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第4章 アメリカ合衆国

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第4章

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アメリカの地方税財政制度 [ 目 次 ] (1)地方行政制度等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・371 ① 連邦政府・州政府・地方政府の行政機構・・・・・・・・・・・・・・・371 ② 連邦政府の州政府の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・376 ③ 州政府と地方政府の関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・377 ④ 住民の行政参画と財政に与える影響(住民提案と住民投票) ・・・・・377 ⑤ 地方政府の所掌事務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・379 (2)地方の財政状況等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・381 ① 連邦と州・地方政府の財政状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・381 ② 州・地方政府の歳入・歳出概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・385 (3)地方税制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・389 ① 州の課税権と連邦による制限事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・389 ② 税目構成と州・地方政府の税収比較・・・・・・・・・・・・・・・・・390 ③ 主な州税・地方税の全体的特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・392 ④ 主な州税・地方税の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・394 (a)小売売上税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・394 (b)個人所得税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・395 (c)法人所得税とフランチャイズ・タックス・・・・・・・・・・・・・・396 (d)財産税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・397 (e)その他の税・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・399 ⑤ 主要地方税の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・402 ⑥ 連邦による州・地方税減税補填・・・・・・・・・・・・・・・・・・・403 【参考1】連邦・州間、州・州間の課税権をめぐる論争・・・・・・・・・・404 【参考2】連邦税の構成とその概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・409 (4)交付金・補助金制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・413 ① 法的根拠・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・414 ② 連邦補助制度の運営・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・414

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③ 連邦予算と州・地方政府向け補助金・・・・・・・・・・・・・・・・・414 ④ 連邦補助プログラムの分類方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・418 【参考】連邦から地方への一般交付金・・・・・・・・・・・・・・・・・・418 ⑤ 連邦から州・地方政府向けの特定補助金の概要・・・・・・・・・・・・419 (a)総額決定方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・419 (b)配分方式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・420 (c)連邦補助率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・424 (d)支出水準の強制方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・424 (e)連邦議会の補助プログラムの管理・・・・・・・・・・・・・・・・・427 (f)連邦補助制度の問題点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・428 【参考1】マンデイト問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・428 【参考2】地方間の交付金・補助金の概要・・・・・・・・・・・・・・・・429 【ニューヨークの連邦補助制度の実運用】 ・・・・・・・・・・・431 (5)地方債制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・434 ① 地方債の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・434 (a)長期債・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・434 (b)短期債・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・435 (c)発行状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・436 ② 発行に関する規制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・438 ③ 発行と地方債の引き受け主体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・438 ④ 流通・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・439 ⑤ ニューヨーク市の地方債制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・439 【参考1】財政規律・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・442 ① 州の財政均衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・443 ② 地方政府の財政均衡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・445 【参考2】地方政府の破産・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・446 (付録)アメリカ地方税財政関係データ等・・・・・・・・・・・・・・・・・449 【参考文献】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 471

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(1)地方行政制度等 ① 連邦政府・州政府・地方政府の行政機構 アメリカは連邦制を採用する国家であり、それぞれが主権を持つ 50 の州から成り立 っている。地方政府は各州の「創造物」とされ、それぞれの州が自州の地方自治制度に ついて州憲法または州法で規定しているため、地方自治の権限を享受する地方政府の種 類、および地方政府の自治権の範囲、行財政上の役割は州によって異なる。ここでは、 まず各レベルの政府に関する規定または根拠法制を確認した上で各レベルの政府の行政 制度および政府間の関係を見ていく。 (a)連邦政府と州・地方政府の根拠規定 連邦政府と州政府は連邦憲法にその根拠規定を持ち、地方政府は州憲法または州法 にその根拠を持つ。連邦憲法上、連邦政府の役割は限定列挙されるとともに、限定さ れた以外の権限については「(一定の権限を連邦政府に付与するけれども)その他の機 能は全て州政府に帰属する」と考えられている。また、連邦憲法には連邦政府の財政 上の権限についても規定されており、これには、「課税権の授与(Granting of Taxing Power)」、「画一性の原則(Uniformity Rule)」、「配分の原則(Apportionment Rule)」、 「輸出税の禁止」などがある1

1 以下の記述は山崎正「米国の地方財政」(1989)による。 ⅰ 課税権の授与(Granting of Taxing Power)

連邦憲法第 1 条第 8 節第 1 項には「合衆国の支払い、共同の防衛および一般福祉(General Welfare) のための租税(Tax)、関税(Duty)、輸入税(Impost)および消費税(Excise)を賦課徴収すること」 という一般的な課税権の授与(Granting of Taxing Power)の規定がある。この規定は同時に支出 権を規定しており「一般の福祉」のための課税権が認められたことにより国防や司法行政ばかりで はなく、州・地方政府に対する(補助金などの)支出権も認められる根拠となっている。 ⅱ 画一性の原則(Uniformity Rule) これは上記ⅰの課税権と支出権の限度を設定している連邦憲法第 1 条第 8 節第 1 項の但し書き部 分「全ての関税、輸入税および消費税(個別間接税)は合衆国を通じて画一的であることを要する」 を指す。この原則は連邦の租税体系に大きな影響を与えてきており、居住権とは無関係に、同一地 位の納税者を同一に扱わなければならないという公正な制度の発展に寄与してきた。 ⅲ 配分の原則(Apportionment Rule) 配分原則とは、連邦憲法第 1 条第 9 節第 4 項に規定する「人頭税その他の直接税は第 2 節第 3 項 に規定する調査または算定に基づく割合によるのでなければ、賦課することはできない。」を指す。 第 2 節第 3 項とは「直接税は、連邦に加入する人口に比例して各州に配分される。各州の人口とは、 自由人の総数をとり、この中には服役者を含み、納税義務のないインディアンを除外し、それに自 由人の全ての人数の3/5を加えたものとする」という内容であり、この規定により連邦政府は直 接税の賦課を行えなかった。(1913 年の修正 16 条により所得税については認められる。) ⅳ 輸出税の禁止 連邦憲法第 1 条第 9 節第 5 項に「各州から輸出される物品には、租税または関税を賦課すること ができない」という規定があるが、現代ではそれほど重要な意味はもたない。

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(b)連邦政府

連邦政府は三権分立の原則に則り、行政府、立法府、司法府の三つの組織からなっ ており、相互にチェックアンドバランスの機能を果たす仕組みとなっている。行政府 の基本機能は合衆国の法律の執行にあたることであり、大統領、副大統領、大統領府 の 11 機関(Executive Office of President)、14 の省(Cabinet Department)、多くの 独立政府機関(Independent Agency)からなる。立法府は上・下両院に分かれ、議員 数、それぞれの役割、責務について連邦憲法に規定されている。大統領には法案の提 出権がないが、一方で大統領は拒否権を有している。なお、大統領により拒否された 場合でも、議会は2/3以上の多数を持って大統領の拒否を覆すことが可能である。 司法府は、連邦の最高法規である連邦憲法および連邦法の解釈を行う機構であり「司 法審査権」(日本の違憲立法審査権に相当)を持っている。連邦最高裁判所の判事につ いては大統領に指名権限があるが、上院本会議の承認を必要とする。 【参考】連邦の行政機構には連邦と州・地方政府の間の財政問題を調整する機関が存在 しない。かつてUS.ACIR(Advisory Commission on Intergovernmental Relations)という委員会が存在したが 1996 年に廃止されている1 (c)州政府2 各州の基本的な仕組みはそれぞれの州憲法に定められているが、連邦と同様に三権 分立の原則に基づく政府形態をとり、行政府、立法府、司法府に分かれているという 点は共通している。州の役割はきわめて広く住民に対する基本的な行政責任は州が有 するとされるが、実際のところは、道路、学校、保健、都市開発、農業助成などにつ いては、連邦補助を通し、また地方政府とも協同して財源負担をしている。 州の行政府は、住民から直接選挙で選出される知事、副知事、知事の施策を実施す るための職(州務長官、法務長官、財務長官、収入役など)および各種の行政委員会 の長で構成される。州知事は議会が通過させた法案に対する拒否権を持つ。州の司法 府は、連邦の司法府とは独立した裁判所制度を持ち、その制度は州憲法に定められて 1 http://www.library.unt.edu/gpo/ACIR/acirhist.html 2 州、地方政府に関する記述は、自治体国際化協会「米国の地方公共団体の種類と機能」(1990)、片岡 寛光他編「アメリカの政治」などによる。

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いる。州の裁判所の裁判官は選挙によって直接選挙されることが一般的であり、刑事、 民事にかかわらず陪審制度が導入されていることが特徴である。州の裁判所の役割は、 一般に州・地方政府の定める法令に関する事件を扱うことであり連邦裁判所との重複 はない。なお、州の裁判制度の経費は州の財政でカバーし、法廷収入は州財政へ還元 される。 (d)地方政府とその区分 地方政府についてはそれぞれの州憲法などにおいて、その創設の手続きから種類、 権限まで規定されている。一般的には、州議会の承認により地方政府が設立されると ともに、その組織、権限などを定めた憲章(Charter)が与えられる。 地方政府(1997 年現在)は、カウンティが 3,043、ミュニシパリティが 19,372、タ ウン・タウンシップが 16,629、特別区が 34,683、教育区が 13,726 と多く、その変遷 をみるとカウンティやミュニシパリティの数は殆ど変更なく、教育区が減少し特別区 が増加していることがわかる。 図4-1-1 地方政府数の変遷 地方政府数の遷移(1942-1997) 1942 1952 1962 1972 1982 1992 1997 カウンティ 3,050 3,052 3,043 3,044 3,041 3,043 2,043 ミュニシパリティ 16,220 16,807 18,000 18,517 19,076 19,279 19,372 タウンシップ・タウン 18,919 17,202 17,142 16,991 16,734 16,656 16,629 学校区 108,579 67,355 34,678 15,781 14,851 14,422 13,726 特別区 8,299 12,340 18,323 23,885 28,078 31,555 34,693

出典:Statistical Abstract 2000 No.490

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 1942 1952 1962 1972 1982 1992 1997 カウンティ カウンティカウンティ カウンティ ミュニシパリティミュニシパリティミュニシパリティミュニシパリティ タウンシップ・タウンタウンシップ・タウンタウンシップ・タウンタウンシップ・タウン 学校区学校区学校区学校区 特別区特別区特別区特別区

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ⅰ カウンティ(County) 歴史的には州の行政事務を地区ごとに代理して取り扱う団体として設立された政 治区画であり、コネチカット州とロードアイランド州を除く全ての州に存在する。 州の地域全体を区割りして設立された場合が多く、一般的にその区域の中にシティ やタウンなどを含んでいる。また、ミュニシパリティ(ⅱ参照)の存在しない地域 も存在しており、そのような地域ではカウンティは行政上の重要な役割を占める。 立法権・行政権を併せ持つカウンティボード(County Board)という合議制理事会 で運営される場合が多く、その理事は公選で選出される。 ⅱ ミュニシパリティ(Municipality) 一般的に独自の自治権能を認められた広範な行政事務を行う地方政府であり、地 域住民の政治的責任に基礎を置き、住民自らの要請で設立される団体である(呼称 はシティ、タウン、ビレッジなどざまざまである)。ミュニシパリティの半数以上は 人口 1,000 人未満と小規模な団体である。州政府に対して法人化要請を行うことに より、州政府から憲章(Charter)を与えられる形で成立する。制度的にはホーム ルール(後述)と呼ばれる自治権を認めた憲章を自ら定め持つ場合や州憲法にこの ような政府に対しホームルールを認める条項が規定されている場合があるが、憲章 は複数種あり憲章によりその権限などが異なる。 行政システムは公選の首長と議員が相互にチェックしあう大統領制型であり、首 長議会型(Strong-Mayor 型と Weak-Mayor 型)、委員会型、議会支配人型等に分 類される。議会支配人型の場合、議会が専門家支配人(Manager)を指名し、支配 人は議会に責任を負う形で行政を執行する。人口 5,000 人以上の都市の 4 割はこの 形を採用しており、平均の任期は 7 年と長い。支配人は公選ではないが、実際には 政策立案に関わることも多い。 ⅲ タウン・タウンシップ(Town・Township) ・タウン ニューイングランド地方では、植民地時代から大小さまざまなコミュニティが形 成されたが、他の区域とは異なり、広域的なカウンティが創設されることが少なか

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った。このコミュニティを基盤とした町では、直接民主主義の原理によって町総会 (Town Meeting)が運営され、全ての有権者が出席して町の重要事項はこの総会 で決定される。現在ではカウンティの区域がタウンに分割されている場合が多い。 ・タウンシップ 歴史的に住民自らの要請で地方政府となったものではなく、州政府によって創設 された団体であり、州に従属する度合いが強い。行政権限についても、一般に所掌 事務は限定(道路橋梁の建設・維持管理、教育、治安の維持など)されていた場合 が多く、現在では、ミュニシパリティやカウンティにその役割を取って代わられ、 その役割は後退してきている。

ⅴ 教育区、特別区(Special District, School District)

単一(教育、下水道、公園管理など)または複数(上・下水道など)の行政目的 のためだけに設立される地方政府であり、他の自治体から財政的にも独立してその 事務を行う。既存の地方政府の地理的、政治的領域にとらわれず設置することがで き、その数は増加している。特別区は州法に基づき設置することもできるが、住民 意思(一定数の請願)によって住民投票で設立される場合もある。公選の政府機関 図4-1-2 ミュニシパリティ(シティ)の議会と首長 市長・市議会制度 市長 部局長の任命 予算編成権 議決への拒否権 市議会 条例制定 税率、予算案審議 委員会制 数名のコミッショナー 直接選挙 (Commission System) うち1名が市長となる。 立法権と行政権を併せて行使する 市支配人制度 市支配人 大学の特定コース終了が要件。 (市支配人協会に登録する) 議会に支配人の任命権・罷免権あり。 行政部の長として行政権をもつ 議会 立法権の行使 市議会議員は直接公選制。 うちひとりが議長を勤めるほか 市長として市を代表する (出典) Municipal Year Book 2000より

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をもち、サービス提供を行うための財源を得るために課税権・起債権を保有する。 運営組織形態はさまざまだが、住民公選またはカウンティ理事会などの任命による 理事からなる理事会(数名程度)が多い。教育区の場合は教育委員会などがその任 にあたる。 ② 連邦政府と州政府の関係(財政上の制限事項) 州は連邦憲法の改正権を有する連邦の構成員1として、連邦と州の二重主権(Dual Sovereignty)の下にある。連邦政府が課税するためには連邦憲法の規定または連邦裁判 所の憲法規定解釈によらなければならず、課税権は州政府に留保されている。但し、連 邦憲法は州政府に対して次のような制限を課している2 (a)輸出入税の禁止 連邦憲法第1条第 10 節第2項は「各州はその検査法の施行のために絶対に必要な 場合を除き、連邦議会の同意を得ずに、輸入または輸出に対し、輸入税または輸出税 を賦課することはできない。各州によって輸出入に賦課された輸出入税の純収入は合 衆国国庫の用途に充当される。」と規定しており、州政府は輸出入に課税することはで きない。 (b)正当な法の手続き 連邦憲法修正 16 条は、「いかなる州といえども、正当な法の手続きによらずに、何 人からも生命、自由財産を奪ってはならない。その管轄内にある何人に対しても法律 の平等な保護を拒むことができない」と規定している。この条項は、納税者の区分に 応じた差別的取り扱いをする場合の限度を定めていると解されている。

(c)通商条項による制約(Commerce Clause Restriction)

連邦憲法第 1 条第 8 節第 3 項の「外国、各州間およびインディアン部族との通商を 規制することは連邦議会の権限に属する」という規定は、州の課税権により外国通商

1 連邦憲法第 5 条に規定されている。

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および州際通商(Interstate Commerce)に干渉するのを禁止するものであると従来 から解釈されている。 ③ 州政府と地方政府の関係 1868 年にジョン.F.ディロン判事が「地方政府(ミュニシパルコーポレーション)は その起源も、その権限および権利も、州議会に負い、そこに由来する」とした上で、地 方政府の権限に関して「地方政府が明確に許可された権限、具体的に明示された権限、 地方政府の運営にとって不可欠な権限についてはこれを遂行できる。」と判決して以来、 地方政府は「州の創造物」であるとされる。この判決により、州政府と地方政府と権限 に関する訴訟においては、権限の表現に少しでも不確かな点がある場合には,常に州の統 制に有利なように解決される。 したがって、憲法上の規定がない場合には地方政府は州の完全な統制に服さなければ ならないこととなるが、こうした制約のなかで、地方政府は、州政府などからの統制を 最小限にとどめ地方自治を実現するための手段として、ホームルールを活用してきた。 ホームルールを採用する地方政府は、自ら憲章を作成しこれを採択あるいは改正し、 また条例制定や法的効力を伴う行政上の意思決定をなす権限を有する。こうしたホーム ルールにより地方政府は組織面や人事面などについて自治権は認められているものの、 財政面については、州の憲法または法律による授権がない限り、地方政府は税や料金・ 手数料を徴収することはできず、また支出権や起債についても州により細かく管理され ている1。 ④ 住民の行政参画と財政に与える影響(住民提案と住民投票)2 州政府は住民に対して住民提案(イニシアティブ)と住民投票(レファレンダム)の 権利を与えていることが多い。住民提案(イニシアティブ)は間接民主主義制度を補完 する直接民主主義的要素をもった制度であり、逆に住民投票(レファレンダム)は議会 が可決した条文に対して住民が可否の判断を行うものであるが、この制度がどのように 州・地方財政に影響を与えているか、カリフォルニア州の住民提案(イニシアティブ) 1 ホームルールに関する記述は、自治体国際化協会「アメリカにおけるホームルール」(1999)による。 2 この項の記述は「カリフォルニア州プロポジション 13 のその後と住民投票の功罪」羽生雄一郎 地 方税 99 年 12 月号による。

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制度を例として取り上げ、その内容をみておく。 住民投票を提案する場合、提案者は自ら提案する法律や憲法改正の条文案を起案し、 25 人以上の有権者の署名とともに住民投票にかけたい内容を州法制局に提出すること により、条文案作成の手助けを受けることができる。 次に条文案は州司法長官(Attorney General)に 200 ドルの登録料とともに提出され る。これを受け取った司法長官オフィスは住民投票案に関する公式の「サマリー(要約)」 を作成し、提案者、州議会および州務長官(Secretary of State)に送付する。提案内容 が、州予算に影響のある場合には、司法長官が州の予算担当部局などと協議の上、その 影響額などが付される。 この提案が有効とされるためには、公式サマリーが作成された後、150 日以内に法定 の署名数を集めなければならない。法定数は直近の州知事選挙における投票総数の5% である(憲法を修正するような提案の場合は8%を要する)。 法定署名数を集めた住民提案は、131 日以上経過した段階で行われる最初の州レベル の選挙の際に投票に付され、有効投票の過半数を得た場合、そのまま「法律」なり「憲 法改正」として効力をもつことになる。 【参考】プロポジション 13 1978 年にカリフォルニア州で行われた住民投票「プロポジション 13」は住民が地 方税に関して自らの意思を発揮した象徴的な例とされている。「プロポジション 13」 は財産税率の制限、財産評価方法、税制改正手続きに関する規定を行ったものであっ たが、重要なポイントとなったのは、財産税の配分に関する「法の定めるところ」と いうくだりについて州法を指すものと解釈されたことである。住民投票以前、カリフ ォルニア州には財産税の配分に関わる法律がなかった(つまり地方政府が独自に決定 していた)ため、プロポジション 13 の圧倒的多数による可決後、州議会による緊急 立法が行われている1。納税者による税のコントロールを目指した住民投票であったが、 地方政府税に対する州のコントロールの強化を導いたものといえる。このプロポジシ ョン 13 は、「納税者の反乱(Tax Revolt)」として注目を集め、各州への影響がみら 1 カリフォルニア州では、財産税の徴収はカウンティが行うが、州法で規定された配分率によってこ れをカウンティ、シティ、学校区などに再配分する。97-98 年度ではカウンティ 19%、シティ 11%、 学校区 52%、特別区 18%であった。

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れた。 ⑤ 地方政府の所掌事務 (a)基本的な考え方1 連邦憲法により明示的に連邦に付与されたの権限以外の権限は全て州政府に帰属す るとされ、地方政府の統括を含め広範な権限が州に留保されている。こうしたことか ら州政府と地方政府との関係は中央集権的であるといわれるが、歴史的な発生過程を みると、コミュニティの形成が先行し、その基盤の上に州が形成されたという過程を たどっている州が多い。こうした中、各州の憲法、法律は各地方政府の形態を規定し ているが、具体的にそれぞれの地方政府の行う事務内容、権能等についての定めはほ とんどなく、地方政府の行う事務内容、権能等は、ホームルールなどに基づき、それ ぞれの地方政府が決定する仕組みになっている。但し、州政府により、地方政府の社 会的経済的状況に応じ、各地方政府に権限・権能を義務付けること(マンデイト)が 「環境保護」や「福祉」といった分野で一般的に行われている。 (b)地方政府の所掌事務に関する特徴(地方政府の種別の偏重による多様性) 上述のように、地方政府の所掌事務の配分に関しては明確な規定はない上に、州に よって存在する地方政府種別が異なることなどから、地方政府の所掌事務を一概に述 べることは難しい。ただし、一般的にはカウンティ等は以下のような事務を所掌して いる。 カウンティ:公共の安全と秩序の維持、司法機関、一般福祉、道路、農業援助 教育、保健、公園、レクリエーション施設、図書館、ゾーニング等 ミュニシパリティ:上・下水道、保健衛生、道路、警察、消防、教育、福祉、都市 計画、レクリエーション、市営企業、交通 特別区:港湾、下水処理、上水道、公園、橋、トンネル、住宅、空港、図書館等 全体的な特徴としては、州の出先機関としての位置付けであるカウンティは州法な どにより規定された業務を行い、さらに州内のミュニシパリティが存在しない地域の 1 この項の記述は片岡寛光他編「アメリカの政治」による。

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一般行政事務を行うことが挙げられるが、最近では、行政サービスの効率性の観点か ら、カウンティがシティなど一般地方政府の事務を請け負うことも増えている。また 特別区も、複数の行政区域を対象に事務遂行を行っている。 (c)広域行政1 ミュニシパリティの規模は、居住者が 25,000 人未満のものが 83%を占めるように 小規模の団体が多く、都市周辺区域においてはその区域が小規模に分断されているこ とから、行政の効率性が問題となる。 1960 年代以降に生じた大都市問題(アーバンクライシス)と呼ばれる生活環境の悪 化、郊外部への人口流出、および都市周辺部を含めた地域全般にわたる都市化現象に より都市部郊外の人口が増加した。こうした郊外の人口増加により、都市周辺に位置 する地方政府にまで住宅地域が拡大し、政府間の境界で警察や消防権が分断されるこ とに不都合が生じるようになり、広域行政に関する議論が行われるようになっている。 広域行政の実施には、「ミュニシパリティおよびカウンティの統合」、「州やカウンティ などへの行政機能の移行、地方政府間の協定、契約」、「特定の行政事務を行う特別区 や公社の設置」、「地方政府間での広域協議会の設置」等の手法がとられる。 1 この項については自治体国際化協会「米国における広域行政について」(1992)を参考にした。

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(2)地方の財政状況等 (2)地方の財政状況等 (2)地方の財政状況等 (2)地方の財政状況等 州・地方政府の財政状況について、まず連邦と州・地方政府の合計を対比し、その後、 州政府・地方政府別に歳入・歳出の状況を確認する。 ① 連邦と州・地方政府の財政状況 (a)歳出規模 OECD 資料によると、連邦政府と州・地方政府の財政規模は、対GDP比で連邦政 府 11.6%、州・地方政府 14.7%(1997 年)であり、州・地方政府の占める割合が大 きい。内訳は両レベルの政府とも最終消費支出とその他の割合が大きくなっており、 わが国との比較では、連邦、州・地方のいずれの政府レベルにおいても、総公的資本 形成の割合が日本よりも少ないことがわかる。 米国商務省センサス局の資料によると、歳出合計ベースでは連邦政府が 1 兆 7,054 億ドル、州・地方政府合計が 1 兆 3,976 億ドルであり、連邦政府のほうが大きいが、 政府間移転(=補助金)を除いた直接歳出ベースでみると、連邦 1 兆 4,721 億ドル、 州・地方政府合計 1 兆 3,937 億ドルとほぼ1対1である。経常支出と資本支出の割合 で見ると、連邦政府では経常支出が 28.5%、資本支出が 4.4%1であるのに対し、州・

1 経常支出(Current Operation)、資本支出(Capital Outlay)のほかに、政府間移転を除いた個人や外 国向けの現金援助などを指す補助金・援助金(Assistance and Subsidies)や公債利息支払い(Interest on debt)、保険信託支出(Insurance Trust Expenditure)がある。

図4-2-1(1) 政府歳出のGDP比 (注)アメリカ1997年、日本平成10年度 (出典)国民経済計算年報H12、OECD National Account 1999より作成 9.3% 15.4% 11.6% 14.7% 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 日本 アメリカ 連邦 州・地方

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図4-2-1(2) GDPに占める公的部門の割合 (注)アメリカ1997年、日本平成10年度 (出典)国民経済計算年報H12、OECD National Account 1999より作成 2.4% 1.1% 7.6% 4.9% 5.7% 0.2% 9.5% 1.7% 0.0% 2.0% 4.0% 6.0% 8.0% 10.0% 12.0% 14.0% 16.0% 18.0% 日本 アメリカ 最終消費支出(国) 総公的資本形成(国) 最終消費支出(州・地方) 総公的資本形成(地方) 地方(11.2%) 地方(12.5%) 図4-2-2(1) 連邦と州・地方政府の歳出比較(1996年度) (出典)Statictics Abstract 2000 TBL No 494 図4-2-2(2) 性質別分類(1996年度) 1,472,097 233,389 1,393,714 3,920 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000 連邦政府 連邦政府 連邦政府 連邦政府 州・地方計 州・地方計州・地方計 州・地方計 直接歳出 政府間歳出 486,041 74,648 119,892 233,225 558,291 1,021,155 158,911 36,154 68,743 108,751 0 500,000 1,000,000 1,500,000 連邦政府 連邦政府 連邦政府 連邦政府 州・地方計 州・地方計 州・地方計 州・地方計 経常支出 資本支出 援助金・補助金 公債利息 保険給付、償還 単位:100万ドル 単位 100万ドル

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地方政府合計では経常支出が 73.1%、資本支出が 11.4%と経常支出が多くなっている。 人件費率では連邦政府の 9.5%に比べて、州・地方政府合計で 32%と高い割合になっ ている。 (b)税収構成比 OECD 資料により税収構成(1997 年度)を見ると、連邦政府は個人所得税(72.7%) が最大であり、ついで法人所得税(18.0%)、消費税(7.3%)、資産税等(2.0%)の順 である。州・地方政府の合計では、消費税(42.4%)を筆頭に、資産税等(31.2%)、個 人所得税(21.8%)、法人所得税(4.6%)となっている。租税負担率は連邦税が 15.2% 地方税が 10.9%である。連邦税と州・地方税の比率は、連邦税:地方税=3:2程度 となっている1。 1 社会保障率は 9.7%(1997 年度) 図4-2-3(1) 租税負担率

(出典)OECD Revenue Statistics 、OECD National Accounts 1999等より作成

図4-2-3(2) 税収の構成比

(出典)OECD Revenue Statistics より作成

13.4% 9.2% 15.2% 10.9% 0.0% 3.0% 6.0% 9.0% 12.0% 15.0% 18.0% 21.0% 24.0% 27.0% 日本 (2001年) アメリカ (1997年) 連邦税 州・地方税 72.7% 18.0% 2.0% 7.3% 21.8% 4.6% 31.2% 42.4% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 連邦税 州・地方税 個人所得税 法人所得税 資産税 消費税

(18)

(c)公務員数 公務員数は、連邦が 280 万人1、州・地方政府が 1,670 万人であり、圧倒的に州・ 地方政府の方が多くなっている。これは教育・警察・病院など基本的な行政サービス について地方政府採用となっていることによる。 (d)財政収支、公債発行残高 連邦の財政収支は1998年以降黒字化している。OMB 資料によると、1999 年度は 1.4%の黒字である。州・地方政府計についても 1991 年から 1993 年を除いて黒字基 調であり、1999 年度は 0.5%の黒字である2 また、連邦政府、州・地方政府とも債務残高は増加しているものの、そのGDP比 は減少しており、GDP 比では連邦 57.0%、州・地方政府 12.8%である。経年で見る と、地方債残高は 1994 年−1996 年には減少したが、以降、再び増加傾向である。ま た公債比率(歳出に占める利払い費)は、州政府では3%程度、地方政府は5%強で 推移している。 1 その他に軍人が 144 万人いる。

2 この部分の計数は Budget of the United State Governments FY2001 より作成。ともに社会保障を 含んだ数字である。

図4-2-4 (1) 財政収支の推移

(出典)Budget of the United Government FY2001より作成 -6.0% -6.0%-6.0% -6.0% -5.0% -5.0%-5.0% -5.0% -4.0% -4.0%-4.0% -4.0% -3.0% -3.0%-3.0% -3.0% -2.0% -2.0%-2.0% -2.0% -1.0% -1.0%-1.0% -1.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 1.0% 1.0% 1.0% 1.0% 2.0% 2.0% 2.0% 2.0% 1991 1991 1991 1991 1992199219921992 1993199319931993 1994199419941994 1995199519951995 1996199619961996 1997199719971997 1998199819981998 1999199919991999 GDP比(連邦) GDP比(地方)

(19)

② 州・地方政府の歳入・歳出概要

次に州・地方政府合計について詳細に見てみる。

州・地方政府の歳入を見る場合、大きくは「政府間歳入(Intergovernmental Revenue)」 と「自主財源(Revenue from Own Source)」に分類され、自主財源はさらに「税収(Taxes)」、 「手数料収入(Charges and Miscellaneous)」、「公益事業収入(Utility and Liquor Store Revenue)」、「保険信託収入(Insurance and Trust Revenue)」に分類される。政府間歳 入は他の政府からの移転収入(補助金)を示す。手数料収入は、高速道路、橋梁、リク リエーション施設等の公共サービスの財源として充当される。特定のサービス消費に関 わる直接の価格、政府が提供する一定の施設またはサービスを使用する料金、免許料 (Licenses)または特許料(Franchises)、運賃や通行料(Tolls)などとして徴収され、 その金額は市場原理により決定される。公益事業収入には、水道・電気・ガス・輸送シ ステムなど公益事業のサービスの使用者に課される料金と州営の酒舗におけるアルコー ル飲料の売上である酒舗収入が含まれる。また保険信託収入には、雇用者と被雇用者の 負担金のほか、退職制度(Retirement System)による収入が含まれる。 歳出も歳入と同様に区分がされており、大きく「政府間歳出(Intergovernmental Expenditure)」と「直接支出(Direct Expenditure)」に分類され、直接支出はさらに 「一般支出(General Expenditure)」、「公益事業支出(Utility and Liquor Store Revenue)」、「保険信託支出(Insurance Trust Expenditure)」に分類される。

図4-2-4 (2) 債務残高の推移とそのGDP比

(出典)Bereau of Economic Analysis資料等より作成 0 00 0 1,000 1,0001,000 1,000 2,000 2,0002,000 2,000 3,000 3,0003,000 3,000 4,000 4,0004,000 4,000 5,000 5,0005,000 5,000 6,000 6,0006,000 6,000 7,000 7,0007,000 7,000 8,000 8,0008,000 8,000 1991 1991 1991 1991 1992199219921992 1993199319931993 1994199419941994 1995199519951995 1996199619961996 1997199719971997 1998199819981998 1999199919991999 0% 0% 0% 0% 10% 10% 10% 10% 20% 20% 20% 20% 30% 30% 30% 30% 40% 40% 40% 40% 50% 50% 50% 50% 60% 60% 60% 60% 70% 70% 70% 70% 80% 80% 80% 80% 債務残高(中央) 債務残高(地方) GDP比(中央) GDP比(地方) (1 0 億ドル)

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(a)州政府・地方政府の合計 1997 年度の歳入構成比は、政府間歳入(15.1%)、税収(45.1%)、手数料および雑 収入(19.6%)、公益事業収入(4.7%)、保険信託収入(15.3%)である。この割合は 1990 年対比で見ると、政府間収入で2%増、税収も4%減となっている。1997 年度の歳出 構成比は政府間歳出(0.3%)、一般歳出(85.4%)、公益事業支出(6.8%)、保険信託 支出(7.6%)となっている。この割合は 1990 年対比しても変化はない。 歳出規模を州・地方政府別に比べると、州政府 8,941 億ドル、地方政府は 8,365 億 ドルであり、ほぼ1:1といえる。ただし補助金額を除いた直接歳出ベースでは、州 政府 6,290 億ドル、地方政府 8,278 億ドルと逆転する。 (b)州の歳入・歳出 州の歳入合計は 1 兆 402 億ドルであり、内訳は政府間歳入 2,308 億ドル(22.2%)、 税収 444 億ドル(42.7%)、手数料収入 1,404 億ドル(13.5%)、公益事業収入 73 億 ドル(0.7%)、保険信託収入 2,174 億ドル(20.9%)である。1990 年対比では政府間歳 入が 2%増加し、その分、自主財源比率が低下していることが分かる。 歳出では、政府間歳出 2,650 億ドル(29.6%)、一般支出 5,238 億ドル(58.6%)、 公益事業支出 105 億ドル(1.2%)、保険信託支出 947 億ドル(10.6%)であり、政府 間歳出が約 3 割を占める。一般支出では、公共福祉が 32.0%、教育が 21.3%を占めて いる。直接歳出を性質別に見ると、経常支出が2/3程度を占め、資本支出は 9.5% に過ぎない。また、保険信託給付が 15%強を占めることも特徴である。 (c)地方政府の歳入・歳出 地方政府の歳入合計は 8,478 億ドルであり、政府間歳入 2,870 億ドル(33.7%)、税 収 2,844 億ドル(33.7%)、手数料収入 1,756 億ドル(20.9%)、公益事業収入 709 億 ドル(8.4%)、保険信託収入 299 億ドル(3.3%)である。1990 年対比では政府間歳入 は若干(1%)の増加にとどまっている。地方政府の歳入は州と比較し、政府間歳入 と手数料収入の占める割合が高くなっている。政府間収入の9割程度は州政府からの ものであり、地方政府は州政府財政の影響を大きく受けることが推測される。

(21)

【表:州政府、地方政府の受ける政府間歳入の内訳(1997 年度)】 州政府 地方政府 連邦政府から 2,158 億ドル 288 億ドル 州政府から --- 2,582 億ドル 地方政府から 150 億ドル --- 歳出面では、政府間歳出 82 億ドル(1.0%)、一般支出 6,860 億ドル(86.4%)、公 益事業支出 850 億ドル(10.7%)、保険信託支出 151 億ドル(1.9%)であり、ほぼ全 て一般支出となっている。一般支出では、教育が 37.2%(うち 35.2%は初等中等教育)。 性質別では、経常支出が 8 割弱を占め、資本支出は 12.6%と地方政府よりも大きく、 また、人件費率は 40%を占めていることも特徴である。 州別の地方政府歳入・歳出の状況を見ると、一般歳入に占める州の補助金の割合は 12%−52%、逆に税収の占める割合が 22%−74%と州により様相は異なる。また手数 料収入についても 8%−34%と幅が広い。税収に占める財産税の割合は、地方政府の 種類によって課税権を与えていない州もあることから様々であるが、36%−99%とな っている。この 36%はアラバマ州の数値であるが、当州の場合、小売売上税の占める 比率が 40%と大きくなっている。

(22)

図4-2-6 州政府・地方政府の歳入・歳出構成

 (注)直接支出とは歳出から政府間歳出を除いたものである。

(出典)State and Local Government Finances 1997 Census of Governments; 商務省センサス局ホームページより

州政府 歳入構成比 公益事業 収入 1% 保険信託 収入 21% 手数料及び 雑収入 14% 税 43% 政府間歳入 22% 地方政府 歳入構成比 政府間歳入 34% 税 34% 手数料及び 雑収入 21% 保険信託 収入 4% 公益事業 収入 8% 総額 10,403億ドル 総額 8,478億ドル 州政府 歳出構成比 政府間歳出 30% 一般歳出 59% アルコール事業 ・公益事業 1% 保険信託 支出 11% 地方政府 歳出構成比 一般歳出 87% アルコール事業 ・公益事業 11% 政府間歳出 1% 保険信託 支出 2% 総額 8,366億ドル 総額 8,941億ドル 州政府 直接支出構成比 公債利息 など 4% 保険給付、 償還など 15% 援助金 ・補助金 4% 資本支出 10% 経常支出 68% 地方政府 直接支出構成比 援助金・ 補助金 1% 資本支出 14% 公債利息等 5% 保険給付、 償還など 2% 経常支出 78% 総額 8,278億ドル 総額 6,290億ドル 43.3% 4.5% 8.1% 6.3% 10.5% 11.2% 5.4% 5.0% 5.6% 21.4% 32.0% 10.6% 9.6% 7.4% 4.0% 5.2% 5.0% 4.8% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 地方政府 州政府 一 般 歳 出 の 支 出 分 野 教育 公共福祉 病院・保健 輸送関連 警察・消防・矯正 下水・ごみ処理・住宅 政府行政 利子 その他 総額 7,236億ドル 総額 5,238億ドル 人件費率21.6% 人件費率40.2%

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(3)地方税制度 (3)地方税制度 (3)地方税制度 (3)地方税制度 アメリカ合衆国では各州政府が独自の課税権を有するが、各州はその発展の歴史、政 治・経済、社会・産業構造、資源事情などの特徴を異にするため、それを反映する課税 システムもそれぞれ異なっており統一性を持つものではない。一方、地方政府も州憲法 や州法の許容する範囲内で課税権を有するが、自由度の観点からみると税率、課税ベー ス、税制変更に要する手続き等についてかなりの制限を課されている。アメリカにおい ては、地方政府は公共サービス(警察、消防、教育など)の実施主体であり、財産税は こういったサービスに対する受益者負担(Service Related Tax)の意味合いで課税され るとする「応益課税原則」が浸透しているとされ、その分、税に対する納税者の意識が 高く「住民投票」や「住民提案」といった手法を通して税政策に関する決定プロセスに 住民が直接参加することが多いことも特徴である。 ① 州の課税権と連邦による制限事項1 州は一般的主権(General Domination)を有し、連邦憲法の特別規定による制約など を除いて州内の人・財産および事業取引の全てに対し完全な統治権を有しており、州民 およびその財産のみならず、州内に持ち込まれるあらゆるものに対してその課税権を行 使する、つまり「州の主権(the Sovereign Power of a State)が及ぶものは全て州税の 課税対象である。」とされる。連邦政府は州の課税に関して管理監督することはなく、州 はおよびの両面についてその主権を自由に行使できる。 しかしながら連邦とは全く関係がないというわけではなく、連邦憲法等により制限を 受ける事項として以下のようなものがある2 (a)排他的連邦管轄 連邦憲法第1条第8項第 17 節は「連邦議会は、州の譲与および連邦議会の受領によ り連邦政府の所在地となる特別区に関する全ての事案において排他的な立法権を行使 し、とりで・弾薬庫・兵器所、その他必要な建物のために州議会の承認を得て購入し 1 本項は主に本庄資「アメリカの州税」(1986)による。 2 歴史的には州際通商を巡る論争が交わされてきており、その内容は【参考1】で述べる。

(24)

たすべての場所に関し、類似の権力を行使する権限を有する」としている。州はこの 条項により、連邦管轄地域の課税権を放棄する。 (b)輸出入に関する課税 連邦憲法第1条 10 項2節では「各州はその検査法の施行のために絶対に必要な場 合を除き、連邦議会の同意を得ずに、輸入または輸出に対し、輸入税または輸出税を 賦課することはできない。各州によって輸出入に賦課された輸出入税の純収入は合衆 国国庫の用途に充当される。」とし、関税を禁止している。 (c)正当な法の手続き条項と法の平等な保護条項 連邦憲法修正 14 条第1項では「いかなる州も合衆国市民の特権または免除を奪う 法律を制定または執行してはならない。いかなる州も正当な法の手続き(Due Process of Law)によらず、また、管轄内にある何人に対しても法の下の平等な保護(Equal Protection of Laws)を拒んではならない。」としている。 (d)十分な信頼と信用 連邦憲法第4条第1項では、「各州は他州の公的な法令、記録および司法手続きに対 し、十分な信頼と信用を与えなければならない。連邦議会はこのような法令、記録お よび司法手続きの検認方法および効力を一般法によって定めることが出来る」とされ、 「ある州の他州裁判所における租税請求権の強制執行」および「ある州において言い 渡された租税に関する判決の他州における効力」に対してこの条項が適用される。 各州は相互に独立しているので、ある州がある財産について他州の課税を免除する ことはできない。 (e)連邦機関および証書の扱い 州および連邦は、他州の政府機能の遂行のために必要な財産、証書、機関、職員等 に課税できない。(注:憲法上明文化されていない) ② 税目構成と州・地方政府の税収比較 州政府の税収の内訳は財産税(2%)、個人所得税(32%)、法人税(7%)、小売売

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上税および利用税(33%)、個別間接税(16%)、自動車税および運転免許税(3%)、そ の他(7%)となっており、小売売上税、個人所得税が主な税収源となっている。ただ し、州により特色があり、所得税や小売売上税のないアラスカ州は石油の採掘税、ネバ ダ州はギャンブル税、テキサス州やルイジアナ州、ノースダコタ州、ニューメキシコ州 などは石油採掘税、モンタナ州は石炭採掘税にウェイトがある1。州別の「個人所得 1,000 ドルあたりの全税収額」を見ると、全米平均は 70.40 ドルであるのに対し、ニューメキ シコ州では 107.35 ドル、ニューハンプシャー州では 30.93 ドルとかなりの開きがある。 また、「住民一人あたりの税負担額(98 年度)」でみると、全米平均が 1,762 ドル、最高 はコネチカット州で 2,869 ドル、最低がニューハンプシャーの 851 ドルと 3 倍以上の開 きがある。 地方政府の税収の内訳は、財産税(74%)、個人所得税(5%)、法人税(1%)、小売 売上税および利用税(11%)、個別間接税(5%)などとなっており、財産税が主な税 1 山崎正「米国の地方財政」(1989)による。

図4-3-1 州政府、地方政府の税収構成

 【州政府】  【地方政府】

(出典)State and Local Government Finances 1997 Census of Governments; 商務省センサス局 小売売上税 小売売上税 小売売上税 小売売上税 33.2% 33.2% 33.2% 33.2% 財産税 財産税 財産税 財産税 2.3% 2.3%2.3% 2.3% その他 その他 その他 その他 6.5% 6.5% 6.5% 6.5% 法人所得税 法人所得税 法人所得税 法人所得税 6.9% 6.9% 6.9% 6.9% 自動車免許税 自動車免許税自動車免許税 自動車免許税 2.9% 2.9%2.9% 2.9% 個人所得税 個人所得税個人所得税 個人所得税 32.6% 32.6%32.6% 32.6% 個別間接税個別間接税個別間接税個別間接税 15.5% 15.5%15.5% 15.5% 財産税 財産税財産税 財産税 73.3% 73.3%73.3% 73.3% その他 その他 その他 その他 4.3% 4.3%4.3% 4.3% 法人所得税 法人所得税法人所得税 法人所得税 1.1% 1.1%1.1% 1.1% 自動車免許税 自動車免許税 自動車免許税 自動車免許税 0.4% 0.4% 0.4% 0.4% 個人所得税 個人所得税個人所得税 個人所得税 5.0% 5.0% 5.0% 5.0% 個別間接税 個別間接税 個別間接税 個別間接税 4.9% 4.9% 4.9% 4.9% 小売売上税 小売売上税小売売上税 小売売上税 11.0% 11.0%11.0% 11.0% 総額 4442億ドル 総額 2844億ドル

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収源となっていることがわかる。ただし、構成比が少ない法人・個人の所得税について は地方政府の課税権を認められている総数がすくないことに留意が必要である。地方政 府の税収を「住民一人あたりの税負担額(96 年度)」でみると、全米平均は 1,020 ドル であり、州政府の 1,762 ドルに比べて2/3程度である。ただし、ニューヨーク州の 2,108 ドルからアーカンソー州の 457 ドルまで幅広い1。 その他の各州の税目としては、イニシャルフィー、ライセンス・タックス、採取・生 産税、危険物廃棄税、自動車税、自動車燃料税・ガソリン税、アルコール飲料税、タバ コ税、チェーンストア税、株式譲渡税、モーゲージ税、遺産税、贈与税など多様な税目 が課されており、また地方政府においてもアルコール飲料税、自動車燃料税、タバコ消 費税などの他、娯楽税・入場税や競馬の賭け金に対する課税といったアミューズメント 要素に対する課税もされている。 (参考)その他の収入 その他の特徴として、各政府とも手数料(Fee)、Assessment、Fine、Surcharge、 などの名称で呼ばれる収入源が、歳入のそれなりに大きな割合(8−34%程度) を占めており、地方政府の重要な財源となっていることがあげられる。 ③ 主な州税・地方税の全体的特徴 (a)重複税目とその税構造 連邦政府と州政府の課税権は独立しており、連邦・州間では税目の重複が見られる。 重複税目の代表的な例は個人所得税であるが、州の個人所得税はその課税ベースの計 算開始数値を連邦個人所得税の調整後所得(Federal Adjusted Gross Income)に置い ている州が 26 州ある他、その他の州においても連邦個人所得税の課税所得(federal taxable income)や算出税額を課税ベースとしている州が多く、両者の課税ベースは かなり一致している。このため、連邦税制変更により州財政(歳入)は大きな影響を 受けることとなっている2。また課税ベースが相似している関係をもつことから、税務 調 査な どに あた って は各 州の 税務 機関 は連 邦機 関で ある 内国 歳入 庁( Internal

1 個別の数字については「New York State Tax Handbook」(1999)による。 2 付表4−11.参照

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Revenue Service: IRS)と緊密に連絡をとっている1 州と地方政府で重複して課税している代表的な例は小売売上税であり、現在では 33 州で地方政府に課税権を与えている。小売売上税は基本的に州政府が徴収を行い地方 政府に配分される仕組みとなっているが、地方政府はこの徴収行為に対し契約などを 通して必要コストを州政府に対して支払っている。 (b)税目に関する自由度 州政府は連邦政府とは独立した課税権をもつことは前項でもみたが、ここでは地方 政府の税目に関する自由度についてみる。地方政府の課税権は州政府からの授権によ るものである。(1)「行政制度」の項でも見たように、地方政府は財政自治権に関し てはほとんど権限を与えられておらず、州は地方政府に対し「課税・支出に関する制 限」(TELs)として以下のようなものを課している(1995 年現在)。「財産税率の全体 的制限:12 州」、「特別地方団体の税率制限:30 州」、「地方税の課税制限:27 州」、「財 産評価増の制限:6州」、「一般収入増加の制限:2州」、「支出増加の制限:8 州」、「フ ルディスクロージャ要求:22 州」(なお、4州においては制限はない。)2 ⅰ 税率等に関する制限 税率設定は、小売売上税や財産税といった主要税目については範囲料率となって いることが多く、その範囲内では地方政府の自由度が認められる反面、そもそも州 政府の立法の範囲内にあることや、州によっては税制改正にあたって住民投票を要 することなどが特徴として挙げられる。 なお、財産税については各地方政府(カウンティ政府による場合が多い)がその 財産評価を行うことが多いが、州は地方政府間の評価を均衡化させるためのアドバ イザリー機関(Equalization Agency)を設立し、同タイプの財産評価に相違が出な いよう均衡レート(Equalization Rate) を設定している。 1 須田徹「アメリカの税法(第 6 版)(1998)による 2 この部分の数字は、和田八束他「現在の地方財政(新版)(1999)による。なお、現在、州税の変 更(増税)に関する住民投票制度が義務つけられている州はコロラド州のみであるが、「税および支 出に関する制限事項(Tax and Expenditure Limitations: TELs)」は 29 州で州憲法または州法によ る規定が定められており、税と歳出に関する規制がかけられている。

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ⅱ 課税ベースに関する制限 減免措置には、州政府から強要される減免措置と地方政府の裁量性が認められる 減免措置が存在する。ニューヨーク州の例を取り上げて説明すると、義務的 (Mandatory)とされる「州の財産」や「森林」に対する財産課税の免除について は、地方政府はこれらの免除措置を適用するかどうかの決定権を持っておらず、裁 量的な免除措置には老齢者むけの免除措置などがある。また、地方政府側から独自 の税免除措置を行う場合、州政府の承認を得る必要がある。 州政府が減免措置を行う場合、一般的には州が決定した減税について補填を義務 付けるような制度はない。ただし、カリフォルニア州のように、厳しい地方財政事 情から、一時的に州政府から地方政府に対して補填されるような例もある。また、 ニューヨーク州においても「マンデイトレリーフ」と言われる補填措置を行ってお り、州による財産税の減免措置により財源の減る学校区に補助金を支給するような 「STAR(School Tax Relief Program)」もそのひとつといえる1。

④ 主な州税・地方税の概要 (a)小売売上税2 アメリカでは、小売売上税は連邦は課税していない。課税団体は、各州および各地 方政府であり、現在では 45 州およびコロンビア特別区で課税され、地方政府(地方 売上税)についても 33 州で課されている。小売売上税の課税対象となる売上とは、 主として有形動産の移転・交換、賃借やサービスの対価などである。小売売上税の課 税対象、非課税項目の取り扱いおよび税額算定の基礎となる課税標準は各州によって かなり異なっており、各州ではいずれも「動産の小売」を課税対象行為としているが、 課税対象となる「動産」の範囲も各州ごとに異なっている。 非課税対象者としては、連邦政府や州政府、地方政府などのほか、大半の州で教育・ 病院・宗教・慈善団体など非営利団体に対する物品・サービスの販売を非課税として いる。 1 後述。⑥連邦による州・地方税減税補填の項を参照のこと。 2 この項は自治体国際化協会「米国の州、地方団体における売上・使用税の概要」(2000)による。

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税率は各州において決定され、各州の地方売上税の税率は一般的には州法が認める 範囲および手続きに基づいて各課税主体によって決定されるが、州内で課税できる売 上税率について一定の上限を定めている州も少なくない。標準的な税率をみると、州 税が4%−7%、州税部分と地方税部分を合わせて4%−11%といったようにばらつ きがある。また、この他にも所得税の税額控除など様々な負担軽減措置が採られてい る。 地方売上税は 1994 年時点では 33 州で課税されており、課税団体数(推定値)はカ ウンティ 1,495、シティ政府 4,742、特別区など 101 の計 6,338 組織となっており、 人口 10 万人以上の都市で見るとその半数を超える 116 団体で課税している。一般的 に地方売上税については州法でその枠組みが規定されており、課税対象取引の範囲、 税率の範囲などが州法などにより規定されている。また、地方政府が地方売上税を新 規に課税する場合には、事前に住民投票による承認を得ることを必要条件としている 州も存在する。 課税対象は、基本的には州の小売売上税に準拠していることが多いが、15 州におい ては課税対象に何らかの相違がある。また、地方政府別に税率を設定することが可能 であるために同一州内でも税率が異なっており、課税する段階の取り扱いはどこで課 税するかが重要な問題になる。現在は大きく「売主(Vendor)基準」、「配達(Deliver) 基準」の二つの考え方が採られている。「売主基準」とは、売主の所在地により課税さ れるというものであり、事業者側、課税団体側の双方にとって事務負担が少ないとい うメリットを持つ。「配達基準」はどこで購入したかに関わりなく、配達時点が課税段 階とみなされ、配達先の税率が適用されるというものである。 徴収業務については、基本的に地方政府分も含め州政府により一括して行われるが、 地方政府が独自に徴収している州もある。州による小売売上税の徴収は、州小売売上 税・使用税と併せて地方売上税を徴収し、課税団体へ配分するのが一般的であり、地 方政府側からは徴収税額の一定割合を事務手数料として州に支払う場合が多い。 (b)個人所得税 納税義務者は居住者と非居住者に区分され、居住者にはその純所得全部が課税対象 とされ、非居住者には州内に所在する資産または州内で営む事業からの純所得のみに 対して課税される(非居住者については法人所得税同様にアロケーション・アポーシ

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ョンメントが行われる:後述)。居住している州と事業を行っている州が異なる場合に は2州より課税される可能性があるが、こうした二重課税となるのを防ぐために、各 州は隣接州と租税条約を締結して所得の配分、他州税の税額控除等の措置を採用して いる。 純所得の算定の際の控除項目としては、多くの州で申告資格に応じて一定額または 所 得 の 一 定 率 を 控 除 す る 定 額 控 除 方 式 で あ る 選 択 的 概 算 経 費 控 除 ( Optional Standard Deduction)と控除可能項目の実額を控除する個別控除方式(Itemized Deduction)がある。人的控除には納税者本人と扶養家族の区分なく一人あたり同額 の控除を認める州と差異のある州がある。 さらに税額控除も認められており、ニューヨーク州では連邦所得税と相似した形の EITC(Earned Income Tax Credit)1や扶養控除(Child Tax credit)などが適用 されている。 税率は、州税の場合連邦所得税と同様に累進課税としているのに対し、地方政府の 個人所得税の場合は賃金・給与に均一税率を適用する場合が多い。 (c)法人所得税とフランチャイズ・タックス2 法人所得を課税対象とする税目であり、納税義務者は州内法人と州外法人に分類さ れる。その所得が複数州で生じる場合、それぞれの区分に応じ、所得配分(アロケー ション・アポーションメント)により課税所得の範囲が算定される。多くの州では学 校、宗教団体、慈善団体などの非営利法人について課税を免除しているが、非営利法 人であってもその営利事業に対しては課税される。なお、多くの州で銀行業や保険業 については他の法人とは異なる課税を行っている。 課税ベースは純所得とする州が多い。ほぼ全ての州は、連邦法の規定に従って特別 に控除されない限り、連邦法人所得税につき連邦に申告したすべての純所得に若干の 調整を加えて州法による純所得としている。州内法人は州内源泉から生じたか否かに 関わらず、全ての純所得に対して課税され、州外法人は州内源泉所得のみに対して課 税される。 1 低所得者向けの未婚の実子、養子などを有する家庭の税額控除

2 この項は主に本庄資「アメリカの州税」(1986)、Encyclopedia of Taxation and Tax Policy; Urban Institute(2000)による。

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税率については、大部分の州(31 州とコロンビア特別区)は比例税率(Flat Rate) で課税し、残りの 13 州は累進課税を行っている。なお、純所得を課税標準とする特 権税(プリビレッジタックス)またはフランチャイズ・タックスについては、ミニマ ムタックスが規定されている。 現在では 45 州とコロンビア特別区において純収入に対する課税が行われており、 カリフォルニア、ペンシルバニア、ウィスコンシンの3州で直接法人税とフランチャ イズ・タックスをともに課しているが、納税者はどちらか一方についての納税義務を 負うだけである。そのうち命名法だけによれば、「フランチャイズ・タックス」といわ れる税目は 26 州で課されているが、そのなかには、ニューヨーク州やカリフォルニ ア州、フロリダ州といった収益に課税する州のフランチャイズ・タックスは含まれて いない。この 26 州のフランチャイズ・タックスは一時的または周期的におきる登録 料(Registration Fee)を指すか、またより一般的なものは資本株式に対する課税を 行うものである。ほとんどの州ではこのような税目の税収に対する寄与はわずかであ りデラウェア州で 15.7%、続いてルイジアナ州の 5.7%となっており 10 州では1%未 満である。 (d)財産税(Property Tax)1 プロパティタックスとは動産や不動産などの資産(Property)の価値を課税客体と 税であり、州憲法や州法の規定を受けつつも、通常地方政府によって資産の所有者に 対して課税される税である。「Property」の概念には、流動資産などの有体財産や証 券、債券などの無体資産が含まれるため「固定資産税」ではなく「財産税」と訳すこ とが多い。課税対象である資産は、不動産、動産、無体動産に分けられ、このうち不 動産は全ての州で課税されるが、動産、無体動産については州によりその状況は異な る。 資産評価を第一義的に行うのはカウンティーやミュニシパリティ−であるが、州政 府は、資産評価および評価官の教育、州内での評価額の調整、徴収した税の配分、異 議申し立てへの対応、各種制限の設定など財産税制度全般にわたる指導監督を行って 1 この項は自治体国際化協会「米国固定資産税制度の概要とプロポジション 13 にかかる連邦最高裁憲 法審理」(1993)による。

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いる。 評価については、ほとんどの州で取引価格を用いている。また、州法などにより再 評価を行う期間を定めている州がほとんどであるが、そのなかには、毎年評価する州、 州の何割かの地域を何年かにかけて行う州もあれば、もっぱら微調整を行うのみの州 がある。 地方政府は評価や税率などについて自由度をもっているが、大多数の州では全州的 な見地から各種の制限が設けられている。一般的に財産税の税率は、各地方政府の必 要とする財産税収入額を当該地域の評価額で除した数値である。それは本来各地方政 府で任意に定められるものであるが、いくつかの州においては賦課税率に関する地方 政府の裁量権に一定の制限を与えている。その他の州の関与では、財産税増収に対す る上限設定、予算の増収自体に対する制限、財産税収を一定にし評価額の上昇に併せ 税率を低下させる歳入統制方式(Rollback)、増税時には公開ヒアリングなどを要求す る(Full Disclosure 要求)などがあげられる。また、不動産評価の急上昇により財産 税を納税できなくなることを防ぐため、いくつかの州で不動産評価額の上昇率に一定 の制限を設けている。 また、35 州において州レベルで評価額の均衡化を行う機関を設置している。州によ ってはカウンティやタウンレベルでいったん均衡化を行い、その後州レベルで行うと いう2∼3段階の方式をとっているところもある。均衡化によって定められた各地域 の評価額は、財産税収入や州の補助金を各地方政府に配分する際の基礎資料や起債の 上限額の算出基礎としても用いられる。 非課税対象は各州で州憲法や州法によって規定されている。またいくつかの州では、 地方政府にその権限を与えている州もある。全ての州で政府所有の資産は財産税を免 除され、宗教や教育的用途に供される資産、慈善事業のための資産、病院・墓地・史 跡・森林なども多くの州で課税対象外になっているが、これらの目的の定義および範 囲については各州によりその内容が大きく異なっている。 また、軽減措置は居住用住宅に関するものが一般的で、居住者一般、高齢者、低所 得者、退役軍人、未亡人などを対象としている。代表的な措置としてホームステッド・ プログラムとサーキットブレーカー・プログラムとよばれる。ホームステッド・プロ グラムは、実際の課税標準額から一定額を控除した額に税率を乗じて算出するという 軽減措置であり、サーキットブレーカー・プログラムは、一定所得以下の住民の有す

参照

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