ビピリジニウム薄膜の発光およびフォトクロミック 特性の研究
著者 磯田 勇治
雑誌名 静岡大学大学院電子科学研究科研究報告
巻 18
ページ 194‑196
発行年 1997‑03‑29
出版者 静岡大学大学院電子科学研究科
URL http://hdl.handle.net/10297/1251
氏名。(本籍
)
儀田
勇
治 (京都府
)
学 位 の種 類
博
士 (工 学
)
学位 記 番 号
工博甲第
122
号 学位授与の日付平 成 8年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第 1項 該当 研究科導攻の名称
電子科学研究科
電子材料科学
学位論文題ロ
ビピリジエウム薄膜の発光およびフォ トクロミック特性の 研究
論 文 審 査 委 員 (委員長)
教 授 藤 波 達 雄
教 授 松 島 良 華 教 授 田 部 道 晴
教 授 長 村 利 彦
論 文 内 容 の 要 旨
ビピリジニ ウムイオ ンは有機溶液中、微結晶、高分子膜 中でテ トラキス[3,5‑ビス(ト リフルオロメチ ル)フ ェニル]ボレー ト(1コ田 )とイオン対電荷移動 (IPCT)錯 体 を形成 し、特異 な光応答 を示す ことが知 られている。定常光照射 による着色 と熱 的逆電子移動 による脱色が脱気下で可逆的 に起 こる。電荷分 離 による青色種 である ビピリジニ ウムラジカルカチ オ ンの生成が起 こる と同時 に、 ビピリジニ ウム励 起状態か らのPCT蛍光 も観測 される。本論文では、 ビピリジニウム‐
lrrB 塩 の光誘起電子移動、生成物 の配向、逆電子移動及¨ 蛍光 を分子制御す ることを目的 として、構成成分の化学的構造、錯体の 微視的環境 を変 えてその挙動 を検討 した。
第1章ではイオ ン対電荷移動錯体 ビピリジニ ウム塩の物性 と光応答 について これ までに明 らかにされ てい る内容 を述べ、本研究の 目的 を示 した。
第2章では本研究で用いた試薬 と測定方法 について述べ た。
第3章では高分子4,4‑ビピリジニ ウムm 塩 の国相光誘起電荷分離 に及ぼす微視的環境効果 を検討 した。電荷分離種4,4‑ビピリジニウムラジカルカチオンの逆電子移動反応が微視的環境の影響 を受 け、
0℃未満では電荷分離種 は減衰せず、O℃以上では温度が高い ほ ど電荷分離種 の寿命 は短 くなることを 明 らかに した。高分子主鎖のテ トラメチ レンオキサ イ ド部分が ミクロ ドメインを作 り、低温で は結晶 化 してお り、その融解が0℃〜室温 に観測 されているDSCの結果 と電荷分離種 の安定性 はよ く対応 して いる。高い化学安定性 と嵩高い化学構造 を持つ対 アニオンm の 性質によって、4,4‑ビピリジニ ウム ラジカルカチ オ ン同士 の相互作用が抑 え られることによ り、その紫外可視吸収 スペ ク トルは、ハ ライ
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ド塩 と異 な り、温度によって吸収波長が シフ トすることはな く、各吸収波長同士の相対的な吸光度 に も変化はなかった。・lFPB の 高い化学安定性のため■羽
B・
ラジカルは光誘起により4,4‑ビピリジニウム ラジカルカチオンヘ電荷 を供与 した後 も分解せず、さらに再び4,4‑ビピリジエウムラジカルカチオンか ら電荷 を授受する。 この結果光照射によるラジカル生成 と熱反応によるラジカルの消失 は、10回以上 繰 り返す ことがで きた。高分子特有の分子運動性や会合特性 と光誘起電子移動 を利用 した、フォ トン モー ド光記録・熱消去 による光記録材料 としての応用の可能性 を示 した。第4章 では混合単分子累積膜中での
4,4‐
ビピリジニウム・1lⅣB 塩 のIКr励起で生 じるラジカルカチオ ンの配向制御 を検討 した。対称アルキル置換基あるいは非対称アルキル置換基をもつ4,4‐
ビピリジニウ ム塩(それぞれHV,AV)と アラキジン酸(AA)の混合B膜に光照射 して生成する4,40‑ビピリジニウムラジ カルカチオンの紫外可視偏光吸収スペ ク トルの入射角依存性 によりその配向状態 を調べた。入射角依 存性は対称のHV/AA系は垂直入射で吸光度が最小 に、非対称のAV/AA系は最大になった。遷移モーメ ン トと基板の法線のなす角の分布を考え実測値 との最小二乗法で分子配向を評価 した。対称型の44̲ビ ピリジニウムラジカルカチオンは混合単分子累積膜中で基板 に対 しわ°傾いてお り、非対称型の44‑ビ ピリジニウムラジカルカチオンは基板にほぼ平行であることが明 らかになった。光反応 によつて生成 するラジカルの配向が制御 されたのは世界では じめてである。置換基 を変えることで、44̲ビピリジニ ウムラジカルカチオンのLB膜中での配向を制御で きることがわかった。本結果は偏光、分子配向によ るフォ トンモー ド多重記録への応用の可能性 を示唆 している。
第5章 では微結晶系 と高分子膜系でのIPCT錯体4,4‑ビピリジニウムm 塩 及び2,2‑ビ ピリジニウム
m 塩 のIPCr蛍 光に及ぼす化学構造及び微視的環境効果を検討 した。高分子膜中で494‑ビ ピリジニウ ム・lI「B 塩 と2,2‑ビピリジニウム卿 塩の四 錯体の時間分解蛍光スペク トルにはピーク波長、蛍光 寿命、蛍光強度に温度依存性があ り、数ぃの短い蛍光寿命 をもつ蛍光バ ン ドはガラス転移温度以上で温 度が高いほど長波長にシフ トした。相対的に弱い500nmの 蛍光 ピークは20‑30nsの長い蛍光寿命を示 し た。 この ような結果か ら400‑ Onmの蛍光 に対応する励起PCT状態のポテンシャル面は3つの極小値
(局所 ミニマム)を もち、ガラス状態→ ゴム状態→融解状態 と高分子鎖の運動性が増 加するにつれて蛍 光の レッ ドシフ トをもたらす ようなより安定な配置へ変化すると考 えられる。本研究の結果は、光誘 起電子移動反応によリフェム ト秒オーダーの超高速かつ定常状態で可逆的色変化を示す4,4‑ビピリジニ ウム・lFPB 塩IPcT錯 体の極めて特異的蛍光挙動の分子制御に関 して重要である。通常の光記録の読み出 しで用い られる吸収(または反射率)変化 に加 えて、本系では蛍光 を用いることが可能であ り、全 く新 しい原理の光デイスクヘの応用が期待 される。
第6章 では、本研究結果 をまとめて、その意義 を述べている。
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論 文 審 査 結 果 の 要 旨
増 え続ける膨大な情報 を高速処理 し、高密度記録するためには光の もつ優れた特性 を充分に利用で きるシステムの開発が必要である。そのための材料の一つ として本論文では、フォ トンモー ド記録に 関連 したビピリジニウム薄膜の発光及びフオ トクロミック特性 を研究 した。
第1章では、種々の記録媒体の発展 とフオ トンモー ド記録、本研究で対象 としたイオン対電荷移動 (PCT)錯体の特徴 とこれまでの研究成果など本研究の背景 を述べている。
第2章 では、用いた化合物の合成、時間分割蛍光測定、偏光吸収測定による分子配列評価などについ て記述 した。
第3章では、4,4‑ビピリジニウム基を主鎖の一部に含む高分子の[3,5‑ビス(ト リフルオロメチル)フェ ニル]ホウ酸(TP『)塩薄膜の光応答を‑60〜80℃で調べた。光照射 により薄膜が黄色か ら青への色変 化 し、賢P『から4,4‑ビピリジニウムヘの電子移動によることを確認 した。その逆反応は温度に著 しく 依存 し、0℃以下では青色が全 く減衰 しないこと、それ以上では温度 とともに減衰が速 くな り80℃では 数分で元に戻 り、繰 り返 し色変化で きることを示 した。その ような特性は高分子の ミクロ結晶の融解 に関係 していることを明 らかに した。
第4章では、2種類の置換基 をもつ両親媒性4,4‑ビピリジニウムのlrrB 塩 とアラキジン酸 との混合系 について、水面上での表面圧 一分子占有面積特性 を測定 し、単分子累積膜 を作成 した。単分子累積膜 の光照射 により生成するラジカルの偏光吸収スペ ク トルの入射角お よび偏光角依存性 を減圧下で測定 で きるシステムを構築 した。その解析か らラジカルの遷移モーメン トは基板面内ではランダムである が、面外では特定の向 きに並ぶことを見いだ した。対称 な置換基 を持つビピリジニウム分子は基板面 にほぼ巧度傾いてお り、非対称 な置換基 を持つ分子は基板面 に平行であつた。光生成ラジカルの配列 制御 に初めて成功 し、偏光 を用いる多重光記録の可能性 を示 した。
第5章では、4,4‑及め ,2‑ビピリジニウムの・lFPB 塩の高分子薄膜および微結晶薄膜におけるP∝蛍光 の時間分割測定 を10‑3∞Kの範囲で行つた。高分子薄膜ではIPCT蛍 光スペ ク トルのピーク波長、蛍光 寿命、蛍光強度に温度依存性が見 られ、微結晶薄膜では一定であった。高分子薄膜でのIPCT蛍 光挙動 は、ガラス状態→ ゴム状態→融解状態 と高分子鎖の運動性が特定の温度でかわるのに伴い、PCT錯体 の分子配置が微妙 に変化するためであると説明 された。 このような結果は光の吸収や反射率変化 によ る通常の読み出 し法に加えて、より感度の高い蛍光検出法の可能性 を示 した。第6章は、結論である。
以上のように、本論文は高分子膜や単分子累積膜での光電子移動 によるフォ トクロミズムの安定化、
配列制御、蛍光挙動の温度制御などにおいて顕著な成果 をあげてお り、光記録などに関 し工学上の寄 与が大 きい。 よつて本論文は博士(工学)の学位 を授与するに充分値すると結論 された。
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