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報 告 番 号

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Academic year: 2021

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論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨

報 告 番 号

博(生)甲第223号

氏 名 圦 本 達 也

学 位 審 査 委 員

主査 松 岡 數 充 副査 石 松 惇 副査 征 矢 野 清 論文審査の結果の要旨

圦本達也は1996年に北里大学水産学部を卒業し,1998年に北里大学大学院修士課程

(水産学専攻)を修了した。その後,同大学の研究生を経て,1999年水産庁西海区水産研 究所(現独立行政法人水産総合研究センター西海区研究所)研究所員として入所した。200 3年以降は同研究所内に設置された有明海八代海漁場環境研究センター漁場環境研究科に所 属している。2007年に長崎大学大学院生産科学研究科博士後期課程(海洋生産科学専攻)

に入学して現在に至っている。大学院生産科学研究科入学後は,有明海での主要資源生物であ る軟体動物・斧足類のリシケタイラギとサルボウの大量斃死に関わる環境要因の解明を目指し て調査研究を展開してきた。2009年12月に研究成果を取りまとめて主論文「有明海にお ける水産重要二枚貝リシケタイラギおよびサルボウの環境生理学的研究」を完成させ,参考論 文

4

編(査読付き

4

編) ・基礎となる論文4編(査読付き4編),その他の論文8編を添えて博 士(水産学)の学位を申請した。

長崎大学大学院生産科学研究科は2009年12月16日の定例研究科教授会において,論 文内容の要旨を検討し,課程修了による学位申請の資格ありと判定して学位審査委員会を設置 した。委員会は論文内容を慎重に審議し,論文発表を2010年1月26日に公開で行わせる とともに,口頭による基礎及び専門分野に関する最終試験を実施し,それらの結果を2010 年2月17日の研究科教授会に報告した。

本論文は4章から構成される。有明海での水産重要二枚貝リシケタイラギおよびサルボウは

2000

年以降に漁獲量が減少している。その要因を解明するために現場調査により両種の生理状 態と生息環境との関係を推察し,次いで大量死に関与すると考えた環境要因の室内再現により 両種に及ぼす影響を評価した。更に,本研究で得た新知見と既往成果に基づき,有明海での両 二枚貝の漁獲量回復を目指した対策を提言した。

第1章「リシケタイラギの生殖周期および大量死発生時における生理状態」ではリシケタイ ラギの生存に影響を及ぼす環境要因解明を目的として,本種生息域の有明海北東部の潮下帯域 で底層の水質の溶存酸素量やクロロフィル

a

量等を連続観測するとともに,海底面から深さ

16 cm

層までの底質の

pH

や酸化還元電位,酸揮発性硫化物量,硫化水素濃度等を定期観測した。

同時にタイラギの生理状態を評価した。その結果,生息場では安定した餌料供給があり,夏季 の溶存酸素量は一時的に低下したが,飽和度で

40%以上であった。一方,初夏から秋に底質は

還元状態になり硫化水素が発生していた。同時期のタイラギは嫌気代謝産物である有機酸を体 内に蓄積し,鰓,腎臓,消化盲嚢等に組織的な損傷が認められた。これらのことより硫化水素 の発生がリシケタイラギの大量死に関与している可能性があるとした。

第2章「サルボウの生殖周期および大量死発生時における生理状態」ではサルボウの生存に 影響を及ぼす環境要因解明を目的として,生息場の湾奥部干潟縁辺域の底質の酸化還元電位,

や硫化水素濃度等を定期的に観測した。同時にサルボウの生理状態を評価した。その結果,海

(2)

底表層が還元化した夏季にはサルボウは大量死するとともに,生残個体の体内には有機酸が蓄 積していた。

2008

年夏季の同海域底層には硫化水素を含む無酸素水塊が形成されており,同時 期に採集したサルボウは有機酸を蓄積するとともに,軟体部組織が灰色を呈し,鰓,消化盲嚢 等が重篤な損傷を受けていた。このことから,有明海奥部のサルボウは夏季に底質が還元化し,

硫化水素に曝されやすい環境下に生息していることが明らかになった。これらのことから硫化 水素がサルボウの大量死に関与していると推察した。

第3章「漁場で観測される環境要因がリシケタイラギおよびサルボウに及ぼす影響」では無酸素 水塊や硫化水素に暴露されることがリシケタイラギやサルボウの生残に及ぼす影響を明らかにす るため,室内でリシケタイラギとサルボウを用いて硫化水素曝露実験を実施し,その影響を評価し た。予め養殖筏で馴致したリシケタイラギを室内実験水槽で試験初日に硫化水素約

3 ppm,12

日目

に約

10 ppm

濃度で各

24

時間曝露し,養殖筏での垂下飼育により生残状況を観察した。その結果,

26

日間の試験期間での生存率は対照区(有酸素区,無酸素区)では

100%,硫化水素区では63%で

あった。閉殻筋重量/殻長比,消化盲嚢中の植物色素量および閉殻筋グリコーゲン量は有酸素区と対 比して硫化水素区で最も低かった。また,硫化水素区では腎臓や鰓の組織に損傷が認められた。サ ルボウでは約

28 ppm

の硫化水素に

42

時間曝露した結果,硫化水素区では体内に有機酸を顕著に蓄 積し,軟体部組織は正常な橙色から灰色に変化し,鰓および外套膜に著しい損傷が認められた。 室 内試験により硫化水素にこれら二枚貝を曝露すると,現場と同様に鰓や消化盲嚢等の組織が損 傷することが明らかになり,リシケタイラギやサルボウの生息現場で発生する硫化水素がこれ ら二枚貝の大量死の原因であることが明らかになった。

第4章「総合考察」では,上記の成果によりリシケタイラギやサルボウの大量死は硫化水素 への暴露によるとの観点から,これらの資源回復には硫化水素の発生抑止が必須であると判断 した。対策として底質改良材の活用が適切であると考え,硫化水素は

pH 8

以上では生物にほ とんど毒性を示さない知見に基づき,底質改良剤として

pH

調整機能を持つ石灰や水酸化マグ ネシウム,好気的有機物分解を促す多孔質セラミック等の活用を提言した。

本研究は近年有明海湾奥で主要な資源生物であるリシケタイラギやサルボウが大量斃死し,資 源が減少する要因について,1)生息現場での綿密な環境調査により,これらの二枚貝が海底 堆積物表層や底層水の貧酸素化によって発生する硫化水素に暴露されることで摂餌機能が低 下すると共に,体内に嫌気代謝産物の有機酸が蓄積され,衰弱することが大量死に繋がるとの 仮説を得た。2)それを実証するためにリシケタイラギやサルボウを間欠的に硫化水素に暴露 し,無酸素環境で飼育するなどの現場環境を再現した飼育実験を行った。その結果,硫化水素 に暴露されたこれら二枚貝には鰓等の組織に損傷が現れ,摂餌量や蓄積栄養が低下し,有機酸 が増加するなど,現場と酷似した症状が発生した。これによって,これら二枚貝大量死は生息 場の貧酸素とそれにより発生する硫化水素に暴露されることに起因することを明らかにした。

その成果に基づき,これら二枚貝の資源回復に向けての基本的考え方として,硫化水素発生の

抑制が必須であるとし,そのためには pH の制御が重要であると考え,底質改良材の活用を提

言した。有明海における重要資源生物減少の環境要因を現場調査によって推察し,それが生物

の生理活性に与えた影響を実験生理学的に明らかにしたこれらの成果は,有明海における二枚

貝有用資源の回復に寄与するものであることを認め,学位審査委員会は,博士(水産学)に値

するとし,合格と判断した。

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