葬
送
記
に
あ
ら
わ
れ
た
中
世
の
葬
制
佐
々
木
孝
正
一 一 般 に 葬 制 の 研 究 は、 仏 教 が 我 が 国 の 伝 統 的 な 民 族 宗 教 と い か な る か た ち で 結 合 し た か を 具 体 的 に 追 求 し う る の で、 日 本 仏 教 の 構 造 や 本 質 を 解 明 す る 上 に 注 意 せ ら れ る。 小 論 で は 中 世 の 葬 送 記 を 本 願 寺 の そ れ に 限 定 し、 宗 義 的 立 場 よ り す れ ば き わ め て 反 民 俗 的 性 格 の 強 い 真 宗 が、 葬 送 儀 礼 の 面 に お い て は い か よ う な 特 色 を 示 し て い る か を 少 し く 考 察 し て み た い。 中 世 に お け る 本 願 寺 の 葬 送 儀 礼 に つ い て は、 蓮 如、 実 如、 証 如、 顕 如 な ど の 歴 代 宗 主 を は じ め と し て、 い く つ か の 葬 ・ 中 陰 記 が 残 さ れ て お り、 ま た 本 願 寺 家 臣 等 の 日 記 に も 葬 送 関 係 記 事 が み う け ら れ る の で、 そ れ ら の 諸 記 録 に よ つ て 葬 送 儀 礼 の 詳 細 を う か が う こ と が で き る。 す な わ ち 第 八 代 宗 主 蓮 如 ( 明 応 八 年 寂 ) に つ い て は、 ﹃ 空 善 記 ﹄、 ﹃ 晶 期 記 ﹄、 ﹃ 山 科 連 署 記 ﹄、 ﹃ 蓮 如 上 人 遺 徳 記 ﹄、 あ る い は 近 江 堅 田 本 福 寺 明 誓 の 記 録 と 伝 え る ﹃ 蓮 如 上 人 被 仰 置 御 葬 礼 次 第 ﹄ ( 以 下 ﹃ 蓮 如 葬 礼 次 第 ﹄ と 略 称 す る ) な ど が あ り、 第 九 代 宗 主 実 如 ( 大 永 五 年 寂 ) に は ﹃ 実 如 上 人 闇 維 中 陰 録 ﹄ が あ る。 第 十 代 宗 主 証 如 ( 天 文 二 十 三 年 寂)に は、 ﹃ 証 如 上 人 御 遷 化 日 記 ﹄、 ﹃ 長 福 寺 慶 秀 日 記 ﹄ な ど が、 第 十 一 代 宗 主 顕 如 (文 禄 元 年 寂 ) に は、 ﹃ 信 楽 院 顕 如 上 人 御 往 生 記 ﹄、 ﹃ 顕 如 上 人 御 遷 化 記 ﹄、 ﹃ 宇 野 新 蔵 覚 書 ﹄, な ど が あ る。 こ れ ら 蓮 如 に は じ ま る 一 連 の 葬 ・ 中 陰 記 は、 内 容 的 に き わ め て 類 型 的 で 変 化 に 乏 し く、 い ず れ も 蓮 如 の そ れ を 基 準 と し て、 代 々 踏 襲 せ ら れ て い る こ と が う か が え る。 ま た 現 今 真 宗 末 寺 で 執 り お こ な わ れ て い る 葬 送 儀 礼 と も、 勤 行 作 法 等 の 大 筋 に お い て は 大 差 が な い の で あ る。 こ の こ と は、 蓮 如 以 後、 本 願 寺 の 教 団 統 制 が 徹 底 し て お り、 葬 送 儀 礼 の 面 に お い て も 真 宗 的 な 作 法 の 伝 持 が 強 く 重 ん ぜ ら れ た こ と を 物 語 つ て い よ う。 そ の 根 底 に 流 れ る 基 本 的 姿 勢 は す で に 第 三 代 宗 主 覚 如 の ﹃ 改 邪 砂 ﹄ に、 ﹁ し か る に 往 生 の 信 心 の 沙 汰 を ば 手 が け も せ 葬 送 記 に あ ら わ れ た 中 世 の 葬 制 ( 佐 々 木) 三 〇 五-746-葬 送 記 に あ ら わ れ た 中 世 の 葬 制 ( 佐 々 木 ) 三 〇 六 ず し て、 没 後 葬 礼 の 助 成 扶 持 の 一 段 を 当 流 の 肝 要 と す る や う に 談 合 す る に よ り て 祖 師 の 御 己 証 も あ ら は れ ず ( 中 略 ) い よ く 喪 葬 を 一 大 事 と す べ き に あ ら ず、 も つ と も 停 止 す べ し ﹂ と の べ ら れ る ご と く、 葬 礼 を 重 ん ず る よ り は、 往 生 の 信 心 決 定 こ そ 大 切 に す べ き 問 題 で あ る と い う 真 宗 本 来 の 信 仰 的 立 場 で あ る。 蓮 如 の 葬 送 に つ い て、 ﹁ 火 屋 ア タ ラ シ キ 事 ハ 不 レ 可 レ 有 由 シ 堅 ク 仰 置 ル ヽ 二 任 テ 其 ノ 旨 二 常 ノ 葬 所 ニ テ 御 茶 砒 ア リ ﹂ ( ﹃ 蓮 如 葬 礼 次 第 ) と 火 葬 場 の 新 設 を 禁 じ て い る こ と や、 中 陰 に つ い て、 ﹁ 仏 事 供 養 を 要 と せ ず、 唯 帰 命 の 信 心 を 本 意 と 思 召 す ま 民 存 日 の 時 た 穿 三 七 日 そ の い と な み を な す へ し と 仰 置 る ﹂ ( ﹃ 蓮 如 上 人 遺 徳 記 ﹄ ) と そ の 期 間 を 廿 一 日 間 に 短 縮 し、 そ の 後 歴 代 宗 主 も こ れ を 踏 襲 し て い る こ と な ど は、 こ の 真 宗 本 来 の 信 仰 的 立 場 を 忠 実 に 継 承 し 実 行 せ る も の と 考 え ら れ よ う。 二 し か し な が ら、 現 実 に 真 宗 の 信 仰 と 教 義 が 地 域 社 会 に 滲 透 し て 定 着 し、 教 団 を 形 成 す る に あ た つ て は、 伝 統 的 な 民 俗 慣 、 行 や 民 族 宗 教 を 無 視 す る こ と は と う て い 不 可 能 で あ つ た と 思 わ れ る。 従 つ て 一 面 に お い て は、 真 宗 本 来 の 教 義 的 信 仰 的 立 場 よ り し て 民 俗 に 対 す る 対 決 と 排 除 の 姿 勢 が と ら れ る が、 他 面 に お い て は、 一 般 の 民 俗 慣 行 と 共 通 性 を も た せ つ つ、 自 宗 の な か に 伝 統 的 習 俗 を と り 入 れ、 必 要 と あ れ ば、 行 事 や 儀 礼 の 意 味 内 容 に つ い て、 真 宗 的 な 解 釈 へ の 転 換 を お こ な い つ づ、 教 団 の 維 持 が は か ら れ た の で は な か ろ う か と 思 わ れ る。 葬 送 儀 礼 に つ い て も、 ﹃ 然 る に 僧 侶、 種 々 の 義 を 含 み 構 へ、 深 秘 あ り げ に 思 ひ 合 へ る 条、 甚 不 レ 可 レ 然 也 ﹂ ( ﹃ 叢 林 集 ﹄ ) と、 儀 礼 自 体 に 特 別 の 宗 教 的 兄 術 的 意 味 を 附 加 す る 立 場 は 強 く 批 判 し 排 除 し て ゆ く の で あ る が、 同 時 に、 ﹁ た 穿 仏 家 の 大 法 に 任 せ、 自 流 の 式 に よ り て 葬 り 飲 む る ば か り な り ﹂ と か、 ﹁ た 穿 世 の 大 法 に 任 せ て ﹂ あ る い は、 ﹁ 其 処 の 俗 例 に 任 せ て ﹂ ( ﹃ 叢 林 集 ﹄ ) と い つ た 立 場 で も つ て 葬 送 を お こ な い、 在 来 の 地 域 社 会 の 慣 習 に 順 応 し た 葬 送 ・ 中 陰 を 営 む 姿 勢 を 示 し て い る の で あ る。 こ の よ う な 立 場 は、 中 世 本 願 寺 歴 代 宗 主 の 葬 送 儀 礼 に つ い て も 同 様 に あ ら わ れ て い る と お も わ れ る。 そ の 勤 行 作 法 等 は、 き わ め て 真 宗 本 来 の 信 仰 的 教 義 的 立 場 で お こ な わ れ て い る が、 執 り お こ な わ れ て い る 個 々 の 儀 礼 の な か に は、 宗 派 を 超 越 し て 共 通 す る 民 俗 的 要 素 の 強 い 儀 礼 も い く つ か 指 摘 し う る の で あ る。 す な わ ち そ の 主 た る も の を 列 挙 す れ ば、 (一)色 ( イ ロ ) を 着 る こ と (二)葬 場 よ り の 帰 途、 白 扇 を 捨 て 藁 沓 を ぬ ぎ 捨 て る こ と (三)棺 の 蓋 に 名 号 を 書 く こ と (四)棺 に 袈 裟 を か け る こ と (五)近 親 者 に よ る 肩 入 れ の 式 を お こ な う こ と(六)葬 場 へ 向 う と き 路 念 仏 を 唱 え る こ と(七)町 蝋 燭 を た て る こ と な
-747-ど で あ る。 さ ら に 各 々 に つ い て 史 料 を 例 示 す れ ば、(一)(二)に つ い て、 ﹃ 蓮 如 葬 礼 次 第 ﹄ は、 ﹁ 色 ノ 事 ハ 人 目 ナ レ ハ ハ カ ラ ヒ テ 可 レ 着 由 被 二 仰 置一。 殿 原 衆 中 間 小 者 マ デ 少 々 着 セ ラ ル、 皆 々 白 扇 モ チ 路 次 二 捨 テ ワ ラ グ ツ モ ヌ グ ﹂ と あ り、 ﹃ 実 如 上 人 闇 維 中 陰 録 ﹄ に も、 ﹁ 衰 衣 ハ 下 間 名 字 ノ 衆、 皆 衰 衣 大 口 也、 其 外 ノ 殿 原 衆 モ 皆 々 衰 衣 也 ﹂、 ﹁ 白 扇 ハ 火 屋 ヨ リ 五 六 間 カ ヘ リ テ ス ツ ル ナ リ、 藁 沓 ヲ モ 同 所 ニ テ ヌ ク ナ リ、 コ ン カ ウ ヲ ハ キ テ 帰 也 ﹂ と み え て い る。 (三)(四)に つ い て、 ﹃ 宇 野 新 蔵 覚 書 ﹄ は、 教 如 の 葬 送 に ﹁ 御 棺 之 上 に 宣 如 様 御 筆 に て 真 相 行 に 御 名 号 三 く だ り 被 遊 候、 七 条 の 御 袈 裟 掛 置 ﹂ と あ り、 棺 蓋 の 名 号 は 必 ず 新 宗 主 が し た た め る 慣 例 と な つ て い る。 国 に つ い て、 ﹃ 実 如 上 人 闇 維 中 陰 録 ﹄ は、 ﹁ 阿 弥 陀 堂 前 ニ テ 輿 ニ 肩 ヲ 入 ル ・ 也、 ソ ノ 相 手 人 数 次 第 ノ 事、 サ キ 飯 貝 殿、 ア ト 若 子 様 ( 中 略 ) 一 家 衆 ハ 人 多 候 間 被 略 候 ﹂ と あ る。 (六)(七)に つ い て ﹃ 蓮 如 葬 礼 次 第 ﹄ は、 ﹁ 大 門 ノ 外 ヨ リ 時 念 仏 始 ル、 外 ノ ク ギ ヌ キ マ デ ア リ、 道 ノ 程 ハ 元 レ 之 蝋 燭 二 十 四 挺 ツ ヽ 立 ラ ル、 六 町 ノ 只 ヨ リ 時 念 仏 始 マ ル ﹂ と あ り、 ﹃ 実 如 上 人 闇 維 中 陰 録 ﹄ に も、 路 念 仏 は 阿 弥 陀 堂 か ら 大 番 屋 ま で と、 町 蝋 燭 の た て ら れ た 道 筋 を 火 屋 ま で 念 仏 一 反 ご と に 鈴 一 丁 ず つ 打 ち つ つ 唱 え た こ と が み え、 町 蝋 燭 は 四 十 八 挺 立 て ら れ た と の べ ( 2) ら れ て い る。 又、 寛 永 七 年 の ﹃ 葬 礼 之 次 第 ﹄ に よ れ ば、 火 屋 の 四 隅 と 葬 場 の 前 卓 の 両 側 に 立 て ら れ る 計 六 本 の 白 蝋 燭 は と く に 六 道 蝋 燭 と 呼 ば れ て い た こ と が み え て い る。 以 上 列 挙 し た 諸 事 例 は、 そ の 内 容 か ら ゼ て あ ら か な ご と く、 い ず れ も 真 宗 の 宗 義 的 立 場 よ り 導 か れ た 儀 礼 で は な く、 宗 派 を 超 越 し て 現 今 の 葬 送 習 俗 一 般 と 密 接 な 関 係 を 持 つ 儀 礼 で あ り、 死 霊 の 鎮 魂 ・ 封 鎖 ・ 鎮 送 ・ 防 邊 と い つ た 我 が 国 固 有 の 霊 魂 観 念 や 触 繊 の 観 念 を 内 容 と す る も の で あ る こ と が 注 意 せ ら れ る。 そ の 他 中 世 本 願 寺 の 葬 送 ・ 中 陰 儀 礼 に は、 死 者 に 対 す る 石 枕 の 使 用、 歴 代 宗 主 の 遺 骸 を 正 装 せ し め 門 信 徒 と 対 面 せ し め る 儀 礼、 中 陰 期 間 に お け る 送 経 の 風 習 な ど 注 意 す べ き も の も 多 い の で あ る。 以 上 の べ き た つ た ご と く、 中 世 本 願 寺 の 歴 代 宗 主 を 中 心 と し た 葬 礼 に お い て、 真 宗 本 来 の 教 義 的 信 仰 的 立 場 が 表 明 せ ら れ て い る と と も に、 個 々 の 儀 礼 の な か に は、 宗 派 的 制 約 を こ え て 現 今 の 葬 送 習 俗 一 般 と 広 い 関 連 を 有 す る 民 俗 的 な 儀 礼 も と り 入 れ ら れ て い る こ と に 気 付 く の で あ る。 そ こ に 中 世 に お け る 民 族 宗 教 と し て の 真 宗 の 一 側 面 を 如 実 に か が う こ と が で き る と と も に、 そ れ が 真 宗 の 地 域 社 会 定 着 に 重 要 な 意 味 を 持 つ た の で は な か ろ う か と 推 察 す る の で あ る。 1 大 谷 大 学 図 書 館 所 蔵 ﹃ 御 葬 礼 実 録 集 ﹄ 所 載。 2 大 谷 大 学 図 書 館 所 蔵。 葬 送 記 に あ ら わ れ た 中 世 の 葬 制 ( 佐 々 木 ) 三 〇 七