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米国における医療保険と第三者機関

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Academic year: 2021

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米国の医療貯蓄口座(HSA)について

福岡 藤乃 Ⅰ.はじめに 現在、日本において、医療費削減を目指した医療制度改革が政治的課題になっているが 医療費の増加問題は世界的な傾向で、我が国だけの問題ではない。特に医療先進国の米国 では、医療費の増加とそれに伴う医療保険の保険料の上昇、無保険者の増加が、大きな社 会問題となっている。医療費削減のため新しく登場した医療貯蓄口座(HSA)について現 状をまとめた。 Ⅱ.医療貯蓄口座(HSA)の登場 米国の医療保険の保険料は2000 年からの過去 5 年で、インフレ率は 14%、賃金上昇率が 15%にもかかわらず、73%上昇した。保険料の上昇は、米国における高齢化や医療技術の 発展による医療費の増加が原因であると言われているが、一方で、雇用主が保険料の大半 を負担して提供している医療保険が、被用者のコスト感覚を麻痺させて無駄な治療を誘発 し、医療費増加させているとも言われている。また、雇用主が医療保険を提供していない 企業に勤める人や、契約社員、個人事業主等は、高額な保険料を自己負担しても税制上の メリットがなく、雇用主が医療保険を提供している場合と税制上の公平性がないという意 見もあった。そこで新たに取り入れられたのが、消費者主導型のヘルスプランである。 (CDHP or CDH :Consumer Directed Health Plan, or Consumer Driven Healthcare) 消費者主導型ヘルスプランには、HSA(Health Saving Account)と HRA(Health Reimbursement Arrangement)の 2 種類があるが、特に 2004 年の 1 月からスタートした HSA は現在、米国政府が主導し、最も注目を浴びているヘルスプランである。

Ⅲ.HSA(Health Saving Account)をめぐる動き

2006 年 1 月 31 日に一般教書の中でブッシュ大統領は、「個人や小企業の従業員が大企業

の従業員と同じ条件で医療保険を買えるようにするためにHSA を強調する」と HSA の促

進について述べている。また2006 年 2 月 6 日の予算教書の中でも「HSA の拡充、HDHP

の購入に対する所得控除・税額控除等」を提案している。HSA は 1997 年から試行プログ

ラムとして実施している医療貯蓄口座Medical Saving Account(以下 MSA)の改良版とし て、2003 年のメディケア法の改定により 2004 年の1月からスタートした。 連邦政府はHSA が医療費高騰を押さえる切り札であるとして、広報活動を行い普及を目 指している。2005 年 9 月に HSA を持っている人は 100 万人だったが、2006 年 1 月にはそ の3 倍の 300 万人以上になった。2010 年までには 2900 万人に達すると政府は予測してい る。 HSA は従来の医療保険と異なり、口座を開設することで、今までに医療保険に算入して

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いなかった銀行などの金融業界からも期待を寄せられている。口座を管理する金融業界で

は 401k(確定拠出年金)や IRA(個人退職年金)と同様に巨額のビジネスチャンスが広

がったという見方が大勢を占めて、何百万もの新規口座と何十億ドルもの運用資産をもた らすと予測し、市場での地位やシェア獲得を狙って多様な戦略を展開し始めている。アメ リカ銀行協会(American bankers association)では、HSA 審議会を設け、ホワイトハウスに 出向くなど頻繁に政治活動を行って、HSA 政策の後押しを行っている。 保険会社では、銀行やHSAの専門会社と提携し、HDHPとHSA口座をセットして、様々 なサービスを付帯するなど、差別化を図っている。2010 年には医療保険料収入全体の約 5% を正味受取利息、運用報酬、手数料収入などが占めると見られるため、保険会社が自前で 銀行設立の動きが始まった1。ブルークロス、ブルーシールドは 2007 年初旬にブルーヘル スケア銀行をソルトレーク市に立ち上げる予定である。 HSA は銀行と保険の統合の動きに拍車をかけ、銀行・保険の双方にとって、大幅な収益 の構造変化をもたらすと考えられている。 Ⅳ.HSA の市場状況 HSA は新しくできたプランで あるが、増加が著しく、2004 年 9月におよそ40 万人だった加入 者は2005 年9月に 100 万人、 2006 年1月に 300 万人に増加し た(図表1参照)。 Ⅴ.HSA のしくみ

HSA(Health Saving Account:医療貯蓄口座)は、個人が医療費の支払いのために開設 する口座で、高額免責医療保険(High-Deductible Health Plan:HDHP)に加入している場

合に開設できる。口座はHDHP の免責金額内または法律で定められた金額まで可能で、利 子も非課税である。この口座から医療費を支出する場合は非課税だか、その他の費用に支 出した場合には税金と10%のペナルティが課税される。HSA は個人の口座なので、退職し ても次の会社へ持ち越すことが可能である(図表2 参照)。 図表1 HSA 加入者の推移 0 5 0 0 , 0 0 0 1 , 0 0 0 , 0 0 0 1 , 5 0 0 , 0 0 0 2 , 0 0 0 , 0 0 0 2 , 5 0 0 , 0 0 0 3 , 0 0 0 , 0 0 0 3 , 5 0 0 , 0 0 0 2 0 0 4 年 9 月 2 0 0 5 年 3 月 2 0 0 6 年 1 月 そ の 他 そ の 他 団 体 大 企 業 中 小 企 業 個 人

出典:AHIP ”January 2006 Census Shows 3.2 Million People Covered By HSA Plans” 図表2 医療貯蓄口座の仕組み 保険対応 HDHP の免責 金額 自 己 負 担 割合 HDHP でカバー HSA の所有者は「いくらお金を入れるか」「医療 費をいくら使用するか」「どの医療費を口座から払う か」「未来のために貯めておくか」「どの会社に口座 を置くか」「どのタイプの投資が口座の資金を増やせ るか」などを自ら考えて口座を運用していくことに なる。 ヘルス口座から支払 自己負担

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口座の資金は、2007 年は個人で 2850 ドル、家族で 5650 ドルの拠出が認められている (年々増額)。口座資金はIRA(個人退職年金)と同様に投資してよい。HSA は 401k(確 定拠出年金)やIRA(個人退職年金)とロールオーバーすることはできないが、HSA の前 身であるMSA からはロールオーバーすることができる。 HSA で支払える費用は、医療保険で対象となる費用より広範囲で、処方箋のない薬局の 薬や、眼鏡・コンタクト、歯医者、針・灸などの費用も口座から支払うことができる。HDHP

の保険料は現在のところ、HSA で対象となっていないが、長期介護保険(Long-term care

insurance)の保険料は対象となる。また HSA の管理者に支払う手数料も対象となる。対 象とならない費用に HSA の資金を使用した場合には、課税の他に 10%のペナルティが課 せられる。 HSA の管理者には、銀行、クレジット会社、保険会社のほか、IRS(内国歳入庁)で認 可された団体やノンバンクがなることができる。HSA の管理専門会社も登場している。管 理者は口座の金額について年 1 回本人に預金金額を通知しなくてはならない。出入金の頻 度や金額について、制限をすることもできる。HSA の管理手数料は、初期開設費用の他、 毎月または毎年の手数料などがあり、投資の種類や利率、サービスも各社様々である。サ ービス内容としては、24 時間 365 日のテレホンバンキングやインターネットバンキング、 月ごとの明細、年末の税金に関する明細の提供の他、疾病予防プログラムを設ける会社と 提携し、各種予防プログラムを提供している。 雇用主はHSA に拠出金を出しても出さなくても良い。拠出金を出した場合には、その拠 出金は総所得不算入であり非課税になる。 HSA で加入が義務づけられている HDHP は、免責金額が個人向けで 1,100 ドル、家族向 けで2,200 ドル以上、自己負担額が個人向けで 5,500 ドル、家族向けで 11,000 ドルを超え ない医療保険をいう。(2007 年現在:毎年金額が上がっている) 免責金額以内であっても、健康診断、スクリーニング、予防接種等の予防サービスについ ては免責金額の対象としてはならず、一部自己負担がある場合もあるが、保険の対象とな る。HDHP は、政府が決めた条件に合致すれば HMO、PPO、FFS などの従来の医療プラ ンを使用できる。 病院に行って実際に医療費が発生した場合には、HSA の管理人から小切手帳やデビット カードが渡されていれば、それで直接口座から支払いすることができる。そのようなもの がない場合には、現金等で支払いし、後日、医療費であることを明らかにして、HSA 口座 から税金を取られずに引き落とすことができる。 支払いに関するサービス内容は様々で、例えばある保険会社の管理するHSA では、HDHP の免責金額以下であっても、病院で何も支払いせずに本人は帰宅できる。請求書は通常の 医療保険と同様に保険会社へ請求され、保険会社では免責金額以内かどうかを判断の上、 免責金額以内であればHSA 口座から、免責金額を超えていれば保険から自動的に支払いを 行い、後日明細を送付してくれる。

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Ⅵ.消費者主導型ヘルスプラン(CDHP)の効果 HSA や HRA などの消費者主導型ヘルスプラン(CDHP) が急速に増えだしているのは、 急速に増大する医療コストに対して、本人がよりコスト意識を持って口座を管理し医療サ ービスを購入することにより、医療費を削減する効果があるのではないかという考えが普 及してきたことにある。普通、我々が商品を購入する際、品質や値段を他と比較して購入 する。それに対して、従来から医療費に関しては、その費用のほとんどを保険や企業が払 うことから、医療サービスを受ける本人にコスト意識がないことが指摘されてきた。消費 者としての意識を医療サービスの選択にも役立て、コスト削減につなげるというのが、 CDHP の期待される効果である。また一方、医療サービスを提供する側も、低コストで質 の高いサービス・商品・情報を提供しなくてはならなくなり、医療機関の競争を促すと期 待されている。また、CDHP の割合が高まれば、医療機関における費用の収受が単純化さ れ、医療機関のコスト削減にも効果があると考えられている。

AHIP(America’s Health Insurance Plans)によれば、CDHP への加入者は、従来の医

療保険加入者に比べて消費者意識が高い。例えば、CDHP 加入者の 33%が処方薬の値段に ついて情報を求めるが、従来の医療保険加入者では18%である。 またエトナ社では、HDHP に加入している 160 万人について調査した結果、3年間で 1000 人につき100 万ドルのコスト削減が達成できたという結果を公表した。また HRA に加入し ている人は3 年間で保険請求が 6.7%で、通常の PPO のプランの 8.7%より低く、一方で、 慢性疾患の管理や予防、ジェネリック薬の使用などは、PPO プランより高い割合を示した としている。また個人市場では HSA を購入した加入者のうちの 31%が、以前が無保険者 だったことから、HSA の普及は無保険者を削減することにも期待がかかっている。 一方で、CDHP の加入者が出費を抑えるあまり、必要な治療を受けないことが、従来の プラン加入者より多く、特にこの傾向が所得の少ない人や病気になっている人に多いとい う報告もある。またCDHP の加入者は、低コストで効果的な医療サービスを選択するため の情報が不足しているため、従来の医療保険より満足度が低いという報告がある。エトナ 社では、医療機関との間で契約している病院の医療サービスの価格と医療の質の情報を提 供するサービスを加入者向けに開始した。CDHP を活用していく上では、他の財・サービ スと同様に病院の治療の質と価格を比較できなければならない。そのためには、医療費、 および病院の治療内容や成績の透明性、および患者に対する消費者教育が重要である。医 療機関を質や価格で比較することができるようになれば、加入者による医療機関の選択が 厳しくなっていくだろう。

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Ⅶ.おわりに HSA がうまくいくかどうかのキーワードは「消費者」にある。医療費をいつ、どこで、 どのように消費するかを意識して医療サービスを受けることができるかという点では、消 費者に医療サービスについての十分な情報と教育が必要と考えられる。しかし、病院の質 やコストの情報はまだ十分ではなく、教育にも時間がかかることを考えると、米国政府が 考えるような効果を見極めるのは、しばらく先のことになるであろう。今後、予想される HSA の急速な普及が、本当に米国の医療保険に理想的な競争原理を持込むことができるの か、どのような効果をもたらすのか注目されるところである。 [脚注] 1 銀行は医療保険については販売することができないし、医療保険会社のオーナーになることもできない が、医療保険会社は銀行を所有することができる。 [参考文献] ・ ハンク・マッキンネル 2006「未来との約束」ダイヤモンド社 ・ レジナ・E・ヘルツリンガー 2000「医療サービス市場の勝者」シュプリンガー・フェアラーク東京 ・ AHIP 2006 “HSAs and Account-Based Health Plans”

・ National Conference of State Legislatures “HSAs-Health Savings Accounts and the States, 2006” http://www.ncsl.org/programs/health/hsa.htm

・ U.S. Treasury Department 2005 “All About HSAs” ・ GAO 2006 “Consumer-Directed Health Plans”

・ White House 2006 “Fact Sheet: Health Savings Accounts: Affordable and Accessible Health Care” http://www.whitehouse.gov/news/releases/2006/04/print/

・ Office of Personnel Management 2006 “High Deductible Health Plans(HDHP) with Health Savings Accounts(HSA) Worksheet

http://opm.gov./hsa/worksheet.asp

・ IRS 2005 “Publication 502 Medical and Dental Expenses”

・ Deloitte 2006 “Reducing Corporate Health Care Costs 2006 Survey”

・ Commonwealth Fund 2005 “Early Experience with High Deductible and Consumer-Driven Health Plans: Findings From EBRI”

・ McKinsey& Company 2005 “Consumer-Directed Health Plan Report-Early Evidence is Promising” ・ ABA 2006 “HSA Council” http://www.aba.com/aba/hsacouncil.htm

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