徹底活用!
投資優遇税制
第 2 回 第 1 部①NISA
2015 年 10 月 13 日 全 7 頁他制度よりも圧倒的に自由度が高い NISA
「使いづらさ」とうまく付き合って NISA を活用する方法を考える
金融調査部 研究員 是枝 俊悟 このシリーズでは、個人投資家の視点に立って、複数の制度を横断的に比較分析し、各 制度の活用法を徹底研究します。第 1 部でこの制度はどのような場合に利用するべきか「制 度→利用局面」の分析を行います。 第 1 部の 1 回目は NISA について。NISA のしくみには通常の証券口座と比べると「使いづ らい」点も見られますが、運用益が所得税非課税となる他の制度と比較すると、払い出し 制限がなく自由度が高い制度だと言えます。個人投資家は、「使いづらさ」とどのように付 き合って、NISA を活用していくべきか、検討します。1.NISA の制度概要
NISA の制度概要を示したものが次の表です。 NISA の制度概要導入前から上場株式や株式投資信託などを購入してきた個人投資家からは、しばしば、NISA は使いづらい制度だと言われることがあります。 確かに、年間で投資できる上限額に制限があることや、分配金再投資やスイッチング(投資 信託の売却と再購入)で非課税枠を消費することや、譲渡損が発生した場合に他の口座との損 益通算ができないことなど、通常の証券口座に比べれば、NISA に使いづらい面は多数あります1。 NISA をより普及させ、個人投資家の資産形成を強力に支援する制度とするためには、乗り越 えるべき課題もあります。しかしながら、NISA が「使いづらい」のは、あくまで「通常の証券 口座に比べて」の話にすぎません。 NISA は通常の証券口座に比べて、配当・譲渡益が非課税になるという強力なメリットが与え られています。NISA かくあるべきという理想論はさておき、現行制度の下で NISA をどのように 活用するかを考える上では、配当・譲渡益が非課税になるメリットと比べて「使いづらさ」が 甘受できるものなのか、運用益が所得税非課税となる他の制度と比べた NISA の特徴はどのよう なものなのかを検討すべきでしょう。
2.所得税(運用益)非課税の他制度との特徴比較
NISA と運用益が所得税非課税となる他の制度との特徴を比較したものが次の図表です。 NISA と他の所得税(運用益)非課税制度との特徴比較(未施行の制度を含む) 1 NISA がなぜこのような「使いづらい」仕組みになったのかの理由については、吉井一洋「なるほど NISA 第 5 回 なぜこのような制度になったのか?-それには理由があります-」(2014 年 3 月 10 日発表)を参照して ください。 財形住宅 財形年金 企業型 個人型 加入する年 金制度による 取扱金融機関 自由に選べる 自由に選べる 運用できる 金融商品 上場株式、 株式投信、 ETF、上場REIT など 上場株式、 株式投信、 ETF、上場REIT など 預貯金、公 社債、公社 債投信 国債、 地方債 払い出しの制限 なし (ただし、非課 税枠は消費す る) 原則18歳以後 に払い出す (要件違反は 過去全期間遡 及課税) 原則住宅取 得目的に限 られる(要件 違反は5年 遡及課税) 原則年金目 的に限られ る(要件違反 は5年遡及 課税) 特別 マル優 障害者・寡婦等 に限られる なし (払い出し後、 非課税枠は 復活する) 自由に選べる (注)この表は、各制度の概要を説明したものです。各制度の詳細は、各制度の解説の回を参照してください。 NISAと他制度を比較して各項目の内容が同じもの、または類似しているものを網掛け表示しています。 (出所)大和総研作成 20歳未満なら 誰でもOK マル優 60歳到達時まで 原則払い出せない 事実上、預金商品 しか選択できない ケースが多い 株式投信、公社債投 信、保険商品、預貯 金など 勤め先が制度を導入 していることが条件 勤め先が提携している 金融機関に限られる 20歳以上なら 誰でもOK 契約締結時において 55歳未満 65歳未満 利用できる人 財形貯蓄制度 NISA ジュニアNISA 確定拠出年金NISA を運用益が所得税非課税となる他の制度と比較すると、NISA の「使いやすい」面が多数 見えてきます。
まず、運用益が所得税非課税となる制度には、利用できる人の範囲に制限や条件があること も多いですが、NISA は 20 歳以上なら誰でも使えます。
次に、NISA では取扱金融機関を個人投資家が自由に選ぶことができます。
さらに、制度で運用できる金融商品の範囲も、NISA では上場株式、株式投信、ETF、上場 REIT などが含まれています。財形住宅・財形年金では、勤め先がどのような金融機関と契約しどの ような制度を設けているかによりますが、銀行の預貯金しか運用の選択肢がないことも多いも のと思われます。確定拠出年金と比べると元本確保型の商品がない点でやや見劣りするところ ではありますが、ある程度リスクを取りつつも比較的高いリターンを目指して資産運用を行お うと考えた際には、NISA で運用できる金融商品のラインナップは十分といえるでしょう。 最後に、NISA には払い出し制限がないことも大きな特徴です。マル優・特別マル優を除けば、 他の所得税非課税となる制度には何らかの払い出しの制約があります。財形住宅・財形年金、 ジュニア NISA には要件外払い出しに遡及課税の規定があります。確定拠出年金については、60 歳まで原則として払い出すことができません(所得税が課税されてもいいから払い出すという ことは、そもそも選択肢としてないのです)。 NISA は運用益が所得税非課税となる他の制度と比べれば、圧倒的に自由度の高い「使い勝手 のよい」制度だと言ってよいでしょう。 NISA には払い出し制限がないので、ある程度リスクをとりつつも期待リターンが高くなる資 産運用を行おうと思っている人であれば誰でも使えるし、どのような目的にでも使うことがで きます。 結婚資金を準備する場合、子どもの教育資金を準備する場合、住宅取得のための資金を準備 する場合、老後の資金を準備する場合、あらゆる局面で、NISA を利用することができます。も っとも、NISA 以外にも財形住宅・財形年金・確定拠出年金など他の運用益が所得税非課税とな る制度が利用できる場合もありますが、これらと比較した場合にどの制度を利用すべきかは本 シリーズ第 2 部で局面別に詳しく検討していきます。なお、財形住宅・財形年金・確定拠出年 金と異なり、NISA は現在のところ新規投資を行えるのは 2023 年までと、期限つきの制度となっ ています。あらゆる局面で利用できるというメリットをより生かすためにも制度の恒久化が望 まれるところです。 NISA では年間で投資できる上限額に制限があり、分配金再投資やスイッチング(投資信託の 売却と再購入)で非課税枠を消費するしくみになっています。この点は、個人投資家として、 なるべく非課税枠を「節約」することで対処するとよいでしょう。 株式投信の場合は、なるべく分配頻度が少ないもの(毎月分配型でなく年 1 回分配型など)
の方がファンド内で複利で資産形成できる点で有利と言えるでしょう。スイッチングを行うと 非課税枠を消費するため、資産構成をファンド内でリバランスするバランス型の投資信託が NISA に向いている面もあります2。 NISA は個人投資家の中長期の資産形成を促すために導入された制度であり、制度のしくみも このような投資行動を促すように作られているのです。
3.通常の証券口座でも上場株式等を保有している場合
もう一点、NISA が「使いづらい」とされる点には、譲渡損が発生した場合に他の口座との損 益通算ができないことが挙げられました。これは、NISA を利用するか、それとも通常の証券口 座を利用するかを判断する上では見逃せない点です。この点について考えてみましょう。 そもそも損益通算ができないことがデメリットになるのは、どんなケースでしょうか。それ は、NISA 以外の通常の証券口座に上場株式等3を保有していて、通常の証券口座で利子、配当や 譲渡益などが得られる場合です。 損益通算不可がデメリットとなるケース 2 自分で複数の株式投信を用いてリバランスを行う場合は、なるべく売却は行わず、購入額を調整する(時価が 増えた銘柄の購入額を減らし、時価が減った銘柄の購入額を増やす)ことで資産構成のリバランスを行うこと が有効となります。 3 ここでは、2016 年 1 月 1 日以後も想定して、NISA で保有できる金融商品である、上場株式、株式投信、上場例えば、個人投資家が NISA 口座で A 社株式を、通常の証券口座で B 社株式を、それぞれ 100 万円分ずつ購入した場合で考えてみましょう。A 社株式は 80 万円に値下がりしたところで売り、 B 社株式は 120 万円に値上がりしたところで売れたものとします(手数料等は考慮しません)。 この場合、NISA 口座内で生じた 20 万円の譲渡損と、通常の証券口座内で生じた 20 万円の譲 渡益を損益通算することはできません。このため、この個人投資家は、2 口座トータルでの資産 は投資をする前後で 200 万円で変わっていないにもかかわらず、通常の証券口座内で生じた 20 万円の譲渡益について、税率 20.315%を乗じた 40,630 円の税金を支払わなければなりません。 一方、もしこの個人投資家が NISA 口座を使わずに、A 社株式も B 社株式も通常の証券口座で 購入していたとしたらどうでしょうか。この場合、A 社株式の取引で生じた 20 万円の譲渡損と B 社株式の取引で生じた 20 万円の譲渡益は損益通算できますので、トータルの譲渡益はゼロと なり、税負担もゼロとなります。 このように、NISA 口座内で譲渡損が生じ、通常の証券口座では譲渡益が生じた場合には、NISA 口座を使わずに全額を通常の証券口座で投資していた方がよかった、というケースが生じうる のです。 では、NISA 以外の通常の証券口座に上場株式等を保有している(保有するつもりの)個人投 資家は、どの銘柄を NISA で購入しどの銘柄を通常の証券口座で購入すべきなのでしょうか。 この点については、個人投資家が望むリスク・リターンにより答えが変わってきます。NISA で投資を行う場合は、通常の証券口座で投資を行う場合よりも、税引後の期待リターンが増加 する一方、損益通算できないことによりダウンサイドリスクも増加します(次の図表を参照)。 NISA で投資を行うと税引後の期待リターンは増加するがダウンサイドリスクも増加する
一般的に、上場株式や株式投信などは、期待リターンの高いものほど価格変動リスクは大き くなるものと考えられます。 NISA と通常の証券口座を合わせて、税引後の期待リターンを最大化させたいと考える人は、 より期待リターンの高い(一方でリスクの大きい)銘柄を NISA で保有し、より期待リターンの 低い(一方でリスクの小さい)銘柄を通常の証券口座で保有するとよいでしょう。 他方で、NISA と通常の証券口座を合わせて、ダウンサイドリスクをより小さくしたいと考え る人は、よりリスクの小さい(一方で期待リターンの低い)銘柄を NISA で保有し、よりリスク の大きい(一方で期待リターンの高い)銘柄を通常の証券口座で保有することで、損益通算で きない損失が大きく膨らまないようにするとよいでしょう。
4.投資できる金額が NISA の非課税枠の範囲内である場合
今度は、上場株式や株式投信に投資するのは 100 万円だけで、NISA の非課税枠の範囲内に収 まる個人投資家の場合を考えてみます。この場合も、NISA 口座で上場株式や株式投信を購入す るよりも、通常の証券口座で投資をしていた方がよかったというケースは生じるでしょうか。 損益通算不可がデメリットとならないケース 個人投資家が NISA 口座で C 社株式を 100 万円分購入する場合を考えます。C 社株式が 120 万 円まで値上がりしたところで譲渡したら、20 万円の譲渡益を得ることができ、これは非課税で すので、この個人投資家は税引後でも 120 万円を得ることができます。他方、C 社株式が 80 万円まで値下がりしたところで譲渡したら、20 万円の譲渡損が生じます。この損失はなかったも のとみなされますので、税引後の手取りも 80 万円となります。 では、この個人投資家が NISA 口座ではなく、通常の証券口座で C 社株式を 100 万円分購入し ていた場合はどうでしょうか。C 社株式が 120 万円まで値上がりしたところで譲渡したら、20 万円の譲渡益に対して税率 20.315%、40,630 円の税金が課され、手取りは 115 万 9,370 円とな ります。C 社株式が 80 万円まで値下がりしたところで譲渡したら、20 万円の譲渡損は制度上は、 他の株式譲渡所得等と損益通算が可能ですが、通算すべき所得がなければ、結果として 80 万円 が手元に残ることは変わりません。 すなわち、上場株式や株式投信に投資しようとする金額が全体として NISA の非課税枠の範囲 内であるならば、通常の証券口座よりも NISA 口座を使った方が、利益が出たら手取りは大きく、 損失が出た場合の手取りも変わらず、NISA 口座を使うことのデメリットはほぼないのです4。