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妥当性・信頼性の再検討

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IPDE‑DSM‑N 様式による人格障害診断を外的基準とした MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版の

妥当性・信頼性の再検討

井 沢 功 一 朗 ホ

(平成 1 4 年 1 月 3 1 日受理)

本論てすま,まず, D S M ‑ I I I が発表される以前の境界性に関する諸研究についてレビューを行っ た。その際,現在一般的に受け入れられている パーソナリティ障害としての境界性論"と 神 経症と精神病との連続線の中間点としての境界性論"という分類を排し,どちらのタイプの研究 も境界性を神経症と精神病との連続線上でとらえているものと一律してとらえ直し,年代を追っ てレビューを行二った。

続いて, D S M ‑ I I I 以後の境界性人格障害の診断において,できる限り少ない負担で適切な診断を 行うための手段として,井沢ら ( 1 9 9 5 ) が作成したミロン臨床多軸目録 I I(MCMI‑II) 境界性ス ケール日本語短縮版を取り上げた。国際人格障害診断面接(I PDE) の DSM‑N 様式による診断を 外的基準として,境界性スケールの感受性・特殊性を再検討した。その結果,感受性は 1 . 0 0 ,特 殊性で . 9 0 が確認され, MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版の DSM‑N 診断に対する妥当性が 確認された。また,内的一貫性の再検討ても K u r d e r ‑ R i c h a r d s o n 係数で . 9 1 が得られ内的一貫性が 再度確認された。

KEY  WORDS 

境界性人格障害 B o r d e r l i n e  P e r s o n a l i t y  D i s o r d e r  

国際人格障害診断面接 I n t e r n a t i o n a l  P e r s o n a l i t y  D i s o r d e r  E x a m i n a t i o n   ( I PDE)  DSM‑N 

ミロン臨床多軸目録ー I I 境界性スケール日本語短縮版 M i l l o n  C l i n i c a l  M u l t i a x i a l  I n v e n t o r y ‑I I   山 1CMI‑I I )   B o r d e r l i n e  S c a l e  J a p a n e s e   S h o r t  V e r s i o n  

D S M ‑ I I I 以 前 の 境 界 性 に 関 す る 諸 研 究 の 概 観

境 界 性 ( b o r d e rl i n e ) という疾病には研究上つねにある種の胡散臭きがつきまとっている。そ の原因は,この概念が内包する意味範囲が広範で ,かつ構成要素が他の疾患と重複しあってお り独立した単一の臨床単位 ( c l i n i c a le n t i t y ) としてとらえにくいという問題点にある。 Stone

( 1 9 8 0 ) は境界性概念が内包する意味範囲を1.精神病との連続線上の症例, . 2 . 発 達 上 特 有 な 固着を持つ精神カ動的な人格, 3 . 人格の機能(病態)水準, 4 . 人格のタイプ, 5 .   1 つ の 症 候 群 , の 5 つ に 分 類 し , 歴 史 上 の 諸 研 究 を そ れ ぞ れ の カ テ ゴ リ ー に あ て は め 整 理 す る 試 み を し て

*  心理臨床講座

(2)

いるが,カテゴリーの数が多しかっカテゴリー聞の重複もあり(たとえば Kernberg( 1 9 6 7 )   の理論は 2 . と 3 . の両方のカテゴリーを満たすことになってしまう),機能的な分類とは言えな し 、 。

一方 S p i t z e r , E n d i c o t t ,  &  G i b b o n s   ( 1 9 7 9 ) は,境界性概念を精神分裂病との近縁性の中で 論じてきた研究の系譜を分裂病型人格障害 ( s c h i z o t y p a lp e r s o n a l i t y  d i s o r d e r ) に,パーソナ リティの病理として論じてきた研究の系譜を境界性人格障害 ( b o r d e r l i n e p e r s o n a l i t y   d i s ‑ o r d e r   :以下 BPD と略す)へとそれぞれ収数させるという枠組みを提示している。我が国の皆 川・三宅 ( 1 9 9 3 ) もこの視点に従って過去の境界性研究の詳細なレビューを行っている。しか し,この枠組みで パーソナリティの病理として境界性を研究してきた"とされる諸研究者は,

精神病との関係を無視して境界性について論じていたわけではなしむしろ神経症と精神病(精 神分裂病も含む)の中間状態として境界性を論じており,一概に パーソナリティ研究者"と 総称することには問題がある。

境界性が精神病と完全に切り離され,純粋にパーソナリティ障害の 1 分類として定位された のは精神障害のための診断・統計的マニュアル第 3 版 ( D i g n o s t i cand S t a t i s t i c a l  Manual o f   Mental D i s o r d e r s  3 r d  e d i t i o n   :以下 DSM‑ I1Iと略す: American P s y c h i a t r i c  A s s o c i a t i o n ,  1 9 8 0 ) の発表以後である。したがって本論では,まず,境界性に関する諸先行研究を整理する 上で, D S M ‑ I I I 以前(境界性を神経症と精神病の中間状態として考えていた時代)と D S M ‑ I I I 以 後とに 2 別し,まず前者について時間軸に沿ってレビューしていくことにする。そこには生物 学的要因を重視するものから精神力動論的観点によるものまで多様な理論が含まれることにな るが,いずれも境界性を神経症と精神病の中間状態と見なす点で見解は一致している。本論で は各理論的土台の差異は臨床研究上副次的なものと見なし,大きく取り上げることはしない。

むしろ素朴に年代を追って整理していくことで境界性概念の変遷がつかめると考える。 DSM‑

I I I 以後のパーソナリティ病理としての境界性論についてはその測定論から出発して,次節以降 で論じていくことにする。

S t e r n   ( 1 9 3 8 ) の境界神経症

精神病理学において 境界 ( b o r d e rl i n e )   "という用語を初めて用いたのは S t e r n( 1 9 3 8 ) で ある。歴史的には最も古いものに数えられるが,その内容は精神障害のための診断・統計的マ ニュアル第 4 版 ( D i a g n o s t i cand S t a t i s t i c a l   Manual o f   Mental D i s o r d e r s   4 t h   e d i t i o n :   American P s y c h i a t r i c  A s s o c i a t i o n ,  1 9 9 4 : 以下 DSM‑N と略す)の心的外傷後ストレス障害 ( P o s t  Traumatic S t r e s s  D i s o r d e r   :以下 PTSD と略す)としての BPD 論と通じる部分が多 く,現代的な内容に富んでいる。この S t e r n( 1 9 3 8 ) の論文が我が国で詳細に紹介されたことは ないため,ここでは他の論に比してより詳細にレビューする。

S t e r n  ( 1 9 3 8 ) は患者自身が語った生育史と転移関係の中で生じる事象の 2 つの面からこのグ ループに特有の臨床像と症状を提示している。それは, 1 . 自己愛, 2 . 精神的出血, 3 . 尋常で、

はない過敏性, 4 . 精神的・身体的なこわばり(こわばったパーソナリティ), 5 . 陰性治療反応,

6 . 患者のパーソナリティに深〈埋め込まれ体質に起因すると思われる劣等感, 7 . 被虐性, 8 .   器質的ともいえる深い不確実感もしくは不安の状態, 9 . 投影メカニズムの使用, 1 0 . 特に対人 関係で顕著になる現実検討の困難,である。

まずしについて, S t e r n  ( 1 9 3 8 ) はその原因を,母親の自発的愛情の欠如に求めている。ま

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た,両親聞の多くの口論や感情の爆発(これは子供=患者本人にもむけられる)の目撃体験,

患者が 7 オ以前の両親の離婚や別居,さらに患者の児童期にくりかえされた放置 ( n e g l e c t ) や暴 力まで指摘している。 S t e r n( 1 9 3 8 ) は 境界神経症"のすべての臨床像は,これらの損傷を受 け飢餓状態にある自己愛の上に発達すると見なしている。

2 .の精神的出血とは苦痛な体験や外傷的体験に遭遇したとき, 死ぬほどの状態に崩れ落ち"

逃走ー闘争反応のかわりに麻療が生ずることを示している。 S t e r n ( 1 9 3 8 ) はこれを 身を守る ために死んだふりをするような状態"と説明しているが,これも DSM‑N における PTSD の再 体験化の症状を意味するものと考えられる。

3 . 尋常ではない過敏性とは,根深い不確実感に起因し,危険に対する防御の結果現れるもの とされ,しばしば対人面での穏やかな妄想念慮につながるものとされる。これもまた DSM‑N の PTSD の規定における 過度の警戒心"と重なる。

4 . の精神的・身体的こわばりとは,精神・身体両面であらわれる堅きであり,不安や危険に 対する防御として思春期噴より発達するという。

5 . の陰性治療反応とは,患者自身の未成熟,不確実感,自己愛の剥奪のために分析家による 解釈が不安を引き起こし,患者が抑うつ症状や自殺念慮を呈したり,自殺企図する傾向につい て述べている。 境界神経症"の患者は分析家に愛と保護を求め,服従的で従順な態度を示し,

やさしく穏やかな治療操作を求めるとする。

6 . の劣等感については,人格的未成熟ゆえに成人として機能することへの必要'性から生ずる 不安にうち勝つために用いられるものとしている。それはびまん性で全人格におよぶこともあ り,現実生活でそれなりの成功や業績をおさめている場合でも,劣等感は確信され,ゆるぎな いものであることが多い。

7 . の被虐性とは,仕事,職業生活,社交や感情的な対人関係のすべてで自らを傷つけるよう な行為をとる傾向とされる。またそこにはうっ症状も伴うとされる。

8 ̲ 器質的ともいえる深い不確実感もしくは不安の状態とは,一見心身共におだやかそうに見 えるがその背後にはつよい不確実感と不安が渦巻いていることを示しており,1.でのべた母親 の自発的な母性愛の欠如に起因するとされる。この場合の 器質的"という用語には同時に 心 身症的"という語もあてられており,身体器官に症状の原因を求めると言うよりも症状の身体 表現性について述べていると考えた方が良さそうである。

9 . では投影メカニズムの多用傾向が, 1 0 . では転移関係の中で生ずる現実検討力の低下につ いて言及している。

以上が S t e r n( 1 9 3 8 ) の 境界神経症"概念の概略であるが,境界性論の出発点において現在 の診断基準における PTSD の症状が多く指摘されている点は大変興味深い。この視点は井沢

( 2 0 0 2 ) の中で,複雑型 PTSDと境界性の関連という問題として取り上げられている。

Z i l b o o g   ( 1 9 4 1 ) の外来 ( a m b u l a t o r y ) 精神分裂病

用語の直訳からすれば,外来通院可能な分裂病の一群を指していると考えられるのだが,実

際には精神科受診を必要としない軽症の分裂病(街で生活する分裂病者)を示すために用意さ

れた概念であるという(皆川・三宅, 1 9 9 3 ) 。この一群の患者は分裂病症状には至らない程度の

自問的思考,すなわち,黙りこくり考え込む傾向が最も顕著な特徴であるとされ,また,言葉

そのものに興味関心が向けられ,言葉と事物あるいは言葉と感情との関連性が失われていると

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いう。その他にも,職業を転々とすること,憎悪の念が強くそれが誰にでも向けられること,

対人的な親密性を欠くことなどが特徴としてあげられている。女性ではいらだちと抑うつが顕 著になると言う。

S t e r n  ( 1 9 3 8 ) の境界性論が主に神経症との関係に重点を置いたものであったのに対して Z i l ‑ boog ( 1 9 4 1 ) のそれは精神分裂病との関係に重点が置かれており,着目する症状に相違が認め

られるが感情面での不安定性など,共通する面も多〈認められる。

Schmideberg  ( 1 9 4 7 ) の境界例 ( b o r d e r l i n ec a s e )  

Schmideberg のこの論文は治療論であるが,その前半で境界例の病理について簡単にまとめ ている。彼女は境界例を精神病質と同じ臨床単位として見なしている。その上で境界例はおそ

らく初期分裂病か分裂病近縁性の疾病であり,多くは犯罪者であるとする。

日課や規則を守れず,治療をすっぽかしたり遅れてきたりする,来たとしても料金を払わな い,治療場面では非協力的でありまったくしゃぺらないか嘘をつくという。

このような症候を述べた上で Schmideberg( 1 9 4 7 ) は神経症を対象とした従来の精神分析の 治療技法をより具象的でダイナミックなものにっくりかえる必要性を唱えている。具体的には まず,率直な接触を持つことの大切さをあげている。続いて,共感の必要性と象徴的解釈の回 避,急

J

性の不安や転移状況における直接的障害をその場で解釈していくことの必要性,解釈は あくまて特殊化 ( s p e c i f i c ) したものであること,解釈に対する患者の反応をみながら段階を経 て患者の攻撃性を解釈していくことの必要性が中心的に論じられている。

Schmideberg ( 1 9 4 7 ) による境界例の疾病概念化は現代の DSM‑N では BPD よりも反社会性 人格障害 ( a n t i ‑ s o c i a lp e r s o n a l i t y  d i s o r d e r ) に近いものと考えられるが,治療技法上の提言で は現代の技法論に照らし合わせても示唆に富む点が多く,後代の Kernberg , S e l z e r ,  K o e n i g s ‑ b e r g ,  Carr ,  &  Applebaum ( 1 9 8 9 ) や現代の L i n e h a n ( 1 9 9 3 ) の治療論に通じる部分が多い。

その点で Schmideberg( 1 9 4 7 ) の業績は境界例という臨床単位の明確化よりも,それを含むよ り広い範囲の患者を扱いうる治療技法を提示した点にあると言えるであろう。

Hoch  &  P o l a t i n   ( 1 9 4 9 ) の偽神経症性分裂病 ( P s e u d o n e u r o t i cS C h i z o p h r e n i a )  

彼らの主張は,境界例という名の下で精神分析治療を受けている多くの患者は実際には精神 分裂病に属するというものであった。その根拠として彼らは,境界例患者には神経症の心理過 程とは異なる基本機制 ( b a s i cmechanism) が存在することをあげた。その基本機制とは, 自 閉的でとじこもりがちな生活様式,神経症より重い引きこもり症状,神経症に比して目標・社 会・性的適応に関する両価性が顕著で、あること,柔軟性が無〈感情の起伏の激しいこと,憎し みの感情の表出が顕著で弘あること,常に不安を抱えていること(汎不安),常に神経症的症状が いれかわり出現し,それらがなかなか消失しないこと(汎神経症),思考障害,自由連想の困難,

幼児期記憶の欠如,心気的な身体症状妄想,関係念慮,離人症があらわれやすいこと,発達歴 の混沌などを指している。

また,このような基本機制の上に現れる症状を, Hoch  &  P o l a t i n  ( 1 9 4 9 ) は 2 つのレベルに

分けて記述している。 l つは一次的臨床症状と呼ばれ,より深層に端を発する。もう 1 つはよ

り表層的な二次的臨床症状である。一次的臨床症状については,思考と観念連合の障害,感情

調整の障害,感覚運動と自律神経系の障害に分別されるとした。

(5)

一方,二次的臨床症状とされるものは,基本機制の部分でも述べた汎神経症,汎不安,汎性 生活の 3 つに分かれるとしている。彼らの境界性論の特徴は,それを明確に精神分裂病の観点 から記述しようとしている点にあり,他の精神力動的方向性を持つ研究者たちのものとはかな り異なっている。しかし,基本的な枠組みとしては,偽神経症性分裂病(すなわち境界性)が 神経症と精神病(特に精神分裂病の近縁)との連続性の中間に位置するという基本的理解の点

で,他の研究者と何ら違いがないのである。

K n i g h t   ( 1 9 5 4 ) の境界状態

Kinght  ( 1 9 5 4 ) もまた,境界性について 境界精神分裂病 ( b o r d e r l i n es c h i z o p h r e n i a )   "と いう名称、を掲げている。これは精神病的な機制と神経症的な機制が併存する一群の患者を指し ており, S t e r n   ( 1 9 3 8 ) 以降の境界性概念をより精轍化したものと言うことができる。皆川・三 宅 ( 1 9 9 3 ) は Knight( 1 9 5 4 ) の境界状態とは,分裂病とは独立した単一の臨床単位を志向した ものと論じているが, K n i g h t 本人の論述を素直に読む限り,彼もまた,当時の多数の研究者と 同様に,神経症と精神病(特に精神分裂病)との連続性の中で,境界性をとらえていたと考え られる。また, K i n i g h t   ( 1 9 5 4 ) の境界分裂病の概念は R o s e n t h a l &  Kety ( 1 9 6 8 ) の精神分裂 病の遺伝研究の中にそのまま応用されていることからも, Knight の研究が明らかに分裂病との 関連の中で受け継がれていたことがわかる。こうした前提にたった上で, Knight ( 1 9 5 4 ) は境 界精神分裂病の特徴として1.重篤な恐怖,強迫行為,ヒステリー症状, 2 . 拒食症, 3 . 抑うつ,

4 . 妄想傾向, 5 . 性格障害,を挙げ,特に精神力動面の問題としては,1.二次過程思考の障害 と一次過程思考の優位, 2 . 現実検討のゆがみ易さ, 3 . 対人関係や防衛の失敗,を挙げている。

牛島 ( 1 9 9 1)の指摘するように, Knight  ( 1 9 5 4 ) の境界状態の概念化は境界性の問題を持つ 多くの患者五従来の分裂病治療から精神分析治療へ移行させるという点でインパクトがあり,

それ以後,境界性論が主に精神分析の分野で研究されることとなる土台を用意したといえる。

つまり, Kinght ( 1 9 5 4 ) の境界状態の概念化は,それ以後境界性論が伝統的なクレペリン学派 の精神医学から力動精神医学の主要問題としてあっかわれる方向に変質した分岐点であったと いうことができる。

K e r n b e r g   ( 1 9 6 7 ) の境界人格構造論

Kernberg ( 1 9 6 7 ) は,米国の自我心理学から英国の対象関係論まで広い範囲から理論的素材 を集め,境界性についてその症候論,精神力動論ならびに診断面での病態水準概念を首尾一貫 した理論にまとめたという功績がある。

まず症候論において Kernberg( 1 9 6 7 ) は , 1.慢性的でびまん性の不安, 2 . 多彩な症状を呈 する神経症症状(恐怖症,強迫観念,通常あまりみられない奇異な転換症状,解離,儀式的行 為,引きこもり,妄想傾向など), 2 . 多様な形を取る性的倒錯, 3 . 前精神病と思われるパーソ ナリティの病理(分裂病質など), 4 . 衝動性と噌癖,などを挙げている。

次に,精神力動論としては,1.自我の脆弱性(不安耐性,衝動調整,昇華経路の欠如), 2 .  

一次過程思考への容易な退行, 3 . 原始的防衛機制の使用パターン, 4 . 超自我統合の水準, 5 .  

同一性の拡散程度などから,精神の病態水準には神経症水準,境界水準,精神病水準の 3 つが

あるとしている。境界人格構造はこれらのうち境界水準に位置するとされる。境界水準への固

着は患者が生まれながらにして持っている攻撃衝動と,それを支えるだけのカのない環境要因

(6)

とによって生じると理論化している。

これらの概観からもわかるように, Kernberg ( 1 9 6 7 ) の理論は構造論の名称を有するが根本 的には従来の諸理論と同様に境界性を神経症と精神病の中間に位置づけしようとする点に変わ りはない。近年, Kernberg ( 1 9 9 6 ) は DSM‑N の人格障害を自らの病態水準理論に統合する試 みをしているが, 境界性"という用語を,人格障害と病態水準の両方で重複して使うなど概念 上の矛盾を示しており,理論的な混乱が生じている。かつ,そのように複雑化した理論につい て,実証的な検討もなされないままできている。

G r i n k e r ,  W e r b l e ,  &  D r y e   ( 1 9 6 8 ) の境界症候群

G r i n k e r ,  e t   a   , . l ( 1 9 6 8 ) は境界性を,精神病とは切り離された独自の臨床単位と考え, 9 3 項 目からなる自我機能評定尺度を用いて 5 3 名の入院境界性患者を対象にクラスタ一分析を施行し た。その結果,境界性患者は 1 . 精神病との境界(対人面で拒否的態度を示し,怒りの爆発が見 られ,短期間に精神病症状が出現する), 2 . 中核境界症候群(他者との関係が近づいたり遠ざ かったりと一定しない), 3 .   a s  i f パーソナリティ(他者に合わせて適応的な行動はとれるが,

自然な感情交流を欠き,同一性の問題を抱える), 4 . 神経症との境界(不安が強〈他者へのす がりつきが顕著で、あり,罪悪感を伴わない抑うつがみられる),の 4 群に分割された。予後研究 において被験者で精神分裂病を発病した者が1.の精神病との境界群から 2 名出現したが,その 他のクラスターでは再入院率こそ高いが精神分裂病発病者はいなかった。 G r i n k e r , e t   a   , . l

( 1 9 6 8 ) の発想もまた,境界性を神経症と精神病の中間に位置づける点から出発しており,そ の研究結果もいわばその中間領域をより細分化したにすぎないと考えることができる。そして,

その細分化から,結果として,境界性を症候群としてとらえる見解が出されてきたものと考え られる。

M a s t e r s o n   ( 1 9 7 1 ,  1 9 8 1 ) の青年期境界例

Masterson ( 1 9 7 1 ,  1 9 8 1 ) は Mahler ( 1 9 7 5 ) の乳幼児精神発達理論と Kernberg ( 1 9 6 7 ) の 境界人格構造論を出発点として,青年期に生じる境界性の問題について理論化した。 Masterson

( 1 9 7 1 ) は Kernberg( 1 9 6 7 ) よりも養育環境を重視しており, 1 オ半から 3 オ頃にかけての,

いわゆる ラプロシュマン"と呼ばれる親離れの時期に,母親が不安定な対応しかとれない場 合,思春期以降に境界性の問題が生じるとしている。その際に問題とされる母親の養育態度と

は,子供が自立しようとするとあわてて愛情を一挙に撤去してしまう関係(撤去型部分対象関 係)と,子供が自立をあきらめて甘えてくると限りなく優しくする関係(報酬型部分対象関係)

を交互に繰り返すことである。母親がこのようなパターンを続ける中で,子供は一貫した母親 イメージを抱くことができなくなり,自立すると母親(生命の根源)を失うという 見捨てら れ抑うつ"という心理状態を呈するようになるという。

見捨てられ抑うつ"には抑うつ,怒り,恐怖,罪悪感,無力感,空虚感の 6 つの感情が入 り交じっているとされ,人生の第 2 の親離れの時期である青年期にそれが症状として出現する という。

このような青年期境界例患者に対して Masterson ( 1 9 7 1 ) は,入院治療を中心とした発達・

教育的援助の手法を提唱している。 Masterson( 1 9 7 1 ) の理論は一見するとパーソナリティ発達

理論であるが,それは Kernberg( 1 9 6 7 ) の病態水準理論を理論的土台としている点でやはり,

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境界性を神経症と精神病の中間に位置づけする理論であると見なすことができる。

Gunderson  &  S i n g e r   ( 1 9 7 5 ) の境界性患者のための診断面接 ( D i a g n o s t i c I n t e r v i e w   f o r   B o r d e r l i n e  p a t i e n t s   :以降 D 旧と略す)

Gunderson & S i n g e r   ( 1 9 7 5 ) ,  Gunderson & Kolb ( 1 9 7 8 ) ,  Gunderson ,  Kolb ,  & A u s t i n   ( 1 9 8 1 ) は境界性患者を他の疾患から明確に区別し,診断するための半構造化面接法である DIB を作成した。現在ではその改訂版である DIB‑R ( Z a n a r i n i   &  Gunderson ,  1 9 8 9 ) が用い られている。 DIB‑R は 1 0 6 の質問項目と 5 5 の評定項目からなり,それらは社会適応,衝動一行動 のパターン,感情,精神病,対人関係の 5 つの領域に分けられている。各カテゴリーには均一 に 2 点が与えられ合計 7 点以上を境界性障害診断のカットオフポイントとしている。我が国で は三宅・皆川・守屋・生閏・宮本・小此木 ( 1 9 8 7 ) が DIB 第 1 版日本語翻訳版を作成し基礎的 実証研究を行っている。

その中で特に精神病に関する項目については,短期の精神病様体験や薬物による精神病症状,

および,物質使用の関与しない幻覚妄想や燥状態などを査定し,それらを除外項目として取り 扱っている。つまり, DIB では,境界性は精神病と明確に切り離されて概念化されており, DSM‑

I I I 以降の,パーソナリティの病理としての境界性に近づいた立場がとられていると言える。 DIB を用いた Akiskal ( 1 9 8 1 ) や Pope , J o n a s ,  Hudson ,  Cohen ,  &  Gunderson ( 1 9 8 3 ) ,  S o l o f f  & 

Millward ( 1 9 8 3 ) の研究では, BPD 者の親族中にうつ病者が多〈見られると言う見解が出され てきており,境界性と精神病との関係が今度はうつ病との面から新たに検討される結果となり,

両者が完全に分離した臨床単位とみなされるには至っていない。しかし, DIB の項目や症状カ テゴリーは多< D S M ‑ I I I 以降の BPD の診断基準の中に取り入れられている。その点で, Gun‑

d e r s o n の研究は神経症と精神病の中間状態という見地からパーソナリティ病理としての境界 性研究への橋渡しとして位置づけられると考えられる。

諸研究の概観のまとめ

以上, 1 9 3 8 年の S t e r n から 1 9 8 0 年代の Gunderson までの研究を概観してきたが,様々な立場 の研究者がこれまたさまざまな境界性の特徴について述べていることに驚かされる。 DSM イ I I では人格心理学者 M i l l o n を中心に,その操作的診断基準の規定が行われたわけだが,その中 で,それまで積み重ねられてきた多くの見解が切り捨てられたことは否めない。しかし,現象 学的立場から客観的な診断基準をうち立てるという D S M ‑ I I I の趣旨のためにそうした作業は必 要であったし,その後の臨床実践や研究にとっても有効であったと考える。 D S M ‑ I I I の発表以降 は,その記述的診断基準にもとづいた客観的な診断法が多〈開発され,それらを用いた実証研 究が積み重ねられ今日に至っている。そうしたさまざまな診断法やその後の実証研究の展開に ついては井沢 ( 2 0 0 1 ) を参照されたい。

次章では, M i l l o n による BPD の診断・測定手段であるミロン臨床多軸目録一 I I( M i l l o n  C l i n i ‑ c a l  M u t i a x i a l  I n v e n t o r y ‑I I 以下 MCMI‑II と略す)境界性スケールの日本語短縮版(井沢・

大野・浅井・小此木, 1 9 9 5 ) の構成及び日本の精神科サンプルを用いた信頼性・妥当性の検討

について報告する。

(8)

BPD診断の問題点

精神医学の領域における診断は DSM ・ I I I が発表された時点から,原則として 5 つの軸 ( a x i s ) に関する診断を行うようになった。現在使用されている診断マニュアルである DSM‑N での 5 つの軸の内容は,第 1 軸:臨床疾患,臨床的関与の対象となることのある他の状態,第 2 軸 : 人格障害と精神遅滞,第 3 軸:一般的身体疾患,第 4 軸:心理的社会的および環境的問題,第 5軸:機能の全体的評定,となっている。そのうち,境界性を含む人格障害は,第 2軸として,

第 1 軸に属する精神分裂病やうつ病などの精神病とはまったく異なる次元に属するものと見な されるようになった。

そこでは BPD は 1 ) 現実に,または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふり かまわない努力, 2 ) 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動く不安定で激しい対人関係様式,

3 )著明で持続的な同一性障害, 4 ) 自己を傷つける可能性のある衝動性, 5 ) 自殺の威し,そぶ り,自傷行為の繰り返し, 6 )著名な気分反応性による感情不安定性, 7 )慢性的空虚感, 8 )不 適切で、激しい怒り,または怒りの制御の困難, 9 )一過性のストレス関連性の妄想様観念または 重篤な解離症状,という 9 つの項目により規定されている。これらのうち 5 つを満たした場合,

BPD の診断が下される。

投影法の問題点

現在,医療機関などにおける心理臨床業務の中で最も頻繁に用いられている心理テストは ロールシャツハテストである。ロールシャツハテストは 個人の人格の私的世界を映し出す方 法" (片口, 1 9 8 7 ) としての投影法テストの代表的なものである。投影法の利点としては,本人 が無自覚に行っているテスト行動の中に,深層にある心的傾向や葛藤の内容が反映される点に ある。しかし,投影法には問題点がある。まず第 1 にあげられるのは,研究面・実務面双方で の効率の悪さであるが,それに加えて問題なのは心理テストが科学的手段として本来満たすべ

き基準である信頼性と妥当性が確保されにくいという点である。

妥当性の問題について,ロールシャツハテストでは近年,包括的システムの発展普及に伴い 一応の努力が払われている。そこでは, 1 ) 投影テストとしての意味づけの軽減(力動的解釈の 相対化), 2 )比較的大きなサンプル (0=700) を用いた標準化の推進, 3 )解釈の自動化,など が行われており, DSM を外的基準とした妥当性研究も多く行われるようになっている。

一方,信頼性の問題は,解釈技法の修得の難しきの問題と結びついている。

俗に ロールシャツハ 2 0 年 といわれ,ロールシャツハテストの習熟には多年の努力を要す ると一般的にいわれている。その最大の要因は,テスターと被験者の関係が同時に治療者とク ライエントの関係の性質を有する点にあると考えられる。

ロールシャツハテストは,自由反応時間,質問段階,スコアリング,解釈の 4 段階からなる

が,はじめの 2 段階ではテスターのパーソナリティやテスターと被験者の関係性,さらにテス

トをとりまく全体的状況といったものが被験者の反応に否応なしに影響する。また,後半の 2

段階でも,テスターの主観的解釈がどうしても介在してしまう。このような問題点のうちいく

つかは,テスト場面の整備,施行法やスコアリングシステムの整備,解釈の自動化などによっ

てかなりの部分改善されるだろう。しかし,そうした中でも,テスターと被験者の関係性がテ

(9)

スト結果に与える影響は避けがたいものであろう。このように考えると,一般にいわれている ロールシャツハテストの習熟の難しさは,知的・技術的な難しさというよりも,テスターと被 験者の関係性の中で治療的理解(山本, 1 9 9 2 ) を行うことの難しきであると考える。

誰もが最初からこうした治療的関係や理解を実現できるものではない。特にロールシャツハ テストに関しては,その習熟においてある種 徒弟制度"的な訓練の中で体得していく 技"

が重要な部分を占めている。こうした性質が臨床心理学の伝統の中で重要な部分となっている ことは事実である。しかし,テスターの習熟度によって,テストとしての信頼性が犠牲になっ ていることも否めない。そこで,臨床的な実務の面から考えても,投影法の弱点を補うような 客観テストが必要となってくる。

客観テストの問題点

効率性と信頼性・妥当性の確保とい‑j 2 つの点から, BPD の診断には質問紙法による客観テ ストが必要であると考えられるが,客観テストにはそれ独自の問題点もある。

まず,客観テストでは,被験者が回答する際に,実際よりも良〈見せようとする回答(偽の 肯定)や,実際よりも悪く見せようとする回答(偽の否定)をするという,いわゆる虚偽回答 の問題がある。また,被験者が自分では意識していないのにも関わらず知らず知らずのうちに 本当のこととは違う回答をしてしまう歪曲回答の問題もある。さらに,回答に際して,世間で 正しいとされる振る舞いや感じ方(社会的望ましさ)を反映するような反応を選ぶ傾向により

回答が歪曲される可能性がある。

BPD の診断のための客観テストで,上記のような問題点を回避するためには,臨床データを 用いた厳密な妥当性の検討が必要となる。信頼性の高い外的基準を用いた項目選択により,テ スト全体の妥当性を高めることで,上記の問題点はかなり軽減されると考えられる。

井沢ら ( 1 9 9 5 ) は , D S M ‑ I I I 以後の人格障害分類の基礎を作った M i l l o n 本人による MCMI‑II 境界性スケール ( M i l l o n ,1 9 8 7 ) を取り上げ, 日本語翻訳とパックトランスレーションによる 翻訳の妥当性を検討した上で,国際パーソナリティ障害診断面接 ( P e r s o n a l i t y D i s o r d e r   E x a m i n a t i o n ‑ I n t e r n a t i o n a l   v e r s i o n : 以下 IPDE と略す: Loranger ,  Susman ,  &  Oldham ,  1 9 8 7 ) による D S M ‑ I I I 改訂版(Di g n o s t i cand S t a t i s t i c a l  Manual o f  Mental D i s o r d e r s  3 r d   e d i t i o n   R e v i s e d : 以下 DSM‑II ト R と略す: American P s y c h i a t r i c  A s s o c i a t i o n ,  1 9 8 7 ) の確 定診断を外的基準とした収束弁別妥当性ならびに信頼性の検討を行い,特に収束弁別性の高い 項目からなる MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版を作成した。

MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版は 1 7 項目からなり,各項目は あてはまる", あては まらない"の 2 件法で回答する。肯定項目の合計数が尺度得点となる。従って,得点の範囲は 0‑17 である。

井沢ら(1 9 9 5 )の研究では,カットオフポイントを 1 0 点に設定した場合, MCMI‑II 境界性ス ケール日本語短縮版の感受性 ( s e n s i t i v i t y ) ・特殊性 ( s p e c i f i c i t y ) はともに1. 0 0 であり,他の 人格障害から境界性人格障害を 100% の確率で識別できることが確認された。また,内的一貫性 の指標として α係数では . 7 4 という値が得られた。

作動特性 ( o p e r a t i n gc h a r a c t e r i c s ) について

上に,感受性と特殊性について述べたが,これらについては補足説明が必要だろう。これら

(10)

の指標は,作動特性 ( G i b e r t i n i,Brandenburg,  &  R e t z l a f f,  1 9 8 6 ) とよばれる妥当性の指標の 下位カテゴリーである。表 1 に作動特性の計算方法を示す。

作動特性は感受性,特殊性,陽性予想力 ( P o s i t i v eP r e d i c t i v e  Power :以下 PPPと略す), 

陰性予想力 (Ne g a t i v e  P r e d i c t i v e  Power :以下 NPPと略す),全般的診断力 ( O v e r a l lDiagnos‑

t i c  Power :以下 ODPと略す)といった指標を含む。

感受性はそのテストの真の肯定の割合であり,実際に障害が存在しているとき,テストの結 果もまた 障害あり"となる割合(%)である。

特殊性はそのテストの真の否定の割合であり,実際には障害が存在していないとき,テスト の結果も 障害なじ'となる割合である。これら 2 つの指標は,何らかの外的基準による診断 結果の中で,テストの診断結果が一致するものの割合であり,いわばそのテストの 確認能力"

の指標ということができる。

また, PPPは,テストの結果が 障害あり と出たとき,実際の障害も存在している割合で あり, NPPはテストの結果が 障害なし"と出たとき,実際の障害も存在していない割合であ る。これら 2 つの指標は,テストによる診断結果の中で,基準となる診断が一致するものの割 合であり,いわは そのテストの 発見能力"の指標ということができる。

さらに ODPはサンプル全体の中でテストが正しく診断した対象者の割合である。

作動特性のうち感受性と特殊性とは,その母集団の有病率 ( p r e v a l e n c e )の影響を受けないた めに,閉じ外的基準を用いる限りでは他の母集団でも同様の値が期待できるという性質をもっ.

一方, PPPと NPPはその母集団での有病率,感受性,特殊性の影響を受けるので各母集団ご とに求めなければならない。 PPP,NPPと有病率,感受性,特殊性との関係は次の式であらわ される。

有病率×感受性 PPP

有病率×感受性+( 1 一有病率)(  1 一特殊性) 特殊性 x(  1 一有病率)

NPP= 

特殊性 x (1一有病率)+有病率 x (1一感受性)

前項で報告した MCMI‑II スケール日本語短縮版の妥当性・信頼性の検討では, DSM‑III‑R の 人格障害診断面接である IPDE を外的基準としていた。現在は DSM‑N が臨床場面で用いられ ていることから,この新たな診断基準を外的基準として MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮 版の妥当性・信頼性を再検討する必要が生じた。そこで本論では IPDE‑DSM‑N 様 式 ( L o r a n ‑ g e r ,  1 9 9 5 ) による人格障害診断を外的基準として妥当性・信頼'性の再検討を行った。

方 法

被験者は神奈川県下 A 精神病院の入院・外来患者 4 2 名である。データ収集期間は 1 9 9 7 年 9 月

から 1 9 9 8 年 1 2 月であった。これらの被験者に IPDE‑DSM‑N 様式面接の予約をとり,面接を施行

した。 IPDE‑DSM‑N 様式は 9 9 項目の質問からなる半構造化面接である。各項目は DSM‑N 各人

格障害の診断基準に対応している。肯定された項目は 非常に当てはまる"から あてはまら

ない"の 3 点尺度に採点される。その得点を合計し,各人格障害ごとに確定診断を下す。 1 回

(11)

の施行には 2 時聞から 2 時間半を要する。本研究では IPDE‑DSM‑N 様式を精神科医 1 名と臨 床心理士 1 名が分担して実施した。

また,面接後に MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版を手渡し一週間以内に記入してもら い,病棟看護者もしくは外来受付に提出してもらった。 IPDE‑DSM‑N 様式および MCMI‑II 境 界性スケール日本語短縮版の採点結果は主治医を通し患者本人にフィードパックされた。

欠損値のあるデータを除いて得られた資料を基に, IPDE‑DSM‑N 様式による BPD の確定診 断を外的基準として MCMI‑II 境界性スケール日本語翻訳版の作動特性を算出した。また内的 一貫性の指標として Kuder‑ Richardson 係数を算出した。

結 果

被験者の男女比は男性 9 人 ( 2 1 ‑ 4%) ,女性 3 3 人 ( 7 8̲  6%) と女性が多かった。平均年齢は 2 4 ̲ 7   (SD=5̲3) ,最小値は 1 8 . 0 ,最大値は 3 9 . 0 であった。

被験者 4 2 名の臨床診断名は非定型精神病 1 1 人 ( 2 6 . 2 % ) ,気分変調症(軽症うつ) 6 人 ( 1 4 . 3 % ) , パニック障害 4 人 (9.5%) ,全般性不安障害 4 人 (9.5%) ,強迫性障害 3 人 (7.1%) ,身体表 現性障害 1 人 (2.4%) ,摂食障害 3 人 (7.1%) ,アルコール依存症 3 人 (7.1%) ,人格障害 5 人 ( 1 1 . 9 % ) ,睡眠障害 2 人 (4.8%) であった。

IPDE‑DSM‑N による BPD 確定診断を外的基準とし,カットオフポイン卜を 1 0 点に設定した 時の作動特性を表 2 に示す。 MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版の感受性は 1 . 0 0( 2 1 / 2 1 ) ,  特殊性は . 9 0 ( 1 9 / 2 1 ) であり,十分な診断的妥当性(収束弁別妥当性)が確認された。また,

PPP は 0 . 9 1 , NPP は1‑ 0 0 とやはり高い値を示しており,このスケールがかなり高い診断予測力 を有していることも確認された。

また, K u r d e r ‑ R i c h a r d s o n 係数は . 9 1 であり十分な内的一貫性が確認された。

考 察

本論では, S t e r n  ( 1 9 3 8 ) 以降から DSM‑ IIlまでの境界性研究の流れを概観した後,精神病と 神経症との中間病態としての境界性論とは根本的に発想を異にする DSM‑ IIl以後の BPD の診 断手段として MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版の妥当性と信頼性を確認した。

IPDE‑DSM‑N 様式による BPD 診断を外的基準とした時, MCMI.II 境界性スケール日本語 短縮版の収束弁別妥当性は DSM‑ I I l ‑ R を外的基準としたときに比べて特殊性が幾分低下する 傾向が認められた。しかし値は . 9 0 を維持しており,臨床実践及び調査研究には十分適用可能で、

あると考える。

本研究の問題点としては,サンプルが女性に多く偏っていること,また,年齢が 2 0 代に集中 していることである。これは,サンプル収集の段階で精神科医師が BPD 近縁の障害を持つと予 想した患者に被験者となってもらったことが原因であると考えられる。我が国の臨床場面では BPD の診断が下されるのは若年の女性に多<,今回の性別・年齢の分布の偏りもこうした現状

を反映していると考えられる。

また,本調査の被験者は多様な臨床診断を受けており,そのため BPD との判別がむずかしい

とされる他の人格障害(たとえば演技性人格障害)などとの弁別性は今回の研究からは明らか

(12)

にできていない。今後は BPD との判別の対象となる疾患を限定した研究計画を立て実行して いく必要があるだろう。しかし,今回の結果から少なくとも MCMI‑II 境界性スケール日本語短 縮版は広く一般の精神科関連疾患の中から BPD を判別するには有効で込ある事が確認されたと 言えるだろう。

最後に,今回の研究の所見について再度確認しておきたいことは,ここで妥当性・信頼性が 確認された MCMI‑II 境界性スケール日本語短縮版があくまで臨床または研究でのより良い来 談者理解につながることを目的としている点である。したがって,こつした質問紙を単なるラ ベルづけに用いることを避ける必要性は常に心にとどめておく必要がある。

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Z a n a r i n i ,  M.  C .   &  Gunderson ,  J .   G .  1 9 8 9  The r e v i c e d  d i a g n o s t i c  i n t e r v i e w  f o r  b o r d e r l i n e s :   D i s c r i m i n a t i n g  BPD from o t h e r  a x i s   I I   d i s o r d e r s .  J o u r n a l  0 1  P e r s o n a l i t y   D i s o r d e r s ,  3 ( 1 ) ,  1 0 ‑ 1 8 .  

Z i l b o o g ,  G .  1 9 4 1  Amubulatory s c h i z o p h r e n i a .  P : りc h i a t r y , 4  ( 1 ) ,  1 4 9 ‑ 1 5 5 .  

(15)

R e t e s t  o f  V a l i d i t y  a n d  R e l i a b i l i t y  o f  MCMI‑I I   B o r d e r l i n e  S c a l e   J a p a n e s e  S h o r t  V e r s i o n  Using IPDE‑DSM‑N 

Module a s  t h e  E x t e r n a l  S t a n d a r d  

K o i c h i r o   IZA  W A  * 

Abstract 

I n  t h e  f i r s t  p a r t  o f  t h e  p r e s e n t  s t u d y ,  we r e v i e w  s t u d i e s  d e a l i n g  w i t h  t h e  b o r d e r l i n e  t h a t   were w r i t t e n  b e f o r e  t h e  p U b l i c a t i o n  o f  D S M ‑ I I I .  T h i s  r e v i e w  o m i t s  t h e  c l a s s i f i c a t i o n s  o f  t h o s e   e a r l i e r   i n v e s t i g a t i o n s  t h a t  d i s c r i m i n a t e  t h e   b o r d e r l i n e  a s   p e r s o n a l i t y  d i s o r d e r '   from t h e   b o r d e r l i n e  a s  t h e  m i d ‑ p o i n t  i n  a  continuum between n e u r o s i s  and p s y c h o s e s ' ,  r e c a p t u l a t i n g   e a r l i e r   r e s e a r c h  a s  t h o s e   t h a t   have c o n c e p t u a l i z e d  t h e  b o r d e r l i n e   a s   t h e   d i s o r d e r   on a  continuum between n e u r o s i s  and p s y c h o s e s .  The r e v i e w  was c o n d u c t e d  c h r o n o l o g i c a l l y  on  t h o s e  s t u d i e s .  I n  r e l a t i o n  t o  t h e  d i a g n o s i s  o f  a  b o r d e r l i n e  p e r s o n a l i t y  d i s o r d e r  a f t e r  t h e  DSM‑

I I I ,  t h e  MCMI‑II B o r d e r l i n e  S c a l e  ] a p a n e s e  S h o r t  V e r s i o n  was i n t r o d u c e d  a s  a  measure t h a t   i s   e a s y  and a p p r o p r i a t e  f o r  DSM d i a g n o s i s .  The s e n s i t i v i t y  and s p e c i f i c i t y  o f  t h e  b o r d e r l i n e   s c a l e  were r e ‑ a s s e s s e d .  E x t e r n a l  c r i t e r i o n  was t h e  d i a g n o s i s  by IPDE‑DSM‑N m o d u l e ̲  As t h e   r e s u l t   , t h e  v a l i d i t y  o f  t h e  MCMI‑I I   b o r d e r l i n e  s c a l e  f o r  d i a g n o s i s  o f  t h e  DSM‑N was c o n ‑ f i r m e d  ( s e n s i t i v i t y  was  l . 0 0   and s p e c i f i c i t y  was . 9 0 )   and i n t e r n a l  c o n s i s t e n c y  o f  t h i s  s c a l e   was a s s u r e d  t o o   ( K u r d e r ‑ R i c h a r d s o n  c o e f f i c i e n t  was . 9 1 )  . 

D i v i s i o no f  S c h o o l  P s y c h o l o g y  and C o u n s e l i n g ,  C o u r s e  o f  Human Development ,  Department 

o f  S c h o o l  E d u c a t i o n  

参照

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