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筋電位と呼吸情報を用いた歌唱の分析と評価の基礎研究

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Academic year: 2021

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(1)音 楽 情 報 科 学 47−2 (2002.10. 25). 筋電位と呼吸情報を用いた歌唱の分析と評価の基礎研究 藤野剛志†. 伊東一典†. 池田操‡. 久保直子‡. 米沢義道†. 橋本昌巳†. カラオケの普及により一般の人が人前で歌う機会が増加しており,歌の苦手な人には問題であ る.一方,声楽を専門に学ぶ人にとってもどのように声を出すかは重要で,歌唱情報を客観的に 分析,評価するシステムの構築が望まれている.本研究では歌声のピッチ,音量等の精度の評価 に加えて,歌唱時の身体の様子を知ることを目的として,歌声と同時に筋電位や呼吸情報を取り 入れ,歌唱の分析と評価の可能性を検討した.その結果,歌唱の習熟度の違いを見出すことが出 来た.. Basic study on analyses and evaluations of the singing using myoelectric and respiratory signals Takeshi Fujino† Kazunori Itoh† Misao Ikeda‡ Naoko Kubo‡ Yoshimichi Yonezawa† Masami Hashimoto†. Many people have chances to sing in front of listeners by the popularity of Karaoke. Not only the person whose vocal skill is poor, but also people who professionally study vocal music want to receive objective analysis and evaluation of their singing. In this paper, we examined the possibility of a support system for singing that measured myoelectric and respiratory signals at the same time as singing voice.. As a result, we could find out the. difference of the degree of vocal skills.. 1. まえがき 近年,様々な音楽情報処理の研究が行われて いる.特に歌唱練習支援の分野では,歌唱分析 と評価に関する研究 1)や視覚フィードバック による調子外れの治療支援システム 2),などが ある.また,カラオケの普及により一般の人が 人前で歌う機会が増加しており,歌の苦手な人 には問題である.一方,声楽を専門に学ぶ人に とってもどのように声を出すかは重要で,歌唱 の習熟度を客観的に分析,評価するシステムの 構築が望まれている. †信州大学工学部情報工学科 ‡上越教育大学. ところで,歌声情報の分析のみでも,ピッチ, 音量等の評価は可能であるが,響きや曲の流れ に伴う細やかな表現の分析は難しく 3),歌唱の 分析,評価のためには歌声の情報と同時に生体 の情報を取り入れる必要がある.そこで本研究 では筋電位と呼吸情報を用いた歌唱の分析と 評価の可能性の検討を行ったので報告する.. 2.実験方法 歌唱と身体の緊張との間には密接な関係が ある.そこで,表面筋電位及び呼吸波の測定部. Department of Information Engineering, Shinshu University. Joetsu University of Education. -−7− 1-.

(2) 位は以下の事を考慮して決定した. 初めに筋電位については声帯を囲む喉頭軟 骨を支える喉頭懸垂機構の働きが重要で,歌唱 法の習得が未熟の場合,この機構が正常に作用 しないので,図1に示すような舌骨より上方の 筋に負担がかかる 4).本研究はこれに注目し, 図1に示す破線枠の筋肉を対象に筋電位の測 定を行い,その時の電極配置の様子を図2に示 す.. 厳密な伸縮長を測ることは出来ないため,以下 の実験では記録値から最も周長の縮んだ値を 差し引き,変化量としてサンプル値で示した.. 肋骨下端. 呼吸ピックアップ 固定用バンド. 図3:呼吸ピックアップ装着位置 実験器具及び実験条件を以下に示す. ・電極:塩化銀電極,直径約 8mm,電極間距離 20mm ・筋電位アンプ:差動型,増幅度 60dB ・呼吸ピックアップ:日本光電 TR-753T ・マイクロホン:Fostex YM-211(ダイナミック型) ・デジタルレコーダー:TEAC DR-M3,標本化 周波数:10kHz,量子化:16bit ・歌声分析システム(Windows 版)1)ピッチ抽 出:ケプストラム法,窓関数:ハミング窓 また,被験者は以下の通りである. ・被験者A(女性)音楽(声楽)科の先生 ・被験者B(女性)音楽(声楽)科の学生 ・被験者C(女性)合唱団に所属経験あり, 専門に声楽は学んでいない.. 図1:舌骨以上の筋. 図2:電極の配置. 3.歌唱実験. 喉頭直上の正中面に中心電極を配置し,顎二 腹筋,顎舌骨筋,舌骨舌筋に対応するよう 0°, 60°,120°の放射方向に3つの電極を配置し た. 次に,呼吸については,胸郭左右,前後径が 変化する胸式呼吸,横隔膜の作用により胸郭の 上下径が変化した結果,腹壁が変化する腹式呼 吸がある.歌唱時には双方が混合した形で行わ れ,歌唱の上達にはこのような呼吸への理解が 必須である 5).本研究では胸式と腹式に対応し, 図3のように胸囲と腹囲の周長の変化を呼吸 ピックアップでとらえる事にした.呼吸ピック アップはラテックスゴム製で伸縮により抵抗 が変化するが,呼吸タイミングは測れるものの,. 図4,5は歌唱実験の結果の一例を示したも ので, 「赤とんぼ」 (作詞:三木露風,作曲:山 田耕作)の「♪ゆうやけこやけのあかとんぼ」 の約 15 秒間を被験者の中で最も習熟度の高い 被験者Aが歌唱した模範的歌唱である.図4 (a)はピッチの推移を,図4(b)の上方の推移は 音量,下方は3チャンネル各々の筋電位の実効 値を示してある.また,図5の上方の推移は音 量,下方は胸囲と腹囲の変化量である. ピッチと音量は「あかとんぼ」の曲想通りで 被験者Aの歌唱精度を確認できた. 筋電位については歌唱の切れ目において高 い筋電位が見られる(図中実線枠)ことと,ピ ッチと音量が共に上昇する曲の盛り上がり部. -2−8−.

(3) ピッチ(Hz). 800. ゆうや けこやけ の あかと ん ぼ. お. 600 400 200 0. 5. 10 時間(sec). 15. 20. (a). 1600 0°. 120. ゆうや けこやけ の あかと ん ぼ. 筋電位(μV). 1200 120°. 100. お. 80. 1000 800. 60. 600. 40. 音量(dBSPL). 1400 60°. 400 20. 200 0. 0 0. 5. 10 時間(sec). 15. 20. (b) 図4:音量と筋電位及びピッチ(被験者A) 10000胸囲変動 腹囲変動. 120. ゆうや けこやけ の あかと ん ぼ. 8000. のどのような要素に関与しているのかを調べ るために,母音唱「いえあおう」について音量 とピッチのパラメータを変えた実験モードを 作成した.図6(a)(b)(c)(d)は実験用歌唱モー ドの概念図である.(a)モード1はピッチと音 量が一定で母音を変えながら4拍を歌い,4拍 を休止した歌唱(全 36 拍),(b)モード2はピ ッチが一定で,クレシェンド,デクレシェンド して音量を変化させた歌唱(全 56 拍),(c)モ ード3は音量が一定で,ピッチを平均律音階上 でド,ミ,ソ,ドと変化させた歌唱(全 51 拍), (d)モード4は「いえあおう」5母音を 1 セッ トとして1セット目は話し言葉,2セット目か ら5セット目までピッチを変化した歌唱(全 66 拍)でピッチ変化はモード3と同じである. モード1,2でのピッチは最高音のドを用いる. 尚,テンポは被験者が自然に歌える速さに合わ せてテンポ 70∼80 程で1拍は約 0.8 秒である.. 100. お. 音量(dBSPL). 80 変化量. 6000. 60. 4000. 40 2000. 20. 0. 0 5. 10 時間(sec). 15. 20. 図5:音量と呼吸情報(被験者A). 図6:歌唱実験モード 4.1 モード1(ピッチ固定,音量固定) 音量と筋電位の時間推移を図7,8,9に示す. 16000° 60° 1400 120° 1200 筋電位(μV). においても同様に高い筋電位が確認できた(図 中破線枠).このため,筋電位は音量又はピッ チの上昇と関連しているように思われる.また, 呼吸については,音量やピッチの変化に伴う変 化は見られず,ブレスに応じて胸囲,腹囲とも 変化し,その変化量は腹囲のほうが胸囲よりも 大きいことが確認できた. しかし,詳細は不明であり,以下,これらの 現象について詳しく調べることにした.. 120. い    え   あ   お.  う. 100 80. 1000. 60. 800 600. 40. 400 20. 200 0. 4.筋電位について 前述の音量及びピッチと筋電位の関係のう ち,盛り上がり部で起こる高い筋電位が,歌唱. 音量(dBSPL). 0. 0 10. 20. 30 時間(sec). 40. 50. 図7:モード1(被験者 A,音量と筋電位). -−9− 3-.

(4) 800. 60. 600. 40. 400. 100 80. 1000 800. 60. 600. 40. 400. 20. 200. 120. 音量(dBSPL). 80. 筋電位(μV). 100. い   え    あ    お   う. 1000. 20. 200 0 0. 10. 20 時間(sec). 30. 0. 40. 図8:モード1(被験者 B,音量と筋電位). 80 60. 800 600. 40. 400. 筋電位(μV). 100. 1000. 0 10. 20 時間(sec). 30. 60. 120 100 80. 800. 60. 600. 40. 400. 20. 200. 0 0. 50. 1000. 20. 200. 20 時間(sec) 30 40. 16000° 140060° 120° い    え    あ     お   う 1200. 120. い   え     あ    お   う. 10. 図11:モード2(被験者 B,音量と筋電位). 音量(dBSPL). 16000° 140060° 120° 1200. 0 0. 音量(dBSPL). 0. 筋電位(μV). 16000° 140060° 120° い    え    あ     お   う 1200. 120. 音量(dBSPL). 筋電位(μV). 16000° 60° 1400 120° 1200. 0. 40. 0 0. 10. 20 30 時間(sec). 40. 50. 図9:モード1(被験 C,音量と筋電位). 図12:モード2(被験者 C,音量と筋電位). 被験者Aは歌唱定常時の筋電位が母音ごと 揃い,一定に保たれている.被験者Bにもその 傾向が見られるが,被験者Cは母音ごとの筋電 位が大きく異なる.. 音量にはクレシェンド,デクレシェンドに伴 う変化が見られ,被験者Aは各母音のピークの 音量が揃い模範的である.被験者Aでは母音ご と筋電位が揃っており,被験者Bにもその傾向 が見られるが,筋電位は両被験者とも山型とは ならず,音量に伴った変化は見られない.被験 者Cでは母音間での筋電位差が激しい.. 4.2 モード2(ピッチ固定,音量可変) 音量と筋電位の時間推移を図10,11, 12に示す. 120. え    あ     お    う. 100 80. 1000. 60. 800 600. 40. 400. 音量(dBSPL). 筋電位(μV). 16000° 140060° い   120° 1200. 20. 200 0. 0 0. 10. 20 30 時間(sec). 40. 50. 4.3 モード3(ピッチ可変,音量固定) ピッチの時間推移を図13(a)に,音量と筋電 位の時間推移を図13(b),14,15に示す. 各被験者とも正確なピッチで歌唱がされてい るので,ここでは被験者 A のピッチのみ示し てあるが,ピッチの変化に伴う音量の変化が見 られる.被験者Aの筋電位は母音ごと中心の高 い山型の推移となっておりピッチとの関係が 見られるが,被験者B,Cの順にその傾向は低 くなっている.. 図10:モード2(被験者 A,音量と筋電位). -4−10−.

(5) い    え   . あ. 800.   お   う. ピッチ(Hz). ピッチ(Hz). 800 600 400 200 0. 10. 20 30 時間(sec). 話    ド    ミ    ソ    ド. 600 400 200 0. 40. 10. 20. 30 40 時間(sec). (a) 120. 80 60. 800 600. 40. 400 0 20 30 時間(sec). 40 20. 0. 40. 0 0. い    え    あ     お   う. 60. 800 600. 40. 400. 筋電位(μV). 80. 20. 30 時間(sec). 40. 50. 16000° 140060° 話    ド    ミ    ソ     ド 1200120°. 100. 1000. 10. (b) 図16:モード4(被験者A,音量と筋電位,ピッチ). 120. 音量(dBSPL). 120 100 80. 1000 800. 60. 600. 40. 400 20. 0. 0 0. 10. 20 30 時間(sec). 40. 0. 50. 16000° 140060° 1200120°. 音量(dBSPL). 100 80. 1000. 60. 800 600. 20. 30 40 時間(sec). 50. 60. 120. 話   ド   . ミ  . 100.  ソ    ド. 80. 1000. 40. 60. 800 600. 40. 400. 400. 20. 200. 20. 200. 10. 図17:モード4(被験者 B,音量と筋電位). 120. え    あ    お     う. 0 0. 図14:モード3(被験者 B,音量と筋電位) 16000° 140060° い    120° 1200. 20. 200. 音量(dBSPL). 200. 筋電位(μV). 筋電位(μV). 600 200. (b) 図13:モード3(被験者A,音量と筋電位,ピッチ) 16000° 60° 1400 120° 1200. 60. 800. 音量(dBSPL). 10. 80. 400. 0 0. 100. 1000. 20. 200. 120. 音量(dBSPL).   お    う 100. 1000. 筋電位(μV). 1600 0° 1400 60° 120° 話   ド     ミ    ソ    ド 1200 筋電位(μV). え    あ. 60. (a). 音量(dBSPL). 筋電位(μV). 1600 0° 1400 60° い    120° 1200. 50. 0. 0. 0 0. 20. 40 時間(sec). 60. 0 0. 80. 10. 20. 30 40 時間(sec). 50. 60. 図18:モード4(被験者 C,音量と筋電位). 図15:モード3(被験者 C,音量と筋電位) 4.4 モード4(ピッチ可変,音量固定) ピッチの時間推移を図16(a)に,音量と筋電 位の時間推移を図16(b),17,18に示す.. 各被験者とも同様に正確なピッチで歌唱が されているので被験者Aのピッチについての み示した.被験者A,Bにおいて話している時 よりも歌唱時の筋電位が高く,さらにピッチに. -5−11−.

(6) 関連して上昇している.しかし,被験者Cでは ピッチに関する筋電位の変化は見られない.. 10000 胸囲変動 腹囲変動 8000. 120 100. 変化量. 4.5 実験考察 各モードの実験の結果,習熟度の高い被験者 は母音間で筋電位差が小さく習熟度による違 いが表れた.これは各母音とも統制がとれてお り,無駄な力が掛かっていない状態であると思 われる.また,4.3 より,筋電位はピッチに伴 った変化をすることがわかり,4.4 ではこれを 確認することが出来た.. 100. 40 2000. 音量(dBSPL). 変化量. 60. 20 0. 0 0. 10. 20 30 時間(sec). 40. 120. 14000胸囲変動 腹囲変動 12000. 変化量. 8000 60. 6000 40. 4000. 20. 2000 0 50. 60. 6.あとがき 歌唱の分析と評価を目的として歌唱情報か らの音量,ピッチの抽出に加えて生体情報の代 表的なものとして筋電位と呼吸情報の分析を 行った.その結果,筋電位,呼吸とも習熟度に よる違いを見出すことが出来た.さらに筋電位 はピッチの変化に伴って変化し,音量には依存 しないことがわかった.今後さらに歌唱法の習 熟度と筋電位と呼吸の関係を詳しく求めてい きたい.終わりに,実験にご協力頂いた池田な つ美さん,竹内瑞穂さんに感謝します.. 参考文献 片岡,伊東,池田,中澤,米沢,今関,橋本, “歌唱. 2). 平井,片寄,井口, “歌の調子外れに対する治療支援. システム”,電子情報通信学会論文誌 D-Ⅱ,Vol.J84-DⅡ,No.9,pp.1933-1941, 2001. 3). 中山,小林,“歌の声−声質の魅力と問題点−”,日. 本音響学会誌,Vol.52,No.5,pp.383-388,1996. 4). 0 30 40 時間(sec). 50. 処理学会研究報告,98-MUS-26,pp.23-30,1998.. 音量(dBSPL). 80. 20. 30 40 時間(sec). 支援システム構築のための歌声の分析と評価”,情報. 100. い    え    あ     お   う. 10. 20. わる点から声が出るまでの時間差は,被験者A が最も長く,腹囲と音量の時間差平均で被験者 Aが 1.28 秒,順に被験者Bの 1.06 秒,被験者 Cの 0.76 秒となった.胸囲では被験者A,B, Cの順に 0.98 秒,0.72 秒,0.7 秒となり,習 熟度による違いが表れた.. 1). 0. 0 10. 50. 図19:モード2(被験者 A,音量と呼吸情報). 10000. 20. 図21:モード2(被験者 C,音量と呼吸情報). 6000 4000. 40. 0. 120. 80. 60 4000. 0. 音量と胸囲,腹囲の変化量の時間推移を図19, 20,21に示す.歌唱モードは母音ごとの歌 唱時間が比較的長いモード2を示した. 被験者Aでは個々の歌唱に対して最後まで 腹囲が保たれているが,被験者Bでは歌唱の途 中で腹囲が落ち込んでおり,被験者Cではさら に顕著である.また,呼気から吸気への切り替 わり,すなわち変化量が下降から上昇に切り替 い    え    あ     お   う. 80. 6000. 2000. 5.呼吸について. 8000胸囲変動 腹囲変動. 音量(dBSPL). い    え     あ     お   う. 60. フースラー,マーニング著,須永,大熊訳,「うた. うこと」発声器官の肉体的特質−歌声のひみつを解く かぎ−,pp.26-42,音楽之友社, 1987.. 図20:モード2(被験者 B,音量と呼吸情報). 5). 簑島高,音楽生理学,pp.201-212,音楽之友社,1969.. -6- E −12−.

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