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MRI | 所報 | 技術経営における技術資源管理に関する一考察

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(1)

JOURNAL OF MITSUBISHI RESEARCH INSTITUTE

所報

No.

42

2003

ISSN 1347-4812 巻頭言

所報

42

号「技術経営と産業再生」特集号に寄せて

Message :On the Occasion of Publishing No.42 Special Issue,

“Management of Technology and Industrial Revitalization”

●デスバレー現象と産業再生

Valley-of-Death Phenomenon and Industrial Revitalization

●知識産業時代の技術経営

   Management of Technology in Knowledge based Industry Era

●大学発ベンチャー育成とベンチャーキャピタル

   Fostering university-launched Ventures and Venture Capitals    ●アーキテクチャ創造企業の萌芽

   The Indication of Architecture Creating Companies        ●技術経営における技術資源管理に関する一考察

Consideration on Technological Resource Management in Management of Technology

 ●デジタル情報流通市場の中期展望

   Mid-term Prospect of the Digital Information Distribution Market

    ●アイルランドの経済成長とソフト産業

   Economic Growth of Ireland and its Software Industry

●Findings from ABS Cases and National and International Legal Instruments

常務取締役 尾原 重男

Shigeo Obara

「技術経営と産業再生」

(2)

研究ノート

技術経営における技術資源管理に関する

一考察

前間 孝久  魚住 剛一郎  技術経営における重要な要素として「技術への投資をいかに財(価値)に変換す るか」という点が挙げられる。しかし現実には、技術をなかなか製品や事業に結び つけることができない、製品や事業に結実してもすぐに市場で淘汰されてしまい売 上に結びつかないという状況にある。 この状況を打破する一つの効果的な取り組みとして、社内技術資源管理("技術の可 視化")が重要になると考えられる。 本研究ノートの前半では社内技術資源管理("技術の可視化")の重要性を示し、そ の取り組みの一例としてITSS及び技術プラットフォームに関して触れる。後半 では、主に人的に蓄積される技術を中心に、社内技術資源管理の具体的なメリット 及び技術経営における位置づけを示し、最後にTRM(Technology Resource  Managementの略。弊社サービスメニューの1つ)のコンセプトをベースとした社 内技術資源管理の具体的な手順の概略について提案する。 1. 技術経営と社内技術資源管理(技術の可視化)の重要性  1.1 技術経営とは  1.2 技術が財に結びつかない  1.3 技術を基盤とする企業の社内技術把握の重要性  1.4 技術の可視化 2. 社内技術資源管理の現状  2.1 ITSS  2.2 技術プラットフォームの設定 3. 社内技術資源管理におけるポイント  3.1 社内技術資源管理のメリット  3.2 技術経営における社内技術資源管理の位置づけ

 3.3 技術資源管理上重要なポイントとTRM(Technology Resource Management)

研究ノート Research Note

要 約 目 次

(3)

Research Note

C o n s i d e r a t i o n o n T e c h n o l o g i c a l R e s o u r c e

Management in Management of Technology

Takahisa Maema, Koichiro Uozumi

 One of the most important factors of the management of technology is "how to convert investment made in technology into wealth (value)." In reality, however, it is difficult to utilize technology in product or business, or even if technology is utilized in product or business, such technology quickly becomes obsolete and is not easily translated into sales.

As an effective measure to overcome this situation, in-house technological resource management ("visualization of technology") is expected to play an important role.

 In the first half of this study note, we point out the importance of in-house technological resource management ("visualization of technology") and touch upon ITSS and technology platforms as examples of in-house technology resource management. In the latter half, we describe specific merits of in-house technological resource management and its positioning in the management of technology while placing focus on those technologies accumulated through humans, and finally mention the overview of specific procedures for in-house technological resource management based on the TRM (Technology Resource Management; one of our company's service menu options) concept.

1. Importance of Management of Technology and In-house Technological Resource Management (Visualization of Technology)  1.1 What is Management of Technology?

 1.2 Technology is not Translated into Wealth

 1.3 Importance of Grasping In-house Technology for a Technology-based Company  1.4 Visualization of Technology

2. Present State of In-house Technological Resource Management  2.1 ITSS

 2.2 Establishment of technological Platforms

3. Points in In-house Technological Resource Management  3.1 Merits of In-house Technological Resource Management

 3.2 Positioning of In-house Technological Resource Management in Management of Technology  3.3 Key Points in Technological Resource Management and TRM (Technology Resource Management)

技術経営における技術資源管理に関する一考察

Summary Contents

(4)

1.

 技術経営と社内技術資源管理

(技術の可視化)

の重要性

1.1 技術経営とは

     最近「MOT」というキーワードが注目を集めている。MOTはManagement of Technology の略で日本では一般に「技術経営」と訳される。そもそもMOTとはアメリカのMIT(マサ チューセッツ工科大学)の経営大学院であるスローンスクールのMOTコースやスタン フォードのテクノロジーマネジメントの講座が起源といわれる。MOTの定義は様々あり一 つに絞ることは困難であるが、“「技術」を経営の視点から扱う“のがMOTであり、例えば「技 術の研究開発から運用の全過程に対して戦略的・戦術的計画と運用管理をすることである」 (Kocaoglu,1990)などとされる。

1.2 技術が財に結びつかない

     我々は、技術経営における重要なポイントを「技術及び技術への投資をいかに財(価値) に変換するか」と捉えている。しかしながら、現在、多くの企業において、「技術」が「事 業」にむすびつかない、「売上」が伸びていかない、という状況が聞かれる。高度な「技術」 は保有している一方で、その「技術」をなかなか「製品」や「事業」に結びつけることがで きない、「製品」や「事業」に結実してもすぐに市場で淘汰されてしまい売上に結びつかない、 という現象である。前者の現象はデスバレー(死の谷)、後者の現象はダーウィンの海と呼ば れることもある。基礎技術の多くがその「死の谷」で埋没してしまい事業化に結びつかず、 事業化されても「ダーウィンの海」に飲み込まれすぐに淘汰されてしまうということである。      この内容は製品や事業に含まれる技術だけでなく、人的に蓄積されている技術(技術者が 個人の能力として保有している技術)にもあてはまる。個人の保有する技術力が十分に発揮 されず、十分な価値を生んでいないという現象である。      企業活動における例を挙げてみたい。企業全体をマクロでみた場合、ある分野について企 業内の技術者の数と市場ニーズがアンマッチで、技術者を持て余すケースがある。このとき 過剰となっている技術者の技術力は、十分な価値を生んでいないことになる。また、ミクロ に個人レベルでみると、技術者が自分の保有している技術を充分に価値(財)に変換できて いないことも散見される。技術者本人が、本来保有している技術を社内の関係者や顧客に対 して伝えることができず、本来産むべき価値を生み出せていないケースや、なんらかの理由 により、その技術者が充分にモチベートされておらず、潜在的に保有している価値を提供で きていないケースがこれに該当する。      まず戦略的な技術投資を実行し不用な投資を省くともに、潜在的に保有している技術力は より多く市場に提供し価値化することが理想である。これまでは、外部環境など不確定要素 の多さに加え、「技術」という捕らえどころのなさを理由に取り組みが遅れている部分である が、今後は真摯に取り組んでいく必要がある。

1.3 技術を基盤とする企業の社内技術把握の重要性

研究ノート Research Note

(5)

     技術を基盤とし、技術に投資を行っている企業であれば多少の違いはあるものの以下のよ うなプロセスをとるだろう。      (1)全社経営戦略、ビジョン把握      (2)外部分析:技術動向把握、市場動向把握、社会動向把握      (3)内部分析:社内技術資源把握、製品・事業内容把握      (4)ギャップ分析:技術ギャップの把握、有望事業領域の把握      (5)技術戦略:コア技術確立、研究開発投資、人材開発、アライアンス他       このとき、技術が充分に財に転換できないのは、多くの場合「(4)ギャップ分析」が充分 にできないことにより、的確な「(5)技術戦略」を設定できないことにある。この原因は、 「(2)外部分析」と「(3)内部分析」が充分でないことである場合が多い。      外部環境の把握に関しては、将来の不確定要素を含んでおり精度には限界がある。特に近 年の技術イノベーションの加速化により、将来を予測するのが難しい状況になってきている。      一方、内部分析に関しては何となく把握しているようで実はよくわかっていないという ケースが散見される。我々のクライアントからも、「研究所が複数箇所あり、幅広い研究領域 をカバーしているため、わかるのは研究件名ぐらいで研究の詳細や当社の技術優位性はどの 程度なのかよくわからない」とか、「○△技術についての技術者が市場規模に比べて不足して いるようなのでそこの技術強化を図っているが、実際はどうなのだろうか?」といったこと をよく耳にする。前者の例の場合、競争力の高い技術シーズを見逃してしまい、有望な事業 機会を逸してしまう可能性があり、後者の例では、実際は技術者が充分に足りている場合に は、過剰な人材開発投資をしていることになる。

1.4 技術の可視化

     こうした問題に対し、今後「技術の可視化」、社内の技術資源管理が極めて重要になると考 えている。      近年は「経営」を見えるようにしようという動きが活発である。旧来の財務指標だけでな く、バランススコアカードのように企業の経営状況を多面的かつ定量的に捉えようという取 り組みが行われたり、営業の進捗状況の共有化、在庫情報の共有化など、情報技術の進展を 背景に様々な取り組みが行われている。      この動きの中で、「技術」に関してはその可視化が難しいということもあり、「見える化」 が敬遠されている傾向がある。一言に技術といっても多岐にわたる上に、その内容やレベル を客観的、明示的、定量的に表すことは容易ではない。しかし難しいからといって実施しな いということでよいのだろうか。技術の内容、レベル、量を把握することは、技術を効果的 に財に結びつけていくために重要であり、できるところからでも始めていく必要がある。

2.

 社内技術資源管理の現状

     現在、技術の見える化に関する取り組みは徐々に進んできている。ここでは2つの事例を 紹介する。1つは人的に蓄積される技術の把握の取り組みである、経済産業省がIT企業向 けに発表したITスキルスタンダードの例、もう1つは製品に含まれる技術の把握のために、

技術経営における技術資源管理に関する一考察

(6)

各社固有の技術体系を定義する取り組みであるテクノロジープラットフォームの例を示す。

2.1 ITSS(IT産業における社内技術資源管理の一例)

     「ITSS」はITスキルスタンダードの略称であり2002年12月に、経済産業省により発表 された。「ITスキル標準は、各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体 系化した指標であり、産学におけるITサービス・プロフェッショナルの教育・訓練等に有 用な「辞書」(共通枠組)を提供しようとするものである」(経済産業省ホームページ)とさ れる。各種ITサービスの提供に必要なスキルを要素分解し、客観的な観察可能性や、教育・ 訓練での活用可能性の観点から整理している。具体的には次の通りとなる。      ・「職種/専門分野」を設定      ・「職種/専門分野」ごとに達成度指標(経験・実績)を設定      ・「職種/専門分野」ごとに必要な「スキル項目」を設定。加えて「スキル熟達度」と必要 な「知識項目」を設定。      企業はこのITSSで設定されたスキル項目に基づいて社内人材が保有する技術を調査する ことにより、社内技術力の把握が可能になり、技術コアコンピタンスの設定、技術教育計画 の設定、不足する技術者の採用、アライアンスの検討等のアクションに寄与する。      また、技術者本人にとっては、自身のキャリアパスを設定する際の指針となると同時に、 転職時などに自分のスキルを表現する手段となる。

研究ノート Research Note 図1 ITSSスキルフレームワーク(経産省ホームページより)

(7)

2.2 技術プラットフォームの設定(社内技術資源の見える化の一例)

     「技術プラットフォーム」もしくは「テクノロジープラットフォーム」という名称で、企業 の独自の技術基盤を定義する企業が増えている。企業が高い競争力の製品・サービスを提供 するための製品群・事業群を越えて幅広く共有する技術群である。「技術プラットフォーム」 を定義することにより、長期的な視点でその技術群への集中が可能になると同時に、「技術プ ラットフォーム」を活用した効果的な商品の創出が可能となる。      例えば、住友スリーエム社では自社のテクノロジープラットフォームを次のように定義し ている。「3Mでは、「テクノロジープラットフォーム」と呼ばれる独自の技術基盤を研究開 発の中核としています。これらは多様な製品を生み出す可能性を持ち、汎用性の高い独自の コア技術を派生分化させることによって、さまざまな市場での製品化を追求しようとするも のです。現在は30を超えるプラットフォームがあり、これらの技術を組み合わせることで、 そのシナジー効果からユニークなイノベーションをお届けしています。」(住友スリーエム社 ホームページより)      下表に各社のテクノロジープットフォームの例を整理した。各社ともプラットフォームの 数及び定義の仕方は大きく異なっている。

技術経営における技術資源管理に関する一考察 表1 テクノロジープラットフォーム整理状況(各社ホームページよりMRI作成) テクノロジープラットフォーム 数 企業 ヒューマンメディア ビジョンセンシング マイクロマシニング 10 オムロン オープンプラットフォーム ヒューマンビジョン マイクロオプティクス ソフトウェア工学 音声対話 光エレクトロニクス 電波センシング 樹脂 光電変換材料技術 顔料 3 東洋インキ 高機能触媒 機能性ガス 有機エレクトロニクス材料 27 昭和電工 機能性樹脂設計 極限条件プロセス 電池 ファインパーティクル 伝熱システム キャパシター バイオ 鋳造プロセス 磁性・記録材料 有機製造プロセス 塑性加工 無機エレクトロニクス材料 表面・界面化学 接合 結晶成長プロセス 組成・構造解析 機能性金属材料 薄膜成長プロセス 化学解析 機能分子設計 微細加工プロセス 数理技術 精密反応設計 マイクロシステムプロセス デバイスソフトウェア デバイスインテグレーション 材料プロセス革新 3 松下電子部品 光・電子関連設計技術 表面処理技術 ガラス材料設計技術 5 旭硝子 フッ素科学技術 ガラス生産加工技術 先端技術 半導体技術 マルチメディア・ソフトウェア技術 4 松下電器 デバイス・環境・生産技術 電子写真技術 インクジェット技術 銀塩写真技術 3 コニカ エレクトロニクス 化学品/ポリマー 高精細表面 32 住友スリーエム ソフトウエア ポリマー溶接プロセス 接着・接合 ろ過材料 インク/顔料 フッ素化学 制振材料 画像 光ファイバ 感染防止 照射プロセス マイクロインターコネクト 微生物 表面処理 不織布

(8)

3.

 社内技術資源管理におけるポイント

3.1 社内技術資源管理のメリット

     我々は、主に人的に蓄積される技術力を中心に可視化に取り組んでいる。具体的には社内 の技術を要素化・定量化し、それを測定・評価する仕組み作りである。このことによるメリッ トは大きく5つに分けられる。      1つ目はこれまで曖昧な捉え方しかしてこなかった技術を、要素化し、測定し、定量化す ることにより技術の構造(全体像)を明確にすることができることである。      2つ目は自社の技術力を定量的に把握することができることである。このことは、技術戦 略立案時の内部分析に大きく寄与する。      3つ目は技術ナレッジデータベース的な利用法である。技術の定量情報をデータベース化 する事により、必要な時に取り出せるようになる。例えば、「新しい技術分野への進出を決め た」という時に、必要な技術、人材がどこにどのくらいあるのかを即時に把握することがで きる。      4つ目は人材育成の観点での利用である。測定した技術力を指標化(総合指標化、個別指 標化)することで、個人の技術的な強み、弱みが明確となってくる。このことは人材育成カ リキュラムの設定に役立つと同時に、育成状況のモニタリングにも活用できる。また、これ らの指標は、上司と部下のコミュニケーションツールとしても有効である。      5つ目は、指標化した技術力を評価制度や人事制度に結びつける利用法である。技術力指 標を利用し、技術者としてのミッションと能力に応じた処遇を図るのである。これは、高度 な技術者として評価されていく新しいキャリアパスの創造に寄与できる。

3.2 技術経営における社内技術資源管理の位置づけ

     これらのメリットが技術経営においてどのように位置づけられるのだろうか。これまで述 べてきているとおり、私たちは技術を財に換えるということが技術経営における重要なポイ ントであると考えている。技術を財に換えるためには、技術戦略の視点から、1)技術的な 競争優位を作りあげる(優れた、数多くのイノベーションを継続的に生み出すなど)、2)保 有している技術リソースを効率的に活用する(技術リソースを効率的に事業へ配分するなど)、 ことが重要であろう。また、忘れられがちであるが、3)技術者自身が、保有する知識・技 能を的確に表現できる能力を身につけてもらうと同時に、十分にモチベートされその能力を 発揮してもらう、という人材マネジメントの視点も重要である。

研究ノート Research Note テクノロジープラットフォーム 数 企業 医薬品 精密コーティング フィルム ドラッグデリバリー 成形加工 光制御材料 スキンへルス 多孔質材料/メンブレン セラミック 歯科/歯科矯正材料 メカニカルファスナー 塗布研磨材 ディスプレイ材料 粒子分散プロセス

(9)

     この3つの側面から社内技術資源管理を考えてみる。「1)技術的な競争優位を作り上げ る」においては、社内の技術資源をベースに優れた、数多くのイノベーションを継続的に生 み出すこと、とりわけプロダクトイノベーションのための技術戦略が重要である。私たちは 技術戦略の検討フレームとして、「外部環境」「内部環境(技術リソース)」「ありたい(ある べき)姿」の3つの視点から技術を把握することが必要と考える。検討フレームに「ありた い姿」を加えるのは、その企業が持つ企業文化・ビジョンが内部・外部の環境と同様に重要 だからである。さらに、この3つの要素間のそれぞれのギャップについての把握・評価を通 した技術戦略の策定・アクション項目への落としこみと、これらを継続して実施できる仕組 みの構築が必要であると考えている。これら一連の流れを整理してみると、以下の6つのス テップになる。     (1)外部環境・ありたい姿・内部環境の把握      自社の技術及び周辺技術について、外部環境・内部環境・ありたい姿の3つの視点から把 握する。外部環境とは市場(顧客)のニーズ・技術動向・競合動向などであり、内部環境と は保有要素技術、人材、知財などである。ありたい姿は上述したビジョンや企業文化を示す ものである。     (2)それぞれのギャップの把握とすり合わせ      外部環境、内部環境、ありたい姿の間にあるギャップについて把握する。ここでは3つの 要素に共通の切り口が求められ、需要表現(需要を技術テーマへ展開する)、技術表現(技術 テーマから実現可能なものを想起する)などの難しい問題をクリアする必要がある。     (3)Social Interaction(市場に対する技術の適合度)の把握      上記(2)の中でも特に、保有する技術リソースを市場に適用する場合の、適用可能性 (末端で使われる商品イメージの有無)、適用範囲の広さ(商品イメージの豊富さ)、及びそ の実現の容易さを明示する。     (4)技術コンセプト(コア技術、技術プラットフォーム)の明示      上記(1)∼(3)を踏まえ、自社の中核技術(コア技術)・重点技術分野(技術プラット フォーム)を技術コンセプトという形で明示する必要がある。さらに各コア技術、技術プ ラットフォームについて、多様性・深さ・アプローチのし易さなどを整理する。技術コンセ プト(コア技術・技術プラットフォーム)の設定にあたっては、上記のSocial Interactionが 極めて重要である。Social Interactionが余りにも狭いレベルで技術コンセプトを設定すると 事業やプロダクトの広がりが期待できない。逆にSocial Interactionが全くイメージできない ような技術コンセプトは企業の自己満足になりかねない。     (5)収益を生む技術かどうかの評価・判断      上記(4)で設定したコア技術・技術プラットフォームについて、希少性・先進性・参入 障壁などの視点から収益を生む技術かどうかの評価・判断を行う。また、公共性(倫理性) の視点も重要である。     (6)技術戦略としての展開(PDCAサイクルの構築)      上記(1)∼(5)を1回きりとならない形で回していくための仕組み(アクションプロ グラムへの落とし込みや管理指標の設定など)を構築する。

技術経営における技術資源管理に関する一考察

(10)

     上記(1)∼(6)に示す戦略策定のプロセスを踏むにあたっては、社内技術資源の把握 が行われていることが前提となる。自社がどういった技術にどれだけの技術力(人材)を保 有しているのかという情報なしに各種のギャップ分析やコア技術の設定を行うことは不可能 である。      続いて、「2)保有している技術リソースを効率的に活用する」であるが、社内技術資源が 可視化されれば、保有する技術資源を効率的に事業へ配分する、不足する技術資源を計画的 に育成するなどの戦略的なマネジメントが可能となり、事業推進に多くの優位性をもたらす。 また、策定した技術戦略と実施してきた施策類(不足する技術分野における人材育成、他者 との技術的なアライアンスなど)の効果検証も定量的に行うことが可能となり、以降の戦略 や施策の見直しに大きく貢献する。

研究ノート Research Note 図2 技術戦略検討のフレーム (出所:三菱総合研究所)

(11)

     最後に、「3)技術者の高い意欲と知識・技術の的確な表現力」であるが、こうした部分を 「技術を財に変えるための重要な視点」として捉える考え方はあまり見当たらない。もしく は重要な点と認識していても、具体的な施策として展開されている企業は極めて少ない。人 材マネジメントの分野においては既にコンピテンシーという概念に基づき多くの企業で評 価・人事制度へのリンクが行われているが、技術戦略の視点から技術者の高い意欲や知識を 評価し、処遇へ結びつけるといったケースは殆どないのではないか。技術資源も最後は人 (技術者・技能者)に依存する部分が多分に存在する。科学・工学に対する優れた知識や、 経験や訓練に基づく優れた技能を持っていても、それを表現する能力や製品化してやろうと いう意欲がなければ、それらが財に結びつくことはない。この意味で、私たちは技術者・技 能者のこうした意欲・能力も技術資源として捉え、評価・処遇の仕組みを構築していくべき と考える。

技術経営における技術資源管理に関する一考察 図3 社内技術資源の分析 (出所:三菱総合研究所) 図4 技術者への技術情報フィードバックと目標設定 (出所:三菱総合研究所)

(12)

3.3 技術資源管理上重要なポイントとTRM(Technology Resource

Management)

     技術を財に変えるために重要な視点として、1)技術的な競争優位を作りあげる、2)保 有している技術リソースを効率的に活用する、3)技術者に対し保有する知識・技能を的確 に表現できる能力を身につけてもらうと同時に、十分にモチベートしその能力を発揮しても らう、という3つを挙げ、それぞれにおける技術資源管理の重要性を整理した。社内技術資 源を管理するにあたっては、この3つに最終的に結びつく形で行うことがポイントである。      社内の技術についてインベントリを作成し、これに基づき技術情報を収集する仕組みを持 つ企業は多い。しかしながら、殆どの企業で情報を集めるだけの仕組みとなっており、収集 した情報を活用できている企業は少ない。こうした情報は技術戦略(さらには経営戦略)へ の展開と情報提供者への評価・処遇という形でフィードバックされて始めて技術経営上意味 を持つものとなる。      三菱総合研究所 ビジネスソリューション事業本部では社内技術資源管理をベースに、技 術を財に変えていくプロセスを支援するTRM(Technology Resource Management)という サービスを提供している。TRMのアプローチは図5に示すとおりであるが、単なる社内技 術資源の把握だけでなく、技術戦略の立案・人材育成の支援・技術戦略の実践に適した評価 制度の設計などの面から、クライアントの技術経営の実践を支援するものである。      ここで提案する技術リソースマネジメントのアプローチは、まず「内部環境(技術リソー ス)」に着目し、可視化した技術リソースを軸に、外部環境・ありたい姿とのギャップを把握、 そのギャップを埋めるための手段(戦略)を立案し、それを展開・評価するというものであ る。

研究ノート Research Note 図5 TRMのアプローチ (出所:三菱総合研究所)

(13)

     例えば、設備メンテナンス系の企業では、下図に示すフレームを用いて技術を可視化する 事が可能である。      技術資源を可視化し図5に示すアプローチをとることにより、図7に示す技術戦略上さら には人材マネジメント上の効果が期待できる。まだいくつかの課題を持つアプローチではあ るが、技術を財に変えるための方法論として、多くの可能性を秘めている。

技術経営における技術資源管理に関する一考察 図6 技術資源の整理フレーム(例:メンテナンス業界) (出所:三菱総合研究所) 図7 TRMのメリット (出所:三菱総合研究所)

(14)

筆者紹介

デスバレー現象と産業再生

筆者紹介 1952年生まれ.1979年東京大学経済学部経済学科卒業.(株)日本リサーチセン ターを経て、1984年(株)三菱総合研究所入社.現在、政策・経済研究センター 長、主席研究員.専門は自動車産業を中心とした産業分析、市場分析および製品 市場戦略・事業戦略策定. 井上 隆一郎 Ryuichiro Inoue 1958年生まれ.1981年一橋大学経済学部卒業.同年(株)三菱総合研究所入社.現 在、情報通信政策研究部 情報通信戦略チーム チームリーダー、主席研究員.専 門は情報・通信戦略. 二瓶 正 Tadashi Nihei 1963年生まれ.1987年東京大学工学部土木工学科卒業.同年(株)三菱総合研究 所入社.現在、産業政策研究部 産業デザイン研究チーム チームリーダー、主任 研究員.専門は産業政策、産業イノベーション政策、マーケティング・コンサル ティング. 石川 健 Ken Ishikawa 1970年生まれ.1993年東京大学理学部天文学科卒業.1995年同大学院理学系研究 科終了.1997年(株)三菱総合研究所入社.現在、安全技術研究部 原子力安全 研究チーム、研究員.専門は原子力工学、システム工学. 船曳 淳 Jun Funabiki 1955年生まれ.1978年東京大学工学部土木工学科卒業.1983年Cornell大学大学 院社会環境工学研究科修了.日本国有鉄道を経て、1987年(株)三菱総合研究所 入社.現在、科学技術政策研究部長、主席研究員.専門は科学技術政策、技術評 価・実用化. 村上 清明 Kiyoaki Murakami 1958年生まれ.1982年九州大学工学部機械工学科卒業.本田技研工業(株)を経 て、1990年(株)三菱総合研究所入社.現在、科学技術政策研究部、主席研究員. 専門は科学技術政策、新事業戦略、自動車工学. 田中 秀尚 Hidehisa Tanaka 1963年生まれ.1987年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業.1989年同大学院理 工学研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、科学技術政策研究部、 主任研究員.専門は技術評価、経済性評価、オペレーションズリサーチ. 高橋 寿夫 Hisao Takahashi 1964年生まれ.1987年大阪大学工学部環境工学科卒業.1989年同大学院環境工学 研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、科学技術政策研究部、主任 研究員.専門は科学技術政策、大学評価、技術動向調査. 山本 誠司 Seiji Yamamoto

知識産業時代の技術経営

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筆者紹介 1967年生まれ.1990年東京大学工学部土木工学科卒業.1992年同大学院工学系研 究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、科学技術政策研究部、主任研 究員.専門は技術の経済的評価、知財分析、社会システム分析. 河合 毅治 Takeharu Kawai 1970年生まれ.1992年同志社大学文学部(米国史研究)卒業.日本放送協会 (NHK)記者を経て、2002年(株)三菱総合研究所入社.関西研究センター、研 究員.2003年京都大学大学院経済学研究科(組織経営分析)博士前期課程修了.現 在、同大学院経済学研究科(組織経営分析)博士後期課程在籍.専門は新事業創 出(インキュベーション、ベンチャーキャピタル)、企業広報. 桐畑 哲也 Tetsuya Kirihata 1959年生まれ.1982年上智大学理工学部電気・電子工学科卒業.同年(株)三菱 総合研究所入社.1992年筑波大学大学院経営・政策科学研究科修了(経営学修士). 現在、企業経営研究部 経営システム研究チーム、主任研究員.専門は経営情報、 IT戦略、ITマネジメント.2003年4月より大阪大学大学院経済学研究科客員教 授(兼任). 歌代 豊 Yutaka Utashiro 1968年生まれ.1991年早稲田大学理工学部工業経営科卒業.1993年同大学院理工 学研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、経営システムソリューショ ン事業部 研究開発システムグループ、主任研究員.専門は経営工学. 前間 孝久 Takahisa Maema 1972年生まれ.1995年慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業.1997年同大学院理 工学研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、経営システムソリュー ション事業部 研究開発システムグループ、研究員.専門は経営工学. 魚住 剛一郎 Koichiro Uozumi 1956年生まれ.1978年慶應義塾大学経済学部卒業.同年(株)三菱総合研究所入 社.現在、情報通信政策研究部長、主席研究員.専門は情報通信、eビジネス. 佐野 紳也 Shinya Sano 1961年生まれ.1983年北海道大学工学部建築工学科卒業.1985年同大学院環境科 学研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、IPv6事業開発部長、 主席研究員.専門は地域情報化政策、都市開発、環境計画. 中村 秀治 Shuji Nakamura

大学発ベンチャー育成とベンチャーキャピタル 

技術経営における技術資源管理に関する一考察

アーキテクチャ創造企業の萌芽

デジタル情報流通市場の中期展望

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筆者紹介 1958年生まれ.1981年一橋大学経済学部卒業.同年(株)三菱総合研究所入社.現 在、情報通信政策研究部 情報通信戦略チーム チームリーダー、主席研究員.専 門は情報・通信戦略. 二瓶 正 Tadashi Nihei 1955年生まれ.1979年東京大学理学部情報科学科卒業.1981年同大学院理学系研 究科修了.1982年(株)三菱総合研究所入社.現在、情報技術研究部 先端情報 技術チーム チームリーダー、主席研究員.専門は計算機技術(並列処理技術、 等). 市吉 伸行 Nobuyuki Ichiyoshi 1949年生まれ.1973年東北大学理学部数学科卒業.(株)東芝を経て1979年(株)三 菱総合研究所入社.現在、取締役 情報環境研究本部長.専門は人工知能、コン ピュータサイエンス、情報技術政策など. 小林 慎一 Shinichi Kobayashi 1966年生まれ.1990年東北大学理学部地球物理学科卒業.1992年東京大学大学院 理学研究科修了.同年(株)三菱総合研究所入社.現在、サステナビリティ研究 部 環境政策・経営研究チーム、主任研究員.専門は環境政策、国際環境条約、 貿易と環境、アジアと環境、生物多様性条約. 林 希一郎 Kiichiro Hayashi

Findings from ABS Cases and National and International Legal Instruments

アイルランドの経済成長とソフト産業

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三菱総合研究所 所報4

2号 特集号「産業再生と技術経営」

――――――――――――――――――――――――――――――――― 発 行 日:2003年11月25日 発  行:株式会社三菱総合研究所      〒100−8141 東京都千代田区大手町二丁目3番6号      電話(03)3270−9211〔代表〕 http://www.mri.co.jp/ 発行・編集:中村喜起 印  刷:エム・アール・アイ ビジネス株式会社      弊社への書面による許諾なしに転載・複写することを一切禁じます。

     Printed in Japan,  Mitsubishi Research Institute, Inc. 2003      3-6, Otemachi 2- chome, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8141, Japan      Tel.(03)3270-9211 http://www.mri.co.jp/ ―――――――――――――――――――――――――――――――――      *この印刷物は上質再生紙を使用しています。 [所報編集委員会]   委 員 長:尾 原 重 男   編集委員:芝   剛 史        青 柳   雅        野 口 和 彦        小 林 慎 一        宮 武 信 春        平 石 和 昭        谷   明 良        高 尾 建 次 [査読者]   芝   剛 史   内 野   尚   田 中 秀 尚   磯 部 悦 男   中 村 秀 治   内 海 和 夫   三 嶋 良 武   谷   明 良

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また,文献 [7] ではGDPの70%を占めるサービス業に おけるIT化を重点的に支援することについて提言して

このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本

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