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ニュー・マネタリー・
エコノミックスの貨幣理論*
片 山 貞
雄
1 はしがき 金融自由化や金融革新が進行するにつれ,決済性をもつ種々の金融商品が提 1) 供されてきた結果,貨幣資産と非貨幣資産の境界線が曖昧になっている。その ため,伝統的なマネー・サプライのコントU一ルは一層困難となったといわざ るをえない。このような状況は将来さらに進行するであろう。 こういつた事態を背景にもちながら,1つの新しい貨幣理論(ニュー・マネ タリー・エコノミックス)を構築せんとするグループがアメリカを中心に出現 しつつある。彼らは思想的にはマネタリズムを母としているが,現在の貨幣(特 に基礎貨幣)を規制の産物と見なし,貨幣・銀行の分野にまで自由化を徹底し て進めんとする点基礎貨幣重視のマネタリズムとは異なっていて一種の鬼子と いえるかもしれない。また現在の制度的慣行と異なり,貨幣の伝統的な機能で ある計算単位(価値尺度)と交換手段(支払手段)をそれぞれ別個のものに担 当させる,つまり前者は一定の商品の束に結び付けるが,後者の供給は民間の 金融機関に委ねる結果,現行の基礎貨幣は廃止されることになる。彼らの見解 によれば,この処方箋により現行制度のもとで起こる貨幣的不均衡とその解消 過程でもたらされる貨幣的・経済的混乱を回避できるというのである。 * 大学時代の同窓であB、長年の同僚である仙田左千夫教授の今後益々の御健勝と御活躍 を祈念したい。 なお、本小稿執筆にあたり、貴重な資料と示唆をいただいたProf. R。 L. Greenfield (Fairleigh University), Prof. L. B, Yeager (Auburn University), Prof. T, Cowen (George Mason University),Prof. W.W. Woolsey(The Citadel)1こ謝意を表したい。 1)金融自由化,金融革新と貨幣の関係については,片山(1990),特に4章参照。たしかに彼らの分析のパラダイムは既存のものとかなり異なっているし,し かもその見解も批判やコメントを受けて修正,整備されつつあり,まだ完成さ れたものであるとはいえないように思える。 しかし,このニュー・マネタリー・エコノミックス(以下,NMEと略称) が1つの注目すべき貨幣理論であることは否定できないであろう。 本小稿の目的はこの理論の内容を明らかにすると共にその核心に迫らんとす ることである。
II NMEの特色とマネタリズム
NMEの名称はホール(R. E. Hall)が彼自身とブラック(F. Black)および ファーマ(E.Fama)の貨幣理論に共通する特色を示すために造りだした用語 2) である。 この理論の強力な支持者であるのみならず,その不完全な点を補強しさらに 体系化を試みているグリーンフィールド(R.Greenfield)とイーガー(L. 3) Yeager)はNMEのパラダイムを示すために,共同論文(1983)の中で,その 創設者ともいうべきこれら3人の貢献を評価してそれぞれの頭文字をとってB FHシステムと呼んでいる。 4)NMEないしBFHシステムの特色を簡単に述べれば,第1に現行の貨幣・
金融制度は政府による法的制限ないし規制の産物でと見なすことである。した がって現在の中央銀行貨幣たる基礎貨幣(basic money)ないし外部:貨幣(out− side money)もそうである。これら制限や規制が撤廃され,完全な自由放任制 度の下では,このような基礎貨幣を廃止し,民間の金融機関に通貨供給を委ね 2) Hall(1982) pp. 1552−3. 3) Greenfield and Yeager(1983) p. 302. 4)Cowen and Kroszner(1987)はNMEを7っの特色で示している(pp.569−70)し,一 方Harper and CQleman(1992)は3っの特徴にまとめている。筆者も彼らから示唆を得 ている。さらに,BFHシステムでは,従来の貨幣(中央銀行貨幣ないし基礎貨幣)は存 在しないので,貨幣数量説や流動性選好理論は意味がなくなり,伝統的貨幣理論は妥当性 を失うことも特徴の1つとして上げられている(Cowen and Kroszner, op. cit., p.569) が,本稿ではこの問題を論じないので,省略した。ニュー・マネタリー・エコノミックスの貨幣理論 3 ることが厚生的にも望ましい。第2に,伝統的に貨幣の本質的機能とされてき 5) た計算単位(価値尺度)と交換手段(支払手段)が現行制度のように同じもの である必要はなく,前者を一定の商品束(bundle of commodities)で定義し, 後者は民間の金融機関の競争的通貨供給に任せることになる。この場合,現行 制度下の基礎貨幣と異なり新しい貨幣(BFH貨幣と呼ぼう)は需要に応じて 発行される(第4節参照)ので,貨幣的原因による経済の不安定性は排除され ることになる。 しかし,NMEないしBFHシステムの創設者であるファーマ,ブラック, ホールにしても体系的な分析を示しているとはいえないし,必ずしも個々の問 題について意見が一致しているとはいえない。たとえば,計算単位として使用 する商品束にしても何を具体的にあてるかについて彼らの意見は一致していな い。この意味で,NMEは貨幣・金融論上でまだ確立された1つの理論である とはいえないかもしれない。したがって現段階では,コウエン(T.Cowen)等 6) (1990)のいうように,NMEは上述の貨幣・金融論上の問題について一定の 確定した回答を得ているというより,むしろ共通の問題提起を行っていると見 なした方が適切であるかもしれない。 現在,NMEの主なトレーガーはその創設者の3人よりむしろ,イーガーと 7) グリーンフィールド,およびイーガーの弟子のウールシー(W.W. Woolsey) であるということができ,彼らはすべてアメリカの学者である。またイギリス 8) のダウド(K.Dowd)もこの陣営に加えることができるであろう。 5)近代経済学ではマルクス経済学と異なり,貨幣の価値尺度(measure of value;Wert− maB)機能と計算単位(unif of account)機能を同一視してきた(片山前掲研究報告書, 12−13ページ参照)が,最近両者を区別する論者も見られる。ただし,価値尺度に相当する 用語として,medium of accountを使用している。たとえば, Woolesy and Yeager (1994)p.85,Cowen and Kroszner(1993)pp.3−4参照。しかし,本稿の議論の本筋とは 直接関係しないので,計算単位という用語のみを使用する。 6) Cowen and Croszner(1987) pp.569−70. 7) Woolsey(1987, 1991, 1992). 8)Dowd(1988,1992a,1992b).なお, Dr. Dowdは最近, University of Nottinghamよ りSheffield Hallam Universityへ移った。
周知のようにフリードマンを旗手とするマネタリストは経済に対する政府の 干渉や規制に反対して市場機構を信奉し,自由放任主義をとるが,・しかしそれ は貨幣・金融の分野にまでは至らない。彼らは「貨幣は重要である」(money matters)との立場をとり,貨幣量の増加率xパーセント・ルールを主張する が,その場合の貨幣はいうまでもなく現行の貨幣であり,BFH貨幣とは異な っている。 これに関連して自らの立場をNMEとするホールはフリードマンとシュヴァ 9) 一ツ(A.Schwartz)の著書の書評論文(1982)において次のような意味のこと を述べている。フリードマンに代表されるマネタリストは新しい敵であるNM Eと対峙することになった。この敵は自由市場を信奉する経済学の立場に立つ 点ではマネタリストと同じであるが,フリードマンのかつての同僚や学生によ って指導されている。さらに,ホールは誇張された表現であるが,「かつて貨幣 数量説を強く支持してきたアメリカ中西部はいまやほとんど〔NMEという〕 敵によって占領されている」(p.1552)(〔〕内は筆者による。以下同じ。)とさ えいう。NMEはマネタリズムと異なり,現在の貨幣は政府規制の産物にすぎ ないと見なし,マネタリストの総帥によるこの共著が貨幣・銀行面における政 府規制に言及していないことを不満とし,この面での自由市場政策が過去に採 られていたとすれば,より効率的な銀行システムをもたらしたであろうという。 このようにNMEは元来マネタリズムを母として生まれたものであるが,い ったん巣立ってしまうと別個の種類の鳥のように振る舞っているといえるかも しれない。たしかにマネタリズムと異なり,貨幣・金融の分野まで自由化を徹 底して進めようとするのがNMEの政策的立場である。市場メカニズムの信奉 という点では両者変わるところがなく,その意味ではNMEはマネタリズムの 延長線上にあるといってよいであろう。 9)フリードマンとシュヴァーツの書名はホールの書評論文の題名になっている。Cf. Hall (1982) p.1552.
ニュー・マネタリー・エコノミックスの貨幣理論 5
III BFHシステムの貨幣
前節で解説したように,BFHシステムの貨幣, BFH貨幣は現行の貨幣と 異なったユニークな特色をもつ。 現行制度の下では同じものが計算単位と交換手段の機能を果たす(たとえば, 円やドル)が,BFHシステムではこの2つの機能をそれぞれ別個のものが営 むことになる。つまり,計算単位は一定量の複数商品から構成される商品束に 等しいと定義され,一方交換手段は現行の中央銀行貨幣(基礎貨幣)を廃止し, 民間金融機関の自由な供給に委ねるというのである。 10) グり一ンフィールドとイーガー(1983)によれば,この商品束は正確に等級 11) 別に分類でき,自由に取り引きされる商品で,大部分は主要な原材料品から構 成され,この商品束で表した物価水準をできるだけ安定させるように十分広範 囲の商品を含めるべきとする。しかし,彼らはどのようなものを含むべきかに ついて具体的な商品名を示していない。そして分析はすべて仮説例によって行 われる。 既述のように,BFHシステムでは計算単位は一定量の複数商品から構成さ れる商品束に等しいと定義された。その場合,商品束に含まれる各商品の価格 は固定されず変化し,したがって各構成商品の相対価値は変化するが,商品束 全体の価値である計算単位は1単位(1U)ないしx単位(xU)という一定の価 値をもつと定義される。 いま,商品束がそれぞれ1個の商品Aと商品Bから構成されていて(原理は 12) 多数商品でも同じ),両者が等価であるとすれば,商品Aの価格(PA),商品B の価格(PB)は計算単位(U)で表して,それぞれ0.5Uとなる(1U=PA+PB 10)Greenfield and Yeager(1983)p.305.両氏が後に公刊した論文でも彼らの考えの本質 は変化していない。 11)1983年の論文では,束に含まれるのは商品のみであるが,後の論文ではサービスも含ま れている。Cf. Greenfield and Yeager(1989)pp.409, Yeager(1989)p.382. 12)Cf。 Yeager(1985)pp.104−5.イーガーはまた計算単位をValun(value of unit)とも 呼ぶ。Yeager(1989)p.371,=0.5U+0.5U)。しかし,いま商品Aに対する需要が増加し,その結果商品Bと 13) の交換比率が1A=3Bとなれば,商品束の構成要素である商品A,商品Bの価 格はそれぞれ0.75U,0.25Uとなる(1U=0.75U+0.25U)。もし,何らかの理由 でこの相対価格以外の比価が発生すれば,裁定取引によってこの比価に収敏す ることになるであろう。 このようにして表示された計算単位(U)ですべての財・サービス価格を表示 できるので,BFHシステムがテキストブック的な物々交換の不便(textbook 14) inconvenience of barter)をもっているという批判はあたらないとする。 一方,先に簡単に述べたように,BFHシステムでは,交換手段は民間の金 融機関の自由な供給に委ねることになり,政府は計算単位を定義する以外貨幣 ・金融面での役割を停止し,現行の中央銀行貨幣(基礎貨幣)も消滅し,結局 15) 中央銀行も不要となってしまうであろう。 民間金融機関の自由競争によって発行される交換手段は利付きのものとなる。 つまり,民間銀行の発行する銀行券や当座性預金は存在するが,自由競争の結 果,金融機関は「今日の銀行,短期金融資産投資信託(MMF)および株式投 16) 資信託(stock mutual funds)の特色を結合したものとなって現れるであろう。」 その場合,人々は小切手を使ってこれら機関に保有の金融資産を支払いにあて 17) るが,これにあてて「正確に定義された安定した単一の単位〔U〕で」小切手を 書くことになる。 ところで,このような交換手段の免心ないし交換性の問題はどうなっている のであろうか。
BFHシステムはかつて提案された商品準備制度(commodity reserve
13)計算単位(U)を実物量で表すと4/3Aまたは4Bに等しくなる。∵1/0.75=1/0.25 14)Greenfield and Yeager(1989)p. 414.たとえば, O’Driscoll(1986a)p. 26,(1986b)pp. 13−15の批判がそうである。 15)筆者の参照した文献では,グリーンフ/一ルドおよびイーガーは中央銀行について明確 なことを述べていない。しかし,彼らの論理からいえば中央銀行は不要となるであろう。 16) Yeager(1985) p.104. 17) lbid.ニュー・マネタリー・エコノミックスの貨幣理論 7 18) system)と類似するところもあるが,それとは異なり束を構成する商品への交 換1生の義務はなく,したがってこれら商品の在庫を持つ必要はない。 しからば,どのようなメカニズムによりBFHシステムの安定性が維持され るのであろうか。 この問題は節を改めて論じよう。 IV 現行制度下の貨幣的不均衡とその解消 BFHシステムの最も強力な支持者でありその名付け親ともいえるグリーン フィールドおよびイーガー(特に後者)(1989)の重要な問題意識は現行制度下 における貨幣的不均衡ないしマクロ的不均衡の問題である。彼らは最近の多く の事実によってマネタリストの信用は落ちているとし,「特に旧マネタリストに 19) よる恒常的な貨幣成長率の提案は疑わしい考えのように思える」とマネタリズ ムにきわめて批判的である。しかし一方,政策的処方箋と理論ないし証拠とは 区別しなければならないとし,「〔恒常的〕貨幣増加率ルールに関する疑問は景 気変動の貨幣的側面の重視を正当化する理論や歴史的経験自体の信用を損なう 20) ものでない」点を強調する。 続いて現行貨幣制度の不合理性は貨幣の需要と供給が1国の貨幣の価値を決 定する態様に関連しているとする。つまり,「貨幣の需要と供給は単一の,特定 の市場で出合うことはないし,単一の特定の価格(たとえば,銅の市場とその 価格)を決定するものでない。貨幣的不均衡は単一市場における単一の価格の 直接的な調整によって是正されないから,その是正は無数の別々の市場に対し, 別々であるが相互に依存した無数の価格調整を必要とし,しかも長期間続き苦 21) 痛をもたらす可能性のある過程である。」このような主旨のことはイーガー 18)商品準備通貨制(Commodity reserve currency standard)とも呼ばれる。その内容に ついては,たとえば川口(1973),第3章参照。また,国際商品準備制度については,片山 (1967)参照。 19) Greenfield and Yeager(1989) p.407. 20) lbid. 21) lbid, p. 408.
22) (1968)がすでに貨幣の特質を分析した際に指摘している。つまり,彼は貨幣 が他の金融資産や財貨と異なり自らの市場も価格ももたない点を重視し,貨幣 的不均衡(特に貨幣の超過需要による)の解消は他の金融資産や財貨のように それぞれの市場でその価格や利回りの変化によって解消するという意味で直接 的でなく,その不均衡解消のためにはすべての市場に影響を与えるので,経済 に対する作用も大きいとした。特に貨幣の超過需要は「独特であるが,不愉快 23) な方法」によって始めて消滅する。というのは,貨幣の超過需要は支出の抑制 によって可能であるが,それは財貨の超過供給(債券の需給は均衡と仮定)を 意味し,価格の伸縮性を欠く場合には市場の円滑な機能を損ない,生産と雇用 の減少をもたらすことになるからである。 さらに,このような貨幣的不均衡は持続する傾向をもつが,それは貨幣の供 給側に原因がある。グリーンフィールドとイーガー(1989)の強調するところ 24) では,貨幣の名目供給量は名目需要量に一致するように自動的に調整しない。 一方,その実質供給量は実質需要量に一致する傾向をもつが,上述のような迂 回的な,長期の,おそらく苦痛をともなう物価水準の変化の過程を通じてであ る。そしてアメリカでは貨幣の名目供給量は主として供給側によって決定され ているというのである。この点は現行制度の下では他の国々においても変わら ないであろう。 25) 結論的には,現行貨幣制度の欠陥はその購買力が交換手段の需給によって決 定される計算単位を持つ点にある。それゆえ,現行制度の下では,均衡値から 乖離した計算単位と交換手段の超過需要ないし超過供給という2つの問題が共 存することになる。
V BFHシステムの安定装置
はたしてBFHシステムはこのような不均衡を解消するメカニズムを持って 22)Yeager(1968)esp., pp.9−65.詳しくは,片山(1990)26−27ページ参照。 23) lbid., p. 65. 24) Greenfield and Yeager(1989) p. 408. 25) lbid,ニュー・マネタリー・エコノミックスの貨幣理論 9 いるのであろうか。最後に,この問題を考察したい。 グリーンフィールドとイーガー(1983)は次のように述べる。BFHシステ ムの商品束に含まれる商品はできるだけ種類が多いほど望ましい。つまり,「商 品束の定義が広範囲であればあるほど相対価格の適切な変化が実現される程度 はより大きくなるが,それは供給条件の変化によってもたらされた商品束の特 定の構成要素の計算単位価格の変化によって実現される。したがって,広範に 定義された束はこのような変化のインパクトを集中し,広範にしておそらく苦 26) 痛を伴う影響は回避されることになる。」 しかし,その場合,インパクトを受ける商品の供給の価格弾力性が重要とな るが,これについての言及はない。さらに,実際どの商品を束に含めるのかは そのウェイトを考慮すると簡単な問題ではなく,ウェイトも固定的に考えるべ きでないが,結局試行錯誤によらざるをえないであろう。さらに,束にサービ 27) スを含めるとなると一層困難さは増大すると思われる。 先ず第1に挙げられるBFHシステムの安定装置は現行の貨幣(特に基礎貨 幣)と異なり,交換手段は民間金融機関の自由競争によって供給されるが,そ れは需要に応じて発行されるので過剰発行が発生しないという点である。 このことは計算単位と交換手段を分離させるBFHシステムの下で始めて可 28) 能となる。つまり,既述のように計算単位は商品束によって決定された購買力 を持ち,交換手段は民間の金融機関の自由な供給に委ねられるが,このシステ ムの下では既述のように,銀行はむしろ一種の投資信託化(以下BFH銀行と 呼ぶ)する。たとえば,人々が需要を投資信託(交換手段)から債券へとシフ トさせた場合,投資信託に対する需要が減少し,その価格が下落して利回りは 上昇する。一方,債券に対する需要が増加し,その価格の上昇により利回りは 低下する。つまり,債券の利回りに対する投資信託の利回りのスプレッドが下 落する(BFH銀行の資産は保有債券,負債は発行投資信託で,それが交換手 26) Greenfield and Yeager(1983) p. 314, 27)どのようなサービスを含めるかについての言及はない。 28) Cf, Greenfield and Yeager(1983) p. 311.
段となる)が,これは金融仲介価格の下落を意味し,銀行は業務を縮小(交換 手段の減少)させることになる。(逆の場合は逆。)したがって,BFHシステ ムの下における交換手段の供給は需要側によって決定されることになる。 しかし,グルーンフィールドとイーガー(1989)は個別のBFH銀行による 交換手段の過剰発行の可能性を完全には否定していない。つまり,交換手段の 発行を「公衆がそれを表示する価値で保有したいと思う数量に制限することに 29) より,完全な額面価値でその発行を維持すべきである」とし,BFH銀行の発 行する交換手段(利付のものが主)は手形交換所を通じて決済されるが,ある BFH銀行がその債務残高を決済できないほど過剰に流通手段を発行している 場合,それは割引いて受けとられるので,現行制度下のように取り付け騒ぎは 起こらない。しかし,グリーンフィールドとイーガー(1989)の強調するとこ ろでは,「競争が慎重さを要求し,交換手段の各発行者の状態を基礎貨幣ないし 支配的貨幣(dominant money)の独占的発行者たる政府の状態ときわめて異な 30) つたものとするであろう」というにすぎない。 ところで,BFHシステムではもう1つの重要な安定的メカニズムが存在す る。最後にこの問題をとり上げよう。それは交換手段の交換性である。しかし 既述のように,BFHシステムではかっての商品準備制のように,交換手段の 31) 束構成商品への直接交換性は存在せず,商品ストック保有の必要性も倉庫費用 も必要でない。それに代わって裁定取引による間接交換性(indirect convert− ibility)の維持が計られる。間接交換1生とはたとえば金本位制の下で金に直接党 換せずにそれに等しい価値をもつ銀に交換することを意味する。 32) BFHシステムの下で間接交換の手段に使用されるのは主として金であり, 29)Greenfield and Yeager(1989)pp.415−16,彼らはBFHシステムの下では投資信託化 した銀行を理想としているが,単に銀行という用語も多用し,特にこの1989年の論文はそ うである。 30) Greenfield and Yeager(1989) p. 416. 31)束を構成する商品への直接交換性はきわめて不便であるので起こりそうにないという。 Cf. Greenfieof and Yeager(1985)p.104,(1989)p.418.ただし,筆者の参照した文献に関 する限り直接交換性が制度的に否定されているかについての明言はない。 32)特定の証券も払戻手段に含むとしているが,具体的にどのうよな証券かについては述べ/
ニュー・マネタリー・エコノミックスの貨幣理論 11 それは払戻手段(redemption medium)と呼ばれる。 間接交換性が維持される場合,BFH銀行は発行している交換手段をその価 値に等しい商品束に直接交換するのでなく,商品束に等しい市場価値をもつ払 戻手段(金)に間接交換する義務を負っている。 前節で述べたように,交換手段は計算単位Uで表示され,それは定義により 一定の商品束に等しい。1Uの交換手段に等しい商品束の市場価格をPUとし, 払戻手段1単位の市場価格をPRMとしよう。間接交換性が維持されるので1U の交換はPUと同じ市場価値をもつある量の払戻手段と交換しなければならな い。このことは1Uの交換手段の保有者に対してPU/PRM単位の払戻手段を手 33) 渡すことを意味する。 34) いま,商品束の価格が上昇(P>1)したとすれば,間接交換性の下では,上 述のようにBFH銀行はその発行交換手段を市場価値で商品束を購入するに足 る払戻手段に交換する義務を負っている。このようにして入手した払戻手段は, 市場においてPRM×PU/PRM=PUで売却できるので裁定業者は間接交換(裁定 取引)によりPU−1U=(P−1)Uの利潤を獲得し, P−1>0が続く限り,間接 交換が行われる。しかし,この結果,交換手段の数量は減少するので,商品束 (それに含まれる商品)の価格および物価は下落し,間接交換は停止する。(商 品束の価格を含む物価下落の場合は逆の裁定取引が行われる。)このように間接 交換は物価を安定させる作用をもっている。 最後に,グリーンフィールドとイーガーの挙げるBFHシステムの長所を示 35) しておこう。 (1)BFHシステムは安定した計算単位を与える。 \ていない。Cf。 Yeager(1985)p.104. 33)商品束に含まれる個別商品の価格変化の問題については,2節参照。 34)以下,Dowd(1992a)による定式を若干変更して使用する。 Dowd(1992a)pp.2−6.な お,間接交換性が理論的に機能しないケースのあることが指摘されたが,イーガー等によ って否定された。Woolsey and Yeager(1994)pp.85−95, Yeager(1987)pp.13−15.この 問題は改めて検討したい。 35)Cf. Greenfield and Yeager(1983)pp. 308−9.また, Cf. Yeager(1985)p.105.
(2)政府は金融上の規律(financial discipline)を遵守するようになる。政府が 借入れる場合にも他の借手と同一条件でなければならないし,貨幣発行による 資源の獲得はできないであろう。 (3)自由競争によって金融システムや決済システムの革新が起こり,銀行等金 融機関に自己規律が課せちれることになる。一方,政府の政策や規制の変化に 対応して起こる金融機関の行動が起こす不安定性は消滅するであろう。 (4)現行の基礎貨幣は存在しないので,交換手段が基礎貨幣に交換されること はない。したがって,現行制度下で発生するような信用収縮・拡張のメカニズ ムは発生しないので,破局的な銀行取付けは起こらない。 さらに中央銀行や預金保険制度も不要となる。 VI むすび 以上のように,NMEのパラダイムであるBFHシステムは貨幣面における 政府の役割を極小化し,貨幣・金融面にまで,自由競争を貫徹させるほど市場 メカニズムに対する強い信奉を基礎に置くものである。 NMEはマネタリズムから生まれたものといえようが,生みの親と異なり, 現行の貨幣・金融制度の枠組を変えることを提案する。現行制度では貨幣の計 算単位と交換手段の2つの機能は,たとえば円,ドルというように同じものが 両方の機能を統一して果たしている。一方,BFHシステムの下では,これを 分離して計算単位は一定の商品束で定義し,交換手段は金融機関の自由な供給 によるものとし,それによって始めて現行の貨幣的不均衡の発生を除去できる というのである。しかし,BFHシステムは金融自由化の進行により自生的に 生まれるものでない。現行の制度に代えてこのシステムを導入する困難はグリ 36) 一ンフィールドおよびイーガーも認めるところである。 ところで,オズボーン(D.Osborne)がこのBFHシステムを理解しようと 36)Yeager(1985)p. 105.次善の策として修真フィッシャー案を提案しているが,この提案 の検討は別置に譲りたい。
ニュー・マネタり一・エコノミックスの貨幣理論 13 37) すれば何ヵ月も頭痛がするといったといわれているほどその内容の把握は必ず しも容易でない。 BFHシステムの内容はその頭文字がとられている3人からアイディアは得 られているものの,むしろ,グリーンフィールドおよびイーガーがその内容を 整備し,体系的なものにしようと試みているといえるであろう。しかも彼らの 38) 考えも種々の批判を受けながら,改善,明確化されつつある。またウールシー 39) やダウドによる拡充や新たな展開も試みられている。一方,NMEには多くの
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先駆者も見いだされ,ハイエクの考えとも共通点がある。これらの批判に対す る考察を含みBFHシステムに関するより.立ち入った批判的検討は別稿に譲り たい。 引 用 文 献 Cowen, Tyley and Kroszner, Randall(1987), “The Development of the New Monetary Economics,” four. of Political Economy, Vol. 95, No. 3 (1987). (1993), “Exploration in the New Monetary Economics,” unpublished paper, Feb. 1993, forthcoming from B. Blackwell Dowd, Kevin(1988), Pn’vate Money :The Path to Moneta7 y Stability, Hobart Paper 112, IEA, 1988. (1992a), “The Mechanics of lndirect Convertibility,” Discussion Paper No. 92/9 : University of Nottingham, Dept. of Econs., June 1992. (1992b) , “A Proposal to End lnflation,” Discussion Paper No. 92/10 : University of Nottingham, Dept. of Econs., June 1992. Greenfield, Robert L., and Yeager, Lealand B.(1983), “A Laissez−Faire Approach to Monetary Stability,” Jour. of Money, Credit, and Banking, Vol. 15, No. 3 (Aug. 1983). (1989), “Can Monetary Disequilibrium Be Eliminated?” The CA TO /our. Vol. 9, No.2 (Fall 1989). Hall, Robert E.(1982), “Monetary Trends in the United Sates and the United Kingdom : 37)Yeager(1987)p.4.オズボーンは現在, Professor and Head of Finance. School of Management, Univ. of Texas at Dallasである。 38)たとえば,代表的なものとにWhite(1989a,1989b)があり,その他Mott(1989), McCallum(1986),0’Driscoll(1986a,1986b)を上げることができる。 39) Woolesy(1987, 1991, 1992), Dowd(1992a, 1992b) 40)たとえば,Cf. Cowen and Kroszner(1987)pp.576−87,(1993)Sec.3. 41)Hayek(1990);川口訳(1988)仙田左千夫教授退官記念論文集(第292号) AReview from the Perspective of New Development in Monetary Economics,”ノbuz of Economic Literature, Vol. XX (Dec. 1982). Harper, lan R, and Coleman, Andrew (1992), “New Monetary Economics,” in The IVew Palgrave Dictiona70, of Money & Finance, ed. by P. Newman et al., Vol. 3, 1992. Hayek, F. A.(1990) , Denationalisation of Money−The A rgzament Refiend, 3rd ed. Hobart Paper(Specia1)70,1990.〔JI【口慎二訳(1988)『貨幣発行自由化論』1978年版の邦訳,東 洋経済新報社二〕 片山貞雄(1967)「国際商品準備制度一ハート・カルドァ・ティンバーゲン・プランー」『彦根 論叢』126・127・人文科学特集21合併号,1967年11月。 (1990)『海外の金融情勢の変化と個人金融一金融革新とマネー一』委託研究報告書, 近畿郵政局預金部 1990年11月。 川口慎二(1973)『現代金融政策論』東洋経済新報社,1973年。 McCallum, Bennet T.(1985), “Bank Deregulation, Accounting System of Exchange, and the Unit of Account : A Critical Review,” Camegie−Rochester Conference Sen’es on Public .Policy, Vol. 23 (1985). Mott, Tracy (1989) , “A Post Keynesian Perspective on a “Cashless Competitive Payments System”,” lour. of Post Keynesian Economics, Vol, XI, N o. 3. O’Driscoll, Gerald P., Jr.(1986a), “Deregulation and Monetary Reform,” Economic Review, Federal Reserve Bank of Dallas, July 1986, (1986b), “Money, Deregulation and the Business Cycle,” Research PaPer, Federal Reserve Bank of Dallas, Jan. 1986. White, Lawrence H.(1989a), ComPetition and Currenay : Essays of Free Banking and Money, New York University Press, 1989. (1989b), “Alternative Perspectives on the Cashless Competitive Payments Sys− tem,”ノbzar. of Post Keyensian Economics, VoL XI, No.3(!989). Woolsey, W. William(1987), “The Black−Fama−Hall Payments System : An Analysis and Evaluation,” Ph.D. Dissertation (George Mason University) Summer 1987. (1991), “The Unit−Of−Account Constitution,” Unpublished paper, The Citadel, Spring 1991. (1992), “A Market Clearing Model of the BFH Payments System,” unpublished papers, The Citadel, Fall 1992. and Yeager, Lealand B.(1994), “ls There a Paradox of lndirect Convertibility ?” Southern Economic/bur., VoL 61 No.1(July 1994). Yeager, Lealand B.(1968), “Essential Properties of the Medium of Exchange,” Kyfelos, Vol. XXI, No, 1 (1968). (1985) , “Deregulation and Monetary Reform,” Anen’can Economic Review, Vol. 75 (May 1985). (1987), “The BFH System−Objections and Extensions,” Draft for Mises lnstitute Seminar, May 1987.
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