セレーション平板翼の空力騒音低減効果
佐々木壮一*・奈須秀太朗* *・林秀千人*
Effect of Reduction on Aerodynamic Noise of a Serrated Plate Blade
by
Sohichi SASAKI*, Shutaroh Nasu* * and Hidechito HAYASHI*
In this study, the wake characteristics and the aerodynamic noise generated from a plate blade immersed in the uniform flow was measured by wind tunnel, moreover, the effect of reduction on the noise according to addition of serration was analyzed based on the prediction equation of the discrete frequency noise. The discrete frequency noise of the serrated plate blade on the leading edge became 6.2dB smaller than the flat plate blade. The serrated plate blade reduced the velocity gradient to the main flow direction in the wake than that of the flat plate blade. It is considered that the strength of the velocity fluctuation at vicinity of the trailing edge of the serrated plate blade became small because of the slow of the velocity gradient. From analysis on the wake characteristics, since it is not only reducing the scale of the wake vortex but also diminishing the potential of the vortex, it clarified that to add of the serration to the leading edge on the plate blade is effective.
Key words : Aerodynamic Noise, Blade, Wake Characteristic, Vortex, Wind Tunnel
1,はじめに
鋸歯状に加工された形状はセレーション と呼ばれ,
この構造は加工学,材料力学,熱力学 などの 広い分野 で利用されている.流体力学の分野においても,ファ ン騒音の低減が送風機の羽根車 へのセレーション の付 加によって試みられている .Longhouse( 1)は,軸流送風 機の研究においてセレーション によって生成される縦 渦が翼表面上での圧力変動 の強度を減少し,その圧力 変動の低下が空力騒音を低減する一つの要因であるこ とを明らかにした.しかし ,セレーション翼単体 の空 力騒音に関する実験的な研究は少なく,その翼から発 生する空力騒音 の基本特性 と流れの関係については不 明な点も多い.
このセレーション翼が実機の送風機の設計へ応用 されるときには ,そのファン騒音の低減効果 を定量的
に見積もることが必要になる.著者らは,一様流中に 設置された翼から発生する空力騒音を定量的 に見積も ることを 目的として ,その離散周波数騒音の予測式を 提案した(2).この予測式 は,翼から発生する空力騒音 をその後流渦の特性によって見積もることが出来るこ とに特徴がある .
この研究では,セレーションが付加された 平板翼の 空力騒音 の低減効果 が離散周波数騒音 の予測式に基づ いて定量的に解析されている.この騒音の解析で用い られる後流渦の特性は,渦の直径および局所揚力係数 である.一様な流れ場に設置された平板翼の後流渦の 特性と空力騒音 が風洞実験 によって測定され,セレー ションを付加することに伴う空力騒音 の低減効果 が後 流渦の特性に基づいて議論されている .
平成19年12月17日受理
* 工学部機械システム 工学講座(Department of Mechanical Systems Engineering)
* * 生産科学研究科博士前期課程(Graduate Student, Graduate School of Science and Technology)
2,おもな記号 a0:音速(m/s)
CL:揚力係数 D:後流の幅(m)
d:渦の直径(m)
L:翼の投影長さ(m)
LA:騒音レベル(dB(A))
Lp:音圧レベル(dB)
p:音圧(Pa)
p0:基準音圧(20μP a)
Re:レイノルズ数
r:音源から観測点までの距離(m)
St:ストロハル 数 U:主流速度(m/s)
u:主流方向速度(m/s)
u’:速度変動(m/s)
α:迎え角(°)
κ:渦放出の間欠率 ρ:空気密度(kg/m3) λ:渦構造の比 添え字
FS:前面側 RS:後面側
 ̄:二乗平均値
3,実験装置および 実験方法
図1は実験に用いられた平板翼 を示したものである.
図(a)が供試翼 の写真であり,図(b)がセレーション の設 計形状を示したものである .表1には翼の設計寸法が 整理されている .翼弦長 は20mm,翼厚は2mm,スパ
ン高さは 100mm である.以下の説明では,セレーシ
ョンのない平板翼がF型,前縁側にセレーション を有 F type SFL (SFT) type
(a) Test blade
5 mm
2 mm
2 mm
(b) Geometry of serration
Fig.1 Flat plate blade
Table 1 Main dimension of the flat plate blade
Serration Span , L mm Thickness , t mm
Chord , C mm Blade
Trailing Edge Leading
Edge
−
100 2 20
SFT SFL
F
Serration Span , L mm Thickness , t mm
Chord , C mm Blade
Trailing Edge Leading
Edge
−
100 2 20
SFT SFL
F
0.1 m 1.0 m
Nozzle(□100mm) Arc Blade
Hot-Wire Anemometer
Traverse Machine
Hot Wire Probe Plenum
Box
Plenum Box
(a) Side view
(b) Top view
FFT Analyzer
Noise Level Meter
Fig.2 Measurement method of wake and noise in wind tunnel
佐々木壮一・奈須秀太朗・林秀千人 2
する平板翼がSFL型,後縁にセレーションを有する翼 がSFT型と表記されている.
図2は風洞の測定部 を示したものである.一様な流
れが一辺 100mm の正方形 ノズルから噴出される .こ
のノズルの一辺を 代表寸法と し た レ イ ノ ル ズ数が 約
2.0×105のとき,測定部 での主流の乱れ度は0.2%以下
である.I 型の熱線プローブで測定された後流の速度 と速度変動は熱線流速計で電圧信号へ変換される .ト ラバース 装置が移動する毎に,平均速度と速度変動の 二乗平均値が計算機 の記憶装置 へ保存される .空力騒 音の測定のための騒音計は,主流と垂直方向 へ後縁か ら 1.0m 離れた位置に設置されている .精密騒音計に よって計測された空力騒音の信号はFFTアナライザへ 入力され,その騒音の周波数特性がスペクトル解析さ れる.
4,離散周波数 騒音の予測式
Curle(3)はLighthillの音響波動方程 式(4)に対して固体 表面の影響を考慮し,その解を式(1)として与えている.
t t F r
r t a
p i i
∂
= ∂ ( )
4 ) 1
( 2
π 0 (1)
著者らは,式(1)の右辺の揚力変動が後流渦によって生 じると仮定し,この後流渦によって 生じる音圧が式(2) になることを導出した.
r a
C d S
p U t L
0 3
4 λ
=ρ (2)
このとき
D d U
CL = 2κπ u' ,κ=0.2806
ここで,ρは空気密度,Uは主流速度, Stはストロハ ル 数(St=0.2),λは 後 流 渦 の ア ス ペ ク ト 比(λ =
1/0.2806),dは渦の直径,CLは局所揚力係数 ,κは後
流渦放出 の間欠率,Dは後流の幅である.式(2)の導出 については文献(2)に詳述されている.このとき,平板 翼から発生する空力騒音の音圧レベル は式(3)と な る .
= 2
0 2
log10
10
p
Lp p (3)
ここで,p0は基準音圧(20μPa)である .式(3)の音圧 レベルが JIS 規格に準拠して聴感補正されると(5),後 流渦の特性に基づいてその 翼から発生する騒音レベル を予測することができる.
5,実験結果および 考察
図 3 は翼から発生する空力騒音の全帯域騒音 レベ ルと迎え角の関係を整理したものである。このとき,
主流速度 は32.5m/s である 。また,図中の破線は風洞 の暗騒音 レベル を示したものである.前縁セレーショ ンのSFL型翼の騒音レベルは,迎え角30deg.でF型翼 よりも約3dB低減した.一方,後縁セレーションのSFT 型翼の騒音レベルは,いずれの迎え角においてもF型 翼と同程度となった .また,迎え角 20deg.以下での騒 音レベル は暗騒音レベルと同程度であり,この迎え角 の範囲では空力騒音 の低減効果 を議論することができ ない.迎え角 45deg.以上の場合のように,はく離流れ の影響が顕著に現れる場合についても ,セレーション の効果が得られないことがわかる.以下の考察では,
迎え角30deg.の場合について,前縁セレーション の平
0 10 20 30 40 50 60
60 70 80
U0 = 32.5 (m/s) A -weight 1/3Oct.Band
F type SFL type SFT type
α , deg.
LA , dB(A)
BGN(66.2dB) 30deg.
Fig.3 Relation between angle of attack and aerodynamic noise
30 40 50 60 70 80
Frequency , f Hz LA(A) , dB
U = 32.5(m/s) C = 20 mm Re = 4.3 × 1 04
α = 30deg.
1/3 Oct.Band A-weight 500Hz
F type ( LA=66.8dB ) SFL type ( LA=60.6dB ) BGN
Fig.4 Comparison on the spectra of the aerodynamic noise
板翼に関する空力騒音の低減効果を議論する.
図 4 は騒音レベル のスペクトル分布を平板翼 と前 縁セレーション 平板翼の場合について 比較したもので ある。A特性の騒音レベル が 1/3オクターブバンドの 中心周波数毎に表示されている 。図中の階段状の実線 は,風洞の暗騒音レベル のスペクトル 分布である.F
型翼とSFL型翼の500Hzにおける離散周波数騒音 は暗
騒音レベルよりも高く,空力騒音がこの周波数で発生 していることがわかる.SFL型翼の離散集周波数騒音
はF型翼より6.2dB低くなった.一方,2000Hz以上の
周波数帯域における 両者の広帯域騒音 レベル にも差が 現れているが,その騒音レベル は離散周波数騒音 より 10dB以上低 い.この場合,いずれの翼においてもその 空力騒音 の支配的因子は,500Hz で発生している 離散 周波数騒音となる.
図5は後流の速度分布を比較したものである.この とき,主流方向距離 x とその 軸に垂直な方向の距離 y は,その後流渦 の特性を考慮して,翼の投影長さ(L = C
sinα)によって 無次元化されている.図(a)がF 型の平
板翼,図(b)がSFL型翼である .いずれの翼においても , 翼の後面側で低速の死水領域が形成されている.図中
の等高線u/U = 0.6に注目すると,SFL型翼の死水領域
の流れが主流に回復する位置はF型翼よりも 遠方であ ることがわかる .これは,SFL型翼の後流に形成され るせん断層の速度勾配はF型翼よりも 緩やかであるこ とを示すものである .
図6では,両者の翼の後流に形成される速度変動の 分布が示されている .いずれの 翼においても ,強い島 状の速度変動の分布がx/L = 2 .5近傍で上下対称に形成 された。これは ,翼から放出された後流渦が翼の後面 で一旦停留し,その渦が後流で強く渦巻くことを 示す ものである.SFL型翼の後流に形成される速度変動の 分布は,F 型翼よりも小さくなることがわかる.これ は,後流に形成されるせん 断層の速度勾配がセレーシ ョンを付加することによって緩やかになり,そのせん 断層によって生成される後流渦 の循環強度が緩和され たことによると 考えられる .以下の後流特性 は,この 速度変動 が最大となる断面位置(x/L = 2.5)で整理さ れている .
図 7 には後流の速度分布 が示されている.文献(6) によれば ,後流の半値幅をその 代表寸法として採用す ると,ストロハル数を0.2 一定として 整理できること FS
RS
U= 32.5 m/s C= 20 mm Re= 4.3 ×104
x / L
y / L
-2.0 -1.0 0.0 1.0
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0.2
0.2
0.4 0.6
0.8 0.8
0.8
0.8 1
1 1.2
1.2
0.6 0.8 0.6
0.8
(a) F type
FS RS
U= 32.5 m/s C= 20 mm Re= 4.3 ×104
x / L
y / L
-2.0 -1.0 0.0 1.0
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0.2 0.4 0.4
0.6
0.6 0.6
0.6 0.8
0.8 0.8 0.8
1
1
0.6 0.6 0.8
(b) SFL type
Fig.5 Distribution of the velocit y in the wake
FS RS
U= 32.5 m/s C= 20 mm Re= 4.3 ×104
x / L
y / L
-2.0 -1.0 0.0 1.0
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0.1
0.1 0.15
0.15
0.15 0.2
0.2
0.2 0.25
0.25 0.3
(a) F type
FS RS
U= 32.5 m/s C= 20 mm Re = 4.3 ×104
x / L
y / L
-2.0 -1.0 0.0 1.0
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0
0.1 0.1
0.1 0.15
0.15
0.15 0.2
0.2 0.25
0.25
(b) SFL type
Fig.6 Distribution of the velocity fluctuation in the wake
佐々木壮一・奈須秀太朗・林秀千人 4
が示されている .両者の後流の幅は,同程度 の大きさ となった .ストロハル数の関係に基づけば,両者の渦 放出周波数は500Hz程度となり,これは図4の離散周 波数騒音 のピーク周波数と同程度になる.
図8は後流の速度変動の分布を示したものである . SFL型翼の速度変動 は,F 型翼の速度変動よりも 小さ くなった .この速度変動の分布は,一様な流れの中に 後流渦が放出されることによって形成される.従って,
後流渦が速度変動の最大値 の位置で強く渦巻くと仮定 し,その速度変動の半値幅 がその渦の直径として 評価 されている.また,その渦の回転速度 には半値幅 の位 置における速度変動 が与えられている .表2には二種
類の翼に関する後流渦の特性が整理されている.
図9は,後流渦の特性に基づいて予測された離散周 波数騒音 のスペクトルを,実測値の騒音スペクトル分 布と合わせて示したものである 。図(a)がF型翼の騒音 スペクトルであり,図(b)がSFL型翼である.表3は騒 音特性に関するまとめである.F 型翼の実測値の騒音 レベルと予測値 との誤差は1.6dB であり,SFL型翼の
誤差は3.0dBであった.SFL型翼の離散周波数騒音が
F 型翼よりも低減することを,後流渦 の特性に基づい て予測することができた.離散周波数騒音 が式(2)に基 づいて解析されると ,局所揚力係数による騒音低減効
-1 -0.5 0 0.5
0 0.5 1
y/C
( u-umin ) / ( umax-umin ) F type SFL type
U = 32.5 m/s C = 20 mm Re = 4.3 × 104
D
α = 30 deg.
x/C ; u'max point
Fig.7 Distribution of the velocity (x/L = 2.5)
-1 -0.5 0 0.5
0 0.1 0.2 0.3 0.4
y/C
u' / U
U0=32.5 m/s C = 20 mm Re = 6.4 × 104 F type
SFL type α = 30 deg.
x/C ; u'max point
d / 2
Fig.8 Distribution of the velocity fluctuation (x/L = 2.5)
Table 2 Summary of wake characteristics
13.7 11.9
D, mm
0.128 0.146
u’/U
0.0563 0.0834
CL
10.7 12.1
d, mm
SFL type F type
13.7 11.9
D, mm
0.128 0.146
u’/U
0.0563 0.0834
CL
10.7 12.1
d, mm
SFL type F type
103 104
30 40 50 60 70 80
f , Hz LA , dB(A)
F type U = 32.5 m/s α = 30 deg.
1/3 Oct.Band A-weight Measurment ( LA = 68.1dB) Prediction ( LA = 66.8dB) BGN
500Hz
(a) F type
103 104
30 40 50 60 70 80
f , Hz LA , dB(A)
SFL type U0 = 32.5 m/s α = 30deg.
1/3 Oct.Band A-weight Measurement ( LA = 63.6dB) Prediction ( LA = 60.6dB) BGN
(b) SFL type
Fig. 9 Distribut ion of the noise spectrum
Table 3 Summary of aerodynamic noise
+ 3.4 20 log10 ( CL F / CL SFL ) ,dB
+ 1.1 20 log10 ( dSFL/ dF ) ,dB
63.6 68.1
LA( Prediction ) , dB
60.6 66.8
LA( Measurement ) , dB
SFL type F type
+ 3.4 20 log10 ( CL F / CL SFL ) ,dB
+ 1.1 20 log10 ( dSFL/ dF ) ,dB
63.6 68.1
LA( Prediction ) , dB
60.6 66.8
LA( Measurement ) , dB
SFL type F type
果が大きいことが明らかになった.これは,翼の前縁 側にセレーションを付加することは,その後流渦 の規 模を縮小することだけでなく,その渦のポテンシャル の強さを緩和することに効果的であることを 示唆する ものである.
6,おわりに
セレーションを有する平板翼の後流特性と空力騒 音を風洞実験で調査した.空力騒音の低減に及ぼす後 流渦の効果を定量的 に解析した結果が以下に纏められ ている.
(1) 平板翼の前縁側にセレーション を付加することは,
後縁側にセレーションを付加することよりも ,空力騒 音の低減に効果あることを 実験的に明らかにした . (2) 翼の迎え角が大きく,はく離流れの影響が顕著に 現れるときには ,セレーション による 空力騒音の低減 効果は現れない .
(3) セレーションが付加された平板翼の空力騒音が低 減することは,その広帯域騒音 よりも 離散周波数騒音 が低減されるためである.
(4) セレーション平板翼 の後流に形成される主流方向 のせん断層の速度勾配は,平板翼の速度勾配 よりも小 さくなった.また,セレーション平板翼の後流の速度 変動は平板翼よりも 小さくなった.
(5) 翼の前縁側 にセレーションを付加することは,そ の後流渦 の規模を縮小することだけでなく,そのポテ ンシャル の強さを緩和することに効果的であることが
明らかになった .
最後に本研究に多大な貢献をされた,平成 18 年度 長崎大学大学院生産科学研究科博士前期過程大学院生 の田川正喜君に紙面を借り,ここに厚く謝意を表す.
参考文献
(1) R. E. Longhouse, Vortex Shedding Noise of Low Tip Speed, Axial Flow Fans, Journal of Sound and Vibration, 53-1 (1977), pp.25-46
(2) 佐々木,他3名,円弧翼の後流特性に基づくファ ン騒音のスペクトル 解析,長崎大学工学部研究報告,
37-69 (2007),
http://www.lb.nagasaki-u.ac.jp/reports/kougaku/default.ht ml
(3) N. Curle, The Influence of the Solid Boundary Upon Aerodynamic Sound, Proceeding of Royal Society of London, A231 (1955), pp.505–514
(4) M. J. Lighthill : On Sound Generation Aerodynamically, Proceeding of Royal Society of London, A211 (1951), pp.564–587
(5) 日本規格協会編,JIS ハンドブック 電気計測,
日本規格協会(2002),p.1215
(6) 佐々木,他3名, 一様流中 の単独平板翼 の後流渦 に基づく空力音源の研究,日本機械学会論文集(B編),
67-633 (2001),pp.2655-2661
佐々木壮一・奈須秀太朗・林秀千人 6