経営 と経済 第86巻 第 1号 2006年6月
流動性概念 と債権流動化(2)
一 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑
87
深 浦 厚 之*
Abstract
lnthelatestpaperoftheauthor,hediscussedtheeconomicprocess throughwhichthein‑liquidassetsareconvertedintomonetaryassets withhighesト1iquidity.Suchadiscussioncanbeusedtoclarifythehid‑
denprocesswheretheliquidityisgeneratedbythesecuritization schemes.Thepurposeofthispaperistostatemoreconcretemodelsof securitizationandderivesomeeconomicimplicationsaboutthemarket ofassetbackedsecurities.
Keywords:securitizationscheme,delegationcosts
1.はじめに
本稿 は,流動性概念の理論的考察 と,その現実的な一側面であ る債権流動 化の構造理解の 目的 とする一連の研究の第二段階を取 り扱 っている。 この研 究が最終的に 目的 とするところ,そ してそれに至 るための方法論 については, すでに深浦(2005)で論 じた とお りである。すなわち, これまでの経済学の発 展 と展開を前提 にすれば,流動性概念の整理 に際 しては,貨幣理論 としての 分析 ・経済政策論 としての分析,そ して金融市場論 としての分析の3つの方
*本研究は深浦(2005)と同様 に(財)全 国銀行学術研究振興財団の研究助成 を受 けている。
研究助成対象 とな った課題 であ る投資家保護 に関す る経済的意義の検討 は,本論文 の議 論 を前提 に展開される次稿 を もって完結する予定である。
向か らアプローチすることが有益であること,ケインズ 「一般理論」 によっ て定式化 された流動性選好説 を実株 とすることによって,貨幣の交換媒介磯 能を中心 に流動性概念の意味する ところを明 らかにすることとが可能である
ことが示 された。 この分析に特徴がある とすれば,それは,貨幣によって交 換 される対象 を一括 して財 として扱 うことを避 けた とい う方法論に求め られ るだろう。 とい うのは,経済主体が財 と財を交換するのは,その財が持 つさ まざまな属性 (経済的属性や物理的属性)が もた らす便益を享受するためで あ り, この ことは消費者 (家計)として交換 に参加する場合には比較的想像 し やすい。 しか し,生産者 (企業) として参加する場合には,価値が費消 され るもうひ とつの形態である投資 とい う側面を無視するわけにはいかない。そ のため,交換 される対象 を資産 と表記することによって,財 に含 まれた潜在 的便益を家計や企業が どの ように して引 き出すか,その際に貨幣機能が どの ように顕現す るかを考察 し,最終的に流動性選好説 を導 出 したのである。す なわち, ここでいう資産 とは,貨幣以外の形 で何 らかの価値 が体現 され るす べてのモ ノとい うことになる。ただ, この分析を通 じて得 られた含意は基本 的に 「一般理論」のそれを越 えるものではな く,流動性を貨幣 と同一視する という通常の理解 (正確 に言えば,流動性の究極 の形態が貨幣である という 理解)に本質的な修正 を求めるもので もなかった。
しか し,非流動性を象徴する資産 ・債権が貨幣に代表 され る流動性に転換 される過程 を検討 した ことによって,債権流動化 ・証券化スキームの中で流 動性が どの ようにして創造 され, どの ような経済主体 によって交換 され るの かを考察す るひ とつの きっかけを得 ることがで きた。本論文 は以前のモデル に若干の修正 を加 え,証券化スキームを描写す るための よ り具体性 を持 った モデルを提示することを 目的 とする。その際,投資家 とオ リジネ一 夕の関係, 導管体 としての信託の役割な ど,先のモデル よ りも実態的な状況を描写で き
るような議論 を行 うことに したい。
流動性概 念 と債権流動 化(2) ‑ 証券化 スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 89
2.証券化スキームによる交換
2‑1 証券化による交換過程
深浦(2005)の第三節第四項 では,企業 は交換媒体 である貨幣 〟 を用 いて 低稼働資産 ・不稼動資産 を入手 し生産 を行 う状況を想定 して交換過程 をモデ ル化 した。その場合,交換媒体である貨幣は他の財 との交換可能性がその経 済で最 も高い資産 と定義 されている。つま り,先のモデルは最大の流動性の 存在を前提 した議論であ り,それ以外の資産 (貨幣 より流動性が劣 る資産) を貨幣に転換する際 にも追加的な費用 (あるいは便益)は発生 しない とい う ことが暗黙の うちに前提 されていた。 このため,貨幣を用 いない物 々交換 と 貨幣交換 を理論的に比較する と,両者の均衡条件は類似 した ものになった。
つま り,古典派経済学が前提 とす る貨幣の中立性がそのままモデルの中に保 存 されているのである1。
このモデルは,手持ちの資産 を貨幣に交換 してそれを用いて生産資源 を入 手する とい う意味では,資産の流動化 とい う過程を描写 しているのであるが, 以下では債権流動化過程 をより現実 に近い形で分析するために,標準的な証 券化スキームを念頭 において よ り現実的なモデルを構築 したい。考察すべ き 経済 は図 1によって表 される′O経済は,労働 力 (不稼動資産Ao)と貨幣M を保有す る投資家 と,土地 (低稼働資産Aェ) のみを持つ企業 か らな る。企 業 は生産 を行 うため に,生産要素 として土地 (低稼働 資産AL) と労働 力 (不稼動資産Ao)の両者 を必要 とす る。第一段階で,企業 は労働力を購入 するための貨幣を入手 しなければな らない。 この とき,企業 は土地か ら得 ら れる将来収益 に対す る請求権 を表す証券 SALを発行 して投資家 か ら貨幣M
1 貨幣を流動性の最 も高い財 と定義することは,貨幣の交換媒介機能 に着 目すれば直感 的 にも理解 しやすい。複数の財の中か ら特定の財が貨幣 として選択 され る過程 について は深浦 (2004)を参照の こと。
を得 るもの と考 える。そ して,企業 による労働力の雇用および生産活動は第 二段階に行われる2。
初期 第‑段階 第二段階
事
由哀衰A. M壬
投資衰A。
S,a壬
投資家M SJu 壬企業 AL 企 業 AL M 企業 A. AL
図1 証券化 を用 いた交換過程
企業が土地 と労働 を用いて生産 を行 うとい う意味では,図1と深浦(2005) 第4図は実質面 において本質的には等 しい。 しか し,それぞれの段階 におい て投資家 ・企業双方がその交換 か ら利益 を得 ることが保障 されていなければ な らない。 ところが,投資家 に とっては貨幣を提供する対価 として低稼働資 産Aェを受け取 るケース と,証券 を受 け取 るケースでは,受け取 る利益の性 質が異なるため,スキームの性格や投資家の意思決定過程 にも相違が生 じる のであ る。 この ことを以下で詳 しく見ていこう3。
2 実際の証券化スキームでは企業が直接証券 を発行す ることはな く,証券発行専門体が それを行 う。ただ し,本稿では単純化のため証券発行体 と企業 を一体化 させて考 えてい る。現実的な文脈で言 えば,原資産の具体的な運用 は証券発行専門体か ら企業 に委託 さ れてお り,かつ,証券発行専門体の導入 に伴 う種 々の要件 (真正売買性 な ど)は解決 さ れていると仮定することになる。
3 ここで低稼働資産の例 として土地 に言及 しているのは 「一般理論」第十七章9.241の記 述を念頭 においているか らであ るo前稿で も指摘 した ように,ケインズは流動性 を一義 的に定義することはせず,それぞれの資産 に付随する持越費用 と流動性 プ レミアムの大 小関堺 によって定義 し,前者が後者 を越 えない資産 が流動的な資産であ り,その程度は 個 々の資産 に よって変わ る とす る。 したが って,土地 は現在の社会経済環境の もとでは 非流動的な資産 とされ るが,あ る歴史上の時点においては流動性 プレミアムが高 くなっ ていた こともあるか もしれあい とい う。 しか し,土地 に対する抵 当権 が確立 されれば, 土地その ものが非流動的であって もこの限 りではない。
流動性概念 と債権流動化(2) 一 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 91
2‑2 パススルー証券 を用いる場合
この証券化 スキームでは,第一段階 にSALとMの交換 (企業 と資産M保 有者 間) が行 われ,第二段階 にはM とAoの交換 (企業 と投資家 間) が行 われ る。したがって,深浦(2005)定理 4における第一段階 (ALとM の交換) の議論 を,単 にM とAoの交換 に置 き換 えれば よい ように思 われ る。 しか
しここで注意 しなければな らないのは,SALの収益率 rsとALの収益率 rLの 関係であ り,それは ここで用 い られ る証券が どの ような仕組 みになっている かに依存 して決 まる。端的 にい えば,rsとrLが一致す るのか相違 す るのか に依存す る。
証券化 で用 い られ る証券 は, (きわめて単純 にいえば)証券 を裏付 け る資 産 の収益構造 がそのまま証券の収益構造 に投影 され るパススルー型,何 らか の形 で原資産の収益構造 を加工 す る非パススルー型 に大別 で きよう。むろん, 投資家の観点か ら見ればパススルー型の リス クが大 きいため,実際に市場取 引され る証券 は今ではほぼすべてが非パススルー塾であ る といって過言では ない。 しか し,議論全体の見通 しをつけるため,投資家の直面す る リスクを 明示的 に示 す ことので きるパススルー型の場合 について考 えてみるこ とに し
よう。なお特 に断 らない限 り,記号 は深浦(2005)をそのまま踏襲す る4。 結論 を先 に言 えば,パススルー型証券の場合 は,深浦(2005)定理 4をその ままの形 で用い るこ とがで きる。 つま り,投資家 は低稼働資産ALのかわ り にパ ススルー型証券 SALを入手 す るだけであ る. また,第二段階 において 投資家が保有 してい るSALは,企業 にALを委託す ることについてのあ る種
4 現実 には純粋 なパ ススルー型証券 はほ とん ど存在 しない。 それは,倒産 隔離 な ど裏付 け資産 に求め られ る法的要請 を満たすべ くスキームを組 み立 て ようとす る場合や, クレ ジ ッ トカー ド債権 な ど複数の原資産 を連続的 に証券化 しよう とす る場合 な どは,仕組 み としてパ スス)I/‑型 を採用す るこ とが実際上 ,困難 にな る とい った事情 に よる。本稿 が 後段で着 目す る信託型 も,原資産 の属性 が受託者 の意思決定 に よって変換 され る場合 が あ ることを考 えれば非パススルー型 といえる。
の証 書であ る と考 えれば よい。 よ'って,ALの収益率rLをSALの収益率 rs
に置 き換 えれば よい ことになる。逆 にこの ような関係が成立する証券がパス スルー証券なのであ り,この とき次の定理 が成 り立つ。
定理 5 (パススルー型証券の場合):不確実性のもとでパススルー型証券 を用いて交換が行われるのは,Ars・‑ArM‑Aroの ときである.
証 明 :定理 4の証 明をほぼその まま用 い る。〝 の供給 主体 に とっての ICC条件は,定理 4を援用す ると,
ArsAp≧B
とな り,同様 に企業 に とってのICC条件 は
ArMAp≧B
(1)
(2)
とな る。なお,Apは第一段階での第二段階の経済状態 についての予想であ り,良好 にな る確率phと悪化す る確率plの差 を表 してい る。 同様 に,企業 は(1)式を得,(2)式を支払 うか ら,利潤由は,
IIL‑(ArMAp‑B)‑(ArsApIB)‑ (ArMIArs)Ap≧0 (3)
と書けるo同じようにして,M供給者の利潤 rl14は,
Ilit‑(Ays‑ArM)Ap≧ 0 (4) とな る (上付 きの 1は第一段階であることを示す)0
第二段階 (MとAoの交換)に関 して も,企業 ・投資家 (Ao保有者)の利
潤 をそれぞれ次 の ように書 くことがで きる.ただ し確率 はpではな くPに なる。
流動性概念 と債権流動化(2) 一 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 93
Ilk‑(Aro‑ArM)△P≧0
ni4‑(ArM‑Aro)AP≧0
すべての段階を通 じて企業が得 る利潤の総計 は,
rIL+Ilk‑(ArM‑ Ays)Ap+(Ar.‑ArM)AP≧0 (7) となる。投資家は第一段階の利潤 ((4)式) と第二段階の利潤 ((6)式)を 得ているのでそれ らを総計する と,
IIL4+IIR4‑(Ars‑ArM)Ap+(ArM‑Arc)AP≧ 0 (8) (7)式 と(8)式を和す ことによって得 られる社会全体の利益はゼ ロにな らな ければな らない。言い換 えれば, もし企業 (投資家)が超過利潤を得ていれ ば投資家 (企業)が損失を得 ることになるが, この場合は(7)式 ・(8)式の不 等号が満たされないので取引は行われないことに注意 しよう。つま り,両者 が ともに損失を被 らずに交換が行われるのは(7)式 ・(8)式が等号で成立する
ときであ り, したがって双方 とも超過利潤 を得 ることはない5。 この とき,
Ars‑ArM‑Aro
となる。
(9)
証明終わ り。
以上の ことか ら,パススルー証券 は文字通 りの ̀̀媒体"であ り,それ 自体 が収益構造 に関 して追加的な意味合いを与 える とい う性格 を持つものではな いことが理解で きる。 この意味で,パススルー型証券は実質的にエクイティ 契約であ るが,発行 に際 して信託な ど何 らかの導管体を用いるため公租公課 上の利益な どが付随 して生 じることもある(Fabozzi(2000))0
5 い うまで もない ことであ るが,深浦 (2005)の定理4において も投資家 と企業は均衡 に おいてそれぞれ超過利潤 を得 ることはない。
2‑3 証券化スキームのタイプ
以上,考察 した ようにパススルー証券は収益分配のための媒体 として,実 物的観点か ら見れば,それによって実質的 に収益の総計が変わ らない とい う 意味で完全 に中立的である6。それでは この ようなビー クルを用 いることに
どの ような意味があるのだろうか。
考 え られ うる一 つの理 由は,パススルー証券 自体が市場取引され ることに 伴 って発生する追加的な要因,すなわち,資産本体 に比べて取引単位等 につ いての標準化が進んでいればパススルー証券 を用いる取引のほ うが均衡市場 価格に到達す ることが容易にな り,一定の経済厚生上の利得が発生する とい うこ とであ る7。逆 に,価格付 けに撹乱が生 じて裁定取引の機会 が発生す る とい う効果 も考 え られる。ただ, これ らの問題は本稿では取 り扱わない。
本稿の関心、か ら見て より重要 な問題は,証券化 においては投資家が低稼働 資産 を保有 しない とい う事実に伴 う効果である。念のため,図 2を用いて こ の ことを確認 しておこう (これは深浦(2005)図4である)0
初期 第一段階 第二段階
投資家A
。
Mー
投資家 AL A。 ー投資家M企業 AL 企業 M 企業A。
図2 証券化 を用 いない場 合
㌦'‑‑‑J‑」
かi
lL^?4託(
6 むろん,収益 に付随する リスクの分配 には影響す る。 この部分 に対応するのがデ リバ テ ィブ とい うこともで きるだろう.一般 に,デ リバテ ィブ とは原資産の リスクがそのま ま投資家 に転嫁 され る派生商品であ り (したが って成果は原資産の属性 をそのまま反映 する)市場 リスクの再配分機能を持つ。他方,証券化な どの仕組み商品は何 らかの追加 的方法で原資産の リスクを制御する とい う意味で信用 リスクの制御が 目的である。
7 こうした議論 はいわゆるマーケ ッ トス トラクチ ャーにかかわる議論 として知 られ る。
主に,指値制度な どをめ ぐる実証研究に見 るべ きものが多い。Lehmann,Modest(1994), Madhavan(2000)な どを参照の こと。
流動性概念 と債権流動化(2) ‑ 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 95
ここで重要なのは,図 1との違いである。証券化を用いない図2の場合は, Aェが企業 (初期段階),投資家 (第一段階),企業 (第二段階) と所在 を変
えているが,証券化 を用いる図 1ではALは常 に企業の側 に位置 してい る。
ただ し,図 1の場合で も,第二段階においてAェ所有者である投資家がその 利用 を企業 に委託 しているか ら,企業 がAoとALを組み合 わせて生産活動
を行 う局面だけを見れば,両者は等 しい とい うこともで きよう8。
この意味で これ ら二 つのスキームの相違 は名 目的であ るのか もしれない が,実は この二つの図を用いる と,現実の資産流動化スキームがい くつかの タイプに分 かれている とい う事実を描写することがで きるのである。多少, 結論 を先取 りすることになるかもしれないが,今後の議論 を理解する助けに
もなる と思われるので, ここで簡単 に説 明しておきたい。
議論の鍵 は証券化の第二段階 (図1の第二段階)にある。 ここでは,企業 がALとAoを所有 しALの収益 に対 す る請求権 SALを投資家 が保有 してい る。 これ らの状況は現在の証券化市場の状況 に照 らせば,次の ように二通 り に解釈す ることがで きる。
(1) 投資家の資金運用スキーム と考 える場合
つま り,投資家が企業か ら低稼働資産Aェを購入 し,その運用を企業 に委 託す る と解釈す る場合であ る。 したが って,証券 SALは委託契約の存在 と ALの所有権の帰属 を表象す る。実際 に投資家が低稼働資産 を購入す ること は現実的ではないが,投資家か ら集めた資金 を運用す るためのスキームを考 えれば よい。 この ようなスキームは民法上の任意組合方式 による共 同投資ス キーム,新投資信託法で導入された会社型投資信託や契約型投資信託が該当 するが, この点についてのさらに詳細な議論は次稿にゆだねる。
8 このモ デル は貨 幣 のみ が財 (物 的資産 ) を購 入 す る とい う意 味 で本質 的 にcash‑in‑
advanceモデルに等 しい。均衡条件ArL‑ArM‑Aroにおいて,名 目利子率が 0になれば (△rM‑0),ただちにArL‑Ar0‑0を得 るが, これは実質利子率が定常的であ ることを 意味 し,その結果,物価上昇率 も定常的 になる。
(2) 企業の資金調達スキーム と考 える場合
企業 が投資家 に低稼働資産Aェを販売 し,その運用 について投資家 か ら委 託 され る と解釈す る場合である。 この ときも,投資家 に直接売却す る とい う
ことは現実的ではな く,企業 が低稼働資産ALを信託財産 とす るスキームを 考 えれば よい。 この ようなスキームは資産流動化法で定め られた特定 目的信 託 にはぼ相当する。低稼働資産Aェを企業 と切 り離 された特別 目的会社 に移 転 し,何 らかの形で請求権を投資家 に販売す ることも可能であ り, これは匿 名組 合方式 に よる共 同投資 スキームや新 資産流動 化法上 の特定 目的会社
(SPC)による資産流動化 に対応する といえる。
いずれの場合で も,企業は低稼働資産ALを使 って生産活動 を起動するこ とがで きる (‑同 じことであ るがそのための流動性 を入手で きる)0(1)(2) の違いは,そ うした帰結が企業 ・投資家いずれのイニシ ャテイブに基づ くも のであるか とい う点である。 この ことは投資家保護のあ り方な どに密接 に関 わって くる問題であ り次稿 において詳 し く検討す るが, ここでは,上記の よ うな対応関係を念頭 に置いた上で,モデルの展開を考 えておこう。 議論は図
1の各段階において企業 ・投資家双方が交換 に応 じるような条件をそれぞれ 求め,それ らの相互関係を検討するとい う方法で進め られる。
2‑4 証券化が行われる条件の導出 (1)第一段階 (ALとSALの交換)
第一段階で投資家 と企業が直面す る状況を見てみ よう。投資家は 〟 を供 給L SALを受け取 ってい る。 この ような取引が投資家 に とって有利 であ る ためには,高収益時のrM,rsの期待収益が低収益時のそれ よ りも大 きい こ とが保証 されなければな らない。深浦(2005)定理 3で用いた論法か ら, この 条件は (Ays‑ △rM)Ap≧0となるが, この うち rsは この時点では実現 し ないか ら,結局,
Ill‑(‑ArM)△p≧ 0 (10 )
流動性概念 と債権流動化(2) 一 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 97
となる。
一方 ,企業はM を受 け取 ってい るが,第一段階では投資家への利益分配 は行われないか ら,
Ill‑(△rM)Ap≧d
‑ (ArM)Ap‑d≧ 0
ただ し,d‑BI‑BF 害覗 E
となる。 ここでBIは この ような交換 に参加す る機会 を得 ることに関 して, 投資家が企業 に支払 う大 きさ,逆 にβ Fは企業 が投資家 に支払 う大 きさを金 銭的に評価 した ものである.つま り,dは この取引スキームを提供す ること
によって,低稼働資産の運用が企業 に委託 されることに関 して企業が受け取 る (柿)取 り分を表す。 よって,以下ではdを委託費用 と呼ぶ ことにする。
(2)委託費用dの性質
dに関 しては,証券化スキームを利用することについて,企業 と投資家が どの ような機会費用 を認識するかに依存 して,その経済学的解釈を与 えるこ とがで きる。 これは後 にモデルか ら現実的な含意を引 き出す ときに重要な契 機 となる。
企業 に とっては, この証券化スキームを投資家 に提供することに よって低 稼働資産Aェを 自らの生産活動 に投入するための機会を得 ることがで きるの で,それに対す る支払 い とい う形でBFが実現す る。言い換 えれば,生産過 程 を起動 させ る こ とが企業 に とって重要 であればあ るほ どBFが大 き くな
り,その結果,dは小 さ くなる。
しか し, ここで もうーっ注意 しておかな くてほな らないのは, このスキー ムによって企業は部分的に低稼働資産Aェに対する支配力を手放す ことにな る とい う事実であ るOつま り,投資家 を引 き付けるには低稼働資産ALを生 産要素 として どの ように利用す るか とい う情報 を開示 しな くてはな らず,ま
た,生産過程 を通 じて投資家か らの監視 と介入を受け入れ ることにな る。 も し,ALに対 す る外部 か らの影響 を排 除す るこ とが企業 に とって望 ま しいな らば, この ような証券化 スキームを投資家 に提供す る ときには,それに対 し て投資家 か ら企業 に支払 われ る補償 (BI) が大 き くなるか,あ るいは企業が 投資家 に支払 う補償 (BF) が小 さ くな らなければな らない。 いずれの場合 で もdが大 き くなって しま う9。
同様 の議論は投資家 に もあてはまる。投資家 が,低稼働資産ALを 自ら管 理運用 しな くて もよい とい う利便性 を高 く (低 く)評価すればす るほ ど,BI
は大 き く (小 さ く)な るだろう。 このため,dは大 き く(小 さ く)なるO 以上 を集約す る と,dの大 きさは次の 3つの要 因に依存 して決 まる といえ るだろう。第一 に,企業 に とって も投資家 に とって も,低稼働資産Aェを企 業 自身が所有す るこ との経済的価値 が高 くなるほ ど,dが大 き くな る(BFが 低下 ・BIが上昇)。第二 に,企業 に とっての生産過程 を起動 す る経済的価値 が大 きいほ どdが小 さ くな る (BFが上昇).第三 に,投資家 に とっての低稼 働資産ALにコミッ トす る経済的価値 が大 きいほ どdが小 さ くなる (BIが低 下)10。 なお,本稿 では主 として理論的観点 か らdについて考察 を進 め るが, 投資家保護 と関連づけた よ り具体的な議論 を次稿で取 り扱 う。
9 た とえば,∫‑REITを利用 した不動産投資信託 では,不動産 の賃貸情報 な どについて も投資家 に開示 す るこ とが求め られ る。 しか し, こうした情報 が開示 され る と,それが 入居者 に よって賃料引 き下 げ交渉の材料 に用 い られかえって投資収益 を悪化 させ るこ と な どが考 え られ る。 同 じことは各種知的財産権 について もあてはまる。知的財産権 につ いての経済学的観点 にた った議論 についてはPosner(2005)が最近の議論 を要領 よ く整理 している。
10 直感的 にBIk,BFはそれぞれ投資家 に とっての証券化 スキームの メ リッ ト,企業 に とっての メ リッ トといえる。証券化 に どの ような メ リッ トがあ るのかについては さまざ まな議論 があ る. た とえば,オ リジネ一 夕の得 る便益 について も,資産 サ イ ドと負債 サ イ ドでは微妙 に異 な って くる。本稿 は資産 サ イ ドに着 目してい るが,負債 サ イ ドに関わ る議論 としてはFabozzi(1992)な どを参照の こと。 また,実務上 の関点か ら見た証券化 メ リッ トについてはみずほ信託銀行(2005)がわか りやすい。
流動性概念 と債権流動化(2) ‑ 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 99
(3)第二段階 (AoとMの交換お よび利益分配)
投資家 はSALに対す る企業 か らの支払 い rs,M に対 す る企業 か らの支払 い rMを受け取 るが,非稼動資産 (労働)を手放 すか ら収益 roを失 う。(10) 式の類推 により,
Ilf‑(Ays+ArM ‑ Aro)AP≧0 (12)
とな る。企業 は逆 に,roを得 る一方で rMを失 い,さ らに低稼働資産ALの 収益 rLを利害関係者 (投資家 を含む)に分配 しなければな らない11。よって,
rIL‑(Ar°‑ △rM ‑ ArL)AP≧0 (13 )
投資家 ・企業双方 について第一段階 ・第二段階全体を通 じて得 る利得 はそれ ぞれ次の ように書ける。
nL+IIL‑(△rM)Ap‑d+(Ar.lArM ‑ ArL)AP≧0 (14)
rII+Il呈ニト ArM)Ap+(Ays+ArM‑Aro)△P≧0
(ll)式 ・(13)式および(14)式か ら,企業 に関 して,
Aro‑ArL 2% ‑ArM
を得 る。 また,(10)式 ・(12)式お よび(15)式 か ら,投資家 に関 して,
d Aro Ars≦ △rM =市
を得 る。(16)式右辺 を(17)式 に代入 して整理すると,
Aro‑ ArL≧舌 ≧Aro‑ Ars ⇔ ArL≦Ars
(15)
口 (n
(17)
(18) を得 る。 (18)式 は低稼働資産ALの収益率の変動幅 よ りも,ALに基づ く証
11 利益がすべて株主に分配 されない場合には企業 自身の内部留保 とい う形で実現する。
券の収益率の変動幅のほうが大 き くなることを意味 してお り,非常 に興味深 い。た とえば,ALの収益率が5%〜10%の幅で変動す る とき (ArL‑5%), 証券の収益率は0%〜6% (Ays‑ 6)とな る. この場合,6%と5%の差
(1%)は,低稼働資産の実際の収益変動以上の証券収益率の変動 を投資家 が受け入れな くてはな らない ことを示 してお り, この意味で低稼働資産 の不 確実性の一部が投資家 に転嫁 されている といって よい。 これは,場合 によっ
ては低稼働資産への投資を妨げる効果を持つだろう12。
これ らの関係式が意味す る ところを考 えるために,定理5の結果を応用 し てみ よう。つま り,純粋なパススルー証券を用いた ときに交換が行われるな らば,その ときには経済全体で超過利潤が発生 していない。仮 に,同様 の状 況が生 じる とすれば以下の関係を導 くことがで きる。
O‑Ilk+Ili+Ill+Ill‑ (Ays‑ Ar L) Ap‑ d したがって,
d‑(Ays‑ArL)AP
(19)
(20)
(18)式か ら,dは必ず正 になることが確認で きる。
(20)式の含意は明瞭である。つま り, もし超過利潤が発生 しない とい う意 味で均衡状態 にあ るな らば,企業 が得 る委託費用dは,投資家 に転嫁 され
る低稼働資産の不確実性の大 きさ (Ays‑ArL)に比例する13。
また,d‑BI‑BFとい う定義か ら,dは こうしたスキームに参加す るため に投資家が企業になす (純)支払 いになるが, (20)式は この支払いが投資家 による リスクの超過負担 と等 しい とき,経済全体で超過利潤が発生 しない と 12 この点 についてケインズは 「一般理論」第十七章p.241において土地の収益率 よ りも 土地抵 当権の収益率のほ うが高かった とい う農業経済学で よ く知 られた事実を紹介 して お り,長期金利が一般的に短期金利 より高 くなるとい う現代の傾向になぞ らえている。
13 厳密 にはその差 を第二段階の経済状況の実現確率で評価 した一種の期待値 に等 し くな る。
流動性概念 と債権流動化(2) 一 証券化スキームの構造 と流動性の移転過程 ‑ 101
い う意味で均衡す ることを表 している。
別言すれば,企業 ・投資家いずれかが超過利潤を得ているな らば,
HL+nL+Ill+I13>o ⇔ (Ays‑ArL)AP>d (21) とい う関係が成立 していなければな らない。 (20)式の左辺が大 き くなること で(21)式 に到達す る場合は,投資家が過大 に低稼働資産収益率の リスクを負 担 しているので,企業が超過利潤を得 る。逆 に(20)式の右辺が小さ くなって (21)式の大小関係が得 られる場合は,企業が受け取 る委託費用が小 さ くなる ため,投資家が超過利潤を得 ることになる。
3 証券化スキームと委託費用
さて,(20)式をd‑BI‑BFとい う定義を用いて書 き直す と, d‑Br BF‑(Ays‑ ArL)AP, したがって,
BI‑BF+(ArsI ArL)AP (22)
となる。 つま り,企業 と投資家の間の リスクの移転の程度は,第‑ に, この スキームに対 して企業 ・投資家がそれぞれ支払 って もよい と考 える価値(β丁, βF) と第二 に収益実現確率に依存するのである。 したがって,証券化スキー
ムの機能 を理解す るためにはBI,BFが具体的 にどの ような形で実現 してい るか,言い換 えれば証券化スキームを企業 ・投資家が どの ように評価 し,刺 用 したい と考 えているかについて考察する必要がある。 同時に,高収益実現 確率 と低収益実現確率の差,つま り, リスクの作用 も考慮 しなければな らな い.以下では,まずAPを一定 として,BI,BFの効果 を考 え,その後AP
の影響 を考察することにしよう。
3‑1 企業から見た委託費用
BFは具体的 に何 を表 しているかを考 えるこ とは,端的 にいえば企業 か ら 見て委託費用が何を意味 しているかを考 えることに等 しい。先 に述べた よう に, このスキームを利用すれば企業は低稼働資産を稼動 させることがで きる ので,βFはそ うした機会 を得た こ とに対す る投資家への支払 いを表 してい る。よって,低稼働資産 を運用 したい とい う企業の意欲が高ければ高いほ ど,
βFも大 き くな ると考 えて も不 自然ではない。
しか し, こうしたスキームに関与することによって企業が被 る損失 も考慮 する必要 がある。本稿のモデル には,特定の資産が低稼働資産 になる理 由を 明示的に取 り扱 っていないが,直感的な議論 をす るな らば,た とえば特許等 の知的財産や他企業 にはない固有の技術な どは,それ 自体で考 えれば知待収 益は大 きいが反面 リスクも大 きい。その ことが資金調達 を難 し くし,結果的 に低稼働資産 になる とい うことは十分考 え られる。 ところが, こうした戦略 的知的財産を持つ企業 は,資金調達 に際 して相反する二 つの要因を考慮 しな ければな らない。
第一はプラスの要因であ り,資金調達 によって戦略的知的財産を事業化す ることがで きる とい う要因である。 この場合,証券化な どの資金調達 スキー ムを利用す るこ との価値 は大 き く, したが ってBFは大 きな値 にな るだ ろ
う 14。
第二はマイナスの要因である。その一つは特許権な どの知的財産 を資金調 達 に用いることに伴 って発生す る種 々の制度的費用である。た とえば知拍財 産の評価 にかかわる費用 ・特許権等の権利移転 に伴 う公租公課 (譲渡課税) な どが代表的であ り,事実, これ らの費用の存在が知的財産権のフ ァイナン スへの利用をかな りの程度妨げている とい う指摘は実務界 を中心に根強い。
14 ただ し,知 的財産権 の タイプに よっては この限 りではない。 た とえばLinaxに ように スペ ックを全て公開 した ことによって逆 に収益 を拡大 したケース もある。
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もう一 つのマイナス要因は,知的財産 を資金調達 に用 いることにより,知 的財産 の戦略的な価値の一部が外部 に漏 出す る とい う問題である。特許権を 信託な どを通 じて資金調達 に利用 した ときに特許権 に対する侵害が生 じた と する と,現行法では信託会社は特許の実施権 (ライセンス)に対す る侵害分
しか賠償請求が認め られていない。言い換 えれば,特許 を開発 した企業 に生 じる損害 は賠償 されず,結果的に投資家を通 じて企業の所得が外部 に流 出す ることになる。また,投資家への情報開示過程 を通 じて,特許や知的財産 に 関するさまざまな情報が流 出 し,企業が とりうる差別化戦略の幅が狭 くなる とい うことも起 こ りうる。すなわち,知的財産 を独 占的 に利用することによ って得 られる (準)地代が減価するのであ る。 こうした傾 向は,企業 に とっ ての知的財産権が戦略的に重要であればあ るほど,強 く生 じることになる。
結果,多 くを支払 ってまで この ような証券化 スキームを通 じて資金調達 しよ うとい う誘因は小 さ くな るだ ろう。 つま り,BFは小 さ くなる。なお,同 じ 状況において この, もし企業が投資家 に対 して より多 くの補償 を求めるとい う行動 を とれば,BFではな くBzが大 き くなる。いずれにして も対象 となる 知的財産権を独 占す ることが企業に とって戦略的価値が高ければ高いほど, BF とBIの差 として定義 されるdは大 き くなるのである。
知的財産権が資金調達上有力な手段であるのは,それがほかにはない利益 機会を提供で きるか らであるが,実際に資金調達 に用いると利益機会 が侵食
される可能性があ るとい う二律背反性があ るとい うことになるだろう150
3‑2 投資家か ら見た委託費用
BIは この証券化 スキームに参加す ることに対 して投資家が支払 う費用で あ り,言い換 えれば当該スキーム以外の方法で資産運用を行 うことに伴 う磯
15 知的財産権 と証券化をめ ぐる問題 についての平易なサーベ イ として鈴木(2002)がある。
証券化ではないが,近年増 えて きているのは,銀行 による知的財産融資であ る。担保 と な った知財の例 としては,学習教材著作権 ・プロア イスホ ッケーチームの商標権建築広 報の実用新案権 ・企業販促用データベース利用権な どがある。
会費用である。上の議論 を敷術すれば,企業が所有する知的財産権 に対 して 何 らかの形でコミッ トすることが投資家 に とって有利であるな らば,それに 対 して支払 って もよい と考 えるBzは大 きくなるだろう16。
3‑3 委託費用の変化 と リスク分担
以上 を整理する と,BFとBIが逆方 向に変化する ときにdが変化す るが, 変化の方 向はBFとBIの変化の方 向に依存 して きまる.
BFの減少 ・BIの増加 とい うケースは,知的財産権が他企業 に対す る差別 化の源泉 となる可能性が高 く企業が独 占レソ トを維持 したい と考 えてβFを 小 さ く評価 し,同時 に,投資家 はその有利性を認識 しBIを大 き く評価 す る 場合である。 この ときdは大 き くなる。
他方,BFの増加 ・BIの減少 とい うケースではdが小 さ くなる。 これは戦 略的知的財産権 としてはまった く逆の性格を持 つ資産 に関 して生 じることで あ り,そ うした資産の典型 として不良債権をあげることがで きるだろう。企 業経営に大 きな負担 となる不良債権を持つ企業 に とっては,それ らを流動性 に転換で きる証券化 スキームの利便性はそれだけ大 き くな るだ ろう (BFが 高 くなる).一方,投資家 に とってほ投資機会 としての魅力がない分だけBI が小さ くな らざるを得ない。 この結果,dは小 さ くなる.
それでは,BFとBIが同方 向に変化する とすれば,その ときには どの よう な現象が生 じているのだろうか.BF とBIが ともに増加す るのは, この証券 化スキームを企業 ・投資家 ともに高 く評価す る ときであるが, これは株式の 16 実際の証券化市場 においてBFとBzの効果を観察 しようとす る ときに興味深い事例 と
なるのは,特定企業グループに属 さない独立系の証券化専門会社の役割だろう。直近の 例 としては,横浜ベ イサ イ ドマ リーナ地区開発 に伴 う開発型証券化案件がある。 この例 では,証券化専門会社 が用地保有者である自治体や金融椀関 との交渉を代行す る。つま り証券化専門会社 は これ らの業務 を通 じて,委託費用の一部 を利益 として手 に入れるこ とになる。 この とき,専門会社 に帰着する利益の最終的な負担者 は委託費用が正な らば 自治体,負な らば投資化 ・金融機関 ということにな る。