事例検討会
30代発症の若年性認知症について
奈良県立医科大学認知症疾患医療センター 髙橋 誠人
本日のメニュー
▪ 若年性認知症の定義
▪ 若年性認知症の疫学データ
▪ 症例提示
若年性認知症とは
▪ 平成29年4月より「若年性認知症施
策総合推進事業」として、若年性認
知症支援コーディネーターの配置が進
められている。
▪ 早期診断により、その後の生活の選択
肢が広がるため必要であるが、誤診す
る可能性も大きくなるため、慎重な対
応が必要
若年性認知症
65歳未満で発症若年期認知症
18~44歳に発症初老期認知症
45~64歳に発症若年性認知症の主な原因
アルツハイマー 型認知症 前頭側頭型 認知症 レビー小体型 認知症 パーキンソン 病 進行性核上 性麻痺 大脳皮質基 底核変性症 多系統萎縮 症 ハンチントン 病 歯状核赤核 淡蒼球ルイ 体萎縮症 神経変 性疾患 脳梗塞 ビンスワンガー 病 脳出血 くも膜下出血 脳動静脈奇 形 もやもや病 CADASIL 脳血管 障害 脳腫瘍 辺縁系脳炎 腫瘍・ 傍腫瘍 症候群 急性ウイルス 性脳炎後遺 症 •単純ヘルペ ス脳炎 •日本脳炎 HIV感染症 クロイツフェル ト・ヤコブ病 神経梅毒 その他の脳 炎・髄膜炎 後遺症 神経感 染症 慢性アルコー ル中毒 一酸化炭素 中毒 ビタミンB1・ B12・葉酸欠 乏症 •Wernicke 脳症 薬物中毒 (抗癌剤、 向精神薬) 金属中毒 (水銀、マン ガン、鉛) 有機化合物 中毒(トルエ ン) Wilson病 遅発型尿素 サイクル酵素 欠乏症 欠乏性・中 毒性・代謝 性疾患 多発性硬化 症 急性散在性 脳脊髄炎 神経ベー チェット病 中枢神経系 脳血管炎 シェーグレン 症候群 神経サルコイ ドーシス 脱髄性・自 己免疫疾 患 遅発性スフィ ンゴリピドーシ ス 糖原病 副腎皮質ジ ストロフィ 異染性白質 ジストロフィ Krabbe病 蓄積症、 脳白質ジ ストロフィ 認知症疾患治療ガイドライン2010 http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html 遺伝子異常や 酵素欠損と関 連した遺伝性 疾患もみられる 傾向がある 頭部外 傷後遺 症 低酸素 性脳症 放射線 障害 肝性脳症 甲状腺機 能低下症 Cushing症 候群 臓器不全・ 内分泌疾 患 ミトコンドリア 脳筋症 筋強直性ジ ストロフィ Fahr病 その他日本の若年性認知症の疫学
第2回全国調査
▪ 2006~2008年 ▪ 茨城県、富山県、熊本県、群馬県、愛媛県、 徳島市、横浜港北区の7地域 ▪ 有病率:37800人(47.6人/10万人) ▪ 第1回(1996~1999年)との相違点 ▪ 若年性認知症全体の有病率の増加 ▪ 有病率の地域差 ▪ FTLDとDLBの有病率 ▪ 介護保険の利用率認知症の分類
39.8, 40% 25.4, 25% 7.7, 8% 3.7, 4% 3.5, 3% 3, 3% 16.9, 17% 脳血管性 アルツハイマー型 高次脳機能障害 前頭側頭型 アルコール性 レビー小体型 その他 朝田 隆:厚生労働科学研究費補助金長寿科学総合研究事業「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」平成20年度総括・分担研究報告書.(2009)世界の若年性認知症の疫学
世界の2001年以降の疫学
▪ アメリカ:ADの6~10%が65歳以前に発症 有病率:22~64万人 日本の人口にすると、8.8~25.6万 ▪ オーストラリア:25938人 人口比で日本の3倍 ▪ イギリス:42000人 人口比で日本の2倍認知症の分類(英国AD協会)
39.8, 40% 25.4, 25% 7.7, 8% 3.7, 4% 3.5, 3% 19.9, 20% アルツハイマー型 脳血管性 前頭側頭型 レビー小体型 コルサコフ症候群 その他Alzheimer Europe:Prevalence of dementia ill Europe.(2003). Available at: www.alzheimer-europe.org/Research/European-Coilaboration-on-Dementia/Prevaleiice-of-dementia/Prevalence-of-dementia-in-Europe 諸外国と有病率のずれ
認知症の種類
①海外と比較して、日本ではVaDが多い 「ADとVaDの混合型を考慮すると老年期 発症と若年発症の認知症の種類や頻度に 違いはない」 脳血管障害は進行悪化の有無によりVaD にも高次脳機能障害にも区分可能 ②海外と比較し、FTDの比率がいずれの地 域でも低い 朝田 隆:若年性認知症という残された課題. 精神経誌, 110(1) :13-21(2008) 宮永 和夫:若年性認知症の疫学. 老年精神医学誌, 29:358-368 (2008) 改善 悪化 時間の経過 進行するもの 変性性認知症、脳血管障害 の一部、脳腫瘍の一部など 不変・改善するもの 頭部外傷、脳炎、代謝性脳症、 脳血管障害の一部など 記憶障害・ 遂行機能障 害・失語等 高次脳機能障害 認知症症例 30代 女性
【主訴】 特に何も困っていません 【既往歴】 身体疾患の既往歴なし 【家族歴】 認知症の家族歴なし 【嗜好歴】 機会飲酒程度、喫煙歴なし、海外渡航歴なし 【生活歴】 普通分娩の満期産で出生し、検診での指摘はなかった。幼少期は他人に優しく友人 関係も良好であった。また興味の限局もみられなかった。大学心理学科を卒業後、家 庭用品の会社に就職し事務職を行っていた。両親、祖母の4人暮らしである。 X-3年頃より仕事でミスが多くなり上司から叱責を受けることが多くなった。同年12月 に突然の部署異動があり、職場で目眩や腹痛を認めるようになった。 X-2年1月より出勤前に嘔気を認め、欠勤状態であったため、同月19日に当科を受診 となった。自宅生活は問題なかったため、適応障害の診断で、同月21日より会社を一 旦休職した。症例 30代 女性
その後、私生活は一変し、外出の際には服装を気にする事がなくなり、常に同じ服装 で出かけるようになった。1日中パソコンに向かって過ごす生活が続いていたため、母親が パソコンを壊す事態となったが、本人は全く意に介すことはなかった。 X-1年7月頃から待合室でも座って待つ事ができず、周囲をウロウロするなど落ち着き がなく、12月になると自宅でも無目的に家の中を歩き回っていた。 X年1月、近隣宅に侵入してトイレを使用し、さらにその家のミカンを勝手に食べるなど 反社会的行動をするようになった。同様の行動を繰り返したため、両親が当科での治療 に不信を抱き、同月25日にA診療所を受診した。統合失調症の診断で、薬物療法が 行われた。しかし、その後も改善しないため、同年2月8日にB病院に入院となった。入院 時の頭部CTで萎縮がみられ、精査加療目的に同月23日に当科に入院となった。入院時現症
身体所見
身長157.2㎝、体重 45.8㎏、BMI 18.5㎏/m
2表情は緩慢で変化に乏しく能面様、流涎
神経学的所見
振戦:-/-,
固縮:++/++
, 深部腱反射:異常なし, 病的反射なし
前傾姿勢
,
歩行時の腕の振りがほとんどない
血液検査・尿検査
異常所見なし
髄液検査
異常所見なし
入院時現症
脳波
周波数7-8Hz、振幅20-30μVのθ~α波を後頭部中心に対称性にほぼ
規則的にみられる。→徐波化はmidazolam投与による影響の可能性
認知機能検査
MMSE:19/30
(日付見当識:-2, 場所見当識:-2, 100減算:-4, 遅延再生:-3)
FAB:0/6
(流暢性までしか施行できず、教示指示に従えないため評価困難)
20mg Suvorexant 入 院 1w 錐体外路症状 MMSE FAB 19 0 頭部 MRI 保護室隔離 3w 個室施錠 Escitalopram 10mg 20mg SPECT 常同行動 Memantine 8w 5mg 10mg 15mg 20mg 11 24 4w Carbamazepine 10w 12w 開放観察あり 200mg 400mg 600mg 800mg 類似性:0, 語の流暢性:1, 運 動系列:3, 葛藤指示:3, GO/NO-GO:1, 把握行動:3 日付見当識:−2, 場所見当識:-2, Serial7:-2 17