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佐藤好孝

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Academic year: 2021

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(1)

実際原価計算の長所と短所(その1)

佐藤好孝

樹木の年輪,竹の節が植物の成長のメカニズムをわれわれに教えてくれる のと同様に,産業の生産力の各発達段階にも樹木や竹と同株にそこに年輪な いし節が求められるが,この産業の生産力の発達段階を示す年輪ないし節が 産業発展のメカニズムをわれわれに示唆してくれる。工業原価計算は,この 産業発展のメカニズムに相呼応ないし支えられた形で歴史的発展を遂げてき たという関係にある。

伝統的な原価計算の定本形態としての実際原価計算は,工業原価計算の歴 史的発展段階でいえば第1関節に位置づけられ,現代の各種の原価計算思考

(例えば,標準原価計算思考・直接原価計算思考・意思決定のための原価計 算としての特殊原価調査・その他)の研究の出発点ないし原点となっている。

注 本文において述べた「工業原価計算の歴史的発展段階の第1関節」以前は,素朴 な素価計算(primecosting)の行なわれていた時代であり,先に述べた植物の成 長のメカニズムの例でいえば,植物の新芽期に当る。

というのは,多くの原価計算史家が指摘するように,現代の標準原価計算

にしても,霞抜原価計算にしても,また意思決定のための原価計算としての

特殊原価調査にしても,さらにドイツの限界原価計算・計画原価計算にして

も,その研究が本稿において採り上げようとしている伝統的な原価計算の基

本形態としての実際原価計算のもつ多くの欠陥に対する疑問ないし批判から

出発しているからである。そうした意味では,伝統的な原価計算の基本形態

としての実際原価計算は,現代の各種の原価計算思考のもつ経営計算制度上

の意義ならびにその計算思考のもつ本質ないし性格を正しく理解する上で非

常に重要な役割を果している。そこで,以下,こうした意味・内容をもつ伝

統的な原価計算の基本形態としての実際原価計算の長所と短所について考察

(2)

してみる乙とにする口

I  実際原価の確認とその問題点 一一ソロモンズの所説を中心に

現代の各種の原価計算思考の研究の出発点ないし原点となっている伝統的 な原価計算の基本形態としての実際原価計算が,いかなる社会的・経済的基 盤を前提に,いつ頃どのような形で成立し,またその後の原価計算の発展に どのような研究課題を残したかを知ることは,実際原価計算の長所と短所と を知る上で非常に主要な一つの手掛を与えてくれる

O

そ乙で,本節では,

こうした問題を,ソロモンズ教授の歴史的考証 ( c f . Solomons ,  D. ,  The  H i s t o r i c a l  Development o f  C o s t i n g .   i n :   S t u d i e s  i n   C o s t i n g  e d i t e d  by  David Solomons ,  1 9 5 2 .   p p .   1 7 " " " ' 2 1.)に基づいて考察してみる o

ソロモンズ教授が 1 9 世紀末葉の 3 0 年間 0870 年 代 , . . . . . , 1 8 9 0 年代)を英米系の 経済社会における原価計算のノレネサンス ( c o s t i n gr e n a i s s a n c e ) 時代とし て特徴づけているように,この時代は産業平命(i n d u s t r i a lr e v o l u t i o n ) も ほぼ完了し,経営計算制度の分野においても多くの学者によって新概念が説 かれるなど新しい会計思考の創造活動が盛に行なわれ,また一般実務界の 関心も次第に会計学を工業の分野に適用せんとする機辺に向き始めていた 時代であった。とわいえ,イギリスにおける「統一原価計算 J (uniform  c o s t i n g ) の先駆者であるスミス ( E . J  .  Smith) が , 1 8 9 9 年 に 彼 が こ れ ま でに見てきた多くの製造業の実態と経験をもとに「どんな製造業において も,なんらかの形で原価計算が実施されてはいたが,去に有効に経営実践に 使えるような製品生産についての原価資料はもっていなかった」と述べてい るように ( d i t t o , o p .   c i t . ,   p .   1 8 . ) ,乙の時代にはいまだ原価計算制度と 呼べる程の原価計算を実施していた企業は,組稀 l こしか見い出すことができ ないといった状態であったようである。

乙の点について,原日Ji計~'~9.:家のガーナー教授も,当の~悶でさえ,組j}史的な工

;~会計ílJlJ皮が一般の宍務界で実施されるようになったのは 1910年代であったと述

(3)

べている ( G a r n e r , S .   P . ,  E v o l u t i o n   o f   C o s t   A c c o u n t i n g   t o   1 9 2 5 .   P P .   2 5 8 ‑ 7 4 .   :品目誠平・外,邦訳, 4 3 1 頁以下参照〉。

ではなぜ,この当時(1 870年代 ~1890年代)原価計算が,工業経営者達の 問において関心がもたれるようになったのかの原因については,一般に次の ような 2つの見解がある D

1 .   経営管理的要請

2 .   製品の価格設定上の要請

まず第 l点の経営管理的要請とは,工業経営者連が,企業の経営管理の必 要性を痛感するようになったことが企業の原価計算制度の成立の原因となっ ているとする見解である。その理由として, 1870 年代から 1890 年代にかけ て,企業規模が飛躍的に拡大し,それに伴なう回定設仰の膨大化,資材賠入 の大量化,また賃金労働者数の増大など,企栄経常は非常に松雑化するに至 った。

注 1 8 7 0 年代から 1 8 9 0 年代にかけての欧米の経済社会の発展の状況を,アメリカ社会 にその例をとって,これを統計数位(尼上一雄者「アメリカ経済見 J ,  9 5 T I 参照〉

でもって示すと次のようである。

1 8 7 9 年 1 8 8 9 年 1 8 9 9 { j

企業数 2 5 万 3 6 万 5 1 万

投下資本額 賃金労働者数 2 8 { i

なドノレ

6 5 位 VJ

9 8 { )

なドノレ

2 7 2 万 4 2 5 万 5 3 0 万

生産高 5 4 { i j

ドノレ

9

41;百ドノレ

1 3 0 {

立ドノレ

このため,材料 j r f 理・労務管理・その他のいわゆる経営住担の必要性が痛 感されるようになり,こうしたことが企業の原価計算出iJ皮の成立を誘発させ

る原因となったというのである。

これに対して , 2 1 ' S  2 点の製品の価格設定 ( P r e i s s t e l l ung) 上の安誌とは,

工栄経営者達が,企業製品の価格設定に必要な原価資料の必要性を焔 F & する

ようになったことが企業の原価計算制度の成立の原因であるとする見解であ

D

その理由として, 1 9 7 0 年代以前には企業問の競争がそれ程激しくなかっ

たので,企業が設定する 5 2 価には充分な利益が凡込まれていた。そのため,

(4)

工業経営者達は,それ程当該企業の製品 l 乙対する原価資料の必要性を痛感し なかった。ところが, 1 8 7 0 年代以後になると次第に企業聞の競争が激しくな り,またそれに伴なって企業利潤が蒋くなった。このため,市価をもたない 注文生産が行なわれている企業では,当該企業の製品の見積を行なうに必要 な原価資料の入手が必要となった。確かに,原価計算を実施するためには,

多額の費用がかかる

O

だが,例え多額の賀用をかけてもなおかつ原価計算を 実施した方が企業のためになると工業経営者達が考えるようになったところ に,企業の原価計算制度の成立の必要性を誘発せしめた最大の原因があった というのである

O

以上述べた 2つの見解に代表されるような下部桔造の変化(企業規校の拡 大→固定設備の膨大化→企業経営の複雑化:企業間競争の以化→企業利潤の 低下)が,欧米社会において同時に相互に重なり合った形で起るという社会 状況が出現し,当時の一般実務界に企業の原価計算制度の必要性の機辺をい やが上l こも高める結果となった。こうした下部椛造の変化は,当然の乙とな がら上部構造にも変化をもたらし,従来の商業利潤計算制度中心の企業会計 制度から工業利潤計算制度をも含めた企業会計制度へと移行して行った。こ うした社会の経済枯造のもとに,いまここで採り上げようとしている伝統的 な原価計算の基本形態としての実際原価計算が誕生することになったので ある

O

注周知のように, 1 8 8 7 年に出版されたガルク・フェ j レズの共著「工場会計」

(Gark ,  E .   and F e l l s ,  J .   M. ,  F a c t o r y  Accounts ,  1 8 8 7 . ) が,一般に,文 献的には,工業利潤計算制度を確立した代表的書物として採り上げられている。こ の書物は,上述の 1 8 7 0 平代から 1 8 9 0 年代国までの社会の経済杭造の分析からうかが えるように,当時の社会的・経済的要請の必然的な結果として,山るべくして出た :吉物であったということが分る。

もちろん,乙れが,財務会計に対しても影告;を及ぼしたことはいうまでもない。

すなわち,従来の総括的期間損益計算法のうちに製品目別損益計 x n 去の思考が導入 され,期間損益計算の口別計算化が可能となった。このため,百周・収益対応の原 則 ( P r i n c i p l eo f  matching c o s t  with 

revenue) が有効に紋íJ~ するようにな

り,これによって工企業の担益計算が粕密化されるに至った。

(5)

では,この伝統的な原価計算の基本形態としての実際原価計算が誕生した 1870 年代から 1890 年代当時の原価計算の実施状況はどのようなものであった かをみると,次のようである

D

1  .  材料費の把握:消費材料については,各部門の職長 (foreman) が , 各部門ごとに消費された材料を詳しく調査して測定把握する o

2 .   労務費の把窪:消費賃金については,材料貨の把握と同様に,各部門 の職長が,各部門ごとに労働者が作業に要した時間を詳しく調査して測 定把握した。一方,支払賃金についてのチェックは,職場の入口で l 時間 係 (timekeeper) が,労働者の出勤ならびに退社の時間を調べ,これを 工員出勤表 (timebook) に記入した。また,労働者には,それぞれの 労働者番号 (worksnumber) が 記 入 し で あ る カ ー ド が 与 え ら れ て お り,早退の

j

見合には自分自身でカードを取り出し,これを会社があらか じめ用芯しているタイム・カード箱に入れさせ,遅刻者には遅刻箱に 入れさせた。この遅刻箱は,これが 1 5 分ないし, 30 分 間 隔 で 取 り 投 え られ,遅刻者の正確な出劫時間を確認してこれを工員出勤表に記入し 7

こ。

3 .   製造間接費の把握:製造間接買については,前年度の財務問定によっ て確定された総直接労務~'1または総菜価を当該年度の松市技労務25 また は総京価と考え,単純にこれらいずれかの総額の何パーセントといった 具合にして計算された。

n :  

ジョ

J レダン・ハリスが H i 摘するように(J ordan , J .   P .   and Harris ,  G. L. ,  Cost Accounting ,  1 9 2 0 .   P P .  2 7 1 f f . )   .間接投の配賦;, n ・ t ? : 形態は,庇史的には,

同定配賦卒?と(f i x e dpcrcentage method)から総括配賦率法 (blanketr a  t e   method)へとこれが進化し,そうしてさらに今日一般に行なわれ τ いる部門別配 賦率法 (departmentalburden r a t e  method)へと進化した。本文における配 i司法は,上述の日1・#形態(1':1分煩からすれば,最も~;Irl絡的形態である同定配賦率?去に 三 i るといえよう。

これら 3 つ(目接材料~!i .  nï援労務費・製造間接~~)の合計額をもって,

その仕'Ti=の実際原岡とすることが確認された。このことは,実際原価概念に

(6)

は,直接原価ないし索価のほかに工場間接買をも合んだものを指すことが採 択されたことを志味する

O

また,同時に,宍際原価計算といえば,製造工場 を前提とした製造原価計算として考えられるようになったゆえんでもある D

ともあれ,乙のように,今日からみれば実際原価の性格自体はっきりしない 誠に粗維の一語につきるようなものではあったが,まがりなりにも一応実際 原価概念ならびに伝統的な原価計誌の基本形態としての実際原価計算が成立

した。

注 ソロモンズ教授は,上述のようにして確認された「実際原価概念」に対して,そ れ官時を百くことなく,次のような疑問がもたれるようになったとして,その主な

ものを 5 つ挙げている ( d i t t o , o p .   c i t . ,  PP. 2 0 ‑ 2 1 . )   •

1 .   原価の計算要京については,資本利子 ( i n t e r e s ton c a p i t a l ) ・工場設 1 1 1 i i 減 価 ( p l a nt 

b s o l e s c e n c e ) ・開発資 (developmentexpenditure) などの型 宗を原価に合めるか否かの疑問。

2 .   兵なる価格で時入された同一材料の原価算入上の評価の仕方に対する疑問。

3 .   定時間外賃金 (overtimepay)の処J1Jlに対する疑問。

4 .   r m 接買をどのように配賦すべきかの疑問。

5 .   未利用の設備能力の負担,いい換えればアイドノレ・コスト ( i d l ec o s t )の処 J1Jlに対する疑問。こうした実際原価概念に対する多くの疑問ならびに欠陥が,そ の後の原価計Z~ の発展に大きな刺激を与えたことは周知の事実である。

E  実際原価計算の性格

実際原価計算の長所と短所とを考察するに当って,次 l 乙明らかにしておか なければならぬことは,実際原価計算がいかなる性格をもった計算思考であ るかということである口いま,これを要約的に示すと,実際原価計算思考の 性格は,次の 3 つの特徴に集約できる

O

1 .   過去計算であること 2 .   全部原価計算であること

3 .   原価通算の原理によって原価の計算が行なわれること

これら 3 つの特徴は,実際原価計算を他の計算思考と比較して,その長所

(7)

ないし短所を判断する場合の具体的な一つの大きな思考基準となる

D

1 .   過却計算であること

実際原価計算の特色は,できるだけ実際の製品過程の信頼できるありのま まの姿を製品原価に掠し出すところにある。したがって,実際原価計算は,

どうしても回顧的原価計算 ( r e t r o s p e c t i v ec o s t  a c c o u n t i n g ) とならざるを得 ない。ここに,実際原価計算が,過去計算 ( V e r g a n g e n h e it s r e c h n u n g ) な いし事後計算 (Nachrechnung) として特徴づけられるゆえんのものがある O

この結果,実際原価計算に基づいて計算される実際原価には,製品生産l 乙 必要な直接的・間接的財貨の消資額のみならず数多くの原価の影要因,す

なわち生産技術・製品の生産計四の組合せ・経営組織の状態・経営規 j L 1 ・生 産量の変動・価格変劫・労倒能率の変化・不注;立・不迎当なk;~思決定・材質 の変化などの影響が混在する。そうした芯味では,実際原価計算における実 際原価は,上述のような各程の原価形成要因の複合物として形成される。

2 .   全部原価計算であること

原価は, これを原価構成の発注段階の観点から分知すれば,日立政原価 ( d i r e c t  c o s t :  E i n z e l k o s t e n )   ・製造原価 (manufacturingc o s t :  H e r s t e l l ‑ k o s t e n ) ・総原価 ( t o t a lc o s t  :  S e l b s t k o s t e n ) の 3 つの艮

A

階に区分すること

ができる o 直接原価は,直接材料!{~と直接労務貨をもって構成される D 製造 原価は,直接原価に間接材料 n ・間接労務 : l ! i : ・間接経質すなわち製造間住民 を含めて椛成される。また,総原価は,製造原価にさらに一般管理・販売貨 をも含めて椛成される

D

実際原価は,ソロモンズ、教授の指摘されるように ( d i t t , o p .   c i t . ,   p p .  

2 0 ' " " 2 1  .  ),上述の原価構成の発達段階でいえば,直接原価から製造原価へと

原価椛成が発注した段階において,従来の直接原価概念ないし采価概念と明

確に区別するな味において実際原価概念の確認が行なわれてきた。そうした

立味では,伝統的な実際原価概念は,製造工場を前提とした製品の製造原価

とし・て確認された。そこで,実際原価計 ~1 は,原イillitl!:}成要采の一部を省いて

(8)

製品原価の計算を行なう部分原価計算 ( T e i l k o s t e n r e c h n u n g ) に対してい うならば全部原価計算 (V 0  l l k o s  t e n r e c h n u n g ) として特徴づけられる

O

3 .   原価通算の原理によって原価の計算が行なわれること

実際原価計算では,事後給付原価計算 ( N a c h k a l k u l a t i o n ) は経営岱記に 組織的に組入れられて製品原価の計算が行なわれる

O

したがって,製品原価 の計算は,原価の要素別勘定・原価の部門別勘定・原価の製品別勘定を設け て行なわれる

O

したがって,実際原価計算では,総合原価計算の場合であれ,また個別原

価計算の場合であれ,製品生産のために消費された財貨価値の消貨は,製品

生産の進むにつれて原価の要素別勘定から原価の部門別勘定を経てすべて原

価の製品別勘定へと通算される

D

乙のように,実際原価計算は,製品原価の

計算が原価辺 t v の 原 理 ( G r u n d s a t zde Kostendurchrechnung) によって

行なわれるところに,実際原価計算の一つの本質的な特徴がある。

参照

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