臨床報告
〔書女雛67鉾57議前論糊〕
筋原性の肩甲下腿三筋萎縮症の1例
東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) オカダ ノリコ ヒロセ カズエ オオサワマ キ コ シシクラ ケイコ岡田 ,典子・広瀬 和恵・大沢真木子・宍倉 啓子
スズキ ハルコ ヒラヤマ ヨシト フクヤマ ユキオ鈴木 陽子・平山 義人・福山 幸夫
(受付 昭和62年2月19日) はじめに 肩甲下腿型の筋萎縮症は,1886年にBrossard1) が報告して以来,いまだその病像や分類など論議 がつきない稀な神経筋疾患で一症候群としてとら えられている. 今回,我々は,筋由来酵素の高値,および筋組 織所見より筋原性変化が主体をなすと思われる肩 甲下腿型筋萎縮症の孤軍例を経験したので報告す る. 症 例 患者:12歳11ヵ月,女児. 主訴:進行性尖足および筋力低下. 家族歴:両親は共に山形県出身であるが近親婚 ではない.親族に神経疾患や筋疾患はない.同胞 には健康な妹(9歳)が1幽いる. 既往歴:妊娠中異常なく,在胎40週で吸引分娩 にて出生した.肥壷巻絡があったが,仮死なく, 哺乳力・暗泣力も普通であった.出生時体重2,950 g,歩行開始1歳2ヵ月,発語11ヵ月と精神運動発 達は正常であった。 現病歴:4歳時,幼稚園の先生より,走るのが 遅く,転倒しやすいことを指摘された.7歳頃, 踵をつけないでしゃがむこと,8歳過ぎには両足 関節に可動域制限があること,動作が緩慢になつ、 たことに気づかれた.某大学病院整形外科にて, 両足関節の背屈制限を指摘され,9歳4ヵ月に両 側アキレス腱延長術を受けたが,その後も下足が 進行したため約1年後再手術をうけた.この時初 めて血清CPK 2,100mU/ml(正常8∼132)と高 値であることが判明し,筋生検等の精査をうけた が原因不明といわれ,特別な治療を受けることな く経過観察されていた.11歳頃より重い物を手で 持って運ぶことが苦手となり,12歳半頃より長時 間の上肢前方挙上ができなくなり,側方より真上 まで挙上しようとしても上腕骨頭が肩甲骨とぶつ かり,肩より上30.位しか挙上できなくなった.一 方,再び尖足が著明となり,当科に来院した. 当科初診時急症:身長150.7cm(一〇.6SD),体 重38.5kg(一1.1SD)のやせ型の女児.顔面筋の 罹患はみられなかった.胸部では心肺に異常みら れず,脈拍数72/分整.腹部では肝・町触醸せず. 発声・嚥下機能およびその他の脳神経に問題なし. 大胸筋・僧帽筋・三角筋その他の肩甲帯筋に著明 な萎縮があり,翼状肩甲を認めた.上肢では近位 筋の萎縮あり,下肢では下腿の下1/2に萎縮がみら れ,両側のアキレス腱背部にはアキレス腱延長術 の手術痕が認められた(写真1).筋力低下は四肢 近位筋優位で,上肢前方挙上および大腿前・後屈 は徒手筋力テスト(0∼5段階評価)で3を示し た.また関節拘縮のため背屈制限のある足関節は 背屈3で,他の筋力は4あるいはそれ以上の力が あった.明らかな筋トーヌス低下は認められな かった.軽度の脊柱前弩がみられたが,脊椎の運 動制限は認めなかった.起立時にはGowers徴候Noriko, OKADA, Kazue HIROSE, Makiko OSAWA, Keiko SHISHIKURA, Haruko SUZUKI, Yoshito HIRAYAMA, Yukio FUKUYAMA〔Department of Pediatrics(Director:Prof Yukio FU・
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唱 「 、 L____一_一.」 200井V 100皿hS 図1 Electromyogram 陽性で,尖足癖のまま膝に手をあて立ちあがった. 深部腱反射は,上肢は減弱,膝蓋腱反射は陰性で あったが,アキレス腱反射は正常であった.病的 反射なく,線維束攣縮筋把握痛はともに陰性, 知覚障害や協同運動障害もみられなかった. 検査所見:一般血液・尿検査には異常なし.胸 部レントゲンおよび心電図所見正常,血清GOT 56Unit(正常9∼26),GPT 41Unit(3∼17),LDH 347mU/ml(110∼280)と軽度上昇, CPKは 3,180∼1,408mU/m1(5∼50)と著明な上昇をみ た.乳酸は正常範囲,ピルビン酸は1.17mg/dl (0.3∼0.9)と軽度上昇,アルドラーゼは31.8mU/ ml(0.5∼3。1)と著明に上昇していた,頭部CT像 に異常所見はみられず,運動神経伝導速度は,後 脛骨神経右59.6m/秒・左51.Om/秒,尺骨神経右 70.6m/秒・左65.2m/秒といずれも正常範囲で あった.上腕二頭筋,上腕三頭筋と大腿直筋で施 行した筋電図検査では,最大収縮時に活動電位の 減少と多相波をみ,大腿直筋では2.5mvの電位を 認め,神経原性変化の要素が観察された.しかし 静止時には,線維束攣縮などの自発活動電位の発 現は認めなかった(図1). 大腿四頭筋の組織学的検索では,筋線維の基本 構築はほぼ保たれていたが,中心核線維の軽度増 加,時に丘ber splitting,貧食や壊死線維もみられ た.外見上angulated丘berと相似する線維がみられたが,NADH−TR(reduced nicotinamide
adenine dinucleotide tetrazolium reductase)染 色では筋小胞体の分布も判別でき,通常の神経原 性筋萎縮症でみられるような筋線維の均質な濃染 像はみられなかった.またこれらの小径線維は ATPase染色により,多くは2C線維で正常人には ほとんど存在しない幼若な筋線維であることが判 明した.またGomori−trichrome変法染色やHE 染色で好塩基性の筋形質とクロマチンに富む大き な核をもち,再生途上の線維であることが示唆さ れた.骨格筋線維はその筋収縮・代謝・神経支配 のちがいなどにより種別があり,ATP ase染色 (pH 9.4, pH 4.6, pH 4.3)で4つのサブタイプ MUSCLE FIBER TYPE
MEAN D工AMETER(μ) STANDARD DEVIATION PERCENTAGE OF FIBERS 120 100 設 国80 = :6。 田 弓 Z 40 20 へ ’、 2A→’ 、 ’ 、 ’ 、 、
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岡田・他論文付図
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…葺:§懸[鍮 継磁 灘 露 晒燭・職 騨㌻:飽}潔 ll・:囎i譲写真1Winged scapula and peroneal atrophy were observed at 12yllm
(1) 醗譲。 (2)
繍
雛灘 ・謡田i日冨田・肖 葺野熱・鷲葺葦鵬 (3) (4) 輔蓬灘
駕 懸・ 簾蟹難
(5)写真2 Muscle sections stained with routine myosin ATPase at pH 9.4(1), myosin ATPase with prein・
(1,2A,2B,2C)に区別できる(写真2).正常人 では1・2A・2B線維がほぼ1/3ずつ分布し,各筋線 維直径のヒストグラムでは一峰性の正規分布を示 す.本例の各筋線維別のヒストグラムを作製した (図2)ところ,いずれの筋線維もその直径が年齢 に比し小さく,2C線維の増加がみられ,また2B線 維が欠損していることが判明した. 初診後の経過:筋力低下と筋萎縮はゆっくり進 行し,17歳時には,両手での洗顔不能,大腿と躯 幹の筋力は2となり,顎関節症も出現した.経過 を追いながら両足跳びをさせ,つま先が床より離 れる距離を観察していたところ,初診時11∼15 cm,14歳5cm,17歳には全く地面から離れなく なった.13歳から14歳時にかけ,階段でめまいを 数回おこしたり,夜間に動悸を覚えたことがあっ たが,聴診や心電図では心機能異常を認めなかっ た.握力は初診時から20kgと変わらず,ほかの神 経障害も認めず,現在一般公立高校へ通学してい る. 考 察 本症例の臨床所見および検査所見をまとめる と, (1)発症は4歳頃で,緩徐に進行性である. (2)並足ではじまり,筋萎縮や筋力低下は,肩 甲帯筋と下腿筋より上肢近位筋,そして下肢近位 筋へと進んだ. (3)知能は正常.知覚障害や線維束攣縮はなく, 強直性脊椎や心筋障害もない. (4)血清CPKおよびアルドラーゼは著明に上 昇し,GOT, GPT, LDHも軽度上昇していた. (5)筋電図では神経原性の要素をみたが,筋生 検では筋原性変化が主体をなし,2C線維の増加と 2B線維欠損を認めた. (6)喜色例である. 現時点における筋力低下は手指を除く全身諸筋 に認められるが,特に躯幹筋と下肢近位筋に強く, 必ずしも肩甲下轡型の筋疾患を強調できない.し かし,初発部位と経過から著者らは肩甲下腿型筋 萎縮症と考えた. 肩甲下腿型の筋萎縮症は稀な疾患で,従来の報 告にみられる臨床像や遺伝形式は一定せず,また 筋病変の本態を神経原性とするもの2)3),筋原性と するもの4)5),両者の混在を主張するもの6)などが あり,独立疾患というより一症候群としてとらえ られている.Kaeser7)はscapulo−peroneal syn. dromeとして4亜型に分類し, Bethlem8)は scapulo−peroneal myopathiesと呼んでいる.そ の他,Emery−Dreifuss型筋萎縮症を心伝導異常を 伴う肩甲下腿型筋萎縮症とする報告例9)もみられ る.自験例では,筋電図に神経原性要素はみられ たが,筋ジストロフィー等の筋疾患でも筋電図上 large action potentialを認めることは稀ならず
あり,生検筋組織は筋原性変化が主体で,血清 CPKやアルドラーゼが著明に高値を呈したこと からも,筋原性の肩甲下腿型筋萎縮症と考えた.
すなわち,scapulo−peroneal muscular
syndrome7)もしくはBethlem8)のいうscapulo・ peroneal myopathiesの範疇に属するものと判断 した. 2B線維欠損はDuchunne型や肢帯型筋ジスト ロフィー等でもみられ10),非特異的現象と思われ た. ま と め 筋原性の肩甲下腿型筋萎縮症の女児例を報告し た.臨床的には,孤語例で緩徐に進行する経過を とる.従来の報告と比べ,発症が早く,血清CPK とアルドラーゼが著明な高値を示し,組織学的に は筋原性変化を呈し,2C線維の増加と2B線維欠 損が認められた. 文 献1)Brossard J: Etude clinique sur une forrne h6r6ditaire d’atrophie musculaire progressive d6butant par les membres inf6rieurs(type
f芭moral avec grifEe des orteils), pp174, Stein− heil, Paris(1886)
2)Schwarz MS, Swash M: Scapuloperoneal atrophy with sensory involvement:Daviden・ kow’s syndrome. J Neurol Neurosurg Psychia− try 38:1063−1097, 1975
3)塚越 広,高須俊明,吉田充男ほか:神経原性肩 甲下腿型筋萎縮症の一家系.臨床神経 9:511
−517, 1969
4)Seitz D:Zur nosologischen Stellung des sognannten scapuloperonealen Syndroms, Dtsch Z Nervenheilk 175:547−552,1957
を伴う肩甲下腿型筋萎縮症.臨床神経 25:784
−787, 1985
6)Takahashi K, Nakamura H, Nakashima R:
コ
Scapuloperoneal dystrophy associated with
neurogenic changes. J Neurol Sci 23:575−583, 1974
7)Kaeser HE:Scapulo−peroneal syndrome.、耽 Handbook of Clinical Neurology.22 System
Disorder and Atroph1es.(Vinken PJ, Bruyn GW ed), pp57迅5, Elsevier North−Holland Biome一
8)Bethlem J:Myopathies. pp33−41, Elsevier North−Holland B量omedical Press, Amsterda皿
(1977)
9)寺内昭子,黒田育子,森哲夫ほか:Emery− Dreifuss型筋萎縮症(性染色体劣性遺伝,心伝導 系の異常を伴う肩甲下腿型筋萎縮症)の1例.脳
と発達 17:443−447, 1985
10)Dubow孟tz V, Brooke MH l Muscle biopsy:A modem approach.(2nd ed)3 pp289−404, WB Saunders Company, London(1985)