西 南 学 院 大 学 法 学 論 集 第 四 四 巻 第 一 号 ︵ 二 〇 一 一 年 九 月 ︶
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一. は じ め に │ │ 債 務 の 累 増 と 法 的 規 律 二. 公 債 の 意 義 と 問 題 三. ﹁ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹂ の 問 題 点 四. お わ り に │ │ 起 債 制 限 と 法 律 学 の 視 点一.
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1. ド イ ツ の 債 務 状 況 と 債 務 規 律 五 五﹁ ド イ ツ 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ﹃ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹄ の 問 題 点 ︱ 財 政 規 律 の 法 的 性 格 と 公 債 ﹂ 五 六 第 二 次 大 戦 後 の ド イ ツ の 再 興 の 時 期 に 当 た る 一 九 五 〇 年 代 及 び 六 〇 年 代 、 G D P に 対 す る 債 務 残 高 の 割 合 は 、 二 〇 % 前 後 で 安 定 的 に 推 移 し て い た 。 し か し 、 一 九 七 〇 年 の 六 三 〇 億 ユ ー ロ か ら 二 〇 〇 八 年 の 一 兆 五 八 〇 〇 億 ユ ー ロ へ と 、 債 務 残 高 は 約 二 五 倍 に 増 え 、 G D P 比 も 一 九 七 〇 年 の 一 八 % か ら 二 〇 一 〇 年 に は 八 三. 二 % に 増 大 し て い る 。 ち な み に 、 わ が 国 の 二 〇 一 〇 年 度 末 の 公 債 残 高 は 八 六 二 兆 円 ︵ 約 七 兆 五 〇 〇 〇 億 ユ ー ロ ︹ 一 ユ ー ロ = 一 一 五 円 で 換 算 ︺ ︶ で 、 G D P 比 は 一 八 一 % で あ る 。 一 九 四 九 年 五 月 の ド イ ツ 連 邦 共 和 国 基 本 法 に お け る 公 債 に 関 す る 規 定 は 、 ワ イ マ ー ル 憲 法 八 七 条 の 規 定 を 引 き 継 い で い る ︵ 1 ︶ 。 そ れ は 、 起 債 の 禁 止 及 び 対 象 に 関 連 し た 例 外 を 定 め る 規 定 と し て 、 文 言 的 に は 、 一 九 二 〇 年 一 一 月 三 〇 日 の プ ロ イ セ ン 自 由 国 家 憲 法 六 五 条 に 遡 る も の で あ り 、 ド イ ツ の 財 政 憲 法 の 伝 統 に 基 づ い て い る ︵ 2 ︶ 。 こ れ が 、 一 九 六 七 年 及 び 六 九 年 の 財 政 憲 法 改 革 に お い て 、 問 題 と な る 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ︵ い わ ゆ る ﹁ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹂ ︶ へ と 改 正 さ れ る こ と に な る ︵ 3 ︶ 。 こ の 基 本 法 旧 一 一 五 条 一 項 二 文 に よ れ ば 、 ﹁ 起 債 に よ る 収 入 は 、 予 算 案 に 見 積 も ら れ た 投 資 支 出 の 総 額 を 超 え て は な ら ず 、 経 済 全 体 の 均 衡 の か く 乱 を 除 去 す る た め に の み 例 外 が 許 さ れ る ﹂ と さ れ た ︵ 4 ︶ 。 例 外 条 項 に い う ﹁ 経 済 全 体 の 均 衡 の か く 乱 ﹂ に つ い て は 、 経 済 安 定 成 長 促 進 法 ︵StbG ︶ 一 条 二 項 が ︵ 5 ︶ 、 ﹁ 経 済 全 体 の 均 衡 ﹂ の 構 成 要 素 を 、 物 価 水 準 の 安 定 、 高 い 雇 用 率 、 対 外 経 済 的 均 衡 、 並 び に 継 続 的 及 び 適 切 な 経 済 成 長 ︵ い わ ゆ る ﹁ 魔 法 の 四 陣 角 ﹂ ︶ と 具 体 化 し て い た ︵ 6 ︶ 。 し た が っ て 、 通 常 の 景 気 状 況 に お い て は 、 新 規 の 起 債 ︵ 7 ︶ は 明 確 に 規 定 上 の 起 債 制 限 以 下 に 保 持 さ れ な け れ ば な ら な い こ と に な る ︵ 8 ︶ 。 し か し 、 七 〇 年 以 降 、 憲 法 改 正 者 の 意 図 と は 裏 腹 に 、 債 務 状 況 は 急 上 昇 し て い る 。 起 債 な し に や り く り さ れ た 連 邦 予 算 は 、 皮 肉 に も 一 九 六 九 年 度 が 最 後 で あ る ︵ 9 ︶ 。 公 債 政 策 の 推 進 者 に と っ て ま さ し く ﹁ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹂ と な っ た の で あ る10︵ ︶ 。 こ の こ と は 、 毎 年 度 の 予 算 に お け る 新 規 起 債 額 を 追 っ て み る と 、 さ ら に 明 ら か と な る︵11 ︶ 。 一 九 八 五 年 か ら 二 〇 〇 九 年 ま で の
西 南 学 院 大 学 法 学 論 集 第 四 四 巻 第 一 号 ︵ 二 〇 一 一 年 九 月 ︶ 二 五 の 予 算 年 度 に お い て 、 新 規 起 債 総 額 六 二 三 四 億 ユ ー ロ は 、 こ の 同 じ 期 間 に な さ れ た 投 資 支 出 の 総 額 六 三 九 〇 億 ユ ー ロ と ほ ぼ 同 額 で 、 こ の 期 間 全 体 と し て み れ ば 、 起 債 は ほ ぼ 上 限 い っ ぱ い に 利 用 さ れ て い る こ と に な る 。 こ の 期 間 の 実 質 的 成 長 率 は 、 平 均 し て 年 約 二 % で あ る が 、 こ の 期 間 、 す べ て の 予 算 年 度 に お い て 起 債 が な さ れ て い る 。 特 に 、 一 一 の 予 算 年 度 に お い て 起 債 限 度 を 超 え て い る 。 と り わ け 、 二 〇 〇 二 年 度 か ら 二 〇 〇 六 年 度 、 及 び 二 〇 〇 九 年 度 に お い て は 、 こ の 限 度 は 、 著 し く 超 過 さ れ て い る 。 他 方 、 新 規 起 債 額 が 投 資 支 出 の 五 〇 % を 下 回 っ た 年 は な い 。 も っ と も 低 か っ た の は 一 九 八 九 年 の 五 三 % で あ る 。 2. 本 稿 の 課 題 わ が 国 の 公 債 発 行 制 限 に か か る 規 律 は 財 政 法 四 条 で あ る12︵ ︶ 。 公 債 発 行 又 は 借 入 金 を な す こ と を 原 則 と し て 禁 止 し 、 例 外 的 に 公 共 事 業 、 出 資 金 及 び 貸 付 金 の 財 源 と す る 場 合 に 限 っ て 国 会 の 議 決 を 経 た 金 額 の 範 囲 内 で 認 め ら れ る に す ぎ な い 形 を と っ て い る 。 ド イ ツ と 比 べ 、 法 律 と 憲 法 と い う 、 質 の 点 で 非 常 に 大 き な 相 違 は み ら れ る も の の 、 機 能 不 全 に 陥 っ て い る 状 況 は 、 ド イ ツ の 比 で は な い よ う に 思 わ れ る 。 前 記 の よ う に 、 ド イ ツ に お い て も 、 累 積 す る 債 務 を 制 御 す る こ と は う ま く い か ず 、 二 〇 〇 四 年 度 予 算 法 律 に つ き な さ れ た 連 五 七 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 (単位:10億ユーロ) 1985年 1987年 1989年 1991年 1993年 1995年 1997年 1999年 2001年 2003年 2005年 2007年 2009年 〔新規起債額と投資支出額の推移〕 新規起債額 投資支出額 (各年度のBunderrechnungshof, Bemerkungenより作成)
﹁ ド イ ツ 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ﹃ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹄ の 問 題 点 ︱ 財 政 規 律 の 法 的 性 格 と 公 債 ﹂ 五 八 邦 憲 法 裁 判 所 で の 規 範 統 制 に お い て は 、 法 律 上 の 起 債 制 限 の 有 効 性 に 関 す る 疑 念 が 示 さ れ て い た13︵ ︶ 。 ま た 、 起 債 制 限 の 議 論 が 連 邦 と 州 の 財 政 関 係 の 現 代 化 の た め の 連 邦 議 会 及 び 連 邦 参 議 院 の 委 員 会 ︵ い わ ゆ る 第 二 次 連 邦 制 度 委 員 会 ︶ の テ ー マ に 入 れ ら れ︵14 ︶ 、 こ れ に つ き 、 専 門 部 会 に お い て 、 ﹁ 国 家 債 務 を 効 果 的 に 制 限 す る ﹂ と の 意 見 書 が 決 議 さ れ 、 こ れ に 基 づ き 、 二 〇 〇 九 年 八 月 一 日 、 基 本 法 の 改 正 の た め の 法 律 ︵ 九 一 c 条 、 九 一 d 条 、 一 〇 四 b 条 、 一 〇 九 条 、 一 〇 九 a 条 、 一 一 五 条 、 一 四 三 d 条 ︶ が 発 効 し た15︵ ︶ 。 こ れ に よ り 、 起 債 に よ る 財 源 調 達 を よ り 厳 し く 制 限 し よ う と し て い る 。 新 し い 規 定 の 検 討 は 別 稿 に 譲 る こ と と す る が 、 こ れ と 並 ん で わ が 国 に と っ て 貴 重 な の は 、 一 九 六 九 年 改 正 の 基 本 法 旧 一 一 五 条 の も と で 蓄 積 さ れ た 起 債 制 限 の 四 〇 年 に わ た る 経 験 と そ こ で 浮 き 上 が っ た 規 律 の あ り 方 に 関 す る 議 論 で あ る 。 債 務 累 増 の 原 因 は 、 ド イ ツ 再 統 一 や 鉄 道 改 革 と の 関 連 で の 特 別 財 産 の 構 築 と い う 特 殊 事 情 が あ る が 、 そ れ は 別 と し て 、 突 き 詰 め れ ば 、 状 況 如 何 に か か わ ら ず 起 債 を や め ら れ な か っ た こ と と 、 過 去 の 債 務 の 償 還 が 思 う よ う に 進 ま な か っ た こ と に 尽 き る と い わ れ る︵16 ︶ 。 そ れ で は 、 基 本 法 に ま で 起 債 制 限 を 規 定 し な が ら 、 ど う し て こ の 財 政 規 律 は 機 能 し な か っ た の か 、 こ の 点 こ そ 、 わ が 国 財 政 法 四 条 の 規 定 を 検 証 す る に 当 た っ て 大 い に 参 考 に な る と 考 え た か ら で あ る 。 そ こ で 、 本 稿 で は 、 基 本 法 旧 一 一 五 条 に 起 債 制 限 規 範 と し て ど こ に 問 題 が あ っ た の か 、 そ の 一 端 を 探 り 、 わ が 国 の 公 債 発 行 制 限 の 法 的 規 律 に 関 す る 議 論 の 参 考 に 供 す る こ と を 目 的 と し た い︵17 ︶ 。
西 南 学 院 大 学 法 学 論 集 第 四 四 巻 第 一 号 ︵ 二 〇 一 一 年 九 月 ︶
二.
公
債
の
意
義
と
問
題
1. 公 債 の 意 義 ︵ 1 ︶ 景 気 調 整 公 債 そ の も の は 、 ア ・ プ リ オ リ に 、 良 い と も 悪 い と も い え な い 。 少 な く と も 、 起 債 を 一 切 禁 ず れ ば よ い と い う 話 で は な い18︵ ︶ 。 ま ず 、 景 気 の 変 動 に よ り 、 租 税 収 入 は 、 必 ず し も 安 定 し な い も の と な る 。 国 の 支 出 、 な か ん ず く 社 会 保 障 関 連 支 出 は 、 租 税 収 入 の 減 少 と は 反 対 に 、 増 大 す る 。 国 が 毎 年 度 の 財 源 調 達 の 不 足 分 を 避 け な け れ ば な ら な い と す れ ば 、 景 気 後 退 期 に お い て は 増 税 す る か 支 出 を 減 少 さ せ な け れ ば な ら な い 。 し か し 、 こ れ で は 、 景 気 後 退 を よ り 悪 化 さ せ る こ と に な る19︵ ︶ 。 そ こ で 、 と も か く も 減 税 を し 、 あ る い は 国 家 支 出 を 増 や し て 、 景 気 を 回 復 さ せ る こ と が 必 要 で あ る 。 景 気 後 退 期 に お い て は 、 減 税 や 国 の 支 出 の 増 大 は 、 景 気 の 不 安 定 を 調 整 す る 自 動 安 定 装 置 と し て 作 用 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 危 機 的 な 経 済 状 況 に な れ ば な る ほ ど 、 こ の よ う な 形 で 国 が 財 政 的 に 介 入 す る 必 要 性 は 高 ま る 。 国 の 起 債 は こ の と き に ど う し て も 必 要 と な る20︵ ︶ 。 ︵ 2 ︶ 世 代 間 再 配 分 ま た 、 投 資 の た め に 公 債 を 発 行 し 、 将 来 の 償 還 及 び 利 払 い を 、 当 該 投 資 に よ っ て 期 待 さ れ る 収 益 ︵Ertr ä ge ︶ か ら 調 達 す る こ と は 、 経 済 的 に は 意 味 が あ る と い う の も 確 か で あ ろ う 。 公 共 投 資 ︵ 例 え ば 高 速 道 路 の 建 設 ︶ は 公 の 財 産 を 増 や し 、 将 来 の 生 産 性 も 高 め る21︵ ︶ 。 将 来 世 代 は 、 今 行 わ れ る 投 資 に よ っ て 便 益 を 得 る の で 、 彼 ら を そ の 償 還 に 関 与 さ せ る こ と も 、 経 済 的 に 必 ず 五 九﹁ ド イ ツ 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ﹃ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹄ の 問 題 点 ︱ 財 政 規 律 の 法 的 性 格 と 公 債 ﹂ 六 〇 し も 不 合 理 な こ と で は な い22︵ ︶ 。 ﹁pay a s y ou use ﹂ の 原 則 か ら す れ ば 、 公 共 投 資 か ら 後 に 便 益 を 得 る 者 は 、 債 務 返 済 に 関 す る コ ス ト に 関 与 さ せ ら れ て し か る べ き と い う こ と に な る︵23 ︶ 。 連 邦 憲 法 裁 判 所 も 、 予 算 運 営 上 の 将 来 の 収 入 の 先 取 り は 、 い ず れ に せ よ 、 将 来 に 便 益 を 供 与 す る 性 格 を 伴 う 支 出 の 範 囲 に お い て の み 許 さ れ る と し て い る︵24 ︶ 。 そ れ に よ り 、 後 年 度 の 予 算 か ら 現 年 度 の 予 算 へ の 財 政 手 段 の 再 配 分 、 あ る い は ﹁ 将 来 世 代 の 負 担 へ の 世 代 間 再 配 分 ﹂ が 果 た さ れ る こ と に も な る︵25 ︶ 。 投 資 が 有 益 で あ り 、 将 来 確 実 に 返 済 で き る 見 通 し が あ り 、 か つ 、 現 在 他 に 財 源 が な い と き に は 、 投 資 的 目 的 の 赤 字 財 政 は む し ろ 望 ま し い と ま で い わ れ る の で あ る︵26 ︶ 。 2. 公 債 の 問 題 点 ︵ 1 ︶ 将 来 世 代 へ の 負 担 問 題 な の は 、 将 来 の 世 代 が 、 償 還 及 び 利 払 い の 負 担 を 負 わ さ れ 、 彼 ら は そ れ を 逃 れ る こ と が で き な い と い う こ と で あ る 。 将 来 の 世 代 が 、 全 く 民 主 的 に は 関 与 し て い な い 投 資 の た め に 支 払 い を し な け れ ば な ら な い 、 つ ま り 、 彼 ら に は 他 人 の 好 み が 押 し 付 け ら れ る の で あ る︵27 ︶ 。 そ れ ど こ ろ か 、 起 債 に よ り 調 達 さ れ た 投 資 財 産 が そ の う ち に 価 値 を 失 い 、 あ る い は ま っ た く 存 在 し な く な る か も し れ な い の に 、 こ の た め に 負 っ た 債 務 だ け が 引 き 続 き 存 在 す る ケ ー ス も 考 え ら れ る 。 む し ろ 、 債 務 が 予 定 通 り に 返 還 さ れ ず 、 借 換 え に よ
西 南 学 院 大 学 法 学 論 集 第 四 四 巻 第 一 号 ︵ 二 〇 一 一 年 九 月 ︶ っ て 更 新 さ れ る こ と も 多 い 。 こ れ に よ っ て 、 ﹁ 世 代 間 の 正 当 な 配 分 ﹂ と い う 理 想 か ら は 遠 く か け 離 れ て し ま う 現 実 も 起 こ り う る の で あ る28︵ ︶ 。 さ ら に 、 資 本 市 場 に お け る 貯 蓄 と 投 資 の 均 衡 は 、 金 利 を 通 じ て も た ら さ れ る が 、 国 が 一 定 以 上 の 起 債 を 必 要 と す る 場 合 、 均 衡 の た め に は 金 利 は 上 昇 す る 。 こ れ に よ り 民 間 投 資 は 減 少 し 、 消 費 の 減 少 を も た ら す 。 反 対 に 、 公 債 を 購 入 す る 預 金 者 は 、 他 の 納 税 者 の コ ス ト で 、 金 利 上 昇 に よ る 利 益 を 得 る 。 彼 ら は 一 般 に 富 裕 で あ り 、 ﹁ 下 か ら 上 へ の 再 配 分 ﹂ に な っ て し ま う と い う の で あ る29︵ ︶ 。 ︵ 2 ︶ 利 払 い の 負 担 債 務 が 増 大 す れ ば 、 当 然 、 利 払 い の 負 担 が 重 く の し か か る 。 ド イ ツ の 連 邦 予 算 に お い て は 、 一 九 九 〇 年 度 の 利 払 い 支 出 一 七 五 億 ユ ー ロ か ら 、 一 九 九 九 年 は 四 一 一 億 ユ ー ロ へ と 倍 増 し て い る 。 二 〇 〇 七 年 度 予 算 を 例 に と れ ば 、 利 払 い は 三 九 三 億 ユ ー ロ で 、 支 出 項 目 と し て は 社 会 保 障 に 次 い で 二 番 目 、 租 税 収 入 の 約 一 八 % に も な る 。 債 務 が 多 額 で あ れ ば 、 常 に 金 利 変 動 の リ ス ク と 隣 り 合 わ せ と な る 。 連 邦 は 、 満 期 を 迎 え る 債 務 の 償 還 の 財 源 を 調 達 す る た め に 、 毎 年 、 二 〇 〇 〇 億 ユ ー ロ 以 上 の 規 模 に お い て 新 た な 起 債 を 行 わ な け れ ば な ら ず 、 常 に こ の リ ス ク に さ ら さ れ て い る 。 特 に 、 低 金 利 の 債 務 が 借 り 換 え ら れ な け れ ば な ら な い と き に 、 状 況 次 第 で は 、 こ の 問 題 は 一 気 に 深 刻 化 し う る30︵ ︶ 。 利 払 い の 増 大 は 、 将 来 重 要 な 分 野 へ の 投 資 を も 阻 む 。 ド イ ツ に お い て 、 支 出 に お け る 投 資 の 割 合 は 、 九 〇 年 代 以 降 、 明 ら か に 後 退 し 、 二 〇 〇 〇 年 以 降 は 一 〇 % 以 下 の 低 い 水 準 に と ど ま っ て い る 。 ま た 、 二 〇 〇 七 年 度 を 例 に と る と 、 利 払 い 支 出 は 投 資 支 出 を 約 六 四 % 上 回 っ て い る 。 こ の こ と か ら も 、 投 資 の た め の 債 務 の 利 払 い が 、 新 た な 投 資 の 足 か せ と な っ て い る こ と が 六 一
﹁ ド イ ツ 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ﹃ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹄ の 問 題 点 ︱ 財 政 規 律 の 法 的 性 格 と 公 債 ﹂ 六 二 わ か る31︵ ︶ 。 長 期 的 な 比 較 に お い て も 一 九 七 五 年 か ら 二 〇 一 〇 年 ま で の 利 払 い の 合 計 は 約 八 五 〇 〇 億 ユ ー ロ で 、 同 じ 期 間 の 起 債 総 額 約 八 〇 〇 〇 億 ユ ー ロ を 上 回 っ て い る 。 本 来 、 予 算 運 営 上 の や り く り を 柔 軟 に す る た め の 起 債 が 、 逆 に 予 算 を 硬 直 化 さ せ て し ま っ て い る の で あ る 。 3. 公 債 と 法 的 規 律 公 債 の 発 行 は 、 一 般 に 、 こ れ を し な け れ ば 増 税 又 は 支 出 削 減 を 強 い ら れ る 状 況 に お い て 行 わ れ る 。 増 税 も 支 出 削 減 も 行 わ ず 予 算 均 衡 を 容 易 に す る の で あ る か ら 、 予 算 ・ 財 政 政 策 の 手 段 と し て は 魅 力 的 で あ る33︵ ︶ 。 政 治 家 に と っ て も 、 予 算 の 不 足 が 生 じ た と き 、 増 税 に よ る よ り も 、 公 債 で 補 填 す る 方 が は る か に 好 都 合 で あ る 。 公 債 に よ っ て 中 ・ 長 期 的 に 生 じ る 負 担 は 、 増 税 と 比 べ れ ば 、 有 権 者 の 投 票 行 動 に は 直 接 の 影 響 を 及 ぼ さ な い と 考 え ら れ る か ら で あ る︵34 ︶ 。 そ れ ど こ ろ か 、 再 選 を 目 指 す 政 治 家 と し て は 、 ﹁ 将 来 の コ ス ト ﹂ に つ い て 自 ら を ﹁ 気 前 良 く ﹂ 見 せ る た め に 、 公 債 が も つ ﹁ タ イ ム マ シ ン ﹂ の 特 性 を 利 用 し 尽 く そ う と し 、 有 権 者 も ま た そ の 誘 惑 に 負 け 、 将 来 の 負 担 に 目 を つ ぶ り が ち で あ る と い わ れ る の も 否 定 し 難 い と こ ろ で あ ろ う35︵ ︶ 。 こ の よ う な 背 景 が あ る に し て も 、 現 実 に 、 基 本 法 旧 一 一 五 条 は 、 連 邦 予 算 に 債 務 の 基 礎 が 作 ら れ 続 け る の を 阻 止 す る こ と が で き ず 、 利 払 い 支 出 の 増 大 、 支 出 構 造 の 悪 化 並 び に そ こ か ら 生 じ る 行 為 の 余 地 の 狭 小 化 を も た ら し た︵36 ︶ 。 基 本 法 旧 一 一 五 条 一 項 は 、 起 債 に 制 約 を 課 す 条 文 で あ る 。 し か し 、 実 際 に は 、 新 た な 起 債 が 間 断 な く 重 ね ら れ て き た 。 も し 、 将 来 へ の 負 担 の 引 き 延 ば し を 回 避 し 、 後 世 代 の 負 担 軽 減 を 図 る こ と が 望 ま れ る な ら ば 、 も っ と も 重 要 な の は 、 い う ま で も な く 、 現 世 代 の 自 制
西 南 学 院 大 学 法 学 論 集 第 四 四 巻 第 一 号 ︵ 二 〇 一 一 年 九 月 ︶ で あ る︵37 ︶ 。 し か し 、 そ れ が 保 証 さ れ な い な ら 、 基 本 法 旧 一 一 五 条 が な ぜ 予 算 実 務 に お い て 機 能 し な か っ た の か 、 そ の 原 因 を 探 り 、 法 的 規 律 の 再 検 討 を 通 じ て 、 債 務 制 御 機 能 の 改 善 を 目 指 す 必 要 が あ る 。
三.
﹁
ゴ
ー
ル
デ
ン
・
ル
ー
ル
﹂
の
問
題
点
1. ﹁ 投 資 ﹂ 概 念 の 広 さ 基 本 法 旧 一 一 五 条 一 項 二 文 に お い て は 、 ﹁ 投 資 ﹂ が 起 債 を 許 さ れ る 上 限 と な る 。 こ の 投 資 概 念 は 連 邦 憲 法 裁 判 所 に よ っ て も ﹁ 広 い ﹂ と さ れ 、 内 容 的 に 限 定 を 施 す 必 要 が 指 摘 さ れ て い た︵38 ︶ 。 こ れ を 受 け 、 立 法 者 は 、 一 九 九 〇 年 に 連 邦 予 算 法 ︵BHO ︶ ︵ 39 ︶ 一 三 条 三 項 二 号 を 改 正 し 、 ど の よ う な 支 出 が 投 資 の た め の 支 出 と さ れ る か 具 体 的 に 規 定 す る こ と に よ っ て 、 こ れ に 応 え た︵40 ︶ 。 し か し 、 そ れ は 、 す で に 当 時 妥 当 し て い た ﹁ 投 資 支 出 の 経 済 的 用 途 の た め の 分 類 別 予 算 ︵Gruppierungsplan ︶ ﹂ を 条 文 化 す る に と ど ま っ た も の で あ り 、 立 法 者 に は 、 憲 法 上 の 起 債 制 限 の 趣 旨 に 沿 っ て 規 律 を 厳 格 化 し よ う と の 意 識 は 希 薄 で あ っ た と い わ れ る︵41 ︶ 。 そ の 結 果 、 投 資 概 念 は 、 依 然 と し て 広 い ま ま 、 次 の よ う な 弱 点 や 、 あ い ま い さ を 残 し た 。 ま ず 、 B H O 一 三 条 三 項 二 号 と の 関 係 に お い て 、 基 本 法 旧 一 一 五 条 一 項 二 文 の 起 債 制 限 を 設 定 す る の は 、 一 般 に ﹁ 総 投 資 ︵Bruttoinvestition ︶ ﹂ で あ る と 解 さ れ て い た 。 し か し 、 基 本 法 が ﹁ 投 資 ﹂ を 基 準 に 設 定 し た の は 国 の 財 産 価 値 の 増 大 に 着 目 し 六 三﹁ ド イ ツ 基 本 法 一 一 五 条 旧 規 定 ﹃ ゴ ー ル デ ン ・ ル ー ル ﹄ の 問 題 点 ︱ 財 政 規 律 の 法 的 性 格 と 公 債 ﹂ 六 四 て の こ と で あ る か ら 、 正 し く は そ れ を 表 す ﹁ 純 資 産 ︵Nettoinvestition ︶ ﹂ を 基 準 と す べ き で あ る と い う 主 張 が な さ れ た42︵ ︶ 。 そ れ に よ れ ば 、 例 え ば 、 高 速 道 路 の 維 持 修 繕 費 用 な ど 、 価 値 を 維 持 す る た め の 経 費 や 補 填 投 資 ︵Ersatzinvestitution ︶ は ﹁ 投 資 ﹂ か ら 除 か れ る べ き こ と に な る 。 し か し 、 実 際 に は 、 道 路 の 減 価 償 却 や 価 値 の 減 耗 分 も ﹁ 投 資 ﹂ の 際 に は 考 慮 さ れ ず 、 道 路 の 修 繕 も ﹁ 建 設 事 業 ︵Bauma ß nahme ︶ ﹂ ︵ B H O 一 三 条 三 項 二 号 a ︶ と み な さ れ 、 ﹁ 投 資 ﹂ と し て 計 算 さ れ た︵43 ︶ 。 ま た 、 動 産 、 不 動 産 の 取 得 も 、 社 会 的 に は 売 却 側 の ﹁ 負 の 投 資 ︵Desinvestition ︶ ﹂ と 相 殺 さ れ る な ど の 性 質 を も っ て い た が 、 全 額 ﹁ 投 資 ﹂ と し て 計 算 さ れ た ︵ B H O 一 三 条 三 項 二 号 b 、 c ︶ 。 こ れ に 対 し て 資 産 の 売 却 は︵44 ︶ 、 予 算 の 収 入 に 組 み 込 ま れ る 場 合 で も 、 そ の 金 額 を ﹁ 投 資 ﹂ 支 出 に 充 て る と い う 考 え 方 は と ら れ な か っ た︵45 ︶ 。 こ の 資 産 が 購 入 時 ﹁ 投 資 ﹂ で あ っ た と す れ ば 、 売 却 し て 収 益 が 得 ら れ れ ば 、 そ の 分 ﹁ 投 資 ﹂ か ら 差 し 引 く 、 あ る い は 売 却 は 、 資 産 そ の も の 及 び そ こ か ら 得 ら れ る 将 来 の 収 入 の 可 能 性 を 永 続 的 に 放 棄 す る 行 為 で あ る か ら 、 ﹁ 投 資 ﹂ の 観 点 か ら は マ イ ナ ス で あ り 、 ﹁ 負 の 投 資 ﹂ と し て ﹁ 投 資 ﹂ 額 か ら 差 し 引 く べ き 、 と い う 批 判 も な さ れ て い た︵46 ︶ 。 し か し 、 実 際 に は ﹁ 投 資 ﹂ に 充 て ら れ る こ と は な か っ た 。 2. 例 外 規 定 の 不 明 確 さ 基 本 法 旧 一 一 五 条 一 項 二 文 で 起 債 が 例 外 的 に 認 め ら れ る 場 合 の ﹁ 経 済 全 体 の 均 衡 の か く 乱 ﹂ 概 念 が 不 明 確 で あ る こ と も 問 題 と さ れ た 。 現 に 、 ﹁ か く 乱 ﹂ 状 況 は 、 一 九 九 一 年 以 降 、 八 予 算 年 度 に お い て ﹁ 生 じ ﹂ 、 こ れ は ド イ ツ に お い て も ﹁ 例 外 が 通 例 ﹂ ︵ 47 ︶ と い わ れ る ほ ど の 頻 度 で 、 し か も 、 ど の 年 度 も 必 ず し も 説 得 的 な 根 拠 づ け は な さ れ て い な い と 評 さ れ て い る︵48 ︶ 。 こ の よ う な