死亡保障領域におけるリスク認知と 生命保険需要
林 晋
■アブストラクト
リスク認知が保険需要形成プロセスの出発点であると想定されるにもかか わらず,実際の保険需要はかならずしもリスク認知から形成されるとは限ら ず,論理的,合理的,体系的思考と行動の脆弱性を併せ持つことが指摘され ている。また,こうした特徴は,企業保険よりも家計保険において強く観察 されると指摘されている。そこで本稿では,家計における生命保険需要形成 プロセスの特徴を,伝統的な死亡保障領域におけるリスク認知と保険需要と の関係をパス解析で実証的に検証した。
その結果,生活者のリスク認知〜生命保険需要のプロセスは一元的でなく,
次のような特徴があることが明らかになった。
①生命保険需要の出発点がリスク認知に認められる場合でも,リスク保障ニ ーズを経由するタイプとそれを経由しないタイプの2通りがあり,それぞ れに人口学的属性の特徴が異なる。
②リスク認知が生命保険需要にまで至らずにリスク保障ニーズで留まるタイ プがある。
■キーワード
リスク認知,生命保険需要,パス解析
*平成23年2月19日の日本保険学会九州支部報告による。
/平成23年5月26日原稿受領。
1.はじめに
リスク認知と保険需要形成との関係について,水島([2006],pp.82‑83)
は, 保険に対する需要の出発点はリスクの認知に求められる。個々の経済 主体が,将来何らかの偶然的事実の発生によって自らの経済運営に支障が起 こる可能性があるということを認識し,これへの対処を考えるところから保 険需要形成のプロセスが始まる と,リスク認知が保険需要形成のプロセス の起点であるとの考えを示している。
また,マーケティングの分野では,例えばコトラー([2008],p.7)等に より,需要はニーズを出発点として説明され,
ニーズ
⇒
欲求⇒
需要のプロセスで需要は形成されるとされている。ここで,
①ニーズは欠乏を感じている状態
②欲求は人間の持つニーズが個性や習慣を通して具体化された状態
③需要は購買力を伴った具体的商品の購買意向 を表している。
そして,コトラーのニーズから需要への説明に,水島の考えを重ね合わせ ると,
リスク認知
⇒
リスク保障ニーズ⇒
欲求⇒
保険需要 が保険の需要形成プロセスとなる 。また同時に,水島([2006],p.88)は日本の保険思想水準とのかかわりか ら, 自らの経済生活(家計)を脅かす危険や不確実性に対処する仕方にお いて,これを直視することなく,ただ漫然たる不安感を抱くといった傾向が 大きい。したがって,それに対する保障手段の調達にしても,保険可能なリ スクについては保険サービスの購入で対処し,いわゆる動態的危険に対して
1) 本稿は,需要形成プロセスにおける生命保険と一般の消費財・サービス財と の異質性を明らかにした林晋[2008]の研究を発展させ,生命保険の需要形成 プロセスを構造的に捉えたものである。
は一般の貯蓄によって対応するといった合理的行動が生まれにくい。漫然た る不安意識を軽減するための貯蓄(個別的準備形成)偏重という傾向は,透 徹した合理性のもとにリスクを認知し,これに適合する保障手段を的確に入 手するという論理的思考とは程遠いものである。 と,保険需要形成プロセ スにおける論理的,合理的,体系的思考と行動の脆弱性を指摘しており,実 際の保険需要形成が,かならずしも論理的にリスク認知から形成されるとは 限らないことを示唆している。
上記に依る本稿の第1の問題意識は,リスク認知に始まる合目的的な保険 需要の形成プロセスがはたして成り立っているのか否かについて実証的に検 証する,ということである。
次に,水島([2006],pp.84‑85)は保険需要の間接性として, 保険保護 に対する家計のニーズは,一般に,生活維持に基本的な欲求が充足された後 にあらわれる。生活の安定性や保障への欲求は,衣食住その他の基本的必要 が満たされた次の段階ではじめて問題となるからである。…保険需要の大き さを規定する要因としての所得水準の重要性を容易に理解することができる。
…保険需要の大きさは結局のところ,基本的欲求を一応満たしうるような一 定の所得水準が与えられたとして,個々の経済主体(家計)がもつリスクへ の関心度合がどの程度であるかに大きくかかわることになる。 と,所得水 準が保険需要形成の重要な因子の一つであり,保険需要の大きさが所得水準 とリスク認知の程度にかかわっていることを示唆している。
これに依る本稿の第2の問題意識は,保険需要の間接性にかかわるとする 所得水準が,保険需要の合目的性としてのリスク認知から独立的に位置づけ られるか否かについて実証的に検証する,ということである。
さらに,水島([2005],p.4)は 生活リスクへの対応のために,死亡保 障,所得保障(老後保障…筆者加筆),医療保障,介護保障につき,どのよ うな(生活保障サービスの…筆者加筆)組み合わせを選択するかは一様では ない。 と,生活リスク対応のための保障領域を4つに分離して捉えている。
中でも死亡保障は家計保険における伝統的な保障機能であり,基本的な保険
の効用を端的に示す生命保険(死亡保険)が,最も有力な保障資源として存 在している。そこで,本稿において死亡保障領域における生命保険の需要を 分析の対象とすることは有意義なことと考える。
なお,保険には企業保険と家計保険という分類があるが,水島([2006],
p.
84)は 保険サービスに対する需要をめぐる特徴は,家計保険の場合に明 瞭に認識できる と指摘しており,本稿でも,分析の対象は,生活者に直接 的な関わりが強い家計保険に限定することとする。以上の問題意識の下で,具体的に,本稿では,死亡保障領域における最有 力な保障資源である生命保険について,①保険需要の出発点がリスクの認知 に求められるのか否か,②保険需要の間接性はリスク認知とかかわっている のか否か,という課題について,2010年に㈶生命保険文化センターが実施し たアンケート調査データを用いてパス解析により実証的に検証することを研 究の目的とする。
本稿の研究に直接かかわる先行研究(パス解析を生命保険需要形成プロセ スに適用した分析)はこれまでのところ見当たらない。ただし,保険需要,
リスク認知に関する研究には以下に紹介する研究をはじめとして数々の蓄積 がある。まず石田重森[1986]は,期待効用理論を利用して保険需要につい て理論展開している。次に,民間国内生保と簡易保険の需要関数を分離した 推計により需要要因比較した研究として,大倉真人・春日教測[2006]が挙 げられる。さらに岩本光一郎[2003]は,生命保険需要を決定する要因を,
アンケート調査( 生命保険に関する全国実態調査 生命保険文化センター)
のデータを利用して実証的に検証している。さらに,保険選択がリスク認知 に内包する不安定な性質に影響を受けることを理論的に研究した田中隆
[2002]が挙げられる。
その他,パス解析自体はさまざまな研究に適用されており,例えばリスク 研究分野においては,態度構造,リスク認知のモデルに適用した研究として 鬼頭弥生[2009]等の研究論文が挙げられる。
本稿では,2節において,分析の枠組みとして,想定するモデル,変数の
定義,使用データ等を説明する。3節では,分析方法と分析結果を説明する。
4節では,実証結果に基づいた結論と今後の研究課題を述べる。
2.分析の枠組み
2.1 モデル設定
2.1.1 生命保険需要形成のプロセス
需要は,一般的に,購買(財布)に裏打ちされた具体的な商品の購買意向 と定義されている。これに,前述したとおりリスク認知が生命保険需要の出 発点であるとする水島の考えを重ね合わせると,
リスク認知
⇒リスク保障ニーズ ⇒
欲求⇒
生命保険需要 が,生命保険の需要形成プロセスとなる。ただし,本稿で扱う生命保険需要は,具体的な個別会社の生命保険商品で はなく,保障資源としての生命保険である。そのため,欲求と需要の境界が あいまいになるため,それらの複合状態を保障資源(本稿では生命保険)の 需要と定義する。すなわち,
リスク認知
⇒
リスク保障ニーズ⇒
生命保険需要 を,本稿における生命保険需要の形成プロセスとする。2.1.2 モデルの構築
以上のことから,構築するモデル は,⑴生命保険需要の形成プロセスを 説明するリスク認知,⑵リスク保障ニーズと,⑶生命保険需要の間接性を説 明する所得水準,とによって規定される。これらの変数間の因果関係はパ ス・ダイアグラムで表現され,図表1のように示される。
2) 本稿のモデルは,保障ニーズと生活保障資源の一つである生命保険選択(需 要)との関係をシミュレーションすることにより検証した林晋[2005]の研究 を発展させて,構築したものである。
2.2 データと変数の定義
本稿で用いるアンケート調査 平成22年度生活保障に関する調査 は,
人々の生活保障意識や保障準備の実態を把握することを目的として,㈶生命 保険文化センターによって,2010年4月17日〜6月18日にかけて面接聴取法
(一部質問は留置聴取法を併用)で実施され,回収サンプルは4,076であった。
本稿のモデルの推定には,リスク認知,所得水準,リスク保障ニーズ,生 命保険需要のデータが必要であるが,これらについては,前述のアンケート 調査から得られる変数を加工して適用する。
2.2.1 リスク認知の変数
リスク認知については, 不確実な事象に対する主観的確率や損失の大き さの推定,不安や恐怖,楽観,便益,受け入れ可能性などの統合された認識 である (楠見,[2006]pp.272‑273)との定義を参考にし,その要素の1 つである不安項目を利用してリスク認知尺度の変数として設定した。具体的 にはアンケート調査の質問から得られた 死亡時の遺族の生活に対する不安 の内容 9項目について,個人毎に当てはまる個数を合計し,それをリス ク認知の尺度得点とした。
図表1 リスク認知と生命保険需要形成のモデル
3) 質問(Q30
SQ
)の内容と回答分布は生命保険文化センター[2010]p.283。2.2.2 所得水準の変数
所得水準については,アンケート調査の質問から得られる 世帯年収 を変数として設定した。所得水準を代替する変数としては, 世帯年収 と
本人年収 があるが,家計全体への影響が大きい死亡保険は伝統的に世帯 商品といわれていることから, 世帯年収 を採用した。
2.2.3 リスク保障ニーズの変数
リスク保障ニーズについては,アンケート調査の質問から得られる死亡保 障,老後保障,医療保障,介護保障の4つの保障領域のうち 最も力を入れ たい保障準備 と 次に力を入れたい保障準備 に着目し,個人毎に 最 も力を入れたい保障準備 の保障領域に2点, 次に力を入れたい保障準備 の保障領域に1点,回答のない保障領域に0点をそれぞれ与え,リスク保障 ニーズの尺度得点とする変数として設定した。
なお,保障領域は,死亡保障,老後保障,医療保障,介護保障の4領域で 捉えており,本稿では死亡保障に関する領域の回答を用いている。
2.2.4 生命保険需要の変数
生命保険需要については,アンケート調査から得られる 死亡保障に対す る今後の準備意向 に着目し,その中の選択肢の1つである 生命保険 を変数として設定した。
2.2.5 多母集団分析に用いるための変数
多母集団パス解析に用いるための変数としては,人口学的属性である性別,
年代別,ライフステージ別,金融資産別 を設定した。
4) 質問(F8)の内容と回答分布は生命保険文化センター[2010]p.296。
5) 質問(Q37)の内容と回答分布は生命保険文化センター[2010]p.285。
6) 質問(Q35)の内容と回答分布は生命保険文化センター[2010]p.285。
7) 質問(性別:F1,年代別:F2,ライフステージ別:F5
&F5 SQ
2,金融資産 別:F10)の内容と回答分布は生命保険文化センター[2010]pp.294‑296。3.分析結果
3.1 分析に用いた変数の記述統計
図表2〜3は,分析に使用する尺度化した変数の得点分布を示したもので ある。
図表2において,尺度に含まれる個々の質問が内的整合性を持つか否かを 判定するために,クロンバックの
α信頼性係数 を推定したところ,0.608
であったので,妥当な尺度とみなせると判断した。3.2 パス解析による推定結果
図表1に示したモデルについて,前節で述べた変数を用いて推定を行う。
リスク認知,所得水準,リスク保障ニーズ,生命保険需要の各変数を用い てパス図を作成し,パス解析をおこなった。分析には
SPSS
のAmos18を
用いた。 無回答 , わからない はランダムな欠損と位置付け,完全情報 最尤法により処理した。8) クロンバックの
α信頼性係数として,アンケート調査などで,対象とする
領域の特性を測定するために複数の質問項目への回答の合計値(特に尺度得点 と呼ばれる)を使うことがある。それは,尺度に含まれる個々の質問項目が内 的整合性を持つか否か(目的とする特性を測定する質問項目群であるか)を判 定するために用いられる。目安として,α係数は0.8以上,社会調査データで は少なくとも0.6以上が望ましいとされている。図表2 死亡保障領域におけるリスク認知の強度分布(単位:%)
度数 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 不明 合計
分布 32.7 21.5 16.9 11.6 5.1 2.0 0.7 0.2 0.2 0.2 8.9 100.0
19.3 19.7 12.4 48.7 分布
不明 2 1 0 度数
図表3 死亡保障領域におけるリスク保障ニーズの強度分布(単位:%)
100.0 合計
その結果,分析におけるパス図とデータの当てはまりを示すモデルの適合 度指標 は
CFI=0.995,RMSEA=0.029であり,CFI
値,RMSEA値とも にデータの当てはまりが良いと判断できる。生命保険需要に与える効果は図表4に示すとおりであるが,リスク認知と リスク保障ニーズのパス,リスク保障ニーズと生命保険需要のパス,リスク 認知と生命保険需要のパス,所得水準と生命保険需要のパス,すべてで有意 であった。
その結果,生命保険需要形成のプロセスである,リスク認知からリスク保 障ニーズを経由して生命保険需要に至るパスの存在と,生命保険需要の間接 性を示す所得水準から生命保険需要に至るパスの存在を,共に確認すること ができた。しかしながら,リスク認知と所得水準の間の相関係数は0.082と 必ずしも高くないことから,リスク認知からのパスと所得水準からのパスが
9)
CFI
値は,0から1の間の値をとるが,1に近いほど当てはまりが良い。RMSEA
値は,0.05以下であれば当てはまりが良く,0.1以上であれば当て はまりが悪いと判断する習慣がある。(豊田[2007],pp.243‑245)柱)バス係数は標準化推定値,リスク認知と所得水準の間の数値は相関係数,観測 変数の右肩の数値は決定係数。
有意な係数はアスタリスク(
p
<.05,p
<.01,p
<.001)で示した。図表4 リスク認知と生命保険需要のパス解析の推定結果
相互に影響しあって生命保険需要の形成に寄与しているというよりは,別々 に寄与していると解釈する方が自然であると理解できる。つまり,所得水準 が高いほど生命保険の購買意向が強くなり,またリスク認知についても同様 に,それが高くなるほど生命保険需要の購買意向が強くなることが確認され た。
なお,本稿の目的からは逸れるが,決定係数はリスク保障ニーズが0.116,
生命保険需要が0.090であった。
3.3 多母集団パス解析による推定結果
生命保険需要に影響のある人口学的属性として,性別,年代別,未既婚別,
ライフステージ別,金融資産別の変数を用いて,それぞれの変数内の階層が 異なる母集団であると仮定して,多母集団パス解析で推定を行い,各階層で 生命保険需要形成のプロセスが成り立つか否かを確認する。
分析におけるパス図とデータの当てはまりを示すモデルの適合度指標は,
図表5のとおりである。性別,年代別,ライフステージ別,金融資産別とも に,CFI値が0.95以上,RMSEA値が005以下なので,多母集団パス解析の 結果は,データの当てはまりが良いと判断できる。
推定結果は図表6〜9に示すとおりである。
図表6により,性別の生命保険需要に与える効果は次のとおりとなる。
女性 では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,リスク保障ニーズと 生命保険需要のパス,リスク認知と生命保険需要のパス,所得水準と生命保
図表5 多母集団パス解析の適合度指標
CFI RMSEA 性別
年代別
ライフステージ別 金融資産別
0.969 0.968 0.979 0.995
0.048 0.030 0.017 0.015
険需要のパス,すべてで有意であった。一方 男性 では,リスク認知とリ スク保障ニーズのパス,リスク認知と生命保険需要のパス,所得水準と生命 保険需要のパスで有意であったが,リスク保障ニーズと生命保険需要のパス が有意でなかった。
その結果, 女性 では,生命保険需要形成のプロセスである,リスク認 知からリスク保障ニーズを経由して生命保険需要に至るパスの存在,ならび に所得水準からのパスの存在も確認できた。しかし 男性 では,リスク認 知からリスク保障ニーズを経由するパスの存在は確認できなかったが,リス ク認知から直接生命保険需要へ結びつくパスの存在,ならびに所得水準から のパスの存在は確認できた。
図表7により,年代別の生命保険需要に与える効果は次のとおりとなる。
30歳代 , 60歳代 では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,リスク 保障ニーズと生命保険需要のパス,リスク認知と生命保険需要のパス,所得 水準と生命保険需要のパス,すべてで有意であった。一方 20歳代 , 40歳
図表6 多母集団パス解析の推定結果(性別)
男性 女性
パス係数
リスク認知→リスク保障ニーズ 0.278 0.284 リスク保障ニーズ→生命保険需要
0.036 0.057リスク認知→生命保険需要
0.181 0.129所得水準→生命保険需要
0.266 0.161 相関係数決定係数
0.078
0.081
生命保険需要 0.124 0.049
リスク保障ニーズ
リスク認知⇔所得水準
0.153‑0.023
注)有 意 な パ ス 係 数 は ア ス タ リ ス ク( p<.05, p<.01,
p<.001)で示した。
代 , 50歳代 では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,リスク認知と 生命保険需要のパス,所得水準と生命保険需要のパスで有意であったが,リ スク保障ニーズと生命保険需要のパスが有意でなかった。
その結果, 30歳代 , 60歳代 では,生命保険需要形成のプロセスであ る,リスク認知からリスク保障ニーズを経由して生命保険需要に至るパスの 存在,ならびに所得水準からのパスの存在も確認できた。しかし 20歳代 ,
40歳代 , 50歳代 ではリスク認知からリスク保障ニーズを経由するパス の存在は確認できなかったが,リスク認知から直接生命保険需要へ結びつく パスの存在,ならびに所得水準からのパスの存在は確認できた。
図表8により,ライフステージ別の生命保険需要に与える効果は次のとお りとなる。 既婚・末子未就学 ,では,リスク認知とリスク保障ニーズのパ ス,リスク保障ニーズと生命保険需要のパス,リスク認知と生命保険需要の パス,所得水準と生命保険需要のパス,すべてで有意であった。一方 未 婚 , 既婚・子供なし , 既婚・末子中高生 , 既婚・子供すべて卒業(子 供未婚) では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,リスク認知と生命
図表7 多母集団パス解析の推定結果(年代別)
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示した。
0.167 リスク認知⇔所得水準
リスク保障ニーズ
0.058 生命保険需要
0.078 決定係数
相関係数
0.172 所得水準→生命保険需要
0.151 リスク認知→生命保険需要
‑0.051 リスク保障ニーズ→生命保険需要
0.279 リスク認知→リスク保障ニーズ
パス係数
20歳代 30歳代
0.394 0.139 0.152 0.144
0.156 0.079
‑0.013
40歳代
0.292 0.041 0.24 0.152
0.085 0.091 0.038
50歳代
0.345 0.055 0.173 0.183
0.119 0.078 0.073
60歳代
0.238 0.074 0.11 0.171
0.057 0.053 0.062
保険需要のパス,所得水準と生命保険需要のパスで有意であったが,リスク 保障ニーズと生命保険需要のパスが有意でなかった。また, 既婚・末子小 学生 , 既婚・末子大学生 では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,
図表8 多母集団パス解析の推定結果(ライフステージ別)
‑0.066 0.019
リスク認知⇔所得水準
リスク保障ニーズ
0.108 0.053
生命保険需要
0.107 0.051
決定係数 相関係数
0.193 0.118
所得水準→生命保険需要
0.236 0.194
リスク認知→生命保険需要
0.089 0.01
リスク保障ニーズ→生命保険需要
0.327 0.227
リスク認知→リスク保障ニーズ パス係数
既婚・子供
未婚 なし 既婚・末子
未就学
既婚・末子 小学生
0.416 0.263 0.104 0.1 0.143 0.182 0.167 0.085
0.173 0.069 0.067 0.059
‑0.074 ‑0.024
0.016 0.069
0.044 0.065
0.064 0.052
0.175 0.178
0.073 0.152
0.07 0.053
0.253 0.228
既婚・子供 すべて卒業
(既婚)
既婚・子供 すべて卒業
(未婚)
既婚・末子 中高生
既婚・末子 大学生 パス係数
リスク認知→リスク保障ニーズ 0.321 0.385 リスク保障ニーズ→生命保険需要 ‑0.022 0.03 リスク認知→生命保険需要 0.133 0.2 所得水準→生命保険需要 0.198 ‑0.04 相関係数
決定係数
0.103 0.148
生命保険需要 0.057 0.046
リスク保障ニーズ
リスク認知⇔所得水準 0.023 0.076
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示し
た。
リスク認知と生命保険需要のパスで有意であったが,リスク保障ニーズと生 命保険需要のパス,所得水準と生命保険需要のパスが有意でなかった。 既 婚・子供すべて卒業(子供既婚) では,リスク認知とリスク保障ニーズの パス,所得水準と生命保険需要のパスで有意であったが,リスク保障ニーズ と生命保険需要のパス,リスク認知と生命保険需要のパスが有意でなかった。
その結果, 既婚・末子未就学 では,生命保険需要形成のプロセスであ る,リスク認知からリスク保障ニーズを経由して生命保険需要に至るパスの 存在,ならびに所得水準からのパスの存在も確認できた。しかし 未婚 , 既婚・子供なし , 既婚・末子中高生 , 既婚・子供すべて卒業(子供未 婚) では,リスク認知からリスク保障ニーズを経由するパスの存在は確認 できなかったが,リスク認知から直接生命保険需要へ結びつくパスの存在,
ならびに所得水準からのパスの存在は確認できた。また, 既婚・末子小学 生 , 既婚・末子大学生 では,リスク認知からリスク保障ニーズを経由す るパスの存在,ならびに所得水準からのパスの存在は確認できなかったが,
リスク認知から直接生命保険需要へ結びつくパスの存在は確認できた。 既 婚・子供すべて卒業(子供既婚) では,リスク認知からリスク保障ニーズ を経由するパスの存在,ならびにリスク認知から直接生命保険需要へ結びつ くパスの存在は確認できなかったが,所得水準からのパスの存在確認できた。
図表9により,金融資産別の生命保険需要に与える効果は次のとおりとな る。 100万円未満 では,リスク認知とリスク保障ニーズのパス,リスク保 障ニーズと生命保険需要のパス,リスク認知と生命保険需要のパス,所得水 準と生命保険需要のパス,すべてで有意であった。一方 100〜500万円未 満 , 500〜1000万円未満 , 1000〜2000万円未満 では,リスク認知とリ スク保障ニーズのパス,リスク認知と生命保険需要のパス,所得水準と生命 保険需要のパスで有意であったが,リスク保障ニーズと生命保険需要のパス が有意でなかった。また, 2000万円以上 では,リスク認知とリスク保障 ニーズのパス,リスク認知と生命保険需要のパスで有意であったが,リスク 保障ニーズと生命保険需要のパス,所得水準と生命保険需要のパスが有意で
なかった。
その結果, 100万円未満 では,生命保険需要形成のプロセスである,リ スク認知からリスク保障ニーズを経由して生命保険需要に至るパスの存在,
ならびに所得水準からのパスの存在も確認できた。しかし 100〜500万円未 満 , 500〜1000万円未満 , 1000〜2000万円未満 ではリスク認知からリ スク保障ニーズを経由するパスの存在は確認できなかったが,リスク認知か ら直接生命保険需要へ結びつくパスの存在,ならびに所得水準からのパスの 存在は確認できた。また, 2000万円以上 では,リスク認知からリスク保 障ニーズを経由するパスの存在,ならびに所得水準からのパスの存在は確認 できなかったが,リスク認知から直接生命保険需要へ結びつくパスの存在は 確認できた。
注)有意なパス係数はアスタリスク( p<.05, p<.01, p<.001)で示 した。
図表9 多母集団パス解析の推定結果(金融資産別)
0.152 リスク認知⇔所得水準
リスク保障ニーズ
0.13 生命保険需要
0.154 決定係数
相関係数
0.142 所得水準→生命保険需要
0.239 リスク認知→生命保険需要
0.128 リスク保障ニーズ→生命保険需要
0.392 リスク認知→リスク保障ニーズ
パス係数
100万円 未満
100〜500万 円未満
0.371 0.056 0.17 0.199
0.138 0.086 0.103
500〜1000 万円未満
0.366 0.008 0.166 0.165
0.134 0.057 0.012
1000〜2000 万円未満
0.287 0.042 0.153 0.242
0.083 0.105 0.227
2000万円 以上
0.27 0.109 0.223 0.075
0.073 0.084 0.089
4.結論と課題
4‑1 多母集団パス解析の推定結果のまとめ
多母集団パス解析による結果から,有意なパスの組み合わせを整理すると,
図表10のタイプⅠからタイプⅣの4通りとなる。
さらに,4つのタイプの属性的特徴を抽出,整理すると図表11のとおりと なる。
⑴ タイプⅠの解釈
タイプⅠは,生命保険需要プロセスとしては,リスクを認知すると,リス ク保障ニーズを認識しやすく,保障手段の調達として,残された遺族への保
2000万円以上 100〜500万 円 未 満,500〜
1000万円未満,1000〜2000 万円未満
100万円未満 金融資産
別
既婚・末子小学 生,既婚・末子 大学生 既婚・末子小学 生,既婚・末子 大学生 未婚,既婚・子供なし,既 婚・末子中高生,既婚・子 供すべて卒業(子供未婚)
既婚・末子未 就学 ライフス テージ別
20歳代,40歳代,50歳代 30歳代,60歳
年代別 代
男性 女性
性別
タイプⅣ タイプⅢ
タイプⅡ タイプⅠ
図表11 タイプⅠ〜タイプⅣの属性的特徴
注)○はパス係数が有意であることを,×は有意でないことを,それぞれ示す。
○
×
○
○
所得水準と生命保険需要×
○
○
○
リスク認知と生命保険需要×
×
×
○
リスク保障ニーズと生命保険需要○
○
○
○
リスク認知とリスク保障ニーズタイプⅣ タイプⅢ
タイプⅠ タイプⅡ
図表10 多母集団パス解析による有意なパスの組み合わせ
障として合目的的に生命保険を選択し,所得水準に応じて需要の大きさを図 るタイプである。
このようなタイプは,女性,30歳代,60歳代,既婚・末子未就学児,金融 資産100万円未満の層で特徴的である。
⑵ タイプⅡの解釈
タイプⅡは,生命保険需要プロセスとしては,リスクを認知すると,リス ク保障ニーズを認識するまでは至っているが,そこから生命保険需要には結 びつかないタイプである。しかし同時に,このタイプは,リスクを認知し,
(合理的理由ではなく直感的に必要性を感じて)残された遺族への保障とし て生命保険を選択し,所得水準に応じて需要の大きさを図るタイプである。
それは,外部からの刺激でリスクを認知し,生命保険を選択しているとも考 えられる。
このようなタイプは,男性,20歳代,40歳代,50歳代,未婚,既婚・子供 なし,既婚・末子中高生,既婚・子供すべて卒業(子供未婚),金融資産100
〜500万円未満,500〜1000万円未満,1000〜2000万円未満の層で特徴的であ る。
⑶ タイプⅢの解釈
タイプⅢは,生命保険需要プロセスとしては,所得水準以外はタイプⅡと 同じである。このタイプは,リスクを認知すると,リスク保障ニーズを認識 するまでは至っているが,そこから生命保険需要には結びつかないタイプで ある。しかし同時に,このタイプは,リスクを認知し,(合理的理由ではな く直感的に必要性を感じて)残された遺族への保障として生命保険を選択す るが,所得水準とは無関係に生命保険を需要するタイプである。
このようなタイプは,既婚・末子小学生,既婚・末子,金融資産2000万円 以上の層で特徴的である。
⑷ タイプⅣの解釈
タイプⅣは,生命保険需要プロセスとしては,リスクを認知すると,リス ク保障ニーズを認識するまでは至っているが,そこから生命保険需要には結
びつかず,所得水準に応じて需要の大きさを図るタイプである。このタイプ については,他の保障資源を需要しているのか,リスク保障ニーズで留まっ ているのか,今後の課題として検討する必要がある。
このようなタイプは,既婚・末子小学生,既婚・末子大学生の層で特徴的 である。
4‑2 結論と課題
パス解析の結果,生活者の リスク認知から生命保険需要 までのプロセ スは一元的でなく,次の特徴が明らかになった。
⑴ サンプル全体でのパス解析では,生命保険需要がリスク認知に求められ,
リスク保障ニーズを経由していることと,所得水準が生命保険需要を規定 していることから,現代日本人の大勢として生命保険需要については合目 的的行動をしていることが確認できた。
⑵ 多母集団パス解析では,以下の①〜④が確認できた。
①生命保険需要がリスク認知に求められるタイプと,求められないタイプ がある。
②生命保険需要がリスク認知に求められるタイプでも,リスク保障ニーズ を経由するタイプと経由しないタイプがある。
③リスク認知から生命保険需要に至らずに,リスク保障ニーズで留まって いるタイプがある。
④所得水準が生命保険需要を規定しているタイプと規定していないタイプ がある。
上記⑴,⑵の特徴に基づき,生命保険の需要を拡大・活性化するためには,
①それぞれのタイプごとに,生命保険を選択するスタイルを理解し,それら に対応した適切な接し方について,②特にリスク保障ニーズから需要に結び つかないタイプには,生命保険の必要性を理解してもらうプロセスを研究し,
どのように需要に結び付けていくのかについて,検討する必要があろう。
残された課題としては,次の⑴,⑵,⑶,⑷が挙げられる。
⑴ 生命保険需要プロセスのモデルを精緻化すること
⑵ 生命保険と同様の保障資源である損害保険,預貯金,有価証券における 需要プロセスの推計,及び,それらと生命保険とを比較分析すること
⑶ 時系列での需要プロセスの推計,生命保険需要プロセス変容を分析する こと
⑷ 医療保障,老後保障,介護保障の各領域を対象に,本稿ならびに残され た課題⑴〜⑶と同様の分析を行うことにより各保障領域間の保障資源需要 を比較分析すること
(筆者は公益財団法人生命保険文化センター勤務)
参考 ・引用 献
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