範例的教授・ 学習理論 に基づ く数学授業 の教授 に関す る研究
A Study of Teaching and Teacher's Role about Mathematical Classes based on "Exemplarisches" Teaching and Learning Theory
両 角 達 男
Tastuo MoROZⅧ
(平 成 13年 10月 9日 受理 )
1。 「 よい授業」の連結への期待
授業 は、教師が構想 した目的やね らいを達成することを志向 し、学習者同士、学習者 と教師 との協 働 において営まれるものである。授業構想 にあたっては、教師の意図を達成するために最適 と思われ る学習場面や問題が設定 され、授業の局面 においては教師の意図を反映するために、様々な瞬時の判 断が行われる。その瞬時の判断は、核 となる学習者の活動を収集 し、取 り上げ、価値付 けることで行 われた り、教師か らの問いかけやい くつかの問いの連鎖 による方向付 けがなされる。 また、一斉授業 における学習者の状況を踏 まえなが ら、教師の意図それ自体を修正することが瞬時に要求 されること
もある。
多 くの教師は、毎 日の授業の営みで上記の ことを念頭 におき、 「 よい授業」 を志向 し努力を重ねて いる。 また、「 よい授業」を大 きな学習単位で構想 してい くことにより、 よい授業の連結 としてカ リ キュラムを組んでい くことも可能 となる。 これは、教師の意図を踏 まえた実施 されたカ リキュラムと もいえよう。私 自身、数時間を 1つ の学習単位 とみた「 よい授業の連結」 を構想 し、 「 よい授業の連 結」を踏まえたカ リキュラムづ くりを、筑波大学附属中学校 において志向 していた。
この「 よい授業の連結」のルーツの一つとして、数学教育現代化運動の頃、東京教育大学附属中学 校数学科で開発 された範例統合方式 による数学授業を挙げることがで きる。範例統合方式 による数学 授業 は、 1950年 代 に西 ドイツで盛んに議論 された範例的教授・ 学習理論の影響を受 けるとともに、そ の授業構成や評価に認知科学の知見を活用 したものである。 また、中学校 3年 間を通 したカ リキュラ ム構成を目指 し、いくつかの試行・ 実験を経て形づ くられていった。その範例統合方式の扱いに関 し ては、範例の扱いを複数の授業を一連の ものとみな して捉えるか、あるいは 1時 間 ごとのスモール・
ステ ップで捉えるかなど、様々な議論が現在 も行われている。
この範例統合学習の特徴 は、小高・ 岡本 (1989)の 述べる次の 4点 に凝縮 される。
① 重要かつ本質的な教材を範例 として抽出 し、問題形式 にすること
② 範例 としての問題を解決する過程を中心 として、生徒の数学的活動を促す こと
③ 生徒同士のディスカ ッションを核 に した授業形態を行 うこと
④ 教育機器を効果的に利用す ること
これ らの 4点 は、現在多 くの小・ 中学校で行われている問題解決型の算数・ 数学授業や、 「 よい問題」
を扱 った算数 0数学授業の一つの規範 となる点 といえよう。
本研究では、現在多 くの学校で志向されている問題解決型の算数 0数学授業のルーッの 1つ といえ る「範例統合方式」 にスポットをあて、その「範例統合方式」の考え方に大 きな影響を与えたとされ る「範例的教授・ 学習理論」を考察する。その切 り日として、「① 重要かつ本質的な教材を範例 と して抽出 し、問題形式にすること」「② 範例 としての問題を解決する過程を中心 として、生徒の数 学的活動を促す こと」の 2点 を挙 げ、範例的教授・ 学習理論 における教授、特に教師の役割を中心 に 考察を してい く。
また、本研究で「範例的教授・ 学習理論」に焦点をあてるもう一つの理由は、 ドイツの Wittmann らの提唱する「本質的な教授単元」に基づ く理論を、多 くの数学教育学者が引用 し、参考にしている 点である。 ここで、 Wittmann(1998)の 主張する理論の要点を述べれば次の通 りである。
○ 学校数学 においては、その母胎 となる数学を専門数学 に限定 して捉えるのではな く、関連する 学問分野の知見を取 り込んだ「広義 の数学 (MATHEMATICS)」 を母胎 として考え るべ きであ る。その「広義の数学」 とは、数学の教授学を中心 としなが ら、関連する学問分野 として「数学 の歴史、認識論、論理、心理学、数学、 コンピュータ科学、社会学、人類学、教育学、教育の歴 史、一般教授学」などの知見を含め、 さらに「教育実践への適用を通 して得 られたこと」をも含 めたものである。
○ 科学を設計す ることとしての数学 (DESIGN SCIENCE)の 枠組みは、数学教育 に対 して、
多 くの有益な見方や考え方を与え、数学教育学者 にこれか ら研究すべ き観点を与える。そ して、
その枠組みは、一連の教授単元、 そ して教授単元 を もとに してつ くられ るカ リキュラムなどの
「人によってつ くられたもの」の創出が、教育的なエコロジーの効果を調べてい くことと同様 に 数学教育の核 として大切である。
なお、教育的なエコロジーの効果 とは、「教師一学習者 一教材」の 3つ の軸の中でのや りとり (社 会的相互作用 )に よって何が得 られるか、 またどのようなや りとりが望 ま しいかを追求 して い くことといえる。
○ 本質的な教授単元の形成、 とりわけ本質的なカ リキュラムの形成 は最 も難 しい課題であり、そ の分野の専門家が行 うべきところである。 しか し、実際は研究者が積極的に行 うのではなく、教 育現場 にいる教師たちにその作業がゆだね られてきた。本来、研究者たちが、一連の教授単元を 形成するために枠組みなどを提示す ることが必要である。 また、教育現場の教師たちは、 自分た ちが教える数学教室の状況に応 じて、教授単元をつ くった り、その教授単元を改良 したりする必 要がある。数学教育研究者 は、「教授単元やそれ らをもとにつ くるカ リキュラム形成」 に対 して 消極的す ぎたのではないだろうか。
○ 本質的な教授単元 は、次の 4つ の性質によって特徴づけられる。
① 本質的な教授単元 は、中心観念や数学教授の内容や柱を表 している。
② 本質的な教授単元 は、数学的な活動 に対する豊富な源 となる。
③ 本質的な教授単元 は、適応性があり、特定化 された授業や教室の状況 に容易 に適応すること ができるものである。
④ 本質的な教授単元 は、全体論 に基づ く教授や学習の数学的、心理学的、教育学的な側面を も ち、それゆえ経験的な研究を続 けてい くことによって、 より多 くの可能性を提供するものであ
る。
○ 本質的な教授単元は、子 どもの思考過程に従 って決められる「鍵 となる発問」や「 イ ンタビュー す る側の仕事」の幾つかを分析的に用いてい くことに、 よ く似ている。本質的な教授単元 は、経 験的な研究によって得 られる「子 どもの認知発達や ピアジェ理論 に基づ く方法を適用 させ、その 結果を分析 してい く方法」 によ く似ている。例えば、 ピアジェの心理学 における道具 としての
「構造化 された一連の問い」は、数学教育における「教授単刑 に対応 し、 「分析的なインタビュー」
は、数学教育における「分析的な教授経験」 に対応する。
○ 本質的な教授単元の実際への運用 に関 しては、 日本で行われている数学授業か ら学ぶ ことが多
い 。