わが国税務会計発達史の研究(中)――転換点として
の『シャウプ勧告』――
著者
高橋 志朗
雑誌名
東北学院大学論集. 経済学
号
136
ページ
73-91
発行年
1997-12-20
URL
http://id.nii.ac.jp/1204/00024265/
わが国税務会計発達史
の
研究(中)
一転換点としての
『
シ
ャ ウ
プ 勧 告 』 一
高
橋
志 朗
ロ
次 はじめに l-
l 先達による税務会計発達史研究と時代区分 l ・ 2 初期の税法の所得計算規定にみられる特色と間題点 l ・ 3 成課課税制度下の税務会計の実態と間題点 l ・ 3 ・ l 減価債却の取り扱いをめぐる間題点 1 ・ 3 ・ 2 株式プレミアムの取り扱いをめぐる間題点 2 ・ l 「シャウプ動告」 と昭和22年の税制改正 2 ・ 2 税務行政の改善と会計の改善 2 ・ 3 企業会計の改善にむけての動告 2 ・ 4 税務会計近代化にむけての動告 (以上,第l35号) (以上.
本号) わが国の租税制度は,第二次世界大戰後の占領下に実施された一
連の税 制改革によって, 大幅な修正を受けることになる。
なかでも, 昭和24年 (l949年)に発表された「シ
ャウプ勧告」
と , こ の勧告にもとづく翌昭和25 年(l950年)の税制改正は,わが国税制に一
大変革をもたらし,戦後税制 の基礎をっ
く っ た!1。
税務会計もまた,「シ
ャ ウ プ 勧 告 』 と昭和25年改正 l ) 金子教授は, 「シ ャ ウ プ 動 告」の意義について, 「所得税に関する限り, 戦 後改革の総仕上げの意味をもっていたといえる。
」 と 述 べ て い る。
金子 宏 「シャウプ動告と所得税」, 日本a
税研究協会(構)「シ ャ ウ プ 動 告 と ゎ が/'
' 東北学院大学論集 経済学第l36号 1997年l2月-
73-
l東北学院大学論集 経済学第l36号 を契機として, 半世紀にも及ぶ
「
前近代の時代」 を抜け出して, 近代化へ
の本格的な歩みを開始する。
ここでは,会計の近代化が『シ ャウプ勧告』において重視された理由と, 会計ならびに税務会計の近代化にむけてなされた数々の勧告の進歩的内容 と を , あ き ら か に す る 。2
・1
『シャ ウ プ 勧 告 』 と 昭 和22
年の税制改正 昭和22年3 月.
租税負担の不均衡の是正や税制の民主化を目指す連合軍 総指令部の強い指導のもとで, 所得税を中心とした戦後初の本格的な税制 改正が実施された21。
既存の所得税制度は, この改正によって大幅に修正 さ れ , 昭和15年以来引き継がれていた分類所得税と総合所得税との二本建 て所得税制度の総合累進所得税への
一
本化や,伝統的な賦課課税制度の申 告納税制度へ
の転換をはじめとする画期的改革が実現された:l'
)。シャ ウ プ 、、、、.
国 の 税 制 』 日 本 組 税 研 究 協 会 , 1 9 8 3 年 , 第 l 章 , l 6 ベー ジ ( 金 子 宏 『 所 得 課税の法と政策』有要関, 1996年, l6-87ベージに再録)。 2 ) 昭和22年の税制改正の基本方針の決定をめぐって,連合軍総指令部と日本 側(大蔵省主税局) との間に, 見 解 の 相 違 が あ っ た こ と が 知 ら れ て い る 。 す なわち, この改正に あ た っ て , 連合国総指令部側が所得税中心主義にもとづ く抜本改革をめざす方針をとったのに対 し て , 日本側は, 税務行政上の困難 性を:li1た る 根 拠 と し て こ の 方 針 に 反 対 し , 従来の所得税制度の維持継続と間 接税への依存強化をっうじて当面の税収の確保をはかる方針を支持した。 こ の 対 立 は , 結 局 の と こ ろ , 総 指 令 部 側 の 強 い イ ニ シ ア テ ィ プ の も と で , 日本 側が速合国総指令部側に讓歩するかたちで決着し, 上記のような内容の抜本 的改革が成立した。戦 後 の 税 制 改 革 の 幕 開 け は , こ う し て , 目 本 側 に と っ て は.
ま っ た く 不 本 意 な も の と な っ た。昭和22年改正とその前後のわが国税制 の 実 状 に つ い て は , 松 隅 秀 雄 ( 監 修 ) ・日本租税研究協会『戦後日本の税制』 東洋経済新報社,1959年,1-18ベージ , 大 蔵 省 税 制 史 室 ( 観 ) 『 昭 和 財 政 史 終戦から講和まで 7 組 税 ( l ) 』 東 洋 経 済 新 報 社 , 1 9 7 9 年 , l 8 7-
290ベー ジ , 佐 藤 進・宮島 洋 『 戦 後 税 制 史 』 税 務 経 理 協 会 , l 9 7 9 年 , 1-
l0ベー ジ , 金 子 , 1 9 8 3 , 8--
15べ ー ジ , 金 子 , 1 9 9 6 , 2 1-28ページ.
宮島 洋 「 間 接税と附加価値税」( 日 本 組 税 研 究 協 会 , l 9 8 3 , 第 5 章 , 2 6 2-
269ページ に 収 録 ) な ど を 参 照。 3 ) 宮島教授は, 昭和22年改正の注目すぺき特色として, 「日本の政治, 行/'
' - 74-わが国税務会計発達史の研究lll
i
使節団は,この昭和22年改正後のわが国税制の動向に注目し,所得税が大 衆課税であること, さらには, そうした所得税に対する税収依存が增大し ていることなどをあげて4)っ
ぎのように述ぺている。
「
日本は,政府を支えるために国民全体が納付する税として,個人所 得税を発展させるという大事業に着手した。
--したがって, 現行日本税制について間われるべき最も重要な間題は 個人所得税を, 国民一
般が政府を支えるための主要な手段とする試み を,日本が継続すべきか否かにある。」
5 ) ここで提起した間題の核心を,シャウプ使節団はっ
ぎのように指摘する。
「このような高違な目的の真価については, 疑いの余地はない。
も う ひとっ
の道は,一
般国民が政府のためにどれほどの寄与をしているの かを暖味にし, 寄与していることすら気づかないようにしてしまうほ どの重い間接税の制度に帰ることである。
そ う な る と , 政 府 は , 国民 にとって緑遠い存在となり, 国民は, 時折政府の恩恵にあずかる場合 以外, こ れ と ま っ た く 関 係 が な く な っ て し ま う。
そのうえ, 間接税で は, 所得や富の格差ならびに家族負担の差異を適正に考慮に入れるこ とはできない。
それは, 近代国家が必要とする多額の税を公平に徴収 するための機構としては, あまりにも不完全なものである。
財政学の 研究者達は,税に対する認識を高め,組税負担の分配における公正を 達成するために,税制の改革を永年にわたって主張してきた。
日本は,, 今まさに, そうした事業を開始したのである。、
政および経済の民主化政策に歩調を合わせてァ J リ カ税制の考え方をと り あ えず日本に移植する」 ことが国的とされていた点をあげている。
宮島 洋「税 の し く み 政治・経済を理解するために」岩波ジ ニニア新書,1992年.
l l 7 ベ ー ジ o 4 ) Shoup Mission,l949,Volume I , p.
43. 5 ) Shoup Mission,l949,Volume I , p . 4 4.
な ぉ , 本 橘 に 掲 較 し た「シ ャ ウ プ 動 告 」 の 郭 訳 は , 「シ ャ ウ プ 動 告」本文中の邦訳に.
筆者の手に よ る 修 正を加えたものである。
この修正に あ た っ て は , と く に.
福田幸弘(監修) 「シャウプの税制動告」設出版社,l985年を参考にした。
-
,
5-
3東北学院大学論集 経済学第l36号 目的がいかに高
1
a
なものであっても,これを達成しようとする熱意,, あるいは, その技術的能力に欠けていれば,
それを求めることは無意 味である。
この改革(昭和22年の所得税改革の こ と : 高 橋 注 ) は 日 本 国民の上に突如として起つたもので, それはl947年に始まったことな のである。
会計ならびに簿記の
習慣は, 決して十分な発展を遂げてい るとはいえない。
税を意識すると, 税に対する反感を持ちやすい。
間 接税とインフレーションを通していかに多くの
隠れた負担を負わされ たのかをまったく知らない中低所得者層の場合には, 特にそうである。
課税に対する反感は脱税を招来し, ひいては, 国民のモラルの退廃を もたらす。
所得税に広汎な脱税があり, しかも, 納税者の財産の差押 えや競売を振りかさして, 窓意的な更正決定をすることによって税を 徴収するということは, 間接税よりもさらに悪い。」
6 ) シャウプ使節団は, ここに指摘された間題を, 現実に即して的確に究明 すべく,
かれらが努力を傾注した模様を,つ
ぎの
ように記している。
「過去4簡月間, 本使節団はこれらの間題をあますところなく論議し あった。
われわれが全国にまたがる視察旅行をし, 各階層の納税者や 各階級の税務職員と会談したのも, それによって, 日本の
所得税の将 来像という間題に対して, 正しい判断の下に解答を与えるためだった のであるo」
7'
6 ) Shoup Mission, l949,Volume I , p p
.
44-
45. な ぉ , 解 和 2 4 年 5 月 l 0日 に 来 日 し た シ ャ ウ プ 使 節 団 は , 昭和22年改革後の税務行政の混乱状況を日 の 当 た り にして, その改善の必要性を痛感していた
。
当時の換様は, 昭和6l 年 に 行 わ れ た シ ャ ウ プ 博 士 に 対 す る N H K の イ ン タ ビ ュ ー ( N H K T V.
昭 和6l年l0月8日放映「ETV8税制改革」)の席上で,博士本人によって語 られている。な ぉ , こ の イ ン タビ=
一
の内容は,古谷一
之・ 井 上 尚 ( 訳 ) 「 ヵ ー ル ・S・ シ ャ ウ プ 博 士 イ ン タ ビ,
一
記録」( 福 田 幸 弘 ( 監 修 ) ・ 井 上一
郎 ( 幅 )「シ ャ ウ プ の 税 制 動 告 新間資料構」題出版社,l988年,3l-
45 ページに収録) に掲成されている。 7 ) Shoup Mission,l949,Volume I , p . 4 5.
シャウプ使節国は訪日期間中 の多くの時間を, 当時の池田大蔵大臣をはじめとする大蔵省特部との会談や, 税務行政の実地調査に あ て た。
なかでも, 昭和24年6月下旬に実施された約 l0日間に及ぶ全国視察旅行は, わが国税制の実状の把極に精力を注いだか,
,・'
' 4-
76-わが国税務会計発達史の研究
e
tl2 ・ 2
税務行政の
改善と会計の改書 シャウプ使節団は, かれらが提起した間題に対する結論を, つぎのよう に述べている。
「
所得税を税制の根幹とする試みは継続されねばならない。
しかし,, l 年 や2年では, その目的を達成するわけにはいかないことを覚悟し なければならない。
われわれが可能だと思う速度で進展したとしても,, 租税負担を公平に配分し, 政府に対する盲日的な反感をかき立てるこ となしに, 市民意識を引き出すような所得税が日本で円滑に機能し,, それが受け入れられる税制となるのは, 5年あるいはl0年後のことだ ろ う。
しかし.
こういったからといって,一
年一
年着実に前進しなく て も よ い と い う わ け で は な い。
所得税の税務行政ならびに納税協力の 毎年の成果は, 前年よりも頭著な進歩を示すものでなければならない。
どの年度であっても, 進歩がないということは, この試み全体が失敗 する危険性があることを示すものである。」
8 ) ここに示された結論は,「
所得税を税制の根幹とする試み」 の
継続を無 条件に支持しているわけではない。
所得税の円滑な執行体制の確立には長 期の努力を要するという見通しとともに,
所得税の税務行政ならびに納税 協力の大幅な改善が常に持続されることの必要性を強調する点において, むしろ, この結論は, 税務行政ならびに納税協力へ
の継続的かっ
長期的な 努力を伴うことを条件として,「
所得税を税制の根幹とする試み」の継続 の支持を表明したものと解されよう9'
。
、
れらの熱意を象徴する出来事として.
特 華 に あ た い し よ う。
な お・
この全国 旅行の日程については.
福 田 , l 9 8 5 , 4 5 l-
4 5 4 ベ ー ジ , ま た , か れ ら の 調 査 活動の換様については, 福 田 ・ 井 上.
l988,206-
248ベージを参照されたい。
8 ) Shoup Mission,l949,Volume I , p p . 4 5-
46.
9 ) fシ ャ ウ プ 動 告 』 の 第 4 巻「付録」 (Appendix D 「個人所得税ならびに法 人所得税の我行」)の「結論」では,所得税の税務行政改善の重要性と,そ の困難性が, つぎのように指摘されている。
「所得税にかんして日本の当面する基本的課題は.
何 百 万 と い う 納 税 /-
77-
5東北学院大学論集経済学第l36号
「
所得税を税制の根幹とする試み」
の
成功の条件と もいえる税務行政な らびに納税協力の改善を達成するための方法を, シャウプ使節団は, 幅広 く検討し, 実に様々の
勧告をおこなっているlo'
。
具体的な勧告に先だっ て, かれらは, わが国の所得税ならびに法人税の税務行政の現状分析を展 開し, つぎのように述べている。
「
日本の
戦後の所得税ならびに法人税を効果的に執行するには, 大き な障書があった。
従来, 少数の富裕者の
みに課税されていた個人所得 税は, 突然, 大多数の市民に課税されるようになった。
農地改革の生、
、
・
,, 者に適用される近代的所得税法を施行するために必要な完全な機構を作 り 上 げ る こ と で あ る。 この課題は極めて重要なもののひとっ
である。
そ れは, 日本国民の努力と, 想像力と忍耐力に対する真の挑戦を意味する。
その事業は,一
夜にして完成するようなものではない。適正な税務行政 は l 年 や2年のうちに突如として出現するものではない。
それは, 日本 国民によっても, また, その他の国民によっても, 徐'
にしか獲得でき ないものである。
それが果して獲得できるものであるのかどうか, また,, い か な る 程 度 に 達 成 さ れ る の か と い う こ と は , 日本人自身にかかってい る。
しかも, 右の間に対する回答は国民全体にかかっているもので, 税 務官吏または様々な納税者の集団のみにかかっているものではない。 出発の第一
歩は, 日本人によりすでに踏み出されている。 将来に対し て,相当な希望を抱かせるような手続がとられ,計画は進められている。 しかし, 十分な進歩が達成されるためには, 税務手続ならびに徴税のあ らゆる分野にわたって着実な改善が一
様 に 開 始 さ れ な け れ ば な ら な い。 そ の よ う な 全 般 に わ た る 不 断 の 努 力 は 複 雑 な こ と が ら で あ る。 しかし,, 所得税の執行は, その最惡の時期を過ぎたと信じるべきあらゆる理由が ある。前途の見通しはあかるい。」 (Shoup Mission,1949,pp.D 67-D68.) なぉ, シ ャ ウ プ 使 節 団 は , 国税ならびに地方税の全般にわたる一
連の改革 案 を , 『 シ ャ ウ プ 勧 告 』 の 第 1 巻 な ら び に 第 2 巻 に お い て , ひ と 通 り 提 示 し た後に, 2 冊 ( 第 3 卷 な ら び に 第 4 卷 ) の 『 付 録」を設けて,補足的な動告 を提示している。『付録』に掲較された勧告のタイトルは,「地方政府の財政」 (Appendix A),「所得税における不規則所得の取り扱い」(Appendix B ) ,, 「固定資産の再評価」(Appendix C ) , そ し て.
「個人所得税ならびに法人 所得税の執行」(Appendix D ) で あ る 。 個 人 所 得 税 な ら び に 法 人 所 得 税 の 執行面の調査・研究にl冊の『付録』(Appendix D ) 全 体 が あ て ら れ て い る 事実は, この間題に対する, か れ ら の 関 心 の 高 さ を 示 す も の と い え よ う。
l0) 「シ ャ ウ プ 勧 告 』 第 2 卷 第 1 4 章 「所得税における納税協力・税務行政の執 行ならびに訴訟」.
第 4 卷 『 付 録」(Appendix D )「個人所得税ならびに法 人所得税の執行」 を参照されたい。
78-わが国税務会計発達史の研究l的 んだ小規模自作農は, 段業者であると同時に納税者となった
。
低賃金 労働者と小規模事業者は, ともに所得税の間題には無経験であったが 小規模自作農とともに, 課税を受ける新市民層の
一
部 と な っ た。
所得 税の
執行には正確な薄記・会計が不可欠であるが, それにもかかわら ず,一
方では,帳薄と記録が欠けているとともに,他方では,嘆かわ しいことに,二重帳薄が存在していた。
一一
このような状態のもとで大規模の歳入が徴収されたということは,, ひとっの
偉業である。
しかし, 基本的には, このような徴税はふたつ の要因によるものであった。
すなわち, 軍政府の圧力と, 決定された 収入目標額に達するように税務署が行つた大量の更正決定であった。
所得税は徴収された。
しかし, 適正な所得税の基礎となる個人所得の
客観的測定は.
必然的に機牲にされたのである。」
l l ) ここで指摘した会計の未発達という間題について, シャウプ使節団は, その重大性ならびにその改善の必要性を, つぎのように主張する。
「申告納税制度の もとでの適正な納税者の協力は, かれが自分の所得 を算定するために, 正確な帳薄と記録をっ
ける場合にの
み可能である と い う こ と は , 自 明 の 理 で あ る。
今日,日本における記録は,嘆かわ しい状態にある。
多くの会社には帳簿記録がまったく存在しない。
ほ かの会社には, あ り あ ま る ほ ど 存 在 し , どれが本当のもので.
どれがl l ) Shoup Mission, l949
.
Volume IV.
pp.
l)l-
D3. 「シ ャ ウ プ 動 告」第 l 卷 第 4 章 ( 「個人所得税一税率と控除」) で も.
同機の間題が, つ ぎ の よ う に 論じられている。
「現在.
所得税は,一
方に脱税と他方に独断的な更正決定というふたっ の 危 険 に さ ら さ れ て い る。
さ ら に悪 い こ と に は , 脱 税 と 更 正 決 定 が , 特 定の納税者一小規換事業者ならびに展葉者一について.
他の納税者一給 与所得者一
よ り も は る か に 多 い と い う こ と で あ る。 こ れ が.
不公平の主 要な原因となっている。
これらの欠点を是正するには, い くっかの措置が採用されなければな ら な い。
会計の技術を向_l二させ, 食料管理当局からの情報を十分に活用 し, 更正決定に対する納税者の不服中告手続を改善しなければならな い。」 (Shoup Mission,l949.
Volume I.
p.46.
)東北学院大学論集 経済学第l36号 仮装のものにすぎないのかは,その納税者にしか判らない
。
その
結果 は悪循環となる。
税務官更は, 信用すべき正規の
帳簿がないから標準 率ならびにその他の
平均額を基礎とする成課課税によるほかはないと 主張する。
納税者は,たとえ,正規の帳簿をっ
ける能力があったとし ても, 税務官吏が帳簿を信用しないから, 正規の
帳簿をっ
け る こ と は 意味がないという。
この悪循環を断ち切らねばならない。
納税者が帳 簿を持ち,正確に記帳し, その正確な帳簿を税の
ために使用すること を奨励ならびに援助するよう, あらゆる努力と工夫を傾注しなければ な ら な い。
同様に, 税務官更が, そのような正確な帳簿にもとづいて 開示された情報を尊重するように, あらゆる努力と工夫を價注しなけ ればならない。」
l2)2 ・
3
企業会計の改善にむけての働告 会計の改善にむけてなされた動告は, 企業会計を対象と した勧告と, 税 務会計を対象とした動告とに,
大 き く 二 分 さ れ るl 3:,
, さらに,企業会計の 改善を目的とした勧告は, 記帳能力の低い中小企業を対象とした勧告と, それ以外の
大企業を対象とした勧告とに細分されているl◆L
これらの勧告のうち,
中小企業むけの動告のねらいは, 簿記・会計の
普 及という最も基本的な課題の達成におかれている。
シャウプ使節団は, 中 小企業に対する会計教育の必要性を指摘したうえで, その具体策を動告すl2) Shoup Mission, l949,Volume IV , p .D56
.
l3) 企業会計の改替にむけてなされた動告は, l' シ ャ ウ プ 動 告 」 第 4 卷 「付録」 (Appendix D ) 「個人所得税ならびに法人所得税の我行」 の 「 E 附帯間 題」において詳述されているが,その要旨は,第2卷第l4章「所得税におけ る納税協力・税務行政の
e
l、
行ならびに訴訟」の「会計の役割」に記されてい る。
また, 税務会計の近代化にむけた動告は, 「シ ャ ウ プ 動 告」の第2巻第 7 章 「個人所得税および法人所得税に共通する間題」 に と り ま と め ら れ , 詳 述されている。
l4) Shoup Mission,l949,Volume IV,pp.D56
-
D57.
-わが国税務会計発達史の研究的 る と と も に
,
中小企業用に特に簡素化された帳薄様式の採用を勧告しl5), さらに, 正確な帳簿記録を普及するための誘引策として, 中小企業に限ら ず, 納税者一
般について, 完備した書類にもとづいて申告をしている場合 には, 税制上の特典を与える青色申告制度の導入を勧告したl6。
これに対して, 記帳能力において間題のない大企業むけの
勧告のね ら い は, 会計基準ならびに会計実務の近代化という目的の達成におかれた、、
。
この
目的の達成にむけて, シャ ウプ使節団は, まず第一
に, 「近代的会計 技術を利用できる独立の会計専門家の制度を発展させる」 l8l必要性を指 摘し,「公認会計士法の施行」
を動告したl''
'
。
つづいて,かれらは,「会計 基準ならびに実務の改善」
と い う タ イ ト ル を か か げ , つぎのようなふたっ
の
勧告を行つた。
「
(l)会計基準改善委員会 日本の
会計実務を改善するためには, 組織的な努力がなされなけれ ば な ら い。
このための努力は, 会計基準改善委員会の設置によって始 められた。
この委員会は, 政府であると私人たるとを間わず,
会計基 準の間題に関心を有する者の利益を代表する独立の語間機関と して,, 引き続き活動を継続すべきである。 と く に,
国税庁は,この委員会に l 5 ) Shoup Mission,l949,Volume IV,pp.D57-
D 5 8 . な ぉ , 中小企業用 に簡素化された帳轉の採用を求めた動告のなかで.
かれらは, 「こ の よ う な 方向へ
の前進が各所で行われていて, その結果は非常に額もしい。
会計基準 改善委員会はこの点で役立つ。」
(Shoup Mission,l949,Volume IV,p.
D57) と述べている。シャウプ使節団と「会計基準改善委員会」との関係について は.
のちに論及する。l 6 ) Shoup Mission,l949
.
Volume IV , p p.
D57-
D58.
今日では,一
般 に普及し,当然のことのように受け止められている青色申告も,当時としては
.
きゎめてューークで,画期的な制度であった
。
なお, 青色申告制度については , 『 シ ャ ウ プ 動 告 」第 2 卷 第 l 4 章 (「所得税における納税協力・税務行政の
執行ならびに訴訟」) においても, その実施が動告されている
。
Shoup Mis・sion,l949,Volume I[,p.2l8,p.225
.
l7) Shoup Mission,l949,Volume IV,pp.D50
-
D57.
l8) Shoup Mission,l949,Volume IV , p
.
D50.
l9) Shoup Mission,l949,Volume IV , p p
.
D50-
D52参照。東北学院大学論集 経済学第l36号 代表を送るぺきである
。
一
一
(2)証券取引委員会 証券取引委員会も, 会計基準を向上させるために, 指導的な役割を 果たさなければならない。
同委員会は, 種々の会計上の書式を規定す る権限をもっているから, 会計慣行の発達に大いに貫献しうる優位な 立場にある。
同委員会は, 会計基準を規則として公布するようにすべ きである。
外国における経験では,そうした会計基準の設定は,会計 慣行の大幅な改善をもたらすことが証明されている。
証券取引委員会 が, 会計基準にかんする規則を発表することは, 日本において必要な 改善を達成するための最も効果的な第一
歩 と な る で あ ろ う。
-
一
証券 取引委員会が,効果的な機関として発達するのを援助するために, 大 蔵省ならびに法務省は最大限度の協力をすべきである。
-
一
」
2o) これらの勧告のうちの 「
会計基準改善委員会」 と題された勧告は, シャ ウプ使節団の来日に先んじて活動を開始していた「
企業会計制度対策調査 会」
の活動の成果に対するシャウプ使節団の支持表明とみられている2'
'
。
同様の支持表明は,「シャウプ勧告』につづいて昭和25年に発表された『シ ャウプ使節団日本税制第二次報告書」
22)においても, 再度,つ
ぎの よ う になされている。 20) Shoup Mission,l949,Volume IV , p p.
D52-
D53.
・ 21) 昭和22年(l947年)に,当時の経済安定本部内に設置された「企業会計制 度対策調査会」が,その後の改組を経て,「企業会計審識会」 と 改 称 さ れ ,, 今日にいたっている事実は, 広く知られている。
この機関の委員として活躍 した黒沢 清教授は,「シ ャ ウ プ 動 告 』 の オ リ ジ ナ ルの邦訳中の「会計基準改 善 委 員 会 」 と い う 訳 語 ( 原 文 で は, ' t h e Committee forthe Improve
-ment of Accounting Standardsつ
は,「企業会計制度対策調査会」 を意味し , 同 じ く ォリジナルの邦訳中の「委員会の報告」という訳語(原文では,,
“The recommendations of the Committee
つ
は,「企業会計原則」を意味していた事実を指摘している
。
黒沢 清(解説)「資料: 日本の会計制度<l2>」「企業会計』 Vol.3l
.
No.
12,December,l979,p.
99.
22) Shoup Mission,Seco
'
:dRe
p
o
rtonf
apan
ese
Tamtion, Japan TaxAssociation,l950(大蔵省主税局
ll
「シ ャ ウ プ 使節団日本税制第二次報告書」日本租税研究会,l950年).
-わが国税務会計発達史の研究l的 「近代的所得税ならびに法人税制度の成功は,特に法人や個人の大企 業にかんしては, 有能であり尊敬すべき会計専門家の存在に依存する ところ大である。 ほぼ同様の理由により, 近代的会計基準ならびにそ の 手 続 き を で き る だ け 広 く 取 り 入 れ る こ と が , 絶対必要であろう
。
企 業会計制度対策調査会の努力は, こ の 点 に か ん し て 頼 も し い と こ ろ が ある。 同調査会は, この線にそってその活動を継続すべきである。」 23) シャウブ使節団が,近代的企業会計制度の基盤としての「企業会計原則」
の意義を認め,「企業会計制度対策調査会」を中心とした企業会計制度の 改善ならびに統一
連動の推進を支持しているのは, あ き ら か で あ ろ う2'
1。
これらの勧告以外にも, 会計基準ならびに会計実務の近代化にむけた勧 告 と し て , シャウプ使節団は, 「独立公認会計士をもっと利用すること。」, 「大学およびその他における会計学の教授」,「
国税庁の会計士」, 「外国資 料の利用」, 「総指令部の監督」 と い う タ イ ト ル の 付 さ れ た 5 項 目 の 勧 告 を23) Shoup Mission, l950,SupplementaryMemoranda,pp.78
-
79.24) 当時,「企業会計原則」の設定に携わった黑沢 清 教 授 は , み ず か ら が そ の委員だった 「企葉会計制度対策調査会」とシャウプ使節団との間の交渉の 経総について, 興味深い事実を証言している。その証言によれば, シ ャ ウ プ 使節団の来日直後から, 両者の間に「内面的交渉」が持たれており, 中告納 税 制 度 を 基 礎 に 置 い た : ン ャ ウ プ 使 節 団 の 改 革 構 想 は , そ の 当 初 か ら , 「 企 業 会計制度対策調査会」にl1
_
え ら れ ると と も に.
シ-
l ウ プ 使 節 団 に も , 「企業 会計制度対策調査会」に よ る 「 企 葉 会 計 原 則 」 の 基 本 構 想 が 伝 え ら れ て い た と い う。 た と え ば , 「企業会計原則」の第2原則として「正現の薄記の原則」 を 組 み 込 む 構 想 を 知 ら さ れ た シ ャ ウ プ 博 士 は.
「企業会計制度対策調査会」 に 対 し て , 多 大 の 期 待 を 表 明 し た と い う 。 一 方 , 「企業会計原則」の設定を め ぐ っ て 「四面楚歌」の状態に あ っ た「企業会計制度対策調査会」に と っ て ,, 申告納税方式による近代的所得税制度を税体系の中核に置く, シ ャ ウ プ 使 節 団の税制改1i
i構 想 を 知 ら さ れ た こ と は , 「企業会計原則」設定への「有力な 援護射撃」 と な っ た と い う。黒沢教授は, 当時, みずからが想い描いた理想 を , 税 制 と 会 計 と の 「 同 時 平 行 的 変 革 」 と い う 言 集 で 表 現 し , そ れ が , 『 シ ャ ウ プ'
動 告 』 に よ っ て , 理 想 に 近 い 形 で 実 現 さ れ た こ と を 指 摘 し て い る。果 沢 清 ( 解 説 ) 「 資 料 : 日 本 の 会 計 制 度 0 l > 」 「 企 業 会 計 』 V o 1 . 3 1 , N o . l l ,, November,l979, p.98,p.100,黒沢,December,1979,p.99.
.
無l沢 清 ( 解 説 ) 「 資 料 : 日 本 の 会 計 制 度 < 1 5 > 」 「企 業 会 計 』 V o l . 3 2 , N o . 3 ,, March,1980,p.95.-
83 -1i東北学院大学論集 経済学第l36号 示し, 税務監査制度の導入, 大学における会計教育の内容の見直し, 税務 会計専門の税務官更の表成,近代会計の輪入,会計専門職の確立の援助を 日的とした
GHQの
指導監督部局の創設といった多様な方法を提案してい る25)o 上記の一
連の勧告は,税務会計の基盤としての企業会計の役割の重要性 を示唆する点において, 企業会計の尊重というシャウプ使節団の精神を端 的に現している。
2
・ 4
税務会計近代化にむけての動告 さらに, 企業会計の尊重というシャ ウプ使節団の精神は, 税法の近代化 を求める様々の
画期的:動告を産んだ。
シャ ウプ使節団は, 企業税務の
合理 化ならびに近代化の推進にあたって指摘されるぺき税法上の間題点を「
個 人所得税および法人所得税に共通する間題」
と し て と り あ げ て , その改善の
ための方法を具体的に提示した26。
それらの勧告のタイ トルは, つぎの
と お り で あ る。
「 A
.
固定資産の再評価」
「 B .
在庫品の価格差益課税」
「 C
.
損失の線戻しおよび繰越し」「D.
棚卸資産の経理」「 E
.
減価償却」
「 F .
修結対資本支出」
「G.
貸倒準備金」「A.
固定資産の再評価」では,第二次世界大戦の戦中・戦後を通じて 進行したインフレーションが会計ならびに所得課税制度に与える悪影響 と, それを排除する対策としての固定資産再評価の必要の是非が論じられ 25) 26) l 2Shoup Mission,l949,Volume IV,pp.D50
-
56.
Shoup Mission, l949,Volume I[, p p . l 2 3
-
142.
-わが国税務会計発達史の研究l的 ている
。
シャウプ使節団による詳細な検討の要旨を記した重要簡所をつぎ に示そう。
「所得税は強力,かっ,
適応性のある財政手段ではあるが,それは, 決して, l0年の間に200倍もの購貴率を示すインフレーションに增え うるようにできあがっているものではなかった。
いま, われわれが,, ここに直面している間題は, 納税者相互の公平という点はひどく混乱 しているものの, 再評価の経済的影響は, それと見合うほどの有益さ があるという状況である。
われわれのな し う る こ と は , ただ,最悪の 不公平を選けるとともに, 予想されうる最大の経済的利点を確保しう るような妥協案を動告することにある。
われわれは, 再評価が必要であると確信する。
--再評価は, 所得税のもとにおける税務行政ならびに納税協力の徽底 的改革が必要であるゆえに.
必要とされるのである。
この改革へ
の重 要な段階のひとっ
は, 会計の基準ならびにその実践を大いに美励し,, 改善することである。
この目的は, 企業が, 現在ではほとんど意味の
なくなった過去の原価を基礎として減価償却を続けていかなければな らないと言い渡されたとすれば,
恐らく達成されないであろう。
われ われは,原則として,再取得原価にもとづく減価償却には費成しない。
し か し , 貨a
;
:単位がその旧価値の200分のlまでも下落した場合には, 歴史的原価による減価償却はほとんど意味を失い, 減価債却を, なん らかの方法で現在の物価水準と関連づける必要が生じる。
同時にまた,企業が, 所得税を納付するために, あ ま り に も 多 くの
現金を失う結果, 使用済みの資産を更新することが不能となることを 防止
するうぇでも,再評価は望ましいし,必要でもある。
一一
し か し , わ れ わ れ は , ま た , す で に 実 現 さ れ た キ ャビ
タル・ ゲ イ ン を有する者に対してとられた税務上の取り扱いにかんがみ, さ ら に ま た, 収入が固定している財産の所有者の
被つた実質的損失が考慮され ていない事実にかんがみ, 再評価益の全額に対してなんら課税しない-
85-
l 3東北学院大学論集 経済学第136号 と い う こ と は , あまりにも行き過ぎであると考える
。」
27) 「 B . 在庫品の価格差益課税」 で は , 当時の物価統制令にもとづく統制 価格の改訂に伴つて生じる在庫品の価格差益を対象として実施されていた 課税の是非が問われている。 この問題にっ
いて, シャウプ使節団はっ
ぎの ように述べて, 棚卸資産の価格差益課税の原則廃止を勧告している。「
在庫品の価格差益課税は, 少 な く と も , 正常の在庫品に適用される 場合, ただの名目上, または, 擬制の利益に課税されるのであって,, 実際の経済的利益に課税されるのではない。
価格差益課税を存続する ということは,経済の復興と矛盾する。」:28) 以上のふたっの勧告は, インフレーションならびに公定価格の改訂に伴 う価格変動に起因する名目的利益に対する課税の排除という, 税務計算に おける応用的な間題を論じたものである。 これに対して, 「 C . 欠損の繰 戻しおよび繰越し」以下の残りの5つの勧告は, 税務会計上の基本問題を と り あ げ て , その合理的解決方法を示している。 かれらの提案の要旨とそ の特色をあきらかにするために, こ れ らの勧告の重要箇所を, つぎに示そ うo 「 C . 損失の繰戻しならびに繰越し」 「個人については, 所得額の変動のもたらす不合理は, 一時所得また は一
時損失の次年度以降へ
の繰 越 し を 認 め る こ と に よ っ て , ある程度 緩和される。 法人には累進税率が適用されないが, ある年度において 損失を生じたにもかかわらず, これを相殺すべき所得がない場合には 同様に不合理が生じる。 個人の場合でも, 繰越措置が適用されない か, または適用されても, その規定が, 損失額ならびに控除可能額の 27) Shoup Mission,1949,Volume I[ , p p . 1 2 5-
1 2 6 . な ぉ , 資 産 再 評 価 の 方法や,税率, さ ら に, 再 評 価 益 の 会 計 上 の 性 格 な ど に つ い て は , の ち に,, 会計研究者らの活発な識論が展開されている。 資産再評価は, 昭和25年を皮 切 り に , 数 次 に わ た っ て 実 施 さ れ た が , 当 初 に予定されていた強制実施は,, 任意実施へ
と後退した。 28) Shoup Mission,l949,Volume I[, p . 1 3 1 . l4-
86-.
bが国税務会計発達史の研究的 全額を相殺するに足る十分なものでなければ, 同様の不合理が生じる。
それゆえ, われわれは次の勧告を行う。
すなわち, 法人たると否と にかかわらず, 納税者がある年度に損失を生じた場合, この損失を翌 年度以降の損益計算において繰越して控除できることとし, 損失が所 得によって相殺されるまで, この
線越しを継続するのである。
しかし, この制度の濫用を防止するため, この規定は, 青色申告書の提出を許 されるような適正な帳薄記録をしている納税者 (法人以外の場合) に 限つて適用されるべきである。
--しかし.
無制限な損失繰越し制度といえども, あらゆる場合に公平 を も た ら す と は い え な い。
多 くの事業は, 完全に業務を廃止する直前 には,多額の損失が発生する時期があり,
そうした場合には,税を控 除 し よ う に も , 将来の所 得 と い う もの
がない。
さ ら に , 損失線越し制 度が納税者に与える恩恵は後になってからでなくては, 現れて来ない のであって,すでにこの時には,損失の生じた時点とくらべれば,こ の制度の必要性ははるかに減少してしまっているのである。
それゆえ に, われわれは, 損失の二年度繰戻しを納税者に認めるように勧告す る。
損失繰戻しとは,つぎの制度である。
す な わ ち , 納 税 者 は , 前 年 度または前二年度分の
申告所得額から, 当該年度の損失を差し引き, その年度分または前二年度分の税額を改めて算出し, この税額をこえ て実際納付した税額の差額の還付を請求するのである。」
29)「D.
例卸資産の経理」「
所得税ならびに法人税にかんして, 現在, 大蔵省によって認められ ている棚卸資産の経理方法は,加重平均法(平均原価法)ただひとっ
である。
幾多の視察旅行において, 日本各地の種々の法人および個人 の帳簿を手当り次第に調査して判つたのであるが, 棚卸資産の経理は, 特に法人税にかんして不統一
な点が多い。
棚卸資産の評価については, 熟知されている方法が多くある。
(企業の種々の形態について, 特定29) Shoup Mission, l949
.
Volume I[, pp.133-
l34.
-
87東北学院大学論集経済学第l36号 の事業年度の法人または個人の正確な所得を最も正 し く 見積るには, 事業のタイプごとに異なる棚卸資産経理の方法が必要である
。
) あ る 産業にとっては, 後入先出法または正常在高法を用いることが望まし いかも知れない。 ま た , 他の産業にとっては,先入先出法が望ましい かも知れないのである。
世界各国において現在使用されているこれら の方法は, 合理性が認められている。
適切な条件のもとで.
それらを 使用すれば, 日本の
納税者の
経理制度は改善されるはずである。
しかし, 接用と税の
回選を防止
するために重要なことは, 納税者を して一
の方法を選択させ, それ以降は, その方法を一
貢して採用させ る こ と で あ る。
大蔵省の認可を得た場合にだけ, いったん選択した棚卸資産の経理 方法の変更が認められるようにすべきである。
そうすれば,
変更の申 請に関速して, 大蔵省は所得の計算に一
定の調整を要求することによ って, 納税者の変更を認める条件を示すことができるであろう。
したがって, つぎのことを勧告する。
( l ) 大蔵省は,棚卸資産の経理の種々の方法, しかも,日本の産業の 形態に適合する方法を幅広く研究すること。
(2) その研究の完了とともに, 大蔵省は, 日本の産業に適合した棚卸 資産の経理方法を, 納税者の選択によって使用できることを認める 根l
l
法律を作るか, または, もし法律が必要でないとするならば, 適切な通達を出すべきである。
その通達には,納税者が, いったん,, ある方法を選択した後は, 大蔵省から変更の認可が得られるまで,, それを一
貢して採用する必要があることを定めるべきである。」
:n'
「 E .
減価償却」
「視察旅行において, 種々の会計帳簿を手当り次第に調ぺてみて, 大 部分の納税者は, 固定資産についてなされるべき減価償却を決定するの
に.
一
定の方針に従つ て い な い こ と が 非 常 に は っ き り し た。
課税30) Shoup Mission, l949, Volume I[, pp.l35
-
l36.
-わが国税務会計発達史の研究的 上,固定資産について容認されている唯
一
の減価償却の方法は,定率 法である。
これが, 企業資産の減価債却のための優れた方法のひとっ
で あ る こ と は , た し か に , 認 め ら れ て い る。
本使節団に対して,特に 法人に有利となるように, 定額法にもとづく固定資産の減価償却の容 認を求める非常に多くの要望が出された。
こ れ らの方法を含む種々の減価償却の方法は, 会計士に十分知られ ているものである。
一
般的にいって.
一
事業年度の真実の所得を最も 正確に見積ろうとするならば, 資産の種類に応じて, 異なる減価償却 の方法が必要とされるであろう。
納税者には, 税務当局の甚だしい制 限を受けることなく減価償却の方法を使用し, 可能ならば, 資産の種 類に応じて異なる方法を使用することができる合理的な範囲の
自由が 与えられるべきである。
しかし,一
事業年度の納税者の真実の所得が, 課税上, いったん決定されたならば, その方法は一
貢して守られねば ならない。」
3 l )「 F .
修結対資本支出」
「
個人ならびに法人の資本的性質を有する多くの支出項日の控除を適 正に統制する方策は, 進歩していないように思われる。
-
-
一
般的に いって, 資産を修結する支出は, それが資産の耐用年数を延長するよ うな場合には, 資本的支出とされねばならない。
また,一
般的にいっ て, それが耐用年数を延長しないならば, 営業経費として取り扱われ るべきである。
この間題について,大蔵省は,線密な研究を実施し, この分野に対して適切な指示を与える通達を早く出す必要がある。
大 蔵省は, 経費となる修結と資本的支出となる修結との間に一
線を画す るための一
般原則を作成すべきである。
讓渡所得が全額課税され, 減価償却, 修結ならびに棚卸資産の記帳 がなされている全部の資産の基礎価額に対して適当な調整がなされる 限 り , こ れ らの
経理方法の変更は, 所得が申告される時期の相違をも 3 l ) Shoup Mission,l949,Volume I[, p p . l 3 8-
l39-
89 -l 7東北学院大学論集 経済学第l36号 たらすに過ぎないのであって,決して,総額の変化はもたらさない
。
したがって, これらの項目の
経理方法においては,一
定の自由が認め ら れ て も よ い。」
32)「G.
貸倒準備金」 「貸倒準備金の設定を認め, 課税所得の算定において, この準備金へ
の
線入額の控除を認めるべきであるという要望が, 特に金融機関など の納税者たちから出されている。
原則として, これに対する異論はな い。
た だ し , 準 備 金 は , その金額が妥当な範囲内に止まり,一
定時に おける受取勘定の総計から予想される平均貸倒見込額を示すようなも のでなければならない。
しかし,国債を,購入するや否や大幅に債却 する個行は, 正当とは認められない。
--本使節団は, この間題について, 具体的な勧告を提示するに足る十 分な研究を行う時間を持たなかったので, この
間題が更なる研究を要 する課題であることを指摘するにとどめる。
しかし, 本使節団は,検 討されるべき実行可能な措置として, つぎのような示唆を提示する。
l.
命令で定める制限内で,あらゆる種類の事業にかんして,貸倒準 備金を認めること。
2.
準備金の最大限度額は, 各事業および債権の
種類ごとに区分され た受取勘定に対して, 命令で定める一
定割合とすること。7 .
貸倒金の償却は, 納税者の記録において, かかる債却がなされて はいないということが立証される以上, 貸倒金がそれ以前に債却さ れたはずだという理由や,
以前の年に控除された償却が不適当であ る と い う 理 由 だ け で , 税務官吏によって否認されることはないこ とo」
:n)「C.
欠損の線戻しならびに線越し」では, 従来の税務には存在しなか 32) 33) l 8Shoup Mission, 1949
.
Volume I[ , pp.l40-
l4lShoup Mission,l949
.
Volume I[, p p .l4l-
l42-わが国税務会計発達史の研究
e
的 っ た , ま っ た く 新 た な 制 度 が 提 案 さ れ て い る。シ
ャウプ使節団の
目的は, 欠損の繰戻しならびにその繰越しを認めることによって, 利益の期間変動 に起因する課税の不合理と不公平を解消し, 投資活動を促進するとともに, 納税者をして, 正確な帳薄記録の励行に導くための新たな誘引とすること にあったものと解される3t、
。
「D.
棚卸資産の経理」
ならびに「 E .
減価償却」では,税務計算の多 様性を認め, 納税者による経理方法の適切な選択を可能にすることの必要 性が指摘されている。
いわゆる, 「企業の自主的経理」 を尊重するシャ ウ プ使節団の
姿勢が, これらの勧告から.
強 く う か が え よ う。
「 F .
修結対資本支出」 で は , 従来の税務では不統一
だった修結費と資 本的支出の区分にかんする明確な基準の必要性が指描されている。
「G.貸倒準備金」では,貸倒引当金の繰入額の損金計上の必要性が認 められ, 将来において創設されるべき新制度の基本的枠組みにかんするシ ャ ウプ使節団の試案が提示されている。
この勧告は, いわゆる発生主義会 計の採用を支持したものと解される点で, 注 目 さ れ よ う。
こ の よ う に , シャウプ使節団は, 近代的企業会計理論に照らして指摘さ れるべきわが国税務会計上の重要間題をとりあげて, それらの間題の解決 に必要な税法改正を提案しているのである。
34) Shoup Mission