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リーマン正規座標系を用いた色空間における 色差保存写像の構築と色弱補正方式への応用

(要約)

Satoshi Oshima

大島 哲

博士(工学)

中 央 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 情報セキュリティ科学専攻

平成

25

年度

2014

3

(2)

1

章:序論

PC 性能の向上,記録メディアの大容量化,通信路容量の増大,個人端末の普及に伴い,

複数の異なる対象(人間,デバイス)間において色情報を正確に伝達する必要性が生まれ ている.しかしながら,人間の色知覚特性,または,画像・映像デバイスの色再現特性は それぞれが固有の複雑な特性を持っていることが知られており,特に人間の色知覚特性は 定量的に観測することが困難であるため,個人毎に合わせた色情報の対応を厳密に定める ことが難しい.また,画像・映像デバイスの色再現で用いられるデバイスプロファイルに おいても,色空間の非ユークリッドな幾何学的特性から厳密な写像を求めることが難し く,高精細化が求められる処理においてその精度は不十分と言える.

本研究では色空間を各色の近傍で与えられる局所計量により定義されるリーマン空間と して扱い,リーマン幾何の理論に基づくことで,異なる色空間の間で色情報を厳密に変換 するための統一的なアルゴリズムを提案する. さらに,一般色覚者と色弱者の色空間に対 して応用することで,個々人の色覚特性に合わせた色弱補正方式について述べる.

2

章:人間の視覚系と色覚

人間の目に入ってきた光は網膜上で焦点を結び,はじめに視細胞と呼ばれる細胞群によ り感じられる.視細胞の中には色を感じる錐体細胞と明暗を感じる桿体細胞の二種類があ り,これらの細胞の応答により色と明暗の感覚がおこると考えられている.色を見分ける 感覚を色覚といい,色覚の機構は三原色説と反対色説を組み合わせた段階説が有力な説で ある.色弱とは,錐体細胞の欠損,または性質の違いにより生じる事象であり,色弱者は 一般色覚者よりも色が見分けづらく感じる.色弱は錐体細胞の種類に合わせて3種類のタ イプ(P型,D型,T)が存在し,その多くは弱度のP型,D型である.

3

章:色の表現

色を定量的に表現する体系を表色系という.表色系には混色系,顕色系の二種類があ り,前者の表色系では主にRGB表色系とXYZ表色系,後者ではマンセル表色系が知ら れている.混色系の表色系では,グラスマンの法則から,色刺激の等色において比例則と 加法則が成り立つ.このことから,色を三次元空間上の1ベクトルとして見なして演算を 行うことが可能であり,数値計算を行う上では混色系の表色系を用いることが多い.しか しながら,人間の色知覚は複雑であり,表色系上のユークリッド距離は必ずしも人間の主 観色差と一致するわけではなく,その扱いが難しい.特定の色空間に依存しない色変換を

(3)

割を果たしているが,現在知られている均等色空間は,いずれも空間上の局所的,大域的 な面において不均一性を残している.

4

章:色空間の幾何学

色空間は局所的な面と大域的な面の両方で非ユークリッドな幾何を持つことが知られて いることから,本研究では色空間をリーマン空間として扱うことを考える.このとき,色 空間上の局所情報(小色差)は,空間上の各点の近傍における局所計量によって定義され,

人間の場合はMacAdamの色弁別楕円として知られる色弁別閾値楕円()によって,各 点のリーマン計量を与えることができる.また,色空間上の大域情報(大色差),すなわち 空間上の任意二点間の距離はその二点を結ぶ測地線の長さによって定義され,人間の場合 には二点間の主観的色差感覚に相当する.空間の間で距離の対応を保つ変換のことを等長 変換と呼ぶが,色空間において小色差と大色差を保ちながら色彩情報を変換するためには 等長変換が重要な役割を果たしている.等長変換は小色差と大色差に応じて二種類の変換

(局所等長変換,大域等長変換)が知られており,リーマン空間からユークリッド空間へ の等長変換を行うことで均等化された色空間(局所均等空間,大域均等空間)を構築する ことができる.これらの均等空間は等しい空間であることが証明されており,どちらの均 等化を用いても局所的,且つ大域的に均等な色空間を構築することができる.

5

章:色差保存写像の構築

前章で述べた通り,色空間の均等化アルゴリズムは,局所的,または大域的アプローチ の二通り存在する.色空間の対応点同士の間でアフィン変換として表す局所等長変換は,

計算の面から工学的に有効であったが,その平行移動成分,及び座標軸の対応を求めるこ とができず,厳密な均等化を行うことが難しい.一方,大域等長変換では,測地線網を利 用することにより厳密な均等化を行うことができる.これはユークリッド空間内の直交座 標格子の逆写像として色空間内に格子を構築する方法であり,具体的には,色空間上の近 傍情報から局所計量が与えられ,座標の初期条件(原点,方向)を設定することで,大域情 報である測地線が一意に求まることを利用して,測地線と等距離線を組み合わせた測地線 網を導出し,色空間上に極座標系を構築する手法である.ここで構築した極座標系をリー マン正規座標系と呼び,リーマン正規座標系内の任意点の測地座標から均等色空間におけ る座標を簡単に求めることができる.

本研究では,上記の大域的均等化のアルゴリズムを利用して,異なる色空間の間で局所 的,且つ大域的に等長な変換手法を提案する.等長変換と等長変換の複合もまた等長変換

(4)

であることから,それぞれの色空間からユークリッド空間への大域等長変換の複合によっ て,両者の間で等長変換を実現する.具体的には,それぞれの色空間において共通の条件 の下リーマン正規座標系を構築し,座標を読み替えることで色差保存写像を構築する.ま た,具体的な構築パターンとして「二次元空間」「二次元空間と一次元方向」「三次元空 間」の三パターンを提案し,色度平面など二次元空間の写像のみならず,高次元空間の構 築アルゴリズムも提案する.

6

章:色弱補正方式への応用

本論文の後半では,前章で提案した色差保存写像の構築方法を応用して,色弱者と一般 色覚者の色空間の間で色弱補正写像を構築する方法について述べる.個人の色知覚特性を 定量的に表すための情報として色弁別閾値楕円()を採用し,心理物理実験によって測 定する.測定した閾値を元に色空間上で局所計量を算出しリーマン正規座標系を構築する ことで,色弱者と一般色覚者の色空間の間で色差保存写像による色変換の実現,すなわち 色弱補正を行う.このとき,三種類の構築パターンを試みることで色度と明度の双方を考 慮した補正を行う.

7

章:色弁別閾値の測定

D型色弱者1名,一般色覚者1名を被験者とし,特定の照明,ディスプレイ,背景色 の元,10°視野の観察距離を設定して実験を行った.色弁別閾値はCIELUV色空間上で 格子状に並ぶ 77点の色データに対して測定し,実験にあたっては,調整法,恒常法の組 み合わせにより,被験者の予想が入りにくく,且つ短期間で測定が完了するように考慮 した.1色における色弁別閾値は空間上で均等な14方向に対して測定し,最小二乗法に よって色弁別閾値楕円体を推定した.その後,色弁別閾値楕円体の色度平面上における断 面をとり,これを色弁別閾値楕円とした.

8

章:測定・構築結果

本章では色弁別閾値楕円()の測定結果と,それを元に構築したリーマン正規座標系 の結果を示している.色弁別閾値楕円 ()においては,D型色弱者,一般色覚者ともに 色によって楕円()の大きさ,傾きが様々な結果となり,色度方向と明度方向の小色差 が複雑であることが推察される.また,色毎の色弁別閾値楕円()の面積,体積を比較 したところ,D型色弱者の値は一般色覚者に比べて大きくなっており,小色差の変化が判 別しにくくなっていることが推察される.一方,リーマン正規座標系では,両者の座標系

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トできた座標系の格子点数の比率を比較したところ,D型色弱者の格子点数は一般色覚者 に比べて小さくなっていた.このことから,同一領域(同一測地距離)における座標系領 域はD型色弱者の方が広くなっており,主観色差も広がっていることが推察される.

9

章:自然画像の補正

色弱補正の各方式によって3種類の補正画像(色度平面上の補正,色度平面上と明度方 向の補正,色空間上の補正)を用意した.各補正画像は,元画像に比べて画素分布面積が 大きくなり色差が強調されていることを確認している.次に,補正効果を確認するため に,各補正画像を被験者に提示してSD法による主観評価を行った.元画像に対する一般 色覚者のSDスコア値と,元画像,各補正画像に対する色弱者のSDスコア値を比較し,

相関係数をとることで補正効果を確認した.

10

章:むすびと今後の展望

本研究では,異なる画像・映像デバイス間,被験者間で色情報を統一的,且つ,個々の 特性を考慮した扱いを実現するために,リーマン幾何を利用したアルゴリズムを提案し た.また,提案アルゴリズムの応用として,一般色覚者と色弱者の色弁別閾値を測定し,

色弱補正写像を構築して自然画像への補正を行った.今後の展望として,方式の観点から は,応用ケースの増加を行うことで,方式の拡張や最適化を図ること,及び,周囲の色を 考慮した複数色知覚への対応を検討する.また,実装の観点からは,より広範囲の色域を 持つデバイスを用いた色弱補正の実施,画像変換アルゴリズムなどの最適化によって処理 の高速化を図り動画への適用を検討する.最後に,評価の観点において,被験者の増大を 図り十分な評価数の元で統計的な確認を行うほか,脳活動の観測による評価も検討する.

参照

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