学校教育における人形劇の教育的意義と教師支援のあり方について
学校教育専攻
総合学習開発コース
立 和 名 信 行
1.問題の所在
近年,いじめや不登校だけでなく,社会を震
憾させるような少年による凶悪な犯罪が目立
つo この背景として,子どもたちの社会性の未
発達,自己表現力やコミュニケーション能力の
低下が指摘されている。対人関係をうまく結ぶ
ことができない子どもたちの自尊感情や他者
を尊重する感情は低い。
そこで,豊かな人間関係の中で,子どもたち
の自尊感情や他者尊重の態度を育むために,人
間生活のシミュレーションである劇教育に着
目する。中でも,顔を隠しながら表現すること
が可能であり,人形製作という造形的特徴を併
せ持つ人形劇に焦点を当てる。
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本研究の目的
(1)人形劇の歴史を振り返り,人形劇の本質
にせまることを通して,観劇者,演じ手の双方
に及ぼす影響について明らかにする。
(2)学校教育における人形劇の活動を通して,
子どもたちが身につけることができるカにつ
いて明らかにし,総合的な学習の材としての価
値を見出す。
(3)学校教育に人形劇を活動として取り入れ
た場合,教師がどのような支援を行っていけば
よいのか,について明らかにする。
これら三点を明らかにすることで,学校教育
という場における人形劇の教育的意味を示唆
し,実践に生かすーっの可能性を示すことがで
きるものと考える。
指 導 教 員 村 川 雅 弘
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人形劇の本質とその影響
人形劇は,その名の通り人形が演じる演劇で
ある。人形を操る人形劇人が,顔を穏して人形
を操ることもしばしばである。自己を表現する
ことに不慣れな今日の子どもたちに,最初から
自らの顔を出して演じる劇を行うとなると,緊
張や恥ずかしさから,自己を開放する表現は困
難である。そのため,顔を隠すことができる人
形劇は,自己表現に不慣れな子どもに対する表
現活動として,恥ずかしさも軽減されるのでは
ないか,と考えられる。そして,人形劇によっ
て表現することを通して,次第に自己を開放し
ていく喜びを得られるようになる。このことか
ら,人形劇は劇教育の入り口として捉えられる。
また,オプラスツォーフが述べているように,
人形劇は本質的に比喰的である。舞台に登場す
る俳優が生きもので、なく,人形とし、う生命のな
い物であるということからも,人形劇がすでに
比喰的であるといえる。
そして,人形劇が,比喰的である人形によっ
て演じられるということから,人形を製作する
造形芸術と人形を操る俳優芸術を基本的な成
分とし,さらに,言語性,色彩性,音楽性とい
う二次的な成分を加えることで,極めて多様な
かっ独特な演劇形態をとることが可能になるo
このことから,人形劇は総合的な芸術作品であ
るといえよう。さらに,こうしたさまざまな芸
術の溶けあいから成立する人形劇は,集合的で,
集団的なものである。
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総合的な学習の材としての人形劇
人形劇の比喰的な本質は,他の演劇形態では
図難な表現をも容易なものにしてしまう。そう
したことが,子どもたちの自由な想像の世界を
展開することへとつながる。この人形独特の奇
抜な世界を繰り広げることが,自己の開放へと
つながる。
そして,この想像の世界で,物語を創造して
いくことを通して,現実世界を反映し,現実の
世界における真実を象徴する。このことが現実
世界のさまざまな認識へとつながる。また,ロ
パーツ・エイヴンスが,
r
知能は, (中略)象徴
という手段によって通'実を組織化し,秩序付
けるものjと述べていることからも,象徴行為
が,知的活動と関連していることがわかる。
また,人形劇が総合的な芸術作品であるとい
うことに着目する。すると,脚本づくりは国語
のカ,人形や小道具の製作には図画工作,家庭
科のカ,効果音は音楽のカ,人形の操作には体
育といった教科との関連が見られる。
人形劇が集合的,集団的な仕事である,とい
うことについて着目すると,相互のかかわり合
いを通して,協同性を育んでいくことができる
と考えられる。これは, OECDが掲げるキー・
コンビテンシーのうち,
r
他者と円滑に人間関
係、をっくり,協調していこうとすることJ
r
自
らの行動や決定が,自分の置かれた状況や自身
の行動の影響等を考えた上で行えたり,周囲の
環境や社会の中で,自らが果たそうとする役割
を認識したりすることjに関連する。かかわり
合いながら協同的にっくり上げていく人形劇
において,子どもたちのソーシャルスキル獲得
につながり,それによって他者との関係性を良
好に調節していくことで自尊感情を高められ
ると考えられる。
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教師支援について
(1)人形劇活動の支援
①演じる活動の支援
観客の立場にたった演技ができるように,子
どもたち同士や教師自身が評価していくとい
う支援が考えられる。こうした客観的な感想、が,
子どもたちの演技を高めていくと考えられる。
また,プロの劇団の公演を見せることや,ゲ
ストティーチャーを招き,演技指導してもらう
機会を設ける,といった支援が大事である。
②製作活動の支援
製作活動は,極めて教科との関連が強いもの
である。そのため,人形劇活動と教科学習とを
関連付けることが大事である。
(2)学習環境整備の支援
①時間の確保
人形劇をっくり上げていく過程にあるさま
ざまな活動を長期的に取り組むことで,人形劇
が材として生きるものと考えられようD
②連携・協力体制
教師聞とりわけ音楽や家庭科における専科
の教師や,外部の人形劇の専門家等との連携を
図り,より専門的な力を子どもたちに身につけ
させようと考える必要がある。
6.今後の課題
本論文では,人形劇の本質と学校教育におけ
る人形劇活動の教師支援を考察した。ところが,
人形劇活動を取り入れる際に必要となる教師
支援は,人形劇に限定された支援ではなく,人
形劇を含む劇教育という大きなカテゴリーに
おける教師支援の考察にとどまってしまって
いる。そこで,人形劇の比喰的である本質を踏
まえた上で,生かす教師支援のあり方とともに,
指導計画を考案することが,今後の大きな課題
である。
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