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論文の内容の要旨
氏名:大 野 正 人
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:港湾内における作業船の津波被害低減に関する研究
1.研究の背景
東日本大震災は戦後わが国が経験した最大規模の地震とそれに伴う津波が引き起こした大災害で あった。特に、地震後に東北地方の太平洋側及び北関東の沿岸を襲った津波は、大きな人的・物的被 害をもたらした。当該沿岸にある港湾や漁港においても大きな被害が発生した。
被災地へ食料や医療品などの緊急物資を輸送する際に、陸上交通網が被災していることもあり、被 災直後から港湾等を利用する海上輸送にも大きな期待が寄せられた。また、大震災により大きな打撃 を受けた地域経済を立て直し、被災地の復興を確実なものとするためには、出来る限り早期の港湾の 利活用は欠かせないものである。
港湾の早期利用を可能とするために、津波により障害物が浮遊散乱している航路・泊地の啓開作業 が行われた。また、被災した港湾施設の災害復旧も行われた。これらの啓開作業や港湾施設の復旧に 欠かせない機材が作業船である。
東日本大震災の震災直後には、作業船を持つ建設会社や被災港に係留していた作業船自体も被害を 受けたため、被災地内での作業船の調達には困難が生じ、全国から調達することとなった。
今後想定されている南海トラフ巨大地震などの大規模地震が発生した場合には、被災が想定される 地域に三大湾など臨海部に人口や産業が集積している地域が含まれていることから、東日本大震災時 以上に港湾機能の早期回復が重要な国家的課題になると考えられる。このために事前の準備として、
現場での対応から港湾計画や港湾管理にまで及ぶ多くの関係者が協合して、作業船の津波被害低減の ための対策を進める必要がある。
これまでの作業船の津波対策の研究は、津波来襲時における船員の避難や船舶の港外退避等の対応 が中心となっており、津波来襲時に備えて事前に港湾内での係留計画や係留方法等について港湾計画 や港湾管理の中で位置づけるといった総合的な検討はなされていない。
2.研究の目的と概要
本研究は、作業船の津波被害低減のための効果的な対策を総合的に検討するものであり、これによ り、大規模地震対策時の作業船の津波被害の低減を図り、もって港湾機能の早期回復を通じて港湾を 通じた緊急物資の輸送や臨海部の企業活動の早期回復に資するものである。
研究内容は、主として以下の4つから構成されている。
1) 作業船の津波被害低減の必要性と課題の分析
2) 係留船舶津波ハザードマップを応用した作業船の係留場所の選定手法の提案 3) 津波被害低減のための作業船の係留方法の提案
4) 作業船の津波被害低減対策の指針であるガイドラインの提案
3.作業船の津波被害低減の必要性と課題
本研究を始める背景となった東日本大震災時の航路啓開作業や作業船の役割等の分析により、震災 後直ちに必要となる航路啓開作業における作業船団の活動特性、作業船の持つ公共性(災害復旧支援 船としての役割)を分析し、作業船の津波被害低減の必要性と課題を明らかにしている。
1) 航路啓開作業の開始日を分析し、早い港でも啓開開始が地震発生後 3~4 日後であったこと、緊 急物資等を運ぶ第一船の入港は、啓開開始日以後6~10日後であったこと、航路啓開作業に従事 した作業船の調達は震災初期は地元建設会社や地元作業船が被害を受けていたため被災地域外
(全国各地)から多くを調達していたこと、緊急物資輸送を急ぐ上でも啓開作業は地震発生直後
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に直ちに開始すべきであることなどから、今後の津波来襲時には、被災地域内に係留されている 作業船も含めて直ちに啓開作業にとりかかれるよう、津波来襲地域内における作業船の津波被害 低減対策を行う必要がある。
2) 啓開作業に従事した作業船は、作業の中心となる起重機船などの主作業船とその活動を支える潜 水士船や引き船、測量船などの付属作業船が船団を構成して作業を行っている。被害低減対策で は、主作業船を中心としつつも、これを支援する多種類の作業船を対象とする必要がある。
3) 被害低減対策は、作業船の特性を考慮し、係留場所の選定や係留方法の改善を行う必要がある。
東日本大震災時等の作業船の被害状況は、喫水が浅いことによる乗り上げによる座礁や津波外力 による係留索破断等による漂流が主なものであった。作業船は一般船舶に比し非自航式の船が多 く含まれている、船員の不在の状態で保管係留されている期間が長い、などの運用特性がある。
このため、津波来襲時に自力により港外に退避することは難しい。
4) 被害低減対策の実行に当たっては、作業船の運行者(所有者)や船員の視点に加えて、公的性格 を考慮した港湾管理者等の視点が欠かせない。
4.係留船舶津波ハザードマップの開発と作業船の係留場所選定手法の提案
作業船の港湾内の係留場所の危険度を評価するための基本情報として係留船舶津波ハザードマッ プを開発し、これを用いた作業船の係留場所の評価方法を含めて係留場所選定手法として提案してい る。木更津港及び清水港をケーススタディとしてハザードマップの作成を行い、運用手法の実証を行 っている。
1) 係留船舶津波ハザードマップは、①最大津波高図、②最大浸水深図、③最大津波流速図、④係留 索張力評価図の4つの地図で構成されている。作成方法は、津波伝播・遡上シミュレーションと 船舶応答シミュレーションを重ね合わせている。係留船舶津波ハザードマップにより、作業船の 係留場所の絞り込みのための情報及び被害低減の事前対策のための情報(外力や挙動の情報)を 得ることができる。
2)作業船の係留場所としての評価方法については、岸壁乗り上げ、流出や障害物の衝突、係留索の 破断などの被害毎に、被害発生の概略判断基準を示す。概略判断基準と係留船舶津波ハザードマ ップを用いて、係留場所の候補地としての適性を判断する。
3)作業船の係留場所選定手法について、ケーススタディとして大きな湾内(三大湾内)の港として 木更津港を対象とし、また、外洋に面した港として清水港を対象として、係留船舶津波ハザード マップの作成を行い、その適用性を検証している。
5. 津波被害低減のための作業船係留方法の提案と検証
作業船の津波被害低減のための係留方法として、浮体式桟橋方式及び沖側アンカー方式が有効であ ることをMPS法により定量的に分析し、津波被害低減対策としての作業船の係留方法として提案し ている。
1)浮体式桟橋方式は、マリンゲート塩釜で浮体式桟橋に係留していた観光遊覧船が東日本大震災に よる津波による被害を受けなかったことなどの所見を基に、これのモデル化を行い数値シミュレ ーションによる分析を行っている。小型船の浮体式桟橋係留時の係留索張力は、固定岸壁係留時 の係留索張力に比して大幅に低減する。併せて浮体式桟橋への係留は岸壁への乗り上げ防止対策 に有効である。
2)沖側アンカー方式は、荒天時対策として一般的に現場で行われている係留方法であることに着目 し、津波来襲時においてモデル化し、数値シミュレーションによる分析を行っている。沖側アン カーは、津波時の岸壁等への乗り上げ防止対策としての有効である。
6. 作業船の津波被害低減対策ガイドラインの提案
作業船の係留場所の選定手法や係留方法の選択・改善を実効性のあるものとするためには、事前に 関係者(港湾管理者・作業船の船員・運行者など)間で情報共有するとともに、港湾計画、港湾管理 へ反映する必要がある。このため、作業船の津波被害低減対策をガイドラインとして提案している。
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1) ガイドラインは、①用語の定義、②ガイドラインの対象、③被害低減対策の役割分担、④津波来 襲時の対応、⑤平常時の対応、⑥港湾内の作業船の係留場所の選定、⑦作業船の係留方法の選択、
⑧港湾計画や事業計画等の計画時の対応、⑨調査・研究・技術開発の9節で構成している。
2) ガイドラインの対象は、作業船の船員や運行者に加え、港湾管理者等に広げ、対象とする時期に ついても津波来襲時に加え、平常時及び計画時を盛り込み、それぞれの役割を時期ごとに明記し、
港湾計画や港湾BCPへの位置づけについても明示している。
3) 作業船の係留場所選定手法の具体的作業手順と考え方をフローチャートとして示すことにより、
係留船舶津波ハザードマップを用いた作業船の係留場所の選定手法の明確化を行っている。
4) 作業船の津波被害低減対策として、係留実態に応じて被害を低減するための係留方法を示す。「増 し舫い」に加え、浮体式桟橋や海側アンカーの活用を明示。小型作業船を大型の主作業船に横付 け係留することも浮体式桟橋係留と類似の効果があることを示している。
7. 作業船の津波被害低減対策ガイドラインの有効性
提案しているガイドラインの主な効果は以下のとおりである。
1) 関係者が作業船の公共性と災害時の支援機能の重要性を認識するようになる。
2) 作業船の船員や関係者がガイドラインの運用により、平常時から作業船の係留方法の改善や港湾 計画への係留場所の位置づけなど多様な対応が図れる。
3) ガイドラインの実効性が上がることにより、南海トラフ巨大地震等の大規模地震時の防災計画に おける港湾物流の早期回復への貢献をより確実なものとする。
8. 結論
本研究の結論は以下のとおりである。
1) 作業船の津波災害時啓開作業における公共性と意義の認識を共有した。
2) 係留船舶津波ハザードマップを提案し、港湾計画と管理において適切な作業船係留場所の選定方 法を明らかにした。
3) 津波来襲時における浮体式係留方法および沖側アンカー等の有効性を明らかにした。
4) 関係者が共有する津波被害低減のためのガイドラインを提案し、その有効性を明らかにした。