コンピュータサイエンスアンプラグドのピクトグラムとScratch利用による実装と評価
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(2) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 2. CS ア ン プ ラ グ ド . 3. 提 案 手 法 . 2.1 CS ア ン プ ラ グ ド と は . 本章では本研究で利用した Scratch と人型ピクトグラム. CS アンプラグドとは,ニュージーランドの Tim Bell 博. について説明する. . 士を中心に開発された,小学生程度の子供にコンピュータ 理を,わかりやすく教えることを目的とした教育法である.. 3.1 Scratch Scratch は MIT Media Lab の Lifelong Kindergarten Group. 日本では“コンピュータを使わない情報教育アンプラグド. によって開発されているプログラミング言語環境である 3.. コンピュータサイエンス”[4]が出版されており,12 の学. Scratch は,マウスを使用してグラフィカルな操作で命令. 習テーマが紹介されている.学習テーマについては表 1 に. に相当するブロック組み合わせることによって,難しい構. 記載する.CS アンプラグドの学習法は英語の他,21 の言語. 文を学習しなくても簡単にアニメーションやゲームを作る. に翻訳され,世界中で取り組まれている 2 . . ことができるのが特徴である.Scratch はプログラム単体. . ではなく,プロジェクトという単位でコンテンツを扱って. を使わずにデジタル化やアルゴリズムなどの情報科学の原. 表 1 日本語版 CS アンプラグド書籍の学習テーマ 学習. タイトル. いる.これには「お気に入り」や「いいね」に相当するマ. 学習テーマ. ーキングの設定や掲示板形式のコメント付与など,プログ. 1. 店を数える. 二進数. ラム単体だけではなく,プログラムを通じて発生するコミ. 2. 色を数で表す. 画像表現. ュニティを重要視しており,Scratch は一種のコミュニテ. 3. それ、さっきも言った!. テキスト圧縮. ィサイトとしての機能も有している.他の人のプログラム. 4. カード交換の手品. エラー検出とエラー訂正. をベースに改変する(リミックスと呼ぶ)ことも可能であ. 5. 20の扉. 情報理論. る. . 6. 戦艦. 探索アルゴリズム. プロジェクトの作成や編集,閲覧は全てウェブブラウザ. 7. いちばん軽いといちばん重い. 整列アルゴリズム. 8. 時間ないに仕事を終えろ. 並べ替えネットワーク. 9. マッディ市プロジェクト. 最小全域木. 10. みかんゲーム. 11 12. 上で行う.ネットワーク環境が用意出来ない利用環境を想 定して,独自アプリケーション形式のオフラインエディタ も提供されている.Scratch は小さい子供からその保護者. ネットワーク にお けるルー ティ ング. まで全ての年齢の人が使えるツールであるが,特に 8 歳か. とデッドロック. ら 16 歳の子供に向けてデザインされた学習環境であるた. 宝探し. 有限状態オートマトン. め,初等中等教育において情報処理,プログラミングを学. 出発進行. プログラミング言語. . ぶためのツールとして幅広く利用されている.Scratch で. 2.2 先 行 研 究 日本においても学習者の年齢や学力,授業形態や時間を. は,エディタに相当するスクリプティングエリアと実行画. 考慮して工夫され,小学生対象のワークショップ[5]や,中. 即時に実行中のプログラムに反映されるという利点も挙げ. 学校[6],高等学校[7][8],大学[9],職業訓練校[10]の授. られる. . 業の一環で実践され,学習効果があることがわかっている. . また Scratch のプロジェクトは共有設定で公開していれ. CS アンプラグドの手法は日本の学校の授業用に開発さ. ばサイトにアクセスすることで誰でも利用可能なため,コ. れていないため,日本の授業で使用する場合様々な工夫が. ンテンツを使用する際に特別にプログラムをインストール. 行われている.間辺らの研究 [8]では,授業時間が限られ. する必要がないという利点があげられる. . ている高校の授業において,デジタル教材の有用性につい 習者がアルゴリズムを確認するための操作の負担が小さい. 3.2 人 型 ピ ク ト グ ラ ム ピクトグラムとは日本語で絵記号,図記号と呼ばれるグ. ため,確認の試行回数が増える.そして試行回数が多いほ. ラフィックシンボルであり,意味するものの形状を使って . ど確認テストの正解率が高いことから,デジタル教材の有. その意味概念を理解させる記号である.特に具象物を表現. 用性が示唆されている.そこで,本研究では CS アンプラグ. したピクトグラムはその抽象度の高さから,それを見た人 . ドのデジタル教材を誰でも利用可能な形で実装し公開する. 物が自分自身や本人に関わる人物事物を想起させる効果が . ことを目的とした. . あると言われている[11].有名な「非常口」のピクトグラ . . ムは,デザイン策定の段階で,実際に避難中の人が如何に. て検証している.デジタル教材は具体物の教材に比べ,学. 面に相当するステージが併設されているため,スクリプト を確認しながらのプログラム実行や,スクリプトの改変が. 出口へ向かって走る人型ピクトグラムと自身とを同一視す 2 Computer Science Unplugged:http://csunplugged.org/ . 3 スクラッチホームページ:http://scratch.mit.edu/. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. . 2.
(3) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report るかにデザインの労力が払われた[11].人型ピクトグラム. て列挙した CS アンプラグドの単元に対しても同様に適用. の例を図 1 に示す.つまり人型の標準的なピクトグラムは. できると考える.ピクトグラムの利用は,特に高い「視認. 知覚のレベルでは,人自体や人の特定の状態を想起させる. . 性」,「判別性」を担保する.また「予測可能性」は,学習. . 者の日常動作や知識,経験に基づくトピックにすることで 解決する.独立性に関しては,文献[12]の中でコードの部 分片と画面上の動作との対応について述べられているが, 本研究では,実装コードの中身については議論と対象とし ないこととし,独立性については検討しない. 図 1 人型ピクトグラムの例 . 「学習者が持つ知識や状況から自身の体験や物事を想起. 一方認知のレベルでは,利用者の持つ知識や状況,そ. させる特性」の例として,Scratch のプロジェクト「tan. れを駆動する能力により具体的な人物とマッピングされう. を利用して重力を再現してみた」5(図 2)と,そこからリ. る. . ミックスされて作られた「トランポリン」6(図 3)をあげ. よって,表示された人型ピクトグラムやそれに付随する. る. . メタコンテンツの主体を,自分自身に投影する場合もあれ ば,他の特定の人物に射影して見なす者,特定のステレオ タイプの象徴と見なす者もあり得る.写真では映っている 特定の事物を想起し,イラストでも写実性の度合いに応じ て想起の対象が限定されてしまい,ピクトグラムのような 想起対象の多様性は生じにくい.筆者らの研究グループで は,このピクトグラム特性を利用したシステムをこれまで いくつか開発し,また人型ピクトグラムを使った Scratch プロジェクトもこれまでに数多く手がけている4. 3.3 設 計 指 針 , 手 法 . 図 2 プロジェクト「tan を利用して重力を再現してみた」 のスクリーンショット . 本手法では,「ピクトグラムの利用」,及び「学習者が持. . つ知識や状況から自身の体験や物事を想起させる特性」を 活用する. 岡本らは,プログラミングの概念理解に関して,出力の 動作を視覚的に顕在化することの重要性を指摘しており, 視認性,判別性,予測可能性,独立性の 4 つの状態から評 価し有効性を示し,プログラミング教材作成の際の指針と して提案している[12].ここで岡本らが提示する,4 つの 側面とその具体的解決方法について表 2 に示す. . . 表 2 視覚的顕在化と具体的解決方法(文献[12]より抜粋. 図 3 プロジェクト「トランポリン」 . 要約) 視覚的顕在化の 4 つの状態 視認性(大きさ,速さなど が視認可能な動作ででる) 判別性(周囲の視覚的要素 を区別して認識可能) 予測可能性(動作および動 作位置が予測できる) 独立性(他の命令に基づく 動作と区別分離できる) . のスクリーンショット 具体的解決方法 表示サイズや動作速度を適切 に変更する 表示位置を分離するか,他の 視覚的要素から際立たせる 事前に明示するか,既存の知 識や経験をもとに容易に予測 できるようにする 複数の動作を区別が可能なか たちに分離する . 「tan を利用して重力を再現してみた」は Scratch 上で重 力を再現するプロジェクトとして共有され,多くのリミッ クスが公開されている.リミックスの一つである「トラン ポリン」では,スクリプトをほとんど変えること無く,ボ ールを人型のピクトグラムに変更することで,重力をより 身近に感じるトランポリンを題材とした作品にリミックス している.3.2 節で説明したピクトグラムの特性を使い,. . CS アンプラグドで扱われている教材に人型を中心とする. 岡本らは,プログラミングを対象としているが,表 1 に. ピクトグラム群を加えることで,過去体験を想起させる.. 4 https://scratch.mit.edu/users/GOSEICHO/. 5 http://scratch.mit.edu/projects/62692170/ 6 http://scratch.mit.edu/projects/67072802/. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 3.
(4) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report このように,日常慣れ親しんでいる風景を題材にすること で親近感を持たせ,学習効果と学習者の教材に対する興味 の向上を目指した. . 4.3 並 べ 替 え シ ー ソ ー 4.3.1 概 要 本件では,おもりを「人型ピクトグラム」,天秤を「シー ソー」に変更することで,天秤とおもりを題材にしたプロ. . グラム自体をほとんど変更すること無く,学習者の経験を. 4. 整列アルゴリズムの実装 . 想起させることができるデジタル教材「並べ替えシーソー」. 4.1 概 要. に変化させた.人型ピクトグラムを使いシーソーを模した. 整列アルゴリズムは日本語版 CS アンプラグド書籍(表 1. デジタル教材「並べ替えシーソー」8のスクリーンショット. 参照)の第 7 章「いちばん軽いといちばん重い」で扱われ. を図 6 に示す.また,2 つのデジタル教材には,手動でお. ている学習テーマである.このテーマでは,天秤と重さの. もりを整列させる機能と自動で整列させる機能を実装した. . 違うおもりを使い,おもりを重さ順に並べ替える過程で整. . 列のアルゴリズムを体感し学ぶ.本研究では,このテーマ で使う教材を参考に,天秤とおもりを模したデジタル教材 「並べ替え天秤」と,おもりを人型ピクトグラムに変更し シーソーを模したデジタル教材「並べ替えシーソー」の 2 つを実装した. 4.2 天 秤 で の 実 装 Scratch プロジェクトとして CS アンプラグドそのままの 天秤とおもりのデジタル教材「並べ替え天秤」7を実装した. スクリーンショットを図 4 に示す.またお も り を 乗 せ る ことで図 5 のように視覚的に重さを比較することがで き る . . 図 6 プロジェクト「並べ替えシーソー」 のスクリーンショット 4.3.2 手 動 整 列 機 能 並べ替えシーソーの手動整列機能の操作手順は以下の (1)〜(4)のとおりである. (1) 要 素 数 の 決 定 初期画面において緑の旗をクリックすることで,要素数 分の人型ピクトグラムを表示する.学習者が個々のピクト グラムを識別しやすいように一文字のアルファベットを付 記する.個々のピクトグラムは,変数「体重」をそれぞれ 有する.個々の体重はすべて異なる値となっており,この. . 値を使って整列を行なう. . 図 4 プロジェクト「並べ替え天秤」 . また標準では 7 体だが,プログラム中の「ピクトグラム. のスクリーンショット . の数」表示させることで,人型ピクトグラムの数を 2〜9 体まで増減できる. 以下(2)と(3)を繰返し行なう. (2) 人 型 ピ ク ト グ ラ ム の 移 動 比較する 2 体の人型ピクトグラムをドラッグアンドドロ ップにより図 6 中の「人型ピクトグラム設置エリア」の緑 色部と青色部にそれぞれ 1 体ずつ移動する. (3) シ ー ソ ー に よ る 重 さ の 比 較 機 能 重さがシーソーに反映され傾く.人型ピクトグラムを乗 せた状態を図 7 に示す. . 図 5 おもりを乗せた状態 のスクリーンショット 7 並べ替え天秤: http://scratch.mit.edu/projects/93251980/. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 8 並べ替えシーソー: http://scratch.mit.edu/projects/92585101/. 4.
(5) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. ートのアルゴリズムは体重の最も重いピクトグラムから決 定してゆくアルゴリズムを採用している.ソートの手順は, 全ての人型ピクトグラムを比較し一番体重の重い人型ピク トグラムを選び,次に残った人型ピクトグラムの中から一 番体重の重い人型ピクトグラムを選ぶ.これを繰り返し整 列させていく.選択ソート実行中は, 「現在の状態」が「選 択ソート実行中」の表示に変わり,終了時には「選択ソー ト終了」の表示に変わる.位置が確定した人型ピクトグラ ムは座るコスチュームに変えることで視覚的に認識させる. . これはアルゴリズムを理解するための補助的役割と,重. 図 7 人型ピクトグラムを乗せた状態 . さ順に並ぶ行為を想起させるための補助的役割を同時に担. のスクリーンショット . っている.現実世界でチーム決めや背順に並ぶといった行. . 為を行う際に,未決定の人は直立し,決定した人は座るこ. 左右同時に人型ピクトグラムを乗せた状態を比較状態と. とで状態を表現することが頻繁にあるからである. . 認識し,比較状態の回数をカウントし,画面上部に比較回. . 数を表示する. . (2) ク イ ッ ク ソ ー ト に よ る 自 動 整 列 機 能 . (4) 整 列 確 認 . 「現在の状態」が「自由移動」の状態で Q キーを押下す. スペースキーを押下すると赤いスキャン棒が画面左から. るとクイックソートのアルゴリズムに基づいて人型ピクト. 右へ移動し,人型ピクトグラムが,画面下部に表示してあ. グラムを自動で並べ替える.ソートの手順は,ソートする. る「軽い↔重い」の表記通りの順番に整列できているかを判. 列の中心のピクトグラムをピボットに選択し,その他の人. 別する.整列できている場合は「正解」 (図 8 参照)できて. 型ピクトグラムがピボットよりも重い場合は右側へ,軽い. いない場合は「残念」(図 9 参照)と表示される. . 場合は左側へまとめていき,全ての人型ピクトグラムを比 較した後に,ピボットを中心に並べ直す.これを再帰的に 繰り返すことでおもりを並べ替える.クイックソート実行 中は, 「現在の状態」が「クイックソート実行中」の表示に 変わり,終了時には「クイックソート終了」の表示に変わ. 図 8 正しく整列されている場合の表示 . る.選択ソート同様,位置が決定した人型ピクトグラムは 座っている画像に変更される. (3) 挿 入 ソ ー ト に よ る 自 動 整 列 機 能 「現在の状態」が「自由移動」の状態で I キーを押下す ると挿入ソートのアルゴリズムに基づいて人型ピクトグラ ムを自動で並べ替える.ソートの手順は,左から順に自身. 図 9 正しく整列されていない場合の表示 . の左側の人型ピクトグラムと比較して自身の方が軽いよう ならその次の左側の人型ピクトグラムとの比較を繰返す.. . 自身の方が重い場合は比較した人型ピクトグラムの右側に. また,(2)(3)の実行中に W キーを押下することで,各人. 人型ピクトグラムを挿入する.これを繰返し,全ての人型. 型ピクトグラムの重さの表示と非表示を切り替える機能も. ピクトグラムを既存の列に挿入していく.挿入ソート実行. 有している.初期状態は非表示である.体重を表示するこ. 中は, 「現在の状態」が「挿入ソート実行中」の表示に変わ. とでシーソーを使用せず,直接操作で整列が可能となる. . り,終了時には「挿入ソート終了」の表示に変わる.挿入. 4.3.3 自 動 整 列 機 能 自 動 整 列 機 能 を 使 う こ と で 整 列 さ れ て い く 様 子 を よ. ソートでは並べ替えが終了するまで順番が確定しないため. り わ か り や す く 確 認 で き る . (1) 選 択 ソ ー ト に よ る 自 動 整 列 機 能 . 座っている画像に変更されることは無い. . 5. 評 価 実 験 . の状態で S キーを押下すると,選択ソートのアルゴリズム. 5.1 実 験 概 要 実装した教材の評価と人型ピクトグラムの有効性を調べ. に基づいて人型ピクトグラムを自動で並べ替える.選択ソ. るために評価実験を行った. . 画面左上に表示している「現在の状態」が「自由移動」. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 5.
(6) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 実験は”CS アンプラグドのアルゴリズム学習における教 具による理解度への影響”[8]の実験授業を参考に構成した. 被験者は,青山学院大学社会情報学部の 2,3 年生 18 名 である.実験は,人型ピクトグラムの影響を調べるために, 「並べ替え天秤」を使うグループと「並べ替えシーソー」 を使うグループに分けて同時に行った.教材の評価を行う ために,教材を使う前と後にそれぞれ確認テストを行い, 正答率の変化をみた.また,3.3 節で紹介した岡本らの提 示を参考に,教材の視覚顕在化の水準を測るために,視認 性,判別性,予測可能性の 3 項目に関する質問を含んだア ンケートを取った. . 図 10 説明に使ったカードと天秤 . 実験の流れと各時間について表 3 に示す. . 5.2.3 事 前 テ ス ト . . デジタル教材を使用する前に,ソート法の簡単な説明を 表 3 実験の流れと割当時間 内容. 行った時点での理解度を測るための事前テストを行った.. 時間(分). 事前テストは“CS アンプラグドのアルゴリズム学習におけ. 5. る教具による理解度への影響”[8]の確認テストを参考に作. 各ソート法の説明. 10. 成した.事前テストの誌面を図 11 に,事前テストの解答例. 10 分 事前テスト. 10. を図 12 示す. . 事前説明. 教材へのアクセス. 5. 3 種類のソート法の説明 実習. 15. 確認テスト. 10. アンケート. 5. 5.2 実 験 の 流 れ 実験の流れを表 3 の順序に沿って説明する. 5.2.1 事 前 説 明 はじめに,被験者をランダムに 2 つのグループに分け, 操作する画面が他のグループの被験者に見えない位置にそ れぞれ着座させた.その後,複数のソーティングアルゴリ ズムを理解してもらう学習をする旨と,実験の流れについ て説明した. 5.2.2 3 種 類 の ソ ー ト 法 の 説 明 . 図 11 事前テスト . 3 種類のソート法についての説明を行った.説明はカー ドと天秤を印刷した用紙(図 10 参照)を使用し,書画カメ ラを通してスクリーンに映し,全員が確認できるように行 った.選択ソートは,比較によって一番重いおもりを選択 していくことで最大値を求めることを繰り返し,整列させ るアルゴリズムであること.クイックソートはピボットと 呼ばれる基準値との大小関係でグループ分けをしていくこ とを繰り返し,おもりを整列させるアルゴリズムであるこ と.挿入ソートは整列済みのおもりに新しいおもりを適切 な位置に挿入することを繰り返し,おもりを整列させるア ルゴリズムであること.これらを簡潔に説明しながら,そ れぞれのソート法を使った並べ替えの例を 1 回ずつ,カー ドと天秤を印刷した用紙を使って実演した. . 図 12 事前テスト解答例 テストの採点は各ソート法のアルゴリズムに則った比較 であれば正解,アルゴリズムに則っていない比較であれば. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 6.
(7) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 不正解とし,各ソートにつき 1 点の 3 点満点とした.選択. ズは適切でしたか?」, 「「天秤」または「シーソー」サイズ. ソートは,この実験の説明や教材では左のおもりから比較. は適切でしたか?」 「アニメーションの動作速度は適切でし. し,重さが最大のおもりを残しているが,右側から比較し. たか?」.判別性を測る質問として「個々の画面上のモノ(お. ている解答や,最小値を残す解答でも正解とした.クイッ. もり,人,てんびん,シーソー)は,他のモノと判別しや. クソートは,整列させるグループの中からピボットを選択. すい表示でしたか?」.予測可能性を測る質問として「この. し,そのピボットを元にグループ分けを行う操作を正しく. プログラムは予想通りに動作していましたか?」 「画面上の. 繰り返している解答は正解とした.挿入ソートは,この実. モノの動きは現実世界のモノの動きを再現していると感じ. 験の説明や教材では既存の列と比較する際に最大値から比. ましたか?」を含めた. . 較しているが,最小値から比較していくものも正解とした. ただし,明らかにうっかりミスと判断できるものに関して. 5.3 実 験 結 果 . は正解とした. . 5.3.1 テ ス ト 結 果 . . 事前テストと確認テストの結果を表 5 に示す. 表 5 事前テスト及び確認テスト結果 . 5.2.4 教 材 へ の ア ク セ ス グループ毎に指定されたリンクをブラウザで開いてもら. ID 1 2 3 4 5 6 7 8 9. い,教材に記載されている操作方法を読むように指示し, その後自由に操作させた.リンクは学内で使用している LMS を使い共有した. 5.2.5 実 習 . 10 11 12 13 14 15 16 17 18. 説明したソート法について,指定されたデジタル教材を 使ってアルゴリズムの確認を学習者に行わせた.試行した アルゴリズムと,整列後の比較回数を配布した用紙に記述 させた.また,自動ソート機能を使ってアルゴリズムを確 認した場合も整列後の比較回数を用紙に記述させることで,. 2 2 0 1 3 2 1 0 2 1.44 3 1 3 3 1 1 1 3 1 1.89 1.67. 1 1 0 0 1 1 0 0 0 0.44 1 1 1 1 0 0 0 1 0 0.56 0.50. 0 1 0 0 1 1 1 0 1 0.56 1 0 1 1 1 1 1 1 1 0.89 0.72. 1 0 0 1 1 0 0 0 1 0.44 1 0 1 1 0 0 0 1 0 0.44 0.44. 3 3 2 2 3 3 2 3 2 2.56 2 3 3 3 2 3 3 3 2 2.67 2.61. 1 1 1 0 1 1 0 1 0 0.67 0 1 1 1 0 1 1 1 0 0.67 0.67. 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1.00 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1.00 1.00. 1 1 0 1 1 1 1 1 1 0.89 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1.00 0.94. . アルゴリズムを確認した回数を計った. . . . 3 点満点の事前テストの平均点は 1.67 点,確認テストの. 5.2.6 確 認 テ ス ト . 平均点は 2.61 点であり,確認テストの平均点は事前テスト. 実習後,事前テストと同形式の確認テストを行った.事. の平均点に比べ 0.94 点増加していた.教材による学習によ. 前テストとはおもりの重さを変更し,比較する順番が同じ. ってテストの点数が増加したことを確認するために,事前. にならないようにした.採点は事前テストと同様に行った. . テストと確認テストと差に一標本の片側 t 検定を行った.. . 結果 p 値=0.00045 となり,事前テストと確認テストと差の. 5.2.7 ア ン ケ ー ト . 平均は有意水準 1%で有意差が見られた.また,2 つの教材. 確認テストの後にアンケートを実施した.アンケートの. を比較するために事前テストと確認テストの合計点と各ソ. 設問と回答形式の一覧を表 4 に示す. . ートの点数に t 検定を行った結果,2 つの教材の平均点に はいずれも有意差は見られなかった. . 表 4 アンケートの設問と回答形式の一覧 設問. 選択ソートについて理解することができた クイックソートについて理解することができた 挿入ソートについて理解することができた 「おもり」または「人」のサイズは適切でしたか? 「天 」または「シーソー」サイズは適切でした か? アニメーションの動作速度は適切でしたか? 教材に併記された使い方の説明は適切でしたか? 個々の画面上のモノ(おもり,人,てんびん,シー ソー)は,他のモノと判別しやすい表示でしたか? このプログラムは予想通りに動作していましたか? 画面上のモノの動きは現実世界のモノの動きを再現 していると感じましたか? 現在どの動作が行われているか分かり難いと感じる ことは無かったと思いますか? 使用したデジタル教材を7段階で評価してください なぜその評価にしたのか教えて下さい デジタル教材について気になる点や改善した方がよ いと思うことがあれば教えて下さい. . 回答形式. そう思う7∼そう思わない1の7段階 そう思う7∼そう思わない1の7段階 そう思う7∼そう思わない1の7段階 そう思う7∼そう思わない1の7段階. 5.3.2 試 行 回 数 結 果 手動整列機能によるソートと自動整列機能によるソート. そう思う7∼そう思わない1の7段階. を行った回数を記録した結果を表 6 に示す. . そう思う7∼そう思わない1の7段階 そう思う7∼そう思わない1の7段階. 手動整列と自動整列の試行回数合計の平均は 9 回であっ. そう思う7∼そう思わない1の7段階. た.2 つの教材を比較するために手動整列と自動整列の合. そう思う7∼そう思わない1の7段階. 計回数と各ソートの整列回数に t 検定を行った結果,2 つ. そう思う7∼そう思わない1の7段階. の教材の平均回数にはいずれも有意差は見られなかった. . そう思う7∼そう思わない1の7段階. また,試行回数と確認テストの関係を調べた.散布図を. 良い7∼悪い1の7段階 自由記述 自由記述. 図 13 に示す.試行回数の合計と確認テストには,有意水準 . 5%(p 値= 0.041)で相関係数-0.4865 の負の相関関係が見. . られた.試行回数と事前テストの関係には,有意な相関関. 視認性を測る質問として「「おもり」または「人」のサイ. 係は見られなかった. . ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 7.
(8) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report . する機能や一時停止機能が必要という意見も多く見られた. 表 6 試行回数 ID 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18. 選択ソート. 2 1 2 1 2 1 2 2 1 1.56 1 1 2 1 3 2 3 2 3 2.00 1.78. その他の要望としては,比較履歴を見る機能や,おもりの. クイックソート 挿入ソート 選択ソート クイックソート 挿入ソート 試行回数合計 1 1 1 1 1 7 1 2 1 1 2 8 1 3 1 1 1 9 1 4 1 1 2 10 2 3 1 1 2 11 1 2 1 1 4 10 3 0 1 2 1 9 2 1 1 1 0 7 2 3 1 1 1 9 1.56 2.11 1.00 1.11 1.56 8.89 1 1 3 2 2 10 0 1 0 2 1 5 2 2 1 1 2 10 2 1 1 1 1 7 2 2 2 1 1 11 2 1 0 0 1 6 2 3 0 0 0 8 1 1 2 4 1 11 3 2 2 2 2 14 1.67 1.56 1.22 1.44 1.22 9.11 1.61 1.83 1.11 1.28 1.39 9.00. . 見た目を能動的に変化させる機能,色や音,点滅などの反 応を追加することや,おもりを配置するスペースの拡大, 重さ比較時の挙動の改善などが見られた.また, 「自動的に ソートされているとき,どんな操作をしているかわかりに くかった.」「画面上の物の動きが現実世界の物の動きを再 現しすぎていて、わかりにくかった」,といった否定的な意 見や,PC ではなく,タッチ操作のできるスマートデバイス で使えた方がわかりやすいといった意見も見られた. 5.4 実 験 考 察 5.4.1 テ ス ト 結 果 考 察 事前テストと確認テストの点数の差から,有意に点数が増 加していることがわかった.このことから,本研究で実装 したデジタル教材を使用した学習を行うことでアルゴリズ ムの理解度を高めることができると考える.また,確認テ ストでは,クイックソートに関しては全員が正解であり, 挿入ソートも 1 名を除いて正解であった.間違えた 1 名も 基本的なアルゴリズムは正しかったが,最初は挿入先を見. . つけるまでの比較を重い方から始めていたが,最後の重り. 図 13 合計点と試行回数合計の散布図 . だけ軽い方からの比較に変わっていた.正しいアルゴリズ. . ムでは,一定の決まりに従っておもりを比較していく必要. 5.3.3 ア ン ケ ー ト 結 果 . があるので間違いとした.このことから,ほぼ全ての被験. 7 段階評価のアンケート結果の平均を表 7 に示す.グルー. 者がクイックソートと挿入ソートのアルゴリズムについて. プごとの各設問の回答の平均に有意な差は見られなかった. . 理解することができたと考える.選択ソートについては,. . 18 名中 6 名が間違った回答を答えていたが,そのほとんど 表 7 アンケートの設問と平均 設問. 選択ソートについて理解することができた クイックソートについて理解することができた 挿入ソートについて理解することができた 「おもり」または「人」のサイズは適切でしたか? 「天 」または「シーソー」サイズは適切でした か? アニメーションの動作速度は適切でしたか? 教材に併記された使い方の説明は適切でしたか? 個々の画面上のモノ(おもり,人,てんびん,シー ソー)は,他のモノと判別しやすい表示でしたか? このプログラムは予想通りに動作していましたか? 画面上のモノの動きは現実世界のモノの動きを再現 していると感じましたか? 現在どの動作が行われているか分かり難いと感じる ことは無かったと思いますか? 使用したデジタル教材を7段階で評価してください. が既知の比較を考慮してしまう並べ方を行っていた.選択 ソートでは,既知の比較は考慮せず,比較回数は必ずおも. 平均. りの数 n 個に対し,n(n-1)/2 回と一定になるので,これは. 5.61 6.39 5.89 5.61. 間違いとした.この結果は,本実験では時間の関係上ソー ト法の説明において,比較回数が一定になることや,既知 の比較について等の詳しい説明は行わず,自動ソート機能. 5.94. の使用などで被験者自身で気がつくことを期待したことに. 4.22 5.22. よると考える.一部の被験者は「選択ソートがなんどやっ ても試行回数が同じなのが面白かったです.」と自由記述の. 6.11. 中で答えていた.このことから,ソート法の説明や自動ソ. 5.67. ート機能を使用する際に比較回数に注目することを示唆す. 5.72. ることで,より多くの被験者の気づきを促すことができた 可能性がある.. 4.44 5.06. また,2 つの教材の差に有意な差は見られなかったが,3 . 点満点のテストであり点数の差が出にくかったこと,大学. . 生では大半の被験者が正解できる難易度のテストになって. 自由記述では, 「やり方を聞いたり参考書を読んで覚える. しまったこと,被験者が 1 グループ 9 名と少なかったこと. よりもアニメーションのある教材のほうが覚えやすかった」. などが原因であると考えられる.. 「自動ソート機能のおかげで理解するまで見返すことがで きた」といった自動整列機能(アニメーション)に関する 良い意見が多く見られたが,アニメーションの速度を変更. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 8.
(9) Vol.2016-CE-134 No.4 2016/3/5. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 5.4.2 試 行 回 数 結 果 考 察 . ラグドのテーマの教材を実装し評価することなどが必要だ. 本研究では,試行回数と確認テストに負の相関関係が見. と考えられる.. られた.間辺らの研究では,高校生に実施した実験授業に. また,自由記述の中で得られた多くの改良点について各. おいて,試行回数が多い生徒の方がテストの正答率が高い. 機能の必要性を考慮したうえで実装していきたい.. ことを確認しており,本研究はこれとは逆の結果となった.. . これは本実験では大学生を対象としており,ほとんどの被. 謝 辞 本研究は JSPS 科研費 26330140 の助成を受けたも. 験者がアルゴリズムを理解できたなかで,ソート法につい. のです. . て早い段階で理解できたと思った被験者が,アルゴリズム. 参 考 文 献 . の確認を繰り返さなかったからではないかと考える.. ラムの有効性については確認できず,引き続き検証する必. 1) 久野 靖,和田 勉,中山 泰一,辰己 丈夫,上松 恵理子: わが 国の初等中等情報教育: 現状と将来に向けた目標体 系の提案,日 本ソフトウェア科学会第 32 回大会(2015 年度)講演論文集. 2) 情報処理学会,初等中等教育における一貫した情報教育(情報 学教育)の充実について(提案): http://www.ipsj.or.jp/release/jyouhoukyouiku20150424.html 3) 久野 靖,和田 勉,中山 泰一,初等中等段階を通した情報教 育の必要性とカリキュラム体系の提案,情報処理学会論文誌 教育 とコンピュータ,vol 1,no 3,pp. 48-61(2015). 4) 兼宗 進(監訳) :コンピュータを使わない情報教育 アンプラグ ド・コンピュータ・サイエンス,イーテキスト研究所(2007). 5) 石塚 丈晴,兼宗 進,堀田 龍也,: 小学生に対するアンプラグ ドコンピュータサイエンス指導プログラムの実践と評価,情報処 理学会研究報告,vol.2014-CE-123 No.6(2014). 6) 井戸坂 幸男,久野 靖,兼宗 進: コンピュータサイエンスアン プラグドに基づく授業方法改善の試みとその実践,日本産業技術 教育学会誌,第 53 巻第 2 号,pp.115-123(2011). 7) 間辺広樹,兼宗進,並木美太郎: アンプラグド学習法を取り入 れた情報 A「ディジタル化」単元の実践報告,日本情報教育学会 誌,vol.3,No1,pp.44-53(2010). 8) 間辺広樹,兼宗進,並木美太郎: CS アンプラグドのアルゴリズ ム学習における教具による理解度への影響”,情報処理学会誌, vol.54,No1,pp.14-23(2013). 9) 和田 勉: アンプラグドコンピュータサイエンスと板書講義を 併用した大学でのアルゴリズムの授業,コンピュータと教育研究 会報告,2009-CE-100(5),pp.829-830(2010). 10) 間辺広樹,兼宗進,並木美太郎: 障害者職業訓練校の情報教 育”,SSS2008,情報教育シンポジウム,pp.171-178(2008). 11) 太田幸夫: 国際安全標識ピクトグラムデザインの研究 http://www.tamabi.ac.jp/soumu/gai/hojo/seika/2003/kyoudou-ot a1.pdf 12) 岡本雅子,村上雅之,吉川直人,喜多一: 「視覚的顕在化」 に着目したプログラミング学習教材の開発と評価,日本教育工学 会論文誌,Vol.37, No.1, pp.35-45 (2013). . 要がある.これについては,本教材をより明確にピクトグ. . 5.4.3 ア ン ケ ー ト 結 果 考 察 各ソートの理解度については高い評価を得た.特に確認 テストでは全員正解であったクイックソートは,多くの被 験者が最大値の 7 の評価をつけていた. アンケートの中で測った 3 つの状態について,視認性に ついては,オブジェクトの視認性は高い評価を得ることが できたが,アニメーションの速度の評価は他の質問に比べ て低い評価であった.これは自由記述にも多く反映されて おり,アニメーションの速度が速い,もしくは逆に遅いと いった意見が多く見られた.判別性,予測可能性について は共に高い評価を得ることができた. 自由記述の中で,多くの被験者が自動ソート機能はわか りやすかったと答えていたことから,自動ソート機能はア ルゴリズムの理解に一定の貢献をしたと考える.その一方 で,速度調整機能や一時停止機能などが欲しかったという 意見も多かったことから,これらの機能の追加が必要と考 えられる.また,おもりを配置するスペースが少ないこと や,片側におもりを 2 体置いた際に重なってしまうなどの 問題点もあがっていたことから,これらの改善が必要と考 える.. 6. ま と め と 今 後 の 課 題 本研究では,CS アンプラグドの「いちばん軽いといち ばん重い」を参考に,整列アルゴリズムを学習するデジタ ル教材を実装し,その学習効果を確認した.アンケートの 結果,高い視認性,判別性,予測可能性を有していること がわかり,自動ソート機能が被験者から高評価であった. 本研究では独立性については扱わなかったが,Scratch は スクリプトを確認しながらのプログラム実行ができること から,独立性を高めることも可能であると思われる.コー ドを改良し独立性の高い教材を実装することは今後の課題 となる. また,今回 2 つの教材の差として利用した人型ピクトグ. ラムを使用したものと使用していないものに改良すること や,別の環境で本教材の比較を行うこと,他の CS アンプ. ⓒ2016 Information Processing Society of Japan. 9.
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