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地教行法における県費負担教職員の任令制の法的構 造

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

地教行法における県費負担教職員の任令制の法的構

著者 松元 忠士

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 16

ページ 15‑25

発行年 1980‑03‑23

その他のタイトル Legal Structure on the Appointment system of Teachers

URL http://hdl.handle.net/10105/6443

(2)

地教行法における県費負担教職員の 任令制の法的構造*

松  元  忠  士榊

  (法律学教室)

はじめに

 地方教育行政の組織及び運営に関する法(以下地教行法と略す)は、 38条1項において県費 負担教職員について都道府県教育委貴会が市町村教育委員会(以下両者とも委員会と略す)の内 申をまって、任免その他の進退を行うものと定めている。県費負担教職貴は市町村委員会に所属

し、同委員会の監督を受けること、都道府県委員会に対して独立の行政機関であることからすれ ば、この任命制はその法原則からいって変則的な制度であるといえよう。公務員の任命権は、本 来その職員の使用者たる行政機関に属するものであるからである。にもかかわらず、法かか㌧る 制度をとったのは、戦後わが国の地方自治体(市町村)の行財政能力への配慮や広域人事行政の 必要性等の立法趣旨によるものであって、法の採用する任命制はか㌧る事情を考慮しつつ、他方 市町村委員会の主体的な法的地位を尊重する原則の下に、都道府県委員会と市町村委員会の協働 関係において、その権限の行使を円滑化しようとするものである。か㌧る制度も、わが国の地方

自治行政機関の特殊な実情に鑑みれば一定の合理性を有しているといえよう。

 ところで、昭和49年10月の文部省通達(文物地第434号)は、県費負担教職員の任命、

特に懲戒処分について、「異常な事態」の発生という特別事態を設定して市町村委員会の内申の ない都道府県委員会の任命権の発動を可能とするもので、教職員の人事行政に大きな影響を与え るものであった。のみならず、法38条1項の定める県費負担教職貫の任命制を一定範囲で修正 するものとして注目に価するものであった。これに対し、昭和52年12月の福岡地裁判決は、

特別事態に対する法規定の例外を認めず、市町村委員会の内申を都道府県委員会の任命行為の法 律要件とし、通説的立場を維持している。この問題は、単に特別事態に対する法適用の問題にと

どまらず、その背後に法の定める任命制に対する基本的な見解の相違が存在しているように思わ れる。即ち、県費負担教職員の任命制における都道府県委員会の地位と権限を市町村委員会の内 申権に対して主導的なものとみるか内申権の法形式をとる市町村委員会の主体的地位、意恩を 基本的前提として、それとの協働関係に重点を置いて把握するかの相違である。本条項の任命制 について、その法的性格、その法構造を理解するには、本条項の立法趣旨、両委員会の地位、権 限関係、権限行使の法的効果等総合的に考察し、判断するほかはないであろう。

1.旧識育委員会法1こおける人真権と識整措置規定

地方自治の二段階構造の下で教職員の任命権をどこに帰属させるかの問題は、広域人事行政の

*  Legal Stmcture on the Appointment system of Teachers

*業 Tadashi Matsumoto (Department of Law,Nara University of Education,Nara)

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必要性、教職員の給与負担問題とも関連して旧教育委員会法の制定の際に相当論議の対象になっ た   市町村委員会の独立した行政機関としての法的地位を重視する立場からは、当然任命権  。ω

を同委員会に附与し、人事、財政の問題については都道府県委員会との従属関係を伴わない連絡 調整手段によって解決する方法を取ることが首尾一貫したものとなろう。これに対して、教職員 の適正な配置と円滑な人事移動の必要性、任命権の行使が都道府県の教職員給与の財政負担に影 響を与える事情を重視する立場からは、より高い立場に立った調整的な任命権を都道府県委員会

に附与し、同委員会に一定の主導権を与えるべき結論が導かれる。

 旧教育委員会法は、前者の立場に立ち、49条5項により、校長及び教員の任免その他の人事 に関する事務を各教育委員会の所管とした。これまで、都道府県に帰属していた任命権②は、同 法により市町村委員会へ移管せしめられた。しかしながら、この任命権は市町村に教職員の給与 負担の財政能力が欠けていたところから、給与権を伴わない不完全な任命権であった。給与負担 法は、このため市町村の教職員の給与負担を都道府県に義務づけ、この義務に対応して教職員の 定数、給与、昇給、勤務条件等に関する一般的基準の条例作成権を都道府県委員会に帰属せしめ、

市町村委員会の任命権の行使を枠づけると同時に、各教育委員会間の人事行政に関する不均衡、

不統一を防止しようと計った。さらに、この条例の基準に基く個々の任命権の行使については、

各教育委員会間の適宜な調整が必要となっており、旧教育委貞会法案の採決に当っては、広域人 事行政のための調整的な措置を規定に投入する修正意見が採用されたのである。{3〕

 旧教育委員会法51条は、 r校長及び教員の任免給与等の人事その他共通する必要事項を決定 するために、都道府県内の地方委員会と都道府県委員会が連合して協議会を設けることができる」

とし、両委員会の間に調整機関の設置の道を開いた。この調整機関の協議事項は必ずしも人事の

みに限らないが、このような機関の設置趣旨は、r現在の如く教員不足の場合;教員の生活上の

問題で配置の不円滑な場合.;又将来に於いても教員の俸給又は昇給に関する不均衡をさけるため

に都道府具の委員会と地方委員会に共通する事項が多く」、{4,これらの問題を各委員会の主体

性を尊重しつつ解決することにあった。実質的な狙いが、主として人事権に関連する問題の取扱

いを調整することにあったといえよう。同じ都道府県下にあって、人事に関する条例の基準の運

用が相違すること、即ち教職員の俸給や昇給、勤務条件等の取扱い方が相違することは、疑いも

なく教職員の円滑な配置や人事移動等の人事行政にとって障害となるものであり、教育行政にと

って放置できない重要な課題でありた。{5〕にもか㌧わらず、同法51条の定める調整機関とし

ての協議会にはこれらの課題を解決しうるような地位と権限を全く。といりてい㌧ほど与えられて

いなかった。第一に、協議会の設置は当該都道府県と市町村の委員会の任意に委ねられていて法

的に義務づけられたものでなかったこと(同法51条1項)、第二に、仮りに設置されても協議

会の決議は全員一致によらなければならないとされていたことにより、有効な決定を期待しえな

かった(同法51条2項)。同法の定める協議会の本来の趣旨狐実効性のある調整機関という

より、むしろ各委員会相互の単なる連絡協議機関の設置にありたというぺきであろう。この規定

の根底にあるものは、r都道府県教育委員会・市町村委員会相互の間に、」上・下、命令・服従の

関係と、その立法精神にかんがみ、極力これをさけようとした結果であった」。㈹ 市町村の財

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政能力を抜本的に強化することもなく、又人事行政について十分な調整措置を定めることもなく、

市町村委員会にほ∫完全な任命権を与えたことが、かえって同法の定める任命制度の機能的不十 分さを露呈し、都道府県委員会へ任命権を移管させる動機を与えたのでありた。市町村委員会の 設置が全国的に実施される時期(昭和27年当時)に、既にr現在では51条は死文となって、

何ら活用されていない」一7,状況であったのであり、同条の改正論が拾頭していた。同条の改正論 の方向松教職員の人事権について都道府県委員会に一定の裁量権を附与し、実効性ある調整権 限を与えるものであったことはいうまでもない。同条の改正論も、1日教育委員会法の全面的改正 である地教行法の制定に組み込まれ、同法38条1項の規定となって実現されている。

ω高石邦男ほかr教育委員会法の制定と地方教育行政の組織及び運営に関する法律の制定」

  教育委員会月報㎞33949頁

12〕戦後母法たる地方公務員法が制定施行されるまでの間は、その身分取扱に関しては主として   都道府県の吏員の例によるとされていた。 相良惟一r教育行政法」138頁

制時事通信社編r教育委員会法」54頁 14〕時事通信社編r前掲書」54頁

15〕久保田藤麿、北岡健二、天城勲・監修r市町村教育委員会の手びき」56,57頁

㈲教育委員会制度研究会r地方(市町村)教育委員会の設置並びに運営の実際」310頁

㈹教育委員会制度研究会r前掲書」310頁

2 都立府県委員会における県費買担教韓員の任命権の立法議旨

 地教行法34条は、 r教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の校長、園長、教員、

事務職員、技術職員、その他の職員はこの法律に特別の定めがある場合を除き、教育長の推薦に より教育委員会が任命する」と定め、当該教育委員会に所属する教職員について任命権のあるこ とを明らかにしている。しかし、法令にrこの法律に特別の定がある場合を除き」とあるように、

同法は別に特別規定(37条)を置き、県費負担教職員の任命権を市町村委員会から都道府県委 員会に移管している。この移管は、地方自治法180条の8の2項にr他の地方公共団体……

の事務で」、都道府県委員会の管理、及び執行しなければならないものとして、別表第3の2の 1の通りとし、そこに県費負担教職員の任免その他の進退、及び勤務評定を定めているところか らして法定委任と解される。県費負担教職員の任命に関する事務狐市町村委員会の委任事務と 規定されていることが注目されよう。即ち、同規定は、県費負担教職員の任免事務が本来市町村 の行政事務であることを確認しつつ、特別の理由により都道府県委員会にその権限を委任し、さ らに地教行法38条1項によりその権限を市町村委員会との協働関係において行使せしめようと

したものである。

 同法が、このように市町村委員会の主体的地位を尊重しつつ、都道府県委員会へ複雑な任命権

の委任を行った特別の立法理由については、昭和31年1月国会審議に際して提出されたr地方

教育行政の組織及び運営に関する法律案提案理由」{1,に示されている。即ち、 r小中学校の教職

早等の人事権を都道府県の教育委員会が行使することとしたのであります。これは、一つには、

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これらの教職員の適正な配置と人事の交流を促進するということを考慮したものであります。さ らに、給与の負担団体と任命権者の属する団体とを一致させることとしたものであります。御承 知の通り、教育委員会が市町村に設置されてから、都道府県内の教職員の適正配置に支障が生じ たことは、広く各方面から指適されたところであります。このことは、市町村の設置する学校で ありましても、個々の市町村ごとに人事を管理することが無理であることの証左でありますし、

また、現在都道府県が小学校の教職員の給与を負担いたしましておりますことも、市町村の担当 する義務教育等の振興をはかる上に、都道府県の協力が必要であることを物語っているものであ

ります。」と。

 以上の説明から、第一に教職員の適正な配置と人事交流を促進すること、第二に給与の負担団 体と任命権者の属する団体とを一致させること等が、その特別の立法理由であることが理解され

る。これらの立法理由は、地教行法37条の註解において行政当局者によってもくり返し説かれ ているところであり、  これ以上追加説明の必要をみないであろう。以上の二つの理由のうち、

      12〕

第二点は教職員の給与負担団体である都道府県の財政管理上の配慮から出たものであって、必ず しも任命権を同委員会に移管させねばならぬ本質的理由とは考えられない。即ち、給与財源の配 分方法や取扱方法を別に考えれば、他の手段が可能と思われる{3〕から、明らかに行政運営上の便 宜的、技術的理由によるものと考えられる。そうだとすれば、第一点こそ任命権の所在を変更し た主要な理由であり、任命権の趣旨と性格、限界とを究明する根拠となろう。

 第一点の立法理由は、以下の事実、即ち市町村委員会がそれぞれ任命権を保持し、これを個別 に行使することにより、教職員人事に様々な不均衡、不統一が生じ、そのことが人事=の適正な配 置と円滑な人事交流を妨げていた事実にもとずいている。各市町村委員会がそれぞれ個別的に任 命権を行使すれば、そこに人事の取扱いに相連が生ずることは避けがたいことであり、取扱いの 不統一、不均衡が、人事の配置や交流の障害となることも、また白明なことであろう。教職員も また、不利な給与待遇、人事上、勤務上の待遇を避けて職場を選択することは明らかであるから である。そうだとすれば、教育行政組織の地方分権制の下にあっては、少くとも都道府県単位に おいて人事に関する統一基準が実施され、教職員の採用、人事移動、身分の取扱い、勤務条件等 が相互に調整され、一定範囲において統一され、その限りにおいて適正、円滑な人事行政が行わ れる必要が認められるのである。{4}い㌧かえれぱ、市町村委員会の枠を越えた広域行政におい て・人事の取扱・運用に関する調整的機能が求められるといえよ㌔

 さらに、より高い次元に立ってr教育水準の向上」を計るという意味において、教職員のより 適正な配置と交流を促すための調整的機能が求められる。この要請は、教師個人や市町村委員会 の狭い利害を越えた教育行政の基本的課題に関する行政機能の一つである。とりわけ、人事移動 が人事の刷新により教育水準の向上に効果的な刺激を与えるという点で秀れて教育的な行政機能

であることは否定しえない。{5,

 以上述べたところから、市町村を教育行政組織の独立の基礎単位とする限り、教職員の適正な

配置と人事交流の促進という立法理由は、単に行政運用上の技術的課題であるに止まらず、教育

水準の向上にか㌧わる基本的課題であることが理解される。これらの点に、立法理由の合理的な

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根拠のあることを否定しえないであろう。

 これらの行政課題は、市町村委員会の行政領域であると同時に、それを越える広域行政領域で ある。従って、そ柵ま市町村委員会の権限範囲では解決しえない行政領域であると同時に、市町村委 員会の協力なしには解決しえない行政領域である。地教行法37条の任命権規定は、これらの所 与の事実関係を考慮して、これらの行政課題を市町村委員会の主体的地位を尊重しつつ、都道府 県委員会との協働関係において解決せんする広域行政機関の調整機能として定められたものにほ

かならない。

ω宮原誠一・伊ケ崎晩生・藤岡貞彦編r資料日本現代教育史」144頁

②木田宏r逐条地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(旧版)221頁   天城勲r教育関係法11」(有倉との共著)259頁

制例えば、実際にもシャウプ勧告の交付金制度の創設により教員給与も市町村の負担すること   が予定されていたが実現されていない。高石邦男ほかr教育委員会法の制定と地方教育行政   の組織及び運営に関する法律の制定」教育委員会月報 ㎞339

ωこのことは、既に旧教育委員会法の時代から強く認識されていた。時事通信社r前掲書」

  54頁

15〕但し、このような転任人事はその運用を誤ると教職員個人や学校の教育活動を阻害するし、

  場合によってはその転任処分が裁量権の逸脱濫用ということになる。三島宗彦r教員の採用   ・人事異動の法理」季刊教育法3号

3。市町村委員会の内申の法的性格と効力

 地教法37条1項が県費負担教職員の任命権を都道府県委員会に帰属せしめたことに対応して、

38条1項は任命権の一部として内中権を市町村委員会に保留せしめている。

 内申とは、法主体としての市町村委員会の求める任命についての具体的な意思表示であり、そ の通達である。それは、当該教育委員会が自己に所属する特定の教職員について、任用、免職、

休職、復職、懲戒、昇給等任免の内容を文書で具体的に明言己しては〕任命権の発動を求める行為で あるといえよう。内申は、任命についての具体的な意思内容を含む点、機関決定である点等で、

例えば、同法39条の学校長の意見の表明等と決定的に区別される。それは、教職員の地位の設 定、地位と勤務関係の変更を目的とし、具体的な根拠に基いて行う機関決定である点で、既に任 命行為の一部である。

 その手続は、市町村委員会の会議(法13条)において多数決による決議を必要とする。決定

に当っては・任意に当該所属学校長の意見の申出を受け(法39条)、法的義務として教育長の

助言を受けなければならない。(法38条2項) もっとも、裁判所は法26条1項の委任規定

により・教育委員会規則でさだめるところにより内申の権限を教育委員会は教育長に委任するこ

とが出来る旨判示している(静岡地判昭和40−4.27行集16巻5号974頁)。通常の場合、教育

委員会は人事内申の重要性という観点から、所属校の監督者たる校長と委員会の執行責任者たる

教育長の意見、助言を聴して誤りなきを期するという慎重な手続が規定されている。任命に関す

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る校長の意見は、r申し出ることができる」として、法的に義務づけられてはいない狐直接所 属職員を監督し、服務状況を掌握する者として、校長の意見は特別の場合を除いて中出を必要と するであろう。これらの手続は、教育長が助言、校長が意見と記され、単なる事実の陳述でない

ことが注目されるべきであろう。即ち、市町村委員会に向けて当該教職員の任免事由その他に対 して人事監督者としての判断内容を含んだ意見、特に凌者については行政専門家としての立場か ら専門的技術的見地からの意見が求められているといえる。一2,任免に関する事例は、いずれも 客観的、主観的要素を含んだ総合的判断が要求されるところから、地教行法は極めて慎重な人事 手続を定めたものと解され孔

 このように、地教行法38条1項が、都道府県委員会の任命権に対応して市町村委員会に内申 権を定めた趣旨は、任命権が都道府県委員会に移管せしめられたとはいえ、なお県費負担教職員

の地位は市町村委員会に所属し、その服務監督に服する点にある。即ち、任命権の対象となるr これら教職員は、市町村立学校に勤務し、市町村委員会の管理下に、その職務上の命令に服する ものであるから、その人事はいわば身近な管理穣関である市町村委員会の意思を十分尊重して行 うべきことを規定したもの」制といえよう。この趣旨には、内申権を支える二つの原貝11が含まれ ていると解される。第一は、現行法上市町村は小学校、中学校等の設置義務(学校教育法29条

)を負い、これらの管理の責に任じ(学校教育法5条)、学校教育行政に直接責任を負うとする 地方教育行政組織の原則である。第二は、人事、特に分限と懲戒処分等に関し公正な職務執行の 保障の原則である。第一の点については、国や都道府県の法令や条例等により、またそれらの指 導・助言、報告義務等により、市町村委員会の教育行政に対する責任が様々制約を受けている。

例えば、市町村立学校職員給与負担法は、市町村の財政能力等を考慮し、教職員の給与負担につ いて同じく地方公共団体としての都道府県の責務を積極的に明示している。しかしながら、これ らの制約限界があるとしても、市町村委員会の学校教育行政に対する管理権は、いわゆる人的、

物的および運営の管理の全面に及ぶことを建前としている(23条・32条だいし34条・38条

・39条・43条・46条)のであり、この原則が変更せしめられているとはいえない。第二点の 人事に関する公正な職務執行の保障原則は、地方公務員法が手続面で厳格に規定(同法全体の趣

旨、特に27条以下)するところである狐地教行法も前述の如く内申の手続規定(同法38条

2項、39条)において、この原則が具体化されているものと考えられる。本来、任命権者は自

らの発意に基づき、その裁量によって職員の懲戒をなし得るのが法の原則{4〕であるが、地教行法

における都道府県委員会の任命権は、同委員会が教職員の服務監督権をもたないことから、か、る

任命権 般の原則に対する基礎を全く欠いているのである。従って、教職員の勤務状況を最も的

確に把握しうる市町村委員会の内申の手続こそ、公正保障の要求が満されねばならないといわね

ばならない。地教行法38条2項の内申に関する教育長の助言の定めは、教育長の専門的・技術

的助言によりて内申の決定狐法律的にも、慣行的にも、また教育的にも適正に行われることを

助けるためであるといえよう。即ち、教育委員会の構成員である教育委員は、教育行政について

素人であることを原貝■1としているところから、恣意的ないし不公正な内申の決定結果を防ぐ必要

性が考慮されている㈲といえよう。さらに、同法39条が、学校長に所属の県費負担教職員の任

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免その他の進退に関して意見具申権を定めていることも、それら職員の直接の服務監督者として 勤務状況を掌握しうるところから、内申の決定に当り、妥当な判断資料の提供の機会を与えるこ

とを定めたものと解される。

 地教行法38条1項の市町村委員会の内申権が、以上の二つの原則によって裏づけられている とすれば、都道府県委員会の任命権は、市町村委員会の内申権によって条件づけられているとい わねばならない。任命権の行使は、教職員の勤務状況の的確な掌握とその客観的評価という基本 的手続を欠いては事案上行使しれないし、法的にもこの手続面に責任を有するのは市町村委員会 であるからである。

 市町村委員会の内申権が、都道府県委員会の任命権を条件づけること、即ちその法律要件とな ることは、地教行法38条の文理上の根拠によっても説明される。即ち、同条規定のr内申をま って」とは、都道府県委員会の任命行為が内申があるまでは行えないことを意味する。内中があ って初めて任命権が有効に行使しうる。行政解釈も、r内申の対象となっていない教職員(任免 その他の進退について内中されていない教職員)について、府県教委が一方的に転補を発令する ことは、違法行為であると認めるかどうか」との照会に対し、rお見込みのとおり」と回答して いる㈹(昭32一↓25委初第169号長崎県教育委員会教育長あて文部省初等中等教育長回答)。

r内申をまって」とは、rにより」rに基1づいて」のように、その内容には必ずしも拘束されな い狐内申なくして任免等を行なうことは違法であると解される。従って、内申は時間的にも、

手続的にも任命行為に先行し、内申なしに任命行為をなしえないという意味において任命行為の 法律要件である。{7〕こ㌧で任命権者が、内申の内容にどこまで拘束されるかは必ずしも判明し

ない。が、同法37条の任命権が前述の如くr教職員の適正配置と人事の交流」の促進という立 法理由によって根拠づけられたものである以上、立法目的のため特別の理由がある場合を除いて 内申の内容に拘束されるものと解される。内申されたものについて発令するか否かについても任 命権者は出来るだけこれを尊重すべきものと考えられる。

は〕文部省地方課法令研究会編r解説教育関係行政実例集」63頁 12〕木田宏r新訂逐条解説地方教育行政及び運営に関する法律」246頁 131天城勲r前掲書」260頁

14〕今技信雄r地方公務員法」388頁

15〕高柳信一、室井力、兼子仁、青木宗也、寸1■11和久「教育公務員の人 芥とr内申ぬき処分」の   違法性」法律時報48巻12号

㈹文部省地方課法令研究会編r前掲書」61頁

171天城勲r前掲書」261頁 木田宏r前掲書」239頁

4 都道府県委員会の任命桁の性格とその限界

地教行法が、任命制の一般原則を変更して市町村委員会に所属する教職員の任命権をあえて都

道府県委員会に移管せしめた立法の背景、立法趣旨は、既に一、二の章で述べた通りである。そ

の立法趣旨は、端的にいって教職員の適正な配置と人事の交流を促進するため、広域教育行政機

(9)

関としての調整機能を都道府県委員会に認め、それによって教育水準の向上を計ることにありた。

そして、地教行法は、このような行政課題を遂行するため、それに必要な調整的権限を都道府県 委員会の任命権として具体化(同法37条)している。しかも、この任命権は、市町村委員会の 主体的地位、意思を尊重すべき原則の下に、その内申に条件づけられ、それを法律要件とする任 命権であることも明らかとなった。即ち、同法37条の定める任命権は、市町村委員会の内申に 条件づけられ、それを法律要件とする、教職員の適正な配置と人事交流を促進するための調整的 権限としての任命権である。それは、相互に独立した法主体としての教育行政機関の協力関係ω を基本的前提として、この協働関係においてのみ有効に行使しうる任命権として、一般の任命権 と性格を全く異にする。

 いま、本条の任命権の性格を具体的な任命事例について検討してみることとしよう。県費負担 教職員の採用については、まず都道府県(指定都市も含む)の教育長が採用のための選考を行い

(法37条1項、58条)、その合格者について市町村委員会の内中をまってこれを行う(法38 条1項)。その際、都道府県委員会は、内申通りの採用を法的に義務づけられないか、採用すべ き教職員の年令、経験、専門教科、その他特性等、可能な限り内申の内容を尊重するかそれが 出来なければ転任等の方法を推薦し、人事行政上の調整的役割が求められる。採用の場合、市町 村委員会の内申にそのま㌧応えられない場合も少くないことから、明らかに都道府県委員会の任 命権の裁量の余地が働かざるをえず・それだけ調整的権能が求められるといえよう。{2〕こ㌧で・

このような調整的権能と任命権とは全く別個の概念であって、その混同は不当という考え方もあ りえよう。しかし、都道府県委員会の任命権は、その決定条件としてこのような調整権能を不可 分に随伴し、調整権能なしに実際上任命権の行使は不可能であることから、これをも一体不可分 のものと考えることが出来よう。

 次に、同じ都道府県内の転任については、当該教職員の所属する学校の市町村委員会の内申を まって、都道府県委員会は希望する学校の市町村委員会の承諾、内申を調達するという調整的役 割を果すことが出来る。この場合の任命権の行使は、都道府県委員会の調整の結果にほかならな い。しかし、希望する内申の内容が満たされなければ、それに近い転任を斡旋し、内申を調達さ せることも出来よう。都道府県委員会の任命権は、その前提条件としての調整的機能が重要なの であり、任命権の行使はその結果を法的形式に表わしたものにほかならない。本論でとり上げて いるのも、任命権の形式的性格ではなく、その実体的性格である。

 最後に、県費負担教職員の懲戒処分の任命行為については、採用や転任等に比較してそれほど 都道府県委員会の任命権による調整を必要としない領域である。市町村委員会は、法的根拠があ

ってその行政能力さえもつなら、自ら法令に従うて懲戒権を行使し得るからである。ただ、この場 合にも地教行法37条の都道府県委員会の任命権の立法趣旨であるr教職員の適正な配置と人 事の交流」という観点から、出来るだけ同じ都道府県内において懲戒に関する基準の運用が統一 され、不均衡のないことが望まれよう。懲戒処分の運用如何は、上記の立法目的に影響を及ぼし、

これの妨げとなる場合も生ずるといえよう。このような観点から、懲戒処分についても都道府県

委員会がその連用の統一を計るために一定範囲の調整的機能を果すことも認められるともいえよ

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う。しかし、懲戒処分という任命行為は、か㌧る観点からのみ考慮されることは不当であり、懲 戒処分の是非、内容は当該教職員の勤務態度、勤務状況、非違行為の動機、影響等地の客観的、

主観的要素が十分考慮されねばならぬところから、  都道府県委員会の調整機能には自ら限界        131

が存在するものといえよう。そうだとすれば、都道府県委員会は調整に必要な事由がある場合を 除いて、市町村委員会の懲戒に関する内申を尊重すべきことが要請される。昇任や降任について

も・客観的・主観的要素の評価が重要な前提となることから・懲戒処分の場合と同様と考えられ

よう。

 以上の概括的な検討から、個々の任命行為について都道府県委員会の任命権による個々の調整 機能には多少の相違があるとしても、市町村委員会の内申を法律要件として、その内申の内容に ついてこれを調整し・或いは出来るだけ尊重すべきことが原則として要請されているωといえよ

う。このような原則は、任命事由の発生が法的に市町村委員会の服務監督権の認定にか㌧り、し かも任命の効果が、市町村委員会の管理責任にある学校行政の決定的要素であることから当然の 帰着である。そして、この原則に対する例外、即ち内申の否定、排除、放棄{5〕といった権限規範 ないし認定権を地教行法37条1項の立法趣旨、38条1項の内申規定の意味からも見出すこと は出来ず、法はそれらの権限を全く予想していないといえよう。また、地教行法は市町村委員会 の法的主体性を認め、都道府県委員会の前者に対する権限を指導助言の限度(法48条)に留め、

任命行為に伴い特に市町村委員会の行為を義務づける特別規定を置いていないことから、都道府 県委員会が市町村委員会に内申を義務づけることも不可能と解される。  このことは、地教行       ㈹

法が任命事由の発生を市町村委員会の服務監督の認定にか㌧わらせ、市町村委員会がその認定に 基づき内申をその主体的意思によって決定し、都道府県委員会の任命権はその内申に法律要件と

して条件づけられる法的構造を基本原則としてとっていることを示すものにほかならない。

 従って、昭和49年10月4日の文部省初等中等教育局長通達狐 r都道府県教育委員会が、

県費負担教職員の進退について具体的な内容を示し、一定の期限を定めて市町村教育委員会に対 して内申を求め、その期限経過後も内申がない場合において、内申がなされない要因を探求し、

重ねて内申がなされるよう督促する等最大限の努力を払ったにもか㌧わらず、なお市町村委員会 が内申しないという異常な事態」を設定し、その場合に市町村委員会の内申手続がなくても任命 権を行使しうるとする解釈は、上述の地教行法のとる法的構造からいっても合理的根拠を見出す ことはむつかしいのではないだろうか。そもそも、この見解は内申権行使について市町村委員会 の法的主体性を最初から認めていない点、内中を義務づける都道府県委員会の法的根拠を示して いず、いきなり任命権からその性格を考慮することなく引き出している点に難点があるといえる のではなかろうか。

l11昭和49年10月4日の文部省初等中等教育局長通達はこのことを強調している払市町村   委員会の法主体を殆んど認めていない。

②兼子仁r教育法」493頁 131中村博r公務員懲戒法」118頁

ω兼子仁r内申ぬき処分の法学的検討」季刊教育法16号

(11)

151文部省地方課法令研究会編r前掲書」62頁、も内申の放棄を認めていない。

㈹兼子仁r教育法」492貫高柳信一、室井力、兼子仁、青木宗也、中山和久r前掲書」法律  時報48巻12号

5 福岡県教組内申抜き処分事件第 審判決の評価

 内申抜き懲戒処分事件に関する昭和52年12月27日の福岡地裁判決の要旨は次の通りである。

まず、県費負担教職員に関する都道府県教委と地教委との関係については、r地教行法は、市町 立学校に勤務する県費負担教職員の人事、とくにその任免その他の進退については、都道府県教 委が独断で行なうものではなく、服務監督者である地教委の意見を反映させて主体的な相互の協 力によって人事行政の適正かつ円滑な運営、あるいは又、教育水準の維持等を図ろうとしナこもの

と解される」とし、次に、同法38条1項にいうr内申をまって」の要件について、r都道府県 教委が県費負担教職員に対して任命権を行使するには原則として、地教委による内申がその要件

とされているものと解するのが相当である」。さらに、地教委の内申に関する裁量権については、

r地教委が内申するか否かは、その独自の裁量に委ねられているものというべく、たとえ都道府 県教委が内中をすべき場合と判断したとしても、そのことで直ちに地教委に内申すべき義務が生 ずるものとは到底考えられない。」その理由として、r地教委による内申があった場合でも都道 府県教委は、その内申の趣旨を没却するものでない限り、内申の内容に拘束されることなく独自 に任命権を行使しうることの反面として、地教委の側においても、一応内申すべきか否かを独自 の立場から判断することができるものとみるのが、前述の地教行法の立法趣旨に沿う所以と解さ れる」としている。例外的に都道府県教委が内中抜きで任免権を行使しうる場合として、r例え ば内申によって不利益をうける側の暴行脅迫又はこれに類する違法不当な圧力によりて、地教委 が内申をしたくともそれが出来ないという場合にあっては、民法130条の趣旨を類推しまたそ のような場合内申の欠歓の主張を許すことは信義則に反する見地に照らして」内申がなくとも内 申があったと見倣してその任免権を有効に行使しうるとしてい孔

 以上の判決の趣旨と結論は、基本的に評価できほ∫賛成である。ただ二三の問題点が指適でき る。地教行法が県費負担教職員に関する都道府県教委と地教委との関係について、前者に任命権 を帰属せしめた趣旨は、r教職負の適正な配置と人事の交流を促進する」ことによって教育水準 の向上を計る点にあるのであって、判決のいうr人事行政の適正かつ円滑な運営」よりも一層限 定的なものなのである。判決がこの趣旨を概括的、広汎な意義に解する結果、市町村委員会の内

申を都道府県委員会の法律要件と解しながらも、内申内容に対する都道府県委員会の裁量権をよ り広く与えているようにみえる。前者の趣旨に立つ場合には、都道府県教委の任命権行使におけ る裁量範囲は限定的となり、市町村委員会の内申に対する尊重義務はより広くなるであろう。こ の場合の尊重義務は、法的拘東力は弱いであろうが、任命権行使の裁量権のいつ説の問題は生じ

うるであろう。

 判決は、37条1項の任命権の立法趣旨を広く、概括的に把握したことにより、都道府県教委

の任命権の裁量性を広く解釈している。即ち、r都道府県教委は、その内申の趣旨を没却するも

(12)

のでない限り、内申の内容に拘束されることなく独自に任命権を行使しうる」とい㌧、他方では r地教委が内申しても都道府県教委がその内申に内容的に拘束されるわけではなく、任命権を行 使しないことさえできるのである」としている。判決のこれらの表現は、必ずしも厳密な構成に なっていないので明確でないが、内申への拘束性にでなく、内申に対する自由裁量性に傾いてい ることは否定できない。私見は、上記の立法趣旨の遂行に必要な理由のある場合を除いては、内 申尊重の義務が都道府県教委にあると考える。

 従って、地教委の内申するか否かの裁量権の根拠も、都道府県教委の任免に関する裁量権との 均衡に求めることは疑問となる。地教委の内中に関する裁量権は、その独立の法主体としての地 位と所属する教職員の服務監督権にその根拠を求めるべきであろう。以上のほか、判決は内中が なくとも内申があったと見徴して任免権を行使しうる例外的事例を、当事者の暴行、脅迫等によ る裁量権行使の不能の場合に認めている。この結論の部分を純理論的に考えれば、それ自体異論 を挟む余地はないであろうが、公共機関の会議構成員ないし会議体そのものに現実にこのような 例外的事態が一定期間生じうるかどうか想像しがたいといわねばならない。  極端な事態を想 定して、それに例外的適用解釈を試みることは賢明な態度とはいえないのではなかろうか。

 以上いくつか疑点があるとしても、判決の基本線、都道府県教委の任命権の行使に内申をその 要件としている点、地教委が内申するか否かの独自の裁量権を認めている点等通説的解釈に立ち、

正当であり、評価されよう。

ωこの点については、教育の地方自治の原則という点からも問題となろう。金子照基r教職員   人事に関する諸原則」季刊教育法14号

;2〕森田明r内申抜き処分取消請求訴訟判決の論点」ジュリスト N皿662

参照

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