高速原子間力顕微鏡の開発
著者 古寺 哲幸
著者別名 Kodera, Noriyuki
雑誌名 博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査
結果の要旨/金沢大学大学院自然科学研究科
巻 平成19年3月
ページ 26‑29
発行年 2007‑03‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/14582
氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の曰付 学位授与の要件 学位授与の題目 論文審査委員(主査)
論文審査委員(副査)
古寺哲幸 博士(理学)
博甲第754号 平成17年9月30日
課程博士(学位規則第4条第1項)
高速原子間力顕微鏡の開発
安藤敏夫(自然科学研究科・教授)
鈴木治彦(自然科学研究科・教授),大橋信喜美(自然科学研究科・教授),
藤下豪志(自然科学研究科・教授),藤竹正晴(自然科学研究科・助教授)
英文要旨
Theatomicfbrcemlcroscope(AFM)isapowerMtoolfbrimagmgmdiviClual biologicalsamplesattachedtoasubstrateinaqueoussolution・Howevemthescan speedOftheAFMscurrentlyavamableistooslowtocapturethedynamlcprocesses
ofbiologicalmacromoleculesmrealtimeltisnecessarytodevelopahighspeed atomicfOrcemicroscopefOrimagingthismterestingbehavior・Forthispurpose,ahigh-speeClscanner〉smancantileverswithhighresonancefrequencies (06~1.2MHzmliquid)anClsmansprmgconstants(100~300pN/nm),an
objective-1enstypeofdeflectiondetectiondevice,andsWeralelectromcdeviceswith highbandwidthhavebeendevelopedhere、IntegrationofthesevariousdeviceshasproducedanAFMthatcancapturealOOxlOOpixel2imagewithin80msand therefbrecangenerateamovleconsistmgofmanysuccessivemages(80ms mtervalS)ofasamplemaqueoussolution・Tllisisdemonstratedbyimagmgmyosm
Vmoleculesmovingonmica・Thelligh-speedAFMimaglngwmmakeagreat contributiontowardunderstandingthepllysicsofbiologicalnano-machinesmthenearfUture.
和文要旨
水溶液中にある試料の構造をナノ解像 度で観察することは、原子間力顕微鏡
(AFM)(図1)の誕生によって初めて 可能となった。このユニークな特徴は、
水溶液中でしか機能しないタンパク質分 子を研究する生命科学の分野に大変歓迎 され、生体分子プロセスを観察できるの ではないかという期待を集めた。ところ が、機械走査方式を採用したAFMのイ メージング速度は、そのプロセスよりも ずっと遅くu画像を撮るのに分のオー ダーの時間を要する)、AFMがその期待 に応えることはなかった。AFMの特徴を 最大限に引き出すには、その走査速度を
向上させる必要がある。齋LaserDIod⑧
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図1.原子間力顕微鏡の概念図
そこで、AFMに含まれる全てのデバイスの高速化に取り組み、高速原子間力顕微鏡を 開発した。具体的には、共振周波数が高くて柔らかいカンチレバー、極めて小さいカン チレバーの変位を検出することができる光テコ光学系、カンチレバーの振幅を高速に計 測する回路、高速に走査しても振動しないスキャナーなどを導入した。その結果、マイ カ上に緩やかに固定されたミオシンV分子のナノ動態を80,s/frameの映像として捉
えることに世界で初めて成功した(図2)。
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図2.高速AIWMによって撮影された溶液中のミオシンVの映像から7枚の連続画像を示 す。図中央に典型的なY字型をしたミオシンV分子が見える。○印で示した1頭部と2頚 部の構造形態変化に注目。画像は1枚あたり80,s(12.5hame/s)で取得されている。
この高速AFMの誕生に伴い、幾つかの興味ある生体試料系の観察を開始した。とこ
ろが、カンチレバー探針が試料をたたく力が強すぎること、フィードバック帯域が十分 でないことが原因で、アクチンフィラメントや微小管といったもろい生体試料が連続イ
メージング中に徐々に破壊されていくという問題に直面した。これは、高速AFMを生体試料に適用する上で致命的な問題であり、これを克服するための改良を集中的に行っ てきた。世界では探針-試料間に働く力の軽減を目的に、Q-contrO1と呼ばれる技術が広
く用いられている。しかし、自作のQ-control回路による試験で、この手法が高速走査
と両立しないことを突き止めた。そこで、PIDフィードバックのパラメーターを状況に応じて動的に変化させる“動的PIDフィードバック制御,,を達成する回路を開発し、
探針が試料に軽く接触する状況を安定に維持して高速に走査することを可能にした。さ
らに、スキャナーの応答速度を高めるために、機械式ダンパーに代わる“電子回路式ダンパー,,を考案・開発し、スキャナーの応答速度を10倍以上向上させることを達成し
た。以上の改良によって、もろい試料でも壊さずに長時間安定に連続イメージングする
ことができるようになり、‘`微小管に沿ってキネシンが一方向に運動する様子,,や“ア
クチンフイラメントカミミオシンVと相互作用して一方向に運動する様子,,(図3)を観
察することに成功した。これらの観察結果によって、AFMの走査が、タンパク質分子
のATPase及びモーター活性、レールタンパク質の機能に影響を与えないこと、タンパ ク質分子同士のような弱い相互作用を阻害しないことを示した。また、タンパク質分子の生理的な作用に伴う構造形態変化とブラウン運動を映像から 識別するために、溶液中に混ぜたCageCl化合物に紫外線を照射することによって、観 察の途中に特定の溶質を瞬時に導入することができる実験系を構築した。その結果、ミ オシンVに起こったカルモジュリン分子の解離やネック部位の構造変化が、Ca2+やATP の作用で生じたことを明瞭に示す観察結果を得ることに成功した。
本研究で新しく開発された高速原子間力顕微鏡は、タンパク質分子の機能発現と構造 変化の仕組みを解明するために有用であり、今後多くの分野での活躍が期待される。
学位論文審査結果の要旨
原子間力顕微鏡(AFM)は物質表面のナノ構造解析などに現在広く利用されている。液中観察も可能な ことから生体分子観察に特に有用である。しかし、1画像を撮るのに分のオーダの時間がかかり、効率が悪 いばかりでなく、試料の動態を観察できない。古寺君はタンパク質分子のナノメータスケールで起こる機能 動態を観察できる高速AFMの開発を行った。カウンターバランス法、新しいアクティブダンピング法を考 案して、高速に走査しても振動を起こさないスキャナーの開発に成功した。また、カンチレバー探針と試料 との接触力を極めて小さく維持できる動的PID制御法を考案し、「高速走査」と「試料への優しさ」を両立 させることにも成功した。これ以外にもいくつかのアイデアを導入し、弱いタンパク質間相互作用をも乱さ ずに高速撮影できる高速AFMを世界に先駆けて開発した。いくつかのタンパク質系の観察も行い、機能動 態を最高60,s/frameの速度でイメージングできることを実証した。生命科学ばかりでなく、ナノ領域で 起こる様々な現象の解明にとって有効な顕微鏡であり、その波及効果は極めて大きく、非常に画期的な成果
である.
予備審査、学位論文の精査、口頭試問を行い、上記の事実を確認し、博士(理学)の学位を授与するに十
分な成果であると判断した。
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