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Microsoft Word - 泉山 一般対応の必要経費と直接関連性に基づく裁決事例を基に最高裁平成26年1月17日決定による影響を考察

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一般対応の必要経費と直接関連性に基づく裁決事例を基に

最高裁平成 26 年 1 月 17 日決定による影響を考察

平成26 年 9 月 11 日 税理士 泉山 殖

Ⅰ はじめに

去る、1 月 17 日最高裁で上告不受理により、一般対応の必要経費該当性の要件が変更さ れた。 所得税第37 条(必要経費)は、売上原価等の収入に直接対応が要求される個別対応の費 用と販売費等の直接対応が要求されない一般対応の費用を規定している。従来の判例では、 一般対応の必要経費について直接的関連性が要求されると解釈され、事実認定の客観的判 断が納税者にとって厳しいものとなっていた。また、申告後の調査において直接関連性の 客観的な証明が難しく、争点となることが多かった。 直接関連性の証明と業務遂行上の必要性を証明する判断基準である「社会通念上」の証 明は、その困難さに基因して、納税者の申告納税制度における予測可能性と法的安定性に 少なからず影響を与えていた。 平成26 年 1 月 17 日最高裁第二小法廷は、一般対応の必要経費について「事業との直接 関連性」の要件を実体法上の条文から見出すことができないとの高裁判決を支持し、判例 上の必要経費該当性の要件を2要件説から1要件説に変更した。 学説 要件 1要件説 ・業務遂行上の必要性 2要件説 ① 支出と事業との直接関連性 ② 業務遂行上の必要性 以上により、今後の焦点は「業務遂行上の必要性」をどのように主張立証するかに移さ れた。本稿では、平成25 年 7 月 9 日「不妊治療クリニック事件」の裁決を基に検討を試み る。

Ⅱ 「不妊治療クリニック事件」

(2要件説事例)平成 25 年 7 月 9 日裁決

1. 事案の概要 本件は、不妊治療のクリニックを経営する請求人(以下「X」という。)が、事業所得の 金額の計算上、必要経費に算入した開業費の償却費、接待交際費及び旅費交通費の各一部

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2 の費用について、原処分庁(以下「Y」という。)が、当該各費用は、X の業務の遂行上必 要なものとは認められず、必要経費に算入できないとして所得税の更正処分等を行なった のに対し、X が業務の遂行上必要なものとして取消を求めた事案である。 2. 事案のキーワード・関係条文 「必要経費」「家事関連費」「業務の遂行上必要」 「業務と直接関係」 所得税法第37 条(必要経費)第 1 項 所得税法第45 条(家事関連費等の必要経費不算入等) 所得税法施行令第96 条(家事関連費)

Ⅲ 事案の問題点(争点)

本件の争点は、次の2 点である。 争点1:本件各費用(本件各年分の開発費、接待交際費及び旅費交通費)は、事業所得の 金額の計算上、必要経費に算入されるか否か。 争点2:本件確定申告等が過少申告となったことについて、通則法第65 条第 4 項に規定す る「正当な理由」が認められるか否か 以上のうち、争点1の接待交際費について検討する。

Ⅳ 主張及び判断

1. Y の主張(以下の理由により必要経費を否認する。) X が本件各年分の接待交際費として必要経費に算入されると主張する各費用につい て、X から個別具体的な内容についての説明等もなく、このような状況下で X が接待 の目的を飲食の相手方によって区分しても、当該目的に信憑性がないと認められたこ とから、客観的にみて、これらの費用の主たる部分が X の業務と直接関係をもち、か つ、当該業務の遂行上必要なものとは認められず、業務の遂行上直接必要な部分を明 らかにしたということもできない。従って、X が本件各年分の接待交際費として主張す る各費用は、必要経費に算入されない。 2. X の主張(以下の理由により必要経費に算入される。) (1) 本件クリニックは、無床の不妊治療に特化していることから、当院だけでは治 療が完結しない場合は、他の医療施設との連携が必要になってくるため、どれだ けの人脈があるかが必要になってくる (2) 不妊治療は、日々急速に進歩しており、X は、最新の情報を得て日々技術が向 上している。そのためには、通常の学会に出席しているだけではなく、医療関係

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3 者と連絡を密にして最新の情報を得る必要がある。 別表3の(1)①、(2)①及び(3)①の「X 主張額」の各欄の各費用は、上記 の理由から、X が医療関係者等に対し飲食店やクラブ等で接待供応を行なったもので あり、業務上の情報提供、意見交換及び請求人の患者の入院、手術、検査等におけ る利益や便宜の供与を図るものであるから、当該各費用は業務と直接関係をもち、 業務の遂行上必要なものである。 従って、上記の各費用は必要経費に算入される。 3. 審判所の判断 (1) 認定事実(Xの事業状況) ① 本件クリニックの医師はX1人であり、不妊治療を受けるための患者が1日に およそ50ないし80人来院する。また、本件クリニックには入院設備がな いことから、X は、流産した患者に対する処置及び入院を伴う手術や子宮筋腫 等の症状が認められた患者に対する内視鏡手術について、これらの処置を専 門とする病医院に当該患者の手術を依頼していた。 ② X は、患者が妊娠6ないし7週目になると、患者を本人の希望する病医院(分 娩施設)に紹介していた。なお、多胎妊娠や合併症のおそれのある患者など 分娩リスクの高い患者に対しては、X は、その症状に対応できる設備と専門医 がいる大学病院での出産を勧め、それらの病院に当該患者の分娩管理を依頼 していた。 ③ 本件クリニックには、X 及び X の妻(P2) の他、10人前後の看護師及び培 養士が勤務していた。 (2) 判断(法令解釈等) ① 所得税法第37 条第 1 項に規定する「販売費、一般管理費及びその他これらの 所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じた費 用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連があるという だけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、かつ、業務 の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である。 ② なお、個人の場合には活動すべてが利益追求ではなく、所得獲得活動の他い わゆる消費生活があるので、個人の支出の中には収入を得るために支出され ているとは言い難い、むしろ所得の処分としての性質を有しているというべ

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4 きである。例えば、食費・住居費等がその代表である。所得税法第 45 条は、 これらを家事費と呼び必要経費に含めないことを明記している。 しかし、ある支出が家事費であるかそれとも事業上の経費であるか明確に 区分けできない場合が多く、また、例えば店舗兼住宅の減価償却のように、 家事費と事業上の経費とが混在している場合も少なくない。 そこで、所得税法第45 条は、両方の要素を有している支出を家事関連費と いい、必要経費になる部分が明らかでないためこれを原則として必要経費に 含めないこととしつつ、所得税法施行令第96 条に規定する事業の遂行上明ら かにできる一定部分に限ってこれを必要経費に算入することを認めている。 このように、所得税法は、明確に事業上の経費とはいえないものは、原則 として必要経費に算入しないこととしている。 (3) 検討 上記(2)① のとおり、ある支出が必要経費として総収入金額から控除されるた めには客観的に見てその支出が業務と直接の関係をもち、かつ、業務の遂行上必要 なものに限られると解されるところ、接待交際費については、個々の支出に係る接 待交際の理由、目的、相手方及び金額等諸般の事情等からみて専ら業務の遂行上必 要である場合に限って必要経費になると解される。 そこで、X が必要経費であると主張する接待交際費について、以下検討する。 ① 別表4の順号1 ないし 26 の各医師らとの飲食代 (イ) X は、順号1ないし6の各医師らとの飲食代について、上記の請求人の主 張のとおり、業務上の情報提供、意見交換及び X の入院、手術、検査等に おける利益や便宜の供与を図るものであることから、当該各費用は業務と直 接関係をもち、業務の遂行上必要なものである旨主張する。 確かに、X は、不妊治療中の患者に内視鏡手術等必要とする症状が認めら れた場合に、本件クリニックでは内視鏡手術等を行っていないため、内視鏡 手術等を行っている産婦人科等の医師らに患者を紹介し、手術を依頼するな ど、双方向の診療連携を行っており、当該連携先の医師らは、X の業務と直 接関係があるものと認められる しかしながら、当該医師らを日頃から接待することで、将来、内視鏡手術 等が必要になった場合に結果的に X の患者らによりよい治療ができたとし ても、そもそも、医師には診療義務があり、他の医師等への紹介状が必須と いうわけではなく、患者においても手術等を終えた後に本件クリニックに戻 るとも限らず、接待すれば本件クリニックに戻るという関係があるわけでも ないことからすると、順号1ないし6の各医師らとの飲食代が、専ら業務の

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5 遂行上必要であるとまでは認めることができない。また、上記(2)②から すれば、これらの費用の中には家事費が含まれていると認められるから、当 該費用は家事関連費に該当し、そのうち業務に必要な部分が明らかに区分さ れていないことから、所得税法第 45 条及び所得税法施行令第 96 条の規定 からすると、必要経費に算入することはできない (ロ) また、X は、順号7ないし 26 の各医師らとの飲食代について、医療関係 者から最新の医療情報を得ることは、業務の遂行上必要なものと主張する。 しかしながら、当該医師らに日頃から接待することで、将来、患者の紹介 を受ける機会や有益な情報を得るなど、医院経営に資することがあると期待 できる場合でも、証拠上、順号7ないし26 の各医師らとの飲食代が、専ら 業務の遂行上必要であるとまでは認めることができない。また、上記(2) ②からすれば、これらの費用の中には家事費が含まれると認められることか ら、当該費用は家事関連費に該当し、そのうち業務に必要な部分が明らかに 区分されていないことから、所得税法第45 条及び所得税法施行令第 96 条 の規定からすると、必要経費に算入することができない

Ⅴ 研究

裁決に反対(理由:1 要件説) 1. 本裁決の意義と位置づけ 本裁決は、所得税法第37 条 1 項の一般対応の必要経費の該当性の解釈について、「当 該事業の業務内容、当該支出の相手方、当該支出の内容等の個別具体的な諸事情から 社会通念上に従って客観的に判断して、当該事業と直接関係を持ち、且つ、専ら業務 の必要といえるかによって判断すべき」という立場からの2 要件説によるものであり、 特に直接関連性を強く求めた事例である。この業務関連性の直接要件の解釈は、制定 当時の、制度趣旨とかけ離れたものとなっている。 所得税法第37 条 1 項は、昭和 40 年改正において制定され、その制度趣旨について、 昭和38 年 12 月の税制調査会の答申では次のように述べている 「費用収益対応の考え方のもとに経費を控除するにあたって、所得の基因となる事 業等に関係があるが所得の形成に直接寄与していない経費又は損失の取扱いをいかに すべきかという問題については、純資産増加説的な考え方に立って、できるだけ広く この種の経費または損失を所得の計算上考慮すべしとする考え方と、家事費を除外す る所得計算の建前から所得計算の純化を図るためには家事費との区分の困難な経費等 はできるだけこれを排除すべしとする考え方との広狭二様の考え方がある。所得税の

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6 建前としては、事業上の経費と家事費とを峻別する後者の考え方も当然無視すること ができないが、事業経費又は事業損失の計算については、できる限り前者の考え方を 採り入れる方向で整備を図ることが望ましいと考える。」 この制度趣旨によると、一般対応の必要経費はできるだけ純資産増加説的な考え方 に立って、できるだけ広くこの種の経費または損失を所得の計算上考慮すべしとして いる。 平成24 年 9 月 19 日の東京高裁判決は、租税法律主義の立場から、所得税法施行令 第91 条 1 号を文理解釈し、「事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈するす る根拠は見当たらないとし、業務関連性の要件には「直接性」は不要とした。最高裁 第二小法廷はこれを指示し確定した。この判断は、上記の制度趣旨に沿うものである。 平成25 年 7 月9日「不妊治療クリニック事件」の裁決は、所得税法第 37 条(必要 経費)の一般(期間)対応の必要経費の要件について、「業務の遂行上必要」と「直接 関連性」の2要件説による裁決事例である。ある支出が「直接関連性」の証明ができ ないこと、家事費であるかそれとも事業上の経費であるか明確に区分けできないとい う理由で、社会通念上必要と認められる費用が、所得税法第 45 条を根拠に否認され、 課税処分を受けた事例である。 本裁決に「業務の遂行上必要」の 1 要件説をあてはめた場合、必要経費の範囲がど のように異なるか、また、「業務遂行上の必要性」の事実認定の判断基準である「社会 通念」の解釈と立証責任はどうあるべきかを検討し問題点を提起したい。 2. 本裁決の判断構造 個人事業者の支出には、必要経費部分と消費支出部分が含まれているため、明確に 区分しなければ、正しい担税力の測定ができないことになる。必要経費か消費支出か の判断は事実認定の問題であり、租税公平主義を守ろうとする租税行政庁側の立場か らすると、極めて慎重にならざるを得ない問題であった。このことが、直接関連性の 要件を求め必要経費の取扱いの範囲を狭める結果にも繋がっていた。納税者からする と、租税法律主義に基づく申告納税制度の義務の履行にあたって、「直接関連性」の立 証責任と「業務の遂行上必要」の立証責任の二重の負担を抱え、極めて不安定な義務 の履行をせざるを得ない状況となっていた。 本裁決の判断構造は、所得税法第37 条(必要経費)第 1 項では直接対応費用(売上 原価)と一般(期間)対応費用とに分類し、必要経費の要件を定め、所得税法第45 条 (家事関連費等の必要経費不算入等)では必要経費不算入について定める、という法 構造になっている。 また、所得税法第37 条(必要経費)第 1 項の一般(期間)対応費用の判断に「直接

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7 関連性」の要件を入れて判断した裁決例である。 3. 業務遂行上の必要性の検討 (1) 「業務遂行上の必要性」と「通常かつ必要」の解釈 「通常」とは、辞書によれば、特別の事情がなく、いつもどおりであること。 普通、一般的であること。とされている。従って、「通常かつ必要」とは、一般的 にみて必要であること。即ち、社会通念であるということになる。「業務遂行上の 必要性」も社会通念上の客観的な必要性を要求しているので、「通常かつ必要」と 「業務遂行上の必要性」は、同義と解される。 (2) 社会通念とは 「社会通念」という言葉は、民事法では「慣習」や「取引通念」と同義に使わ れ、刑事法では、「常識」と同義に使われる。「業務遂行上の必要性」を「社会通 念」から判断することは、事実認定の問題である。事実認定の基本的な考え方に は、「経験則」と「動かし難い事実」がある。「経験則」とは、普通、物事はこの ような経過で進んでいくものだとか、普通、人間はこのような行動をとるもので あるとかという法則をいう。また、「動かし難い事実」とは、公知の事実又は客観 的に信用力が確定している証拠によって確認し得る事実をいう(注 2)。「業務遂行 上の必要性」の社会通念上の判断は、慣習や取引通念をもとに「経験則」から事 実認定を行う考え方である。「社会通念」を経験則から判断する場合、納税者と租 税行政庁では、利害が対立するため、必然的に異なることになる。このことから、 主張立証責任の分配の考え方が必要となる。 (3) 「業務遂行上の必要性」の主張立証責任の分配 「業務遂行上の必要性」の事実認定では、社会通念上「その行為が必要なものか」、 「その支出金額が相当であるか」の判断を行うことになる。「業務遂行上の必要性」 の主張立証責任の分配について、法律要件分類説に従えば、必要経費の「社会通 念上相当と認められる費用」の主張立証責任は納税者であり、「社会通念上不相当 と認められる費用」の主張立証責任は租税行政庁側にある。 (4) 攻撃防御方法から条文を構成 原告である納税者側が所得税法第37 条(必要経費)から「社会通念上相当と認 められる費用」の主張立証責任が充分に果たされたと判断された場合は、これ に対する被告(国)の所得税法45 条(家事関連費等の必要経費不算入等)1 項 1 号及び所得税法施行令第 96 条(家事関連費)の証明が不充分となり原告の主 張が認められることになる。反対に、被告(国)が所得税法45 条 1 項 1 号及び

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8 所得税法施行令第96 条からの「社会通念上不相当と認められる費用」の主張立 証責任が充分である場合、原告(納税者)の所得税法第37 条基づく証明が不充 分となり被告の主張が認められることになる。 以上のことから、納税者が「社会通念上相当と認められる行為と金額」につ いて客観的に主張立証責任を果たすためには、どのような証拠と立証方法に基 づいて行なうべきであろうか。 (5) 「事業(業務)における行為の社会通念上の必要性」の立証方法 事業における社会通念上の必要性は、客観的な事実によって認識できるもの でなければならないとされている。具体的には、所得税法第37 条 1 項及び所得 税法施行令第96 条 1 項 1 号で定める「業務関連性」ないし「業務遂行上の必要 性」に照らして行うことになる。 ① 業務関連性 ② 業務上の必要性 所得税法37 条(必要経費) 第1項 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事 業所得の金額又は雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るも の並びに雑所得の金額のうち第35 条第 3 項(公的年金等の定義)に 規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入す べき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入 金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要し た費用の額及びその年中における販売費、一般管理費その他これら の所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でそ の年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。 所得税法施行令第96 条(家事関連費) 1項 法第 45 条第 1 項第 1 号(必要経費とされない家事関連費等)に規定す る政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。 1 号 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山 林所得又は雑所得の生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要 である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に 相当する経費

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9 (6) 「業務関連性」及び「業務遂行上の必要性」の立証 主張立証方法として以下のことが考えられる。 ① 当該行為が、事業における法律上の目的、理念、責務、業務内容、業務の範 囲に合致していること。 ② 当該行為が、事業が行なわれていなければ発生する可能性がないこと。 (家事上の経費として発生し得ないこと。) ③ 支出の行為目的及び支出金額が「社会通念上の行為」と比しても異常性がな いこと。(社会通念上相当と認められること。) ④ 当該行為の相手方との業務連携が業務の遂行において欠かせないものである こと。 ⑤ 当該行為が、同業他社においても通常に行なわれていること。 ⑥ 当該一般対応の必要経費が、一般に公正妥当と認められる会計慣行としても 妥当であること。 ⑦ 行為目的を具体的に記録することにより、適時の記録を証拠として残すこと。 (7) 「行為の業務遂行上の必要性」の記録による立証 「行為の業務遂行上の必要性」を立証するため、行為のつど、行為の内容を記 録しておく必要がある。所得税法施行規則第59 条では、青色申告者の帳簿記載 方法について次のように規定している 会計帳簿の内容欄において、行為の相手方、行為の必要性などを記録してお く必要がある。但し、医療法第72 条(秘密漏示)など守秘義務の問題もある。 適時の記録は、証拠能力をもつ。証拠に基づかない主張は、客観的な主張立証 所得税法施行規則第59 条(仕訳帳及び総勘定元帳の記載方法) ① 青色申告者は、仕訳帳には、取引の発生順に、取引の年月日、内容、勘定科目 及び金額を記載しなければならない。 ② 青色申告者は、総勘定元帳には、その勘定ごとに、記載の年月日、相手方の勘 定科目及び金額を記載しなければならない

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10 とはならず、納税者には極めて不利なものとなる。 (8) 行為の業務遂行上の必要性の立証 事実の主張は、直接証拠と間接証拠に基づいて証明され認定される。行為の業 務遂行上の必要性の立証は、当該行為の社会通念上の必要性からの間接証拠に基 づいて行うことになる。具体的には、行為事実の記録として、接待の相手方、接 待の目的を帳簿に記載し証拠としなければならない。更に、これを補う間接証拠 として、医療法等の特別法の目的、理念、責務等と当該行為の正当性の立証、そ して社会通念上における行為の必要性との比較検討により正当性の立証がなされ なければならない。 (9) 小括 行政処分の取消訴訟における立証責任の分配の有力な見解として「法律要件 分類説」、「個別検討説」及び「憲法秩序帰納説」の 3 説がある。通説は「法律 要件分類説」である。法律要件分類説は、行政処分の根拠規定を権限行使規定 と権限不行使規定に分類し、前者については、権限行使を主張する者が立証責 任を負い、後者については権限行使をすべきでないと主張する者が立証責任を 負う。一般対応の必要経費の「業務遂行上の必要性」の立証責任は、「社会通念 上の必要性」を否認し課税処分をした被告(国)が立証責任を負い、他方、「社 会通念上の必要性」の合法性は原告(納税者)が立証責任を負う。このことか ら、納税者は当該行為の社会通念上の必要性を主張立証するため、日頃から間 接証拠となる帳簿書類等に、行為の「業務遂行上の必要性」の記録を残すよう 心掛けなければならない。 4. 本裁決の問題点の検討 接待交際費が所得税法第37 条(必要経費)に該当するか否かの判断について、平成 26 年 1 月 17 日最高裁第二小法廷は、一般対応の必要経費について「事業との直接関 連性」は要しないとの解釈変更がされた。 所得税法施行令第96 条 1 号は、家事関連費のうち必要経費に算入できるものについ て、「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又 は雑所得の生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに 区分することができる場合における当該部分に相当する経費」とし、「業務の遂行上必 要」のみ規定している。本規定から「直接関連性」を見出す根拠が見当たらない。こ のことから、本件裁決の法令解釈も変更されなければならない。 本件接待交際費の「業務の遂行上必要」については、当該接待行為が当時の医業界 における社会通念上から相当であったかどうかにより判断されなければならない、社

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会通念上の判断において、医療法等の特別法の目的、理念、責務等に照らして、妥当 であるかどうかは重要である。

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12 医療法の目的、理念、医師の責務は以下のとおりである。 医療法第1 条(目的) この法律は、医療を受ける者による医療に関する適切な選択を支援するために必要な 事項、医療の安全を確保するために必要な事項、病院、診療所及び助産所の開設及び管 理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備並びに医療提供施設相互間の機能の分 担及び業務の連携を推進するために必要な事項を定めること等により、医療を受ける者 の利益の保護及び良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図り、もって国 民の健康の保持に寄与することを目的とする。 医療法第1 条の2(医療の理念) 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師 その他医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心 身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防の ための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。 医療法第1 条の4(医師等の責務) ① 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第1 条の2に規定する 理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなけれ ばならない。 ② 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当た り、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。 ③ 医療提供施設において診療に従事する意思及び歯科医師は、医療提供施設相互間の 機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療 提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤 に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯 科医師又は調剤氏に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければなら ない ④ 病院又は診療所の管理者は、当該病院又は診療所を退院する患者が引き続き療養を 必要とする場合には、保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との連携を 図り、当該患者が適切な環境の下で療養を継続することができるよう配慮しなけれ ばならない。 ⑤ 医療提供施設の開設者及び管理者は、医療技術の普及及び医療の効率的な提供に資 するため、当該医療提供施設の建物又は設備を、当該医療提供施設に勤務しない医 師、歯科医師、薬剤師、看護師その他医療の担いての診療、研究又は研修のために 利用させるよう配慮しなければならない。

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13 以下では、医療法を踏まえて本裁決の判断について検討する。 (1) 別表4 の順号 1 ないし 26 の各医師らとの飲食代 ① 順号1 ないし 6 の各医師らとの飲食代について 裁決では、接待相手の各医師との関係を、双方向の診療連携を行っており、当 該連携先の医師らは、X の業務と直接関係があるものと認められるとして、接待 行為についての業務遂行上の必要性を認めている。(医療連携については医療法第 1 条の目的にも合致している。) それにも拘らず、「接待すれば本件クリニックに患者が戻るという関係があるわ けでもないことからすると、順号1ないし6の各医師らとの飲食代が、専ら業務 の遂行上必要であるとまでは認めることができない。」との理由で、当該行為の直 接関連性を否定し、所得税法第45 条(家事関連費等の必要経費不算入等)を根拠 に、必要経費を否認している。 1 要件説に従えば、Y は「業務遂行上の必要性」を認めているのであるから当 然、必要経費となるものであり、仮にY が否認するとすれば、当該行為及び金額 の社会通念上の不合理について主張立証責任を果たさなければならない。 ② 順号7 ないし 26 の各医師らとの飲食代について 当該医師らに日頃から接待することで、将来、患者の紹介を受ける機会を増や したり有益な情報を得るなど医院経営に有益なことがあると期待されることがあ るとしても、証拠上、順号7ないし26 の各医師らとの飲食代が、専ら業務の遂行 上必要であるとまでは認めることができないとしている。 本件の否認の理由は、「業務の遂行上必要」は認めるが、そのことを証明する証 拠がないということである。納税者は、「行為の業務遂行上の必要性」を立証する ため、行為のつど、行為の内容を帳簿に記録し証拠を残しておく必要があった。 しかしながら、当該医師らを接待することで、有益な情報を得て、連携し、患 者に対し、良質かつ適切な高度な医療を提供することは医師の責務とされており、 医療業界における社会通念上当然の行為である。「行為の業務遂行上の必要性」の 立証方法としてその飲食接待などの行為は間接証拠に該当し、法律上の目的に合 致することを立証している。 本裁決では、業務遂行上の必要性を認めるとしても、証拠上もっぱら業務の遂 行上必要であるとまでは認められないとしているが、当該行為が法律上の目的に 合致していることは医療法上及び医療業界のおける社会通念上、動かし難い事実 であり、当然に必要経費に算入されることになる。

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14 5. 結論 最高裁平成26 年 1 月 17 日決定は、所得税法第 37 条(必要経費)の一般対応の必要経費 の範囲の解釈について、従来の判例で示されていた、「直接関連性」の要件を不要であると し、「業務の遂行上必要」の要件のみで判断することを決定した。この決定は、所得税法第 37 条の必要経費の事実認定に重要な影響を与えことになり、狭い必要経費の実務上の取扱 いへの影響は大きいと思われる。 今後は、「業務の遂行上の必要性」を、不確定概念である社会通念基準から、どのように 主張立証していくかが問題となる。担税力測定の重要な部分について、このような不確定 概念が存在することは、納税者の申告納税制度における予測可能性がたたず、租税法律主 義からも問題がある。この問題への対処方法として、主張立証責任の分配の考え方が重要 である。 要件事実論の主張立証責任の分配からすると、当該必要経費の「社会通念上の相当性」 については納税者が主張立証責任を負い、「社会通念上の不相当性」については租税行政庁 側が負うことになる。 所得税法第37 条(必要経費)1 項と所得税法第 45 条(家事関連費等の必要経費不算入 等)の関係(法構造)を整理すると次のようになる。 所得税法第37 条 1 項 ・直接対応費用(売上原価)と一般(期間) 対応費用に分類。 ・必要経費の要件を定めている。 所得税法第45 条 ・必要経費不算入について定めている。 所得税法第37 条第 1 項の要件に該当しない費用は、家事関連費等として必要経費不算入 となり、所得税法第45 条に該当しない費用は、必要経費になるという関係になる。この関 係を、増田英敏教授は著書の中で次のように説明されている。 「必要経費の範囲を確定する方法には二つの方法があることが確認できる。 第 1 の方法は、必要経費の二つの要件である「業務関連性の要件」と「必要性の要件」 の充足の可否による範囲の確定方法である。(必要経費要件該当性による方法) 第 2 の方法は、支出金額のうち家事費と家事関連費といった期中の消費額を控除する、 消去法により必要経費の範囲を確定する方法である。(消去法) 必要経費要件該当性による方法と消去法による方法を用いても結論は一致する。」(注3) つまり、私法上の取引事実が「必要経費」か「家事上の経費」かの判断をする場合、当 該事実が「事業の遂行上必要かどうか」の側面から検討し、併せて「事業を行っていない

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15 場合、家事上の経費として生じ得るものかどうか」の両側面から検討する必要がある。そ の判断は、いずれの側面からも妥当なものでなければならない。 尚、家事関連費は、私法上の取引事実のうちに、「業務の遂行上必要」な要素と「家事上 の経費」の要素が混在している費用をいい、その処理については、所得税法施行令第96 条 により「業務の遂行上必要である部分」を明らかに区分経理できる場合は、当該部分を必 要経費に算入することができるとされている。 従って、私法上の取引事実が業務の遂行上必要でなければ直ちに家事関連費として必要 経費が否認されるものではなく、家事上の経費に該当するかどうかを判断した後に、両要 素が混在している場合に、家事関連費への該当性と合理的な区分経理を検討すべきである。 最後に、必要経費について私法上の取引事実が生じた場合の租税法の解釈・適用過程を 確認しておくこととする。 ① 課税要件事実の認定作業 (ア) 所得区分への該当性(必要経費がどの所得区分に該当するのか。) (イ) 「業務遂行上の必要性」と家事費及び家事関連費の事実認定 ② 私法上の法律構成(契約解釈) ③ 租税法の発見・選択 ④ 当該租税法の課税要件規定の解釈適用 ⑤ 租税法の課税要件事実への当てはめ ⑥ 申告・納税 例えば、「業界団体の役員の交通費」で、給与所得の給与所得控除に該当するものがあれ ば、①(ア)により事業所得の必要経費は否認されることになる。 今後は、社会通念基準から「業務の遂行上の必要性」をどのように主張立証していくか が問題となる。 以上 (注1) 最高裁平成26 年 1 月 17 日(TAINS Z888-1815) (注2) 「経験則」と「動かし難い事実」:伊東滋夫『要件事実・事実認定入門』 120∼121 頁(有斐閣、平成 20) (注3) 増田英敏『リーガルマインド租税法』第4版 393∼395 頁

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