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独占資本主義の適合1生の価値的基礎について
中 E 太 一
1 問題の所在 マルクス経済学において最近,資本主義生産様式の最も適合的な形態として 現代の独占資本主義或は国家独占資本主義を再把握する全く新しい視座が形成 1) されている。社会構成体として単なる量的変化にとどまることなく,科学技術 革命に特徴づけられた多様な発展の自律的・内生的可能性を質的・構造的変化 として内包している新たなカテゴリーとして,これを理解するとすれば,この ような新しい質的多様性・重層性をもった構成体を維持し発展させる為には, 必然その経済的基礎,巨大な剰余の持続的成長が不可欠の前提的条件となるの は殆んど自明である。資本主義の単なる段階ではなく,むしろその理論的 フレロムワ ク 枠組をもちながらその現実的機能で,国家の複雑化した社会的・重層的性格 を基軸として多面的「突破」を実現しつつある「発展的」構成体として,社会 資本主義とこれを規定する場合,その晶晶な発展コストの源泉が問題になる。 これは正しくこの構成体の拡大再生産の理論的可能性の問題である。現代ソビ エトの資本論研究者V・チェプレンコはレーニン的帝国主義の合法則性がいち ぢるしく修正されているという視点から次のように問題を提出している。「現在 の発展段階でも,軍需部門における超過利潤や不等価交換ではなく,総:資本に よって生み出された剰余価値こそが,その大きさや,それが使用される領域と 関係なく,資本主義社会の発展の根源である。すなわち,現代資本主義は軍国 主義から免れることができるし,軍国主義なしに機能し発展することができる 1)ヴェ・メドヴェージェフ「偉大な十月と現代世界」抄訳『世界経済と国際関係』第84集 33−34頁 適合的=identical, equivalent.204 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) のである。つまり,資本主義制度は,新植民地主義や,第3世界との不等価交 2) 換に頼らなくてもやって行くことができるのである。」 これは結局,独占利潤総体の搾取の方式,即ち生産領域と流通領域のうち, どちらが本来的な独占利潤の搾取領域であるのかという問題でもある。所謂自 由競争の条件下では軍需工業と不等価交換の領域は,広い意味での本源的蓄積 と初期的な資本主義的蓄積を推進する為の必須条件として第一義性をもってい たが,国家独占資本主義の厳密な成立・成熟(団々第2次大戦後の最:近の30年 間)が,資本主義再生産の共時的・通時的システム化,すなわち世界的範囲で の長・短期調整計画化によって可能になったという歴史的条件下では,世界資 3) 本主義システムにとっての必要十分条件は,正しく資本主義生産過程それ自体 の独占化=独占利潤の直接的生産そのものであることは即自的に明らかなこと ではないだろうか。 小論ではこのような問題関心に立ち,何より先ず独占的生産における価値的 基礎=価値実体を批判的に再把握するために,C.几ヴ4ゴッキーの主張の骨 4) 組みを紹介し,ついでソビエト経済学界で独自な理論的先駆者であるH・E・ル 5) ダコワにおける計画性と価値実体の関係を検討整理したい。最後に彼等の提出 した独特の有効な基本命題を批判的に積極的にとり入れ,私見として一つの実 験的視点を提起したいと考える。 II ヴィゴッキーの独占的市場価値規定 ヴィゴッキーによれば,自由競争より独占への交替は何よりも市場価値形成 過程で深刻な変化を引きおこす。市場価値を決定する条件は周知で精密である に拘らず,市場価値の大きさ自体は全く弾力的であり多かれ少かれ多様な情況 2)チェプレンコA.10.竹永・染谷・原共訳『現代資本論論争』1989209−210頁。 3)拙稿「〈全世界経済〉範疇の理論的構成」彦根論叢第270・271号参照。 4) BblroflcKMta C.JI,,CoBpeMeHHblM KanmamH3M 〈onblT TeopeTHgecKorO aHaAu3a) ”3naH”e BTopoe, AonoJHeHHoe, MocKBa 1975. 5) PyAaKoBa lxl.E., KanMTa”McTMgecKag MoHonoJM”:ee no”MTHKo−sKoHoMMgecKa” np“pona pt cl]opMbs gKoHoM”gecKova peaAM3allHH, IMocKBa 1976.
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 205 に依存するから,従来の価格の価値からの乖離としての独占価格・独占利潤で はなく,独占資本主義下で価値自体がどのように変形するのかということが問 6) 題とされなければならない。 独占価格に関しては,独占は生産の無制限の成長の為に価格が市場価値以下 に低下しないように気をつかい,市場価値以上に価格を設定しなければならな 7) いが,価格の指導性(リーダー価格)は,市場価値を競争の手段から独占の道 具に転化することを求める効果的用具となる。この価格指導性は非公式の秘密 の合意という意味で,その機能が,商品の異った個別価値から同等の市場価値 と市場価格の設定に収敏するような部門内競争の形式として表面に現われる。 これは競争の結果として同等の市場価値と市場価格,他方で競争の予防の為の 同一価格の成立という二種の結果を生み出す。前者は通常のメカニズムで,同 一市場価値と市場価格は時間的経過に伴って低落するが,後者は全く異ったこ とがらであって,その同等の市場価格は価格指導性によって設定されたもので あり,或は価格の独占的固定の他の形式である。独占は価格の高水準を維持し, 技術進歩による生産費用の低下は,独占利潤の増大をもたらすが,価格の引下 げはおこらない。特にヴィゴッキ・一は原料価格の上昇が,原材料消費率の減少 8) によっておこる原料節約を上回り,本質的には節約を縮小することを指摘する。 独占価格は,安定的か上昇するか低落するかに関係なく,自由競争段階の一時 的・経過的な超過利潤或は追加利潤のようなものではない独占的高利潤を保証 するという意味で独占的な高水準のものなのである。故に価格の指導性とは, 当該部門の企業に同等の市場価格=独占価格を予め設定することであり,競争 の結果というより独占の政策の出発点なのである。この価格指導性は独占の永 9) 続的特権であり,裏返しの市場価値といえる。この意味するところは,市場価 値の決定が独占の意志とは独立しているにせよ,資本主義独占は若干の経済的 6) BbiponcKHth C.JI., CoBpeMeHHbiM KanMTamx3M. cTp.232−233. 7) TaM He., cTp.38−40. 8) TaM me., cTp.42. 9) TaM 一e., cTp.42−43.
206 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) 積粁の結果を通じ事実として(BcaMOM脚e)市場価格の発展過程のみならず, 市場価値水準に作用を与えることができるということである。例えば,生産量 の制限,商品在庫一掃は需要供給に影響を与え,市場価値以上に市場価格を引 上げるのみならず,又追加利潤の大きさの固定と増大のために,更に追加利潤 を独占的高利潤に転化するために市場価値の水準を引上げることに影響を及ぼ 10) すと指摘される。 11> 更に市場価値に対する過剰能力の関係は,独占利潤の上昇の為に生産制限を おこなう理論的前提であり,企業生産能力の不十分な利用は独占の目的にとり 最重要な手段である。この人為的制限自体が,競争と独占という相互矛盾的結 合を内包する独占の矛盾的本性を象徴する独占資本主義の法則である。もし生 産制限と技術進歩がなければ,独占的高価格の全構造を破壊するような生産の 急激な発展に直面するだろう。独占下の過剰能力が恒久的現象として,独占資 本主義自体の発展の性格的特質として形成される秘密はここに在る。 12) ここに掲げた表はヴィゴッキーによる生産過剰と固定資本の操短を条件とし た独占的再生産モデルである。この表式の二期の操短率の数値は米国加工工業 のその現実的変化を反映しているし,その生産能力の稼働率は第3期で米国の 1939年の加工工業の約70%という数値に合致している。そして米国のアルミニ カンパニヒ ュウム会社のような巨大企業は,好景気で価格上昇期においては,固定資本の 30%,支払われた賃金の82%を構成するような固定資本の操短を費用に含んで おり,表式では第1期に賃金総額の41%,第2期に63%,第3期に104%,第4 期に106%である。表式の操短費用の数値は十分に説得力あるものであり,固定 13) 資本の操短の結果として市場価値の増大がおこるという原理は疑いようがない。 表式で独占を特徴づける別の項目は,生産領域から解放された巨額の貨幣資 14) 本であり,それは投機に使用され資本集中と独占権力強化の重要な二丁となる。 10) TaM>t〈e., cTp.50・51. 11) TaM>Ke., cTp,51・52. 12) TaMΣKe., cTp.52−55. 13) TaM>Ke., cTp.53. 14) TaM M〈e., cTp.56.
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 207 独占資本主義下の生産物と市場価値の変動過程 利用された資本 時 期 企業グループ
前払資本
不変資本
可変資本
固定資本
未利用固定資本 解放さ貨れ幣た資本 不変資本 可変資本剰余価値
〔lD+1D− X 9十10十11生産量
個別価値
市場価値
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 ユ3 14 15 16 1IHm
6302 R781 Q599 5483 R202 Q128 819 T79 S72 2191 P122 U38 219 Q24 P91 411 T32 T89 4935 Q562 P489 737 S63 R30 ;150%ォ495 2.68 Q21 P.80 6777 R720 Q314 3896 P748 W94 1.80 Q24 Q80 }・・5 12682 10813 1870 3951 634 1538 8986 1530 2295 235 12810 6538 2.05 2 IH皿 11200 U800 Q150 9851 T829 P791 1349 X71 R59 3900 Q332 U00 585 T83 P80 1095 P117 S65 8374 S372 P254 1147 V28 Q51 亟180%ラ452 261 Q15 P.78 11186 U410 P957 6488 Q938 V46 1.87 Q38 Q.86 }・・9 20150 ユ7471 2679 6832 1348 2677 14000 2126 3827 2.35 19953 10172 2.09 3IHm
12753 U976 Q289 11200 T875 P897 1553 P101 R92 4360 Q398 V41 1046 W63 Q97 2013 P648 U19 8512 R760 P138 1180 V04 Q35 ≡170%Q400 2.67 k98 P79 11700 T661 P773 6704 Q365 U80 L90 Q.75 R.04擁
22018 18972 3046 7499 2206 4282 13410 2119 3604 234 19134 9749 2.19 4111m
49000 Q2960 P140 44550 P9860 X50 4450 R100 P90 20500 V945 R70 3690 Q383 P18 5130 S505 Q47 36531 P3902 U46 3653 Q170 P29 ユ340% P2410 ≠Q50% 227 P78 P69 52594 Q1714 P033 25595 W269 R69 2.20 Q91 Rユ2擁
73100 65360 7740 28815 6191 9882 51079 5952 =309% P8310 2江0 75341 34233 2.38 註:原註省略。CoBpeMeHHblVl KanHTa」M3M, cTp.54・55. 生産量の抑制,独占価格システムの維持などは一般的利潤率低下傾向を弱め, 追加利潤を高い水準に安定化させる。4時期を通して部門利潤率と追加利潤率 の低下傾向は,前者で34%,後者で7%の増大という反対の傾向にとって代わ る。これは第4期(略々1939−1969年)において,低下傾向に反対に作用する 決定的要因である剰余価値率の増大の関係において特別の力をもって現われて いる。不変の有機的構成の下での剰余価値率の増大は,相応する労働の技術的 装備の減少を意味するが,有機的構成の成長が剰余価値率の上昇より小さけれ ば,労働の技術的装備度は,有機的構成の成長下でも減少できる。表式第4期 で有機的構成は前期に比べて35%:噌大しているが,同期に剰余価値率は82%増 大している。第4期の労働の技術的装備は前期2.34から2.1に減少し,市場価値 L 上昇の要因となっている。 全体として表式から,企業の操短の増大と搾取率の増大が市場価値を全時期 を通じて,有機的構成の成長,賃金単位当りの商品単位で表した生産量の成長208 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) にも拘らず,16%増大せしめたことが証明される。企業操短の条件下では生産 量は低水準になり,自由競争段階では40年間に加工工業の生産量は6倍以上だ ったが,表式の独占条件下の最初の3時期では3.8倍にとどまる。この原因は操 短がすべてではなく,前述した巨額の投機用貨幣資本の生産部門からの分離が 15> 生産成長の障害となり,独占に有利な需給を形成することが指摘される。 結局,独占の支配は,通常みられる,労働生産力の成長によって特徴づけら コ ス トれる生産物単位当りのC+Vの減少,即ち市場価値の減少傾向の過程にブレー キをかけ,屡々するどい費用の成長をひきおこすし,これは生産物のフォンド 16) 容量(資本容量)と原材料消費率の減少に拘らずおこるとされる。独占資本主 義下では価格要素としての生産費用の本質は変形する。即ち,原料素材の大部 分・設備等は通常価格ではなく,独占価格で実現されるから,生産費用は当然 最初から独占費用として現成する。ここから,資本容量と原材料消費率の減少 は,各生産物単位の価値表現の大きさの縮減を意味しないという結論が出てく る。表式が示しているように,第4期の生産量は第3期に比べて3.5倍に増大し た。この数値は米国加工工業の1940−70年の成長に略々一致する。又,生産物 単位当りの不変資本の大きさは,同時期に8.5%増加したし,戦後を通じて物的 費用の巨大な節約が達成されなかったとすれば,生産物単位当りの不変資本の 17) 支出は,独占の価格形成システムとの関係で無限大に増大したと指摘される。 ヴィゴッキーにとっては,生産量の増大と市場価値の増大という平行的関係 を証明することが必要不可欠となる。表式では固定資本の不十分な利用という 市場価値減少への反対要因は,第3期に固定資本の29%と鋭く現われるし,同 期の前払資本は第2期目比べて10%増大し,資本の有機的構成は5%減少する 条件下で,生産量は増加しなければならないようにみえる。しかし,表式では 4.2%減少している。これは米国の加工工業生産量が1929年に比べて39年に0. 15) TaM >Ke., cTp.57−59. 16)ツゴロフ,キーロフ編,宇高基輔訳「資本論と現代資本主義の諸問題』1974,67−84頁参 照,生産の資本容量=労働の資本装備度/労働生産性。(分子は生産資本と労働支出の比) 17) CoBpeMeHHbita KanmaJM3M. cTp.76−77.
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 209 18> 7(1957−59=100)ポイント低下したことと一致している。表式での低下の原 因は非生産的に利用された前払資本の比重の:噌大である。第3期で固定資本の 実働しない部分は63%増加し,分離された貨幣資本は60%増大しているから, 結果として同期の前払資本は10%増加したにも拘らず,生産資本は3%以上減 少した。固定資本の29%を占める未利用部分は市場価値に重荷を課し,前期に 比べ約5%引上げた。結果として,表式では可変資本単位当り生産量は35%増 大したにも拘らず市場価値は全体として16%増大している。換言すれば,生産 の成長は市場価値の増加を排除しないし,空前の技術進歩にも拘らずそれはお こるのである。更に表式では第3期の資本の有機的構成に比べて第4期は相当 高いし,固定資本の未利用率も増大しているから,市場価値は相当減少する筈 なのに,現実には前期に比べて第4期に増加している。生産物価値構成からみ てこの市場価値の上昇が,搾取率の著しい上昇の結果としての生産物単位当り の未払労働或は剰余価値の増大と関係して起ったことがわかる。これは同時に 当該期間におこった生産の急速な成長が,著しい程度において労働の技能熟練 度と労働の集約度(強度)の上昇によって実現されたこと,或は技術的進歩, 固定資本の更新,生産の合理化が,複雑労働の比重の増大とその強度の増大を 19)ともなうようなあらゆる場合におこったことを意味している。 結局,ヴィゴッキーの表式は,理論的にも現実的過程(1940−70)に一致す るという意味でも成長・再生産モデルとして現実的であることが論証されたと 20) 総括されている。表式において生産と剰余価値の増大は,正に労働生産性と労 働強度の上昇の結果として搾取率の上昇に基いておこるとされるが,他方,労 働生産性と労働強度の成長は必然的に搾取率の引上げ及び利潤率の引上げに影 響を及ぼすのである。搾取率の成長は実現される生産物価値の増大をもたらす。 企業1グループが総資本に占める比重,社会的総:生産物に占める比重,創出さ れ実現された剰余価値量に占める比重を比較すれば,以下の特徴的モメントを 18) TaM >Ke., cTp.78−79. 19) TaM >Ke., cTp.79−80. 20) TaM >Ke., cTp.83.
210 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) 21) 見出す。1グループには不変資本の68.1%,可変資本の57.4%が集中し,この 企業で全生産物の74.7%,全剰余価値の67.7%が生産されている。そしてこの 企業は実現過程で総剰余価値の93.3%を受けとる。このようにして剰余価値の どのくらいが,資本主義独占による労働の直接的搾取によって,又どのくらい が追加的利潤としての剰余価値の再配分によって受取られるかを厳密に決定で きる。1グループによって創造される剰余価値の比重は,可変資本総量におけ る1グループの比重を上回ることは,1グループの技術的装備度の高さを示し ている。巨大企業によって受取られる利潤の67.4%は,これらの企業労働者の 直接的搾取の結果であり,25.6%だけが個別的価値と市場価値の差としての所 産であることが明らかになる。 表式と統計から論証される基本的なヴィゴッキーの視点は,次のように総括 22) される。 ①市場価値の枠内で作用する独占価格と独占利潤は,独占価格による生産要素 費用の上昇を通じて市場価値自体に逆の(上昇的)影響を与える。そしてこの 状況は殆んど不断に,或は著しい程度で物材容量と生産物単位当りの固定資本 支出の減少からくる有利さを一掃する。独占は特別の割引価格で生産要素を購 入し或は自分の原料を利用するような場合に,独占価格で生産費用を計算する から,独占価格で実現する原料価値の増大は市場価値増大の本質的要因として 現成する。 ②企業の操短に関係する生産費用の成長は,市場価値の上昇傾向を引きおこす。 減価償却率の人為的水増しはこの方向で作用する。 ③労働の最:大限の集約化,その技能熟練度の成長,搾取率の上昇,生産物総価 値における未払労働の比率の増大,生産能力の成長から独立している拡大再生 産規模とテンポの人為的制限,科学研究の発展と技術進歩は,市場価値の上昇 傾向をひきおこし,同時に全部門利潤と追加的利潤の成長をひきおこす。 ④最小の個別価値をもつ企業の生産物比重の成長及び最大限或は中位の調整的 21) TaM xe. cTp.89−90・ 22) TaM lke., cTp.96−98.
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 211 支出から最:小支出への移行は,市場価値増大の可能性を排除しない。最小個別 価値の成長の傾向が発生することが問題の中心となる。 ⑤上記の調整的支出の移行は,個別価値の間の差異を廃絶しないし,総剰余価 値の著しい絶対的・相対的成長が,十分高い利潤率を受けとる広い展望を開く。 ⑥個々のトラスト或はカルテルの枠内で基本的な価格形式である費用標準は, 殆んど常に平均値の方式にそってではなく,最:大限費用の方式で設定される。 これは市場価値を引上げる傾向をつよめる重要な要素である。 ⑦自分に有利に供給と需要の相互関係を独占が調整することで市場価格は,ま すま市場価値より上に乖離する。それは独占によって実現される利潤量と利潤 率を増大させる。 以上のように総括されるヴィゴッキーの独占資本主義の市場価値論に対して, 23) ルダコワは極めて積極的な評価を与えている。第1点は彼が独占価格(独占利 潤)を,生産価格からの単純な乖離ではなく,価値自体のモディフィケーショ ンと見なす視座である。これは方法論として根本的に重要なテーゼであるとさ れる。第2に彼の独占概念の重要命題として,独占利潤(独占価格)形式の第 1領域を生産におき,再配分過程は第2次的なものと見る視座があげられてい る。独占的高利潤が生産過程で,市場価値形成過程で創造されること,すなわ ち独占的超過利潤の基礎としてある種の価値的実体が創造されなければならな いことを示したことが彼の理論的貢献とされる。又,批判すべき点として,独 占資本主義下の市場価値の増大傾向の承認が,事実上独占下で単位商品の社会 的価値の成長傾向が存在すること,換言すれば独占下での労働の生産力の発展 の中断を主張することにつながることが指摘されているが,これは小檜山教授 24) が既に指摘されたように一種の感ちがいであろう。ヴィゴッキーは詳細な統計 資料を利用して1970年代初期の時点から,戦後25年間に独占価格は動揺せずに 上昇したのであって,これは価格変動における鋭い不均等性の現益によって物 価上昇の主要な力がインフレではなく独占資本主義下の価値自体のモディフィ 23) PynaKoBa lxl.E.,KarmTanHcTMgecKafl MoHono”Hfi, cTp.115−117. 24)小檜山政克『価値法則と独占価格』1984,119−120頁。
212 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号> 25> ケーションに起因することを証明したと主張する。又1947−71年の米国工業生 産物の時間当り生産高の103%の上昇,工業生産物価格の61%上昇という統計を ひいて,労働生産性の急速な成長と単位時間当りの生産量の急速な成長にも拘 らず,価値自体の増大傾向が認められると主張している。これは独占が費用を 26) 最小限に節約する志向を持続することから独立した客観的過程である。更に言 えば彼の論理的出発点は,いろいろ条件はつけても結局,現代の独占資本主義 の持続的発展傾向(従って独占利潤の蓄積と独占価格の上昇)を価値実体をも つものとして争えようとする笛座である限り,もし生産物単位当り価値の逓減 メカニズム 傾向を理論的結論とすれば,実際上,価格騰起,巨大な資本蓄積過程をつまる ところインフレを含めた所得=価値の再配分という流通主義的な視点,価値と 価格の乖離という旧来の主流的視座で説明せざるをえなくなるであろう。私見 では,資本主義生産様式の最も適合的な形態としての国家独占資本主義の理論 的本質とは,流通主義的搾取より生産に基礎づけられた直接的な,しかもその 内容を拡げた搾取メカニズムへの移行,その安定的発展にするどく関係してい るのであり,ヴィゴッキーの理論は社会主義の崩壊の中で明らかになったこの 本質を鋭く予見したものともいえよう。 ヴィゴッキーの独占資本主義モデルの問題点は,直接的生産過程での生産条 件の独占化に由来するヨリ多くの剰余価値の生産・創出を可能にする窮極的な 要因は何であるかという設問に関係する。固定資本の計画操短は市場価値をた しかに引上げるが,独占企業の生産量を積極的には増大せしめるものではない から,結局,剰余価値直すなわち搾取率の大幅な引上げか生産量と市場価値を 略々パラレルに発展させるのであると考えられる。そしてこの傾向は70年代初 期までの米国工業生産を実例として検証され,生産物単位当りの賃金費用の本 質的減少にも拘らず起こりうること,つまりこの減少結果が生産物単位当り剰 27> 余価値の増加によって殆んど完全に吸収されたことが指摘される。勿論,独占 25) CoBpeMeHHbiti KanMTaJH3M, cTp.233−234. 26) TaM Me., cTp.234−235. 27) TaM He., cTp.238.
独占資本主i義の適合性の価値的基礎について 213 下でも労賃領域で最大の節約がなされるが,生産物単位当り剰余価値は増大す るのである。又,時間当り生産物の成長も生産物価値の減少に十分作用しない。 これらの状況は米国工業労働の質的変化によって条件づけられる。即ち,1947 −69年に労働の熟練度はヨリ高くなり,強度はヨリ大きくなったことにより, 69年の労働時間は47年の労働時間と比べて大きな価値を生むのである。この場 28) 合,時間当り生産物の成長は新たに創造された価値の増大と共に生じうる。 剰余価値率の上昇を規定する賃金水準については,ブルジョア文献では必ず コス ト価格上昇の主因として高賃金と生産物単位当り賃金費用の成長が指摘されるに も拘らず,実際には,戦後を通じて生産物価値に占める賃金比率は不断に減少 したこと,その減少率が原料・補助原料の夫を抜いて首位を占めたこと,これ らの数値は剰余価値比率の増大と鋭い対照性を示したことが,米国加工工業統 29> 30) 計より推論される。ヴィゴッキーによれば,結局,価値の価格からの乖離を通 して再配分はおこるが第2次的なものに止まり,独占利潤の基本的源泉,即ち 独占資本主義の発展的源泉は,価値構造自体の変化=可変資本の相対的減少と, 相応する剰余価値率と量の増大という価値実体構造の変化にあるのである。換 言すれば,国家独占資本主義下の生産物総価値の構造的変化は,正しく剰余価 値率の増大に端的に反映するし,搾取の強化に条件づけられている。この搾取 率は,労働者階級の相対的状態,その労働の集約性(強度,生産性,技能熟練 度等)を現わすのみならず,又生産組織のレベル,その成長テンポ,市場価値 の変化を現わすのである。総括すれば,独占下の剰余価値率の成長こそが市場 価値上昇傾向の重要ファクターなのであると言えよう。 しかし,賃金は一方で科学技術革命の成果としての独占による高い労働生産 性の獲得を通じて,その成長が労働強度の増大によって保証されることが確認 されているから,賃金水準そのものが剰余価値率の上昇と直接的に関係するの ではなく,他方彼が言及している労働の技術的装備度の減少が市場価値増大の 28) TaM >Ke. cTp.238. 29) TaM >Ke., cTp.239. 30) TaM }Ke., cTp.240.
214 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) 要因であるとしても,これが剰余価値の増大を通じて剰余価値率を引上げると は考えにくい。労働の技術的装備度の減少は,ルダコワが正しく指摘している ように,生産縮減の結果,劣等位にある装備の比重が大きくなることを意味す るのであって,積極的な剰余価値量増大の要因ではなく,むしろ可変資本(賃 金コスト)の相対的縮減につながるものと考えられよう。 ヴィゴッキーは,市場価値の大きさ自体はその決定過程において全く弾力的 であり,多かれ少かれ多様な状況に依存すると言って,方法論的なレベルで単 純な一面的接近を避け,独占による政策をも含めて構造的接近の方法をとって いるが,最も抽象的な法則的審級では,彼も認めているように,独占資本主義 下の価値構造自体の変形を,即ち法則的審級で総括して,労働生産力の発展に 比例して生産物単位当たりの市場価値の大きさは,逓減するのではなく,逆に 逓増する傾向をもつという命題を理論的に提示し,これをもって独占利潤(従 って独占価格)の価値実体の理論的論拠と規定しているのである。 今日の全く新しい世界史的状況一ソ連型(程度の差はあれ)社会主義の崩壊 と米国を中核とする世界資本主i義システムの「全世界経済」化,それに伴う資 本主義の全般的危機の消滅一に直面して,いわばこの転化の理論的主因を我々 が真剣に問うときに,その答を得る最も率直な契機をヴィゴッキーその人がは やく,上述のような理論的命題として示唆しえたということが,彼の最大の貢 献一自身意識すると否とにかかわらず現時点より見て客観的に一だったと考え ることができるのではなかろうか。 31) より具体的に言えば,現在の国家独占資本主義的生産関係を,「社会資本主義」 に変質せしめ,異常に高い社会化された生産力の性格に適応せしめ,その間の 矛盾を最:小化せしめ,その高度の社会的・公的政策の物的・価値的な源泉を, かなり安定的な高い発展テンポで創造せしめている根本的要因は,正しく独占 資本の直接的生産過程に求められなければならないのである。科学技術革命と メカニズムそれに媒介された広い意味での労働機能=労働過程=価値増殖過程の変質に よって,独占的再生産構造内部での直接的搾取が,問題の中核でなければなら 31)魯従明〈論現代資本主義処干社会資本主義階段〉光明日報1988.11.21。
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 215 ない。流通・実現過程における価値の再配分は,先進国内部では独占化の必然 的進展を理論的前提にする限り経過的なものでしかありえない。何故なら,理 論的には中小企業或は下請的非独占部門は,窮極的には独占企業の一部門とし て有機的には独占下の賃金労働に擬制できるからである。中小資本による競争 的平均利潤の範疇を否定するわけではなく,問題の核心をフレーム・アップす るためにはその価値増殖上の表徴的・経済的意義を無限に極小化できるという ことである。 他方,現代世界システムの構造的特質である中心と周辺の間の不等価交換は 国民的労働の不等労働量の交換という意味で確固として存在するが,周知のよ うに国際価値のレベルでは等価交換の法則が貫徹する。以前に言及したように 独占下では国際価値の水準は独占下の特化部門を基軸とする先進国の労働生産 性水準=擬似的労働強度に引きつけらけて,先進国の主導の下に決定されるか ら,交換される国民的労働量の不等性は増大するが,国際価値での原則的交換 である限り,価値実現過程での価値再配分はおこりえないと,単純化できるで 32) あろう。 従ってヴィゴッキーが指摘する独占下の生産発展それ自体,独占下の剰余価 値率と剰余価値量の増大が問題の中心に位置することになる。しかし,剰余価 値の率と量が増大すれば,生産が発展し,生産物の市場価値が増大するという のは一種の同義反復ではなかろうか。何故,如何ように剰余価値率・剰余価値 量は増大するのかということが問われねばならないだろう。つまり,剰余価値 率と量が増大すれば,「価値」が不断に成長するのは自明ではないのか。ヴィゴ ッキーは,これに対し,科学的技術革命の下で労働の集約度(主として労働強 度と労働の技能熟練度等級に象徴される労働の複雑度)の永続的上昇をもって 答えているようにみえる。彼も言及している労働生産性の不断の上昇,その効 果としての資本容量と物材容量の不断の減少は,通常生産物単位当り価値を不 断に逓減させると理解されているのだから,旧来の考え方では生産物価値を引 上げる要素とは到底考えにくい。結局,ヴィゴッキーの立場を生かすとすれば, 32)拙稿「国際的商品交換における搾取範疇」彦根論叢第255・256号参照。
216 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) 労働生産性の高い成長が労働の厳密な意味での集約度を不断に引上げる何らか の媒体になっていると考えせざるをえないだろう。結局,労働生産性と労働強 度更に広義の複雑度などを,労働の生産力という社会的範疇に無差別に融解し, それを前提としてマルクスの生きた労働だけによる価値創出規定を批判的に揚 33) 棄する視座の形成に何らかの形でつながってくるのではなかろうか。 IIIルダコワにおける独占の価値実体 ルダコワの基本的視座はヴィゴッee 一と同じであって「独占は,自己の枠内 34) で,その所得の実体のうちの一定部分をつくりだす」のであり,再配分による 価値の略取もあるが,「第一のものが第一義的,規定的なものであって,第二の 35> ものは…第二義的,副次的なものとみなすべき」とするものである。分析の焦 点は市場ではなく生産部面であり「高度に社会化され,計画的に組織された労 働の新しい生産力を,自己の排他的利用の対象とする」,「計画的に結合された, 36) 高度な組織と社会的効率をもった労働を,搾取する」ような独占資本の独特の 構造である。独占は結果として再生産の優越的条件を維持する為に,価値関係 37) の量的・質的変形をひきおこす。独占は資本形式として特殊な量的・質的性格 をもつが,前者は,巨大な資本と生産量,高利潤であり,後者は,資本の自己 38) 運動としての機能,この自己運動を保証する形式にある。この機能は二重であ る。(1)「独占は資本の自己増殖の量的に際だった大きさ一増殖された剰余価値 の物質的基礎を創る条件を集中する。雇傭労働の搾取の結果としての剰余価値 の生産はその本質を変えないが,質的に新しい生産力と社会的労働の組織形態 33)このような考え方を早く提起した代表として天沼紳一郎『価値・貨幣・価格一一資本論 批判』1968.があげられる。特に同書第一章参照。最近の文献として梅沢直樹「価値論の ポテンシャル』1991の中で提起された労働価値説の相対化を通じての再生の視座は貴重で ある。同書第9章参照。 34)小檜山,前掲書105頁。 35)小檜山,前掲書105頁。 36)小檜山,前掲書108頁。 37)小檜山,前掲書109頁,PyAaKoBa, cTp.59. 38) PynaKoBa lil.E., KanMTa”HcTHgecKa” MoHonomH”, cTp.68
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 217 39) と新しい潜在力の形式の利用に基づくから新しい水準に引上げられる。」「労働 コンプレックス条件を巨大な規模に集中し,労働力を単一の計画的に組織された管理複合体に 集中することによって,独占は事実上,新しい生産力を動員し搾取する。その 目新しさは生産力の直接の物質的本質にあるのみならず,社会的労働の新しい 組織にある。自然的市場関係に代って生産の独占の保護の下で統一された計画 的関係は,…社会的労働の損失を軽減し,社会化された労働の全体的生産性を 40> 引上げる。」ルダコワは以上のように,独占に徹底的ともいえる計画性と組織性 をその本来の本質として付与し,その新しい生産力は,商品形態=システムの 41) 基礎的関係の爆破であり,弁証法的否定にもとつくと明言している。 (2)独占の第2の機能は参入阻止である。これらの機能を逐行ずる独占は,自己 42) 増殖の特殊条件にある資本であると総:括される。 特に注目すべき点は,直接的生産の領域では,高度に社会化された,計画化 され,組織化された,結合化された労働の引上げられた搾取の形式がとられる 43> ことである。勿論,独占のシステムは資本主義的目標に最も有効な活動の体制 であり,独占の全ての部分と環は,結局独占資本の自己増殖の試みをどの程度 に満足させたかによって評価される。しかし,各々の「計画的な環」の活動の 効率は,雇傭労働の搾取効率によって条件づけらける。独占がその搾取を強化 し,結果としてより高い労働生産性を達成することは結局生産力の発展として 44) 独占が現成することであるとされる。今,問題焦点を限定するため,ルダコワ の独占発展の阻害要因を一応無視してみよう。この発展は,高度に集中された レジロム生産の計画的管理組織→個別の環が最も合理的な活動体制を創出→個々の環の 効率の引上げ→高度に社会化された計画的組織的労働の搾取という脈絡をもつ 45) ている。この最後の項は,最も熟練技能度の高い複雑労働力の独占化であると 39) TaM >Ke., cTp.68. 40) TaM >Ke., cTp.68−69. 41) TaM }Ke., cTp.69. 42) TaM >Ke., cTp.69. 43) TaM 〉}〈e., cTp.69. 44) TaM me., cTp.82. 45) TaM }Ke., cTp.54−55.
218 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) いえる。高い資格労働と新種の複雑労働は,独占が自己で養成できる生産的労 働であるが,主要な点は,科学的管理幹部から構成される社会的に結合された 46) 労働として現れる共同労働のヨリ高度に複雑化された技能水準であるとされる。 ルダコワの場合,ヴィゴッキーと異って価値の成長という概念は明確ではない が,少くとも以上の規定から独占による労働強度の引上げが不断の可能性とし て示唆されているといえよう。 ルダコワの独占利潤形成の理論については,既に小檜山教授の先駆的な仕事 47) の中で,正確詳細に紹介検討されているので,それを利用して必要な核心だけ を整理する。 独占価格(利潤)形成の特殊性は,市場需要変動と景気循環の可変的要素を 予め生産費の中に計画的に組みこむような,独占企業の個別費用と利潤の計画 的平均値を基準としているから,個別的実質投入(自然生産費)と最:初より乖 離していることである。この量的モメントは,独占の高生産性,後進設備・工 48) 場の温存利用,余剰未利用設備と水まし減価償却,広告・人件費などであり, 独占資本の生産物に結実している労働の質的性格一予めの平均化過程,労働支 49) 出に予めの社会的評価を付与する機能一を規定するものである。独占的な基準 労働支出,従って独占的な部門生産価格を計画的に操作する重要な方法として, やはりルダコワも生産制限をあげ,そのような価格は必然高くなると言う。通 常の超過利潤と異る点は,部門労働支出構造への独占の変形的影響とその安定 50) 性に求められ,独占資本の機能の現われとされる。更に部門間の関係は,自然 発生的な力の方が独占の調整力より強いとされるが,結果として利潤率の平均 化傾向が存在する中で同時に独占と非独占の利潤率の差が維持され,特殊独占 超過利潤の一部は再配分にまわらず独占追加分として独占に固定される。部門 内と相互間の独占の新しい機能によって管理生産価格が成立するが,これは通 46) TaM >Ke., cTp.53. 47)小檜山政克,前掲書駒5章参照。 48>小檜山,前掲書125−126頁。 49)小檜山,前掲書127頁,PymaKoBa, cTp.160 50>小檜山,前掲書128−130頁,PynaKoBa, cTp.161・162。
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 219 51> 常よりも高くなる。換言すれば,「独占的生産調整は,社会の富をつくりだすの に,社会が現有生産力でできるよりももっと多くの労働(生きた労働プラス物 52) 体化された労働)を必要とするようにするのだということになる。」 独占利潤の価値実体は「変形された調整的平均労働支出量」=「計画的に設 53) 回した価値価格」であることは,以上の説明より明らかである。小檜山教授は, 独占利潤の大きさとは,この価値価格と実際の支出量との差であると正しく指 摘され,それでは独占の計画的平均価値は果して価値であるかと反問され,独 占の調記する市場の需給関係が,この意味での独占の市場価値を形成する前提 54) である限り,「変形された価値,価値の新しい変種」と言うべきとされる。ヴィ ゴッキ・一の視点に比べてルダコワの視座は独占利潤(価格)の構成について, その計画性をより細かく分析することでは説得的であるが,計画的・調整的な 市場価値の増大,従って次に独占の個別的実質投入の成長について,生産調整 によるその増大を言うだけで積極的に説明していない。ヴィゴッキーの市場価 値成長論を否定的に批判しているのだかち当然とも言えるが,現代独占の巨大 な生産集積と生産の成長を一般的レベルで前述したような無限の複雑労働化と 労働生産力の上昇と搾取という形でしか説明していないのは説得力に欠けるの ではなかろうか。 IV 試論の導入 問題の枠組を極端に単純化して価値再配分の殆んどない,いわば世界=1国 の,非独占領域を欠いた複数的な独占経済を考えた場合,その成長の最低条件 は,当然ヴィゴッキー的な市場価値の成長である。その計画的構成は,ルダコ ワの分析した二種の部分一独占の価値価格(計画的調整的市場価値)と独占の 個別的労働投入の差額と独占の個別的価値水準一に分けられる。論理としては 51>小檜山,前掲書131−134頁,PyAaKoBa, cTp.170, cTp.174. 52)小檜山,前掲書134頁。 53)小檜山,前掲書130頁,142頁。 54)小檜山,前掲書143頁。
220 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) 先づ後者が成長することが前者の成長の前提条件である。後者の不断の成長の 根本的要因は,労働の強度或は複雑度の成長であることは,二人の視座の中で 明白になったが,一般的人間的労働を生理的な生きた労働と孤立的に解釈した のでは,そのような状況は決してありえない。紙幅より詳論は別の機会にゆつ るとして,考え方の骨格だけを言えば,凶刃な対象化された労働,具体的現象 としての機械と同次元で結合・融解した人間労働の全構造化の深部においてし か存在しえないものである。換言すれば,根底的な非生理的・非ユノニスム的 社会機械の自立的運動と欲望の生産の同じ地平に有機的な人間労働と機械の労 55) 働は融解されるといえよう。全くの仮説であるが,その状況では人間労働は孤 立的な有機体的範疇というより無機的機械と合体し,それに媒介されて存在す る範疇として,労働機能として完全に通底する労働機械という一種の機関と化 するのではなかろうか。道具ではなく巨大な自動機械を前提とする独占的再生 産の公理体系でのみ,このような極限的に社会化され,物象化され,極限に外 化された労働の範疇は成立すると言えよう。この場合,すぐわかるように本来 主体であるべき人間労働の属性たる労働の集約度就中その強度と複雑性は,労 働機関としての機械の無機的な機能に無媒介に擬制されることになる。機械を 人間労働に擬制するのではなぐ,人間労働が機械の機能として擬制される。巨 大な価値の自律的生産の不断の成長,従って独占による発展の概念は,このよ うに考えなければ根源的には説明できないのではなかろうか。独占を原国家と して組みこんだ欲望の社会機械というオイディプス的概念を借りるとすれば, 人間労働をその中に客体化する作業によって,同義反復である機械の人間化で はなく,剰余価値を生み出す主体としての抽象的人間労働に,追加的な公理体 系である社会機械としての人間労働=労働機能として欲望に無限に対応できる 価値としての自己増殖の可能性の極大化された人間労働の範疇を具体的形態と して追加できるのではなかろうか。この新しく具体化された人間労働は,その 55)ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ,市倉宏祐訳『アンチ・オイディプスー資本 主義と分裂症』第三章第九節,十節,十一節参照。提示された〈資本主義機械〉の考え方 を試論の枠組みとして部分的に利用したものであり,詳論は別稿にゆずりたい。
独占資本主義の適合性の価値的基礎について 221 質的措定から直接的に,生理的な次元ではなく,社会的審級において人間の再 生産の方式(量的にはVの成長)と拘わる人間労働の内包的な複雑度の無限大 アンチの成長可能性を,反オイディプス的志向として有するものであろう。このよう な仮説は決して人間労働の具体的なan sichな分析ではない。いわば独占の価 値実体把握の為の限定された方法論でしかない。しかし,ブレイヴァマンのよ うな経験的古典の中でも人間の労働力の独自の能力は知的合目的的性質であり, それが「人間の労働力に無限の適応性を与え…それ自身の生産性を増大させる ための社会的,文化的諸条件を生み…それによって剰余生産物が不断に拡大さ 56) れうる」ことを確認し,全体として独占がヨリ大きな価値を生み出す方向性を 肯定している。 前述した独占利潤(独占価格)の価値実体の二種の構成部分のうち,第2の 部分である実際の独占の個別価値は,第1の計画的価値のいわば基底として, 現実の価値実体部分であり,この市場価値水準は,前述した意味での剰余価値 率の上昇=独占的特殊労働の強度と生産性の現存の高さによって規定され,平 均利潤に相当する部分を含む範疇であり,ヴィゴッキーの絶えず上昇する最低 費用と増大する平均利潤量を代表する。第2の範疇の価値実体性は複雑化する が,結論的にいえば生きた労働の特殊商品としての価値増殖機能の労働時間と しての不確定性を,社会機械(独占)の有機部分として客体化・対象化して, その計画的価値を追加的に創出する新しい複雑i度(強度と生産性)をもった人 聞労働を必然的に創出することである。新しい複雑度をもった人間労働は,欲 望の社会機械の中で自律的に自己を社会的価値として確認するような自己増大 する価値の時系列として理解できないだろうか。計画的な市場価値の実体的基 礎を景気循環の各局面における市場価値の平均値,或は非常に長期の,損失を 含んだ戦略的市場価値の平均値に求める視座は有用であるが,結局,予測値で ありルダコワの半分の価値であろう。しかも,問題はこれらを生み出す人間労 働の集約性,複雑度の成長そのものに在るのだから,上記の視点でも必ずその 平均値たる市場価値は,生産制限というより,本源的な形式で不断に増大する 56)H.ブレィヴァマン,富沢賢治訳『労働と独占資本』1985,61頁。
222 越後和典教授退官記念論文集(第273・274号) ものでなければならない。単純に定式化すれば,この場合の本源的形式とは, 前述した独占価格の二つの構成部分の中で2は成長が非弾力的であるとしても 不断に成長する人間労働の全投入とみなすことのできる現実の価値部分であり, 第1の部分は2に比して極めて弾力的で且つヨリ高い成長率をその新しい複雑 度の創出を通じて必ずもつような価値範疇であることを理論的前提として,こ の両部分の比率(1/2)が上昇する傾向として考えられるのではなかろうか。 小括すれば,ここでは畢寛するに,抽象的人間労働というマルクス経済学の ゲシュタルト 57) 根本的範疇自体の弁証法的展開の全く新しい形態が問われているのである。 57)価値概念と抽象的人間労働の重層的関係の起点的分析に関しては,梅沢直樹「抽象的人 間労働の意味するもの」『社会科学の方法と歴史』行沢健三他心,1978を参照。私見では, 抽象的人間労働に本来的な矛盾一主体的自由の開化側面と配分・時間費用の拘束側面の矛 盾一は,現段階では,後者の極小化が物象化によって実現される特殊な形態をとり,従っ て価値概念も拡大されている。