会 社 法 に お け る 取 締 役 の 任 務 懈 怠 概 念 再 構 成 試 案 ( 二
・ 完 )
佐 藤
誠
序章 第一 章 会社 法に おけ る取 締役 の任 務懈 怠概 念 第一 節 問題 の所 在 第二 節 株式 会社 にお ける 任務 第二 章 対会 社責 任に おけ る任 務懈 怠 第一 節 総論 第二 節 経営 判断 にお ける 任務 懈怠 (以 上︑ 第四 三巻 第三
・四 号) 第三 節 法令 違反 にお ける 任務 懈怠 第四 節 利益 相反 取引 にお ける 任務 懈怠 第三 章 対第 三者 責任 にお ける 任務 懈怠 第一 節 問題 の所 在 第二 節 直接 損害 の事 案に おけ る任 務懈 怠 おわ りに
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第二 章 対会 社責 任に おけ る任 務懈 怠 第三
節 法令 違反 にお ける 任務 懈怠 本節 では
︑取 締役 の業 務執 行に より
︑会 社を 名宛 人と する 具体 的法 令に 会社 が違 反す るこ とと なっ た結 果︑ 会社 に損 害が 生じ た場 合の
︑当 該業 務執 行を 行っ た取 締役 の会 社法 四二 三条 一項 の責 任が 論じ られ る局 面に おけ る︑ 取締 役の 任 務懈 怠の 意義 およ びそ の判 断構 造に つい て検 討す る(47)
︒ 本稿 序章 でも 指摘 した よう に︑ この 問題 につ いて は︑ いわ ゆる 一元 説・ 二元 説と 呼ば れる 見解 の対 立が ある(48)
︒も っと も︑ その 対立 は︑ 具体 的な 問題 解決 にお いて 異な る結 論を 導く 性質 のも ので はな く︑ 具体 的な 法令 違反 の事 実が あっ た こと を前 提と した 上で
︑そ の責 任を 否定 すべ き事 情の 有無 につ いて の評 価を
︑主 とし て任 務懈 怠要 件の 中で 評価 する か︑ 帰責 事由 の有 無と いう 要件 の中 で評 価す るか の違 いに すぎ ず︑ 取締 役の 責任 を否 定す べき 事情 の内 容自 体に はほ とん ど 差が ない とい える(49)
︒ 会社 法の 条文 の文 言上 は︑ 四二 三条 一項 が法 令・ 定款 違反 とい う文 言を 改め
︑﹁ 任務 を怠 った とき
﹂す なわ ち任 務懈 怠と いう 表現 を用 いた こと から
︑一 元説 と親 和的 であ ると いう 見解 もあ る(50)
︒確 かに
︑取 締役 の任 務と は︑ 会社 との 委任 契約 上の 義務 すな わち 善管 注意 義務
・忠 実義 務で ある
︑と とら える と︑ 会社 法四 二八 条一 項が
﹁任 務を 怠っ たこ と (任 務懈 怠)
﹂と
﹁責 めに 帰す べき 事由 (帰 責事 由)
﹂の よう に両 者の 要件 を条 文上 区別 して いる こと は︑ 法令 違反 に基 づく 取締 役の 責任 の判 断構 造に おけ る一 元説 と必 ずし も矛 盾す るも ので はな いか も知 れな い(51)
︒た だ︑ この 立場 に対 して は︑ 具体 的な 法令 違反 を会 社に させ た取 締役 が任 務を 怠っ た︑ すな わち 善管 注意 義務
・忠 実義 務違 反が あっ た︑ とい える た めに
︑原 告側 が主 張立 証し なけ れば なら ない こと は︑ 具体 的法 令違 反の 行為 を会 社に させ たと いう 事実 以外 に何 が必 要
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なの か︑ とい う疑 問が 残る(52)
︒一 元説 にお いて
︑具 体的 法令 違反 の事 実が 立証 され れば
︑善 管注 意義 務・ 忠実 義務 違反 が 事実 上推 定さ れる と解 する と︑ 取締 役側 が善 管注 意義 務・ 忠実 義務 違反 がな かっ た︑ すな わち 無過 失で ある こと を立 証 しな けれ ば責 任を 免れ ない とい うこ とに なろ うが
︑そ れで は二 元説 とほ とん どか わり はな く︑ 両者 の違 いは
︑取 締役 の 責任 を否 定す べき 事情 の有 無を 一元 説で は任 務懈 怠要 件の 中で 判断 する のに 対し
︑二 元説 では
︑帰 責事 由要 件の 中で 判 断す ると いう 点に ある に過 ぎな いと 言え る(53)
︒ 一元 説の 論者 およ び会 社法 の立 案担 当者 も認 めて いる 通り
︑取 締役 の任 務に は︑ 会社 と取 締役 との 間の 任用 契約 とい う当 事者 間の 意思 によ って 債務 の内 容が 定ま る場 合だ けで なく
︑法 律上 当然 に生 ずる 場合 もあ る(54)
︒会 社法 の立 案担 当者 は︑ 民法 四一 五条 とは 別に 特に 会社 法に おい て四 二三 条一 項が 規定 され てい る趣 旨を
︑こ の点 に求 め︑ 当事 者の 意思 に かか わら ず︑ 法律 上の 任務 に違 反す る場 合に も会 社に 対す る損 害賠 償責 任を 生じ させ るた めで ある
︑と 説明 する(55)
︒し か しな がら
︑こ のこ とは
︑債 務不 履行 責任 にお いて 債務 を結 果債 務と 手段 債務 とに 二分 する
︑い わゆ る債 務二 分論 を前 提 に︑ 取締 役の 任務 を手 段債 務と とら え︑ 任務 懈怠 (本 旨不 履行=
不完 全履 行) と帰 責事 由 (過 失) を一 元的 に把 握す る 見解 に対 する 反論 とは なり 得て も︑ 取締 役の 任務 懈怠 責任 (四 二三 条一 項) の判 断構 造に 関し て︑ 具体 的法 令違 反の 事 実の みで は任 務懈 怠の 立証 とし て十 分で ある とは 評価 しな いこ とを 論理 的に 排除 でき るも ので はな い(56)
︒ この よう な見 解の 対立 が生 じて いる 原因 は︑ 取締 役の 任務 には
︑当 事者 間の 意思 によ って 内容 が定 まる 場合 の他
︑法 律上 当然 に生 じる 場合 があ るこ とを 認識 しな がら
︑そ のよ うな 法律 上の 任務 の株 式会 社と いう 会社 類型 にお ける 意義 に つい ては 十分 な検 討が なさ れて こな かっ たこ と︑ そし て︑ 従来 の伝 統的 会社 法理 論が
︑取 締役 の任 務そ のも ので はな く︑ その 違反 (善 管注 意義 務・ 忠実 義務 違反 )に 対す る損 害賠 償責 任と いう 病理 的側 面を 強調 する もの であ り︑ 取締 役の 任 務に は︑ 会社 の業 務を 効率 的に 執行 し︑ 会社 財産 を会 社お よび 全株 主の ため に管 理・ 運営 する ため に広 範な 経営 裁量 権
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が与 えら れて いる とい う生 理的 側面 につ いて の理 論的 検討 が十 分に はな され てこ なか った こと にあ るの では なか ろう か︒ 本稿 は︑ 株式 会社 にお ける 取締 役の 任務 とい う概 念に つい て︑ 資本 多数 決制 度を 基礎 とし て再 構成 する 立場 にた って いる
︒第 一章 第二 節(57) で論 じた よう に︑ 取締 役の 任務 とは
︑﹁ 資本 多数 決制 度に より 選任 され るこ とに よっ て委 ねら れる 会社 財産 管理 権 (会 社支 配権 )を 行使 して
︑会 社及 び全 株主 の利 益の ため に︑ 当該 株式 会社 の業 務を 執行 する こと
﹂と とら える
︒こ のよ うな 取締 役の 会社 財産 管理 権に は︑ 広範 な経 営裁 量権 が与 えら れる が︑ それ は︑ 資本 多数 決制 度を 通 じて
︑当 該会 社財 産の 管理 を委 ねる のに 最も 適し た人 材を 選出 し︑ 中長 期的 視点 をも って 会社 経営 を行 わせ るこ とが
︑ 当該 会社 にと って 効率 的で あり
︑そ のこ とが ひい ては 国民 経済 全体 の発 展に つな がる との 立法 政策 によ るも ので ある と 考え る︒ もっ とも
︑取 締役 に委 ねら れた 経営 裁量 権も 無制 限で はな く︑ その 行使 に際 して は︑ 許さ れる 範囲 を逸 脱す るこ とは でき ず︑ 仮に これ を逸 脱し た場 合に は︑ 善管 注意 義務
・忠 実義 務違 反 (任 務懈 怠) と評 価さ れる
︑と いう 一般 的制 約を 受け るの であ り︑ いか なる 場合 に許 され る裁 量の 範囲 を逸 脱し たと 評価 すべ きか につ いて は︑ 本稿 第二 章第 二節(58) で論 じ た︒ すな わち
︑こ の場 合は
︑許 され る裁 量を 逸脱 した か否 かと いう 任務 懈怠 (本 旨不 履行 )を 基礎 づけ る事 実と
︑そ れ が取 締役 の故 意・ 過失 によ る (帰 責事 由) こと を基 礎づ ける 事実 とが 重な り合 うた めに
︑両 者の 要件 は︑ 取締 役の 責任 の判 断構 造に おい て一 体と して 評価 され る︒ この よう な一 般的 制約 とは 別に
︑資 本多 数決 制度 に基 礎を 置く 経営 裁量 権 (会 社財 産管 理に 関す る支 配権 )は
︑そ れ が会 社お よび 全株 主の 利益
︑ひ いて は国 民経 済の 発展 に資 する とい う政 策的 目的 によ って 制度 的に 保障 され てい るも の であ り︑ 制度 目的 を超 えた 取締 役の 私的 利益 追求 のた めに 利用 する こと は許 され ない し︑ 法令 に違 反す る行 為の ため に 利用 する こと も許 され ない と解 する
︒あ る法 制度 によ って 当該 制度 を定 める 法律 やそ の他 の法 令を 遵守 する か否 かの 裁
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量を 認め ると いう こと はあ り得 ない から であ る︒ した がっ て︑ 取締 役の 任務 とは
︑資 本多 数決 制度 が制 度的 に保 障す る 裁量 の範 囲内 で善 管注 意義 務・ 忠実 義務 を尽 くし
︑会 社の 財産 管理
・業 務執 行を 行う こと と解 する べき であ り︑ 法令 に 違反 する こと は︑ 資本 多数 決制 度に 基づ く裁 量の 範囲 外で あり
︑法 令違 反の 業務 執行 が行 われ たと いう 事実 が立 証さ れ れば
︑四 二三 条一 項の 責任 追及 にお ける 任務 懈怠 要件 の立 証と して 十分 であ ると 解す るべ きで ある
︒こ の場 合︑ 客観 的 な任 務懈 怠の 要件 を基 礎づ ける 事実 と︑ 取締 役の 帰責 事由 を基 礎づ ける 事実 (こ の場 合︑ 取締 役が 無過 失で あっ たこ と を基 礎づ ける 事実 )は 重な り合 うも ので はな く︑ 前者 は原 告側 が立 証責 任を 負い
︑後 者は 被告 取締 役が 立証 責任 を負 う こと とな る(59)
︒ この よう に任 務懈 怠を とら える と︑ 経営 判断 につ いて 任務 懈怠 が問 題に なる 場合 と︑ 具体 的法 令違 反が あっ た場 合と では
︑取 締役 の責 任の 判断 構造 は異 なる こと とな り︑ 二元 的構 造を もつ と解 する べき であ る︒ この こと は︑ 会社 法の 立 案担 当者 らが
︑取 締役 の責 任に つい て︑ 会社 法が
︑違 法性 を﹁ 任務 を怠 った
﹂と いう 文言 で︑ 無過 失を
﹁責 めに 帰す る こと がで きな い事 由に よる もの であ るこ と﹂ とい う文 言で 表現 する(60)
︑と して いる こと を理 論的 に補 強す るこ とに もな ろ う︒ この よう に解 して も︑ 取締 役が 会社 に対 して 損害 賠償 責任 を負 うた めに は︑ 帰責 事由 (無 過失 の立 証が ない こと )お よび 会社 の損 害︑ 任務 懈怠 と会 社の 損害 との 因果 関係 とい うそ の他 の要 件が みた され なけ れば なら ず︑ 法令 違反 の事 実 の立 証に よっ て任 務懈 怠要 件が 具備 され るこ とが
︑取 締役 の責 任を 過度 に重 くす るこ とに はな らな い︒ また
︑取 締役 の 判断 に過 失が あっ たか 否か を証 明す る資 料は
︑被 告取 締役 の側 にあ るこ とが 多い と考 えら れる こと から
︑立 証責 任の 公 平な 分配 とい う観 点か らも この よう に解 する こと が妥 当で ある と考 える
︒
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