修士論文要旨(2006年度)
安定化有限要素法に基づく
LES乱流モデルの構築と適用研究
Development and Application of LES Turbulent Model Based on Stabilized Finite Element Method
土木工学専攻29号 仲嶋 晋一 NAKAJIMA Shin-ichi
1.
研究目的
工学的な流れや,自然界の流れの多くは乱流状態にあ る.乱流の予測には,実験や観測が行われてきたが,近 年計算機の発達に伴い,乱流の予測に対して計算機によ る数値解析が多く用いられるようになってきた.これま で,乱流の数値解析手法には構造格子を用いた差分法に よる方法が多く用いられていた.しかし,これらの手法 は複雑形状への適用に限界がある.このため,複雑形状 に適した精度の高い乱流の数値解析手法の必要性が高 まってきている.一方,非構造格子に基づく有限要素法 は,複雑形状への適用性に優れており,それに複雑な非 定常解析に適したLES(Large Eddy Simulation)を適 用したモデルを構築することは工学的に重要である.
そこで,本論文では安定化有限要素法に基づくLES 乱流モデルを構築し,その精度検証を行うと共に,複雑 な流れ場への適用性の検討を行ったものである.数値解 析例には,Channnel流れ解析を取り扱い,既存のDNS
(Direct Numerical Simulation)データベース1)との比 較により精度検証を行うと共に,立方体周り風況解析を 取り扱い,実験値2)との比較により複雑な流れ場への適 用性の検討を行った.
2.
支配方程式
非圧縮性・粘性流体の流れは,Navier-Stokes方程式 及び連続式によって支配されている.これらに対して フィルター操作を施すことによりLESの支配方程式が 導出される.LESの支配方程式は式(1),(2)で与えら れる.
∂ui
∂t +uj
∂ui
∂xj −fi =−1 ρ
∂P
∂xi + ∂
∂xj
¡−τij+ 2νDij¢
(in Ω) (1)
∂ui
∂xi
= 0 (in Ω) (2)
ここで,uiはi方向の流速のGS(Grid Scale)成分,fi
はi方向の物体力,ρは流体の密度,νは流体の動粘性係 数である.P は総圧,Dij は変形速度テンソルである.
式(1)中のτij はSGS(Sub-Grid Scale)応力項であり,
式(3)で与えられる.
τij=uiuj−uiuj≡Lij+Cij+Rij (3) ここで,Lij,Cij,Rijはそれぞれ,Leonard項,Cross 項,SGS Reynolds Stress項と呼ばれている.
3.2δ 6.4δ
2δ
x y
z
図– 1 解析領域
表– 1 メッシュ分割
メッシュ分割数 メッシュ分割幅 (x×y×z) (∆x+,∆y+,∆z+) Mesh1 32×40×32 30,1∼14,15 Mesh2 32×64×32 30,0.2∼9.2,15 Mesh3 64×40×64 15,1∼14,7.5 Mesh4 128×40×64 7.5,1∼14,7.5
LESでは,式(3)中のuiujを直接計算することがで きないので,何らかのモデル化を行い計算を行う.本論 文では,SGS応力項をSmagorinskyモデル3)によりモ デル化を行った.Smagorinskyモデルにおけるτijは式 (4)で表される.
τij=−2νeDij , νe= (Csfs∆)2¯¯D¯¯ (4) ここで,Csは,Smagorinsky定数である.∆,¯¯D¯¯はそ れぞれ式(5)で与えられる.
∆ =Ve13 , ¯¯D¯¯= q
2DijDij (5) ここで,Veは四面体要素の体積である.
fsは壁関数であり,本論文ではVan Driest関数を採 用した.Van Driest関数は,式(6)で表される.
fs= 1−exp−y+
A+ , A+= 25, y+ =uτy ν (6) ここで,y+は壁座標,yは壁面からの距離,uτは壁面 摩擦速度である.
本論文では式(1),(2)に対して,SUPG/PSPG法4) に基づく安定化有限要素法を適用し,複雑形状への適合 性に優れたP1/P1要素(流速・圧力1次補間四面体要 素)を用いて空間方向に離散化し,有限要素方程式を得 た.時間方向への離散化手法としては,陰的解法である Crank-Nicolson法を用いた..
1 10 100 0
10 20
y+
MeanVelocity
PlandtlLaw DNS(DataBase) Mesh1 Mesh3 Mesh4
(a)平均流速図 00 50 100 150
1 2 3 4
y+
rms
DNS(DataBase) Mesh1 Mesh3 Mesh4
(b) 乱流強度図 図– 2 主流方向のメッシュ解像度による比較
1 10 100
0 10 20
y+
MeanVelocity
PlandtlLaw DNS(DataBase) Mesh1 Mesh2
(a)平均流速図 00 50 100 150
1 2 3 4
y+
rms
DNS(DataBase) Mesh1 Mesh2
(b) 乱流強度図 図– 3 鉛直方向のメッシュ解像度による比較
1 10 100
0 10 20
y+
MeanVelocity
PlandtlLaw DNS(DataBase) case1-1 case1-2
(a)平均流速図 0 50 100 150 0
1 2 3
y+
rms
DNS(DataBase) case1-1 case1-2
(b) 乱流強度図 図– 4 安定化手法による比較
1 10 100
0 10 20
y+
MeanVelocity
PlamdtlLaw DNS(DataBase) case2-1 case2-2
(a)平均流速図 0 50 100 150 0
1 2 3
y+
rms
DNS(DataBase) case2-1 case2-2
(b) 乱流強度図 図– 5 移流速度の取り扱いによる比較
3. Channel
流れ解析
3.1 数値解析条件数値解析例として図−1に示した2δの流路幅を有す るChannel流れ解析を取り扱った.この解析例では,す べての物理量が無次元量であるため,支配方程式をδ, uτ,ρで無次元化して数値解析を行った.無次元化され た方程式を式(7),(8)に示した.
∂u+i
∂t∗ +u+j ∂u+i
∂x∗j −Kpδi1
=−∂P+
∂x∗i −∂τij+
∂x∗j + 1 Reτ
∂
∂x∗j Ã∂u+i
∂x∗j +∂u+j
∂x∗i
!
(in Ω) (7)
∂u+i
∂x∗i = 0 (in Ω) (8)
ここで,上付き文字+はν,uτ,ρによる無次元化を,上 付き文字∗はδによる無次元化をそれぞれ表す.流れを 保持するために式(1)におけるf1 = 1.0を外力項とし て与えた.境界条件は,Channelの上下面にNon-Slip 条件,それ以外の面では周期境界条件を採用した.初期 条件は,IwamotoらのDNSデータベース1)に乱れを付 加したものを使用した.この初期条件を用いて,無次元 時間で40まで解析を行い,その解析結果を初期条件と し,再度解析を行うことにより,付加した乱れを除去し た.Reynolds数は,式(9)のように定義される.
Reτ = uτδ
ν = 150 (9)
微小時間増分量 ∆t = 5.0×10−4,Smagorinsky定数 Cs= 0.10とした.なお本論文では,計算コスト削減の ため,領域分割法に基づく並列計算法を採用した.通信 ライブラリーにはMPIを使用し,領域分割数は主流方 向に8等分割,横方向に2等分割とした.連立一次方程 式の解法にはElement-by-Element Bi-CGSTAB2法を 用いた.
本論文では,メッシュ解像度が精度に与える影響を考 察するため,表−1に示したメッシュを用いて解析を 行った.なお,初期条件を作成する際に付加した乱れの 倍率は,Mesh1は600%,Mesh2は1000%,Mesh3は 1500%,Mesh4は1500%とした.また,安定化手法を 用いたことによる数値粘性による影響を考察するため,
SUPG,PSPG 法の両手法を用いたケース,PSPG法 のみを用いたケース,SUPG,PSPG法の両手法を用い なかったケースの3ケースの解析を行った.さらに,移 流速度の取り扱いによる影響を考察するため,2次精度 Adams-Bashforth法を用いたケース,要素を構成する 4節点の流速の平均値を用いたケースの2ケースの解析 を行った.
3.2 数値解析結果
以下に数値解析結果を示す.図2〜5の(a),(b)は それぞれ平均流速図,乱流強度図であり,無次元時間 で40 ∼80における値を用いた.なお,安定化手法の 有無による比較及び移流速度の取り扱いによる比較では Mesh1を用いた.
3.2.1 主流方向のメッシュ解像度による比較
図−1(a)では,メッシュ解像度を主流方向へ増加す ることによる精度の向上が見られ,特にMesh4につい てはDNSデータベースと良い一致を示した.
図−1(b)では,主流方向の乱流強度について,ピー ク値に関しては,メッシュ解像度の増加による精度の向 上が見られたが,ピークを過ぎてからの値はMesh4よ りもMesh3の方がDNSデータベースに近いという結 果となった.主流方向以外の乱流強度については,主流 方向の乱流強度の増加による精度の向上が見られた.
3.2.2 鉛直方向のメッシュ解像度による比較
図−2(a)では,両解像度による異差は見られなかっ た.これは,メッシュ解像度を増加した方向が流れに鉛 直な方向であったためであると考えられる.
図−2(b)では,全方向の乱流強度においてMesh1 に比べてMesh2の方がDNSデータベースに近いとい う結果となった.これは,流れに鉛直な方向にメッシュ 解像度を増加したことにより,主流方向以外へのエネ ルギーの伝達がより適切になったためであると考えら れる.
3.2.3 安定化手法の有無による比較
各ケースについてはそれぞれ,case1-1はSUPG法,
PSPG法の両手法を用いたもの,case1-2はPSPG法の みを用いたもの,case1-3はSUPG,PSPG法の両手法 を用いなかったものとした.
図−3(a)では,case1-1,case1-2の間に大きな異差 は見られなかった.case1-3については,計算が途中で 発散してしまう結果となった.
図−3(b)では,主流方向の乱流強度について,大き な差異は見られなかった.主流方向以外の乱流強度につ いては,case1-2に比べcase1-1の方がDNSデータベー スに近い結果となった.case1-3については,計算が途 中で発散してしまう結果となった.
3.2.4 移流速度の取り扱いによる比較
各ケースについてはそれぞれ,case2-1は移流速度に 対して2次精度Adams-Bashforth法を用い,case2-2は 移流速度に要素を構成する4節点の流速を平均した平均 流速を用いた.
図−4(a)では,case2-2と比べ,ややcase2-1の方が DNSデータベースに近い結果となった.
図−4(b)では,主流方向の乱流強度について,ピー ク値はcase2-1に比べ,case2-2の方がDNSデータベー スに近い結果となったが,case2-2はピーク位置が流れ
5.2L
9.6L
15.7L 5.2L
4.8L
図– 6 解析領域
1.0L
1.0L 1.0L 1.0L
1.0L O 中心線
y x z
LineA
LineB LineC
図– 7 立方体拡大図
の中心方向へずれてしまった.主流方向以外の乱流強度 については,case2-1の方がcase2-2に比べDNSデータ ベースに近い結果となった.case2-2ではピークが現れ なかった.
4.
立方体周り風況解析
4.1 数値解析条件物体周りの流れ場での有効性を検討するため,数値解 析例として図−6立方体周り風況解析を取り扱い,実験 値及び持田らが行ったRANSによる解析結果2)との比 較を行った.立方体部分の拡大図を図−7に示した.立 方体の一辺の長さを代表長さとし,原点を立方体底面中 心に設定した.総節点数69004,総要素数381024とし た.境界条件は,流入部に式(10)に基づく流速を与え,
両側面及び上面はSlip条件とし,底面及び立方体表面は Non-Slip条件とした.流出部は自由流出とした.
u=y1/4
v=w= 0.0 (10)
Reynolds数は8.4×104とし,微少時間増分量は5.0× 10−4 とし,Smagorinsky 定数は0.1 とした.初期条 件は,全節点でu = v = w = 0.0 とした。時間方向 への離散化は,移流速度に2次精度Adams-Bashforth 法を用いた.本解析例についても,計算コスト削減の ために領域分割法に基づく並列計算法を採用した.領
域分割は greedyに基づき行い,各領域の総要素数が
等しくなるようにした.連立一次方程式の解法には,
Bi-CGSTAB2 法を用いた.測定地点は,x = 0.2L, y = 1.0L〜1.5L,z = 0.0LをLineAとし,x= 1.0L, y= 0.1L,z=−0.25L〜1.0LをLineBとし,x= 1.0L,
0 1 1
1.1 1.2 1.3 1.4 1.5
u
y
Experiment Reference(RANS) LES
図– 8 LineA
-0.5 0 0.5 1
0 0.5 1
Experiment Reference(RANS) LES
u
z
図– 9 LineB
y = 0.0L〜1.5L,z= 0.0Lとし,無次元時間10∼40 の流速uの時間平均値を測定し,比較を行った.
4.2 数値解析結果
図−8にLineAでの時間平均流速,図−9にLineB での時間平均流速,図−10にLineCでの時間平均流 速を示した.
図−8では,yが1.1から1.15の間で不連続な挙動 が見られた.これはメッシュ解像度不足に起因して発生 したと考えられる.全体的に流速を過小評価する結果と なった.
図−9では,立方体後方(z =−0.5L∼0.5L)の流速 について,持田らの解析結果とよい一致を示した.立方 体後方の逆流も再現することができた.立方体から離れ るにつれて流速を過大評価するという結果となったが,
定性的にはよい一致を示したと言える.
図−10では,立方体後方(y = 0.0L∼1.0L)の流速 について持田らの解析結果とよい一致を示した.底面部 付近での循環流も再現することができた.立方体天板を 超えたあたりで流速を過小評価する結果となったが,定 性的にはよい一致を示したと言える.
5.
結論と今後の課題
本論文では,安定化有限要素法に基づくLES乱流モデ ルの構築及び精度検証を行い,複雑な流れ場への適用性 の検討を行うすることを目的とし,既存のDNSデータ ベース1)及び実験値2)との比較のもとで検討を行った.
0 1
0 0.5 1 1.5
Experiment Reference(RANS) LES
u
y
図– 10 LineC
その結果,以下の結論を得た.
• メッシュ解像度を十分に増加することにより,
DNSデータベースの値によい一致を示し,解像 度を増加する方向については主流方向がより影響 が大きいことが示された.
• 安定化手法の有無による比較において,SUPG法 の有無については大きな異差は見られなかった が,PSPG法を用いなかったケースについては計 算が発散する結果となった.
• 移流速度の取り扱いによる比較においては,大き な異差は見られなかった.
• 立方体周り風況解析において,本計算結果は実験 値及びRANSによる計算結果と定量的によい一 致を示し,複雑な流れ場での有効性を示すことが できた.
今後の課題として,立方体周り風況解析においてメッ シュ解像度による影響を考察すると共に,さらに複雑な 流れ場への適用が挙げられる.
参考文献
1) K.Iwamoto,Y.Suzuki and N.Kasagi: Reynoids number effect on wall turbulence, International Journal of Nu- merical Method for Heat and Fluid Flow,23 pp.678- 689, 2002.
2) 持田灯,村上周三,林吉彦:立方体モデル周辺の非等方乱 流場に関するk−ϵモデルとLESの比較,日本建築学会 計画系論文報告集,第423号,pp.23−31,1991.5 3) J. Smagorinsky: General circulation experiments
with the primitive equation I. the basic experiment, Monthly Weather Review,91, pp.99-164, 1963.
4) T. E. Tezduyar: Stabilized finite element formulations for incompressible flow computations, Advance in Ap- plied Mechanics,28, pp.1-44, 1992.