弘 前 医 学 35:3 50‑364,1 983
Pa r ki ns o n 病 の精神症状 について
」̲.・
口
村 伊 保 子
抄録 Par ki ns on 病4 0 例の病歴学的研究に よ り,精神症状 を検討 した.3 4 例において, 経過 車に精神症状が み られた.20 例では抗 Par ki ns on ( 以下抗パ)剤投 与抑 こもみ られ,その症状は記憶 ・記銘力障害, 抑 うつ 状態,神経症状態,性格変化,幻覚 な どであ った.抗パ剤で治療 し経過観察 された2 4 例では全員に,せん妄, 痴呆,幻覚,妄想,抑 うつ,不安,焦燥,神経症状態,軽操状態,過食,性的行動異常, 多幸, 反社会的行 動 な どのいずれかがみ られた.
Par ki ns on病 の経過 中にみ られた上記精神症状 は次の 3 群に分け られた. すなわち, ( 1 )心理的要因に基 づいて生 じた神経症状態や抑 うつ状態な ど.( 2)痴呆, ( 3)抗パ剤 に よる中毒 性精神症状 である.
したが って,Par ki ns on 病患者の治療 に際 しては,心理的, 環境的因子を十分に考慮す る必要性があるこ とを述べた.
くわえて,痴呆 を伴 った 2 例 の剖検例を報告 し,Par ki ns on 病 の痴呆 の発生病理における大脳皮質病変の 役割について も呈示 した.
弘 前医学 3 5:3 5 0‑3 6 4,1 9 83 KEY W ORDS:Par ki nson' sdi s eas e p s yc hi a t r i c s y m
pt o m s
ps ychogeni cf act or s
de me n t i a
PSYCHI ATRI CASPECTSI N PARKI NSON' SDI SEASE
I HOKO YosHI MURA
Abs t r ac t Ps yc hi at r i cs ympt omsi n4 0cas esofPar ki ns on' sdi s eas ewer eana l i z ed. Oft hepat i ent s , 85% had some ps yc hi at r i c s ympt oms i n t hei r cour s es . Bef or e t r eat mentwi t h ant i par ki nson' s dr ugs ,50% oft hepat i ent ss howed s uchs ympt omsasmemor ydi s t ur banc e,depr es s i ves t at e,ne u‑
r ot i cst at e,c hangeofper sonal i t y,orhal l uc i nat i on. On t heot he rha nd,24pat i e nt st r eat edwi t h ant i par ki nson' sdr ugss howeddel i r i um,dement i a,depr es s i ves t at e,neur ot i cs t at e,hypomani cs t at e , anxi et y,agi t at i on,hyper phagi a,hyper s exualbehavi or ,r es t l es s nes s ,euphor i a,orant i soc i albehavi or .
Thos eps ychi at ri cs ympt omswer ec l as s i 丘ed i nt o3gr oups:
① ps yc hoge ni cdi s or der sduet ot heenvi r onme nt aldi Bi cul t i est he ywe r econf r ont e dwi t h.
@ deme nt i a
@ t oxi cs i dee f f ectofa nt i par ki ns on' sdr ugs .
Ther ef or e,ps yc hogeni c ande nvi r onment alf ac t or sar ever y i mpor t antt or egar d i n t het r e ‑ at me ntofPar ki ns oni an pat i ent s .
Twoaut ops y c as esofPar ki ns on' sdi s eas ewi t h dement i awer eaddi t i onal l y r e por t ed t oi ndi ‑ c at et hec er e br alcor t i c all es i onst hatpl ayedarol ei n t hepat hoge ne s i sofdement i a.
Hi r os akiMed.J. 35:3 50 ‑364,1 983
弘前大学医学部神経精神医学教室 ( 主任 鮭藤時治 郎教授)
昭和 58 年 4 月 1 5 日受付
°ept .ofNeur ops yc hi at r y,Hi r os akiUni v.Sch 1 . ofMed・( Di r ect or:Pr o f .T .SATO),Hi r os aki , Japa n
Rec ei vedf orpubl i c at i on,Apr i l 1 5,1 983
昭和 58年 9月 弘前医学 3 5 巻 3 号
は じ め に 1 )
CoTZI AS ら ( 1 9 6 8 年) に よ る Ldopa の 治療投与 が開始 されて以来 2 ) ,Pa r ki ns on 病 の 治療 には多 くの進歩が得 られ て き た. しか
3 )
し,その治療 中に ジスキネ ジーを主 とす る不 4 )
随意運動 , Onl 0f E現象, あるいは精 神 症 状 を呈す る こともあ り,また,長期投与 での抗 パ ーキ ンソン剤 ( 2 ) 以下抗パ剤 と略す) の効果 減退 もみ られ るな ど, 日常臨床 において治療 の限界 を 感 じ る こ と も少 な くな い. 特 に
5 ‑8 )
Pa r ki ns on 病 の精神症状 につ いては,その存 在が注 目され なが らも,抗パ剤 に よる副作用 と考 え られて処理 され る場合 が多 く,精神病 理学 的見地か らの研究や治療 は未 だ少ない よ
うにみ える.
著者 は今 回 ,Pa r ki ns on 病患者 の精神症状 とその精神症状惹 起因子 に関 して ,4 0 例 につ いて分析 し, 2 例 の吾l 」 検所見 を加 えて検討 し た.その結果 ,若干の知見 を得 たので ここに 報告す る.
1. 対 象 と 方 法
対象は過去 1 6 年 間 ( 1 9 6 6‑1 9 81 年) に弘前 大学 医学部附属病 院神経精神科 ( 以下当科 と 略す) を受診 した Pa r ki ns on 病 3 2 例 と ,1 9 81 年 に近隣 の関連病院 あるいは施設 に入院 して いた Pa r ki ns on 病 8 例 の計 4 0 例 で あ る, 男 性 2 4 例 ,女性 1 6 例で あ り ,Pa r ki ns on 病 の発 病年齢分布は 4 0 ‑6 9 歳が 8 5% を占め ,2 4‑3 9 歳の若年発症が 5 例 と ,7 3 歳の高年発症が 1 例 であ った.
大学病 院受診例 におけ る発症 か ら受診 まで の期 間は 3 カ月 〜1 2年 ( 平均 3 年 6 カ月)で,
9 ) 身体症状 は Ya hr の臨 床 的 症 度 分 類 ( 以下 Ya hr 分類 と略す) Ⅱ 〜 †に相 当 した. 受診 目的は,当科の性質上 , (1) 他科 か ら の 脳 波依頼, (2)他科か らの精神症状 の 確 認 と 治療 の依頼 , (3)患者 自らが精神 神 経 症 状 に悩 んでの受診 ,な どに大別 された ( 表 1).
他病院 ・施設入院例 の身体症状 は Ya hr 分
Pa r ki ns o n 病 の精神症状について 表 1 Pa r ki ns o n 病
受 診 目 的 : 患者 r A
/ :3 5 1
弘前大学 神経精神科
① 脳波 ・
④ 神経 ・精神症淡 他病院 ・施設 l 精神症状
症 例 数
2 1 9 1 1 ‑I :. 川 ・.
榊 墜 ‑ 11
‑888 矧 l
叫 ]
類 甘〜 Ⅴで,発症 か ら 2 カ月〜1 1 年 を経過 し てお り,いずれ も精神症状 が重症 で持続す る ために入院 した もので ある. したが って,冒 集 団 としての Pa r ki ns on 病 に偏 りが あ り, 精神症状 発現率が他 の報告例 よ りも高 くかつ 重症 と思 われ る.
これ ら 4 0 例 中,抗パ剤投与 の有無 にかかわ らず ,経過 中に明 らか な精神症状がみ られた のは 3 4 例 ( 8 5%) で あ った. まず ,4 0 例 を対 象に抗パ剤投与前 の精神症状 の有無 につ いて 検討 した.次 に,精神症状 が み られ た 3 4 例 中, 当科 で治療観 察 ( 1‑1 2 年) された 2 4 例 につ いて,抗パ 剤 投与 中の精神症状 を検討 し た. この うち 1例の剖検 を得, さ らに他病院 で死亡 し病歴学 的には不詳 な 1 例 を あ わ せ て, 2例 の神経病理学的所見か らの考察 を加 えた.
Ⅰ Ⅰ . 結 果 抗 パ剤投与前 の精神症状
抗パ剤 に よる治療前 ,身 体の不調が次第 に 顕化す る頃か ら ,4 0 例 中 2 0 例 になん らかの持 続性 の精神症状がみ られた.それ らは,記銘 力障害 ( 1 1例),神経症状態 (6 例),拘 うつ 状態 (6 例),性格 変化 (4 例),幻覚 (3 例) な どで あ り,患者 は病院 を転 々とし, 3 例は 祈祷師 を訪れ るに至 っていた.
この うち,記銘 力障害 は初期 には軽〜 中等 度 で,その後 の経過が追跡調査 された 6 例 で は全例 にせ ん妄状態 または 痴 呆 が 観 察 され た.
神 経症状 態 と診断 された 6 例 はすべ て中〜
高年 の女性 で,家庭 内で対人葛藤 が ある こと
3 5 2 吉 村
J . : i( ・ : . l 什 J ; I . F' ; ・ ・ : 晶 t ‑ ・ ∴
1 l女 ; r 6 5 雪 8年 鳩 嘉 だ慧 去習若い と言 われた 3 J可 6 0 : 8 ほ 需品 慧 雷管品票 ず る
Se pt e mbe T ,1 9 8 3 Hi r os a kiMe d. ∫ . 3 5( 3 )
表 2 抗 パ 剤 投 与 中 に み ら 抗 パ剤投与前
精 神 症 状 神経衰弱状態
抗 パ剤投与 中の精神症状
せ ん妄 ,抑 うつ, 自若企 図,痴
呆 , 錯覚
不安状態‑
抑 うつ状態 パ レイ ドリア,幻 視 心気症 ,幻 聴 偽 幻覚 ,幻聴 ,独語,不眠 47 5 1祈祷 師に よる暗示
6 1可 5 2 . I l o tJ 良子 の結婚
女 68 J 7 1夫 の死 亡, レイ プ
11
8 3 男
11
神経衰 弱状 態 ,
体感幻覚
神経衰 弱状 態 体 感 幻 覚 , 抑 うつ, 自殺企 図,
拒 食, 痴 呆 ,失禁
不安,焦燥 ,苦 悶,幻視,痴呆 体 感異常
神経豪弱状態 抑 うつ状態
神経衰 弱状態 ,L ‑ dopa・ DCI の 離脱症状 ( 抑 う つ)
妄想反応,抑 うつ 抑 うつ状態
抑 うつ状態
記銘力 障害
幻視,痴呆 ,せ ん妄 ,過食
l 抑 うつ・記銘 力障害
幻 視 , 易怒 ,脱抑 制, 果 , 失 禁 ,軽操
易怒,興奮 ,痴呆 ,過食 ,多動 不眠 ,焦燥 ,希死念膚,易怒 , 嫉 妬妄想 ,関係念慮 ,痴呆
幻視,不眠 ,易怒
痴呆 ,性的行動異常,過食 ,脱 抑 制,失禁,軽操
記銘力 障害 i r 幻視,痴呆 ,せ ん妄
22 ;女
2 3 1男 !5 6 .l l
24 1 女 ■ i 6 0 6
記銘力 障害 記銘力 障害
記銘 力障害, 堕墜 変些̲
記銘力 障害
幻 視 ,パ レ イド リ ア,せ ん妄 ,
匝 墨 ー̲ 易 怒 , 興 奮 ,鎧翼‑
神経衰 弱状態
⊆ せ ん妄,幻視,痴呆 体感異常 ,痴呆 ,せ ん妄 多幸,抑 うつ, 算力低下
痴呆 ,性 的行動異常 操 ,体感幻覚 ,失禁 せ ん妄,痴呆 ,過食
力障害 ,計
ya hr 分類 :臨床 的症 度分類 ( Ⅰ‑Ⅴ) ,病 歴期 間 の最終時 の障害度 を記 載
心 理 検 査 I .検査施行時は病 歴期 間 の最終時 とはか ぎらない. WAI S ( 言語性 IQ), 長谷川 ( 長谷川式
が示唆 され た .性格 的には,内向的,凡帳面, 神経質 ,勝気 とい う傾 向を もち,精神的柔軟 性 に欠け,被暗示性が高い者が多 く,身体 的 不調に固執 し,心気,抑 うつ ,不安 ,神経衰 弱状態 を呈 していた. これ らの症例 にはその 後抗パ剤 に関係 な く,反応性抑 うつ状態 ( 症
例 2)や,祈祷師に よる暗示 と関係 のある内 容 の幻聴 ( 症例 3) あ る い は 体 感 幻 覚 ( 症 例 4) を生 じた症例が あ った.上記 の 3 症例 の症状 は持続性 で,症例 4 で は a ma nt a di ne
・HCl 投与後 に拒食 , 自若企 図がみ られた .
症例 1 は医師になお らない と言 わ れ た こ と
昭和 5 8年 9 月 弘前 医学 35 巻 3 号
れ た 精 神 症 状
Pa r ki ns o n 病 の精神症状 について 35 3
合 併 身 体 症 状
右 両 両
高血圧 ,腔 反射冗 進 神経 因性膜朕
Ⅲ l記 名力 8. 2
高 血圧 ジスキネ ジ‑
弓高血圧,冠不全 I
と腺 反射冗 進 l
記 名力 5. 3 長谷 川 7. 5 順 唱 3 長谷 川 2
簡易的精 神機能評価 ス ケール),記銘力 ( 順 唱),数 のj r P 昌 ( 柿 ).
辛,せ ん妄状態にな った ことを苦 に し,予期 不安 と家庭 内孤立 のために何度 も自殺 を企 図 した.症例 5,6 は身体症状 の軽減 につ れて, 一時的に小康状態 を得 たが,長期経過 の中で 時 々神経症状 態 に陥 っていた.
抑 うつ状 態 を呈 した 6 例 ( 女性 3 ,男性 3)
の抑 うつ症状 の特徴 は,抑 うつ気分の他 に不
安,焦燥,心気症状 がみ られたが,精神運動
制止 や 自責傾向はめだたず,妄想 的 とな る症
例 もあ った.症状 の 日内変動 はみ られ なか っ
た. この抑 うつ症状 の重症度 は Pa r ki ns on 症
状 の重症度 とは関係 な く,全例が Ya hr 分類
3 5 4 吉 村
∬〜 n lの時期 に発症 していた. 6 例 中 4 例が 対象喪失,すなわち夫や子供 の死亡 とか職場 の解雇 な どの事件後 に顕化 し, 1 例 ではその 抑 うつ状態 は夫 の態度 に対 して反応的 に増悪 した と考 え られた. また, 6例 中 5例が家庭 内または社会的に孤立 していたか,一人暮 し の者 で あ り,その症状発生 の背景は了解可能 で,反応性 うつ病 または神経症性 うつ病 とみ な し得 る もので あ った.
幻覚 は 3 例でみ られ たが, 1 例 は両眼失明 者 に認め られた体感異常 ( 心臓,腸 ,葦丸な どの臓器か ら全身 に しびれが拡が ってい くと い うもの) であ った.
2 伊掴ま前述 した ごと く,祈祷師に暗示 を受 けた後 に発症 した体感異常 ( 頭か ら虫がで る.
蛇がつ いて頭や腹 をか きまわす な どとい うも の) と幻聴 ( 病気 をなお して もらえ とい う神 の声) で あ り, これ らは抗 パ剤 と向精神薬 に よる治療 中 も持続 した.
性格変化 として家族が 訴 え た もの は, 短 気,気分易変 で あ り,すべ ての症例が60 歳以 上 であ った.
抗パ剤投与中 にみ られた精神症状 ( 表 2) 24 例 において抗バ剤投与 中に精神症状がみ られたが,治療 開始か ら精神症状発現 までの 期 間は数 日か ら6 年 と多様 であ った. この中 には投与 前にみ られた症状 が遷延 した もの, 変化 した もの,または新たに出現 した ものが 含 まれ ていた.
精神症状 は,意識障害 を伴 うもの (1群) と意識障害 を伴わ ない もの (≠群) に大 別 さ れ た. 1群 は大多数が急性 精 神 病 の 形 を と り,せ ん妄状態 を呈 した. Ⅰ群 は,幻覚,妄 想,痴呆 ,抑 うつ,不安,焦燥,不眠,性 的 行動異常,脱抑制,軽繰 ,多幸,過食,反社 会 的行動 ,人格障害 な どであ り,大部分は慢 性持続性 に,一部は抗パ剤が過量授与 された 時 のみに認め られた. これ らの症状 は単独 に 出現 す るのではな く,い くつ かの症状 が重複
してみ られた.
以下 ,各症状 につ いて詳述す る.
Se pt e mbe r ,1 9 8 3 Hi r os a kiMe d.J .3 5( 3 )
Ⅰ群 :せん妄状態 を呈 した症例群 (8 例) の精神症状
主 として夜間せ ん妄 の形 を とった. まず, 落着 きが な く不眠が ち とな り,幻視,錯覚が 活発 とな り幻聴 を体験 す る場合 もあ った. さ らに進む と,嫉妬,被害 ,迫害 な どの妄想 を もつ に至 り,運動不穏 は 著 明 と な り, 俳 梱 し,両便失禁 を呈 した例 もあ った.
せ ん妄発現時 年 齢 は60‑74 歳で,Pa r ki n‑
s on病発症 か ら第 1 回せ ん妄 までの期 間は 1
‑1 4 年 と多様で あ った.全例 にせ ん妄発症以 前 か ら記憶 ・記銘力障害がみ られ,せ ん妄発 現 とは別に意識障害 を伴わない幻視の体験 を もつ ものが 4 例 あ った ( 症例 8,1 6,1 8, 20) . 8 例の身体症状 はいずれ も Ya hr 分類 皿‑ Ⅳ であ った.その うち 6 例 が入院 中に生 じ,忠 性精神病 の型 を とった.他 の 1 例 ( 症例1 8) は幻視,錯視が慢性 にみ られ,外来治療 中に 拝 聞性 に症状 が出没 した.残 りの 1例 ( 症例 24)は外来治療 中に精神症状 が発現 したため 入院 し,抗パ剤 を中止す ることに よって軽快
した.
入 院 中にせ ん妄がみ られた上記 6 例 中, 5 例 では入院早期 (4‑ 7日) にせん妄が出現
し,Ldopaの 減 量 , ま た は amant adi ne・
HCl の投与 中止 あるいは退院に よ って 精 神 症状 は消過 した.残 る 1 例 ( 症例2 0) では不 安 ・焦燥感 のために, 自ら常用 量 の 倍 の L‑
dopa4, 500mg/ / 日を 1日間服 用 した 後 に せ ん妄が生 じた. この例 では,抗パ
剤の中止 に もかかわ らず症状 は 2 カ月半持続 し,各種 向 精神 薬 で も難 治 で あ り, 軽 快 した 時 に は Par ki ns on症状 の増悪 と高度 の痴呆 を残 して いた. また,全例 にせ ん妄時 の健忘がみ られ たが,軽症者 においてのみ一部の記憶が保 た れていた.
せ ん妄発現時 に授与 されていた抗パ剤 は, 4 例 が 抗 コ リ ン 剤 ,amant a di ne ・HC 1200‑.
300mgお よ び Ldopa ( 750‑1, 200mg , 1
例は 4, 500mg) の三者併用,2 例が amant a ‑
di ne ・HC 120 0 mg と L‑ dopa ( 1, 50 0 mg ,
昭和 5 8年 9 月 弘前医学 3 5 巻 3 号
DCI 合剤 750mg) , 1 例が t r i he xyphe ni dy1 6mg , 1 例は不明で あった.
Ⅰ Ⅰ群 :意識障害 を伴 わない症例 の精神症状 幻覚.幻視が主で あ り ,1 2 例が これを体験 していたが,その中の 6 例で一過性 に意識障 害がみ られた ことが あった ( 前述).意識障害 を伴わない場合 の幻視の初期 あるいは軽症時 には,要素的な幻視を訴 える場合が多 く,糸 屑,蜘妹 の巣状 な どの幾何学的模様がみ られ た り,閉眠時 に赤や青の色彩 を帯びた不鮮明 な形状が一過性 に出現す るもの もあった. こ れ ら幻視は Ldopa の投与開始や増量時に好 発 したが,その投与量 には 必 ず し も関 係 せ ず,少量投与 を受けた例 に もみ られた ( 症例 1 3, 1 4) . さらに幻視が重症 にな ると複合幻覚 とな った.す なわち,夕暮れ になる と小 さい 良,犬 ,人形 な どが現われて動 きまわ るとい うものであ った.初期 には この幻視に対 して 批判力を持 ってい るが,慢性 になるにつれて パ レイ ドリアや錯視 も加わ り,異常体験 に対 す る批判力 も失なわれ,せ ん妄状態 を経験す る者 もいた ( 症例 1 8).
体感異常は次 の 4 例 にみ られた.それ らは 抗パ剤投与前 に祈祷師に暗示を受けた後 に生 じた もの ( 症例 4. 治療後 も症状 は持続 して い る),投与 中に一過性 に体がふ くれ あ が る と訴 えた もの ( 症例 5 , 21 ) , お よ び Ldopa を服用 させ ると 「頭に釘が さ さ って 流 血 す る.頭の中に ガス が で て きた」 と訴 え, L dopa の中止 に よって この異常体感が 消 失 し た 1 例 ( 症例 23) であった.
せ ん妄時以夕日こ幻聴がみ られたのは症例 3 のみであった.
妄 想.内向的性格 の女性 2 症 例 に み られ た ( 症例 7 ,1 2). 内容は嫉妬妄想や関係念慮 であった.両者 の夫の態度は妻 に対 して冷淡 で あ り,症例 1 2 は家庭内で孤立 した結果,柄 院や施設 を転 々 としていた.妄想 の発症年齢 は 4 2 歳 と 6 0 歳で,症状は持続性で あった.
抑 うつ状態. 6 例で抑 うつ気分が強 く, 1 例 のみ抗 コ リン剤投与 中にやや多幸 になるこ
Pa r ki ns o n 病の精神症状について 3 5 5 とが あった.抑 うつ症状 の特徴は,前記 した 抗パ剤投与前 にみ られた もの とほほ同様であ った.抗パ剤投与前 に抑 うつ状態 を呈 した 6 例 の うち,抗パ剤投与後 も追跡調査 されたの は 4 例で,いずれ も症状 は持続性であったが その中で も 2 例 ( 症例 7,9) で抑 うつ 症 状 が強 く,他の 2 例 は幻視,痴呆 な どの他 の精 神症状 におおわれて抑 うつ性がめだたな くな る傾向がみ られた. また,初期に神経症状態 と診断 されていた 2 例 ( 症例 1,4) は 自殺 企 図を くりか えした.症例 6 では感 冒時に抗 パ剤 を休薬 し, 1 週 間後 に離脱症状 と考 えら れ る神経症状 ( 特 に振戦) の悪化に伴 って, 不安 ・焦燥感の著 明な抑 うつ状態を呈 し,抗 パ剤投与 に よって身体症状の軽快 とともに精 神症状 は消失 した.
痴呆. Pa r ki ns on 病 の経過 につれて,進行 性 の記憶 ・記銘力障害,思 考 ・判 断 力 の 低 下,状況把握困難 な どを指摘 された者が多か った.抗パ剤投与前 に記銘力障害 を訴 えた 1 1 例 中 6 例が追跡調査 されたが,抗パ剤投与 に よって記銘力障害が軽快 した 者 は い な か っ た. また,経過観察 された 24 例 中 1 4 例 ( 5 6, 6
%) に軽‑重度 の知的水準の低下が認め られ た. それ らの 症 例 の 心 理 学 的 検 査 に は, WAI S ,鈴木 ビネ一,記銘力 テス 上 長谷川 式簡易的精神機能評価 スケ ール が 用 い られ た.
痴呆があるとみ られた 症 例 は, 4 0 歳 以 下 (1 例) ,4 0‑59 歳 (4 例), 6 0 歳 以 上 (9
ユ 0 )
刺)であ り,痴呆 の重症分類では軽症 6 ,中 等症 4 ,重症 4 例 であった. この重症例 の中 には ,24 歳で発症 し10年後の鈴木 ビネ‑知能 テス tで I Q 3 0 ( 身体症状が最 も良い時間帯 に,時間因子 を無視 した方法で検査 を施行 し た) とい う値 を示 した 若 年 性 Pa r ki ns on 病 の 1 例 ( 症例 1 5) が含 まれてい る.
性格変化.多 くの症例で,多少 とも情動の
変化が強 く, よ り敏感 になるか あるいは鈍麻
化す る傾向が あ った. しか し,周囲の人か ら
特 に苦情がでた り,その他 に社会的問題 を生
35 6 吉 村
じた例 は定位脳手術 を受けた 3 例 のみで,共 通 した憤 向は易怒性 の変化であ った.
その他. 少数 の症例 にみ られた特異 な症状 として,過食 (5 例)が あ り,鴫下障害が著 明に もかかわ らず食物 を要求 した. これ らの 症例 ( 症例 8,1 0 ,ll ,1 5, 24)はすべて痴呆が み られ,抑制が欠如 していた. また, 4 例 に おいて Ldopaが過量 に授与 され ていて ( L dopa 3 , 00 0 mg,Ldopa・c ar bi dopa ( DC I ) 50 0 mg ,75 0 mg,1 . 50 0mg)その うち 2 例で は定位脳手術 を受けてい た. 残 りの 1例 で は,授与 され て い た Ldopa と t r i he xyphe ‑ ni dyl は少量 であ った. さらに, 性的行動異 常がみ られたのは 34 歳 と 67 歳 の痴呆男性 ( 症 例1 5, 23)で,女性 を追いかけた り抱 きつ い た りした. 67 歳 の例 では夜這いに入 り,追い か えされ る と 3 回にわた る放 火 を 試 み て い る. この 2症例 では,Ldopa投与 に よ っ て 軽快状態 となる傾向が認 め られた.
合併身体症状
24 例 中,高血圧症や低血圧症 で治療 を要 し たのは,おのおの 4 例であ った. ジスキネ ジ ーが認め られた者 は 5例 で,その うちの 2例 が ヒポ トニ ーを呈 した.L‑ dopa ・DCI1 , 5 00 mgが授与 され ていた者 ( 症例11 ) には,重 症 の ヒ ョレア様不随意運動 も加 わ っていた.
そのほか, 四肢 の鹿反射 克進 2例 ,著 明な 消化管 の 自律神経症状 2例 ,神経 困性勝朕 3 例 ,冠不全 1 例がみ られた.
検査所見
脳波 は精神症状が認め られた 3 4 例 中 2 0 例 で 検査 され, 5 例が正常範 囲 ,1 5 例が異常 と診 断 された. この異常例 中,1 1例が痴呆例 であ った. また,異常例 の中には初診時正常脳波 で あ ったが,数年 後に異常 を指摘 された者が 3 例 あ った.異常脳波 の共通所見 は全汎性 の 徐波化所見 と di s or gani z a t i onであ り, 加 え て,特 に前頭葉 または側頭葉領域 に限局性 の 徐波の増加 がみ られた例が 6 例 あ った.
Se pt e mbe r ,1 983 Hi r os a kiMe d. J . 35 ( 3)
CT スキ ャンは 9 例で施行 されたが, 4 例 では異常が な く, 4例 で軽度 の大脳 皮質萎縮 と側脳室 の拡大 , 1例で中等度 の皮質萎縮 と 側脳室お よび第三脳室 の拡大がみ られた.
定位脳手術例 について ( 症例1 0 ,ll ,1 2) 3 例 中, 2 例 は 1 年 間の間隔 をおいて両側 の t ha l amot omy を, 1例は右側 ( 劣位側) のみの t ha l a mot omyを受け, それぞれ術後 5,7,8 年 を経過 していた. 3 例 とも術後 に 増強 した中〜高度 の構音障害がみ られた.
術後 4‑ 5年 を経 て知的荒廃が明 らか とな り,症例1 1は軽愚 であ った ものが高度障害 と な り,他 の 2 例は比較的軽度 の痴呆 を呈 して いた. しか し,構音障害が強 く,意志伝達に 困難 を生 じる場合が 少な くなか った. 3 例 と も易恋的 な情動反応 を呈 しやす く,周囲の人 と協調で きず,人格面での 問 題 が そ の 社 会 的,家庭的孤立化 を促進 してい るよ うに見 え た.
剖検例 について
剖検例 Ⅰ ( 症例 8).73 歳 ,女性
6 8 歳時 に,天 の死亡お よび強姦 され る とい
う事故 を実機 として抑 うつ 状 態 に 陥 り, ま
た,些細 な ことに怯 えるよ うにな った. この
頃か ら,振戦,寡動,筋固綿が著 明 とな り,
Par ki ns on病が発症 した.当初,t r i he xyphe ‑
ni dy 16 mg,i mi pr ami n 3 0 mg ,脳代謝賦活剤
な どの投与 を受けていたが,数 カ月後 に某病
院に入院 した.入院 1週 間後 に特 に薬剤 の変
更 な しに,幻視,不安,不眠,夜 間せん妄 を
呈 して当科 を受診 した.痴呆 ,抑 うつ状態 を
伴 った Par ki ns on病 として,少量 の 鎮 静 剤
の投与 を受け,せ ん妄状態 は 軽 快 し退 院 し
た.死亡前 の 2‑ 3 年 間は Ldopa3, 0 0Omg ,
t r i he xypheni dy 16 mg,amant adi ne ・HC120 0
mg が授与 され た. 時 々, 幻 視 を 訴 え, 健
忘,過食 ,抑 うつ状態 な どが持続的にみ られ
ていたが,死亡数 日前か ら脱 力,噴下 困難の
増強 をみ,食事 中に呼吸困難 を呈 して死亡 し
昭和 5 8 年 9 月 弘前医学 35 巻 3 号
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Par ki ns on病の括神症状について 35 7
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