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評論・社会科学 123号(P)☆/1.福田

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要約:本稿では,「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」というテーマで,知 的障害者と一緒に調査をすることを試みた調査活動を紹介し,インクルーシブリサーチに 関するいくつかの観点から検討を加える。その観点とは,1)言語だけに頼らない多様な方 法を用いること,2)知的障害者のポジティブな変化,3)障害のない人の変化である。我 が国においては,知的障害者が調査のプロセスに参加する研究の蓄積は,英語圏のそれに 比べて極めて少ないことから,知的障害者が自らの権利や差別といった問題をテーマとし た調査研究にアクセスしたり,そのプロセスに参加したりできる状況を作っていく必要が ある。 キーワード:知的障害者,社会的排除,調査,参加,インクルーシブリサーチ 目次 1.はじめに 1-1.実施に至るまでの経緯 1-2.調査活動の実施から本稿の執筆に至るまでの経緯 2.「まちづくり協働研究」の概要 2-1.実施内容 2-2.研究倫理上の手続きについて 2-3.結果の概要 3.インクルーシブリサーチに関する先行研究からの示唆 3-1.インクルーシブリサーチの概要 3-2.言語だけに頼らない多様な方法を用いる必要性 3-3.障害のある本人の変化への着目 3-4.障害のない人にもたらされる学び 4.終わりに ──────────── 1)同志社大学社会学部嘱託講師 2)奈良女子大学生活環境科学系准教授 3)立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員 4)同志社大学社会学部実習助手 *2017 年 9 月 27 日受付,2017 年 10 月 16 日掲載決定

研究ノート

調査活動「みんなが行きたくなるカフェって

どんなカフェ?」

──インクルーシブリサーチの観点からの検討──

森口弘美

1)

・井口高志

2)

太田啓子

3)

・松本理沙

4) 83

(2)

1

.はじめに

筆者らは 2015 年度に「障害のある人から学ぶまちづくり協働研究−障害のあるリサ ーチャーおよび学生サポーターの育成」(以下,「まちづくり協働研究プロジェクト」ま たはプロジェクトとする)として,障害のある人との協働によって,カフェを題材とし た調査活動に取り組んだ(1)。本稿では,この調査活動の概要,および振り返りで明らか になったことを紹介する。 1-1.実施に至るまでの経緯 「まちづくり協働研究」の取り組みのきっかけは,A 法人(2)において新しくコミュニ ティカフェを併設した福祉ホームを建設することになり,筆者が法人の職員からそのコ ンセプトについて相談を受けたことであった。福祉ホームとコミュニティカフェが地域 に暮らす人たちの福祉の拠点としての機能を果たせるようにという方向性のもと,コミ ュニティカフェの開店までのプロセスに多様な人たちに関わってもらうための戦略とし て,「障害のある人たちと地域の大学生が一緒にカフェの運営に活かすことのできるア イデアを出すための調査活動をする」というプロジェクトを A 法人の職員と一緒に練 っていった。 「障害のある人たちと地域の大学生が一緒に調査をする」というアイデアは筆者が提 案したものであるが,その背景としては次のことが挙げられる。そのひとつが筆者が知 的障害者のソーシャルインクルージョンをテーマとした研究に携わってきており,その なかで知的障害者が調査研究のプロセスに参加する試みが,少なくとも国内においては 研究においても実践においても先行例が希少であると認識していたという点である。 「知的障害者が調査をする側になる」ことをめざした国内における先行例には,当事者 主体の自己決定支援モデルの開発をめざして,知的障害者をインタビューの参加者とし て位置付け分析結果に調査参加者の意見を反映させた笠原の研究(笠原 2006),障害当 事者の参加による福祉サービス運営・評価のプログラム開発をめざして,ガイドヘルプ 事業の利用者に知的障害のある当事者研究員がインタビュー調査を行うことを試みた茨 木の研究(茨木 2007)が見られるのみである。このように先行例が少ないことから, 実践現場の課題解決という目的のみならず,障害者福祉研究の蓄積という点で取り組む 意義があるのではないかと考えた。 いまひとつの背景としては,筆者の前職である A 法人が取り組んでいたインクルー シブデザインの経験が挙げられる。インクルーシブデザインは,さまざまな背景やニー ズをもつ人たちが,ものづくりやサービス提供,あるいは何らかの活動やマネジメント 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 84

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などのデザインプロセスの上流に参加することをめざす手法であり,近年さまざまな分 野で取り組まれるようになってきている。多様でユニークな一人ひとりの経験を大切に し,そこから学ぼうとすることで,すぐれたデザインが生まれるというインクルーシブ デザインの考え方を応用して,知的障害のある人と調査や研究をすることができるので はないかと,筆者自身が以前から思いめぐらせていた。そこに A 法人の職員からコミ ュニティカフェに関する相談を受け,まちづくりの上流にある調査というプロセスに多 様な人が参加する「まちづくり協働研究」という構想に至った。なお,企画の実施にあ たっては,インクルーシブデザインのワークショップへの参加経験がありかつ研究者と してインクルーシブデザインに関する論文がいくつかある研究協力者(3)に協力を要請し た。実際の講座の内容や調査の枠組みなど具体的な決定事項はこの研究協力者の判断に 基づくことが多かった。 1-2.調査活動の実施から本稿の執筆に至るまでの経緯 プロジェクトは,地元の大学の教員,福祉事業所の職員の協力を得て,公益財団法人 三菱財団平成 27 年度社会福祉事業・研究助成「障害のある人から学ぶまちづくり協働 研究−障害のあるリサーチャーおよび学生サポーターの育成」(研究代表者:森口弘美, 共同研究者:井口高志,内山尚子,谷美奈)として実施した。その詳細については第 2 章で述べるが,研究代表者や共同研究者も含む参加者全員(計 28 名)がリサーチャー となって取り組んだ調査活動と,研究代表者・共同研究者・事業所の支援者(計 11 名 /全員が調査活動のリサーチャーでもある)がプロジェクトの企画・実施の準備や進 行・検証を行うという二重の構造になっている。 調査活動の検証結果については,プロジェクトの報告書『参加のための調査活動−み んなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?』としてまとめるとともに,活動の様子 の動画を編集した DVD を作成し,助成団体への報告を行うとともに,学会発表や研究 会等でも取り組みを紹介してきた。並行して,この調査活動が学術的にどのように位置 付けられるのか,またこの調査活動で生じたいくつかの課題をどのように解決したらい いかを検討したいと考え,海外の文献を調べるなかで出会ったのが,インクルーシブリ サーチという言葉であった。筆者には,ようやくこのプロジェクトの意義や可能性を検 討できる枠組みを得たように感じられた。 インクルーシブリサーチは,ここ 20 年ほどの間にイギリス,アイルランド,オース トラリア,北欧で広がってきており,インクルーシブリサーチとして発表されている論 文のほかに,インクルーシブリサーチという言葉を使わない同様の調査研究が英語文献 では多くみられる。そして,それらの文献のなかには,私たちが取り組んだ調査活動で 生じた課題を解決するヒントが得られたものもあった。そこで,英語文献から得られた 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 85

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観点をいくつか抽出し,その観点に沿って,「まちづくり協働研究プロジェクト」を振 り返る作業を行った。本稿はその報告である。 なお,本研究ノートの執筆においては,英語文献から有用だと考えられる観点を抽出 し,調査活動に照らし合わせて原稿にする作業は主に筆者(森口)が行った。その作業 の過程において,社会福祉研究に携わるメンバー 3 名と,社会福祉研究としての課題や 可能性について意見交換を行い,また主に研究倫理に関する原稿確認を行ったことか ら,この 3 名を本稿の共著者とした。 さらにもう 1 点,本稿で言及しておくべき経緯がある。それは,インクルーシブリサ ーチの定義に関することである。Nind は,Walmsley and Johnson(2008)を引用しなが らインクルーシブリサーチの定義を示すなかで,「調査の課題は障害者自身のものであ るべき」という点をまず第一に挙げている(Nind 2014)。つまり,インクルーシブリサ ーチとは,知的障害者の暮らしや権利に関わる事柄について調査をするものであり,本 稿で参照する英語論文はすべて,知的障害者の暮らしや権利に関わることが調査のテー マとなっている。それに対して,「まちづくり協働研究プロジェクト」は,コミュニテ ィカフェのアイデアを出すことを第一の目的とした。そのため,インクルーシブリサー チについての文献を読んだ時点においては,この調査活動そのものはインクルーシブリ サーチとは言えないと筆者は考えた。 しかしながらこの点について,筆者は 2017 年 8 月にインクルーシブリサーチという 言葉を提起した Walmsley(4)氏に会って直接質問することができ,「『まちづくり協働研 究プロジェクト』はインクルーシブリサーチであると言える」という回答を得た。 Walmsley 氏の見解では,インクルーシブリサーチは広がりのある概念ととらえてかま わないとのことであった。そこで,この回答を受けて再度,定義の文言のとらわれずに 「まちづくり協働研究プロジェクト」を捉え直してみた。前項で記したように,筆者自 身は知的障害者のソーシャルインクルージョンをテーマに研究をしてきており,そのな かで,知的障害者が調査の「対象」ではなく,「調査をする側」になることに,知的障 害者のソーシャルインクルージョンの実現をめざすにあたって何らかの有効性があるの ではないかと感じていたことは確かである。「まちづくり協働研究プロジェクト」は, 具体的な目的としてはコミュニティカフェのアイデアを出すということを掲げてスター トしたものであるが,プロジェクトの構想に至ったそもそもの問題意識として,知的障 害者が排除されがちな社会において,知的障害者が調査研究に参加することがその排除 のメカニズムを変えることにつながると考えたという点では,インクルーシブリサーチ の一つの試みと言える。つまり,調査活動の目的はコミュニティカフェのアイデアを出 すということであったが,「まちづくり協働研究プロジェクト」全体としては,知的障 害者のインクルージョン,つまり「調査の課題は障害者自身のもの」であったと言え 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 86

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る。 本研究ノートでは,「まちづくり協働研究プロジェクト」を,知的障害者の社会的排 除という課題に挑戦するためのインクルーシブリサーチの試行と位置づけ,英語文献か ら得られたいくつかの観点を参考に,今後,私たちがこの試みをどのように発展させて いくべきかについて記していく。

2

.「まちづくり協働研究」の概要

2-1.実施内容 プロジェクトの実施に必要な研究費を獲得するための申請書を完成させた時点で, 「まちづくり協働研究」の目的は,①新しく立ち上げるコミュニティカフェのアイデア を出すこと,②多様な障害のある人がまちづくりのプロセスに参加する意義やノウハウ を明らかにすることの二つに集約された。前章の整理にもとづくと,①は調査活動の目 的であり,②は「まちづくり協働研究プロジェクト」の目的であったと言える。 2015 年 6 月に研究費の採択通知が届いたことを受け,7 月より「まちづくり協働研究 プロジェクトチーム」(以下,プロジェクトチームとする)で会議をもち,全 5 回の講 座(調査の目的の理解,調査方法の学習,調査の計画,実施した調査のまとめ,発表準 備)および実際の調査と報告会を企画・実施した。この調査活動を企画・運営したプロ ジェクトチームは,近隣の大学で教育や研究に携わる者 6 人,そして A 法人および後 述する B 法人の 2 カ所の事業所の職員あわせて 5 人の計 11 人で構成し,計 3 回の会議 をもった。 プロジェクトチームでは,調査活動の参加者(リサーチャー)を募るにあたって,わ かりやすい名称が必要であると考え「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフ ェ?」というタイトルをつけた。この募集に応じたのは,コミュニティカフェを設置運 営する A 法人の利用者 5 人,同市内にある B 法人が運営する福祉型専攻科(5)の学生 5 人(6),そして同市内および隣府県の大学に通う大学生・大学院生 7 人である。調査活動 では,以上に述べたすべての人,計 28 人をリサーチャーと称し,4 つのチームを作っ て調査の準備,調査の実施,調査のまとめを行っていった。 5 回の講座は 2015 年 11 月∼翌 2 月に行い,その間の 2016 年 1 月に調査を実施,3 月に調査報告会を開催した。報告会の後にプロジェクトチームが中心となって活動記録 を収めた報告書とショートムービーを作成した。報告書とショートムービーの作成は, プロジェクトチームで行ったが,報告書にはルビやイラストを入れ,またショートムー ビーに出てくる文字にもルビをうち DVD に収めてリサーチャー全員に配布するなど, リサーチャー全員がアクセスできるように一定の配慮をした(7)。取り組みの全体の流れ 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 87

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とその詳細は表 1 のとおりである。 2-2.研究倫理上の手続きについて まず,本調査活動への参加への同意に関して述べる。プロジェクトチームが企画した 調査活動にリサーチャーとして参加した障害者 10 人,大学生・大学院生 7 人はすべて 本人が参加の意思を表明した者である。「リサーチャー募集」のチラシを用いて,障害 のある人には 2 か所の事業所の支援者を通じて,大学生・大学院生に対しては各大学の 教員の協力を得て呼びかけた。なお,障害者の参加を募るにあたって知的障害者に限定 しなかったのは,各法人における支援の現場においては障害の種別の違いがことさら強 調される場面はほとんどなく,調査活動に参加する有志を募るにあたり障害を限定する ことは,そうした支援の現場と協働で取り組むアクションとして不適切であると考えた からである。結果的に,二つの法人から参加の意思を表明した人たちのなかには知的障 害者が含まれていたことから,調査活動のプロセスにおいて知的障害のある人への配慮 が求められることになり,本取り組みの意図に十分沿うものになったと考えている。 次に調査活動のなかで取得した記録の扱いについて述べる。講座・調査・報告会とい う一連の調査活動において,写真と動画の記録を撮ったほか,これらの活動に参加する 日ごとに毎回リサーチャー全員が「気づき・発見シート」という用紙にその日の気づき や感想を記した。ほかには,講座で使用したワークシート,話し合いを記録したホワイ 表 1 取り組みの全体像 プログラムを企画するための 2 回の会議,リサーチャーの募集など。(2015 年 7∼11 月) プ ロ グ ラ ム 講座(1) (講座の会場はすべ て地元の C 大学) カフェってどんなところ?(2015/11/21) ・何のために調査をするのかの説明 ・自己紹介や約束事の確認 ・「私が行ったことのあるカフェ」「私が行ってみたいカフェ」を発表 講座(2) 「みんなが行きたくなるカフェ」はどうやったらわかるの?(2015/11/28) ・調査の方法として「観察」と「インタビュー」について学習 ・C 大学キャンパスで調査の練習 講座(3) 調査の計画をたてよう!(2015/12/19) ・調査先や調査内容,役割分担の決定 調査 4 チームぞれぞれで調査の実施(詳細は表 2 のとおり) 講座(4) 調査でどんなことがわかった?(2016/2/6) ・調査先で見てきたことや聞いてきたことの振り返りと発表 講座(5) 「みんなが行きたくなるカフェ」ってどんなカフェ?(2016/2/13) ・発表内容のまとめと調査報告会の準備 調査報告会 (会場は A 法人内) 「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」調査報告会(2016/3/3) ・調査結果の発表,質疑応答,コメンテーターによるコメント 振り返りのための 1 回の会議,調査の記録の動画(DVD)の作成,報告書の作成(2016 年 3∼9 月) 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 88

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トボードの記録がある。 これらの記録(写真・動画・書いたもの)については,1 回目の講座で記録をとる目 的を説明したうえで,リサーチャー全員が活動発表や研究発表として使って良いこと, 記録を使いたいときは写っている本人や書いた本人が「使って良い」と了承したものを 使うことなどを文書と口頭で説明した。また,記録について気になることや不安なこと があれば問い合わせることのできる担当者を調査チームごとに配置するなど,知的障害 者を含むリサーチャー全員にとって記録へのアクセスや使用の拒否が可能になるように 細心の注意を払った。 調査活動後に実際に行った作業としては,取得した記録(写真・動画・書いたもの) をいったんプロジェクトチームで共有した後,活動発表や研究発表で使えそうなものを 選んでショートムービーを作成した(このショートムービーには,動画の記録だけでな く,写真や書いたものの一部も含まれる)。このショートムービーと一部の写真を,リ サーチャー全員に対して「活動発表や研究発表に使って良いかどうか」確認する作業を 経た後,DVD に収めてリサーチャー全員に配布した。このほか,プロジェクトチーム のメンバーによる報告文,およびそれ以外のリサーチャーの感想を収録した報告書『参 加のための調査活動−みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?』を作成した が,ここにも確認作業を経た写真と「気づき・発見シート」の一部を使用した。本稿 は,この報告書を一部引用しながら執筆したものである。 なお,調査活動への参加や記録の扱いについては,書面による承諾書を得ることはし なかった。その理由は,この取り組みそのものがリサーチャー全員による共同研究とい う側面をもっていたことから,承諾書を得る作業が本取り組みの趣旨に対してネガティ ブな影響,すなわちリサーチャーとして参加する障害者や学生に「調査をする側に参加 するのではなく,調査をされる対象になる」という印象をもたらす可能性が高いと判断 図 1 「まちづくり協働研究」成果物 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 89

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したからである。 また,調査活動では計 6 か所の調査協力先からインタビューと観察(写真・動画を含 む)によってデータを収集しているが,調査協力先に対しては,調査によって得たデー タは個人情報に配慮した形で調査報告会での発表やカフェの工夫に取り入れるためにの み使う旨の説明を,文書と口頭で調査時に行った。 2-3.結果の概要 チームごとの調査先,目的や方法,および調査の結果は表 2 のとおりである。この調 査結果は「まちづくり協働研究」の目的の一つ目,すなわち「①新しく立ち上げるコミ ュニティカフェのアイデアを出すこと」に対応する(8) いまひとつの目的「②多様な障害のある人がまちづくりのプロセスに参加する意義や ノウハウを明らかにすること」については,報告書において,調査活動の各プロセスに 関して「こんな工夫が良かった」と「課題と提案」を整理して提示し,経験に基づいた ノウハウとして「Q&A」にまとめている(まちづくり協働研究プロジェクトチーム 2016 : 5-16)。またその意義については,次の 3 点にまとめられている。まず,知的障 害のある人が参加できる調査の方法は地域のさまざまな人がまちづくりに参加する仕掛 けとして応用できるという点,二つ目が,知的障害のある人が調査をする側になること で,調査に協力する地域の人の主体的な参加を促すことができるという点,三つ目は障 害のある人たちと一緒に調査をした大学生や研究者にとって,参加のあり方や協働のあ 表 2 調査の概要と結果 チーム 調査の目的 調査先 調査方法 調査結果 A 特徴のあるユニークなカ フェにしたいので,ほか のお店の特徴や工夫を調 査。 県内のカ フ ェ ( 2 カ所) カ フ ェ の 観 察,店員への インタビュー 笑顔を忘れない/店の入り口に看板があったらい い。絵がかいてあるともっといい/お手頃な値段 にする/おいしいものがある B ふだん町の中のカフェに 行きにくい人に来てもら うため,子育て中のお母 さんに調査。 市内の子 育て広場 (1 カ所) 場 所 の 観 察, スタッフと利 用者へのイン タビュー メニュー:お母さんが片手で食べられるもの/ア レルギーに対応してもらえる 環境:机のかどにクッションがある/子供も一緒 に入れるトイレ/くつのぬげるキッズスペース C 新しくできるカフェの近 所の人の意見や希望を聞 くために,近隣の地域に 住んでいる人や通ってい る人に調査 近隣の公 立高校 (1 カ 所) /A 法 人 生徒と先生へ のインタビュ ー/職員(近 隣に在住)へ のインタビュ ー 値段設定:単品で 100 円∼400 円くらい/コンビ ニより安い/ドリンクを頼むとお菓子がついてく る/子供が飲めるドリンク 環境:オープンで生徒と地域の人とが交流できる /清潔感があって,店員さんの印象が良くて,癒 しがある/子供が来やすい。子供を見てくれる。 D ふだん町の中のカフェに 行きにくい人に来てもら いたいのでケアが必要な 高齢者に調査。 近隣の高 齢者福祉 事業所 (1 カ所) 利用者と職員 へのインタビ ュー 大きなテーブルでみんなで話せる/ちょっとめず らしい食べ物がある/たまに居酒屋になる/笑顔 で会話できる! 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 90

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り方について学ぶ機会になったという点である(森口 2016)。

3

.インクルーシブリサーチに関する先行研究からの示唆

3-1.インクルーシブリサーチの概要 インクルーシブリサーチは,知的障害者を調査のプロセスに巻き込んでいくアプロー チのことであり(Walmsley 2001),知的障害者が調査のあらゆるプロセス,すなわちア イデアを出したり,調査のデザインをしたり,あるいはインタビュー,データ分析,論 文の執筆といった作業に主体的に参加していくことをめざす。そこでは知的障害者は調 査の対象(subject)や協力者(responder)ではなく,パートナー(research partner)や 共同調査者(co-researcher),あるいは彼ら自身が調査者(researcher)として位置付けら れる。 インクルーシブリサーチは他の調査方法と分断された特別な手法を指すわけではな く,さまざまなアプローチを含んでおり(Salmon et al. 2015),Walmsley らは「『参加 型』『アクション』あるいは『解放型』と言われてきたリサーチアプローチを射程に含 んでいる」と説明している(Walmsley and Johnson 2008 : 10)。英語論文をレビューす ると,単に「参加型リサーチ」(Richardson 2000 ; Ham et al. 2004 ; Wickenden and Kembhavi-Tam 2014)あるいは「参加型アクションリサーチ」(Sample 1996 ; Buettgen et al. 2012),「解放的ディスアビリティリサーチ」(Stevenson 2010)などさまざまに称 される調査において,知的障害者の参加が試みられている。そのようななか,インクル ーシブリサーチという新しい言葉を使う意図として Walmsley(2001)は,学術的な議 論に不慣れな人たちにとって混乱をまねかないわかりやすい表現であるという点でメリ ットがあると述べている。 本稿において参照する英語論文には,インクルーシブリサーチという言葉を使ってい ないものも含まれるが,いずれも知的障害者もしくは知的障害児が,調査の対象者では なく,調査のパートナーや共同調査者,あるいは彼ら自身が調査者となることを主要な 意図として取り組まれた研究である。 次項より,インクルーシブリサーチに関する英語論文から捉えられたいくつかの観点 から「まちづくり協働研究」を振り返る。 3-2.言語だけに頼らない多様な方法を用いる必要性 「まちづくり協働研究」の取り組みのなかで生じた課題の一つが,「まだ経験したこと がない未来のことを想像して計画をたてたり,自分の経験ではなく他人の経験にもとづ いて話を進めたりすることが苦手な人」(森口 2016)たちが,調査チームでの話し合い 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 91

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についていけなかった場面があったことである。 このような課題に対して,英語論文をレビューしてまず見て取れたのが,知的障害者 の調査への参加を促進するために,実に多様な調査方法が試みられているという点であ る。筆者らが取り組んだ「まちづくり協働研究」では,調査の目的をわかりやすい言葉 で表現したり,ルビやイラストを使ってわかりやすい資料を作ったりといった工夫や配 慮を行った。笠原(2006)や茨木(2007)の先行例でも,インタビュー等によってデ ータを集めそれを分析するという質的研究の一般的なスタイルを維持しながら,知的障 害者の参加の範囲を広げることがめざされている。これに対して,諸外国ではデータ収 集の段階で写真や絵などを用いる多様な方法が報告されている。

たとえば,Ollerton and Horsfall(2013)は,5 人の軽度知的障害者が共同調査者(co-researcher)になって,デジカメや携帯電話のカメラを使った写真を用いた調査に取り 組んでいる。まず共同調査者が,自分の生活をコントロールするうえで妨げになってい るものについて写真を撮り,プリントアウトした写真を元に研究者とディスカッション を行う。この対話的なディスカッションが共同研究者による分類やコード化のプロセス にあたる。具体例の一つとして,共同調査者の一人 Alex が撮影した「キッチンの扉」 という写真が紹介されている。そこには,彼が暮らすグループホームのキッチンの入り 口にある鉄の棒でできた扉が写っているが,この扉は入居者がナイフでけがをしないよ うに,また食べ過ぎないようにと設置されたものである。論文ではこの写真をめぐる対 話をとおして,Alex がライフスキルを学ぶ機会の平等が保証されていないという分析 結果が示され,この結果を受けて,グループホームに対してキッチンの扉を一般的な家 具のドアに替えることや Alex のライフスキルのプログラムの見直しを提案したことが 報告されている。

また,Wickenden and Kembhavi-Tam(2014)は,障害のある若者や子供が調査に参加 することで,彼らにとってのバリアを明らかにすることに取り組んでいる。ここでも写 真が効果的に活用されており,使い捨てカメラで「幸せなこと」「悲しいこと」「腹立た しいこと」「変えたいと思うこと」を撮影してその写真を元にディスカッションをする という方法が紹介されている。また同じ論文で紹介されている別の調査では,障害のあ る子どものグループを対象に「私の大切な人々を図に示す」「私の好きなこと・嫌いな ことをステッカーで示す」「課題のある物語を絵やサインで作り,その解決について話 し合う」「振り返りをする」という一連の取り組みの経緯とその結果が示されている。 筆者らが取り組んだ「まちづくり協働研究」は,言語を用いてデータを集めるという 方法に終始したが,このように言語に依拠する方法のみで調査を進めると,調査に参加 する知的障害者の力が十分に発揮できない可能性がある。もちろん,多様な手法を用い たからといって,障害者が調査のプロセスに十全に参加できるようになるとは限らない 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 92

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が,学術的な調査研究においてこれまで当たり前とされてきた「極度に言語に頼ったや りとり」(井口 2016)を見直すことが,知的障害者が調査のプロセスに参加するために 必要になることの一つである。 3-3.障害のある本人の変化への着目 言語のみに頼りすぎない方法,すなわち知的障害者にとって取り組みやすい方法を採 用するのは,その方法をとることで質の高い有効なデータを収集できるからという理由 だけではない。近年の先行研究においては,調査に参加することが障害者自身の気づき を促し,エンパワーメントにつながるという点が強調されている。

前項で紹介した Ollerton and Horsfall(2013)は,写真を使ったインクルーシブな参 加型アクションリサーチをとおして,「共同調査者たちが自分自身の権利について学ん だ」ことを結論として述べている。具体的には,この調査に取り組んだ背景のひとつと して,障害者権利条約で示されている権利の概念と,サービスを受けて暮らす障害者の 生活におけるリアリティにギャップがあることを挙げたうえで,「この調査に参加する ことで共同調査者は彼らの権利,すなわち権利が無視されたり違反されたりした時に, どのようにそれを主張するのか,どのようにそれを見分けるのか,どのようにコミュニ ケーションし行動を起こすのかを学んだ」と述べる(Ollerton and Horsfall 2013)。

また,Buettgen et al.(2012)は,当事者活動をしている 4 人の知的障害者と共に,27 人の低所得の障害者の協力を得て,「障害と貧困」をテーマにフォーカスグループイン タビューを行う参加型アクションリサーチに取り組んでいる。この研究では,この 4 人 の調査者が調査の戦略をたて,リサーチクエスチョンを考え,調査への参加者を募り, データ収集,分析,普及などを行っており,主著者である Buettgen は自分自身を共同 研究者(co-researcher)と位置づけている。そして,この参加型アクションリサーチを とおして,知的障害のある調査者および調査に協力した障害者たちが「障害と貧困」と いうトピックに関する情報にアクセスする機会になったこと,またインクルーシブなプ ロセスによって知的障害者が互いにエンパワーすることにつながったと述べている。 筆者らが取り組んだ「まちづくり協働研究」においても,障害者自身にポジティブな 影響がもたらされたと意味づけられる見解や言及が見られた。福祉型専攻科の学生に関 しては,B 法人の支援者が「自分の役割があり,しっかり果たそうとしたことがいい機 会となった。また,調査したことやまとめたことが,認められたことが自信にもつなが っている。……(中略)……ある保護者から,『今までなかったことですが,自分から 責任感を大事にする発言があり,成長に感謝している』という報告があった。」(阪東 2016)とある。また,A 法人の利用者でリサーチャーとして参加した女性は,近隣の 高校の生徒にインタビュー調査に行った体験について,「いよいよ本題のインタビュー 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 93

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だ!生徒達は質問したことを答えようと真剣な姿勢と顔になっていた。私もそれに答え ないとと,スイッチが入った。いつの間にかインタビューしながら手も動いていた。イ ンタビューもメモもひっしになってた」と「気づき・発見シート」に記している(9) 「まちづくり協働研究」のプロセスのなかで,障害のあるリサーチャーが調査という社 会的な活動を行うことで,自分の力を発揮しそれが認められる機会をもてたことがわか る。 このように,調査に参加することが障害者自身にポジティブな影響をもたらすことを 研究の意義に含むのであれば,その成果をエビデンスとして示すことも今後必要になっ て く る だ ろ う。そ の た め の 参 考 に な る の が,Salmon et al. (2015)の 研 究 で あ る。 Salmon et al.(2015)は,知的障害者が調査のプロセス,すなわちリサーチクエスチョ ンの決定,研究倫理,データ収集の方法,分析,調査結果の公開について学ぶプログラ ムを実施し,プログラムの参加者で研究への同意を得られた 25 人の受講者(うち 24 人 は知的障害者,1 人は精神障害者)の協力を得てその評価を明らかにする研究を行って いる。具体的には,フォーカスグループインタビューやクイズを用いて,プログラムの 前,実施中,実施後にデータを収集し,量的および質的の両方の手法を用いて分析し て,知識とスキルがどの程度高まったか,またプログラムの具体的な改善点などを明ら かにしていることから,障害のあるリサーチャーの変化についてのエビデンスの示し方 として参考になる点もあると考えられる。 3-4.障害のない人にもたらされる学び インクルーシブリサーチとしての展開可能性を考える際には,知的障害者の変化のみ を強調するだけでは十分ではない。Stevenson は,「ディスアビリティリサーチの方法 論,とりわけ知的障害者を巻き込む調査は,重要な哲学的,政治的,実践的な問題を浮 かび上がらせる」と述べ,従来の抑圧的な社会関係を再構築することの重要性を強調し ている(Stevenson 2010)。インクルーシブリサーチの成果を社会関係の再構築という観 点で捉えようとするならば,障害者の側の変化だけではなく,障害者の参加を得たこと による障害のない人の側の変化を捉えることが必要であり,そうした変化を示すために 行われるのが振り返り(reflection)の言語化である。 Stevenson(2010)は,25 人のダウン症の若者が共同調査者となって行った参加型調 査で試みた方法について論じている。タイトルにある「Flexible and Responsive Re-search」にも表れているように,研究者がフレキシブルに,また障害のある共同調査者 に対して応答する形で,どのように調査の方法を工夫し,従来のやり方を変化させたか を紹介している。たとえば,あるダウン症の男性がインタビューを主導することに興味 を示したことから,質問の合間にジェスチャーを入れることで彼が主導できるように工 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 94

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夫したこと,また二人のダウン症の女性はインタビューを主導したいと言ったため,彼 女らがインタビューを行い本来の調査者が共同調査者の役割をしたことが紹介されてい る。そして,結論の最後に「障害のない調査者が自分たちの仕事の政治性を認識し受け 入れる必要がある」と述べている。 研究者が自らの体験を振り返りそれを言語化する方法の一つに,オートエスノグラフ ィーがある。Woelders et al.(2015)は,3 人の知的障害者がリサーチパートナーとなっ て,5 人の研究者とチームをつくり,どのように知的障害者が政治,教育,調査に参加 し声をあげられるような環境をつくっていくかを明らかにするために,インタビューや フォーカスグループインタビュー,参与観察を行っている。そして収集したデータの分 析結果とは別に,調査のプロセスを振り返るなかでわかったことをオートエスノグラフ ィーによって言語化しており,こうした振り返りによって,障害のあるリサーチパート ナーのユニークな見方や自らの限界に研究者が気づくことになると述べている。 筆者らの取り組んだ「まちづくり協働研究」においても,障害のない人たちの気づき が言語化された。リサーチャーとして参加した大学院生の一人は報告書に寄せた感想の なかで,「同じリサーチャーという役割を持っていながらも,心のどこかでは障害のあ る人たちに対して学生として何かサポートできることがあるのではないか,という気持 ちもありました」と振り返り,「特に私に障害のある人たちへのサポートが求められて いるわけではなかったのですが,ささいな出来事でもどのような振る舞いをすべきかで 悩む場面が多かった」と述べている(まちづくり協働研究プロジェクトチーム 2016 : 19)。また,プロジェクトチームの研究者の一人は,本来の「社会調査を教える教員」 という役割をどこまでしてよいのか迷い,「どのくらい調査のセオリーに沿い,より良 い調査をめざしたらいいのかという葛藤を感じてしまっていた」と振り返っている。そ して最後に,「通常の社会調査の枠を自明の前提としている私のような立場の者の想定 をいかに変化させたか?」と問うべきではないかと投げかけている(井口 2016)。 「まちづくり協働研究」は,当初から社会関係の再構築を明確に意図していたわけで はなかったが,調査活動全体をとおして「みんなで一緒に」取り組むことを丁寧に働き かけ,リサーチャーがその努力をしたことで,結果的に障害のないリサーチャーに自分 自身の振る舞いや思考を改めて見直すきっかけががもたらされたと言える。ここでもや はり今後の課題となるのは,このような成果をどのようにエビデンスとして示すかとい うことであり,この点に関しては Nind(2015)にそのヒントを求めることができる。 Nind(2015)は,インクルーシブリサーチの体験者にフォーカスグループインタビュ ーを行い,その結果を受けてインクルーシブリサーチが生涯学習として理解される必要 があると述べる。Nind(2015)のこの研究は,知的障害のある人で自らの問題に関して 調査をしたことがある人,インクルーシブリサーチを主導したことのある知的障害者, 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 95

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知的障害者をパートナーとして調査をしたことのある研究者など計 66 人の参加を得て 収集したデータを分析し,インクルーシブリサーチが知的障害者にとってのみならず研 究者や支援者にとっても同じぐらい内面的な学習をもたらしたことを明らかにしてい る。

4

.終わりに

本稿 3 章 4 項で紹介した Salmon et al.(2015)の研究では,知的障害者がリサーチャ ーになることを目的としたプログラム「Research Active Program(RAP)」が取り上げら れているが,これはアイルランドのリムリック大学において Salmon らによって開発・ 実践されたカリキュラムである。Salmon et al.(2015)は,インクルーシブリサーチが 必要である根拠として障害者の権利条約の 33 条「国内における実施および監視」を挙 げている。条文では,締約国がこの条約の実施を促進・保護・監視するための仕組みを つくる必要性,そしてこの監視の過程に市民社会,特に障害者が関与する必要性が言及 されており,知的障害者が監視の役割を果たすために調査の力を高める必要があること から,カリキュラムの開発に至ったと述べている。また,本稿 3 章 3 項で紹介した Ollerton et al.(2013)は,障害者の権利条約にもとづいた参加型アクションリサーチを 行っており,Stevenson(2010)は知的障害者が調査に携わることを彼らの権利と述べ ている。このように,インクルーシブリサーチに関する議論においては権利に言及され ることが少なくない。 本稿で見てきたように,我が国では知的障害者が調査のプロセスに参加する研究の蓄 積は,英語圏のそれに比べて極めて少ない。知的障害者がさまざまな社会的な活動や情 報にアクセスする権利という点から考えても,知的障害者が自らの権利や差別といった 問題をテーマとした調査研究にアクセスしたり,そのプロセスに参加したりできる状況 を作っていくことが求められる。 なお,インクルーシブリサーチをめぐっては,研究倫理に関する問題,社会モデルや ノーマライゼーションといった障害をめぐるさまざまな理論との関連などについて活発 に議論されており,今後はこれらに関しても検討を行っていく必要がある。また,「ま ちづくり協働研究プロジェクト」の調査活動に参加した知的障害のある人は,こうした 調査に「参加したい」と自ら意思表示ができるような,いわば軽度の知的障害者であ り,報告書においても「参加者の障害の特性について暗黙のうちに条件がある(つま り,調査に参加しているのは自己決定が可能な人たちである)にも関わらず,それが表 面化されていない」(松本 2016)という課題が指摘されている。インクルーシブリサー チがより重度の障害のある人たちをどのように包摂していけるのか,こうしたチャレン 調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 96

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ジが,「社会関係の再構築」に向けてどのような道筋を描けるのかについても,今後の 課題として取り組んでいきたい。 注 ⑴ 公益財団法人三菱財団平成 27 年度社会福祉事業・研究助成「障害のある人から学ぶまちづくり協働研 究−障害のあるリサーチャーおよび学生サポーターの育成」(研究代表者:森口弘美,共同研究者:井 口高志,内山尚子,谷美奈)として実施したもの。 ⑵ 本稿で A 法人という場合,障害者福祉事業を実施している社会福祉法人とこの法人と一体的に活動を している一般財団法人の両方を含めることとする。筆者は 2012 年 3 月までの 18 年間この法人で働い ていた(嘱託職員の期間を含む)経験をもつ。 ⑶ 本稿の共著者である太田啓子。

⑷ Jan Walmsley. 所属は Jan Walmsley Associates.

⑸ 知的障害や発達障害のある人にとって支援学校の高等部卒業後の進路は就職か福祉的就労の二者択一 である場合が多い。そこで第 3 の選択肢をつくるべく,継続教育の場として障害のある学生を受け入 れる専攻科を設けている学校がある。近年,福祉事業(自立訓練・生活訓練)を活用した福祉型専攻 科の取り組みが広がりつつあり B 法人はその一つである。 ⑹ A 法人,B 法人からは,身体障害,知的障害,精神障害のある人が参加した。 ⑺ 知的障害のあるリサーチャーが研究成果にアクセスできることを目指すのであれば,本来はルビをう つだけでなく,わかりやすい表現にする等の工夫や検証が必要であるが,時間的な制約等の事情から そこまでに至らなかった。 ⑻ 実際にここで挙がったアイデアについては,2016 年 5 月にオープンしたコミュニティカフェにおい て,「笑顔が大事」といった理念や心がけの面では反映された可能性はあるが,ハード面の仕様や価格 設定など具体的な提案については本稿を執筆している時点では特に採用されたものはないため,目的 が十分に達成されたとは言い難い。一方で,この「まちづくり協働研究」を計画した背景にある「コ ミュニティカフェの開店までのプロセスに多様な人たちに関わってもらう」という意図については, 調査活動をきっかけに近隣の高校や高齢者福祉事業所を訪れ,新しくオープンするカフェについて説 明し,意見を聞いて対話ができたこと等は成果と言える。さらに知的障害のある人が調査をするとい うユニークな試みであったことから,活動の様子が新聞の地域面に写真入りで掲載され,地域の人に コミュニティカフェの情報やそのコンセプトをアピールすることもできた。 ⑼ 「気づき・発見シート」に記された記録の一部であり,本人の了承を得てショートムービーで紹介した もの。 文献 阪東俊忠,阪東悦子(2016)「福祉型専攻科の学生にとっての調査活動」まちづくり協働研究プロジェクト チーム『参加のための調査活動−みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?』(公益財団法人三 菱財団「障害のある人から学ぶまちづくり協働研究」報告書),29-30.

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察」『社会福祉実践理論研究』15, 15-25. まちづくり協働研究プロジェクトチーム(2016)『参加のための調査活動−みんなが行きたくなるカフェっ てどんなカフェ?』(公益財団法人三菱財団「障害のある人から学ぶまちづくり協働研究」報告書). 松本理沙(2016)「『参加のための調査活動』に求められる『知的障害者』像とは?」まちづくり協働研究 プロジェクトチーム『参加のための調査活動−みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?』(公 益財団法人三菱財団「障害のある人から学ぶまちづくり協働研究」報告書),33-36. 森口弘美(2016)「『参加のための調査活動』とは」まちづくり協働研究プロジェクトチーム『参加のため の調査活動−みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?』(公益財団法人三菱財団「障害のある 人から学ぶまちづくり協働研究」報告書),24-26.

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調査活動「みんなが行きたくなるカフェってどんなカフェ?」 98

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In this paper, we introduce the research activity “What kind of cafeteria everyone likes to go?” in which we tried to research with people with intellectual disabilities, and reconsider the research activity in some aspects related to Inclusive Research. The aspects are 1) Various meth-ods not limited to languages, 2) Positive change of people with intellectual disabilities, 3) Change of people without disabilities. In Japan, few inclusive research has been done. It is nec-essary to make people with intellectual disabilities to be able to access and participate in re-searches on their own rights or discrimination.

Key words : People with intellectual disabilities, Social exclusion, Research, Participation,

In-clusive research

Research Activity “What Kind of Café Everyone Want to Go to?” :

A Study From the Viewpoint of Inclusive Research

Hiromi Moriguchi, Takashi Iguchi, Keiko Ohta and Risa Matsumoto

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参照

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