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Microsoft Word - 1. 吉田宗弘.doc

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) (総合)研究報告書 日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究 研究代表者 徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長 Ⅲ.研究協力者の報告書 1.食事献立の化学分析によるヨウ素、セレン、クロム、モリブデン摂取量の推定 研究協力者 吉田 宗弘 関西大学化学生命工学部 研究要旨 ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンの摂取量について、医療施設提供食事献立を試料として、 成分表からの計算値と化学分析にもとづく実測値との差異を検討した。セレンとモリブデンでは 計算値と実測値がほぼ一致していたが、ヨウ素とクロムでは計算値と実測値との乖離が大きかっ た。 母親手作りの離乳食に含まれるヨウ素、セレン、クロム、モリブデンを分析した。離乳食から のセレン摂取量は平均で耐容上限量を上回った。目標量的性格をもつ成人の上限量を体重比で18 歳未満に適用することを再考する必要があると判断した。ヨウ素は、摂取量が推定平均必要量と 上限量の間に収まる離乳食が少ないことから、間欠的高摂取が適正摂取の維持に必要と考察した。 厳格な菜食であるビーガンの食事のヨウ素、セレン、クロム、モリブデンの分析から摂取量推 定を行い、菜食者が長年にわたって1000 µg/日近いモリブデン摂取を継続し、大きな健康上の問 題を生じていないことから、モリブデンの耐容上限量をより高値に変更できる可能性があると考 えた。 A.目的 個人もしくは集団における栄養素の日常的 な摂取量を把握することは、その栄養素の過 不足判定において重要な情報となる。また、 食事摂取基準の策定においても、目安量の設 定、および推定平均必要量と推奨量の妥当性 検証のための重要な情報となる。 一般に、栄養素摂取量の推定では、食事記 録における個々の食品摂取量と食品成分表に 記載されている各食品の栄養素含有量を用い た計算がおこなわれる。日本人の食事摂取基 準(2010 年版)が対象としている微量ミネラ ルの中で、ヨウ素、セレン、クロム、モリブ デンは五訂食品成分表に含有量が記載されて おらず、食事記録から摂取量推定を行うこと ができなかったが、2010 年秋に公表された 「日本食品標準成分表2010」では、収載食品 の約3 分の 1 に相当する約 500 食品のヨウ素、 セレン、クロム、モリブデンの含有量が示さ れた。 そこで、本研究では、まず、医療施設提供 食事を対象として、ヨウ素、セレン、クロム、

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モリブデンの摂取量について、成分表からの 計算値と化学分析にもとづく実測値との差異 の検討し、これら4 ミネラルの摂取量推定が 成分表と食事記録から推定可能か検討した。 ついで、摂取量にもとづいて摂取基準の目安 量が設定されている乳児について、母親手作 りの離乳食に含まれるヨウ素、セレン、クロ ム、モリブデンを分析し、離乳食からのこれ らの摂取量を推定した。さらに、厳格な菜食 であるビーガンの食事のヨウ素、セレン、ク ロム、モリブデンの分析を行って摂取量推定 を行い、厳格な菜食がこれらのミネラルの摂 取基準の推定平均必要量と耐容上限量に対応 できているかを検討した。 B.方法 1.食事試料の収集 医療施設の食事:大阪府下の2 病院(A お よびB)において通常食として提供されてい た食事をそれぞれ3 日間(病院食 A1〜3、B1 〜3)、朝、昼、夕食別に収集した。また神奈 川県下の介護施設において通常食1 日分と介 護食1 日分を朝、昼、夕食別に収集した。介 護食については別に昼食1 回分を収集した。 なお、介護食とは、加水もしくはとろみづけ を行い、ミキサーなどによって均一後、裏ご しなどによって堅い固形物を除去した半流動 食である。各食事は、朝、昼、夕食別に凍結 乾燥した後、細粉化し、分析用試料とした。 朝、昼、夕食に分けたため、食事試料は総計 で25 種類となった。 母親手作りの離乳食:兵庫県阪神地域にあ る子育て支援施設の協力のもと、同施設を利 用し、調査の趣旨を十分理解した母親 25 名 (年齢30.4±3.8 歳)から手作り離乳食 1 日分 を収集した。対象とした乳幼児の月齢は8 か ら16 か月(平均±標準偏差:10.9 ± 2.6 月)、 男女の内訳は、男児14 名、女児 11 名である。 ビーガンの食事:複数の NPO 法人、菜食 レストランをとおして、厳格な菜食主義を継 続している健康な36〜70 歳(調査時点までの 菜食継続年数3.5〜40 年)の女性 12 名から調 査協力の了解を得た。これらの対象者から平 日の食事3 日分(合計 33 試料)について、摂 食したのとほぼ等量を収集した。 2.分析法 食事試料は凍結乾燥し、細粉化して分析試 料とした。試料の前処理は、硝酸と過塩素酸 を用いた湿式灰化法(セレン、モリブデン)、 550℃での乾式灰化法(クロム)、または 0.5% テトラメチルアンモニウムヒドロキシド抽出 法(ヨウ素)にて行った。各ミネラルの分析 はICPMS 法にて行った。ICPMS の内部標準 としてテルル(ヨウ素、セレン)、またはロ ジウム(クロム、モリブデン)を用いた。 3.倫理面への配慮 食事試料の収集にあたっては、対象者また は施設の同意を書面で得た。 C.結果 表1 に、病院と介護施設の食事 8 日分につ いて、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン の1 日摂取量の計算値と分析値をまとめた。 なお、ヨウ素とクロムに関しては、介護施設 の食事を分析しなかったため、病院食6 日分 のみの比較である。クロムのみ計算値と実測 値間に有意差があり、他の3 元素は有意差な しだった。ヨウ素摂取量では、計算値は6 日 中2 日が 100 µg/日未満、残り 4 日が 250〜420 µg/日だったのに対して、分析値は 6 日すべて

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が290〜420 µg/日であり、3 分の 1 において 計算値と分析値との乖離が認められた。クロ ム摂取量では、計算値と分析値の相関は大き かったが、いずれの日も分析値が計算値を大 きく上回った。セレンとモリブデンの摂取量 では、計算値と分析値がおおむね一致した。 この2 元素については、朝、昼、夕食別に分 けた24 試料(別途収集した介護施設の介護食 昼食は、献立の詳細な情報が得られず、摂取 量の計算値がもとめられなかったので検討か ら除外した)を対象として、計算値と分析値 との関連を検討し、図 1 に示した。相関係数 は、セレンが0.67、モリブデンが 0.78 だった。 表2 に、手作り離乳食のミネラル含有量を 8〜11 か月児と 12〜16 か月児に分け、エネル ギー1000 kcal あたりで示した。6〜11 か月児 に関して、セレン、クロム、モリブデンの離 乳食中濃度は、食事摂取基準の数値よりも明 らかに大きな数値を与えた。ヨウ素含有量は 月齢やエネルギー含有量と無関係に大きな変 動を示した。図2 は、収集離乳食を 1〜2 歳児 の推定エネルギー必要量相当(男女平均で 950 kcal/日)摂取した場合のヨウ素摂取量を 算定し、個人ごとに表示したものである。25 食中、1〜2 歳児のヨウ素の推定平均必要量で ある35 µg/日を充足できないものが13 食あり、 うち6 食ではヨウ素を検出できなかった。逆 に、1〜2 歳児のヨウ素の耐容上限量である 250 µg/日を超えるものも 8 食あった。 表3 に、食事分析から求めた 12 名のビーガ ンのヨウ素、セレン、クロム、モリブデンの 摂取量を食事摂取基準における各指標と比較 して示した。なお、ヨウ素摂取量は著しく変 動したので、平均値と中央値に加えて幾何平 均値も示した。ヨウ素摂取量は平均値では約 2 mg/日だったが、幾何平均値と中央値は 1 mg/日を下回った。セレン摂取量は大半が 50 〜100 µg/日の範囲だった。クロム摂取量は推 定平均必要量を下回る例が相当数あり、平均 値と中央値のいずれも推定平均必要量と推奨 量の中間だった。モリブデン摂取量は平均値 と中央値のいずれも耐容上限量(500 µg/日) を上回り、1000 µg/日を超える例もあった。 D.考察 日本食品標準成分表 2010 を利用したヨウ 素、セレン、クロム、モリブデン摂取量の計 算値と実測値との関連を検討したところ、ヨ ウ素では両者の乖離が著しかった。ヨウ素濃 度の高い食品は水産物、とくに海藻類であり、 なかでも昆布製品のヨウ素摂取への寄与は著 しいことが知られている。しかし、昆布製品 が「だし」として使用される場合、これを定 量的に把握することは難しい。すなわちヨウ 素摂取量を計算によって把握するには特別な 調査票を使用するか、食事記録をとるさいに 昆布製品の使用量を詳細に記載することが必 要と思われる。 クロムでは、計算値と分析値との相関係数 は高かったが、分析値は計算値の数倍となっ た。調理加工段階でのクロム汚染、および分 析段階でのクロム汚染が考えられる。今回の 実測によるクロム摂取量の数値は、国内外に おける陰膳収集献立のクロム分析値とほぼ等 しいので、分析での汚染よりも調理加工の段 階でのクロム汚染が寄与している可能性が高 い。いずれにしても現状では、成分表からの クロム摂取量の算定は困難であり、かつその 意義も小さいといわざるを得ない。 セレンとモリブデンでは、計算値と分析値

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がおおむね一致しており、食品成分表を用い た計算による摂取量把握は可能と判断できる。 セレンが魚介類や小麦製品、モリブデンが穀 類と豆類といった主要食品が供給源であり、 これらの食品は食事記録において定量的把握 が容易であるためと思われる。 離乳食中のエネルギーあたり微量ミネラル 濃度を食事摂取基準と比較すると(表 2)、 セレンとヨウ素において平均値が耐容上限量 を上回った。12〜16 か月児が食していた離乳 食(セレン濃度68 µg/1000 kcal)を 2000 kcal 摂取した場合、セレン摂取量は日本人成人の 平均的摂取量よりも少し多い 136 µg/日とな る。このことは、今回収集した離乳食のセレ ン濃度は成人が日常的に食べる食事と大差な いことを意味する。幼児に対するセレンの耐 容上限量は成人の上限量を体重比で外挿した ものだが、この方式で上限量を設定すると、 成人のセレン摂取量と上限量との差が小さい ため、体重あたりの食事量が多い1〜2 歳児で は普通の食事を摂取してもセレン摂取量が耐 容上限量を超える可能性が高くなる。成人の セレンの上限量は糖尿病発生率の増加を考慮 して設定されたものであり、目標量的なもの である。わが国において、食事性セレン中毒 の報告は乳幼児を含めて皆無である。したが って、今回の結果は幼児期のセレン過剰摂取 に対する注意喚起ではなく、幼児期のセレン の耐容上限量の再考が必要なことを意味する。 ヨウ素では、推奨量と耐容上限量との間の 摂取量を与えるものは25食中4食のみだった。 このようなヨウ素濃度の大きな変動は市販離 乳食でも認めている。これらのことは、幼児 においても、献立中のヨウ素濃度は大きく変 動しており、耐容上限量を超える高ヨウ素濃 度の食事の間欠的摂取によって必要なヨウ素 が確保されることを意味する。乳幼児期の高 ヨウ素摂取は間欠的であっても甲状腺機能低 下を起こす可能性があるので注意すべきだと いう指摘があるが、間欠的高摂取は幼児の適 切なヨウ素摂取にとって必要と考えられる。 菜食者ではヨウ素摂取量の平均値が約 2 mg/日、中央値が 0.7 mg/日だった。日本人の ヨウ素摂取量は平均的には 1.5 mg/日といわ れることから、菜食者と一般の間に大きな差 異はないと考えられる。セレンに関しても、 食材からの計算にもとづく一般日本人の摂取 量推定値(約100 µg/日)よりやや少なく、日 本人の食事を実測した報告値とほぼ同様の値 だったことから、一般との間に大きな差はな いといえる。クロム摂取量は推定平均必要量 に届かない食事が相当数あった。一般日本人 のクロム摂取に関して信頼できる報告は少な いが、40 µg/日未満といわれることから、ヨ ウ素、セレンと同様に、菜食者と一般との間 に大きな差はないと思われる。一般日本人の モリブデン摂取量は150〜350 µg/日といわれ ており、今回示した菜食者の摂取量はこれを 大幅に上回った。モリブデンの供給源が穀物 と豆類であることから、菜食ではモリブデン の摂取量が高くなると考えられる。したがっ て、高モリブデン摂取は菜食の特徴といえる。 現在のモリブデンの耐容上限量は 500 µg/日 であるが、米国では2000 µg/日としている。 今回の菜食者が長年にわたって1000 µg/日近 いモリブデン摂取を継続し、かつ大きな健康 上の問題を生じていないことを考慮すると、 モリブデンの耐容上限量は現行よりも高い値 に変更できるかもしれない。

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E.結論 セレンとモリブデンは成分表からの計算値 と化学分析にもとづく実測値がほぼ一致する が、ヨウ素とクロムは計算値と実測値との乖 離が大きかった。ヨウ素とクロムは、成分表 を用いた計算値の信頼性は低いと判断した。 母親手作りの離乳食に含まれるヨウ素、セ レン、クロム、モリブデンを分析した。離乳 食からのセレン摂取量は平均で耐容上限量を 上回った。目標量的性格をもつ成人のセレン の上限量を体重比で 18 歳未満に適用するこ とを再考する必要があると判断した。また、 ヨウ素は、推定平均必要量と上限量の間に収 まる献立が少ないことから、間欠的高摂取が 適正摂取の維持に必要と考察した。 厳格な菜食であるビーガンの食事のヨウ素、 セレン、クロム、モリブデンの分析を行って 摂取量を推定した。菜食者が長年にわたって 1000 µg/日近いモリブデン摂取を継続し、大 きな健康上の問題を生じていないことから、 モリブデンの耐容上限量をより高い値に変更 できる可能性があると考えた。 F.研究発表 論文発表(学会発表は省略) 1. 吉田宗弘. 食事摂取基準(2010)の策定 − ビタミンとミネラル − 微量ミネラル ビタ ミン (2010) 84, 240-245. 2. 吉田宗弘、児島未希奈、三由亜耶、森田 明美. 病院および介護施設の食事からの微 量ミネラル摂取量の計算値と実測値との比 較. 微量栄養素研究 (2011) 28, 27-31. 3. 吉田宗弘、野崎詩乃、乾由衣子. 市販離乳 食からのヨウ素とクロムの摂取量の推定. 微量栄養素研究 (2011) 28, 79-83. 4. 柴田克己、福渡努、吉田宗弘. 生化学検査. (3)ビタミンと微量ミネラル. 栄養−評価 と治療 (2011) 28, 143-147.

5. Yoshida M, Ôgi N, Iwashita Y. Estimation of Mineral and Trace Element Intake in Vegans Living in Japan by Chemical Analysis of Duplicate Diets. Health (2011) 3, 672-676. 6. Yoshida M, Fukuwatari T, Sakai J, Tsuji T,

Shibata K. Correlation between Mineral Intake and Urinary Excretion in Free-living Japanese Young Women. Food and Nutrition Sciences (2012) 3, 123-128. 7. 吉田宗弘、増田卓也、高橋健哉、福永健 治. 兵庫県の都市部在住の乳幼児に対する 自家製離乳食のミネラル含有量の評価.微 量栄養素研究 (2012) 29, 67-71. 8. 吉田宗弘. 微量ミネラルの食事摂取基 準:ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン. New Diet Therapy (2012) 28, 13-17. 9. 吉田宗弘. クロムはヒトの栄養にとって 必須の微量元素だろうか? 日本衛生学雑 誌 (2012) 67, 485-491. 10. 吉田宗弘. セレンとモリブデンの生理機 能と適切な摂取量の範囲. ビタミン (2012) 86, 548-557.

11. Yoshida M. Molybdenum in Biological Samples and Clinical Significance of Serum Molybdenum. In: Analytical Techniques for Clinical Chemistry (ed Caroli S, Záray G). John Wiley & Sons (2012) 393-404.

12. 吉田宗弘. 微量ミネラルの過剰摂取 − 日 本人のヨウ素摂取は過剰水準か. FFIジャー ナル (2013) 218, 12-19.

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1.特許取得 なし 2.実用新案登録 なし 3.その他 なし

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1 Com parison of esti m ated val ues w ith an aly ze d valu es in i nt akes of io di ne, selen ium , chro m iu m and m oly bd en um fro m diets in ho spi ta l an d n ursing e Iodi ne (µ g/d) Selen ium (µg/d) Chrom iu m (µg/d) Moly bd enum (µg/d) Estim ated Analyzed Estim ated Analyzed Estim ated Analyzed Estim ated Analyzed sp

ital sual die

t A 1 sua l die t A 2 sua l die t A 3 sua l die t B1 sua l die t B2 sua l die t B3 ursing hom e sua l die t sem i-liqui d die t 347 80 52 246 345 419 - - 411 340 304 332 292 415 - - 108 146 73 120 82 86 58 17 101 114 90 125 151 146 59 24 7 5 5 9 13 14 - - 48 22 25 28 67 65 - - 242 269 253 223 218 267 157 65 302 289 247 177 333 480 230 106 ean 248 3 49 86 101 9 43 212 2 71 NS 0.5 6 (N S) NS 0.6 7 (N S) p=0.005 0.8 8 ( p=0 .0 17) NS 0.7 1 ( p=0 .0 49)

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I odi ne , sele ni um , chro m iu m and m oly bden um con ten ts i n ho m em ade ba by foods Con ten ts i n ba by food D R I-J (per 10 00 kca l) A ged 8 to 11 m onths (n=16) A ged 12 to 1 6 m onths (n=9) AI for 9 to 11 Mon ths EAR for 1 to 2 years UL for 1 to 2 years g/1 000 kca l) ium (µg/10 00 kca l) iu m (µ g/1000 kcal) en um (µg/ 10 00 kcal ) 43 6 ± 7 21 92 ± 31 13 ± 6 25 7 ± 1 32 28 3 ± 4 18 68 ± 11 14 ± 5 19 4 ± 1 21 193 22 1.5 4 37 11 - - 263 53 are m eans ± SD. 3 Int ak e of i od in e, se len ium , chro m ium and m oly bde num in Jap anese ve ga ns Vegans ( n=12) DRIJ for fe m al e ag ed 30 to 4 9 ye ar s Mean ± SD Median EAR RDA UL ne (µ g) ium (µg) iu m (µ g) bd enum (µg) 18 65 ± 19 34 78 8 (25 5-2 44 1) 1) 87 ± 34 27 ± 8 54 0 ± 2 07 11 58 74 6 2) 76 28 563 95 20 25 20 130 25 30 25 22 00 230 - 500 eom etrical m ean w ith SD range in par ent heses. di an cal cu la ted after lo garit hm ic transform ation of data for e ach dai ly du pli cat e di et s am ple.

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) (総合)研究報告書 日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究 研究代表者 徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長 Ⅲ.研究協力者の報告書 2. 脂溶性ビタミン(ビタミン D・K を中心に) 研究協力者 田中 清 京都女子大学家政学部食物栄養学科 研究要旨 ビタミン欠乏は古典的欠乏症を起こすが、より程度の軽い不足も、疾患罹患のリスクを増加さ せる。食事摂取基準策定において、不足を考慮するのか否かは、非常に重要な問題であり、この 点を中心に検討した。脂溶性ビタミンの中、ビタミンD・K について、このような点が問題にな り、骨折のリスクが増大するので、特に骨折予防を念頭において、ビタミンD・K に関して調査 を行った。 高齢者において、目安量を大幅に上回るビタミンD・K 摂取にも関わらず血中濃度は低く、5 μg/ 日のビタミンD 介入では、血清 25(OH)D 濃度はほとんど上昇せず、20 μg /日でも 20 ng/ml を上回 ったのは40%に過ぎなかった。大腿骨頚部骨折患者において、血清中ビタミン D・K 濃度は低く、 主成分分析の結果、血中ビタミンD・K 濃度は、全般的低栄養とは異なった内容を表していた。 施設入居高齢者を対象のコホート調査より、低ビタミンD 血症と感染症の関連が示唆された。 摂取基準策定において、ビタミンD は食事からの摂取以外に、紫外線によって皮膚でも産生さ れることが問題になる。そこで完全遮光で日常生活を送っている色素性乾皮症 (XP) の調査を行 った。まだ結果をまとめられていないが、紫外線によるビタミンD 産生のない状態での、ビタミ ンD 摂取と血清 25(OH)D 濃度の関連が得られることが期待される。 近年ビタミンK 不足は骨折の危険因子であることが知られているが、現在の摂取基準は、肝臓 における血液凝固因子活性化のみに基づいて定められている。肝臓に比べて骨で充足させるには より多くのビタミンK 摂取が必要であり、また重症心身障害者の調査から、ビタミン K 摂取の少 ない状況では意味を持つことが示唆された。 このように不足をも考慮すべき栄養素に関しては、健常人における摂取の中央値をもって目安 量とするという方法論は成り立つのか、再考が必要と思われた。 さらに今後疾患の予防におけるビタミンの意義を考察するために、医療経済評価を試みた。栄 養素の効果は、薬物療法に比して小さいが、費用ははるかに安いことから、費用対効果に優れ、 また副作用の懸念もない。今後このような分析も必要ではないだろうか。

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A.目的 ビタミンD 欠乏によるクル病・骨軟化症、 ビタミンK 欠乏 (deficiency) による出血傾向 など、ビタミン欠乏は、古典的な欠乏症を引 き起こす。近年それより程度の軽い不足 (insufficiency) であっても、疾患罹患のリスク を増加させることが注目されている。食事摂 取基準の策定にあたって、欠乏の防止のみを めざすのか、不足をも考慮するのかは、非常 に重要な問題である。 そこで今回、ビタミン不足がどのような臨 床的アウトカムと関連するのかを中心に検討 した。脂溶性ビタミンの中でも、このような 点が問題になるのはビタミンD、ついでビタ ミンK であり、いずれも不足によって、骨折 のリスクが増大する。したがって本研究にお いては、特に骨折予防を念頭において、ビタ ミンD・K に関して調査を行った。 B.方法、C.結果、D.考察 本研究は、いくつかの調査からなっている ので、個別に方法・結果・考察を示し、最後 に総括して考察を述べる。 1. 大腿骨近位部骨折患者における低ビタミ ン血症と全般的低栄養の関連 1) 目的 低ビタミン血症に関して、それが単 に全体的低栄養の反映ではないかということ が問題になる。コホート研究や介入研究とは 異なり、横断調査においては、この点の補正 は困難なので、主成分分析によるこの問題の 解決を試みた。 2) 方法 大腿骨近部骨折患者 99 名、及び近 隣の老人ホーム入所の対照者から、受傷後24 時間以内に採血を行い、血中25OHD 濃度、 ビタミンK(フィロキノン;PK、メナキノン -7;MK-7)濃度を測定した。 3) 結果 女性の骨折患者における 25OHD 濃 度は約9 ng/mL と、著明に低く、PK・MK-7 濃度は、対照群に比べて、骨折群で有意に低 かった。ロジスティック回帰分析の結果、 25OHD・PK 濃度は、骨折の有意の危険因子 であった。主成分分析の結果、全般的栄養状 態・ビタミンD 栄養状態・ビタミン K 栄養状 態を示す、3 つの独立な主成分が得られ、い ずれも骨折群で低かった。 4) 考察 今回主成分分析によって解析した ところ、血液中ビタミンD・K 低濃度は、全 般的低栄養の指標とは異なった内容を表して おり、単なる全般的低栄養の反映ではないこ とが示唆された。 2. 施設入居高齢者における低ビタミン血症 と全般的低栄養の関連 1) 目的 同様の問題意識から、施設入居高齢 者に対しても同様の研究を行った。 2) 方法 施設入居高齢者 50 例を対象に、血 中25OHD 濃度、ビタミン K (PK・MK-7) 濃 度測定、食事調査を行った。 3) 結果 ビタミン D 摂取の中央値は約 7 μ g/ 日と、目安量を大幅に上回っていた。25OHD 濃度は20 ng/mL 未満では確実に不足・欠乏で あるが、平均11.1 ng/mL にすぎず、ビタミン K 摂取の中央値も、現行の目安量の約 2.5 倍 の値であったが、血中PK・MK-7 濃度は、健 康な 70 歳以上の日本人における既報値より はるかに低かった。主成分分析の結果、全般 的栄養状態・ビタミンD 栄養状態・ビタミン K1状態・ビタミンK2状態を表す4 つの主成 分が得られた。

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上記骨折患者と同様、血液中ビタミンD・ K 低濃度は、全般的低栄養の指標とは異なっ た内容を表しており、単なる全般的低栄養の 反映ではないことが示唆された。 3. 肝臓と骨におけるビタミン K 必要量の比 1) 目的 従来血液中ビタミン K 濃度測定法 には、種々方法論上の問題点があったが、最 近須原らによりgold standard と言うべき方法 が開発された。しかしこれには多大の費用・ 労力を要し、研究目的にはよいが、多数例を 対象とした疫学研究には容易に応用できない。 またビタミンK は、肝臓より骨などそれ以外 の臓器において、より不足になりやすいこと が知られているが、血液中濃度測定では、こ れらを区別できない。そこで、各臓器におけ るビタミンK不足の指標を測定することが現 実的である。肝臓においては、Gla 化されて いない異常プロトロンビンである PIVKA-Ⅱ (protein induced by vitamin K absence)、骨にお いては、Gla 化されていないオステオカルシ ンであるucOC (undercarboxylated osteocalcin) 濃度が、各臓器におけるビタミンK 不足の指 標となるので、これらの指標を用いて、施設 入居高齢者における、肝臓・骨におけるビタ ミンK 不足者の頻度を検討した。 2) 方法 37 例の施設入居高齢者を対象に、 血中PIVKA-Ⅱ・ucOC 濃度測定、食事調査を 行った。 3) 結果 血清 PIVKA-II 濃度は、20.2±8.9 mAUmL(基準値 28 mAU/mL 未満)、血清 ucOC 濃度は、4.7±3.0 ng/mL(基準値 4.5 ng/mL 未満)であり、基準値を超える例は、 それぞれ14%・43%であった。一方ビタミン K 摂取の中央値は約 200 μg/day であり、現行 の目安量の約3 倍であった。 4) 考察 目安量を大きく上回る摂取量にも 関わらず、骨におけるビタミンK 作用不足の 指標である血清ucOC 濃度が基準値を上回る 対象者の割合が高かった。現行の目安量が肝 臓におけるビタミンK作用を指標として策定 されており、骨作用を考慮していないことを 考えると、これは当然の結果とも言えるが、 ビタミンK 不足は、肝臓より骨においてより 起こりやすいことが確認された。 4. 色素性乾皮症 (XP) 患者におけるビタミ ン D 栄養状態とその必要量の検討 1) 目的 2010 年、カルシウム・ビタミン D に関して,アメリカ・カナダの食事摂取基準 が全面改訂された。方法論からみると、目安 量ではなく、推定平均必要量(EAR)・推奨 量(RDA)に変わったのが大きな変化である。 ビタミンD のような、紫外線の作用下に、体 内でも合成できるビタミンに関しては、欠乏 充足実験は困難であり、EAR・RDA ではなく、 目安量(AI)を定めざるを得ないというのが、 従来の常識的な考え方だが、ここでは、血中 25OHD 濃度と摂取量の容量依存性試験の結 果からEAR・RDA が定められ、その際、紫 外線によるビタミンD産生が無視できる対象 者として、北極圏住民のデータが使われてい る。しかし日本において、このような対象者 は殆ど存在しない。 XP 患者は、紫外線によって生じた DNA 損 傷の修復機構に異常があるため、紫外線によ り、皮膚がんなどの健康障害リスクが非常に 高く、日常的に、厳密な遮光を必要とする。 すなわち、この対象者であれば、

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紫外線によるビタミンD産生が無視できると 考えた。従来、XP 患者のビタミン D 栄養状 態についての報告はいくつか存在するが、ビ タミンD摂取量を併せて調査をしている報告 は殆ど見られないため、本研究ではビタミン D 摂取量と血中 25OHD 濃度を併せて測定す ることとした。 2) 対象と方法 XP 患者を対象とし、血中 25OHD および、ビタミン D 欠乏/不足の鋭敏 な指標である血中副甲状腺ホルモン (intact-PTH) 濃度測定、食事調査と遮光状況 の調査を行うこととした。 食事調査については、食事記録法に併せデ ジタルカメラによる撮影を行った。食事調査 の期間は血中25OHD 濃度の半減期を考慮し て、外来診察日の前1 ヶ月間以内の非連続 2 日間とした。 本調査は、大阪医科大学皮膚科および神戸大 学皮膚科との共同研究であり、現在約半数の 対象者より、血液検体・食事調査結果が得ら れ、その解析中である。 5. 施設入居高齢者におけるビタミン D 栄養 状態と肺炎および死亡に関するコホート研 1) 目的 本研究は、施設入居高齢者における ビタミンD栄養状態と上気道感染および肺炎 の罹患、死亡との関係を明確にするために実 施した。 2) 方法 対象者は、採血が可能であった 208 名 (M/F; 38/170) であった。平均年齢は 85.4 歳であり、全対象者の74%が要介護 3 以上で あったが、一般栄養状態は保たれていた。 3) 結果 血中 25OHD 濃度は平均が 10.9 ng/mL と 47%の対象者が 10 ng/ml 未満のビタ ミンD 欠乏状態であった。一年間の上気道感 染および肺炎発症率を算出したところ、上気 道感染症は43 件/100 人年、肺炎は、11 件/100 人年、両者を合わせた感染症総合で54 件/100 人年であった。観察期間中の死亡者は男性3 名、女性11 名であった。なお死亡例が少なか ったため、現時点では解析を行っていない。 感染症総合の有無で背景因子を比較した ところ、既往歴については、無し群で認知症 が高値傾向、有り群で糖尿病の罹患者の割合 が有意に高値であった。平均血中25OHD 濃 度は、両群で有意差がなかったものの、ビタ ミンD 欠乏状態とされる者の割合は、有り群 で有意に高値を示した。栄養素等摂取量にお いては、有り群でエネルギーおよび三大栄養 素が有意に低値を示し、これに伴い、ビタミ ンDおよびカルシウム摂取量も有意に低値を 示した。 感染症総合の発症に関与する因子を検討 するために、性別、年齢、認知症の有無、糖 尿病の有無、喘息の有無、活性型ビタミンD 製剤服用の有無、BMI、血清アルブミン値、 血清PTH 濃度、ビタミン D 欠乏状態の有無 を共変量因子としたCOX 回帰分析を行った。 その結果、性別(男性を基準とする;HR, 0.54,95%CI; 0.30- 1.00)、年齢 (HR, 1.05,95%CI; 1.02- 1.08)、認知症あり (HR, 0.60, 95%CI; 0.36- 0.98)、喘息あり(HR, 2.50,95%CI; 1.05- 5.96)、ビタミン D 欠乏 (HR, 1.69, 95%CI; 1.02- 2.80) となった。 4) 考察 以上の結果より、ビタミン D 欠乏 状態が上気道感染および肺炎発症の一要因に なることが示唆された。 6. 重症心身障害者におけるビタミン K 不足

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頻度及びその要因に関する研究

1) 目的 重症心身障害者 (Severe motor and intellectual disabilities; SMID) は、抗痙攣薬の 服用率が非常に高く、抗痙攣薬は肝臓におけ るビタミンD 代謝酵素を誘導することから、 SMID 患者におけるビタミン D 欠乏症に関し ては,多くの報告があるが、SMID 患者におい て出血傾向が見られたという報告もあるもの の、ビタミンK に関する報告は乏しい。そこ でSMID 患者におけるビタミン K 不足の頻度、 及びそれに対する寄与因子を検討した。 2) 対象と方法 対象者は、びわこ学園草津に 入所中のSMID 患者 82 名(男性 41、女性 41) であった。 早朝空腹時に採血を行い、肝臓及び骨にお けるビタミン K 不足の指標として、血清 protein induced by vitamin K absence-II (PIVKA-II)、及び undercarboxylated osteocalcin (ucOC)、また血小板数、プロトロンビン時間 (PT) をも測定した。7 日間の食事記録に基づ き、施設からのビタミンK 供与量に平均摂取 率を乗じて、ビタミンK の摂取量を求めた。 3) 結果 基礎疾患としては、脳性麻痺が最も 多く66 例であった。嚥下障害を伴う例が多い ことから、経管栄養を受けている対象者も多 く、46 例は経口摂取可能であったが、36 例は polymeric diet による経管栄養を受けていた。 長期抗生剤投与例は19 例、抗痙攣薬服用者は 71 例であった。 血清PIVKA-II 濃度は 60.9±106.5 mAU/mL (median: 29.0 min-max;10- 632 mAU/mL )、基準 上限値28mAU/mL を超えたのは 52%であっ た。血清ucOC 濃度は5.44±5.70 ng/mL (median: 3.49; min-max; 0.39-32.56)、基準上限値を超え たのは30%であった。 経腸栄養剤からの分も含めたビタミンK摂 取は、全体として4.5 μg/BW/day であり、EN 群では (2.0 μg/BW/day)、OI 群(5.7 μg/BW/day) より有意に低かった。 血清PIVKA-II 濃度・ ucOC 濃度はいずれ も、OI 群より EN 群において、また抗生剤非 投与群より投与群において有意に高かった。 重回帰分析の結果有意の寄与因子は、 PIVKA-II に対して EN 及び抗生剤投与、ucOC に対しては抗生剤投与が唯一の有意の寄与因 子であった。 EN の有無、抗生剤投与の有無により、対 象者を4 群に分けたところ、両方の要因を有 す る 群 (EN/AB+) に お い て は 、 血 清 PIVKA-II ・ucOC 濃度はいずれも、他の 3 群 より高かった。 抗生剤非投与例において、ビタミンK 摂取 量は血清 PIVKA-II 濃度と有意の逆相関を示 し(r= -0.448, p< 0.001)、血清 ucOC 濃度とも逆 相関の傾向であった(r=- 0.247, p=0.051)。血清 PIVKA-II・ucOC 濃度を上昇させるビタミン K 摂取量は、それぞれ 2.5 μg/BW/day and 5.5 μg/BW/day であった。 4) 考察 本研究の臨床的意義として、SMID 例では出血傾向の報告に加えて、骨折リスク 増加の報告もある。現在多くの骨粗鬆症治療 薬が開発されているが、SMID 例への投与は 困難なものがほとんどであり、ビタミンK 補 充は、有力な候補となり得るであろう。 また栄養学的には、ビタミンK の供給には 食事からの経口摂取が大きな意味を持ち、腸 内細菌による産生の寄与は小さいと従来考え られてきたが、本調査の結果から、経口的ビ タミンK 供給が不足している状況では、腸内 細菌による産生も、臨床的意義を持つことが 示唆された。ビタミンK 欠乏による出血は、

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成人では基本的には起こらないが、新生児で は重要な問題である。新生児におけるビタミ ンK 欠乏の発生機序として、母乳中ビタミン K 濃度低値などに加えて、腸内フローラの未 成熟も挙げられている。すなわち本研究は、 このような病態の理解にも貢献し得るものと 考えている。 7. 目安量策定法に関する検討 わが国の食事摂取基準において、改訂の度 に徐々にビタミンD 不足の意義が考慮され るようになってきたと思われる。第六次改訂 日本人の栄養所要量においては、「20~ 46 歳の人で、1.7 μg(68 IU)/ 日以下のビタミ ンD 摂取を数年間続けると骨軟化症が認め られるようになり、2.5 μg(100 IU)/ 日では 発生はみられなかったとの報告があるので、 2.5 μg(100 IU)/ 日とした」と述べられてお り、この記述はクル病・骨軟化症防止を念頭 においた、欠乏症対策と理解される。 一方2010 年版においては、「成人,とく に高齢者において、ビタミンD 欠乏とはいえ ないもののビタミンD 不足の状態が長期に わたって続くと、血中副甲状腺ホルモン濃度 が上昇し、骨密度が低下する。したがって、 正常なカルシウム利用能が保持され、血中副 甲状腺ホルモン濃度が上昇しない血中25‒ヒ ドロキシビタミンD (25OHD)濃度(ビタミン D 栄養状態の最もよい指標)を維持するのに 必要な量のビタミンD を摂取することが、骨 折や骨粗鬆症などの予防の観点から重要と考 えられる。しかし、その血中濃度を与えるビ タミンD 摂取量に関する根拠は乏しいため、 その血中濃度を維持していると考えられる集 団のビタミンD 摂取量の中央値を目安量と し」との記述がみられ、これは明らかに、ビ タミンD 不足による骨折リスク増加対策を も意識したものである。 目安量の策定理論に関して「特定の集団に おいて、生体指標等を用いた健康状態の確認 と当該栄養素摂取量の調査を同時に行い、そ の結果から不足状態を示す者がほとんど存在 しない摂取量を推測し、その値を用いる。対 象集団で不足状態を示す者がほとんど存在し ない場合には栄養素摂取量の中央値を用い る。」とされ、ビタミンD に関しては、「成 人において血中副甲状腺ホルモン濃度の上昇 を抑制し、骨密度の低下を予防するのに最低 限必要な血中25OHD 濃度は 50 nmol/L 前後 であると考えられる」と書かれている。 食事摂取基準2010 年版のビタミンD の項 に示されている表を見ると、ここで引用され ている論文において、50 ~ 69 歳の集団にお ける平均25OHD 濃度は 50 nmol/L(20 ng/mL)を越えているが、仮に 25OHD 濃度 が正規分布するものとして、表に示されてい る平均±標準偏差に基づき、50 nmol/L を下 回る対象者の割合を概算すると、3.0%から 49.7%に分布した(中央値 28.5%)。 するとこれらの集団は、不足者がほとんど いない集団であるから,それに対応する性・ 年齢階級における摂取の中央値をもって目安 量とするという方法そのものの妥当性を再検 討する必要性が生じる。 一方で、カルシウム・ビタミンD に関する アメリカ・カナダの食事摂取基準において、 骨の健康を維持するための血中25OHD 濃度 (50 nmol/L)を基に、ビタミン D の摂取量 が算定されており、RDA は,血中 25OHD 濃 度と摂取量の用量依存性試験の結果から定め

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られている。具体的な数字を日本に適用でき るのかどうかについては,多くの議論が必要 だが、ビタミン不足をも考慮した場合、この 策定の方法論は注目すべきものと思われる。 なお2010 年版に定められた目安量の値が 不適切であると述べているのではなく、従来 の目安量の概念に従って策定するならば、こ のような定め方にならざるを得ないであろう。 しかし、欠乏だけではなく、不足をも考慮し た場合、その摂取の中央値をもって目安量と することができるような健常人はおそらく存 在せず、不足のリスクの低い者から高い者ま で連続的に分布するのではないだろうか。 ビタミン不足をも考慮しなければならな い時代においては、目安量の策定において、 欠乏対策だけを考えていた時代にはなかった、 新たな問題点を生じており、目安量策定の方 法論に関して、再検討の時期が来ているもの と思われる。 8. ビタミン D による骨折予防の社会的意義 近年多くの新しい骨粗鬆症治療薬が開発さ れており、単に骨代謝改善や骨密度増加だけ ではなく、実際に骨折を抑制することも示さ れている。このような画期的新薬が多数処方 可能な時代にあって、ビタミンD による骨折 予防効果は、どのような意味を持ち得るのか、 文献的考察を行った。 ビタミンD による骨折予防効果は、新薬に 比べて小さいが、かかる費用は極めて低く、 また副作用の懸念もないことから、費用対効 果に優れ、一次予防には非常に適しているも のと考えられた。 従来わが国おいて、このような視点からの 研究はないが、今後検討されるべきテーマと 考えられた。 E.総合考察、F.結論 本研究の前段階の調査において、高齢者に おいて、ビタミンD・K 摂取が目安量を大幅 に上回るにも関わらず、それらの血液中濃度 は低く、5 μg/日のビタミン D 介入(当時の目 安量)では、血清25(OH)D 濃度はほとんど上 昇せず、20 μg/日でも 20 ng/ml を上回ったの は40%に過ぎなかった。大腿骨頚部骨折患者 において、血清中ビタミンD・K 濃度は、対 照群に比して低かった。 これらの結果は、横断調査によるものであ り、交絡因子の調整が困難であるため、今回 主成分分析を行ったところ、血液中ビタミン D・K 濃度は、明らかに全般的低栄養とは異 なった内容を表していた。 しかしビタミンD・K 不足の真の臨床的意 義付けに関しては、コホート研究が必要であ るため、小規模ではあるが、施設入居高齢者 を対象に調査を行った。現在まだ結果を完全 にはまとめきれていないが、低ビタミンD 血 症は感染症と関連する可能性を示唆する結果 であった。さらに死亡・骨折など、真のエン ドポイントを指標とした、ビタミンD 介入試 験が必要であるが、これについては、企画は しているものの、まだ実施には至っていない。 摂取基準策定を考えた場合、ビタミンD・ K はいずれも難しい問題点を持っている。ビ タミンDに関しては、食事からの摂取以外に、 紫外線によって皮膚でも産生されることであ る。そこで完全遮光で日常生活を送っている 色素性乾皮症(XP)の調査を行った。まだ結果 をまとめられていないが、これにより、紫外 線によるビタミンD 産生のない状態での、ビ

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タミンD 摂取と血清 25(OH)D 濃度の関連が 得られることが期待される。 ビタミンKに関しては、現在の摂取基準は、 肝臓における血液凝固因子活性化のみに基づ いて定められているが、近年ビタミンK 不足 は骨折の危険因子であることが知られている。 肝臓及び骨における、ビタミンK 不足のマー カーを指標として調査した結果、肝臓に比べ て骨で充足させるにはより多くのビタミンK 摂取が必要であることが示された。また通常 腸内細菌によるビタミンK産生の寄与は大き くないと考えられているが、重症心身障害者 の調査から、ビタミンK 摂取の少ない状況で は意味を持つことが示唆され、新生児におけ るビタミンK欠乏による出血の病態理解に示 唆を与えるものと考えられた。 このように不足をも考慮すべき栄養素に関 しては、健常人における摂取の中央値をもっ て目安量とするという方法論は成り立つのか、 再考が必要と思われた。 さらに今後疾患の予防におけるビタミンの 意義を考察するために、医療経済評価を試み た。栄養素の効果は、薬物療法に比して小さ いが、費用ははるかに安いことから、費用対 効果に優れ、また副作用の懸念もない。今後 このような分析も必要ではないだろうか。 G.研究発表 論文発表(学会発表は省略)

1. Kuwabara A, Himeno M, Tsugawa N, Kamao M, Fujii M, Kawai N, Fukuda M, Ogawa Y, Kido S, Okano T, Tanaka K. Hypovitaminosis D and K are highly prevalent and independent of overall malnutrition in the institutionalized elderly.

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Chiba T, Inagaki N, Tanaka K. Fat restriction is associated with impaired quality of life (QOL) in patients with ulcerative colitis and Crohn’s disease. Ulcers Article ID 594532. (2011)

7. Yamada C, Fujimoto S, Ikeda K, Nomura Y,

Matsubara A, Kanno M, Shide K, Tanaka K, Imai E, Fukuwatari T, Shibata K, Inagaki N. Relation of homocysteine and

homocysteine-related vitamins to bone mineral density in Japanese patients with type 2 diabetes. J Diabetes Invest (2011) 2,

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233-239.

8. Nagae A, Kuwabara A, Tozawa K, Kumode M, Takeuchi Y, Tanaka K.

Enteral nutrition and antibiotic use increase the risk for vitamin K deficiency in patients with severe motor and intellectual disabilities. e-SPEN Journal, in press . 9. Tanaka K, Terao J, Shidoji Y, Tamai H, Imai

E, Okano T. Dietary Reference Intakes for Japanese 2010: Fat-soluble vitamins. J Nutr Sci Vitaminol (2013) 59, supple S57-S66. 10. 田中清、桑原晶子 ビタミン D による骨 折予防効果の意義:医療経済の視点から ビタミン (2010) 84, 128-129. 11. 田中清、桑原晶子 日本人の食事摂取基 準における目安量は健康人の摂取の中央 値でよいのか? ビタミン (2011) 85, 608-609.

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13. Yoh K, Uzawa T, Orito T, Tanaka K.

Improvement of quality of life (QOL) in osteoporotic patients by elcatonin treatment: a trial taking the participants’ preference into account. Japanese Clinical Medicine (2012)

2, 9-14. H.知的財産権の出願・登録状況 1.特許取得 なし 2.実用新案登録 なし 3.その他 なし

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厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業) (総合)研究報告書 日本人の食事摂取基準の改定と活用に資する総合的研究 研究代表者 徳留 信寛 国立健康・栄養研究所 理事長 Ⅲ.研究協力者の報告書 3.「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」策定に用いた文献の体系的分類と 今後の課題に関する検討 研究協力者 中出 麻紀子 (独)国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部 研究協力者 今井 絵理 (独)国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部 研究分担者 坪田(宇津木)恵 (独)国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部 研究分担者 笠岡(坪山)宜代 (独)国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部 研究要旨 本研究では「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」におけるエビデンス不足部分及び基準値策 定の考え方について抽出し、根拠論文の内容を体系的に分類することで、次期策定の課題を明ら かにすることを目的とした。 成人において食事摂取基準値が策定されているエネルギー及び34 種類の各栄養素について、基 準値策定に直接使用された文献を「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」報告書より抽出し、策 定の考え方及び以下の項目(対象者の人種、出版年、対象者の性別、文献の種類及び研究デザイ ン、解析人数、論文内容)を体系的に分類した。 基準値策定に直接関わる根拠として166 件の文献が抽出され、どの指標にも共通して日本人に 関する文献が少ないこと、一部の栄養素について策定の考え方に対応する文献が不足しているこ と、1980 年代の文献 1 件のみで基準値(耐容上限量)が策定された栄養素(ビタミン A、ビタミ ンD、ビタミン B6、鉄、銅)が存在すること等が明らかとなった。策定の考え方の内容について は、特に目標量の策定において栄養素間で不統一性が認められた。 食事摂取基準次期策定の際には、策定の考え方、及びビタミンA、ビタミン D、ビタミン B6、 鉄、銅の耐容上限量等をはじめとするエビデンスが少ない栄養素の扱い等について再検討する必 要性が示唆された。また、今後は日本人を対象としたエビデンスの増加が望まれる。 A.目的 日本人の食事摂取基準は、国の健康増進 施策や栄養改善施策等を策定する際の基本 となるものであり、現在、保健所、保健セ ンター、民間の健康増進施設における栄養 教育や各種施設における給食の提供等にお いて幅広く活用されている。食事摂取基準 は近年では5 年毎に改定が行われ、最新の ものは「日本人の食事摂取基準(2010 年 版)」(平成22 年度から 26 年度までの 5

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年間使用)である。「日本人の食事摂取基 準(2010 年版)」では、策定の目的として、 1)摂取不足からの回避、2)過剰摂取による 健康障害からの回避、3)生活習慣病の一次 予防を設定し、国内外の学術論文や学術資 料をレビューした上で基準値を策定してい る。基準値策定の根拠は報告書の文章に記 載されているが、指標毎に体系的に示され た報告は少ない。次期策定の基礎資料とし て、また活用を進めるためにも策定根拠の 明確化が必要である。 そこで本研究では、「日本人の食事摂取基 準(2010 年版)」の成人における基準値策 定の考え方の抽出、及び基準値策定の際に 使用された文献を体系的に分類することに より、1)エビデンス不足部分、2)策定の考 え方における課題について明らかにするこ とを目的とした。 B.方法 「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」報 告書 1)で成人について食事摂取基準値が策 定されているエネルギー及び 34 種類の各 栄養素(たんぱく質、脂質、飽和脂肪酸、 n-6 系脂肪酸、n-3 系脂肪酸、コレステロー ル、炭水化物、食物繊維、ビタミン A、ビ タミン D、ビタミン E、ビタミン K、ビタ ミン B1、ビタミン B2、ビタミン B6、ビタ ミンB12、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、 ビオチン、ビタミン C、ナトリウム、カリ ウム、カルシウム、マグネシウム、リン、 鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、 クロム、モリブデン)について、報告書本 文中の記載から基準値策定の考え方、その 基準値策定に使用された文献を抽出した。 抽出する文献は成人の基準値策定に直接使 用された文献(数値の加工・未加工は問わ ず、食事摂取基準値、又は基準値の計算に 用いた文献)に限定し、栄養素の特性およ び策定の背景に使用された文献や、基準値 の妥当性に関する文献は抽出対象から外し た。その後、抽出された文献は、推定エネ ルギー必要量、推定平均必要量または目安 量、耐容上限量、目標量の各指標別に、以 下の項目に沿って分類した:対象者の人種 (日本人、それ以外(人種が不明なものも 含む))、出版年(1940 年代、1950 年代、 1960 年代、1970 年代、1980 年代、1990 年 代、2000 年代)、対象者の性別(男性のみ、 女性のみ、男女、不明)、文献の種類及び 研究デザイン(論文の場合は横断研究、コ ホート研究、症例対照研究、介入研究、総 説、メタアナリシス、症例報告、その他の 文献の場合はガイドライン、解説、報告書、 その他)、解析人数(10 名未満、10 名~100 名未満、100 名~500 名未満、500 名~1000 名未満、1000 名以上、不明)、論文内容。 「推奨量」は「推定平均必要量」から推奨 量算定係数を用いて算出するため、対象外 とした。分類は、以下の定義に従って行い、 栄養素間及び指標間で比較を行った。1)「日 本人の食事摂取基準(2010 年版)」の報告 書で、論文の一部の結果のみが使用されて いる場合には、その結果について解析した 人数とした(例えば、基礎代謝に関する論 文で、寝たきりの者と寝たきりでない者の 結果が示され、「日本人の食事摂取基準 (2010 年版)」の報告書で寝たきりでない 者の結果のみが採用されている場合には、 寝たきりでない者の人数を解析人数とし た)、2)出納試験が実施された研究のうち、 窒素出納や、水溶性ビタミンの出納等、出 納の平衡維持量について検討している研究 は介入研究に分類し、二重標識水法を用い た身体活動量の測定等、検討目的が出納の 平衡維持以外の場合は横断研究等に分類し

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た、3)日本人を対象とした文献の抽出は、 方法に日本人の人種の記載があること、調 査地域が日本に限定されており外国人が含 まれているという記載がないこと等を根拠 とした、4)抽出された文献が総説、ガイド ライン・解説、その他の資料の場合には、 性別及び解析人数の項目には含めなかった。 なお、「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」 の報告書では1)、「推定エネルギー必要量」 とは、個人又は集団において、体重を維持 するために必要なエネルギー摂取量の推定 値、「推定平均必要量」とは、ある対象集 団に属する50%の人が必要量を満たすと推 定される摂取量、「目安量」とは、推奨量 が算定できない場合に設定されるもので、 特定の集団において、ある一定の栄養状態 を維持するのに十分な量、「耐容上限量」 とは、健康障害をもたらすリスクが無いと みなされる習慣的な摂取量の上限量、「目 標量」とは、生活習慣病の一次予防を目的 として、特定の集団において、その疾患リ スクや、その代理指標となる生体指標の値 が低くなると考えられる栄養状態が達成で きる量と定義されている。 C.結果 1.各栄養素における基準値策定の有無 「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」 の基準値策定に直接使用された文献につい て、指標別に表1 から表 4 に示した。基準 値が策定されている 34 種類の栄養素のう ち、推定平均必要量は19 種類の栄養素(た んぱく質、ビタミン A、パントテン酸及び ビオチン以外の水溶性ビタミン、ナトリウ ム、カルシウム、マグネシウム、マンガン 以外の微量ミネラル)、目安量は9 種類の 栄養素(n-6 系脂肪酸、ビタミン D、ビタミ ン、カリウム、リン、マンガン)で策定さ れており、合計28 種類の栄養素について策 定されていた(表 2)。一方、脂質、飽和 脂肪酸、n-3 系脂肪酸、コレステロール、炭 水化物、食物繊維に関しては推定平均必要 量及び目安量のいずれも策定されていなか った。耐容上限量は16 種類の栄養素(ビタ ミン A、ビタミン D、ビタミン E、ナイア シン、ビタミンB6、葉酸、カルシウム、マ グネシウム、リン、及びクロム以外の微量 ミネラル)について基準値が策定されてお り(表 3)、目標量は 9 種類の栄養素(脂 質、飽和脂肪酸、n-6 系脂肪酸、n-3 系脂肪 酸、コレステロール、炭水化物、食物繊維、 ナトリウム、カリウム)について、基準値 が策定されていた(表4)。 2.基準値策定に直接使用された文献の数 「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」 の報告書に引用されている文献のうち、基 準値策定に直接使用された文献の数は、重 複分を除くと、推定エネルギー必要量で14 件、推定平均必要量(85 件)及び目安量(9 件)で合計94 件、耐容上限量で 47 件、目 標量で11 件であった。 推定エネルギー必要量の策定には、基礎 代謝量や身体活動レベル等に関する日本人 男女を対象とした文献が14 件使用され、出 版年も2000 年代が 10 件(71.4%)を占めて いた(表1)。 一方、栄養素の推定平均必要量の策定に は、85 件中、日本人を対象とした文献が 13 件(15.3%)使用されており、ビタミン B6 を除く水溶性ビタミン及びナトリウム、鉄 を除く微量ミネラルでは、日本人を対象と した文献の使用は無かった(表 2)。栄養 素別に見ると、たんぱく質(16 件)の文献 使用数が最も多く、次いでカルシウム(15

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件)、亜鉛(9 件)、ビタミン A(8 件)、 葉酸(7 件)であり、その他の栄養素の使 用文献数は5 件以下であった。たんぱく質 では窒素出納法に関する文献が多く使用さ れていたものの、1970 年代及び 1980 年代 の文献が中心であった。目安量に関しては、 使用された9 件の文献のうち日本人を対象 とした文献が重複分を除き7 件(77.8%)を 占めていた。日本人を対象とした文献のう ち、ビタミン K、ビオチン、マンガン以外 は、国民健康・栄養調査の結果を使用して いた。 耐容上限量では、基準値が策定されてい る16 種類の栄養素のうち、日本人を対象と した文献が使用されているのはビタミン E、 リン、ヨウ素、セレンのみであり、使用文 献数は47 件中 5 件(10.6%)であった(表 3)。ビタミン A、ビタミン D、ビタミン B6、鉄、銅は1980 年代の文献 1 件のみで耐 容上限量の値が策定されており、特にビタ ミンA は 10 例未満の症例報告 1 件のみで あった。 目標量に関する使用文献数は、重複分を 除くと、日本人を対象としたものが11 件中 4 件(36.4%)であった(表 4)。日本人を 対象とした文献が使用されている栄養素 (脂質、飽和脂肪酸、n-3 系脂肪酸(下限値)、 ナトリウム、カリウム)のうち、飽和脂肪 酸以外は国民健康・栄養調査の結果を使用 していた。また、目標量では、推定平均必 要量及び目安量や耐容上限量とは異なり、 対象者数 1000 名以上の大規模なコホート 研究やメタアナリシスの結果が多く使用さ れていた。 3.策定の考え方 推定エネルギー必要量は基礎代謝量及び 身体活動レベルを用いた計算式を根拠に算 定されていた(表1)。 推定平均必要量は、出納試験の結果によ るもの(たんぱく質、ビタミンB1、ビタミ ンB2、ナイアシン、ナトリウム、マグネシ ウム、クロム、モリブデン)、生体指標を アウトカムにしたもの(ビタミン A、ビタ ミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、 銅、ヨウ素、セレン)、要因加算法による もの(カルシウム、鉄、亜鉛)等、栄養素 により様々であった(表 2)。また、推定 平均必要量が算定できない場合の代替指標 である目安量は、主に、食事調査による推 定平均摂取量(n-6 系脂肪酸、ビタミン E、 パントテン酸、ビオチン、リン、マンガン 等)に基づいて策定されていた。生体指標 をアウトカムにした栄養素では、栄養素の 欠乏症状が生じないと考えられる摂取量を 主な策定の考え方としていたが、ビタミン C のみ例外で、生活習慣病の一次予防に当 たる心臓血管系疾病の予防や抗酸化作用が 期待できる摂取量を策定の考え方としてい た。また、ビタミンD では、血清 25-ヒド ロキシビタミンD 濃度を摂取量の考え方と していたが、実際の食事摂取基準値は、国 民健康・栄養調査による摂取量の中央値を 参考に策定されていた(国民健康・栄養調 査では血清25-ヒドロキシビタミン D 濃度 を測定していない)。 耐容上限量では、ビタミンA であれば肝 臓障害、ビタミンD であれば高カルシウム 血症、マグネシウムであれば下痢の様に、 各々特定の健康障害(過剰症)に焦点を当 て、基準値が策定されていた(表 3)。策 定に使用された文献の内容は、疾患の治療 目的で投与試験を行った際の健康障害の有 無の報告(ビタミン D、ナイアシン、ビタ ミンB6、銅、セレン)、症例報告(事故の 事例)(ビタミン A、カルシウム)、他国

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の基準(マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガ ン、モリブデン)が多かった。そのうち、 総説、報告書、ガイドラインを除く文献に おいて健康障害の発現の報告がある栄養素 は、ビタミンA、ビタミン D、ナイアシン、 カルシウム、マグネシウム、ヨウ素、セレ ンであった。一方、ビタミン E、ビタミン B6、葉酸、銅では健康障害の発現は報告さ れていなかった。 目標量は 9 種類の栄養素について策定さ れていたが、そのうち、n-6 系脂肪酸(上限 値)は十分な根拠が無いまま基準値が策定 されていた(表 4)。炭水化物も同様に、 「推定エネルギー必要量から脂肪エネルギ ー比とたんぱく質エネルギー比を差し引い たもの」との考えの下に基準値が策定され ていたものの、その値の根拠は十分ではな いとの記述があった。 飽和脂肪酸、コレステロール、食物繊維 は脳出血や冠動脈性心疾患のリスク低下の 考えに基づき基準値が策定されていた一方 で、n-3 系脂肪酸(下限値)では日本人にお ける摂取量(国民健康・栄養調査結果)の 中央値を策定の考え方としていた。また、 ナトリウムやカリウムは、高血圧予防(治 療)のためのガイドライン値と、国民健康・ 栄養調査による摂取量の中央値との中間値 を策定の考え方としていた。 D.考察 本研究では、「日本人の食事摂取基準 (2010 年版)」報告書を基に、基準値の策 定根拠の抽出及び基準値策定に用いられた 文献の体系的分類を行い、エビデンス不足 部分及び策定の考え方の面から検討を行っ た。その結果、様々な課題が明らかとなっ た。まずエビデンス不足部分に関しては、 文献が少ないこと、耐容上限量では、日本 人を対象とした文献が少ないことに加え、 全体的に古い文献が多く使用されているこ と、n-6 系脂肪酸、炭水化物の目標量におい て、策定根拠に対応する文献が不足してい ることが課題として挙げられた。 今後、日本人のエビデンスを増やす方法 としては国民健康・栄養調査の有効活用が 考えられる。しかし、国民健康・栄養調査 は対象者数は多いものの、食事調査が 1 日 間のみで習慣的な摂取量を把握できない点、 比例案分法を用いた世帯単位の調査法であ る点、及びデータのクオリティコントロー ル等の問題 2)がネックとなっている。従っ て、今後、食事摂取基準の改定が行われる 5 年に 1 度でも食事調査の日数を増やした 国民健康・栄養調査を実施することや、調 査法の妥当性や信頼性についての検討 3)等 を実施すること、生体指標を測定すること で、推定平均必要量策定の際の日本人デー タの創出が可能となると考えられる。また、 国民健康・栄養調査の対象者を追跡するこ とで、将来的には目標量の策定にも活用す ることが期待できる。耐容上限量について は、栄養素の過剰摂取の報告は発生件数も 少なく、古い文献に頼らざるを得ないのは 現状としてあるものの、参考になる文献が 他に存在しないか再検索すると共に、存在 しない場合、根拠の妥当性についても再検 討する必要があると思われる。また、炭水 化物の目標量の値は、推定エネルギー必要 量から脂肪エネルギー比及びたんぱく質エ ネルギー比を引いて算出されていることか ら、今後は基準値の妥当性について、身体 計測値や血液指標との関連も含めて検討を 行うことが望ましい。 策定の考え方については、統一性に欠け ることが重要な課題と考えられた。例えば、

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ビタミンC については、心臓血管系疾病の 予防等を根拠に推定平均必要量が策定され ていたが、これらは生活習慣病の一次予防 としての意味合いが強いことから、この根 拠はむしろ目標量に近いと考えられる。ビ タミンC については 1 日 6-12 mg 摂取して いれば壊血病は発症しないことが報告され ていることから 4)、今後は壊血病が生じな いビタミンC 摂取量を推定平均必要量とし て策定するのも 1 つであると思われる。ま た、目標量においても策定の考え方の不統 一が多く見られた。この様に策定の考え方 が栄養素間で異なることから、日本人の食 事摂取基準を活用する際には、基準値が導 き出された根拠を理解することの重要性が 改めて示唆された。 ビタミンD については、策定根拠で「血 清 25-ヒドロキシビタミン D 濃度(> 50 nmol/L)となる摂取量」と記載されている にも関わらず、基準値策定には国民健康・ 栄養調査による摂取量の中央値が用いられ ていた。これは血清25-ヒドロキシビタミ ンD 濃度はビタミン D の栄養状態を反映す る指標であることから、近年では血清25- ヒドロキシビタミンD 濃度のみを測定した 研究が多く報告されている 5-10)ためである と考えられる。従って、今後、食事摂取基 準値策定のためには、様々な年代層におい て血清25-ヒドロキシビタミン D 濃度の測 定及び食事調査の両者を実施した研究が必 要であると思われる。 以上、本研究によりエビデンスの不足部 分、策定の考え方等の課題点が明らかとな ったが、本研究の限界点としては、①文献 の数は策定方法の影響を受けること、②文 献の質の評価ができてないことが挙げられ る。①については、出納試験等に比べ、要 因加算法では各要因に対する文献が必要に なることから、見かけ上の根拠文献数が多 くカウントされており、策定の方法を踏ま えた上で、エビデンスの不足状況を判断す ることも必要である。②については、本研 究ではメタアナリシス等の原著論文を統合 した文献についても 1 件とカウントされて いることなどが挙げられる。エビデンスの 質に関しては、海外ではガイドライン等作 成の際のシステマティックレビューにおい て、研究デザインによるエビデンスの質の 分類が行われている11)。しかし、それはあ くまでアウトカムが類似した場合であり、 本研究の様に指標や栄養素によって必要と するアウトカムが異なり、それによって適 切な研究デザイン等も異なる場合には、エ ビデンスの質の比較は困難である。更に、 本研究では論文のみならず、ガイドライン、 解説、報告書等も含まれる。従って、今回 は「日本人の食事摂取基準(2010 年版)」 におけるエビデンス不足部分を明らかにす るための試みの 1 つとして、文献数のみで 本論文をまとめた。本研究により、日本人 を対象としたエビデンス増加の必要性が示 唆された点については意義があると考えら れる。しかしながら、今後は文献数のみな らずエビデンスの質等も考慮した包括的な 評価法を考え、実施することが重要である。 また今後の策定に向けても、日本人のエビ デンスを創出することに加え、策定の際に はエビデンスの質も含めた明確化、つまり 食事摂取基準値に加えて策定に用いたエビ デンスの強さについても検討、提示してい くことが期待される。 日本人の食事摂取基準は近年では 5 年毎 に改定が行われ、改定の度に、よりエビデ ンスの充実したものになってきている。本 研究では、文献の抽出段階において条件を 付けて絞り込みを行ったため、結果に示し

図 1    Relation between estimated and analyzed values in intakes of selenium (a) and molybdenum (b)
図 2    Estimated iodine intake in infants and toddlers consuming baby food at 950 kcal

参照

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