食生活と身体の時計一ヒトを対象とした時間栄養学
についてー
著者
吉崎 貴大
著者別名
YOSHIZAKI Takahiro
雑誌名
工業技術
巻
40
ページ
80-83
発行年
2018
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00009586/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止
http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja
***技術報告***
食生活と身体の時計
一ヒトを対象とした時間栄養学についてー
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o
n
吉 崎 貴 大 合
1
.はじめに
これま
でに生体リズム
の調節について、中枢時計
と末
梢時計に対して分子レベルでの詳細な検討がなされ、概
日時計への理解が健康の維持増進につながる可能性を
示唆する知見が増えてきてい
る
。
しかしなが
ら
、
夜型と
いった 1日の活動時間帯の指向性や概日時計の乱れに
よる食生活状況への影響、あるいは食事を摂取する時間
帯の違いによる概日リズムへの影響について、ヒトを対
象とした知見は非常に限られている。そこで、本稿では
ヒトを対象とした食生活と生体リズムに関する知見を
概説する。
2.
夜型指向性と食生活状況との関連性
個人が
1日の中で示す活動の指向性は、朝型夜型指
向性と呼ばれる
。
一般的に、朝型の指向性を持つ者は起
床時刻が早
く
、
生産的な活動の理想的な時間帯のピーク
は日中の早
い時間
帯であり
、就
寝時刻も早
い傾向
がある。
一方、夜型の者は起床時刻が遅
く
、午前中は調子
が上が
らないまま過ごし、夜遅い時間帯まで眠気を感じにく
い
傾向があると言える。この朝型夜型指向性は、疫
学
的に
は
H
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[
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]
や
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Ak
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[
2
]
の
質
問票、ある
いは起床
・
就寝時刻から睡眠中間時刻を算出
するなどによっ
て評価することが可能で、あり
、特に
Horne & Ostberg
の質問票から得られる
Morningn
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.
Eveni
時nessQ
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つ
い
ては体温の日周
リ
ズムの位
相
との間で妥当
性
が確認さ
れてい
る[
3
]
。
これまでに、夜型指向性と食生活状況と
の関連については断面研究ではあるが複数の論文で検
討されている。例えば、
Sat
o
・
Mi
t
o
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al
.
[
4
]は、
若年
*食環境科学部食環境科学科の日本
人
女性
3304
名を対象とし、夜型指向性を持つ者
では菓
子
類や油脂類の摂取
量
が有意に多く、さ
らに
は野
菜類摂取量が有意に少ない
こと
を報告している。また、
日勤と
夜勤勤務を繰り返す交代制勤務者
は
Morningness. Eveningne
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がf
丘
値
を示すこ
と[
5
]
や、日
勤者に比べて心臓自律神経活動
の概日リズムの位相が後退してい
ること [
6
]
も報
告され
ており
、
夜型指向性を持つ集団の代表例と捉える
ことが
できる。我々はこれまでの観察研究によって、交代制勤
務者
の菓
子類や噌好飲料摂取量が日勤者に比
べて
有意
に高値を
示
すことを明ら
かに
している
[
7
,
8
]。
さらに
、
この交代制勤務者と日勤者との食事内容の違いは、
夜型
指向性によって媒介あるいは調節されている可能性
を
明
らかにした[
9
]
。これらの知見からは、
夜型指向性を
持つ者
が
糖質や脂質に対
して
特徴的な曙好
性を
有し、食
生活内容のバランスが崩れる可能性も十分に考えられ
る
。
実際
、
実験的研究において模擬夜勤後の食
事では、
通常睡眠後の対照群
に比較
して高脂肪食
に対する
噌好
性
が高まる
ことが報告されている
[
1
0
]
。今後
、
横 断研究
によって夜型指向性と食物摂取頻度調査法を用いた習
慣的な食生活状況との関連を示すに留まらず、
生活
リ
ズ
ムの夜型化について
1日
数日といった短期的な移行
によって、食品選択や噌好性がどのように変
化するかに
ついても
、日常生活下における食生活を食事記
録法
など
によって評
価し
て
いく、
あるいは実験的なデザ
イ
ンで評
価
する必要がある。
3
.
食事時刻の変化による概日リズムへの影響
同調因子
として概日時計に作用する主要な要因は光
-
80
-食生活と身体の時計一ヒトを対象とした時間栄養学についてー
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吉崎貴大さらに、前進群では早朝空腹時
の
LDL
コ
レステロー
ルや中性脂肪
が
有意に減少した
。
この結果は、動
物実験
において制限給餌によって給餌時刻の違いによ
る時計
遺伝子や脂肪合成への影響を検討した知見ともよく一
致している
[
1
3
]
。
そのため、食事を摂取すること
は同調
因
子のーっとな
り得る可能性
も考えられ、
1日
の最初の
食事の機会である朝食を欠食することで、概日
リズムの
位相後退や夜型指向性への親和性が高くなることにつ
ながると想定される。一方、 1日
の食
欲にも日周リズム
が存在することが報告されてお
り
、午前
8
時ごろ
に空
腹感が最も高
ま
ることが示されて
いる
[
1
4
]
。したがって
、
朝食欠食
による
概日時計へ
の作用は、
習慣
化
されること
によって食欲のリズムの位相後退へとつながる可能性
もあり、さらにはそのリズムの変容が朝食欠食と
いう習
慣をより強固なものへと定着させている可能性
も考え
られる。朝食の欠食は、バランスの良い食生活を整える
ための
貴重
な機会を失うだけでなく
、
長期的には脂質代
謝異常
につながる
可能性
も報告されている
[
1
5
]
。
こ
の結
果が、概日時計
の変
調によって媒
介さ
れている
か否かは
~ ~ 4 ~ 0 24
6 8現時点では定かでないが、今後は光刺激が概
日
時計に対
刺
激であるが、近年の動物実験では、食事のタイミング
も重要な要因である可能性が報告されている
[
1
1
,
1
2
]
。
このことに
つ
いて、ヒトを対象とし
た
研究がないこ
とか
ら
、
我々はホ
ルタ
一心電図計を用いて
24
時間の心
電図
を記録することで心臓自律神経活動の日周リズムを評
価し
、食事時刻の違いによる影響を検討してきた
。
特に
、
朝食欠食者を対象として食事時刻のみを変化させた並
行比較試験では、
1日3
回の食事時
刻を
13
時
、
18
時
お
よび
23
時から、
2
週間にわたって
5
時間ずつ早
めたと
ころ(前進
群)
、対照
群に
比
べて
心臓
自律神経活動の日
周
リ
ズムの位相が有意に前進した
(
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3
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)
:
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・1
1
.
)
する主要な同調因子であることに加えて
、
毎日
の規
則的
な食生活も生体リズムを整える可能性を持つことにつ
いて、ヒト
を対象と
したエピ
デンスを集積
し
、
健康寿命
の延伸へ向けた基礎資料を作成する
こ
とが必要となる
であろう
。
4.
社会的ジェットラグ (
S
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I
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)
とは?
タイムゾー
ンを
跨ぐような海外
への移
動経験が
あれ
ば、時差ぼけの症状を経験したこと
が
あるかもしれ
ない。
生体の概日時計と外部環境の時計との聞のずれによっ
て
、
眠
気や頭痛と
いった
心身
の不調を生
じ
ることがある。
例えば、
1
2
時に成田空港を出発してロンド、ンに向
かっ
た場合
、
現地到着時刻は日本標準時において約
1
2
時間
後の
24
時
となる
(現地時刻
では
15
時と
なる)。つまり
、
生体とし
ての
時計は深
夜の
休息時間帯であ
るにも関わ
噌
-0 0食生活と身体の時計一ヒトを対象とした時間栄養学についてー
Association between dietary behavior and circadian c1ock: human studies about chrononutrition
吉崎貴大
らず、現地では昼間の活動を求められることになる。こ
のような“時計のずれ"に関する現象はタイムゾーンを
跨ぐ時に限らず、身近にもその可能性が存在している。
つまり、多くの者は平日には何らかの社会的制約(授業
や仕事など)を受けて生活し、休日にはそれらの制約が
ない。後者の場合には、各個人の睡眠ー覚醒リズムは概
日時計や指向性に依存あるいは一致しやすい状況であ
る。一方、平日の場合では、社会的制約によって睡眠一
覚醒リズムと概日リズムの位相との聞に時間的なずれ
(脱同調状態)を生じ、このことを社会的ジェットラグ
と呼んで、いる。近年では、この社会的ジェットラグの程
度と抑うつ傾向、肥満、メタボリツクシンドロームとの
関連が報告されている
[
1
6,
1
7
]
。しかしながら、社会的
ジェットラグの程度と食生活状況との関連については、
未だ十分に検討されていないことから、
Munich Chrono町
peQuestionnaire[
1
8
]
やアクティグラフを
用いて、日々の睡眠一覚醒リズムや時間的なずれを定量
化することで検討していく必要がある。日常的な活動の
指向性が夜の時間帯へ移行している夜型指向性によっ
て食生活内容が異なることと同様に、社会的ジェットラ
グの程度に応じて、食生活状況が変化する可能性も十分
に考えられる
。
5.
時間栄養学のスポーツ選手への応用・展開
アスリートにおいても、生活リズムと食生活状況との
関わりについては、一般集団でみられた傾向と同様なも
のと推測される。例えば、我が国のトップスポーツ選手
1115
名を対象とした松本らの調査によれば、食生活状
況のバランスに関して、高い意識を持っている者は起
床・就寝時刻、睡眠中間時刻が早いことが示されている
[
1
9
]
。ただし、横断研究であることや実際の食事内容が
評価されていないという研究の限界を有しているもの
の、生活習慣の夜型化を改善することが望ましい食生活
状況を形成する可能性は十分に考えられる
。
しかしなが
ら、現時点ではアスリートにおいてコンディションやパ
フォーマンスの維持・向上にとって望ましい食事のタイ
ミングは具体的に示されていない。今後、食事の質や量
のみの検討に留まらず、体内リズムや生活時間といった
時間的要因も含めて、アスリートを対象とした調査・実
験が必要となるであろう。
6.
おわりに
時間栄養学に関する研究はまだ始まったばかりであ
る。日本人の食事摂取基準には、食事の量と質に関する
記述はあるものの、いつ食事を摂取するべきか、という
質問に明確な答えを与えられるものではない。今後、ヒ
トを対象とした時間栄養学に関する研究が発展し、エピ
デンスが蓄積されていくことによって、健康維持・増進
に対してより良いアプローチ法が検討されていくこと
を期待したい
。
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