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PSWがクライエントに抱く陰性感情に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)PSW がクライエントに抱く陰性感情に関する研究 キーワード:PSW,陰性感情,陰性感情の対処に対するサポート,M-GTA 人間共生システム専攻 上野. みな子. Ⅰ.問題と目的. ンアウト予防に関する取り組みについて述べ,その. 1.PSW からクライエントに向けられる陰性感情. 際の視点として、対人援助職全般に共通している感. PSW(精神科ソーシャルワーカー)は、精神障害. 情の問題を取りあげている。しかしながらその実践. 者を対象 に生活 問題 や社会 的問題 解決の ための援. も始まったばかりで,感情に焦点を当てたバーンア. 助や社会 参加に むけ ての支 援活動 を行う 専門職で. ウト予防・介入活動はまだ十分ではないという。ま. ある。その活動にあたり,クライエントと PSW の間. ずは、職務ごとの情緒的負担感の丁寧な分析と、そ. には援助関係という特殊な人間関係が生まれる。援. れらの知 見を踏 まえ た具体 的な予 防、介 入策の提. 助が円滑に進むためには、安定した関係的基盤が必. 示・実践が課題であると述べている。. 要とされ、心理的距離感の取りにくくなるような過. 以上のように,陰性感情は援助関係に支障をきた. 度の感情 的巻き 込ま れは避 けられ るべき (山川,. し,バーンアウトのリスク要因になる可能性がある。. 1991)といわれる。しかしながら,PSW からクライ. したがって,感情にまつわる負担感を軽減させるた. エントに向けられる感情は多種多様であり、それに. めの方法や介入策を考えていくことは PSW がより. 気づき、冷静に対処していくことはなかなか難しい。. よいサービス提供を行うための一助となるだろう。. 様々な感情の中でも特に陰性感情というのは、援. 3.本研究の目的. 助者にとっての情緒的負担も大きく、援助関係を続. 本研究の目的は、PSW の陰性感情への対処に対し. ける上でも支障をきたしやすいと思われる。しかし. どのよう にサポ ート 体制を とるこ とがで きるのか. ながら,PSW の陰性感情について研究として取りあ. を考えるための知見を得ることである。そのために,. げられることはほとんどない現状がある。. ①PSW が生活支援の中で経験するクライエントへの. 2.PSW の陰性感情とメンタルヘルスの関連. 陰性感情の具体的様相・その要因②生起した陰性感. 近年、バーンアウトのリスク要因としての情緒的. 情への対処やその後の変化について明らかにし、陰. 負担感というものが挙げられている(久保,2004)。. 性感情の全体像を捉えることを試みる。なお、陰性. 久保は、感情を「管理する」ことに伴う負担感や、. 感情という用語について、本研究では、「クライエ. 様々な問 題に苦 しむ 人と接 するこ とで感 じる情緒. ントに対して、関わりづらいなあとか関わりたくな. 的負担はヒューマン・サービス職に特徴的であり、. いなあと思うような PSW のこころの動き」と操作的. 容易に解消するものではないと述べている。また、. に定義する。. バーンアウト症状に最も寄与する因子に、症状の慢. Ⅱ.方法. 性性、激しさ、複雑さ等のクライエントの問題が挙. 生活支援を行う PSW への半構造化面接を行った。. げられるという。現場においてそのような問題を抱. 生活支援業務とは:個人面談,家庭訪問,グループ. えるクライエントが少なくないことを考えると、援. ワーク,生活指導などを通して「生活のしやすさ」. 助者のメ ンタル ヘル スを保 つこと は容易 ではない. を目指し援助していくことである。. と思われる。そのような事態にどう対処しどう予防 するのかということは大切な視点となってくる。し. 〈調査協力者一覧〉 性別. 年齢. 所属. 20代 20代 40代 30代 20代 20代 20代 20代 20代. 経 験 年数 (年) 5‾10 1‾5 15‾20 1‾5 5‾10 5‾10 1‾5 5‾10 5‾10. A B C D E F G H I. 男性 女性 男性 女性 女性 女性 女性 女性 男性. 福祉施設 医療機関 医療機関 医療機関 医療機関 福祉施設 福祉施設 医療機関 福祉施設. J K. 男性 男性. 30代 30代. 1‾5 1‾5. 福祉施設 医療機関. かし、PSW へのサポートシステムはまだまだ整備さ れているとは言い難い。そこで筆者は、臨床心理学 的視点か ら援助 者へ の援助 という のも可 能ではな いかと考える。他分野での実践であるが、小堀 (2006)は、臨床心理学的立場から看護師へのバー. 性別. 年齢. 所属. 20代 30代 20代 20代 20代 30代 20代 30代 20代. 経 験 年 数 (年) 5‾10 1‾5 5‾10 1‾5 5‾10 10‾15 5‾10 1‾5 1‾5. L M N O P Q R S T. 女性 女性 女性 女性 男性 女性 女性 女性 女性. U. 男性. 30代. 10‾15. 医療機関. 福祉施設 福祉施設 福祉施設 医療機関 医療機関 福祉施設 福祉施設 医療機関 福祉施設.

(2) 対象:精神科リハビリテーションに携わる PSW21 名 <調査期間>:2006 年 6 月∼2006 年 9 月 質問:クライエントに対し陰性感情を抱いたときのこ. カテゴリ ー名 1.嫌 悪 感. 2.困 惑 感. とについて 1.一時的な感情であり援助関係のとりづら さにまでは発展しなかったもの 2.その感情によって援 助関係がとりづらくなったがなんらかの変化で建て直. 3.憤 怒 感. 概念名. 定義. 1.性 的 嫌 悪 感. ク ラ イ エ ン ト から 一 方 的 な 性 的 興 味 関 心 を 向 け ら れるときや接触を持たれたときに湧き起こる感 情 ク ラ イ エ ン ト によ っ て 傷 つ け ら れ て し ま う 体 験 に よって感じる許せないという思い ク ラ イ エ ン ト から 寄 せ ら れ る 強 い 関 心 や 恋 愛 感 情 に 対 し て 気 持 ち と し て 構 え て し ま い 、関 わ り は す る けれども心的距離をとってしまうこと PSW 側 が 描 く 援 助 の あ り 方 援 助 過 程 へ の 思 い が 強 す ぎ る た め に 、援 助 が 押 し 付 け が ち と な る と き 、ク ラ イ エ ン ト が そ れに 乗 っ て き て く れ な い こ と へ 戸 惑 いやはがゆさを感じてしまうこと 自 分 勝 手 な 振 る舞 い や 主 張 が 病 気 の 症 状 で は な く わ が ま ま に 思 える こ と で 共 感 し た り 寄 り 添 え な く な っ た り し て し ま い 、腹 立 た し さ が 沸 き 起 こ っ て く ること ク ラ イ エ ン ト から 批 判 や 攻 撃 的 な 態 度 や 言 葉 を 向 けられ腹立たしく思うこと. 2. 傷 つ き 体 験 か ら く る許せなさ 3. ク ラ イ エ ン ト の 好 意の対する引き気味 の構え 4. 援 助 に の っ て く れ ないことへの戸惑い. 5. わ が ま ま な 自 己 主 張への腹立ち. しができたもの 3.その感情によって援助関係がとりづ 6. ク ラ イ エ ン ト の 批 判や攻撃のよる腹立 ち 7.抑 え き れ な い 憤 り. らくなり、結果として、援助関係が切れてしまったあ るいは、関わりづらいままだったものを詳しく聞かせ てくださいと教示した。. 4.億 劫 感. 分析方法:M-GTA(修正版グラウンデッドセオリーアプ ローチ)を用いる。M-GTA は,データを解釈して得られ. 8.関 わ り の 億 劫 感 9. 人 間 関 係 調 整 の 負 担感. 5.徒 労 感. る仮説的な説明概念を作り、それによって一定程度の. 10. 援 助 を 被 害 的 に うけとられる理不尽 さ 11.ぬ か に 釘 の 感 触. 現象の多様性を説明するものである。説明概念同士を 比較しいくつかの概念から成るカテゴリーを作りその カテゴリー同士の関係性を見出しつつ,なんらかの動 きをモデル化していくのである。分析にあたりどの視. 12. 恩 を あ だ で 返 さ れる思い 6.PSW 要 因. 点でデータに接するのかという分析テーマが必要とな る。本研究においては目的をふまえて分析テーマ1「陰. 15.ゆ と り 不 足. 性感情の様相とその要因」分析テーマ2「陰性感情へ の対処とその変化」の2つを設定した。 Ⅲ.結果と考察. 13. ク ラ イ エ ン ト に 強い好意を引き起こ す PSW の 関 わ り 14. ク ラ イ エ ン ト が 否定的感情を引き起 こ す PSW の 関 わ り. 16. 処 理 さ れ な い 感 情の蓄積 7. 環 境 要 因. 1.分析の結果. 17. ク ラ イ エ ン ト に 強い好意を引き起こ す時間的・空間的接 触の多さ 18. 職 場 環 境 か ら の 悪影響. ①「陰性感情の様相とその要因」の結果の要旨 データを分析し、21の概念と8つのカテゴリーを抽 出した(表1参照) 。以下カテゴリー名は、 【 】 、概念 名は〈 〉で表す。 クライエントに対し【1.嫌悪感】として体験される 感情では、女性の PSW に起こりやすいものとして、 〈1.. 8. ク ラ イ エント要 因. 19. 自 分 の こ と は 棚 に上げ他人の批判ば かりするクライエン ト 20. 周 囲 へ の 悪 影 響 があるクライエント 21.「 人 格 障 害 」特 有 の対人関係様式. 攻 撃 性 に さ ら さ れ 、 PSW 側 も 感 情 を 抑 え き れ な く な り 考 え る 余 裕 さえ な く ダ イ レ ク ト に 感 情 を 返 し て しまうような腹立たしさ 何 回 も 関 わ り を 求 め ら れ 、そ れ に 対 応 す る こ と で わ き上がってくるめんどくさいような億劫な感情 集 団 場 面 の 援 助 に お い て 、影 響 力 の あ る ク ラ イ エ ン ト が い る こ と で内 部 の 人 間 関 係 調 整 の た め に 手 を とられるため負担がかかること 援 助 し た こ と や関 わ っ た こ と を 被 害 的 に と ら れ た り 、悪 い よ う に 捉 え ら れ た り 、第 3 者 に 悪 い よ う に 伝えられてしまい理不尽な思いになること ク ラ エ ン ト の 好ま し く な い 行 動 に 何 度 も 注 意 を 与 え る が 、理 解 し て く れ な か っ た り 行 動 が か わ ら な か っ た り し て 、同 じ 事 の 繰 り 返 し の た め に 起 き て く る 感情 善 意 を も っ て 援 助 を お こ な っ て い る の に 、そ れ に 感 謝 も さ れ ず 、む し ろ 反 発 さ れ た り 攻 撃 さ れ た り す る ことで起きてくる感情 ク ラ イ エ ン ト の強 い 好 意 を 引 き 起 こ す 要 因 と な り う る PSW の 親 し げ な 関 わ り 方 や 関 係 の 持 ち 方 ク ラ イ エ ン ト から 否 定 的 な 感 情 を 向 け ら れ る 要 因 と な り う る PSW の 関 わ り 方 で あ り 、そ れ は ク ラ イ エ ン ト を き ち ん と 理 解 し て お ら ず 、適 切 に 関 わ る こ と ができないために発生すること 関 わ り を も ち に く く し た り 、対 応 を 難 し く し た り す る よ う な PSW 側 の こ こ ろ の 余 裕 の な さ 陰 性 感 情 や 関 係の 取 り 方 に ま で 悪 影 響 を 及 ぼ す よ う な PSW 側 の 不 快 な 感 情 が 処 理 さ れ る こ と な く ど ん どんたまってしまうこと ク ラ イ エ ン ト の強 い 好 意 を 引 き 起 こ す 要 因 と な り うる2人きりで関わる機会や空間の多さ. PSW を 取 り 巻 く ス タ ッ フ 間 の 人 間 関 係 や 施 設 側 の 体 制 な ど ク ラ イ エン ト と 直 接 関 係 の な い 部 分 で の 事 柄 の 影 響 が PSW の ク ラ イ エ ン ト へ の 陰 性 感 情 に も 及 ぶこと 陰 性 感 情 を 刺 激 す る 要 因 の ひ と つ で 、自 分 の 問 題 に は 目 も く れ ず 向 き 合 わ ず 、棚 に 上 げ て 、他 の 人 の 批 判や文句ばかりいうようなクライエント 陰 性 感 情 を 刺 激 し 、対 応 に 困 難 を 覚 え る ク ラ イ エ ン ト の 特 徴 の ひ とつ で 集 団 の 他 の 成 員 に 好 ま し く な い影響力があること 診 断 名 と し て 特に そ の 処 遇 の 難 し さ が 援 助 者 の 中 の共通認識として印象づけられている「人格障 害」 と い う 病 名 を 持つ ク ラ イ エ ン ト の 不 安 定 な 対 人 関 係の持ち方. 性的嫌悪感〉がある。男性のクライエントから性的な. 表1 :「 陰 性 感情 の 様相 と その 要 因 」概 念 ・カ テ ゴリ ー 一 覧. 言葉を投げかけられたり、直接触られたりと、セクシ. が思い通りにならずに戸惑ってしまうものもある。次. ャルハラスメント的な行為を受けることにより感じる. に、 【3.憤怒感】である。その内容としては、病気の症. 【1.嫌悪感】である。また、クライエントから受けた. 状としてわりきることのできない、一方的な自己主張. 被害体験によって深く傷つき、クライエントへの信頼. をされたときに感じるような〈5.わがままな自己主張. を失ってしまうことで〈2.傷つき体験からくる許せな. への腹立ち〉や、自分に批判や攻撃性を向けられたと. さ〉という【1.嫌悪感】を感じるにいたることもある。. きに感じる〈6.クライエントの批判や攻撃による腹立. 【2.困惑感】として体験される〈3.クライエントの好. ち〉 、激しい感情を体験した場合に、売り言葉に買い言. 意に対する引き気味の構え〉は、特に男女の組合せの. 葉のような状況になってしまう〈7.抑えきれない憤り〉. 援助関係において見られがちである。この感情の起因. がある。 【3.憤怒感】の背景には様々な要因が絡み合っ. として挙げられるのが、 【6.PSW 要因】としての、 〈13.. ている。その中でも特に、 【6.PSW 要因】の〈14.クライ. クライエントに強い好意を引き起こす PSW の関わり〉. エントが否定的感情をひきおこす PSW の関わり〉はク. そして【7.環境要因】としての〈17.クライエントに強. ライエントの攻撃性や批判に結びつき結果的に【3.憤. い好意を引き起こす時間的・空間的接触の多さ〉があ. 怒感】となる可能性があり, 【7.クライエント要因】の. る。また、 【2.困惑感】としては、 〈4.援助にのってく. 〈19.自分のことは棚に上げ他人の批判ばかりするク. れないことへの戸惑い〉という PSW 側が意図する援助. ライエント〉や〈20.周囲への悪影響があるクライエン.

(3) ト〉は【7.クライエント要因】の〈21.「人格障害」. 表2:「陰性感情への対処とその変化」の概念・カテゴリー一覧. 特有の対人関係様式〉とも密接に関わりあっているが,. カテゴリー名 1.あえて近づく. それぞれが【3.憤怒感】の要因となりうる。次に、 【4. 億劫感】には、何度も関わりを求められることによる. 概念名 1.勇気を出して本音を話す. 2.積極的な関わり 2.あえて距離をとる. 「めんどくさい」感情〈8.関わりの億劫感〉や集団内. 3.感情を統制しながらのさら っとした関わり 4.消極的な関わり. の人間関係を調整するのを負担に感じる〈9.人間関係 調整の負担感〉がある。PSW は集団の安定を維持する. 5.関わりの交代の要請. ための役割として関係調整を求められるため〈9.人間. 6.物理的距離をおく. 関係調整の負担感〉に結びつきやすい。そこに関わる 要因として認められたのは、 【7.クライエント要因】の. 3. 周囲のサポートを得 る. 8.周囲の肯定的受け止めによ って楽になる. ひとつである、 〈20.周囲への悪影響があるクライエン ト〉である。次に、 【5.徒労感】である。 〈14.クライエ. 9.困ったときに相談できる環 境. ントが否定的感情を引き起こす PSW の関わり〉が要因. 10.スーパービジョンからのヒ ント. となることもあるが、PSW が援助しようと関わってい ても、 〈10.援助を被害的に受け取られる理不尽さ〉に. 7.感情を溜め込まず吐き出す. 4. クライエント理解や 状況理解のための努力. 11. 状況を対象化して考え理 解・解釈する. なったり、何度も同じことを繰り返したり被害的にな りやすいクライエントや〈21.「人格障害」特有の対人 関係様式〉を持つクライエントに対して〈11.ぬかに釘. 12.病気の理解のための勉強 5. 感情沈静化への正の 影響因. 14.時間経過による沈静化. の感触〉 〈12.恩をあだで返される思い〉という体験を する。それらは【5.徒労感】という感情といえる。ま た、 〈8.関わりの億劫感〉が度重なると〈11.ぬかに釘 の感触〉というような【5.徒労感】を経験することに. 15.クライエントの察知力によ る距離感の調整 6. 感情がおさまり無理 なく接することができ る. 広く陰性感情に影響している要因として考えられるも. 16.生々しい感情が落ち着く. 17.構えず自然に接することが できる. もつながっていく。以上、感情カテゴリーごとに感情 とその感情に関わりの深い要因を述べてきたが、より. 13.日頃からの信頼関係作り. 7.処理しきれない感情. 18.関わりへの後悔の念. 19.残ってしまう陰性感情. 定義 クライエントに対して困っているということ やできないということなど、PSW の言いにくい 本音や思いを直接伝えること 陰性感情を持つことで関わりを避けることな く、あえて関わっていこうとする態度 クライエントから向けられた強い感情に対し、 PSW が感情的になることなく、さらっと交わし て距離感を保ちつつ関わること 陰性感情を持ってしまったときに関わりつづ けるのではなく、他のスタッフに対応を任せた り自分は関わらないようにしたりと距離をと って接していくこと 自分では対応できないと判断した際に、他のス タッフに事情を話して一時的に担当や対応を 交代してもらうこと 援助関係の中でぶつかってしまい、関わりにく くなってしまったあとに、物理的な距離を意図 的におくことでほとぼりをさますような対処 職員間において、陰性感情を溜め込むことなく 吐き出すことができスッキリすることで溜め 込まないですむこと 陰性感情を出してもその感情を周囲のスタッ フが肯定的に受け止めてくれることで救われ た感覚、楽になれるかんじがでること 一人では解決できないような問題に行き詰ま ったり困ったことがあるときに解決に向けて 相談できるような場があること スーパービジョンを受けることでクライエン トとの関わりについて今どういう状況にあり、 どうしていけばいいのか、という問いの答えを だすためのヒントを得ることができること 陰性感情を引き起こすクライエントの態度や うまくいかない状況などについて距離をとっ て自分で考えてみることで理解・解釈すること ができること 関わり方を考えるために病気や症状の理解を 得ようとし、客観的な資料をあたること ぶつかりあったり、関係が悪化したとき修復へ と向ける基盤となる信頼関係を日頃から作る ように心がけていること 時間的経過によって高ぶった陰性感情が自然 とおさまっていき再び援助関係をとれるよう になること クライエントが援助関係の状況を察したり PSW 側の陰性感情に気づいたりすることでクライ エントの態度が変化すること 生々しく感じられていた陰性感情がおさまり 出来事としては覚えているが落ち着きがでる こと 陰性感情を抱くことで生まれた PSW 側のクライ エントに対する構えがなくなり自然に接する ことができるようになるような変化 関係が切れてしまったクライエントに対して 感じる自分の関わり方への後悔の念や心残り に思う感情 援助関係が切れてしまってからも残ってしま うクライエントへの陰性感情. のとして、まず【6.PSW 要因】としての〈15.ゆとり不 足〉 〈16.処理されない感情の蓄積〉があり, 【8.環境. 境〉 〈10.スーパービジョンからのヒント〉など【3.周. 要因】としては〈18.職場環境からの悪影響〉が挙げら. 囲のサポートを得る】という動き、 〈11.状況を対象化. れる。. して考え理解・解釈する〉 〈12.病気の理解ための勉強〉. (2) 「陰性感情への対処とその変化」の結果の要旨. といった【4.クライエント理解や状況理解のための努. データを分析し、19の概念と7つのカテゴリーを抽. 力】という動きがある。これらは,PSW が実際の関わり. 出した(表 2 参照) 。以下カテゴリー名は、 【 】 、概念. を進めていくにあたり、支えを得たり、方針を決めた. 名は〈 〉で表す。. り、動機付けを高めたりといったことに役立っており、. PSW が陰性感情を抱いたクライエントに対し,援助を. 実際の関わりと平行して行ったり来たりしながら進め. 再び円滑にとっていくために、どのような関わりを持. ていく間接的対処である。その後,関係が続きながら. つかというと2つの方向性がある。ひとつは、 〈1.勇気. も、いい方向に変化していくと〈16.生々しい感情が落. を出して本音を話す〉 〈2.積極的な関わり〉など【1.あ. ち着く〉 〈17.構えず自然に接することができる〉等の. えて近づく】という関わり、もうひとつは、 〈3.感情を. 【6.感情がおさまり無理なく接することができる】と. 統制しながらのさらっとした関わり〉 〈4.消極的な関わ. なる。その変化には、 〈13.日頃からの信頼関係作り〉 〈14.. り〉 〈5.関わりの交代の要請〉〈6.物理的距離をおく〉. 時間経過による沈静化〉 〈15.クライエントの察知力に. などの【2.あえて距離をとる】関わりである。それら. よる距離感の調整〉などの【5.感情沈静化への正の影. は直接的対処である。自らの感情を抑えるための工夫. 響因】という存在があることが認められる。逆にうま. や行き詰まった関わりへ示唆を得るための工夫として、. く対処できず関わりが途切れてしまった時、 〈18.関わ. 〈7.感情を溜め込まず吐き出す〉 〈8.周囲の肯定的受け. りへの後悔の念〉 〈19.残ってしまう陰性感情〉などの. 止めによって楽になる〉 〈9.困ったときに相談できる環. 【7.処理しきれない感情】が存在することとなる。.

(4) なお,対処を試みてはいるものの陰性感情が変化し ないまま関わりが続くということもある。この場合、 直接的対処や間接的対処を,試行錯誤しながら日々取. ーム作りは大切だと思われる。 (3)心理士から PSW への援助の可能性 以上のことを踏まえると,陰性感情の様相や要因の. り組んでいる状態であるものと思われる。. 複雑さのときほぐしや傷つきに対する手当てといった. 2.陰性感情への対処に対するサポートのための考察. 作業が周囲のサポートによって行われることが必要で. 上記の結果をもとに、PSW がクライエントに抱く陰性. あると思われる。その中で心理士が取りうる役割につ. 感情への対処の難しさや対処の際に重要になってくる. いて以下に述べる。. 事柄について考察し,どのようなサポートが可能とな. ①心理的な力動を読み伝えていくという役割. るのかについて臨床心理学的視点から考えてみたい。. PSW とクライエントの関係における双方のこころの動. (1)陰性感情への対処の難しさについて. きや周囲からの影響も含めた関係性のあり方を読み解. ①複数の要因が絡まり合うことによる難しさ. き PSW 個人あるいはチーム全体に理解されうる形で伝. 実際に経験する感情は,事例や援助場面によって様々. えていくことは有用であろう。その際,転移-逆転移等. な要因が複雑に絡み合い多様な表れ方をする。そこが. の精神分析理論の考え方や視点が役立ちうると考える。. 対処を難しくさせている部分だろう。その解きほぐす. ②話しを聴くという役割. 視点としてはクライエントの特徴・PSW の特徴・クライ. PSW が陰性感情を持つことへのジレンマを抱えていた. エントと PSW の組合せ・環境の影響があると思われる。. り傷つきを体験したりする時,じっくりと適切に聴い. ②PSW の傷つきへの対応. てくれる場があることで情緒的負担が減らすことがで. インタヴューの事例では法に触れるような行為の被害. きる。また,そこには気づきをもたらす作用もあると. にあったときなどの傷つきについて対処困難になるこ. 思われる。. とが示されていた。そのような深い傷つきの問題は取. ③予防的視点からの介入. り上げにくい部分ではあるもののどのように援助関係. 陰性感情が蓄積し,援助への支障をきたす前に予防的. をとっていくのかを考える上でなんらかの介入が必要. 介入を行うことも大切である。いわゆるコンサルテー. となる部分だろう。. ション活動や援助者のためのセルフヘルプグループ活. (2)間接的対処の大切さについて. 動に関与していくことなどはその一手段となりうる。. 陰性感情への対処についてのサポートを考える上で 間接的対処の役割は重要となってくる。. Ⅳ.まとめと今後の課題 本研究では,これまでほとんど研究されることのな. 陰性感情を抱くことへの罪悪感などから,ひとりで. かった PSW の陰性感情に焦点を当て,様相や実際の対. は対処しきれないときでも,話をするのは勇気のいる. 処に関してその全体像を示すことができた。そして,. ものである。そこでの肯定的な受け止めが情緒的負担. 陰性感情への対処が困難になる背景や間接的対処の重. を軽減し,それがあってはじめてどのように関わるか. 要性について考察を深め PSW への援助ということにつ. というところに進んでいけるのではないかと思われる。. いて心理士としての役割をいくつか提案した。しかし. その関わり方の示唆を得るために第3者的視点が大. ながら,今回の研究結果は限られたデータ範囲内にお. 切である。記録物や書物からの情報はもちろん,相談. ける仮説的なものであり,データの分析手順について. できる場やスーパービジョンのような一旦現場を離れ. も的確とはいえない部分もあることは否定できない。. て援助関係から距離をとって見ることのできる場所の. 結果の精緻化は今後の課題である。また,陰性感情に. 役割は大きい。したがって間接的対処を求めていける. まつわる PSW への援助ということを考えていくために. だけの環境,援助チームが必須である。また,精神科. は PSW という職務独自の困難さや場面による情緒的負. リハビリテーションは慢性化した統合失調症者を対象. 担感の表れ方等についてより詳細に検討を加えていく. に発展してきたが,近年その対象の範囲が広がってい. 必要があるだろう。また,PSW 自身の特性という視点を. る。今回の調査でも対応の難しさとして特に挙がって. 含めたバーンアウトとの関連など,まだ研究すべき事. いたのが「人格障害」といわれる人たちの,強烈な陰. 柄が数多く残されていると思われる。そのようなこと. 性感情を引き起こしたりスタッフ間をギクシャクさせ. を明らかにしていくためにも,より多様な視点から調. たりといった言動がある。そのためにも,対人的にど. 査研究を進めていく必要があるだろう。それとともに,. のように病理が現れやすいかということの理解やその. 心理臨床的視点から可能となる介入を通じて様々な実. 理解を踏まえた視点から話し合うことのできる援助チ. 践を積み上げつつ次の研究へとつなげていきたい。.

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参照

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