄や外鼻変形に問題がある場合などである. Killian切開では,前弯や上弯,外鼻の矯正は困難であ る.そのため前弯に対する矯正術としては,hemitrans-fixion切 開 に よ る 矯 正 術 が 施 行 さ れ る よ う に な っ た (図3b).そして上弯,鼻弁狭窄,外鼻変形に対する矯 正術は,open septorhinoplasty が施行されるようになっ た(図3c).温存しなければならない L―strut や key-stone areaの矯正術は,鼻中隔の支持力を極力下げては ならないため,弯曲部位を除去するという考え方ではな く,鼻中隔の歪みの圧を解放し適切な長さ,形に矯正す るという考え方となる.つまり前弯矯正術や open sep-torhinoplastyは,鼻中隔切除術ではなく再建も行う形成 術となる.支持組織の軟骨性構造を周囲組織から剥離す ることで,その異常構造および周囲組織との位置関係を いったん解除し,適正な支持組織に再構築する13) . 術 式 選 択(図 4 ) 当院においては,鼻中隔中央部の矯正術は modified Killianアプローチによる軟骨保存法で矯正し,前弯を 伴う症例は hemitransfixion アプローチによる前弯矯正 術,上弯・鼻弁狭窄・外鼻変形を伴う症例は open sep-torhinoplastyを施行する(図4a).前弯の矯正が必要 かどうかは,鼻内所見から Killian 切開部より前方の弯 曲が残存しても問題がないかの視診・触診で判断する. 一般的な CT の撮影方法は顔面に対する断面であり,鼻 に対する断面ではないため,CT による前弯の評価は困 難である.CT により前弯を評価する場合には直視鏡の 視軸と一致させた,鼻背に沿ったラインを水平断とする 方が評価しやすい(図4b,c).hemitransfixion 切開 では,軟骨尾側端から切開することで,鼻背側を除いた 図 3 術式の変遷 a : Killian アプローチによる矯正術は,鼻中隔軟骨を極力,温存する(軟骨保存法). b : hemitransfixion アプローチ.軟骨尾側端における切開線(前弯凹側). c : open septorhinoplasty.鼻柱皮膚中央部における逆V字切開.
鼻中隔のほぼ全貌を確認することができる.前弯矯正の 術式選択においては,前鼻棘から鼻中隔軟骨の脱臼の有 無が重要となる.脱臼の有無などは触診による確認が確 実である.軽度の弯曲で脱臼のない症例,尾側軟骨が脆 弱(亀裂が入っている場合など)な症例では batten graft による矯正術で矯正可能である12)14) (図4d).しかし強 度の弯曲,脱臼を伴う症例には,前鼻棘より鼻中隔軟骨 を離断し歪みの圧を解放したうえで,余剰軟骨を切除し 残存軟骨を正中に固定する(図4e).このようにして 適正な支持組織に再構築する. open septorhinoplastyは,上弯,鼻弁狭窄,外鼻変形 の矯正も必要と判断した場合に,鼻柱皮膚中央部に逆V 字切開を加える術式である.open septorhinoplasty で は,鼻背側も含め鼻中隔全貌を確認,処置することがで きる.外鼻変形を矯正することは,審美的問題を改善さ せるためではない.例えば鼻閉を主訴とする鞍鼻症例で は,鼻腔全体として体積が減少しており,鼻孔の狭小化 も合併している.そのため鼻腔体積を増やし鼻孔の拡大 をするために鞍鼻を矯正するべきと考える.また高度な 斜鼻を合併している場合には,鼻中隔のみを矯正しても 鼻柱の傾きなどは矯正されず鼻弁狭窄が生じてしまう可 能性がある15) .鼻弁狭窄16)17) は,軟骨性外鼻の鼻腔外側 壁が鼻腔内圧の変化に影響され鼻閉の原因となる.鼻腔 に問題のない症例では,鼻腔抵抗の70%は鼻弁部を含む 鼻腔前方に存在するといわれている18) .強度の外鼻変形 を伴っている症例に対しては,外鼻と鼻中隔を立体的な 一つの構造物と考え矯正するべきである5)15) .以下当院 にて施行している各術式について詳細を示す. modified Killian アプローチによる鼻中隔矯正術, 軟骨保存法(図 5 ) 1. 切開は通例,左側の鼻腔から行う.Killian 切開 で は 鼻 中 隔 尾 側 端 か ら 10∼15mm 後 方 だ が modified Killian切開では 2∼5mm 程度後方もしくは皮膚粘膜移 行部で切開する(図5a).切開線の下部は鼻腔底にか かるまで伸ばす.切開線の上方では,鼻翼軟骨を傷つけ ないように注意する. 2. 切開後に軟骨を確実に露出させ,軟骨膜下で左側 の粘膜を軟骨から剥離する.軟骨から垂直板,鋤骨へと 上方から下方に剥離を進める.凸側では原則として稜や 図 4 術式選択 a : 当院における術式選択 b : CT 画像で前弯を評価する場合,CT 画像は視軸と一致させ鼻背に沿ったラインを 水平断として再構築する. c : 視軸と一致させた CT 画像における前鼻棘を含む断面での前弯 d : 軽度の弯曲で脱臼のない症例や尾側軟骨が脆弱な症例では,尾側軟骨を scoring し たうえで batten graft による矯正術で矯正可能である. e : 強度の弯曲,脱臼を伴う症例には,前鼻棘より脱臼している鼻中隔軟骨を離断,余 剰軟骨を切除し anchor suture を行う.
棘より上方の部分を剥離し,凹側では垂直板や鋤骨も含 め全体を剥離する. 3. L―strut を残すために軟骨の前方切開は軟骨尾側 端より 10∼15mm 後方を切開する10) .軟骨切開の上方 (鼻背方向)も L―strut を傷つけないよう注意が必要で あり,上方 10mm の軟骨には切開が入らないようにす る(図5b).また軟骨切開の下方では,軟骨と鼻稜と の接合部を保存する.前方切開から上顎骨鼻稜へと連続 させ,視野を広げるため鋤骨まで切開を連続 さ せ る (図5c).次に剥離子で反対側の粘膜を破らないように e f g h i j k 図 5 modified Killianアプローチによる中央部矯正術(軟骨保存法) a : 粘膜切開 b : 軟骨の切開 上方(鼻背方向)および前方(尾側方向)の軟骨は 10mm 以上残す. c : 軟骨下方の切開は,鼻稜との接合部を残し鋤骨まで連続して切開する. d : 軟骨と篩骨垂直板との接合部(keystone area)は,上方(鼻背方向)に亀裂が入らないよう前方(尾側方 向)に軟骨切開してから処置するとよい. e : 通常症例の keystone area を含む CT 矢状断(文献19より引用) f : 篩骨垂直板が尾側へ発育し keystone area が脆弱となった症例の CT 矢状断(文献19より引用) g : 鼻中隔軟骨と篩骨垂直板との接合部を支点として鼻尖が後方移動し,鼻柱唇角が鋭角化.鼻尖下垂となる. h : 中央部軟骨が直線化し,余剰軟骨が尾側軟骨,鼻稜と重なる. i : 余剰軟骨の切除 j : 弾性減弱のため凹側の軟骨表面に,縦横の浅い切開を加える. k : マットレス縫合することで再弯曲を予防し,軟骨を直線化する.
右側の軟骨膜下に入り,右側の粘膜を剥離する. 4. 鞍鼻を起さないようにするため軟骨と篩骨垂直板 との接合部(keystone area)は,10mm 以上残す.軟骨 と篩骨垂直板との接合部で L―strut に亀裂が入らないよ う注意が必要であり,L―strut 下方を前方に軟骨切開し てから処置するとよい(図5d).通常は鼻骨の直下に は鼻中隔軟骨があるが(図5e),前方に伸びた篩骨垂 直板が接合部を支持しているような症例では(図5f), 篩骨垂直板の前上方の処理により,たとえ鼻中隔軟骨を 温存していたとしても鞍鼻を来す危険がある19) .また軟 骨と篩骨垂直板との接合部で上方に亀裂が入り,さらに 軟骨と鼻稜との接合部が外れてしまった場合には,鼻尖 下垂が生じる危険がある(図5g). 5. 上方から篩骨垂直板,鋤骨を切除する.視野をよ くしたうえで,稜や棘より下方の粘膜を剥離し,稜や棘 の頂点を切除する. 6. 鼻中隔軟骨と鼻稜の接合部は可能な限り温存する (図5c).しかし鼻稜の外側への突出が残存する場合に は,処置が必要となる.この際,切歯管を通る動脈を損 傷しないよう突出している骨のみを切除する.切歯管を 通る動脈からの出血は骨内にある動脈からの出血なの で,圧迫が利かず止血に難渋する6) . 7. 軟骨切開すると歪からくる圧が解放され,中央部 軟 骨 は 直 線 化 す る.余 剰 軟 骨 分 が L―strut と 重 な り (図5h),切除が必要となる(図5i).軟骨自身に弯 曲がある場合には,scoring20) を行い(図5j),suture technique12) などにより矯正する(図5k). hemitransfixion アプローチによる前弯矯正術 1. 二双鈎で鼻翼と鼻柱部を助手に牽引してもらうこ とで鼻翼軟骨を前方に挙上し,鼻中隔軟骨尾側端を確認 する.通常前弯の凹側に切開を行う.浸潤麻酔を行うと 尾側端が分からなくなるため切開線を書いておく(図3 a).皮下および軟骨膜下に浸潤麻酔を行い,尾側端に 沿って切開を行う(図6a). 2. 尾側端全体を露出した後に,凹側から軟骨膜下に 剥離を行う.凸側の粘膜剥離は難度が高く穿孔を起しや すいため,凹側は穿孔を起さないよう慎重に剥離する. 尾側軟骨部では,軟骨膜が強固に付着しているため軟骨 膜下に入ることは困難である.そのため軟骨を傷つけな いよう丁寧な操作が必要となる.軟骨に亀裂が入るだけ でも L―strut は維持できなくなる. 3. 脱臼している症例などでは正中,鼻稜の位置など の判別が困難となる.鼻腔を観察し,鼻中隔の形態・鼻 稜との位置関係をよく確認する.そのうえで凹側の粘膜 をすべて剥離する(図6b). 4. 凸側の粘膜も剥離した後,keystone area の処置 を行う.L―strut は残さなければならない部位であり, 軟骨と篩骨垂直板との接合部は 10mm 以上残す. 5. 前鼻棘と軟骨との位置関係,余剰軟骨の程度につ いて判断をする(図6c).尾側で余剰軟骨のために歪 が生じ,弯曲が高度になっている場合には,脱臼がなく とも前鼻棘から軟骨を離断し,余剰軟骨切除,圧の解放 が必要になる(図6d). 6. 残った軟骨を正中に固定する.上顎骨鼻稜・前鼻 棘周囲との接合を外すことは,鼻の支柱が外れてしまう ことと同義であり,わずかな荷重で鼻尖の沈下が起きて しまう.そのため余剰軟骨を切除した後は,anchor su-ture8)12)
を行う.5―0PDS にて2針以上,figure eight su-ture21) を行う必要がある(図6e).正中固定する際, 軟骨を尾側方向に出すことによっても頭側―尾側方向の 歪が矯正される. 7. 必要があれば batten graft にて補強を行う4)12)20) . 軟骨自身が弯曲している症例に対しては,scoring を行 い(図6f),直線化するよう矯 正 す る.そ の う え で batten graftをあて補強する.また軟骨に亀裂が入って いる症例も batten graft による補強が必要である.Graft として使用する軟骨は,L―strut を温存したうえで必要 最低限の量を鼻中隔軟骨から採取する.軟骨の強度には 個人差があるため,術後の形態変化を起さないよう注意 が必要である. 8. 凹側に batten graft を挿 入 し,5―0PDS に て3針 以上結紮する(図6g).Graft を挿入,縫合すると鼻柱 自身が厚くなり鼻入口部が狭くなる可能性がある.その ため挿入する graft は,補強を必要とする部分のみにあ てる.軟骨全体が弯曲している症例に対しては,scoring を行い,軟骨前弯部すべてを覆う形の graft が必要にな る(図6h,i). 9. 両鼻腔に厚さ 1mm のシリコンプレートを挿入 し,縫合固定する22) .鼻中隔尾側付近は圧迫が困難であ るため,血腫予防する目的で鼻中隔尾側の結紮を行うの もよい. 10. 術前,術後の鼻内所見(図6j). open septorhinoplasty4)5) 鼻柱皮膚中央部に逆V字切開を行い(図3c),鼻翼 軟骨,外側鼻軟骨を軟骨膜下に露出させた後,露出した 鼻翼軟骨を左右に牽引しながら正中で鼻中隔尾側端を露 出する.軟骨性斜鼻は左右の外側鼻軟骨と鼻中隔軟骨を 矯正位に縫合して修正するが,鼻中隔軟骨の弾性減弱処 置を行った場合は spreader graft や batten graft で補強 する.columellar strut は,鼻尖を上げる効果があり,
鼻 孔 の 大 き さ を 整 え る.内 鼻 弁 の 拡 大 に は spreader graftが有効であり,外鼻弁の修正には alar batten graft を行う. 今後の展望 今回,鼻中隔手術についての私的見解も含め,鼻閉に 対する術式の変遷について述べた.しかし術前の術式決 定は,明確な基準となる検査,基準値などはなく,鼻内 e f g h i j 図 6 hemitransfixionアプローチによる前弯矯正術 a : 切開し軟骨尾側端を露出させる. b : 軟骨膜下にて凹側粘膜を剥離し軟骨を露出.尾側軟骨にも亀裂が入っているのが確認される. c : 前鼻棘と軟骨との位置関係,余剰軟骨の程度について判断する. d : 前鼻棘から軟骨離断し,余剰軟骨を切除する. e : 軟骨の正中固定,figure eight suture
f : 弾性減弱のため凹側の軟骨表面に,縦横の浅い切開を加える(scoring). g : batten graft の固定
h : 軟骨全体が弯曲しており,角部は高度に弯曲している.
i : 凹側に batten graft を縫合し,尾側軟骨が直線化するように矯正する. j : 術前,術後の鼻内所見
所見による視診・触診によって決定しているのが現状で ある.そのため軽度の前弯や上弯,外鼻変形症例に対し ては,術式決定に悩む場合がある. 外鼻には,皮膚張力および表情筋(図7a)により縮 小しようという外力が存在する15) .これに対し鼻中隔軟 骨は弾力があり,外力に対して抵抗が強い.成長の過程 で余剰分が鼻中隔軟骨に歪を形成し,高度に弯曲した鼻 中隔軟骨には,常に内力が生じている(図2c).鼻中 隔矯正術時に軟骨を切開することは,鼻中隔軟骨の過剰 な圧を解放し歪を矯正するが,一方では外鼻との力の均 衡をくずすことにもなる(図5h).弯曲部位を切除す るという手術概念は,少なからず鼻中隔の支持力が低下 する.前弯や外鼻変形を伴わない症例では,構造的に安 定しており鼻中隔の支持力が低下しても特に問題はな い.しかし前弯や外鼻変形を伴う症例では,外力と内力 のバランスの崩れから前弯,外鼻変形を助長してしまう 可能性がある(図7b).つまり弯曲部位を切除する鼻 中隔矯正術を行うことによって,外力に対抗するだけの 支持力を持たないものになりえる可能性がある.そのた め術前診断において Killian 切開アプローチで問題なし と判断するも,術中に前弯が悪化する症例,外鼻変形が 増悪する症例などもあり術式変更を必要とすることがあ る.その際に術者には,前弯矯正術,形成外科手技を用 いた鼻中隔外鼻形成術などの手術手技が求められる.鼻 中隔外鼻形成術は,わが国の鼻科臨床において欧米やア ジア隣国と比べると遅れている分野であるが,今後の耳 鼻咽喉科医にとって必要な手術手技と考える. 鼻中隔手術の術式選択は,鼻中隔の形態のみから判断 するべきではなく,外鼻変形なども考慮し判断するべき である.しかし自覚的にも気にしてない5度未満の斜鼻9) では,open septorhinoplasty を選択することは一般的で はない.鼻中隔手術を施行するにあたり,何度以上の斜 鼻であれば斜鼻形成が必要かについて検討が必要であ る.また術式を決める因子には,外鼻形態に加え,鼻中 隔の強度なども挙げられる.軽度の外鼻変形であっても 鼻中隔軟骨が脆弱な症例には,より多くの支持組織が必 要となり鼻中隔外鼻形成術が必要かもしれない.そのた め今後,術式選択のための明確な基準となる検査,基準 値などを定める検討が必要である. ま と め 鼻閉の改善という機能改善を担うのは,耳鼻咽喉科医 の役割である.鼻閉を改善させるための鼻中隔手術は, 一つではなく中央部,前弯,上弯・鼻弁狭窄・外鼻変 形,どこまでの範囲を矯正させるかにより術式は異な る.そのため,どの術式をするべきかの判断が必要とな る.鼻腔形態の矯正を考えると,外鼻と鼻中隔を立体的 な一つの構造物と考え矯正するべきである.そして L― strutや外鼻を含めた鼻中隔手術は,鼻中隔切除術では なく再建も行う形成術となる.異常構造および周囲組織 との位置関係をいったん解除し,適正な支持組織に再構 築する.今後,耳鼻咽喉科医の発展のために,前弯矯正 術・鼻中隔外鼻形成術は必要な手術手技と考える. 図 7 鼻における外力と内力 a : 外鼻における表情筋.深部には,鼻孔圧迫筋である鼻筋(横部),鼻中隔を引き下げる鼻 中隔下制筋がある.どちらも鼻を縮小しようとする外力の筋である.(文献15より引用) b : 軟骨保存法で鼻中隔矯正術を施行したところ,軽度であった前弯が増悪.内鼻弁が狭窄し 鼻柱の高さも低くなっている.内力が減少したことによる変化である.
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本論文の要旨は第118回日本耳鼻咽喉科学会総会・学術講 演会(2017年5月,広島)において発表した.学会モーニン グセミナーでの貴重な講演の機会を賜りました広島大学耳鼻 咽喉科学・頭頸部外科学 平川勝洋教授に心より御礼申し上 げます.また手術手技について貴重なご意見を頂きました東 京慈恵会医科大学形成外科学 宮脇剛司先生,大分大学医学 部耳鼻咽喉科頭頸部外科 児玉 悟先生,大櫛耳鼻咽喉科 大 櫛哲史先生(徳島市)に深謝いたします. 連絡先 〒105―8461 東京都港区西新橋3―25―8 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科 飯村慈朗