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<活動記録><教育事業>2018年度先端社会研究所リサ ーチコンペ

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<活動記録><教育事業>2018年度先端社会研究所リサ ーチコンペ

著者 鈴木 謙介, 李 慶姫, 中村 早希, 濱田 愛海夏

雑誌名 関西学院大学先端社会研究所紀要

号 16

ページ 127‑140

発行年 2019‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10236/00027689

(2)

! 活動記録 !

◆ 教育事業 ◆

2018 年度先端社会研究所リサーチコンペ

【募 集 期 間】:2018年5月7日(月)〜5月28日(月)

【リサーチコンペウィーク】:2018年6月11日(月)〜16日(土)

【プレゼンテーション審査会】:2018年6月16日(土)

関西学院大学西宮上ケ原キャンパス先端社会研究所セミナールーム

◆開催の趣旨/リサーチコンペを振り返って

鈴木 謙介(先端社会研究所副所長)

2010年度より毎年開催している先端社会研究所リサーチコンペは、複数の申請課題から研究助 成を行うものを選考する競争的事業である。学内の研究科に所属する大学院生もしくは研究員であ ることを応募資格とし、先端社会研究所が取り組む「大学院教育支援事業」の一環として、全研究 科大学院生・研究員を対象に、本研究所のテーマである「文化的多様性を尊重する社会の構築をめ ざした、社会調査を基軸とする先端的な研究」を理解し、将来それに貢献することが期待される

「優れた先端的な研究」を募集・採択することがリサーチコンペの趣旨である。

申請された課題は、書類審査において①先端性、②親和性、③計画性の三点から審査され、選考 を通過したものがプレゼンテーション審査へと進む。公開プレゼンテーションにおいては審査員よ り質疑が行われ、採択課題が決定される。今年度の応募は8件であり、採択実績などを加味して審 査した結果、プレゼンテーション審査へと進んだのは7件であった。

プレゼンテーション審査では、本研究所のテーマである「文化的多様性を尊重する社会の構築」

に資する研究であるかどうか、また、社会調査を基軸とした先端的な研究であるかどうかが中心的 なポイントとなった。上記の点に加え、今後の研究の展望まで含めて慎重に審査を行った結果、プ レゼンテーションに進んだ7件のうち、4件を採用することが決定された。以下、それぞれの申請 時における概要と審査員から出た意見について記しておきたい。

人間福祉研究科博士課程前期課程2年の李慶姫による「スクールソーシャルワーカーにおける外 国につながる子どもへの支援と課題−多様性尊重に基づいたソーシャルワークの視座導入を目指し て−」は、日本の公立学校で学ぶ多様な文化的背景もつ子どもが増加する中、その役割の重要性が 増しているスクールソーシャルワーカー(SSW)を対象とした研究である。今後のSSWによる支 援のあり方を検討していくための基礎研究として、外国につながる子どもへの支援実態、および多 様性尊重に基づいたソーシャルワーク実践において必要な視点や力量を明らかにすることを目的と している。問題点の探索が目的となる研究の先端性については評価されたものの、申請者の当事者 的な視点が強すぎるのではないかという指摘もなされた。

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人間福祉研究科博士課程後期課程1年の赤田ちづるによる「事故・災害等で大切な家族を突然に 亡くした遺族が死者の生きた証を伝承する活動に関する調査−NPO法人いのちのミュージアムが 中学校で取り組む「いのちの授業」の及ぼす効果測定−」は、事故・災害等によって大切な人を突 然に亡くした遺族の「死者の生きた証を伝承する活動」のひとつである「教育現場におけるいのち の授業」に着目し、その授業が中学生の自尊感情やいのちの尊さを育む教育に及ぼす効果を測るこ とを目的とした研究である。調査対象となる学校との連携が進んでいる点について計画性が評価さ れたものの、客観的、批判的な視点での研究がなされない可能性について審査員から指摘があっ た。

文学研究科博士課程後期課程3年の中村早希による「説得の2過程モデルの複数源泉・複数方向 の説得状況への適用−唱導方向が対立するパターンに着目して−」は、ある政策や方針について賛 成と反対の立場を持つ両者から同時に説得を受ける状況に注目し、この状況における説得の受容プ ロセスに説得の2過程モデルが適用可能であるかどうかを検証する研究である。既に研究の計画が 進んでいることについては評価されたものの、本研究だけで新たな学問的成果が得られるのかどう かについて疑問の声もあった。

人間福祉研究科博士課程前期課程2年の濱田愛海夏による「マインドフルネスプログラムの評価

研究:Rossiらの評価モデルを踏まえて」は、Rossiの評価モデルをもとに矯正教育におけるマイン

ドフルネスプログラムの効果を実証的に検証する研究である。マインドフルネスとは、「独特の方 法で注意を払うこと。意図的に、その瞬間に、判断せずに」と定義される。具体的には、あるがま まに今この瞬間に意識を向けていく方法として、ガイドを用いた呼吸瞑想やマインドフルヨーガな どが挙げられる。審査員からは、対象者との関係にセンシティブな部分があるため、倫理規定に則 るだけでなく、調査者自身の姿勢も問われるのではないかという指摘があった。

以上が本年度のリサーチコンペで採択された申請課題の概要とそれに対する意見・講評である。

今年度の特徴としては、複数の研究科、幅広い分野からの応募があったことが挙げられる。審査に おいても、分野や内容によって偏りが出ることのないよう公平を期したが、今後、より審査基準を 明確にする必要があると感じた。

以下は、採択課題の研究計画要旨および中間報告である。

◆採択された研究計画書要旨/中間報告

◎スクールソーシャルワーカーにおける外国につながる子どもへの支援と課題

−多様性尊重に基づいたソーシャルワークの視座導入を目指して−

李 慶姫(人間福祉研究科)

本研究ではスクールソーシャルワーカー(以下SSW)における外国につながる子どもへの支援 のあり方を検討していくための基礎研究として、① 外国につながる子どもへのスクールソーシャ ルワーク実践状況と課題、② 支援においてSSWに求められる視点や力量を明らかにすることを

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目的としている。中間報告では研究の概要および調査の進捗状況について報告する。

1.研究の概要

1-1 外国につながる子ども

「日本人と外国人」という枠では説明できない、多様な文化背景をもった子どもたちが増加して いる。親に随伴して日本に「移動」してきたばかりの子どももいれば、国際結婚による多文化家庭 の子ども、外国人の親をもつ「日本で生まれ育った」子どももいる。背景の多様化に伴い国籍・言 語・容貌・アイデンティティの不一致も多い。公立学校在籍の「日本語指導が必要な子ども」は4 万人を超えているが、そのうちの30% は日本国籍者である(文部科学省2016)。ここからも子ど もたちを一括りでは捉えきれない現状が見てとれる。国籍での区分けは子どもの実態を見失うおそ れもあると考え、本研究では国籍に関係なく両親または親の一方が外国にルーツがあり、多様な言 語や文化、価値観の中で育ってきた子どもに対して「外国につながる子ども」という呼称を用いる。

1-2 外国につながる子どもと学校教育

文部科学省では日本語指導を中心とした施策を順次講じてきてはいる。しかし子どもたちの課題 は言葉だけではない。多くの外国人が直面している生活の基盤となる職や住居の不安定さは、子ど もたちに大きな影響を与える。生活の脆弱さは「モノ」の不足だけでなく、安定した親子の関わり や多様な体験の機会を失うことにもつながる。また、不安定な生活による親の精神的リスクが子ど もへの虐待にも影響すると報告されている(子どもの貧困白書編集委員会2009)。

一方、外国人の定住化が進み世代を重ねる中で、言葉や日本の文化理解に何ら問題はなく、生活 基盤も整い、学校に適応していると見受けられる子どもたちもいる。しかしその多くは「アイデン ティティのゆらぎ」の問題に直面する。同化圧力が強く異質なものを排除しがちな学校教育の場で は、多文化背景をもつことが強みではなく隠すべき弱みであるという負の学びにつながる場面が 多々ある。また差別意識による偏見だけではなく、無関心や知識不足から生じる周囲の言動の積み 重なりは、子どもたち自身の自己否定にもつながる。

このような様ざまな要因は子どもたちの不安の増長と自己肯定感低下をもたらし、それは問題行 動(と学校が捉えている行動)や不登校という形で表れることが多い(江原2000、宮島2014)。こ れら多岐にわたる課題は学校だけで解決することは難しく、子どもに関わる人や機関との連携が必 要であり、また課題の背後にある組織的・社会的な問題やニーズを捉え権利擁護のために働きかけ ていく必要があると考える。

1-3 SSWにおける外国につながる子ども支援の必要性と現状

スクールソーシャルワーク活動は学校を基盤として子どもの最善の利益を目的とし支援活動を行 う専門職である(山下2008)。子どもたちの学校生活で生じる問題とその背景にある環境との関係 性をアセスメントし、人と人、人と制度などをつなぎながら環境調整を行い、子どもの教育権保障 と生活環境の改善を目指している(金澤ら2016)

20世紀初頭の米国での貧困や児童労働により教育を受けられない子どもたちを援助するための 先端社会研究所 活動記録

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活動が起源とされているが、今ではアジア諸国を含む多くの国々で取り入れられている。日本では 1990年前後から数拠点で活動が展開され、2008年の文部科学省事業化に伴い全国に広がっていっ た。萌芽期といえる日本のスクールソーシャルワーク活動であるが、外国につながる子どもの支援 に関わる必要性について指摘されている(南野・川廷2009、石河2012)。大塚(2017)はSSWに とって最も重要な役割は子どものアドボカシーだと述べている。多くの国際条約等では「子どもの 教育権保障」について定められているが、日本においても様ざまな要因から適切な学びの機会を得 られない子どもがいる。外国につながる子どもを含む「全ての子ども」のアドボケーターとなるこ とは、SSWの果たすべき役割であると考える。

以上のような支援におけるSSWの役割についての理解とともに、活動展開において文化的背景 の異なる対象者へのソーシャルワーク実践に必要な視点や力量について考えていく必要がある。

2.調査の進捗状況

外国につながる子ども支援へのSSWの積極的な関わりが求められているが、まだ歴史が浅い日 本のスクールソーシャルワークの理論的・実践的研究は多くはなく、その中でも外国につながる子 ども支援に関する研究はほとんどない。文部科学省のSSW支援状況に関する各種公的データに も、外国につながる子どもに関するものは含まれていない。具体的な支援の方向性を議論するにあ たって、実態を踏まえたうえでの現状と課題を明らかにする必要性がある。そこでSSWにおける 外国につながる子ども支援の状況と課題の把握、および支援に必要な視点や力量を検討するため、

ミックス調査法を用いて「インタビュー調査」と「質問紙調査」を実施した。

2-1 インタビュー調査

外国につながる子ども支援の経験があるSSW 3名を対象にフォーカスグループインタビューを 実施した。質問内容として調査協力者の属性、外国につながる子どもへの支援プロセスと支援上の 課題や自分自身が影響を受けたことを設定した。また、多文化理解を深めるうえで影響を受けた出 会いや経験についても意見を求めた。調査で得られたデータを分析した結果、20の小カテゴリー が見いだされた。それらを6つの中カテゴリーに分類し、最終的に3つの大カテゴリーにまとめた

(表1)。

2-2 質問紙調査

中部・近畿地域で活動するSSWを対象に質問紙調査を実施した。

質問項目は①SSWの外国につながる子どもへの支援状況と課題 ②Cultural Competence尺度

③SSW自身の多文化経験や多文化支援に関する学習経験 ④ソーシャルワーク価値に基づく実践 度についてである。配布はSSW活用事業を実施している教育委員会担当者やSSWスーパーバイ ザー宛てに「依頼文・調査票と返信封筒」を郵送しSSWに配布してもらう、あるいは関係性があ るSSWに調査協力を依頼する方法を用いた。どちらの場合も質問紙の回収はSSW個人から直接 返送してもらった。実施期間は2018年8月〜10月であり、配布数269通のうち115名から回答が あった。(回収率43%)

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2-3 今後の予定

質問紙調査に関しては単純集計を終え分析に入る段階であり、インタビュー調査は引き続き分析 を行っている。文献研究および調査結果をもとに日本の学校における外国につながる子どもの現状 と課題を浮き彫りにしたうえで、SSWにおける支援のあり方を示していきたい。また、本研究で は多様性の一つである民族・文化的背景をもつ子どもたちについて取り上げているが、様ざまな

「多様性」尊重のソーシャルワーク実践に向けた提言を行いたい。

参考文献

石河久美子(2012)『多文化ソーシャルワークの理論と実践 外国人支援者に求められるスキルと役割』明石 書店.

江原武一(2000)『多文化教育の国際比較』玉川大学出版部.

大塚美和子(2017)「スクールソーシャルワークの実践展開(3)子どものアドボカシー」『ソーシャルワーク 研究』43(3);54­57.

金沢ますみ・奥村賢一・郭理恵・野尻紀恵編(2016)『スクールソーシャルワーカー実務テキスト』学事出版.

子どもの貧困白書編集委員会編(2009)『子どもの貧困白書』明石書店.

南野奈津子・川廷宗之(2009)「多文化背景を持つ児童の就学問題とスクールソーシャルワーカーの役割に関 する基礎研究」『大妻女子大学人間関係学部紀要』11; 145­158.

1 インタビュー分析結果

大カテゴリー 中カテゴリー 小カテゴリー

外国につながる子どもと 子どもを取巻く現状と課題

子どもの困り感と その背景への理解

生活課題 発達課題

言葉と揺れ動くアイデンティティ 親子の関係性

親が抱える しんどさと葛藤

多忙な日々

コミュニティとの軋轢

異文化での子育て不安と価値観の相違

試行錯誤を重ねる学校

地域性を知る

多様な文化を受け入れた学校作り 子どもへの向き合い

疲弊する教職員 外国につながる

子どもとSSW SSWの実践状況

子どもへの働きかけ 家庭への働きかけ 学校への働きかけ

多様性を尊重した スクールソーシャルワーク

実践に向けて

多文化理解と多文化経験 固定観念への気づきと無自覚 多文化理解を深めるために

多文化ソーシャルワーク のあり方

社会資源の開発と連携 個別性の視点

社会変化に対して敏感に ソーシャルワークの価値 先端社会研究所 活動記録

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宮島喬(2014)『外国人の子どもの教育』東京大学出版会.

文部科学省(2016)「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」

山下英三郎(2009)「社会福祉 スクールソーシャルワーク実践における課題(上)」『月刊福祉』92(3);54- 57.

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◎説得の

2

過程モデルの複数源泉・複数方向の説得状況への適用

−唱導方向が対立するパターンに注目して−

中村 早希(文学研究科)

1.研究計画概要

本研究は、ある政策や方針について賛成と反対の立場を持つ両者から同時に説得を受ける状況に 注目し、この状況における説得の受容プロセスに、説得の2過程モデルが適用可能であるかどうか を検証するものである。

説得の2過程モデルは、説得の受容プロセスに関する主要なモデルである。しかしこのモデル は、ある1人の説得者がある1つの方向に説得する状況を想定しており、日常生活でよくみられ る、複数の説得者がそれぞれ対立する方向に説得を行う状況を考慮していない。本研究では、この 状況での説得の受容プロセスに対して、既存の説得の2過程モデルを展開するアプローチを試み る。つまり、説得の2過程モデルがこの状況でも適用可能であるかどうかを押さえた上で、説得の 2過程モデルにこの状況の特徴を組み込んだ、新しい説得の受容プロセスモデルを提案する。

本研究は、意見の異なる複数の説得者が存在する状況に注目することによって、説得の2過程モ デルを発展させ、その適用範囲をより一般性の高い状況へと拡大するものである。文化的背景の異 なる意見を受容する際のプロセスの説明といった点でも、本研究のモデルは、文化的多様性の理解 に貢献できるだろう。

2.中間報告

私たちは日常生活の中で、ある政策や方針について賛成と反対の両者の立場から説得を受けるこ とがある。本研究では、こうした複数の説得者がそれぞれ異なる唱導方向に説得を行う状況(これ

関西学院大学 先端社会研究所紀要 第16号

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を「複数源泉・複数方向の説得状況」という)に注目し、この状況における説得の受容プロセスの 解明の第一段階として、説得の2過程モデルの適用可能性について検討する。

説得的コミュニケーション研究は、社会心理学におけるメイントピックの1つである。ここでの

「説得」というのは、送り手(説得者)が受け手の行動や価値観をある方向へ変えようとする意図 を持ったコミュニケーションを行い、そして受け手がそのコミュニケーションに応じるかどうかを 意思決定する、といった状況のことを指す。これまでに、どのようなコミュニケーションが効果的 であるかに関する検討や、送り手のコミュニケーションをどのように受容あるいは拒否するかを説 明するモデルの提案がなされてきた(cf. 深田,2002)。本研究が注目するのは、後者の説得的コミ ュニケーションの受容プロセス(態度変容プロセス)に関するものである。

態度変容プロセスに関する主要な理論として、1980年代に登場した説得の2過程モデル(Chen

& Chaiken 1999;Petty & Cacioppo 1986)がある。これは、説得による受け手の態度変容プロセス を2つに分けて説明するモデルである1)。1つはヒューリスティック処理といい、「仲間の言うこと だから信じる」というように、メッセージ内容についての詳細な処理をせず、説得の可否の判断に 簡単に利用できる情報(これを「ヒューリスティック手がかり」という)をベースにした判断プロ セスである。もう1つは、システマティック処理といい、メッセージの内容の良し悪し(これを

「論拠の質」という)を重視した判断プロセスである。説得を受ける際に、正確に内容を知ろうと する動機づけがあり、なおかつ、情報を精査するだけの十分な認知資源があれば、システマティッ ク処理が優勢になるという。

しかし、説得の2過程モデルは、1人の説得者がある方向へ1回説得を行う状況を設定してお り、複数人から異なる唱導方向に説得される状況を考慮していない。選挙や商品選択など、現実に は複数源泉・複数方向の説得状況が頻繁にあるにも関わらず、説得の順序効果の研究(e.g., Haugt- vedt & Wegener, 1994)の文脈以外では、ほとんど注意が向けられてこなかった。そのため現状に おいては、説得の2過程モデルがこの状況に適用できるかどうかさえも確認されていない。こうし た現状に対し、中村・三浦(2018)は、説得的コミュニケーションに関する先行研究のレビューか ら、複数源泉・複数方向の説得状況に特有なプロセスによって、説得の受容度合いが異なる可能性 を指摘している。複数源泉・複数方向の説得状況における態度変容プロセスを解明するには、まず その基盤として説得の2過程モデルが適用できるかどうかを確認し、その上で、この状況特有のプ ロセスと2過程モデルとの関連を実証する必要がある。

ただ一つ、中村・三浦(2019;印刷中)は、複数源泉・複数方向の説得状況における態度変容プ ロセスの根幹に、説得の2過程モデルが適用可能であることを示した。この研究では、複数源泉・

複数方向の説得状況として、異なる政策を訴える2名の候補者が出馬する選挙場面が設定された。

──────────────

1)説得の2過程モデルは、説得の受容プロセスを2つに区別して説明するモデルの総称で、その代表的なも のに、Chen & Chaiken(1999)によるヒューリスティック−システマティックモデルや、Petty & Cacioppo

(1986)の精査可能性モデルがある。本研究の範囲(動機づけや認知資源の量に応じて、2つの特徴的なプ ロセスに区別して説明できるかどうかという点)では、どちらのモデルでも解釈可能であることから、モ デルについて言及する際は、「説得の2過程モデル」と呼び、2つの処理について言及する際は、ヒューリ スティック−システマティックモデルにならい、「ヒューリスティック処理」と「システマティック処理」

と呼ぶことにする。

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候補者2名の政策を読ませる際に、参加者の動機づけを高く維持したまま、認知資源を制限する操 作を施すことによって、その処理に応じた態度が形成されるかどうかを検証した。その結果、認知 資源が不足している場合には、ヒューリスティック手がかりに応じた態度が形成され、認知資源が 十分に存在する場合には、論拠の質に応じた態度が形成された。つまり、説得の2過程モデルで仮 定されている2つの処理の特徴と一致した態度が形成された。

しかし、中村・三浦(2019;印刷中)が設定した状況での「複数方向」というのは、特定の政策 に関する論点の差異で操作されており、唱導方向が対立している(政策への賛否が分かれている)

わけではなかった。そこで本研究では、唱導方向が対立している状況を設定し、この状況において も説得の2過程モデルが適用できるかどうかを確認する。具体的には、中村・三浦(2019;印刷 中)と同じく、説得の受け手の動機づけ、あるいは、認知資源を操作して、ヒューリスティック処 理とシステマティック処理の2つのうちいずれか一方がなされやすい状況を設定し、それぞれの処 理に応じた説得の受容が見られるかどうかを確認する。言い換えると、動機づけが低い、あるいは 認知資源が少ない場合には、ヒューリスティクスを用いた判断がなされ、動機づけが高い、あるい は認知資源が豊富な場合には、論拠の質をベースにした処理がなされるかどうかを確認する。

現在、これから実験を実施するにあたって、実験プログラムを作成中である。操作が適切になさ れているかどうかを確認するための予備実験を終え、これから本実験を開始する予定である。

引用文献

Chen, S. & Chaiken, S.(1999). The heuristic-systematic model in its broader context. In S. Chaiken & Y. Trope

(Eds.),Dual-process theories in social psychology(pp.73-96). New York : Guilford Press.

深田博己(編)説得心理学ハンドブック──説得コミュニケーション研究の最前線── 北大路書房

Haugtvedt, C. P., & Wegener, D. T.(1994). Message order effects in persuasion : An Attitude strength perspective.

Journal of Consumer Research,21, 205-218.

中村早希・三浦麻子(2018).説得の2過程モデルの複数源泉・複数方向状況への適用.心理学評論,61, 157- 168.

中村早希・三浦麻子(2019;印刷中).2者から異なる方向に説得される状況での被説得者の認知資源と態度変 容プロセスの関連の検討 社会心理学研究,34.

Petty, R. E. & Cacioopo, J. T.(1986).Communication and persuasion : Central and peripheral routes to attitude change.New York : Springer-Verlag.

◎マインドフルネスプログラムの評価研究:Rossiらの評価モデルを踏まえて

濱田愛海夏(人間福祉研究科)

1.研究背景

現在マインドフルネスは、教育、医療、ビジネス、福祉など様々な領域で注目を浴びている。矯 正教育の分野も例外ではなく、2013年に女子少年院在院者の問題特性に応じた支援として、マイ ンドフルネスが全在院者を対象とする基本プログラムとして導入されることとなった。

マインドフルネスとは「独特の方法で注意を払うこと。意図的に、その瞬間に、判断せずに。」

関西学院大学 先端社会研究所紀要 第16号

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と定義されている(Kabat Zin, 1994)。具体的には、あるがままに今この瞬間に意識を向けていく 方法として、ガイドを用いた呼吸瞑想やマインドフルヨーガなどが挙げられる。瞑想やヨーガを含 むマインドフルネスは、非行少年に対しても効果が実証されてきた(Leonard et al., 2013)。

しかし、日本において女子少年院在院者に対するマインドフルネスプログラムの効果を示した研 究は非常に限られている。日本で唯一女子少年院におけるマインドフルネスプログラムの研究を実 施した吉村(2016)は、質的分析を用いてマインドフルネスの効果とリスクを明らかにしたが、そ の効果が在院者の更生に必要とされる課題の克服に繋がるのかという点については述べていない。

さらに、海外の非行少年に対するマインドフルネスプログラムの研究においては、男子少年を対象 にしたマインドフルネスの効果検証が主で、女子少年を対象にした研究は行われていない。そのた め、現状の男子少年に取り入れられているプログラムをどのように改善すれば、より効果的なプロ グラムになるのかは明らかになっていない。そのため、本研究ではプログラム改善を目的としたプ ログラム評価の枠組みを用いて「女子少年院のマインドフルネスプログラムが、少年たちの更生に 必要とされる課題の克服に貢献しうるプログラム内容となっているのか」を明らかにすることを目 的とする。

プログラム評価は、①ニーズアセスメント、②プログラム理論アセスメント、③プログラムプロ セスアセスメント、④プログラムアウトカムアセスメント、⑤プログラムの費用と効率のアセスメ ントの五つに分けられる(Rossi et al., 2005)。また、プログラム評価は、プログラムの効果などの エビデンス、特に定量的指標が示され、科学的根拠に沿った形で評価が行われる総括的評価とプロ グラムの改善に特化し、形式にとらわれない形で実施される形成的評価の二つに分けられる(安 田,2008)。Rossi et al.(2005)は、プログラムの改善に特化した形式的評価では、プログラムニー ズ評価や、プログラム理論評価、さらにプログラムプロセス評価のアプローチが適していると述べ ている。本研究においてはプログラムの改善に向けた提言を行う事を目的としているため、第一段 階目のプログラムニーズアセスメント、第二段階目のプログラム理論アセスメント、第三段階目の プログラムプロセス評価までを実施することとなった。

2.中間報告

本研究はプログラム評価のプロセスに沿って行っている。以下では各段階における研究の手続き と現在の進行状況について記述する。

2-1 ニーズアセスメント

Rossi(2005)は、「ニーズアセスメントを行うプログラム評価者にとって必須の作業は、主要な 利害関係者にかかわる「問題」をできる限り丁寧に、客観的に、そしてできる限りすべてのグルー プに意味があるように記述し、そうした診断作業から効果的な介入方法の構築に関して示唆が得ら れるようにすることと」と述べている。そして、診断作業には、1.問題の正確な定義を構築する こと、2.問題の範囲をアセスメントすること、3.介入の標的集団を定義し同定すること、4.集 団のサービスへのニーズの性質を正確に記述することが含められる。

本研究では、上記の四つを明らかにすることを目的とし、法務省が発表している文書を中心に文

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献検討を行い、少年の課題を特定し、関連する文献を用いて考察を行った。文献検討の結果、少年 の課題として「人に対する思いやりや人の痛みに対する理解力、想像力にかける」、「自分の感情を コントロールできない」、「その場の好き嫌いなど感覚、感情で物事を判断する」の三つが課題とし て挙げられ、これらの課題の背景には虐待や暴力などのトラウマが関係していることが明らかにな った。

2-2 プログラム理論アセスメント

プログラム理論アセスメントのおいては、まず実施されているプログラムのプログラム理論を詳 細に記述することが求められ、その後プログラム理論の妥当性を検証するためのアセスメントが行 われる。Rossi et al.(2005)は、アセスメントの一つの手法として、研究や実践との比較によるア セスメントを挙げている。そのため、本研究においても、まずは先行研究やニーズ評価からマイン ドフルネスプログラムに求められるインパクトと組織計画、サービス利用計画の仮説を立て、その 仮説をもとに実際のマインドフルネスプログラムの実践内容の評価を行う。現在は関係者に対する インタビューデータの分析が終了し、考察を深めている。

2-3 プログラムプロセスアセスメント

プログラムプロセスアセスメントでは、数回から十数回にわたるさまざまなメニューやセッショ ンを通じて、徐々にその効果が現れてくる利用者の変化・変容を簡単にしかし体系的に査定するア ウトカムモニタリングが実施される。本研究においても、アウトカムモニタリングの視点から女子 少年院在院者がマインドフルネスの体験を記載した記録表のテキストデータと女子少年院在院者の インタビューデータの質的分析を行い、少年の大まかな変化過程をつかむことを目的としている。

現在、佐藤(2008)による質的分析法を軸にMAXQDAを用いて質的データ分析を行っている。

今後は、プログラムプロセスアセスメントにおける質的分析を進め、考察を深めていく予定であ る。

参考文献

Jon Kabat Zinn(1994),Wherever you go, there you are, Partrica van der Leun Literary(=2012,田中麻里訳『マ インドフルネスを始めたいあなたへ』株式会社星和書店)

Noelle R. Leonard, Amishi P. Jha. Bethany Casarjiam, Merissa Goolsarran, Cristina Garcia, Charles M. Cleland, Marya V. Gwadz, Zohar Massey(2013), Mindfulness training improves attentional task Performance in incarcerated youth : a group randomized controlled intervention trial ,frontiers in psychology,vol.4, p. article 792

Rossi, Peter H., Reeman, Howard E., and Lipsey, Mark W.,(1999)Evaluation : a systematic approach,7th ed., Sage Publications(=2005,大島巌,平岡公一,森俊夫,元永拓郎訳『プログラム評価の理論と方法』株式会社 日本評論社)

安田節之(2011),『プログラム評価−対人・コミュニティ援助の質を高めるために』,株式会社新曜社 吉村仁(2016),「女子少年院におけるマインドフルネスプログラムの効果およびリスクについての質的研

究」,『マインドフルネス研究』,vol.1, p.25-36

佐藤郁也(2008),『質的データ分析法 原理・方法・実践』,株式会社新曜社 関西学院大学 先端社会研究所紀要 第16号

参照

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