• 検索結果がありません。

福岡大学博士学位論文

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "福岡大学博士学位論文"

Copied!
58
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

福岡大学博士学位論文

ターンを利用したホームエクササイズに関する研究

Research on adding turns to walking and slow jogging as home exercise

平成三十年三月授与

GD150501 荒木 真由美

(2)

目次

第一章 研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Ⅰ.身体活動の利益

Ⅱ.身体活動として推奨される強度

Ⅲ.身体活動不足の現状

Ⅳ.運動習慣の現状

Ⅴ.本研究の目的

第二章 ウォーキングにターンを追加したエクササイズ:

Slow Walking with Turns

の生理負荷に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・ 9

Ⅰ.緒言

Ⅱ.対象と方法

1.Slow Walking with Turns

の運動強度を評価するための実験プロトコル

対象者

実験プロトコル

2.Slow Walking with Turns

のターン相の筋活動を評価するための実験プロトコル

対象者

実験プロトコル

A.MVC

発揮時の

EMG

測定

B.Slow Walking with Turns

減速ステップの

EMG

測定

C.トレッドミル歩行のEMG

測定

3.統計的分析

Ⅲ.結果

1.Slow Walking with Turns

の運動強度

2. Slow Walking with Turns

減速ステップとトレッドミル歩行荷重応答期の筋活動

Ⅳ. 考察

第三章 ジョギングにターンを追加したエクササイズ:

Slow Jogging with Turns

の生理負荷に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・21

Ⅰ.緒言

(3)

Ⅱ.方法

1.対象者

2.運動耐容能試験

3.Slow Jogging with Turns

の生理負荷を評価するための実験プロトコル

4.統計的分析

Ⅲ.結果

Ⅳ.考察

Ⅴ.研究限界

第四章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

第五章 図表 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

(4)

1

第一章 研究の背景

(5)

2

Ⅰ.身体活動の利益

近年,身体活動と健康との関連に関する科学的知見が多く得られており,その利益につ いて活動量,強度および座位行動時間などの観点から多くの研究がなされている.身体活 動量と死亡率には負の相関があり,身体活動量の増加により総死亡のリスク比は低下する ことが明らかとなっている.Paffenberger et al.(1986)は,1 週間の運動によるエネル ギー消費量と死亡率について,最も活動量が低い

500kcal

未満では死亡率が最も高く,

2,000kcal

以上の身体活動量では死亡率が横ばいとなることを報告している.さらに,

Manini et al.(2006)は,70

歳以上の高齢者を対象に,活動エネルギー消費量と

7

年後

の死亡率との関連についての調査において,活動による

1

日の消費エネルギーが

770kcal

以上の群では

12%が死亡したのに比べて,521kcal

以下では,その倍の

24%が死亡した

ことを報告している.Paffenberger et al. による報告以降,1 週間に

2000kcal

以上,す なわち,1 日

300kcal

に相当する歩数として,1 日

1

万歩の歩数の確保が健康を維持する ための代表的な指標とされているが,あらゆる活動を通して,より多くのエネルギーを消 費することは,高齢者の生存に影響を及ぼす可能性が示唆されている.一方,活動性が低 下している高齢者であっても,途中で活動性を向上することで死亡率が有意に低下するこ とが報告されている(Gregg et al, 2003).活動性の向上がそれまでの身体活動量とは無 関係に死亡率を低減させたことは,身体活動を増加させるのに遅いということはなく,ど の年代においてもより多くの身体活動を通したエネルギー消費が重要であることを示唆し ている.

身体活動と生活習慣病の関係についても,これまで多くの研究がなされてきた.運動な どの身体活動は,脂質代謝異常に伴う抗炎症作用・炎症促進因子の減少,糖代謝異常に伴 うインスリン感受性の改善,血管拡張能の改善,血小板凝集・血液凝固の抑制,酸化スト レスの軽減に寄与しており,このような機序を介して,高い身体活動量は,メタボリック シンドローム(以下

MS

と略す)を含めた循環器疾患(Manson et al., 2002; Nocon et al.,

2008)・高血圧症(Kiyonaga et al, 1985)・糖尿病(Kodama et al., 2013)・がん(Li et al., 2016; Lee et al., 2007)といった生活習慣病の発症及びこれらを原因として死亡に

至るリスクを低減させる.

また,身体活動が高齢者の身体機能に及ぼす影響についても明らかにされている.歩

数や中高強度身体活動時間と通常および最大歩行速度の間には相関を認め,後期高齢者

においては,膝伸展筋力およびファンクショナルリーチとも有意な相関を認めている

(6)

3

(Aoyagi et al., 2009;Ikenaga et al., 2014).さらに,毎日20-30分の中強度運動を 行っている高齢者は,不活動や1日を通して活動している高齢者と比較して,優れた身 体機能を持つこと(Brach et al., 2004)や,

1日の消費エネルギーがほとんど同じ場合,

運動を含まない日常生活活動群と運動を含む運動群を比較すると,日常生活活動群で中 等度から重度の虚弱になる可能性がほぼ3倍に増加する(Peterson et al., 2009)ことが 報告されている.このことは,日常生活程度の身体活動では身体機能を維持するために は不十分であり,定期的な運動参加や中高強度の身体活動が虚弱を予防することを示唆 している.

身体活動量が注目されている一方で,身体活動や運動の有無と関係なく,座位行動を 占める時間と死亡率および生活習慣病の関係についての研究も進んでいる.座位行動

(Sedentary behavior)とは, 「座位および臥位における

1.5METs

以下の全ての覚醒行 動」 (Sedentary Behavior Research Network, 2002 )と定義され,これまでにテレビ視 聴時間と総死亡率,および心血管疾患による死亡率との関連(Dunstan et al., 2012;

Wilmot et al., 2012)や,2

型糖尿病発症リスクとの関連(Wilmot et al., 2012; Grontved

and Hu, 2011),肥満や体脂肪率との関連,がんとの関連(Shen et al., 2014; Ukawa et al., 2013)などが報告されている.また,座位行動の減少は機能低下の減少と関連して

おり(Semanik et al., 2015;Mañas et al., 2017),座位行動を制限し,身体活動を促進す ることは,身体機能を維持する上でも重要である.

これらのことから,身体活動不足や座位行動時間の延長は,将来の生活習慣病発症や 高齢者の虚弱・自立度を低下させる危険因子となることは明らかであり,身体活動量の 増加や座位行動時間の短縮につながる対策が急務である.

Ⅱ.身体活動として推奨される強度

身体活動による身体への利益は明らかであるが,身体活動の強度がその効果に影響を及 ぼすことが明らかになっている.身体活動は強度別に,高強度活動:6METs 以上,中強 度活動:3-6METs 未満,軽強度活動:1.5-3METs 未満,座位行動:1.5METs 以下と 分類される(Gibbs et al., 2015).

身体活動は

MS

のリスク軽減に関与しない閾値が存在し,低強度ではいくつかの

MS

スク因子の軽減および体重減少への効果はほとんどない(Laursen et al, 2012).

Batacan et al.(2015)は,心血管リスクを減らすためには身体活動量より強度が重要であると

(7)

4

指 摘 し て お り , 身 体 活 動 量 の み な ら ず 強 度 の 概 念 が 重 要 で あ る . 中 高 強 度 活 動

(Moderate-to-Vigorous Physical Activity: 以下,MVPA と略す)は,低強度活動と比 較して,死亡率や心血管リスクの減少(Franco et al., 2005 :Manson et al., 2002;

Hammond, 1964)させ,高齢者の身体機能への効果(Aoyagi et al., 2009

Ikenaga et al.,

2014)も期待されるため,年齢を問わず,積極的にMVPA

を含むことが推奨されている.

Ⅲ.身体活動不足の現状

世界保健機構(WHO)は,高血圧(13%),喫煙(9%),高血糖(6%)に次いで,身 体活動不足(6%)を全世界の死亡に対する危険因子の第

4

位として位置づけており,

我が国に限らず世界中で身体活動不足は問題となっている.身体活動不足とは

MVPA

が不十分な人,つまり,ガイドラインに示された

MVPA

時間の目標値を満たさないこ とを指す.「健康のための身体活動に関する国際勧告(Global recommendations on

physical activity for health)」では,18

歳から

64

歳に分類される成人,および

65

歳 以上の高齢者においても,週あたり

150

分以上の中強度有酸素性身体活動,または週あ たり

75

分以上の高強度有酸素性身体活動,またはその組み合わせが推奨されている.

「健康づくりのための身体活動基準

2013」および「健康づくりのための身体活動指針(ア

クティブガイド)」では,

18

歳から

64

歳に対しては

3METs

以上の強度の運動を

23METs

・ 時/週,また

65

歳以上の健康な人については,強度は問わず

10METs・時/週,それぞ

れ実践することを推奨している(厚生労働省,2013a,b).

国民健康・栄養調査(厚生労働省,2006)によると,1 週間の運動実施時間について,

すべての年代で「全く行わない者(0 分)」の割合が最も高く,次いで

2

時間以上

6

時 間未満の割合が高かった.さらに,「やや強い」および「強い」運動について,20 歳代

65-85%,70

代では

85-98%が全く行わなかったと回答している.MVPA

時間の目

標値を満たさない,つまり身体活動不足は,高齢者のみならず,どの年代においても重 要な課題であることは明らかである.

歩行は中等度強度の身体活動量のよい指標としてこれまで多くの調査・研究に用いら れており,さらに歩数を目安とした身体活動の目標値も提案されている.村上ほか(2012)

は,3 次元加速度計を用いて身体活動量と歩数の関係を調査し,アクティブガイドで推

奨される

23METs・時/週に相当する歩数が1

日あたり

8,500-10,000

歩であることを

示している.わが国の歩数の平均は男性で

7043

歩/日,女性で

6015

歩/日(厚生労

(8)

5

働省,2014)であり,推奨身体活動量をそのまま歩数に置き換えると,推奨値には到達 していない.歩数の経時的変化について,平成

9

年と平成

21

年の比較では,15 歳以上 の

1

日の歩数の平均値は男女ともに

1000

歩減少しており,身体活動量は減少している ことが推測される.熊谷ほか(2015)は身体活動パターンの男女差について,男性では 歩・走行活動が,女性では歩・走行活動以外の活動が多いが,総身体活動量に差はない ことを報告している.家事の自動化などにより,歩・走行以外の活動量も減少している 可能性は否定できない.

また,身体活動量の加齢変化について,歩・走行活動,および,歩・走行活動以外の 活動も,男女ともに有意に減少する(熊谷ほか,2015)ことが報告されている.平均歩 数は

70

歳以上の男性で

5276

歩,女性では

4195

歩(厚生労働省,2014)であり,50 歳台と比較するとそれぞれ

68%,60%と大幅に減少する.また,Cooper et al.

(2013)

は,70 歳台を対象とした

7

年間に亘るエネルギー消費量の追跡調査により,総エネル ギー消費量を基礎代謝で割った身体活動レベル(physical activity level:以下,PAL と 略す)は,男性で有意に減少したことを報告している.

身 体 活 動 不 足 は 我 が 国 に 限 っ た こ と で は な い .

Centers for Disease Control and

prevention

(2005)は,アメリカにおける余暇時間の身体活動について,1996 年からお

よそ維持されてきたが,近年は男女ともに減少しており,2005 年では余暇の運動時間 が全くない人口が

23.7%に増加していることを報告している.また,Ng and Popkin

(2012)はアメリカ,イギリス,ブラジル,中国およびインドの身体活動量(1 週間の

平均

MET・時間)と座位時間の経時的変化を調査しており,身体活動量は急速に減少

し,座位時間は増加していることを明らかにした.アメリカでは

1965

年から

2009

年 の間に総身体活動量は

30%減少している.特に変化が著しいのは中国で,1991

年から

2009

年の

18

年間で約半分に減少した.座位時間はアメリカとイギリスで特に増加して おり,それぞれ

37.7

時間/週(2009 年),41.7 時間/週(2005 年)で,今後もさらに 増加することが予測されている.

Ⅳ.運動習慣の状況

「国民健康・栄養調査」は運動習慣者を「週

2

回以上,1 回

30

分以上の運動を

1

年以 上継続している者」と定義しており,平成

26

年の運動習慣者の割合は,男性

31.2%,女

25.1%であった.調査を開始した1993

年(平成

5

年)以降,成人の

70%は運動習慣

(9)

6

がない状況が推移している.

運動経験の調査によると,最もよく行われているのはウォーキングである(スポーツ 庁,2016).しかし,通常の歩行は健康への利益がほとんどないことがいくつかの研究 で示されている.トレーニング期間や対象者は報告間で異なるが,その強度を

50%V

O2

max(V

O2

:oxygen consumption)以下,あるいは歩行速度を個人に任せた場合,収縮 期血圧の減少,および

HDL

コレステロールの増加を認めたが,体重,体脂肪率,下肢 筋量,下肢筋力,筋脂肪量,および有酸素能への効果は確認されなかった(Sipila et al.,

1995; Ozaki et al., 2011;酒井ほか,2000;Nemoto et al., 2007).Iwane et al.(2000)

は軽度高血圧症患者を対象に

1

1

万歩以上の歩行トレーニングを実施し,血圧および 交感神経活動の減少,有酸素能の改善を認めたが,Body mass index(以下,BMI と略 す),総コレステロール,

HDL

コレステロール,

HbA1c

への効果は認めなかったことを 報告している.歩行量や低強度身体活動は

MS

発症,および心血管リスクの軽減と関連 しないという報告は複数あり(Laursen et al., 2012;Manson et al., 2002) ,推奨値を超 える歩行量であっても,通常の歩行では健康に及ぼす効果が少ない可能性が示唆されてい る.一方,高強度(70-85%V .

O2 peak)の速歩を含む高強度インターバル歩行では,有酸

素能,および下肢筋力の増加,また,高血糖,高血圧,および肥満の改善が認められてい る(Morikawa, 2011;Nemoto et al., 2007).歩行速度の増加,および中高強度運動を有す る場合には

MS

発症リスクが

35-50%減少する(Laursen et al., 2012)ことや,歩行速

度が遅い群では,速い群と比較して心血管系のリスクが

3

倍高いこと(Dumurgier et al.,

2009; Hamer et al., 2010)

,速歩や高強度運動を少なくとも

2.5

時間/週実施することで 心血管リスクは

30%減少する(Manson et al., 2002)ことなどが明らかにされており,歩

行による健康への効果は,速度,すなわち強度の設定により左右され,速歩を除く通常の 歩行では確実な健康への効果はもたらさない.

健康への効果が期待できる中強度以上の運動を心掛けている人は,全体の

12%に過ぎな

い(厚生労働省,2014)ことが指摘されており,我々は運動の種類やその強度,および 運動習慣について見直しが必要である.身体活動量を増加させ,長期にわたって継続さ せることは難しく,運動開始後

6

か月には約半数が中止する(Dishman, 1985)との報告 がある.運動継続には,運動を支援する友人や家族の存在,雇用の変化,時間の欠如など 生活環境に関わる要因や,気温や天候など自然環境に関わる要因,さらには肥満,喫煙,

過去の運動行動などが影響するとされ,運動を習慣化するには多くの問題を抱えている.

(10)

7

Ⅴ.本研究の目的

多くの人にとって,簡単で,継続しやすい,中高強度の運動プログラムは有益である.

ウォーキングやジョギングは,特別な機器や技術を必要としないため,一般的に行いやす い有酸素運動である.しかし,前述したように通常の歩行は健康への効果がほとんどな い.最近,70%-85%V .

O2 peak

強度の速歩と

40%V

O2 peak

強度の歩行を交互に行う インターバル速歩トレーニングが注目されており,中高齢者の有酸素能,下肢筋力の増 加(Nemoto, 2007)や高血糖,高血圧および肥満の改善(Morikawa, 2011)をもたらすこ とが明らかとなった.しかし,歩行速度の増加は前脛骨筋やハムストリングスなどの局 所負担を増大させ,疲労感につながりやすいこと(Prilutsky and Gregor, 2001)や,速 度順守の難しさが懸念される.ランニングやジョギングは健康への効果をもたらすが,運 動やスポーツを好まない多くの人には,強度が高く難しく感じられるため,試してみるこ とさえない.

最近のいくつかの研究は,方向を変化させること(ターン)が追加的なエネルギー消費

(energy expenditure:以下,EE と略す)と関連していることを報告している.ターン に伴う

EE

増加は,減速とその後の加速のために,遠心性・求心性の筋収縮を必要とする ことに起因する.特に加速では,一定速度の走行よりも

EE

を増加させることや(di

Prampero et al., 2005:McNarry et al., 2017)

,転舵角が大きいほど制動力および推進力 が大きい(Schot et al., 1995)ことから,その増加はターンの角度や加速率により決定さ れることが示唆されている.また,Hatamoto et al.(2013, 2014)は,走行中に

180°タ

ーンを追加したときの

EE

について検討しており,EE の増大はターン頻度と走行速度に 依存することを明らかにした.このことから,ウォーキングやジョギングにターンを追加 することで,速度を増加させることなく,容易に運動強度を増大させることが可能である と仮説を立てた.ターンの追加は運動強度を増大させるだけでなく,室内の限られたスペ ースで健康度を高める運動実施を可能にする.ホームエクササイズの実践を妨げる要因と して,悪天候,時間や道具がない,場所がないなどが挙げられるが,特別な機器を必要と せず,室内の限られたスペースで行える運動であれば,夏の暑さや冬の寒さなど気候や天 候に関係なく快適に実践でき,ますます増加しているテレビ視聴時間(Hassapidou et al.,

2013)や,家事や仕事などの隙間時間を有効に活用しやすい.いつでもどこでも気軽に行

える運動は,運動継続のための努力を最小限にすることができる.

本研究は歩行にターンを追加する運動を“Slow Walking with Turns”,歩行やそれよりも

(11)

8

遅い速度で走るスロージョギングにターンを追加する運動を“Slow Jogging with Turns”

とし,それぞれの生理負荷を確認し,家庭で簡単に行える中高強度の運動プロトコルを作 成することを目的とした.

Key Words

ホームエクササイズ ターン 有酸素能 筋電図

home exercise, turn, aerobic capacity, EMG

(12)

9

第二章

ウォーキングにターンを追加したエクササイズ:

“Slow Walking with Turns”の生理負荷に関する研究

(13)

10

Ⅰ.緒言

高齢期の体力低下は,その後の健康関連アウトカム(

ADL

障害,要介護認定,認知 機能低下,入院,総死亡率)の発生リスクを有意に高める(Cooper et al., 2011).70 歳以上では,男女ともに歩数が急激に減少し,歩走行以外の身体活動量も減少する(厚 生労働省,2015;熊谷ほか,2015)ことは,高齢期の体力低下に影響を及ぼす.さら に,高齢者における身体活動による身体活動によるエネルギー消費量,または,

PAL

の決 定因子は低および中強度の身体活動の多寡である(Yamada et al., 2009)ことが示されて いる.Manini et al.(2009)は,高齢者の身体活動量による

EE

は除脂肪量の変化に影響 を与えないことを示しており,低-中強度の身体活動は除脂肪量の低下を抑制するには不 十分であり,筋量維持のためには中強度以上の,より活発な運動を取り入れる必要がある ことを示唆している.また,日常生活における身体活動だけでは,健康を維持するために 不十分であるという報告もある.Peterson et al.(2009)は,運動群と比較して,日常 生活活動群では,中等度から重度の虚弱になる可能性がほぼ

3

倍であることを報告して いる.両群の消費カロリーは同等であったことから,身体機能を維持するためには,日 常の身体活動量は問題ではなく,中高強度の運動が重要であると考えられる.Brach et

al.(2004)も同様に,高齢者では,1

日を通して活動するよりも,毎日

20-30

分の中

強度運動の実施により身体機能が改善することを報告している.このように,日常の身 体活動では身体機能を維持するためには不十分であり,運動活動への定期的な参加や中 等度から高強度の身体活動を積極的に取り組むことが重要である.

ウォーキングは代表的な有酸素運動である.笹川スポーツ財団(2016a)によると,週

1

回以上のペースでウォーキングをする人口の割合は

1996

年の

13.6%から,現在では

32.5%へと大幅に増加している.特に,60

歳代以上が実施率を大きく引き上げており,高

齢化を背景とした健康志向が伺われる.しかし,通常歩行は有酸素能や筋力,体重,体 組成にほとんど影響を及ぼさないことが知られている(Sipila et al., 1995; Ozaki et al.,

2011;

酒井ほか,

2000;Iwane et al., 2000; Nemoto et al., 2007).最近の研究では,70%

V

O2 peak

の速歩を含む高強度インターバル歩行は,有酸素能や下肢筋力を増加させ,高血

糖,高血圧および肥満を改善するのに有効である(Nemoto et al., 2007; Morikawa et al.,

2011)ことが報告されており,歩行速度の増加は,通常歩行には欠けている健康への効果

をもたらすことが示唆されている.しかし,歩行速度の増加は,前脛骨筋,大腿直筋,お

よびハムストリングスといった特定の筋の負担を増大させることで, 「きつさ」をもたらす

(14)

11

(Prilutsky and Gregor, 2001)ことも指摘されている.さらに,高齢者では,通常およ び最大歩行速度ともに,壮年群と比べて有意に低値である(Himann et al., 1988;

Studenski et al., 2011)ため,高齢者や虚弱の人のように歩行速度が遅い人々について,

歩行速度を増加させることで推奨される運動強度に到達することは困難であり,高齢者や 虚弱な人でも実施しやすい中強度トレーニング方法の検討が必要である.

最近の研究では,方向変換(ターン)が追加的な

EE

と関連していることを示唆してい る(Hatamoto et al., 2013;2014;McNarry et al., 2017).Hatamoto et al.(2014)は,

3-8km/h

のランニングにターンを追加することがランニングの

EE

を増加させ,その増

加の程度はランニング速度とターン頻度に依存することを報告している.ターンによる

EE

増大の程度は大きく,無視できない.例えば,

3km/h

の低速度走行に

1

分間あたり

30

回のターンを追加することによって,

6km/h

での直線走行と同等の

EE

となる(Hatamoto

et al., 2014)

.しかし,歩行中のターン追加による生理負荷については明らかでない.そ

こで,1)歩行へのターン追加は,走行と同様に

EE

を有意に増大させる,2)歩行速度が 増加するにつれて

EE

も増加する,

3)ターンにより特定の筋の活動が有意に増大すること

EE

増加に関連する,と仮定した.低速度歩行へのターン追加により,健康への効果が 期待できる程度に運動強度が増加すれば,高齢者や虚弱の人でも行いやすいトレーニング になる.本研究では,歩行中にターンを追加した運動を“Slow Walking with Turns”と 名付け,その生理負荷をトレッドミル平地歩行と比較することを目的とした.

Ⅱ.対象と方法

1.Slow Walking with Turns

の運動強度を評価するための実験プロトコル 対象者

男女各

4

名,計

8

名の活動的なボランティアが,Slow Walking with Turns とトレッドミ ル歩行の運動強度を確認するために参加した.参加者の年齢,身長および体重の各平均値

±標準偏差は,

24.9±5.0

歳,

1.66±0.10m,58.0±6.8kg

である.全ての参加者は彼らの運動 能力に影響を与えるような疼痛,筋骨格系または神経系,前庭の障害を有する者は、参加 から除外された.

全ての参加者に説明文書と口頭で研究協力の諸条件を説明し同意が得られた.研究は福

岡大学の倫理委員会による承認を得て実施された.

(15)

12

実験プロトコル

全ての参加者は,異なる

5

つの距離の

Slow Walking with Turns

5

つの速度のトレッ ドミル歩行をランダムに実施した.Slow Walking with Turns は歩行中にターンを含む運 動で,以下のように定義した.1)参加者は与えられた距離を往復歩行する,2)ターン頻 度は

1

分間あたり

20

回である,

3)ケーデンスは180bpm

で,ウォーキング相は

6

歩,タ ーン相は

3

歩である,4)リズミカルな音楽でケーデンスをコントロールする.歩行距離 は

1.5, 2.0, 2.5, 3.0, 3.5m

5

段階とした.1 時間あたりの移動距離は

1.8, 2.4, 3.0, 3.6,

4.2km

であるが,ターン相を除く直線部分(以下,ウォーキング相とする)の歩行速度は,

それぞれ

2.7, 3.6, 4.5, 5.4, 6.3km/h

に相当する.トレッドミル歩行はトレッドミル(ELG

-2T,WOODWAY 社,アメリカ)を使用し,歩行速度は

2.7, 3.6, 4.5, 5.4, 6.3km/h

5

段階とした.これは

Slow Walking with Turns

のウォーキング相の歩行速度と同じである.

通常歩行を再現するために,ケーデンスはコントロールしなかった.

各段階

4

分間の持続運動後,1 分間の休憩を挿み,次の段階へ移行した(Fig.1) .測定 項目は,V .

O2

,心拍数(以下,HR と略す)および自覚的運動強度(Rating of perceived

exertion:以下,RPE

と略す)(Borg, 1970)である.運動中,参加者は呼気ガスを収集

するためにフェイスマスクを着用し,質量分析計(ARCO 2000; ARCO System,千葉,

日本)を用いて

12

秒間隔で測定した.各段階,最終

1

分間の平均値を

V

O2

データとして 採用した.HR は,参加者が装着した心拍センサー(Polar CE0537 HR monitor; Polar

Electro, Kempele, Finland)の心拍信号は検者が受信し,最終1

分間に受信した

5

回の値 を平均した.参加者は各段階終了直後に,運動終了直前のきつさを

RPE

指数で示すこと を求められた.

全ての参加者は、実際の試行の前に

Slow Walking with Turns

のケーデンスの順守やタ ーン技術を練習した.ターンは減速ステップ,方向転換,および加速ステップの

3

つのス テップから構成され,減速ステップと同側に方向転換することとした.参加者は,それを 一貫して繰り返すことができるまで練習した.試行中に参加者がケーデンスを維持できな かった時は,その段階を中止し,最初から再開した.

実験は硬い床の屋内施設で行い,参加者は全ての試行で同じ屋内スポーツシューズを着

用するよう指示された.すべての参加者は,運動セッションの

3

時間前から,食物,カフ

ェイン,タバコ製品,アルコールを避けるよう指示された.

(16)

13

2.Slow Walking with Turns

のターン相の筋活動を評価するための実験プロトコル

対象者

6

名の活動的な男性ボランティアが参加した.対象者の年齢,身長および体重の各平均 値±標準偏差は,25.0±4.4 歳,1.74±0.05m,68.3±5.0kg である.全ての参加者は彼ら の運動能力に影響を与えるような疼痛, 筋骨格系または神経系,前庭の障害を有する者は,

参加から除外された.

全ての参加者に説明文書と口頭で研究協力の諸条件を説明し同意が得られた.研究は福 岡大学の倫理委員会による承認を得て実施された.

実験プロトコル

参加者は

Slow Walking with Turns

とトレッドミル歩行をランダムな順序で実行した.

Slow Walking with Turns

の距離は

1.5,2.0

および

2.5m

3

段階である.トレッドミル 歩行速度は

2.7,3.6

および

4.5km/h

とし,

Slow Walking with Turns

のウォーキング相の 速度と同等である.筋活動の測定は筋電図(electromyography:以下

EMG

と略す)

(LP-WS1221; Logical Product Corp,福岡,日本)を用い,Slow Walking with Turns,

トレッドミル歩行および等尺性最大随意収縮(maximum voluntary contractions:以下

MVC

と略す)について,体幹・下肢の

11

の筋を選択し測定した.筋電図で評価する筋は 腹直筋(RA) ,脊柱起立筋(ES),大殿筋(Gmax),中殿筋(Gmed),股関節内転筋群(HA),

外側広筋(VL),大腿直筋(RF),内側広筋(VM),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA)

およびヒラメ筋 (Sol)である.全て右側を計測部位とし,各筋腹の上に無線の

EMG

セ ンサーを,右側の踵にフットセンサーを取り付けた.測定前日に体幹・下肢を剃毛し,測 定当日はセンサーの貼付前に,アルコール洗浄と粗いやすりで研磨して皮膚のインピーダ ンスを低減し,センサーの良好な接着を確実にした.

A.MVC

発揮時の

EMG

測定

MVC

は基本的に徒手法を用いて測定した.MVC 発揮時の

EMG

は検者が徒手で被検者 の姿勢を固定し,力発揮方向に対して抵抗を加え,それに抗って被検者が等尺性最大筋力 発揮を行う方法で計測した.各被検筋における

MVC

時の

EMG

測定方法を以下に示す.

RA:両手を頭の後ろで組み,膝を立てた仰臥位で肩甲帯まで上体を起こし,さらに上体を

起こそうとする力に対して抵抗を加えた.

ES:腹臥位で両手を頭の後ろで組み,体幹を伸展する力に対して肩が拳上しないように抵

(17)

14

抗を加えた.

Gmax:腹臥位で膝関節 90°屈曲位で股関節を伸展させ,さらに伸展しようとする力に対

して抵抗を加えた.

Gmed

:右を上にした側臥位で股関節やや伸展位で外転させ,さらに外転しようとする力に 対して抵抗を加えた.

HA:右を下にした側臥位で左股関節を外転することで挙上させた左下肢を検者が保持し,

被検者が右股関節を内転しようとする力に対して抵抗を加えた.

BF:腹臥位で膝関節 90°屈曲位からさらに膝を屈曲しようとする力に対して抵抗を加え

た.

VL, RF, VM

:端坐位,膝関節

90°屈曲位で体幹を背もたれにつけシートベルトで固定した.

膝関節伸展をしようとする力に対して下腿部をベルト固定することで抵抗を加えた.

TA:長坐位,膝関節を軽度屈曲位で足底を足関節底背屈0°になるようベルト固定し背屈

しようとする力に対して抵抗を加えた.

Sol:長坐位、膝関節軽度屈曲位で足底を足関節底背屈0°になるようベルト固定し,底屈

しようとする力に対して抵抗を加えた.

MVC

発揮はいずれの筋も

1

5

秒間を

2

回行い,MVC 発揮中の

EMG

0.1

秒ごとに 平均化したときのピーク値を

MVC

とした.

B.Slow Walking with Turns

減速ステップの

EMG

測定

Slow Walking with Turns

EMG

は各段階

60

秒間測定された.Slow Walking with

Turns

のターンは減速・方向転換・加速の

3

ステップで構成され,減速に当たるステップ

を減速ステップと定義した.測定時間中に右側が減速ステップとなるのは

10

回であり,

前半

5

回の

EMG

データを採用した.5 回分の減速ステップについて,フットセンサーの 荷重反応区間における

EMG

データを荷重反応時間で除して平均化し,各筋の筋活動を評 価した.さらに,MVC 発揮時の値で定量化(すなわち%MVC)し,正規化された.

全ての参加者は、実際の試行の前に

Slow Walking with Turns

のケーデンスの順守やタ ーン技術を練習した.ターンは減速ステップ,方向転換,および加速ステップの

3

つのス テップから構成され,減速ステップと同側に方向転換することとした.参加者は,それを 一貫して繰り返すことができるまで練習した.試行中に参加者がケーデンスを維持できな かった時は,その段階を中止し,最初から再開した.

C.トレッドミル歩行のEMG

測定

(18)

15

トレッドミル歩行中の筋電図は,各段階において安定した歩行が確認できてから

60

秒 間計測した.EMG データは,右側が立脚期となる最初の

5

歩分のデータを採用した.フ ットセンサーの荷重反応区間における

EMG

データを荷重反応時間で除して平均化し,各 筋の筋活動を評価した.さらに,荷重時間で平均化された

EMG

データは,MVC 発揮時 の値で定量化(すなわち%MVC)し,正規化された.

3.統計的分析

基本的統計量は平均値±標準偏差値で示した.測定された

V

O2

METs(1 MET = 3.5ml/kg/min)に変換した.SPSS

ソフトウェアバージョン

23

(SPSS、

IBM、Armonk、

NY、USA)を用いて,Slow Walking with Turns

と対応するトレッドミル歩行の

METs,

HR,RPE,および筋活動水準の比較はt

検定で行った.また,Slow Walking with Turns

の距離の延長, およびトレッドミル歩行速度の増加が筋活動水準に及ぼす影響については,

一元配置分散分析により比較した.有意水準は危険率

5%未満をもって有意とした.

Ⅲ.結果

1.Slow Walking with Turns

の運動強度

Fig.2

V

O2

の経時的変化である. 全ての段階で最終

1

分間の

V

O2

は定常状態に達した.

Slow Walking with Turns,およびトレッドミル歩行の各段階のMETs,RPE

および

HR

Table 1

に示す.METs について,Slow Walking with Turns とトレッドミル歩行の比 較では有意差を認めた(p<0.001).

次に,歩行速度の増加に伴ってターン

METs

が増加することを明らかにするために,時 間あたりの移動距離を同一にした条件で両者を比較した.Fig. 3 は,時間あたりの移動距 離と

METs

の関係を示している.Slow Walking with Turns およびトレッドミル歩行の

METs

は,指数関数的に増加し,

Slow Walking with Turns

で増加の程度が急峻であった.

さらに,Slow Walking with Turns のプロトコルを作成するために,距離と

METs

の関係 式①を求め,目標

METs

に対応する

Slow Walking with Turns

距離を算出した (Table 2) .

y= 2.78e0.22X

(y:目標

METs,x:距離 (m))・・・式①

RPE

について,トレッドミル歩行と比較して

Slow Walking with Turns

METs

は有

意に高いにも関わらず,RPE は全ての段階で両者に差はなかった(p=0.43) .HR の比較

では,トレッドミル歩行

3.6km/h

Slow Walking with Turns 2.0m(p=0.01)を除く全

(19)

16

ての段階で差を認めなかった.

2.Slow Walking with Turns

減速ステップとトレッドミル歩行荷重応答期の筋活動

それぞれの運動における各筋の筋活動水準(%MVC)の平均値と標準偏差を

Fig.4

に示 した.トレッドミル歩行の筋活動について,RA,ES,VM における筋活動水準が低く,

通常歩行速度である

4.5km/h

でも

10%MVC

に満たなかった.一方,筋活動水準が最も高 かったのは

Sol

であったが,

20%MVC

を超える筋はなかった.速度

2.7-4.5km/h

の範囲 内では歩行速度増加に伴う筋活動の増加は,全ての筋で認められなかった.一方,Slow

Walking with Turns

の減速ステップでは

RA

Gmax

を除く全ての筋で

10%MVC

以上 であった.トレッドミル歩行と同様に

Sol

の筋活動水準が最も高く,

20%MVC

を超えた.

ウォーキング相の距離延長(すなわち,速度増加)に伴う筋活動水準の増加は,全ての筋 で認められなかった.

トレッドミル歩行と

Slow Walking with Turns

の筋活動水準の比較では,

VM,VL

およ び

ES

の筋活動水準が全ての段階で

Slow Walking with Turns

で有意に大きかった.これ らの筋活動水準は,トレッドミル歩行の約

2

倍であった.さらに,

Slow Walking with Turns

Gmax

および

BF

1.5m

および

HA

2.5m

における筋活動水準は,トレッドミル歩 行よりも有意に高かった.

Ⅳ.考察

本研究は,歩行へのターン追加は,走行と同様に

EE

を有意に増大させ,歩行速度の増 加に従ってターンコストが増大すること,また,ターンによる

VM,VL

および

ES

の筋活 動水準の増加が,ターンコストの増大に関与していることが明らかとなった.

歩行へのターン追加についての先行文献は少ない.本研究では,歩行へのターンの追加 は速度条件に関係なく,

EE

を増大させることが明らかとなった.

McNarry et al.

(2017)

は,ターンによる

EE

増加について,直線とコーナーの動的身体加速度の増加が関与する ことを指摘し,速度条件が

2.5

および

3.5km/h

の歩行へのターン追加は

EE

を増加させな いという本結果とは異なる結果を示している.しかし,Fig.3 に示したように,歩行速度 の増加は

Slow Walking with Turns

METs

増加を急峻にし,また, 速度増加による

METs

の増加は有意であった.このことから,走行中のターン追加と同様に,速度条件に影響を 受けず,速度増加がターンコストを増大させることが確認された.

本研究のトレッドミル歩行速度は

Slow Walking with Turns

のウォーキング相の速度と

(20)

17

等しく設定した.個人の快適歩行速度に重点を置き,直線的な歩行に対するターンを含む 歩行(Slow Walking with Turns)の有効性を明らかにするためである.ターンの追加は 歩行時間を短縮し,実際の時間あたりの移動距離はトレッドミル歩行の

2/3

である.例え ば, トレッドミル歩行

2.7km/h

Slow Walking with Turns 1.5m

を同等に扱っているが,

実際には,Slow Walking with Turns 1.5m の移動距離は,1 時間あたり

1.8km

である.

しかし,Slow Walking with Turns はトレッドミル歩行よりも

V

O2

が有意に高値であり,

ターンに関連する加速,減速および方向転換時の姿勢制御は,直線的な歩行よりもより多 くの筋収縮を引き起こすことが明らかとなった.また,Slow Walking with Turns は,タ ーンを

3

ステップに分割したことでターン技術の影響を受けにくいことや,歩幅が狭いこ とで無意識的に下肢を高く持ち上げている可能性が考えられる.このことはターンによる 追加

EE

に加え,さらなる

EE

増加をもたらしている可能性がある.

高齢者の歩行速度は,加齢に伴って有意に低下することが知られている(Himann et al.,

1988;Studenski et al., 2011).田井中と青木(2002)は,70-80

歳代の自立している高 齢女性の歩行速度は,「普通」および「最大」でいずれも加齢に伴い有意な低下を示し,

10m

歩行の結果から,それぞれ

0.87±0.19m/秒,1.21±0.28m/秒であったと報告している.

トレッドミル歩行速度と

METs

の関係から,通常歩行速度では

3.0METs

以下,最大歩行 速度であっても,その運動強度は

3.5METs

に留まる(Fig.3) .歩数は中強度運動の良い指 標であり,歩行時間や歩数を推奨指標とされるが,低速度歩行は心血管リスクを増加させ

(Dumurgier et al., 2009; Hamer et al., 2010),MS リスク因子の軽減や,体重,下肢 筋量,下肢筋力,および筋脂肪量への効果は期待できない(Laursen et al., 2012 ;

Sipila et al., 1995;Ozaki et al., 2011).このことから,高齢者や虚弱な人など歩行速度が遅い人々

では,速度を増加することなく,低速度歩行にターンを追加するだけで中強度の運動とな る

Slow Walking with Turns

は有用である.

運動時の

RPE

について,運動強度の増大が

RPE

を増加させることは既に知られており,

走行中のターン追加も同様に運動強度の増加に伴って

RPE

を増大させることが報告され ている(Dellal et al., 2010) .しかし,Slow Walking with Turns ではトレッドミル歩行 と比較して

METs

が有意に大きいにも関わらず,RPE は両者の間で差を認めなかった.

北嶋ら(2014)は,歩行と走行の比較について,速度

3-6km/h

では走行で

METs

が有意

に大きいが

RPE

は差がないこと,速度

7.0km/h

では歩行と走行の

METs

は同等であるが

RPE

は走行で有意に小さいことを報告しており,運動強度のほかにも

RPE

に影響を及ぼ

(21)

18

す因子があることが示唆している.歩・走行の筋活動について,例えば,前脛骨筋の筋活 動は,通常歩行は

10%MVC

であるが,速歩では

59%MVC

まで増加する.一方,走行で は速度を増加させても

20%MVC

を維持することが報告されている(Prilusky and Gregor,

2001).このことは,局所筋の負担がRPE

に反映する可能性を示唆する.詳細は後述する

が,Slow Walking with Turns のターン減速ステップの筋活動水準は,広筋群と背筋群で 有意に増大したが,その筋活動水準は

10-15%MVC

であった.この筋活動水準は筋負担 として過負荷ではないことから,歩行中のターンの追加は「きつさ」を感じさせにくい可 能性がある.

歩行を含む日常生活における身体活動は,筋力や筋量を増加させるには至らないことが 報告されている.そこで,ターンに伴う減速ステップが骨格筋の活動水準を高め,筋力の 維持・向上に有効な運動刺激となりうるかを検討した.本研究では,Slow Walking with

Turns

のターン減速ステップおよびトレッドミル歩行の筋活動水準は,右踵に貼付したフ

ットセンサーが荷重に反応した区間を採用した.この区間は荷重応答期から立脚中期に相 当し,膝や足関節の動的安定のために筋活動が最も大きく要求される区間である.まず,

速度

2.7-4.5km/h

のトレッドミル歩行速度増加,および同速度へのターン追加(Slow

Walking with Turns)に伴う筋活動水準の増加は,全ての筋で認められなかった.沢井ほ

か(2004)は,自然歩行とそれよりも遅い歩行,速い歩行の

RF,BF,TA,Sol

について,

全ての筋で速度に応じて筋活動水準は増加する傾向を示しているが,筋活動水準を単位時 間あたりの平均積分値で示している点が本研究とは異なる.単位時間あたりの筋活動平均 は,ケーデンスの増加や速度増加に伴う立脚終期の足底屈筋やハムストリングス活動の影 響を受けるため増加する.本結果は,荷重応答時間の平均筋活動を示したものであり,立 脚終期や遊脚相の筋活動は反映しない.このことは,高齢者の歩行速度の範囲内では,速 度増加が筋力増強や筋量増加を引き起こす可能性が低いことを示唆する.

次に,

Slow Walking with Turns

の減速ステップにおける

ES,VL

および

VM

の筋活動 水準は,トレッドミル歩行よりも有意に大きく(Fig.4) ,ターンを追加することで,歩行 によってもたらされる刺激が増加することが示された.有酸素運動が筋力や筋量に及ぼす 影響について調べた研究は少なく,その効果についてのコンセンサスは得られていない.

いくつかの横断研究では,慢性的な有酸素運動を受けた高齢者と活動性が低い高齢者の下

肢筋力と筋量に有意差はない(Dreyer et al., 2006;Tarpenning et al., 2006)ことを報告

している.縦断研究では,通常歩行は下肢筋力と筋量に影響を及ぼさない(Sipila et al.,

(22)

19

1995;Ozaki et al., 2011;Nemoto et al., 2007)ことや,一方,速歩やジョギング,ある

いはサイクリングは,大腿四頭筋の筋力,パワー,大腿筋量を増加させる(Nemoto et

al.,2007;Schwartz et al., 1991;Harber et al., 2009;Lovell et al., 2010)ことが報告さ

れており,有酸素運動であっても運動強度,頻度,持続時間次第で筋量および筋力は増加 することが示唆されている.本研究の結果から,Slow Walking with Turns の減速ステッ プの

VM

の筋活動水準は,トレッドミル歩行の

2

倍であった(Fig.4) .これは,速度

8.1km/h

の速歩および

5.4km/h

のジョギングの筋活動レベルと同等である(Gazendam and Hof.,

2007).前述したように,速歩やジョギングは高齢者の大腿筋量と筋力を増加させること

から,Slow Jogging with Turns も同様に下肢筋力や筋量を増加させる可能性がある.さ らに,若年および中年を対象に,ランニングとサッカーを比較した研究では,VL の断面 積および膝伸筋の強度はサッカーのみで増加した(Bangsbo et al., 2010;Krustrup et al.,

2010).Slow Walking with Turns

はターンを含むことで,運動強度や運動方向の変化を

伴う.筋量増加や筋力増強の効果を検討した先行研究で検証されたトレーニングプログラ ムの内容は報告間で異なるため,強度,頻度,持続時間などの至適トレーニング条件はま だ整理されていないが,Slow Walking with Turns のターン相では大腿四頭筋や背筋群の 筋活動を有意に高めるため,筋力・筋量の維持向上に有効な運動刺激となる可能性が示唆 された.

Slow Walking with Turns

は,室内の限られたスペースで,MS リスク因子の軽減や高

齢者の虚弱,および生活機能の低下を予防するために効果的な中強度運動が可能である.

特に身体機能に不安を抱える高齢者や虚弱の人にとって,屋外環境での運動は自動車の往 来や不整地であることなどの難しさがある.Slow Walking with Turns は,高齢者でも行 い易い習慣的な速度の歩行に対するターン追加であり,歩行速度を増加させず運動強度を 増加させる.ターン追加は,通常歩行と比較して重心をより大きく制御させる必要がある ため,高齢者や虚弱な人では転倒リスクを考慮する必要がある.方向転換する際の身体回 転速度を減少させるために,ターンを減速・方向転換・加速の

3

ステップに分割している が,転倒の危険性が高い対象ではバランスを崩さないように物的介助を用いることが安全 性を確保するために有効である.

個人の体力に応じたより効果的な運動を可能にするために,目標

METs

に対応する歩行 距離を算出し,Slow Walking with Turns プロトコルを作成した.Table 2 は,4.0-

6.0METs

に対応する

Slow Walking with Turns

の歩行距離を示す.運動強度が定量化さ

(23)

20

れることで,トレッドミルや自転車エルゴメーターなど特別な機器なしに強度設定が可能 となるため,運動強度の管理が必要な有疾患者においても有益である.

本研究により,Slow Walking with Turns は歩行の運動強度を有意に増大させ,大腿四 頭筋や背筋群の筋活動を有意に高めたことから,高齢者や虚弱の人の身体機能低下を妨げ,

筋力・筋量の維持向上に有効な運動刺激となり得ることが示唆された.いつでもどこでも

行える

Slow Walking with Turns

は身体活動促進を助け,懸念されている高齢者の虚弱や

生活機能低下予防のために貢献すると考えられる.

(24)

21

第三章

スロージョギングにターンを追加したエクササイズ:

Slow Jogging with Turns の生理負荷に関する研究

(25)

22

Ⅰ.緒言

肥満と過体重の人口は現在,世界的に増加しており,

1980

年に

8

8500

万人だったの が,

2013

年には

21

億人にまで増加したことが明らかになった(Ng et al., 2014).わが国 においては,男性で

28.7%,女性では21.3%が肥満(BMI>25kg/m2

)と報告されており,

この

10

年間は一定水準のまま推移している(H26 国民健康・栄養調査).しかし,多くの 先行研究で使用されている

body mass index(以下,BMI

と略す)は,個人の脂肪と筋肉 量を区別しないことから,体脂肪率に基づく肥満を反映しないことも報告されている.

Shah et al.(2012)は,BMI

による非肥満(<30 kg/m

2

)者のうち,duel-energy x-ray

absorptiometry

(以下,

DXA

と略す)法では,男性の

22%,女性の48%が体脂肪率≧30%

と評価された一方で,BMI で肥満と分類された者のうち,DXA 法で非肥満と分類された のはわずか

1%であったことを報告している.また,日本人を対象にした先行研究におい

ても,

BMI>25kg/m2

と分類されたのは男性で

24.8%,女性で17.6%であったにもかかわ

らず,DXA 法では男性の

33.3%が体脂肪率≧25%,女性では60.4%が体脂肪率≧30%と

分類されている.このことから,

BMI

に基づいた肥満分類は,痩せおよび正常範囲内に分 類された者の肥満を否定することはできず,実際の肥満の人口はさらに多いことが予測さ れる.過体重や肥満の原因は,エネルギー摂取量の増加だけでなく,sedentary なライフ ス タ イ ル や ス ポ ー ツ 活 動 の 欠 如 に 起 因 す る

EE

の 著 し い 低 下 が 原 因 と さ れ

(Martínez-González et al., 1999; Roditis et al., 2009

,継続的な身体不活動は,比較的 短期間で内臓腹部脂肪の有意な増加をもたらすことも報告されている(Slentz et al.,

2005)

.このように,身体活動不足や座位時間の延長が問題視されている状況下では,肥

満やそれによって生じる生活習慣病の予防・改善への取り組みを推進していく必要があ る.肥満治療のためには,エネルギーバランスを負にすることが必要であり(Ross et al.,

2000),体重減少は肥満に関連する多くの医学的合併症のリスクを軽減する(Avenell et al., 2004).食事療法のみならず,高エネルギー消費につながる有酸素運動の導入もまた,肥

満や過体重,またその予防に推奨される(Ades et al., 2009;Slentz et al., 2004;Vissers

et al., 2013)

高エネルギー消費につながる運動としてランニングやジョギングがある.ランニングや ジョギングは特別なスキルなしに自分のペースで実行できるため,健康増進のために一般 的に推奨される.しかし,ジョギングやランニングを週

2

回以上実施している成人の割合

はわずか

3.5%であり(笹川スポーツ財団,2016b)

,ランニングやジョギングは,運動を

(26)

23

好まない多くの人には難しく感じられ,試してみることさえない.理由の

1

つは,その運 動強度が体力レベルと一致しないことである.歩行から走行に自然に移行する速度は

6.5

-7.9km/h(Hreljac, 1993;Prilutsky and Gregor, 2001)である.一般的な走行速度が

8.0km/h

であると仮定すると,その強度は

8.6METs(ACSM, 2014)である.例えば,50

歳代の体力(25-75 パーセンタイル)は,女性で

7.6-9.7METs,男性で9.2-11.9METs

であるため,一般的な速度で走ることは,多くの人々にとって激しい活動である.

歩行速度,またはそれよりも遅い速度でのジョギング,すなわちスロージョギングは,

歩行と同様に容易であり,歩行よりも運動強度が高い.北嶋ら(2014)は,速度

6km/h

以下のジョギング

EE

は同速度の歩行と比べて有意に高く,特に,速度

3-5km/h

では,

同速度の歩行

EE

1.7

倍であったことを報告している.さらに,歩行と走行の

EE

は大 きく異なるにもかかわらず,RPE は同速度間で差がない(北嶋ほか,2014)ことや,歩 行と走行の

HR

または乳酸レベルが同一時の

RPE

は,歩行よりも走行で低い(Sakamoto

et al., 2017)ことが報告されており,目標運動強度に到達するためには歩行よりも走行の

ほうが楽に行えることが示唆されている.高齢者に対するスロージョギングの介入研究で は,有酸素能,筋機能,および体組成の改善効果が認められおり(Ikenaga et al., 2017) , スロージョギングは高齢者を含む多くの人にとって容易で, 「きつさ」を感じにくい,健康 への効果をもたらすトレーニングである.

高齢者を含む多くの人にとって簡単に行えるスロージョギングへのターン追加は,走行 速度を増加させることなくその運動強度を増加させ,高エネルギー消費につながることが 期待される.第二章で示したように,非常に遅い速度の歩行でさえ、ターンを含むことは 余分なエネルギーを必要とする.室内の限られたスペースで手軽に行える高エネルギー消 費に繋がる運動は,肥満や生活習慣病の予防や治療に貢献する.本研究では,スロージョ ギング中に

1

分間

20

回のターンを含む運動を“Slow Jogging with Turns” と名付け,生理 負荷を明らかにし,ホームエクササイズとしてプロトコルを作成することを目的とした.

Ⅱ.方法

1.対象者

10

名の活動的な男性ボランティアが本研究に参加した.参加者の年齢,身長,体重およ び

V

O2 max

の各平均値±標準偏差は,22.1±5.0 歳,1.69±0.07m,61.6±6.7kg,および

56.5±5.8 ml/kg/min

である. すべての参加者は彼らの運動能力に影響を与えるような疼痛,

Table 1. Comparison of Mets, RPE and HR while performing Slow Walking with Turns and  Treadmill walking
Table 2. shows the moving distance corresponding to the target METs. By walking (jogging)  twenty  reciprocations  per  minute  in  moving  distance,  it  becomes  the  exercise  for  target  METs
Table 3. METs, RPE and HR in Slow Jogging with Turns and Treadmill jogging.

参照

関連したドキュメント

The results will provide ev- idence for (1) PC-PLC activation induced by fMLP/B, indicating the presence of PC-PLC in human isolated eosinophils; (2) a functional role

博士学位論文として提出された「Effects of transcranial direct current stimulation over the supplementary motor area bodyweight-supported treadmill gait training in

These findings clearly show that T 2 is highly effective not only to quantify the degree of degradation but also to assess the lifetime corresponding to various safety

In the present study, I show that the skin from old senescence-accelerated mouse-prone 1 (SAMP1) mice, a model for accelerated senescence and higher oxidative status,

Therefore, various theories on the case mark- ing are proposed in Japanese linguistics as follows: case particle preference; chunking by noun with case particles; syntactic

学位 位申 申請 請論 論文 文の の審 審査 査結 結果 果の の要 要旨 旨. 学位申請者

[r]

   [ 14C] PAPM を用 いて ,緑膿 菌の PAPM 取り込み量に対する塩 基性アミノ酸の影響について検討した。塩基性アミノ酸・(リジ ン )は PA01 株の [ 14C] PAPM