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人里昆虫が語る三重県 : 鬼が塩屋遺跡の古環境

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人里昆虫が語る三重県 : 鬼が塩屋遺跡の古環境

著者 奥野 絵美, 森 勇一

雑誌名 三重大史学

9

ページ 1‑7

発行年 2009‑03‑31

その他のタイトル Restoration of paleoenvironment based on village : Inhabiting insect fossils in the Onigashioya archaeological site, Mie

Prefecture, Japan

URL http://hdl.handle.net/10076/10641

(2)

人里昆虫が語る三重県・鬼が塩屋遺跡の古環境

1.はじめに

奥野絵美・森 勇一

昆虫は地球上の生物群の中で最も種類が多く,世界で約100万種、日本だけでも約3万種存在している とも推定されている.昆虫の生息する環境についてみてみると,池沼や河川,水たまりや水田などの水中 や水面に生息する水生昆虫や、林床や砂地・獣の糞や屍体などの地表面に生息する地表性歩行虫、森 林や草原などの植物上に集まる樹上性昆虫など実に様々であるo一食性についても、食植性から、食肉性・

食糞性・食屍性・食菌性・雑食性など多岐にわたっている。

したがって、遺跡から昆虫の化石(昆虫遺体ともいう)が見つかれば、それらの生態学的な特徴に基づ いて、遺跡の古環境を非常に詳細なレベルで復元することが可能である.日本で見つかる昆虫化石の多 くは、コガネムシやタマムシなどの甲虫目(鞘題目)が多いが、これは甲虫目の外骨格がキチン質という非 常に硬質な物質から出来ており、日本の様な酸性土壌下であっても,比較的残りやすいためである。

遺跡からの昆虫化石の報告例は、1935年の青森県の是川遺跡(鹿野1935)の事例が最も古いが、本 格的な分析は1979年以降になって開始された(日清1979)o特に1988年からはl森勇一が愛知県を中 心とした数多くの遺跡で昆虫化石の分析を行い、先史時代から歴史時代に至る古環境の復元に大きな成 果を挙げている(森1999aほか)0

小論では、三重大大学人文学部考古学研究室によって2003年に発掘された鬼が塩屋遺跡の第2層か ら得られた昆虫化石の分析結果の概要を述べ、そこから推定される鬼が塩屋遺跡の古環境について検討 する。

2.調査の概要

鬼が塩屋遺跡(三重大学構内遺跡ともいう)は、三重県津市栗真町屋町に所在し、志登茂川河口部の 標高2m前後の砂碓部に位置している(三重大学2004)。周辺の遺跡としては古墳が1基認められるのみで あり、歴史的な背景に関しては未解明の部分が多い。しかし、遺跡の名前の由来となった「鬼が塩屋」など のように、「塩屋」という地名が周辺地域に残ることから、当地一帯が伊勢湾における近世塩業の中心地で あった可能性も指摘されている(三重大学2004)0

(3)

2003年に三重大学考古学研究室に よって行われた発掘調査の結果,旧河 道と推定される溝状の遺構が調査区南 北にわたって検出された。基本層序とし て確認された第1層から第5層のうち、遺 物包含層は第4層までであった。第1層 からは平安時代未一鎌倉時代初頭の山 茶碗が、第2層からは古墳時代前期の古 式土師器などの土器のほか、土錐や土 玉などの土製品も出土した.この弟2層 は暗灰色の砂まじりシルト層であり、本層

中より得た炭化材の1̀c年代は,2180± 写真1書式料採取位置(甫から)

40 yrs B.P.であったっ発掘途中の段階で

多くの木片や種子・浮き石の他に昆虫化石を含んでいるのが確露されたため.9C‑3区第2層の土壌約 20kgを採取し、昆虫化石の分析を行った(写真1・図1 )。

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L‑0・2‑一三̲if=ユニ.義三三項零需轟栴≡転率鍔蚕‑

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118 '1B

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‑箸等轟膏苛鰯‑

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図1調査区北端土居I折面園(三重大学2003)

3,分析方法

昆虫化石は,ブロック割り法(森1994b)によって肉眼で土を細かく割りながら検出を行った後,さらに微細 なものを抽出するために水洗浮遊選別法(森1994b)にかけた。得られた昆虫化石は,実体顕微鏡下でク リーニングしたのち同定作業を行い,主なものについては写真撮影を行った(写真1)c検出された昆虫化

(4)

4.分析結果

分析の結果、 7科1亜科3属12種、 193点の昆虫化石が検出された(表1)o昆虫化石の生息環境別出 現率は,食植性昆虫(陸生)が52.8%(104点)と最も多く、続いて地表性歩行虫が31.7%(59点)で、そのう ち食屍・食糞性昆虫15.1%(29点)、水生昆虫が15.5%(30点)であった(図2)0

種組成では、サクラコガネ属ADDma/3 Sp. (95点)・スジコガネ亜科Rutelinae(2点)・マメコガネpopmb .由フamta

(2点)などの、人間が介在した二次林に集まる食徳性のコガネムシ科を検出した。サクラコガネ属 の多くは,ヒメコガネAnonz∂1aTdocuprea である可能性が考えられるが、今回検出された部位は上趨 の微細な破片を中心としており、種の同定までは至らなかったo

地表性歩行虫に関しては、マグソコガネAphod.usredus (25

,a) ・エンマコガネ属CnthopJ14gLB Sp.

(2点)・コブマルエンマコガネoy7tbop^aBVS

a抽出Jコ血(i,点)などの食糞性昆虫や、オサムシ科carabidae (18点)・‑ネカクシ科staphylirddae (3点)などの雑食性の昆虫が検出された他、ヤマトトックリゴミムシ Lach70CrePjt.由フOmta (1点)やツヤヒラタゴミムシ属SmucJ7uSSp. (l点)などの湿潤地表面に生息する 種類の昆虫が検出された。また、特異な前胸背によって特徴づけられる、砂地に生息するオサムシモドキ

Cras押血otus出血血 (6点)が検出された.

水生昆虫では、池沼などの止水域に生息する食肉性水生昆虫のキベリクロヒメゲンゴロウnjddus

apkabk (14点)が検出され、さらに食植性の水生昆虫であるガムシHjdruphlusacumh7atuS (4点)や、セマ ルガムシCajTostoma stLL[tLm (6点)などが検出されているo

なお、ここに記した昆虫化石の点数はいずれ節片ないし破片数であり、生息していた昆虫の個体数を示 したものではない。

(5)

表1鬼が塩屋遺跡出土昆虫化石一覧表

′1:丁医 和名 田■■■■ヨ 合計

̲'J:‑.

食肉性 キ一‑‑:リ'/r..L:メデン=j'【̲.ウ/小ノJ)ju.,..‑J/))‑(.(J]‑L<Shil1.P E1:iTl 14

ガムシ柑 [lゝ′LilりPhiiidと0 EIT1

Ill ))ムシ I1̲1.‑dI.(JPhilLT.i..i((Iml'naTu̲<仙̲ーーst、hulL<k(v E4

ヒメ1}.ムシ SL(....A.lE)/(.,i)/lu̲TrLJ1[J)付(fTi.llFl/iしlホ) SIE2L1

‑ヒ.‑̲‑,'しカ ムシ (I.Jt,J'JL11''′‖′′̲i,.LJ/.,i..a(\.\こ止(.r) r):iE3

エン‑I,コjjJ{L弼 √))JEJ)(']lj].‑ナ{rIユ:'1⊃. PIE1

コツ‑.,JL‑エン‑.‑‑‑‑Jlj.辛OzJEh',)))7JL<.L]Lt..A.(rip(リ..T心\\̀itい)Fhf̲.し1M. P1 28

‑;‑I/I/コ1J辛 :I,r)/Jr'E/]L...i.1、<.「rLJ..NhJi"‑hul芹k).) rー5E20

允屍性 二工ン.マ■.ll‑̲/ I]i‑.Ill,rjf.A(.![ヽ1;1rL<t、Ul E1 1

オサムシ科 (I;LrJhii.l亡. 1..】1SIP:3EGT1;\2L2

:iO

・‑t'‑‑‑トト,:/リ=}ミJ、シ /̲LI(,A/7,,[リー(.[l/.'‑}()/")I>,.■(lうi'h、さ E1

ゴミムシ杓 Z1叫】i(lde E1

オ十トムシキトキ i‑r..I.(P(.(]rTn(一TEILi1:■1,i.1!J‑.I:SL.】1ilUm Ⅰ」lr:>2Eニち J■モ

ソヤL‑,ラクゴミム.ン羅 Sr1‑)1LII.I)u.<叩 E1

‑ネカ:'シ付 S叫Jhrlh‑.i(≡iLL, 1三Ⅰ:ヽ2

一■l妻

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コザキムシ鞘 SL.ilrLLln(Ji(!Lト.I Ll

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‑I.JL:,ラ:jガす掃 ,〜/7(,m;I.I(,パl}, r117「竹l三.5:∃lーl9

‑/‑≠卜Tl7二ぴ‑i'. :1T](}IIJ.Ill.,lil.J7(f[)1],,.i;1J[1 E1

マイコ二I)ネ I'',I)/Jj//Jj'l.,,,.i/(lL】\t≠.rlJ ーlご

LJ:Jコて.'Jネ牌打 I(uて(三川lC E=

ヒノ1JLrショコ1jナ .‑I/)=.i.rノ.JI.IJL;/̀/,イL,{.ヽヽ.L< E1

I‑‑IJ.I/キムシf‑i. EiLiミLt1.j【【ilL. El

I/ウ∴.i‑f=l 「uⅠ.HH川ぐhp Eー

合計 1t‑)3

(検出部位凡例)

H(=(Jild):堰‑;輔 An(:\r.1PllrrFL):触角M(MaTIL‖blt・):pIJllL[.S(さ(‑ut(.Ilti7Tl):・】、掩批 PrけIl:。…If.i):IrrI卵割11i C((二Ilr、.f;Jjェく〕慨蜘 E(払・lr'lrl):綿alB WIJ\irLL1):E1.瑚 ■rHlln.‑uX):t)l'^.1恥Aく.I.hdr‑nl(∩):旺i笥'JLu.く・h/.i:槌月・蛸IU((J[h(.r止.{J./)也

(6)

5.考察

人里昆虫の示す古環境

今回の分析の結果,最も数が多 かったのは、二次林や畑作物の菓 を食害するサクラコガネ属やヒメコ ガネなどの食植性のコガネムシ類 であった七これらの昆虫は,人間に よる植生‑の干渉の結果作り出さ れた二次的・人工的な空間に生息 する昆虫群である。

表2昆虫の食性と生息環境(奥野・森2008)

天然 二次的 人エ的

El 森林一草原 二次林.畑.水田 住居.便所.連絡

湿地.池沼.河川 水田.水路.用水 排水路.環濠

森林性昆虫 ハナムグリ亜科

I::≡

サクラコガネ藻 ヒメコガネ

貯!邑性コクゾウ

林氏性歩行虫 撹乱耐性璽歩行虫 都市型昆虫

エンマコガネA

オサムシ科 ゴミムシ科

マグソコガネ尻 水. 湿地性昆虫 稲作害虫.稲作措珊虫

双頗目の国境

力ワホネ イネネウイハムシ

ネクイハムシ セマルガムシ

同様に数の多かった、獣糞に集まるマグソコ ガネ(写真2)やェンマコガネ属といった食糞性 昆虫や、ガムシ(写真3) ・セマルガムシなどの 水生昆虫も、人里周辺に生息する昆虫群であ るo

マグソコガネやェンマコガネ属は「都市型昆 虫」とも呼ばれ(森1992)、愛知県朝日遺跡を はじめ日本各地の遺跡で確認されている,人の 集中居住や環境汚染を示す昆虫群である(蘇

1992)Q また,セマルガムシは「水田指標昆虫」

(森1999b)とされる昆虫であり,イネネクイ

写真3 ガムシ 右上建片11.2JTrn

左写真2マグソコガネ右上建3.1皿 ハムシやイネノクロカメムシなどの稲作害虫と.

ともに、弥生時代以降、水田という新たな人工空間に適応・進出し,個体数を増加させた昆虫である(蘇

1999b)

oいずれの昆虫も人間の生活と関係する場所で棲息する昆虫であるo

鬼が塩屋遺跡では、明確な人間活動を表す遺構は検出されておらず,遺跡周辺は閑散とした空間で あった印象を受ける。しかしながら、昆虫化石群の産出傾向からみると、周辺の古環境は,近現代の畑作 農村地帯に見られるような,人家と畑が混在する人里生態系(森1999a)であったことが考えられるc

人里生態系は稲作農耕が開始された弥生時代に原型が整い、中世には完成したと考えられている(蘇

I999a)o鬼が塩屋遺跡周辺も人間によって作り出された極めて人工的な環境下にあったと考えられるだろ う。

(7)

オサムシモドキからみた18地形

地表性歩行虫の中には、特異な前胸背板を持つ オサムシモドキ(写真4)が含まれていたっオサムシ モドキは河口や海岸などの砂地に穴を操って生息 する昆虫である。また,昆虫化石を達した第2層から

は、淡水と海水が混じり合う汽水域に生息するヤマト シジミや海産珪藻も羅められているQこれらのことか ら第2層が確積したころの鬼が塩屋遺跡は,伊勢湾 の河口付近に位置していたと考えられる。さらに.慕

2層では,地産による噴砂や洪水の痕跡が評められ 写真4オサムシモドキ前胞背振6.1mm ており(三重大学2003),このことからも、鬼が塩屋遺

跡付近の地形的な環境が極めて不安定であったと思われる。

6,おわりに

鬼が塩屋遺跡から目立った遺締ま検出されなかった.しかし,昆虫化石分析の結果,人里昆虫が多産 したことから.遺跡およびその周辺は人為度の高い空間であったと推定できた匂

では.そこでの人々の暮らしはどのようなものであったのだろうか。出土した遺物の中には製塩土器や 土錘などが認められていることから、塩作りや漁労活動を行う為にあえてこのような不安定な場所で人々 が活動していたと考えることもできる。海浜部の遺跡は発見されることが少ないため、そこでの人々がどの ような活動をしていたのかについては、今なお未解明の部分が多いQ今後、昆虫化石分析の特性をいか して,さらに研究を進める必要がある。

謝辞

本分析を行うにあたり、三重大学人文学部考古学研究室LLJ中華先生、愛知県埋蔵文化財センター鬼 頭剛氏には大変お世話になった。また、三重大学人文学部考古学研究室のみなさまには試料の採取・分 析にあたってご協力頂いた。心より御礼申し上げるd

参考文献

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追記

卒業論文で昆虫化石分析を扱い、鬼が塩屋遺跡の分析にも携わる予定であった三重大学人文学部考 古学研究室4年生の大森俊輔君が、昨年春、不慮の事故で22歳の若さで他界されました。ここに追悼の 意をささげるとともに、昨年のベトナムでの調査の際、一身に分析作業に取り組んでくれた彼に感謝の念 を表します。

(おくのえみ名古屋大学大学院 もりゆういち愛知県立津島兼高等学校)

参照

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