看護と福祉の統合を目指す看護教育に関する研究 [ PDF
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(2) 第1章. 看護教育のカリキュラムの変遷と福祉の位置づ. り、ケアの方向が違い、その専門領域は分かれてきたと. け. いう経緯がある。しかしその目的は、その人が持ってい. 本章では、保健・医療・福祉が看護教育の立場からど. る生命力、生きていく力を最大限に発揮できるようにす. のようにとらえられ教育されてきたのか、日本における. ることであり、そのための環境整備をしていくことがケ. 看護教育の歴史的側面から論じた。. アの方向である。よって看護と福祉の本質は同じである. 我が国の看護教育は明治 10 年代の後半頃から開始さ. とみなす。. れるが、 看護婦資格として全国的に統一されたのは、 1915. ナイチンゲールは“看護的ケア”の本質について、 「そ. (大正 14)年に内務省令として制定されてからである。. の人の内に宿る自然の治癒力に焦点を当て、その力が最. 当時の社会状況としては伝染病の発生や貧困など福祉的. 大に発揮できるような条件を周囲に創り出すことであ. 側面からの援助を必要とした時代ではあったが、看護教. る」と述べている。その条件とは生活過程のあり方であ. 育は労働力確保のために徒弟制の性質を帯びた技術教育. り、このときから看護的ケアの方向は、生活をケアする. に重点が置かれ、福祉的視点はなかったと思われる。. 方向へと定まっていったのである。. 戦後、GHQの介入により、総合看護に視点を置いた. 一般の人々の間では、生活のケアは看護ではなく、介. 保健師・助産師・看護師の統合カリキュラムが提示され. 護であるという認識が強いが、もともと介護は看護に含. たが、時期尚早で見送られた。これにより日本の福祉的. まれるものであり、日本において介護が看護から分離さ. 側面を考慮した看護教育は、 大幅に後退したと思われる。. れるに至った原因は、高齢社会における介護職の確保と. 看護職に求められたものは、診療の補助であり、正確に. いう政策的な面が強い。. 医療技術が提供できる人材が期待されたのである。. では、看護の本質から見いだされる福祉的視点とは何. 戦後 20 年間、 同じ教育体制が続いたが、 医療の高度化、. であろうか。高齢化、疾病構造の変化により、これから. 高齢化社会を受け、看護職に寄せられる期待も変化して. の医療の対象は慢性疾患患者や高齢者が中心になる。従. きた。社会の要請に応じ、「老人看護学」が科目立てさ. 来のように『治す医療』から『生活の質を高める医療』. れたが、 看護は看護学としての体系化を急務としており、. へと変貌しつつある。看護は医学の領域に縛られること. 福祉の現状を反映した教育内容ではなかった。しかし、. なく、生活の質を高めるための医療、生活の質を高める. 少子・高齢社会は予想以上に早く進展し、社会状況に対. ための福祉に視点を置き、あらゆることについて環境の. 応するために看護カリキュラムも、改正されていった。. 整備をしていくべきだと考える。. 高齢社会の現代が到来し、初めて福祉に関する教育が. 現在、わが国では高齢社会が進み、施設内看護から地. 「在宅看護論」という形になって現れた。在宅看護論は. 域看護へ看護の独自性が広がり、福祉的視点を育てる必. 臨地実習を含めたものであり、看護教育における“福祉. 要に迫られている。看護教育は、在宅看護論実習などを. に関する教育”が本格的に始まったと考える。. 通して福祉の視点がもてるように看護教育の工夫をして. 看護は時代のニーズを背景にその教育内容を変え、一. いく必要がある。. 貫した教育ができないまま進んでいる。高度医療、救急 医療が優先され、福祉に関連した教育は、あまり重要視. 第 3 章 福祉を目指す看護教育. されていなかった面がある。しかし、高齢社会に入り、. 第3章では、看護基礎教育(看護師資格を得るための. 看護教育における“福祉に関する教育”は今後、重要視. 基礎教育)を受ける以前の高校生に焦点を当て、現代の. され、 その位置づけが確立されていくものと考えられる。. 高校生の特徴や福祉に対する意識について論じた。高校 生に焦点を当てた理由は、福祉に対する意識や視点をも. 第 2 章 看護教育における「福祉」的視点. つなどの教育は看護基礎教育に頼るものではなく、高校. 第 2 章では、看護と福祉は本質的に同じであるという. 生までにある程度備わっているものと考えるからである。. 点をナイチンゲールの理論に基づき論じ、看護教育にお. 看護は医療技術を施すための高度な知識や技術を必. ける福祉的視点を述べた。. 要とするが、生活過程を整えるという人間に対する総合. 看護の対象は病人や身体が弱った老人や心身障害者. 的な身の回りの世話が本業と考える。人間に対する総合. であり、その健康の回復を援助していくものである。一. 的な身の回りの世話をすることが看護であるのだから、. 方、福祉は身体健全であるが、生活の自立や社会的自立. それを学ぼうとする人間は、少なくとも自分の身の回り. を目指して援助していくものである。対象者の特性によ. のことは自分でできなくては困る。さらに生活体験が豊 -2-.
(3) 富であることが必要である。看護の判断は、看護の専門. 広い知識を習得し、「福祉の視点」を意図的に教育する. 的な教育を受けただけではできない。そこには一般教養. 意義は大きいと考える。また生活体験を豊富にすること. やその人の生活の経験から判断されるものがある。. はこれらを深めることになると考える。. 高齢社会を迎え、在宅ケアが重視されるようになった が、在宅には病院にあるような便利な物品はなく、生活. 第 4 章 保健・医療・福祉と在宅看護に対する看護師の現. 用品を見事に工夫して使う知恵が必要である。在宅ケア. 状. が活かされるためには看護者の生活体験からくる「創造. 本章では、新カリキュラムで設定された「在宅看護論」. 性」ということが重要になってくるのである。. を履修することにより総合看護実践者として育成されて. しかし、入学してくる生徒の特徴は、現代の青年の特. いるのか、その教育成果を検証した。病棟で勤務する看. 徴として一般的に指摘されるものとほとんど変わらな. 護師を対象にアンケート調査を行い、「在宅看護論」を. い。家族的背景は核家族が大半であり、入学するまでに. 履修した看護師とそうでない看護師の在宅ケアに対する. 老人、障害者、病人など生活技術能力の低下した人との. 意識や行動の違い、また福祉に対する認識の違いなどを. 接触の経験はほとんどない。家族、近隣で精神的・身体. 比較して、現状を明らかにした。. 的問題で援助を求められるような場面に遭遇した経験も. 今回の調査において在宅ケアについて入院時より認. 持たない。まして人の生死に関わるような重大な危機的. 識がある看護師は 13%しかおらず、在宅ケアの必要な患. 場面に直接的にも間接的にも遭遇することなく成長して. 者に対してのカンファレンスがいつもできているという. いる。掃除、洗濯、食事の準備・後片付けなど、日常的・. のもわずか 7.2%であった。 また介護保険や社会資源の活. 基本的習慣すら身についていない生徒が多い。. 用が勧められているのは、5%前後である。この数値は在. このような生徒に対して、福祉体験をすることの意義. 宅看護論教育を受けた看護師もそうでない看護師もあま. を述べる。筆者はボランティアを行う高校の看護科の生. り変わらなかった。. 徒と関わりをもった経験があるが、そこで得られたこと. 在宅ケアに向けてのカンファレンスができない理由と. は、ボランティアなどの福祉体験は継続することにより. して、「忙しい」、「時間がない」、「連携がない」、. 福祉の視点が育成できるということである。看護教育に. 「コミュニケーションがない」、「認識が薄い」、「知. おいてボランティア活動を推進しているところは多いと. 識不足」などを理由に挙げている。このような状況につ. 推測するが、継続することが重要と考える。1 回の体験. いて病棟看護師がよいと思っているわけではない。社会. でやめてしまうとマイナスのイメージを持ったままにな. 資源や在宅ケアについて学習したいと約 70%の看護師. る可能性もあり、福祉の視点が育たない結果になること. が思っている。. も考えられるからである。. カリキュラム改正により、在宅看護に向けての取り組. では実際に高校生は福祉に対してどのような意識を. みが進むかのように思えたが、実際の病棟の動きはあま. もっているのだろうか。看護を学ぶ高校生と一般の高校. り変わっていないように思える。在宅看護論を履修した. 生を対象にアンケート調査を行った。. 看護師とそうでない看護師を比較したとき、退院時の指. その結果からいえることは、看護を学んでいるから福. 導など行動面をみたときには、在宅を経験していない看. 祉の視点が育っているとは限らないということである。. 護師の方がケアが行き届いていた。これは今までの経験. 特に注目した点は、看護の専門的な学習が深まるほど、. による実績とみてよいと考える。. 看護と福祉は重ならないもの、別々の領域であると両者. しかし、福祉に対する考え方をみたとき、在宅を経験. を離して考えていることである。これは看護の評価を身. している看護師とそうでない看護師の明らかな違いがみ. 体的回復に強調することが多く、より狭い範囲の専門的. られた。福祉に1番関連が強いと思うキーワードについ. な学習を求めることに要因があると考える。看護に対す. て在宅を経験していない看護師は、「高齢者」という回. る考え方の広がり・深まりは、看護の専門的な学習だけ. 答が最も多かったが、在宅を経験している看護師は「Q. では、不十分であり、一般教育などから得られる柔軟な. OL(生活の質)」という回答が最も多かった。看護は. 姿勢が必要である。. 患者の生活過程を整えることであり、QOLに最大の関. 「福祉の視点」は誰でも身につけるべきものだが、と. 心を払うことは、総合看護の志向があると判断してもよ. りわけ高齢社会を担う未来の看護師にとって大切であ. いと考える。. る。よって早い段階で一般教育を含めた福祉に関する幅. 病棟の実態からみて業務の忙しさは、看護と福祉の連 -3-.
(4) 携を阻害する最大の要因である。しかし、在宅看護論を. 終章 保健・医療・福祉の総合看護実践者育成の課題. 履修した看護師は、看護と福祉の連携や統合を目指す志. 本研究の仮説①に対して「福祉に対する意識は、看護. 向に傾いており、この看護師の継続教育を充実すること. 基礎教育以前から育まれていくものであり、保健・医療・. は連携の促進要因になり得ると考える。. 福祉に進む人全般にいえることである。福祉に関する意 識は、専門的な学習を始める前に意識を高めるように求. 第 5 章 看護と福祉の統合を目指す看護教育. めたいが、その方法論について今後検討が必要である。」. 第5章では、看護と福祉が統合し、総合看護を実践す. 仮説②に対して「在宅看護論を履修している看護師. るための教育について論じた。健康の管理から社会復帰. は、看護基礎教育において、福祉の意識は育っていたが、. に至るまでの一連の活動を、包括医療とよぶが、このよ. 継続教育がされておらず、意識がどのように変化したの. うな医療の中で行われる健康の維持・増進、疾病の予防・. か不明である。また、社会資源を活用する能力は身に付. 管理、リハビリテーションなどの一連の身体的・精神的. いているとはいえず、継続教育が重要であることがわか. ケアをはじめとする経済的・社会面などを含むあらゆる. った。しかし、継続教育を指導していく管理職は在宅看. 面への指導・援助を「総合看護」という。総合看護は、. 護を経験していない人が多く、研修について残された課. 医療チームの中で行われるため、その教育を看護師に関. 題は大きい。」. わるものと医療チームに関わるものに分けて考えた。. 仮説③に対して「仮説②が明らかにされていないた. 看護師教育の部分において、今回のアンケート調査で. め、今後の研究課題としたい。」. は、看護基礎教育のみではなく、継続教育の重要性を示. 結論. 唆していた。よって、継続教育における地域看護につい. これから看護サービスをつないでいくためには、シス. ての研修システムを確立していくことが急務である。特. テムと役割分担がキーワードになると思われる。役割分. に在宅看護を履修していない看護師に対しては、在宅看. 担とは、病棟と在宅を分担するのではなく、病棟と在宅. 護を体験するシステムを組み、総合看護の概念をつかん. をつなぐための仕事を専門家に任せるといういわば、つ. でもらい、実践能力を養うようにする必要がある。. なぎ役を一つの役割として病棟看護師の仕事から分ける. 介護保険や社会資源について熟知している人が少ない. ということである。そうした職種はケア・コーディネー. という現状があるが、患者の最も近くにいる看護師が熟. ターやケアマネジメントとよばれるかもしれない。. 知し、地域の橋渡しができれば、スムースな在宅への移. 看護教育は保健・医療・福祉をコーディネートできる. 行ができると考える。さらに管理職が在宅研修を行うこ. 看護専門職の育成といった視野の拡大が必要になったと. とにより、卒後教育も充実していくことが期待される。. 考える。そのような看護師の新しい役割についての検証. 総合看護は、チーム医療であるから看護だけの意識が. を今後の研究課題としたい。. 変わっても実質的に機能しないと考える。よって総合看 護に関わるスタッフ全員に在宅看護を体験する研修シス. 【主要引用文献】. テムを作るなど工夫が必要である。これらの研修システ. 1.金井一薫『ケアの原型論』 、現代社、2001 年。. ムが確立されたとしても、連携・統合は困難と予想する。. 2.高木和美『新しい看護・介護の視座』 、看護の科学社、. 医療機関には、医師、看護師をはじめ理念も教育背景. 1999 年。. も異なった多くの職員が存在する。連携・統合をスムー. 3.松本比佐江、引野祐子、岡崎美智子『看護と福祉』 、. スにするためには、それぞれの職員間のギャップを埋め. 相川書房、1988 年。. ていく作業が必要となる。同じ看護師の資格を持った人. 4.田島桂子『看護基礎能力育成にむけた教育の基礎』 、. であっても、病院や施設など所属する場所が違えば、そ. 医学書院、2002 年。. れぞれが違った価値観で仕事をしているものである。そ. 【主要参考文献】. ういった点もふまえて、看護をつなげていくことが連携. 1.梶原和歌他「医療時代のケアと継続性」 『看護展望』. であり、これからの時代は連携がなければ、看護ができ. メジカルフレンド社、2002 年1月臨時増刊号。. ない時代になっていくといっても過言ではない。. 2.津野良子、佐々木美佐子「看護教育シンポジウム、. 以上は、総合看護を展開する上の教育の一方法である. 保健・医療・福祉のニーズに応える看護職を育てる」. ので現実に向かうためには何らかのシステム化を図らな. 『看護』 、日本看護協会出版会、2001 年4月号、. ければならないと考える。. pp.38−53. -4-.
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