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精神薄弱児の物語理解に及ぼす先行情報の効果

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(1)

精神薄弱児の物語理解に及ぼす先行情報の効果

松村 多美恵*・嶋田 佐智子**・村尾 由紀***

(1986年9月27日受理)

Effects of Preceding Information on Story Comprehension in Mentally Retarded Children

         *       **       ***

samie MATsuMuRA, Sachiko SHiMADA and Yuki MuRAo

(Received September 27,1986)

は  じ め に

物語の理解・記憶に関する最近の研究は,人間の知識構造(スキーマ)との関連で検討されてい る。そのスキーマには2っのタイプが考えられる。1っは,その物語の内容に関連した知識であり,

他の1っは物語の個別的な内容とは独立の物語の展開構造にっいての知識(物語スキーマ)である。

従来の健常児を対象とした研究は,先行情報に焦点をあてた前者のスキーマに関するものが多い

(丸野・高木 1979,高木・丸野 1979,1980,内田1盤1)。物語スキーマに関する研究としてぽ Kintsch(1977), Mandler&Johnson(1977)およびThorndike(1977)等のものが挙げられる が,それらは主として物語スキーマの心的実在性を検証しようとするものである。物語スキーマ自 体を教授することの訓練効果を検討した研究はほとんどみられない。わずかにBrooks&Danse一 reau(1983)が大学生を対象として,科学理論の理解における構造的スキーマを教授することの効 果を実証している。本研究の目的は,MA 4〜6歳の精神薄弱児と健常児に物語スキーマを教授す

ることの効果を検討することである。

まず,実験1では,わが国で古くから想定されている「起承,転,結」という物語構造を教示 することの効果を検討し,実験πでは,物語の展開構造に関連する先行情報として,課題文と同じ 構造で内容の異なる物語を読み聞かせることの効果を検討した。また,実験皿では,物語の内容に 関連した先行情報として,登場人物を紹介する条件も設定し,物語の内容に関連したスキーマと,

前述の物語の展開構造にっいてのスキーマの訓練効果の比較も行なった。

実  験  1

*  茨城大学教育学部障害児教育学科

** 日立市立日立養護学校

***茨城県立霞ケ浦聾学校

(2)

56      茨城大学教育学部紀要(教育科学)36号(1987)

方 法

被験者 被験者は,茨城県内の養護学校に在籍しているMA 4歳台から6歳台の精神薄弱児30名

(男子19名,女子11名),および水戸市内の保育所に在籍するCA4歳台から5歳台の幼児30名

(男子19名,女子11名)である。精神薄弱児については,ことばによる応答が可能な生理型の精神 薄弱児が選ばれた。精神薄弱児,健常児とも各々15名ずつ訓練群と統制群にランダムに割当てられ

た。被験者の構成は,Table lに示されている。

実験材料 物語材料としては,児

童.生徒にできるだけ知られていな         Table 1 被験者の構成

い物語で起・承・転・結のある物語 N

蕊 畝

を2つ選んだ。1っは訓練試行用の   精神薄弱児訓練群 15   12:2  )i9:11−14:8) 5:7

i4:4−6:8  47.0 i30−66)

「おいしいおかゆ」(r幼児のための   精神薄弱児統制群 15  12:5

X:0−16:4)  5:0 S:0−6:6

41.4 R2−64)

世界のお話』福光えみ子・福知トシ  健常児訓練群 15   5:1 i4:6−5:10)

・福知研介・大江多慈子編新読書   健常児統制群 15   5:2 i4:7−5:9)

社,1977)であり,他の1っは本試

行用の「正直な水車屋」(r世界むかし話集』山室静編著,下,社会思想社刊,1978)である。これ らの物語をそれぞれ内容を変えないようにわかりやすく修正し,テープに録音して呈示した。呈示 した材料文の要旨を,Table 2に示す。それぞれの物語の内容に対応して,27c皿x38c皿の白色画用 紙に白黒線画が4枚描かれた。

Table 2 呈示した材料文の要旨

「おいしいおかゆ」(訓練試行用)

起  女の子が食べ物をさがしに森に出かけた。森でおばあさんに会い,なべをもらった。そのなべ 煮ておくれ と言うと,おかゆを煮てくれ, やめてくれ というと煮るのをやめた。(文 No・1−6)

承  女の子は,なべを家に持って帰った。女の子とおかあさんは,いつでもおいしいおかゆを食べ られるようになった。 (文No・7−8)

転  ある日,女の子が出かけた後,おかあさんはそのなべからおかゆをおなかいっぱい食べた。し かし,やめさせかたを知らないので,なべはいつまでもおかゆを煮,家中おかゆでいっぱいにな

った。 (文No・9−14)

結  町中おおさわぎになった。女の子が帰ってきて, やめてくれ というと,なべは煮るのをや めた。 (文No・15−17)

「正直な水車屋」(本試行用)

起  水車屋が川から流れてきたリンゴをかじった。許しもなくリンゴをかじったことに気づいて,

持ち主におわびをいうため,旅に出た。 (文No・1−5)

承  水車屋はリンゴの木をみつけた。水車屋はリンゴの持ち主におわびを言ったが,その男は許して くれなかった。水車屋は許してくれるまで動かなかった。(文No・6−11)

転  その男は, 目,耳,手足のない娘と結婚するなら許してやる と言った。水車屋は 結婚しま と言った。 (文No・12−15)

結  水車屋は娘の部屋に行くと,目,耳,手足のない娘ではなく,とてもきれいな娘がいた。水車屋 は,それからその家で幸せに暮らした。(文No・16−22)

(3)

手続き 実験は訓練試行を2〜3名の集団で行ない,その後(少なくとも1時間以上経過して)

本試行を個別に行なった。①訓練試行…全被験者に「おいしいおかゆ」のテープによる呈示と共に 絵を紙芝居形式で呈示した。その後,起・承・転・結の物語構造を教示する群(以下,訓練群)の 被験者には,物語の構造にっいての口頭の説明が,絵を呈示しながらTable 3の様式でなされた。

物語構造を教示しない群(以下,統制群)

の被験者には,テープと絵の呈示のみが1      Table 3 物語構造の教示内容

回目と同様の手続きでくり返された。その   お話には順番があるのです。まず,最初にこれからお 後,両群とも「物語の順番に絵を並べるよ  話の中でいろんなことをしていく人が出てきます。この

うに」という教示のもと聡画ストーリ灘膿汚瓢ミ畿繁鵠蜜鞭を

一構成課題を行なった。②本試行…全被験  次に女の子は家に帰って,そのおなべでおいしいおかゆ 者に同じ条件で以下の順に行なった。物語  を煮て食べるのですね。こんなふうに私達がお話を聞き

の呈示(「後で物語の内容について質問す高奮繍慮二鑑聯鷹懲蒙瑳

るのでよく聞くように」という教示のもと  なるのかなあ?」と思っていると,突然思いがけないこ に, 「正直な水車屋」のテープと絵の呈示  とが起こってきます。このお話では・おかあさんが女の

       子のいない時におなべでおかゆを煮たら,とまらなくなをした・)→絵画ストーリー構成課題(絵を  ってあふれ出してしまったのですね。「あれっ,困った

呈示したまま, 「今のお話はどんなお話で  な・これからどうなるのかわからないな。どうするのか

したか」という醐こよつて行なった・)一微誰綴謡需郎f謂鰹諮

事項質問課題(起・承・転・結の各部分に  ったのか」とわかるようになって,お話はおしまいにな ついて2問ずっ計8問の質問を行なった。)  るのです。お話の順番はこんなふうになっているのです。

→因果質問課題(起・承・転・結の各部分

について1問ずつ計4問の質問を行なった。)最後に,被験者が物語「おいしいおかゆ」 および

「正直な水車屋」を聞いた経験があるか否かがチェックされた。全被験者が聞いた経験がないと答 えたので,これらの物語にっいての既有知識の程度が結果に反映されることはないと考えられる。

結 果

訓練試行の絵画ストーリー構成課題においては,物語の展開に合うように4枚の絵を正しい順番 に並べることができた場合に正答とした。各群の正答者率を示したのが,Fig.1である。正答者率 の角変換値にっいて,分散分析をした結果,被験者タイプの主効果のみ有意であった(z2=15.94,

df=1,p〈.01),下位検定の結果,精神薄弱児と健常児の差は訓練群においても統制群におい ても認められた(〆=9.60,df=1, p・(01;12=4.82, df=1, pく05)。

本試行の絵画ストーリー構成課題の結果は,訓練試行の結果と同じであった(個人別成積では必 ずしも訓練試行で正答した者が本試行で正答したとは限らなかった)。

自由再生課題においては,正しい内容を述べるごとにそれが反復でない限り1点ずっ加算し,事 項質問課題および因果質問課題においては,正答は1点,無答および誤答は0点とした。各課題に おける物語の展開部位別の成績を示したのが,Fig.2〜Fig.4である。自由再生課題においては,

分散分析の結果,訓練の有無(F=4.72,df−1, pく05)および物語部位の主効果(F=27.75,

df−3, p〈.Ol),被験者タイプx物語部位(F=5.61, df−3, p<.01)および訓練の有無×物語部 位(F−4.15,df=3, p<.01)の交互作用が有意であった。下位検定の結果,健常児においてのみ,

(4)

58       茨城大学教育学部紀要(教育科学)36号(1987)

(彩) (点)

100 2 H精薄児訓練群

90 3  H構児統制群

,へ  ひつ鮪児訓1繍

80   、  ムーづ』健常児統制群ノ     、

70

U0

 ノ      、          、

^        、       、

50

S0

R0

       1

      、        、

@       、

@  ノ       、

@ !1      、   、

@/      、、 、      ●

』〆        し一  一つ

20 ●一●精薄児

10

O

o−o健常児 、r画馳@、@ 、覧「ム

訓     統

練     制      0

群    群      起     承      転     結 Fig.1絵画ストーリー構成課題の正答者率      Fig 2自由再生課題における部位別平均得点

(%)

(%) ●一→精薄児訓練群

100 ●_●精薄児訓練群

100 幽一轟精薄児統制群

凸一義精薄児統制群 90

        ゆ℃健常児訓練群      90

M一_     な4健常児統制群 、   隔Q㌧     、 〇一ゆ健常児訓陳群

ハrム健常児統制群

、      、、        、      80

80 、      、、

、       \ 70

、       、、      、       70      、 /へ 、

、      、

、       、 !      、

、      、 ノ      、

、      60

@、      ,

@\き/       50

 ,       、         、α  ノ\、\      、       、

40 40

       、

@   、   、m   、\      、  、        込 、       、

30 ノ       \        、

30        、   、       、   、

f       、

20 20 ノ         、 \}      、

10 10

       、

S       込

0 0

起      承      転      結 起      承      転      結

Hg.3事項質問課題における部位別平均正答率    H9・4因果質問題における部位別平均正答率

起・承の部分および全体で訓練群の方が統制群よりもよい成績を示した(t=2.4¢df−2apく05;

t=24&df=2ap〈.01;t=2.22,df=2ap<(05)。まち物語部位ごとの成績は,精神薄弱児訓練 群では承〉起〉結〉転の順であり,Tukey Testで対間比較した結果承と転および承と結の間 に5%水準で有意な差が認められた。精神薄弱児統制群では起一承〉結〉転の順であり,起および 承と転の間,さらに結と転の間に5%水準で有意な差が認められた。健常時訓練群では承〉起〉転 一結の順であり,承と転および結の間,さらに承と起の間に5%水準で有意な差が認められた。ま た,健常児統制群では承〉起〉転〉結の順であった規対間比較では有意な差は認められなかった。

次に,事項質問課題においては,分散分析の結果被験者タイプ(F−44adf=1,p<.05)およ び物語部位の主効果(F−7.81,df=3,p<.01λ被験者タイプ×物語部位(F−2.7生df−apく05)の

(5)

交互作用が有意であった。下位検定の結果,精神薄弱児と健常児の差は,訓練群においても統制群 においても認められた(t嵩1.79,dfニ2&p<.05;t−2.37, df−28, p<.05)。さらに,その差は起と 承の部分で認められ(訓練群:t−1.57,df=28, p<.10;t=1.87, df−28, p<.05;統制群:t=181,

df=28, p〈。05;t=2.10, df−28, p<.05),健常児の方が精神薄弱児より成績がよかった。また,

物語部位ごとの成績は,精神薄弱児訓練群では起〉承〉転〉結の順であったが,Tukey Testで の対間比較の結果,どの部位間にも有意な差は認められなかった。精神薄弱児統制群では起〉転〉

結〉承の順であり,起と承の間,および転と承の間に5%水準で有意な差が認められた。健常児訓 練群では起〉承〉転〉結の順であり,起と結の間,および承と結の間に5%水準の有意な差が認め られた。最後に健常児統制群では起〉承〉結〉転の順であり,起と転の間に5%水準で有意な差が 認められた。また,精神薄弱児において承の部位で訓練群と統制群の差が認められた(t=2.30,

df−28, P<.05)。

因果質問課題においては,分散分析の結果,被験者タイプ(F−122.44,df−1, p〈.01),訓練の有 無(F−8.38,df−1,P<.01)および物語部位の主効果(F=15.86, df=3, P<.01)が有意であった。下 位検定の結果,訓練群においても統制群においても健常児の方が精神薄弱児より成績がよかった

(t=1.91,df−28, p〈.05;t=2.50, df−28, p〈.05)。また,精神薄弱児においても健常児におい ても訓練群の方が統制群より成績がよく(t=2.21,df=28, p<.05;t=2.00, df=28, p〈.05),そ そ差は起の部分において著しかった(t−2.30,df=28, p〈.05;t=3.08, df=28, p〈.01)。物語部 位ごとの成績は,精神薄弱児訓練群では承〉起〉転一結の順であったが,対間比較の結果どの部 位間にも有意な差は認められなかった。精神薄弱児統制群では承〉起一転一結の順であり,承と他 の部位間に5%水準で有意な差が認められた。健常児訓練群では承〉起〉転〉結の順であり,承と 結の間に5%水準で有意な差が認められた。健常児統制群では承〉転〉起=結の順であり,承と起 および承と結の間に5%水準で有意な差が認められた。

考 察

精神薄弱児と健常児の差は,自由再生課題を除く他のすべての課題(絵画ストーリー構成課題,

事項質問課題,因果質問課題)で認められた。MA平均5歳台の精神薄弱児と健常児の差は,他の 物語材料を用い,質問課題のみで物語記憶を検討した松村(1985)の研究でも指摘されている。こ

うした結果は,精神薄弱児が同一MAの健常児と比較して,物語理解・記憶が悪いことを示してい る。丸野・高木(1979)は,6歳児と9歳児の再生成績が類似したパターンを示すことから,6歳 児ですでに基本的な物語スキーマが形成されていることを指摘しており,Mandler&Johnson

(1977)も同様の考察で小学1年生に小学4年生や大人と同様の物語スキーマが形成されているこ とを指摘している。さらに,本研究の対象とした4〜5歳児にっいても,物語展開にっいての枠組 みや筋の知識を有していることが指摘されている(内田 1982)。事実,本研究においても絵画ス

トーリー構成課題と事項質問課題で,健常児はかなりよい成績を示している。それに対し,精神薄 弱児(特に統制群)はすべての課題で成績が悪い。

自由再生課題において精神薄弱児と健常時の差が認められなかったのは,自由再生課題は他の課 題と異なり,自発的に再生するという過程を要し,そうした再生には,健常児であっても実験皿の 考察でも述べるように材料文が難かしすぎ,健常児においても解答が困難であったためと思われ

(6)

60      茨城大学教育学部紀要(教育科学)36号(1987)

る。

物語部位による違いをみると,健常児の訓練群と統制群,および精神薄弱児の訓練群はほとんど すべての課題において,起および承の部位の成績が,転および結の部位の成績よりよかった。丸野

・高木(1979)は,物語構造として開始部,展開部,および終末部といった3部位をとりあげ,自 由再生課題において展開部〉終末部〉開始部の順によい成績を示すことを指摘している。彼等は,

この結果は用いた物語の特性による,すなわち,展開部が同じ内容の単純なくり返し構造であった ためと考察している。本研究で用いた物語は,くり返し構造を有しておらず,最{邸艮,起,承,転,

結を含むといった条件で選択された簡単な物語である。起,承の部位が,転,結の部位より成績が よかったという結果は,被験者が物語の前半部分で注意を集中し,後半になるとあまり聞いていな かったということも考えられる。しかし,本物語独自の特性(たとえば,後半部分の理解が困難)

である可能性もある。したがって,この物語部位による成績の違いに関しては,さらに多種類の物 語材料を用いて検討すべきであろう。

精神薄弱児統制群では,起,承の部位が転,結の部位より成績がよいという傾向は示されず,物 語構造の教示によって,特に起,承の部位の成績がよくなり,健常児と同様の反応パターンに近づ

いている。起,承の部位の訓練効果は健常児においても認められた。訓練効果が認められた点にっ いては,物語構造の教示により,起,承,転,結といった物語スキーマが明確化され,それが新し い物語の理解・記憶に役立ったと考えることもできるが,こうした結論は早計であるように思われ る。なぜなら,物語構造の教示内容の妥当性といった問題があるからである。4〜5歳の子どもに 起,承,転,結といった物語構造を説明することは,非常に困難である。物語スキーマは多くの物 語を読んで初めて獲得されるものである。それをあえて前述の説明内容で教示したわけであるが,

それが適切であったか否かの疑問が残る。さらに,統制群がテープによって再度物語呈示を受けた のに対して,訓練群では肉声で物語構造の説明を受けた。すなわち,テープ対肉声,さらに再呈示 対新しい内容の呈示の違いが,被験者間に注意の集中の相違を生じさせたのかもしれない。

さらに,起,承の部位に訓練効果が認められた点にっいても,いくっかの理由が考えられよう。

まず,前述のように訓練群における説明自体についてもその前半部分に注意が集中するが,後半部 分になると耳を傾けなくなるということも考えられる。そのため,起,承の構造のみを理解し,そ の部位にのみ効果が現われたとも考えられる。あるいは,物語構造は理解したが,転,結の部位の 理解が困難であり,floor effectが生じたため,起,承にのみ効果が現われたとも考えられる。

実  験  皿

方 法

被験者 被験者は,茨城県内の養護学校に在籍しているMA 4歳台から6歳台の精神薄弱児30名

(男子16名,女子14名), および水戸市内の保育所に在籍しているCA4歳台から6歳台の健常児 30名(男子17名,女子13名)である。精神薄弱児については,ことばによる反応が可能な児童・生 徒が選ばれた。なお,実験1と重複する被験者もいたが,いずれも実験1の実施から1年以上経過

している被験者であった。被験者は,各々10名ずっの6群を構成し,各群ともランダムに割当てら

(7)

れた。被験者の構成は,Table 4に示さ 黷トいる。

Table 4被験者の構成

N CA MA IQ  −一

 実験材料 物語材料として嫉日本や  精世界の昔話としてよくみられる髄の物 鐸語を2っ選ん鵡1つは課題用であり・ 露もう1っは先行情報用である。課題用と

実験1群 タ験且群

攝ァ群

10 P0 P0

 13:1

i9:王一15:6)

@12:0

i9:7−14:1)

@13:2

@1:0−15:9

 5:8i4:3−6:6)

@5:3i4:0−6:5)

@5:5S:4−6:1  43.7 i29−56)

@45.9 i29−59)

@42.0 R6−56

       健しては,日本の代表的な昔話の1つであ

驕u舌切り雀」と類似した儲であり, 常

実験1群 タ験H群

10 P0

 5:10 i4:2−6:4)

@6:1i4:11−6:4)

      児

ナきるだけ児童,生徒に知られていない 統制群 10

「腰折れ雀」(岩崎京子文,田代三善絵,国土社, 1978)である。先行情報用としては,「舌切り雀」

や「腰折れ雀」と同じ構造であるイソップ物語の「きんのおの,ぎんのおの」(rはじめての童話       ,

①』舟崎克彦文,マラヤほか絵,小学館,1985)である。これらの物語はできるだけ内容を変えな いよう,また先行情報の「きんのおの,ぎんのおの」と「腰折れ雀」の構造ができるだけ同じにな るよう修正し,短縮したものを肉声で読み聞かけた。呈示した材料文をTable 5とTable 6に示す。

また,「腰折れ雀」は自由再生課題の成績を評価する際,5っの話題に分けられたが,その5っの話 題をTable 7に示す。それぞれの物語の内容に対応して,27cm×38cmの白色画用紙に彩色画が,

「きんのおの,ぎんのおの」では3枚,「腰折れ雀」では6枚描かれ,用意された。また,登場人 物を紹介するための材料として,「やさしいおばあさん」,「いじわるなおばあさん」,「すずめ」お

よび「ハチ」を7c皿×9c皿の画用紙に彩色画したものを用意した。

Table 5 先行情報用材料文       Table 6 課題用材料文

(「きんのおの ぎんのおの」) (「腰折れ雀」)

きこりが斧を川に落としてしまいしょげかえっ 村の子どもたちが雀をいじめていました。やさ ていました。神様が現れ川の中から金のおのを拾 しいおばあさんが雀を助けてやりました。雀はや い上げました。「おまえの落とした斧はこの金の さしいおばあさんに助けてもらったお礼にひょう 斧か。」と聴きました。「いいえ。それではありま たんの種を持ってきました。やさしいおばあさん せん。」ときこりは言いました。すると神様は, は種をまきました。やがてひょうたんが一杯なり

「おまえは正直者だ。この金の斧をやろう。」と ました。やさしいおばあさんがひょうたんのひと 言って正直なきこりに金の斧を差し出しました。 つを取って,開けてみると,中にはお金が一杯入

きこりが村に帰って金の斧をもらった話しをしま っていました。隣に欲張りでいじわるなおばあさ した。するとひとりの欲張りなきこりが早速川へ んが住んでいました。いじわるなおばあさんもお 出かけていきました。欲張りなきこりは,わざと 金の入ったひょうたんがほしいと思いました。そ 斧を川の中に落としました。すると話しのとおり, こで,雀を捕まえて,骨を折ってしまいました。

神様が金の斧を持っそ現れました。「おまえの斧 雀はいじわるなおばあさんにひょうたんの種を持 はこの金の斧か。」 と神様が聴くと,欲張りなき って来ました。おばあさんはひょうたんの種をま こりは「はい」と答えました。すると神様は欲張 きました。やがてひょうたんが一杯なりました。

りなきこりの斧まで取り上げ,川の中に消えてい いじわるなおばあさんがひょうたんを開けてみる

ってしまいました。 と中からハチが一杯出てきて,いじわるなおばあ

さんはハチに刺されて逃げ出しました。

(8)

62       茨城大学教育学科紀要(教育科学)36号(1987)

Table7 材料文「腰折       Table 8 質問課題の構成と正答例 れ雀」の5つの話題

質      問 正 答 例

①やさしいおばあさんが 1 このお話しには誰がでてきますか。 やさしいおばあさん

雀を助けてあげた。 いじわるなおばあさん

②雀の助けてもらったお 子どもたち,雀,ハチ

礼としてひょうたんの中 2 はじめに雀をいじめたのは誰ですか。 村の子どもたち からお金がでてくる。 3 雀を助けてあげたのは誰ですか。 やさしいおばあさん

③いじわるなおばあさん

@はやさしいおばあさんの

4 雀はやさしいおばあさんに助けてもら

@ったお礼に何をもってきましたか。 ひょうたんの種 ようにお金の入ったひょ

、たんがほしいと思う。

5 やさしいおばあさんがひょうたんをあ ッると中に何が入っていましたか。 お金

④いじわるなおばあさん 6 やさしいおばあさんのとなりに住んで

は雀の骨を折ってしまう。 いたおばあさんはどんなおばあさんでし いじわるなおばあさん

⑤いじわるなおばあさん たか。

がひょうたんをあけると

?ゥらハチがでてきて逃

7 いじわるなおばあさんは何がほしいと

vいましたか。 お金

げだす。 8 いじわるなおばあさんがひょうたんを

あけると中に何が入っていましたか。 ハチ

手続き 実験はすべて個別に行なわれた。実験群は,先行情報の呈示,物語の読み聞かせ,自由 再生課題質問課題の順で行なわれ,統制群は,物語の読み聞かせ,自由再生課題質問課題の順 で行なわれた。①先行情報の呈示 実験1群では, 「きんのおの,ぎんのおの」の読み聞かせを1 回行なう。実験皿群では,4枚の登場人物を絵を呈示しながら紹介した。絵の呈示時間は各々10秒 である。②物語の読み聞かせ すべての被験者に「後で物語について質問するのでよく聞くように」

と教示して,「腰折れ雀」を読み聞かせる。この時,物語の展開に合わせて4枚の絵を1枚ずつ呈 示する。③自由再生課題 「今聞いたお話はどんなお話でしたか。思い出すことを言って下さい。」

と教示し,話の内容を自由に再生させる。④質問課題 質問課題の構成と正答例は,Table 8に示す。

最後に,被験者が「腰折れ雀」を聞いた経験があるか否かがチェックされた。全被験者において,

聞いた経験がなかったので,結果にこの物語にっいての既有知識の程度が反映されることはないと 考えられる。

結 果

結果は,Table 9およびTbble 10に示されている。自由再生課題においては材料文を1文ごとに 14に区切り,その再生量を基本得点として分析するとともに,14の文を物語の構造上から5っの話 題にまとめ(Table 7参照),その再生量を要点得点として分析した。基本得点では,物語の順序

にこだわら武再生された場合には1点,無答および誤答には0点を与えた。最高得点を14点とす る総得点に基づいて,2(精神薄弱児,健常児)×3(実験1群,実験H群,統制群)の2要因の分 散分析を行なった結果,被験者の主効果が有意であった(F−67.08,df−1, p<.01)。下位検定の結 果,実験1群,実験皿群,および統制群すべてにおいて,健常児の方が精神薄弱児よりも有意に成

績がよかった(t=4.04,df=18, p〈.01;t−8.20, df−18, pく01;t=3.30, df−18, p<.01)。実験条

件の主効果は有意とはならなかったが,t検定を行なった結果,健常児において実験H群が実験1

(9)

群より有意に成績がよく(t=2.52,df=18, p〈.05),統制群よりもよい傾向が認められた(t=

2.09,df=18, p<.1)。 精神薄弱児においては,どの条件間にも有意な差はみられなかった。

要点得点にっいては,5っの話題に対応して再生された場合各々1点無答および誤答は0点を 与えた。最高得点を5点とする総得点に基づいて,2(精神薄弱児健常児)x3(実験1群実 験皿群,統制群)x5(系列位置)の3要因の混合型分散分析を行なった結果,被験者の主効果,

系列位置の主効果,および被験者×系列位置の交互作用が有意であった(F=8460,df=1, p<.01;

F−34.25,df一生p〈.Ol;F−4.81, df−4p<.Ol)。下位検定の結果実験1蝋実験π群,および 統制群のすべてにおいて健常児の方が精神薄弱児よりも有意に成績がよかった(t−4.58,df−18,

pく01;t−5.60,df=18, pく01;t=5.50, df=18, p<.01)。また,話題ごとの成績は,精神薄弱児 では,⑤〉④〉①=②〉③の順であり,Tukey Testで対間比較をした結果,⑤は①②③よりも,

④は③よりも再生得点が高いことが5%水準で示された。健常児では,⑤〉④〉①〉②〉③の順で あり,対間比較した結果,⑤は②③よりも,⑤④①②は③よりも再生得点が高いことが5%水準で 示された。

次に,5っの話題間のっながりが正しく再生されているかを検討した。すなわち,①一②,②一

③,③一④,④一⑤のいずれかの順序を正しく再生した場合は1点,そうでない場合は0点を与え た。最高得点を4点とする総得点に基づいて,2(被験者)x3(実験条件)×4(位置関係)の

3要因の混合型分散分析を行なった結果,被験者の主効果,位置関係の主効果,および被験者×位 置関係の交互作用が有意であった(F−44.20,df−1, p〈.01;F=48.00, df=3, p〈.01;F=15.30,

df=3, pくOl)。下位検定の結果実験1群,実験H群,および統制群のすべてにおいて,健常児 の方が精神薄弱児よりも有意に成績がよかった(t−4.06,df−18, p〈.Ol;t=5.60, df−18, p〈.

Ol;t−5.50, df−18, p・(01)。 また,話題間の成績は,精神薄弱児では④一⑤〉①一②〉②一③ 一③一④の順であり,対間比較をした結果④一⑤は②一③,③一④より再生得点が高いことが5

%水準で示された。健常児では,④一⑤〉①一②〉②一③一③一④の順であり,対間比較をした結 果,④一⑤は①一②,②一③,③一④よりも,①一②は②一③,③一④よりも再生得点が高いこと が5%水準で示された。

Table 9 自由再生課題と質問         Table 10 自由再生課題における要点得点と

課題の平均得点 話題のつながり得点

自由再生

@ 題 質問課題 要点得点 話題のつながり得点

実験1群 2.10 5.55 ① ② ③ ④ ⑤ ①2 23 34 4⑤

精神薄

縺@児 実験豆群

攝ァ群

(1.30)

P.80 i1.66)

P.70

Q81)

(2.40)

U.00 i2.00)

m:ll

精神薄 縺@児

実験1群 タ験皿群

0.3 O.3

0.1

O.4

OO Z0

04

O.2 0.7 O.5

0.2

O.2 0.0

O.0 0.0

O.0 0.2

O.2

実験1群 6.20 8.05 統制群 0.1 0.2 OD 0.3 0.4 0.1 0.0 0.0 0.3

健常児 実験n群

攝ァ群

(2.75)

X.10 i2.12)

≠SP

(0.73)

VBO

i0,46)

]1° 健常児

実験1群 タ験H群

0.9

P.0 0.7 O.9

0ユ

O3

1.0 P.0

1.0 P.0

0.7

O.9 0.2 O.4

0.2

O.4 0.9

P.0

統制群 0.9 0.7 03 0.9 1.0 0.6 0.2 0.2 0.9

()内は標準偏差

(10)

64      茨城大学教育学部紀要(教育科学)36号(1987)

質問課題は,正答例を基準にして,正答に1点,誤答および無答には0点を与えた。なお,意味 内容が合っていれば正答とした。2(被験者)x3(実験条件)の分散分析の結果,被験者の主効 果が有意であった(F=27.68,df=2, p<.01)。下位検定の結果,実験1群,実験H群,および統 制群のすべてにおいて,健常児が精神薄弱児より有意に成績がよかった(t−2.98,df−18,p<.01;

t=2.65,df=18, p<.05;tニ3.48, df=18, p<.Ol)。

考 察

実験∬の目的は,物語の理解・記憶能力について同一MA(4歳〜6歳)の精神薄弱児と健常児 を比較すること,物語構造に関する先行情報の効果を検討すること,さらに,その効果と物語の内 容に関連する先行情報の効果を比較検討することであった。

まず,第1の目的である精神薄弱児と健常児の物語理解の比較については,松村(1985)や実験 1の自由再生課題を除く他の課題における結果と同様,すべての課題得点において,さらに実験条 件に関係なく,精神薄弱児は健常児より成績が悪かった。実験1では,自由再生課題において健常 児の成績が悪く,精神薄弱児との間に差が認められなかった。実験皿でも自由再生課題を用いたが 精神薄弱児と健常児の間に有意な差が認められた。この原因としては,用いられた物語の難易度の 違いが考えられる。実験1では,文章の数は22文,実験Hでは13文であり,内容的にも,実験1が 世界の昔話の「正直な水車屋」であり,被験者にとっては親しみにくい内容であったのに対し,実 験Hでは日本の昔話の「腰折れ雀」で,身近な内容であったため,実験1に比べて実験且の物語が 易しかったものと思われる。そのため,健常児はよい成績を示したのではないかと考えられる。そ れに対し,精神薄弱児は質問課題と同様,自由再生課題においても成績が悪く,精神薄弱児と健常 児の間に有意な差が出たと考えられる。

次に,物語の展開構造に関する先行情報の効果は,精神薄弱児においても健常児においても認め られなかった。この理由としては,①健常児においては統制群も実験群も成績がよいことから,実 験1の考察でも指摘したように,本課題文の展開構造に関する知識をすでに持っていたため,先行 情報の効果がなかった。精神薄弱児にっいては,その成績が悪いことから考えて,展開構造に関す

る知識もない上,先行情報を有効に利用し,理解を促進することができなかった。②本実験では,

課題文と同じ展開構造を持っと考えられる物語を読み聞かせることをもって,展開構造に関する先 行情報としたが,この方法が,展開構造に関する先行情報としての機能を果たし得なかった。この 2点が考えられるが,本実験の結果からは,以上の2点のいずれの理由によるかを判断することは できない。

次に,物語の内容に関する先行情報の効果を検討する。自由再生課題の基本得点において,健常 児に先行情報の効果が認められたが,要点得点,話題のっながり得点,および質問課題においては 精神薄弱児,健常児ともに全く認められなかった。この結果は,小学2年生の健常児を対象とした 丸野・高木(1980)の結果と一致する。主人公を紹介する情報だけでは,物語全体を理解するため

の十分な枠組みを提供することはできないことが示唆される。

物語部位との関連にっいては,健常児,精神薄弱児とも,④⑤(新近性部位)の成績がよく,①

②(初頭部位)が続いて高く,③(中間部)が低いといった典型的なU字型の系列位置曲線が得ら れた。また,話題のっながり得点についても,④一⑤の再生得点が高く,①一②がこれに続き,②

(11)

一③および③一④がきわめて低かった。この点については,系列位置効果が生じたためであると考 えられるが,それに加えて,一般的に物語の構造は初めの部分と終わりの部分が重要な役割を果た しており,印象的な内容であるが,本実験の物語材料も,初めと終わりが印象的で驚きを伴うもの であったためと考えられる。実験Hでは,実験1のような起,承,転,結からの分析が物語の内容 上できなかったが,実験1と異なり,終末部がよい成績であった。これは,丸野・高木(1979)が 指摘するように物語の内容の違いに伴う結果の相違であると思われる。

最後に,本研究 は,物語構造を教示したり(実験1), 課題文と同じ構造で内容の異なる物語 を読み聞かせたり,物語の登場人物を紹介する(実験∬)といった,被験者にとっては非常に受身 的な訓練であった。桐木他(1981)は,物語理解を促進させるには先行情報に加えて,情報を積極 的に生かせるような活動(たとえ1弍要約作業)をさせることが必要であることを指摘している。

本研究では,精神薄弱児を対象としたこともあって(桐木他(工981)の被験者は大学生), 受身的 な方法を用いたが,今後の課題としては,先行情報を単に呈示するだけでなく,被験者がその先行 情報を利用して積極的に働きかけることができるような教示や訓練の方法の検討がなされるべきで

あろう。

引 用 文 献

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(12)

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参照

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