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論文の内容の要旨
氏名:清 水 尚 憲
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:統合生産システム(IMS)における ICT 機器を組み合わせた支援的保護システムの構築 とリスク低減方策に関する研究
我が国の産業安全は安全領域と危険領域を分離し確保されてきたが,現在では人と機械が共存して 作業を行う協調型へと変化しつつあるため,国際安全規格による機械安全の「停止と隔離」の原則だ けでは十分なリスク低減ができず,高い残留リスクが存在していることが問題となっている。特に,
「個々の部品又は組立品の製造,処理,移動あるいは包装のために,材料搬送システムで連結され,
制御機器で相互に接続された状態で,協調して作業を行う機械群」と定義される,統合生産システム
(Integrated Manufacturing System : IMS)を導入した生産現場では,定常作業時の安全管理対策も 人の注意力に大きく依存していることが問題とされている。IMS のような作業形態下で安全性と生産 性を両立するためには,新たな安全管理支援システムの構築が急務といえる。しかしながら,その構 築・実装はまだ十分とはいえない。
そこで,本研究では,IMS を対象にした新しい安全管理システムとして,ICT 機器を組み合わせた「支 援的保護システム」の構築を目的とした。本論文では,支援的保護システムの発想に至った背景や有 効性検証,国際規格における位置付け及び国際安全規格化について解説した。
本論文の第 1 章では,現在の産業現場の現状を述べている。非正規雇用者や短期労働者,外国人労 働者が増加する一方で,ベテラン作業者の割合は減少傾向にある。1 人作業の増加やコミュニケーシ ョン不足から,従来のように「人に頼る」安全管理対策にも限界が見えている。また,現場のシステ ム形態が,単体の機械から IMS へと変化しつつあることから,自動機械の非定常作業時の危険点近接 作業(機械を停止させずに作業者が可動部に接近した状態で行う運転確認,調整,加工,トラブル処 理,保守・点検,修理,清掃,除去等の作業)では,経験の少ない作業者による労働災害が高い割合 で発生している。
そこで,ICT 機器を組み合わせた「支援的保護システム」を提案した。機械安全の国際規格 ISO12100 では,3 ステップメソッドと呼ばれるリスク低減方策が厳格に規定されている。リスク低減の優先順 位は,本質的安全設計方策であるステップ 1 から始まり,安全防護及び付加保護方策を施すステップ 2,そして使用上の情報のステップ 3 の順番で検討される。
支援的保護システムは,ヒューマンエラーの発生率を低減することで,残留リスクに対して適用さ れるもので,確定性の高いリスク低減効果を得ることが可能となる。
第 2 章では,機械に起因する死亡労働災害のうち,人の注意力に依存している作業として,危険点 近接作業及び広大領域内作業について災害分析を行い,以下のように考察した。
a. 平成元から平成 30 年までの間に,製造業の就業者数は 1603 万人から 1039 万人へ減少した。これ に応じて機械に起因する死亡労働災害の発生件数も減少した。
b. 機械に起因する死亡労働災害の発生件数は,平成元~14 年から平成 26~30 年の間に 37.20%まで 減少した。上記 a.との差である 27.60%の死亡労働災害は,技術的安全方策や安全管理対策などに よって純粋に減少した分と考えられる。
c. 平成 26~30 年に発生した災害では,技術的安全方策の困難な危険点近接作業及び広大領域内作業 の割合が平成元~14 年と比較して増加していた。したがって,今後は,機械の設計・製造段階で の本質的安全設計方策や技術的安全方策の適用を進めるとともに,残留リスクに関しては,支援的 保護システムの導入が効果的と考える。
第 3 章では,ISO12100 で規定されているリスク低減方策における支援的保護システムの位置づけに
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ついて検討した。まず,国内の機械を対象としたガイドラインに規定されているリスク低減方策であ る 3 ステップメソッドと支援的保護システムとの関係について述べた。3 ステップメソッドのステッ プ 2 である安全防護の代替手段として支援的保護システムを活用する場合,ICT 機器には保護装置と 同等の安全度水準が求められること,現状では各 ICT 機器の組合せによる安全評価制度が存在しない という問題が生じるため,ステップ 2 として使用することは回避すべきであることを述べた。そして,
支援的保護システムは3ステップメソッドを適用した後に残る残留リスクを対象として人の注意力に 大きく依存しないリスク低減方策としての位置付けとした。
第 4 章では,IMS のような作業現場で支援的保護システムが適用可能かを検証する実験を行った。
各実験では,作業条件の異なる現場に合わせた支援的保護システムを構築し,導入前後の不安全行動 の発生率を比較し,リスク低減効果を検証した。各実験の概要と結果は以下の通りである。
a. 実証実験 1 では,作業者 1 人が作業区域で 1 つの作業を行うことを想定した支援的保護システムを 構築した。本実験では,支援的保護システムの構成要素である ICT 機器として RF タグとステレオ カメラを組み合わせ,作業区域への入退場に対して,人数確認の正確性及び不安全行動の発生率を 検証した。結果,作業者の入退場数が正確に把握可能であった。また,支援的保護システム導入前 に存在した不安全行動,すなわち資格と権限のない作業者が対象外の作業を実施した割合 6.49%,
資格と権限のない作業者が作業を実施した割合 1.45%,作業中の第三者による誤再起動の割合 6.49%が,支援的保護システム導入後にはすべて 0%となった。また,RF タグを携帯せずに作業を実 施した割合 63.60%も 0%に低減した。支援的保護システムは,作業者 1 人が制限された作業区域で 1 つの作業を行う状況において,正確に人数確認が可能であり,不安全行動の発生率を低減できる ことが確認された。
b. 実証実験 2 では,1 人の作業者が複数の作業をする状況でも支援的保護システムが有効かを検証す るために,これらの作業を想定した仕様の支援的保護システムを構築した。本実験においては,作 業区域を分割したタスクゾーンを導入した。これにより,作業中のゾーン内の機械のみが停止し,
それ以外は通常稼働している。本実験下では,作業者がゾーンをまたいで作業をする際の安全確保 の有無及び不安全行動の発生確率を評価した。実証実験 1 と同様,本実験においても支援的保護シ ステム導入前に見られた不安全行動の発生率をすべて 0%に低減可能であった。また,作業者がゾ ーンをまたいで複数の作業をする際にも安全確保が可能であることが確認された。本実験で構築し た支援的保護システムは,複数のゾーンで作業をする状況であっても正常に稼働することが確認さ れた。
c. 実証実験 3 では,複数の作業者が複数の作業を複数のタスクゾーンで行う状況でも支援的保護シス テムが有効かを検証するために,これらの作業を想定した支援的保護システムを構築した。その際 には,タスクゾーンをまたいで作業を行う状況におけるリスク低減方策及び作業区域における作業 者の位置検知の精度が重要となるため,位置検知に高い精度が期待される超広帯域無線(Ultra Wide Band:UWB)アクティブタグシステムを採用した。本実験においては,複数の作業者のリアル タイムな位置情報の把握及び不安全行動の発生率を評価するために実験を行った。結果,作業現場 の電波遮蔽物等の設備による課題は残されたものの,運用上問題のない精度で位置検知が可能であ ることが示された。また,他の実証実験同様,すべての不安全行動の発生率を 0%に低減すること が可能になった。作業区域を複数の作業者が同時に作業を行う場合でも支援的保護システムが有効 であることが確認された。以上の実証実験の結果により,支援的保護システムは様々な作業条件に おける IMS 特有のリスクに対して確定性の高い低減効果が得られることが示された。
d. 実証実験 4 では,支援的保護システムの適用の有無により,機械の稼働率と作業者の負荷がどのよ うに変化するのかを検証した。支援的保護システム導入後のシステムの停止時間は,導入前に対し て 46.00%となり,稼働率は約 2 倍となった。また,支援的保護システム導入後に作業に係わる操 作を 4 回繰り返すことで,初回の操作時間に対して約 30.00%に操作時間が現象することが明らか になった。これは支援的保護システム導入前と比較してほぼ同じことから,既存システムに支援的 保護システムを追加しても慣れが生じ,作業効率にほとんど影響がないことを示唆している。また,
作業に関して何らかのフィードバック(FB)を与えると作業がより効率的に行えることが示唆され た。以上の結果より,IMS の作業現場における支援的保護システム導入に関しては,機械の稼働率
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を向上させることと,何らかの FB を与えて繰り返し訓練することで,作業者の負荷は増加しない ことが確認された。
第 5 章では第 4 章で得られた支援的保護システムの構築方法について国際安全規格を発行し,JIS に反映させることにより日本国内の IMS を対象とした労働災害を防止する戦略について述べている。
第 6 章では,各章で得られた結果をまとめた。今後の課題として,以下の項目の必要性を述べた。
a. 3 ステップメソッドのステップ 2 における保護装置の安全性評価は,単体装置が対象であり,ICT 機器の組合せには適用されない。そこで,ICT 機器の組合せに適用可能な安全性評価手法を確立す る。
b. 現在のリスクの定義に,人の資格と権限に関する要素を追加して,期待されるリスク低減効果の確 実性を向上させる。
c. ダイナミックリスクアセスメント手法を構築し,安全性と生産性を両立するリスク低減方策を確立 する。
支援的保護システムは,単体の機械と IMS における非定常作業である危険点近接作業を対象にした リスク低減方策である。しかし,機械と人が共存・協調する現在の作業形態においては,機械の可動 部と人の作業領域の共通化が進められており,定常作業でも支援的保護システムは有効な安全手段と なる。そのため,今後は支援的保護システムを定常作業にまで拡大した活用方法を提案し,現場の労 働災害防止に貢献していくつもりである。