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D 高速道路

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Academic year: 2022

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(1)

事例にみる動的シミュレーション利用の合理性* 

Rationality of Traffic Simulation Against Static Assignment for the Application to Regional-Scale Network*

 

堀口良太** 

By Ryota HORIGUCHI**

   

1.はじめに   

 本稿は,大規模なネットワークにおける道路交通 施策の評価に動的なシミュレーションを利用するこ との,静的配分利用に対する合理性を,実際の適用 事例を通して示した上で,各種施策の便益評価には 動的シミュレーションを利用すべきであることを主 張するものである. 

 近年では,道路整備や各種の渋滞緩和策の効果を 事前に予測し,当該事業の費用対効果を評価するこ とが求められ,その具体的な手順が「費用便益分析 マニュアル 1)」として整備されている.その際,路 線の交通量を推計する手法として,日単位の交通量 に対して,Q‑V 式等でリンク交通特性を仮定した均 衡配分を利用することが推奨されており 2),実務で はごく一般的に静的配分手法が適用されている. 

 しかしながら,日交通量の静的配分の結果求めら れるリンク旅行速度をもとにして便益を求めたり,

あるいは日単位で平均化された交通状況を前提とし た交通量を予測したりすることには,次のような疑 問が指摘される.すなわち,渋滞は道路容量を一時 的に超える需要が発生するために生じる,時間的に 変化する現象として本来とらえられるべきであり,

社会的な損失や,利用者の交通行動も,その変化の 影響を受けているといえる.現象の時間的な変動を 一切考慮しない日単位の静的配分に,果たして便宜 的なもの以上の意義があるのか,というものである. 

 一方,静的配分と対比される動的シミュレーショ ンの利用のされ方を見ると,比較的局所には一般的 に適用されるようになってきた 3)ものの,大規模ネ

ットワークへの適用は,まだまだ静的配分に取って 替わるほど一般的ではないのが現状である.とはい え,筆者を含め,交通シミュレーションの利用促進 に取り組んでいる技術者は,近年の計算機能力の向 上や,データ収集技術の進展により,大規模ネット ワークでも十分に実用的な水準にあると認識してい る.現在は,実務者にその合理性,優位性を認知し てもらう 4)と同時に,使いやすいツールやデータ利 用環境を整備していくべき段階5)にあると考える. 

 これまでにも,静的配分で行われていた東京都心 部へのロードプライシング導入の効果試算 6)を動的 シミュレーションで行った事例 7)8)などが報告され ているが,実施者が違ったり,条件が複雑なため完 全に同じ前提で実施できなかったりしたため,両者 の結果を直接比較はしていない.このため,実務者 に動的シミュレーションの優位性を伝えるという点 では,難解さがあることは否めない. 

 このような論旨をふまえ,以降では,動的シミュ レーションと静的配分との違いをわかりやすく示す ことができる事例を選び,シミュレーションの適用 手順を解説する.また,本稿の最後で,静的配分と 動的シミュレーションの今後のあり方を考察する. 

 

2.動的シミュレーションによる交通需要推計事例   

(1)目的と対象ネットワーク 

 この事例は,図−1に示す高速道路と一般道から 構成されるネットワークにおいて,高速道路の通行 料金を割引した場合に予想される,一般道関連交通 の高速道路への転換交通量を交通シミュレーション により推計することを目的とする. 

 ネットワークは約40km×10kmに広がり,高速道路 と国道,およびA〜Dの4つの主要ICへの接続道路で 構成されている.リンク数は方向別に350本で,総

* キーワーズ:動的交通シミュレーション,大規模 ネットワーク,均衡配分,静的配分 

**正員,工博,(株)アイ・トランスポート・ラボ,

〒162‑0824 東京都新宿区揚場町 2‑12‑404,TEL 03‑

5261‑3077,E‑mail horiguchi@i‑transportlab.jp 

(2)

延長は約500kmである.シミュレーションでは,車 線数などのリンク容量に影響する属性データも必要 となるため,市販のデジタル道路地図をデータソー スとして利用した. 

 従来,実務においては,静的配分モデルでこのよ うな料金施策の評価を実施していたが,日単位の交 通量しか扱わず,かつ渋滞現象を明示的に扱うこと ができない限界がある.例えば通行料金を割り引く 場合,ピーク時間帯に一般道から過大な交通量が転 換するために,高速道路の合流部やトンネルなどの ボトルネックで渋滞が発生し,その結果,転換が抑 制されるといったメカニズムを考慮できない.従っ て,この事例では,動的な交通シミュレーションで あるSOUND/4U9)を利用して,渋滞が運転者の経路選 択行動に反映することを考慮した評価を行う. 

 

(2)OD交通量の設定と現況再現 

 交通流シミュレーションによる検討では,入力デ ータとして時間帯別の起終点間(OD)交通量が必要と なる.静的配分モデルで使われる道路交通センサス の自動車起終点調査に基づくOD表(センサスOD)は,

日交通量単位で集計されており,このままではシミ ュレーションで利用できない.しかも,一般道関連 のセンサスODがもとにしているサンプルの抽出率は 数%程度であり,原票を単純に時間帯別に集計して も,サンプルのばらつきの影響が大きすぎるため,

十分な信頼性が得られない. 

 このため,以下に示す手順でシミュレーションに 入力する時間帯別OD交通量データを作成した. 

① 一般道に比べてサンプル抽出率が比較的高い,

全国高速道路自動車起終点調査(日本道路公団,

H11)を時間帯別に集計する. 

② 上記の高速道路関連OD交通量のみで,最短経路 を選択する設定で暫定シミュレーションを実行 し,高速道路関連リンク交通量を得る. 

③ 道路交通センサス一般交通量調査(国土交通省,

H11)を時間帯別に集計し,これから上記の高速 道路関連リンク交通量を差し引いて,一般道関 連リンク交通量データを作成する. 

④ 上記の一般道関連リンク交通量を制約条件とし て,これに合致する時間帯別のOD交通量を推定 する「拡張エントロピー最大化法10)」を用いて,

一般道関連OD交通量を作成する. 

⑤ 上記の高速道路関連OD交通量と一般道関連OD交 通量をあわせて,入力データとする.このとき,

運転者の経路選択行動モデルは旅行時間と通行 料金を考慮して,確率選択するよう設定する. 

⑥ シミュレーション結果と観測交通量を比較し,

両者がなるべく一致するよう,OD交通量を調整 する.このとき,比較的信頼性が高いと考えら れる高速道路関連OD交通量は調整の対象とせず,

④で推定した一般道関連OD交通量を調整する. 

 経路選択行動モデルのパラメータは,厳密にはそ

高速道路と一般道の経路選択確率 (A〜D)

0%

25%

50%

75%

100%

0 30 60 90 120

高速道路の時間短縮効果[分]

高速道路の選択確

高速道路利用者(時間価値100円/分) 一般道利用者(時間価値40円/分)

図−2 現況料金での高速道路選択確率 図−1 対象ネットワーク図 

B A C

D 高速道路

国道

市街地

10km

市街地

市街地 市街地

市街地

市街地

渋滞発生 箇所

(3)

の地区における交通行動を調査し,定量的に分析し た結果から与えられるべきものであるが,実務では 適当な分析結果が利用できるケースは希であるため,

標準的な時間価値1)を参考にして調整した.現行の 通行料金体系では,図−2の通り,区間A〜Dでは,

時間価値が100円/分に設定された高速道路利用者は,

20分の時間短縮効果で,ほぼ100%高速道路を利用す るが,時間価値が40円/分の一般道路利用者は1時間 30分の短縮効果があっても,約80%はそのまま一般 道を利用する設定になっている. 

 また,ボトルネック交差点での飽和交通流率等の,

再現性に影響するリンクパラメータ値は,大規模な 範囲で実測することが難しいが,既存文献11)に掲載 されている標準的な値を基本とし,ピーク時のリン ク観測交通量と再現値を比較しながら調整した. 

 現況再現性は,時間帯別に主要断面の累積交通量 の推移を観測値と比較し,かつ渋滞が現実的な規模 で再現されていることを示し,当該地域の交通状況 を知る関係者と協議し,十分と判断している. 

 

(3)通行料金割引ケースの実施 

 この現況再現ケースの設定を基本として,高速道 路A〜B区間の通行料金を半額に割引した場合の交通 状況の変化をシミュレーションにより確認する.通 行料金が割引になった場合,A〜B区間での高速道路 時間短縮効果に対する高速道路選択確率は図−3の ようになり,現行料金と比べると時間価値の低い一 般道利用者が,少ない時間短縮効果でも高速道路を 選択する確率が高くなる. 

 図−4と図−6は,高速道路の西行き主要区間で,

現況料金と通行料金割引ケースでの累積通過交通量

を比較したものである.料金が変わらないB〜C区間 では大きな変化はないが,A〜Bの区間では約1600台 /日の増加が認められる. 

 

(4)動的シミュレーションでの交通量転換メカニ ズム 

 ここまでであれば,日交通量レベルなら,静的配 分計算であっても,通行料金を割引した高速道路A

〜B区間の交通量が増加し,B〜C区間は増加しない という,程度の差はあれ一見同様の結果が導き出さ れるであろう.しかしながら,シミュレーションと 静的配分では,次のような大きな違いがある. 

 図−6と図−7は,それぞれ現行料金と割引料金 での,シミュレーションで再現された高速道路の時 間短縮効果を時間帯ごとに示したものである.これ より,次の状況が読みとれる. 

① 現行料金では,一般道の混雑が激しいピーク時 間帯であっても,時間価値の低い一般道利用者 にとっては,高速道路利用へ転換するほどの時 間短縮効果が得られていない(図−2,図−6). 

② 割引料金では,ピーク時にはA〜B区間で30分程 度の時間短縮効果が期待(図−7)でき,一般道

通行料金割引後の高速道路選択確率 (A〜D)

0%

25%

50%

75%

100%

0 30 60 90 120

高速道路の時間短縮効果[分]

高速道路の選択確率

高速道路利用者(時間価値100円/分) 一般道利用者(時間価値40円/分) 通行料金割引後の高速道路選択確率 (A〜D)

0%

25%

50%

75%

100%

0 30 60 90 120

高速道路の時間短縮効果[分]

高速道路の選択確率

高速道路利用者(時間価値100円/分) 一般道利用者(時間価値40円/分)

図−3 割引料金での高速道路選択確率

図−4 高速道路 A〜B 区間の累積交通量比較

-50 0 50 100 150 200

0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 転換交通量

A→B西行き割引 A→B西行き現行

︵台

-50 0 50 100 150 200

0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 転換交通量

A→B西行き割引 A→B西行き現行

︵台

図−5 高速道路 B〜C 区間の累積交通量比較

-50 0 50 100 150 200

0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 転換交通量 7000

B→C西行き割引 B→C西行き現行

︵台

-50 0 50 100 150 200

0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 転換交通量 7000

B→C西行き割引 B→C西行き現行

︵台

(4)

利用者の2〜3割が高速道路へ転換(図−3)する. 

③ シミュレーション結果の転換交通量もピーク時 に集中している(図−4). 

④ ピーク時に一般道から高速道路へ交通量が転換 した結果,一般道の渋滞が緩和され,逆に高速 道路がわずかに混雑した.このため,高速道路 の時間短縮効果が減少しており,上記②での転 換交通量を抑制している. 

 これに対して,日交通量レベルの静的配分では,

時間帯ごとの渋滞状況と,それに対する利用者行動 の変化を明示的にとらえておらず,現実にはあまり 意味のない「一日の平均的な渋滞状況」を再現する ために,リンク特性関数を「経験と勘で」調整して いるのが実情であろう.パラメータ設定の論理性や,

交通量転換メカニズムの説明能力では,動的シミュ レーションが有利である. 

 

3.まとめ〜交通量配分の今後の業務のあり方   

 以上,従来の実務では静的な日単位の均衡配分モ デルを利用していた交通需要予測に,動的シミュレ ーションモデルを適用した事例を通して,渋滞現象 の時間変動とそれに伴う利用者の行動変化を考慮で きる合理性を示した. 

 近年では,時間帯別に均衡配分したり,さらに渋 滞による捌け残りを考慮したりと,一昔前の流体近 似マクロシミュレーションのような計算をする枠組 みも提示されている.しかしながら,このような均 衡配分モデルを拡張する方向よりも,渋滞という物 理量を厳密に表現したり,多様な車種を同時に扱っ

たりできるなど,多くの優位性が認められる離散的 な動的シミュレーションを活用ほうが望ましい.動 的シミュレーションの利用を推奨する仕組みなど,

実務面での仕組みを整備する時期にあると考える. 

 

参考文献(青字はURLへリンク) 

1)国土交通省道路局都市・地域整備局:費用便益分 析マニュアル,2003.8. 

2)土木学会:道路交通需要予測の理論と適用第Ⅰ編

−利用者均衡配分の適用に向けて,2003.8. 

3)堀口良太,小根山裕之:適用事例を通した交通シ ミュレーション利用実態の分析と利用促進への課 題,土木学会論文集IV,Vol.709,No.IV‑56,pp.6 1‑69,2002年7月. 

4)桑原雅夫,堀口良太:静的配分に対する動的配分 の優位性,第29回土木計画学研究・講演集,2004.

6(今回). 

5)佐藤光,堀口良太,桑原雅夫:大規模ネットワー クにおける動的シミュレーション適用の現在とこ れから,第29回土木計画学研究・講演集,2004.6 (今回). 

6)東京都環境局ホームページ:http://www2.kankyo.

metro.tokyo.jp/jidousya/roadpricing/hokokusyo /hokoku.htm. 

7)小根山裕之,井料隆雅,桑原雅夫:東京23区を対 象とした需要の時間分散施策の効果評価,第24回 土木計画学研究・講演集,2001.11. 

8)村上康紀,桑原雅夫:東京23区ロードプライシン グ導入に伴う交通運用政策に関する研究,第26回 土木計画学研究・講演集,2002.11. 

9)SOUND製品ページ:http://www.i‑transportlab.j p/products/sound. 

10)小根山裕之,桑原雅夫:路側観測交通量からの 時間変化するOD交通量の推定,交通工学,Vol.32,

No.2,交通工学研究会,1997.2. 

11)例えば,交通工学ハンドブック(交通工学研究 会編)など. 

現行料金での高速道路の時間短縮効果 (西行き)

0 10 20 30 40 50 60

0時 1時 2時 3時 4時 5時 6時 7時 8時 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 19時 20時 21時 22時 23時

時間短縮効果[分]

A〜BB〜C C〜DA〜D 現行料金での高速道路の時間短縮効果 (西行き)

0 10 20 30 40 50 60

0時 1時 2時 3時 4時 5時 6時 7時 8時 9時 10時 11時 12時 13時 14時 15時 16時 17時 18時 19時 20時 21時 22時 23時

時間短縮効果[分]

A〜BB〜C C〜DA〜D

図−6 現行料金での高速道路時間短縮効果

割引料金での高速道路の時間短縮効果 (西行き)

0 10 20 30 40 50 60

0時台 1時台 2時台 3時台 4時台 5時台 6時台 7時台 8時台 9時台 10時台 11時台 12時台 13時台 14時台 15時台 16時台 17時台 18時台 19時台 20時台 21時台 22時台 23時台

時間短縮効果[分]

A〜BB〜C C〜D A〜D 割引料金での高速道路の時間短縮効果 (西行き)

0 10 20 30 40 50 60

0時台 1時台 2時台 3時台 4時台 5時台 6時台 7時台 8時台 9時台 10時台 11時台 12時台 13時台 14時台 15時台 16時台 17時台 18時台 19時台 20時台 21時台 22時台 23時台

時間短縮効果[分]

A〜BB〜C C〜D A〜D

図−7 割引料金での高速道路時間短縮効果

参照

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