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82 茨城県立医療大学紀要第 22 巻 療的もしくは予防的介入を行い, 卓越した直接ケアを提供する というプライマリケアに重点を置く役割が期待されている 1) 日本では NP 養成の教育課程を持つ大学院は 1 校と数は少ないが 2), プライマリケア領域においてキュアとケアを融合し, あらゆる場面で

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Academic year: 2021

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海外視察で学んだ大学院での高度実践看護学教育

-トロント大学・イリノイ州立大学の実際から-

山口忍,前田隆子,沼口知恵子,加納尚美

茨城県立医療大学保健医療学部看護学科 要旨 本学の博士前期課程は修士課程を開設して以来 15 年が経過しておりカリキュラムの見直しが大きな課題と なっている。全国的に看護学における大学院教育の目的が多様化しており,本学の方向性を再検討する必要 性が高まっている。そこで今回,先駆的な大学院教育を行っているカナダのトロント大学,アメリカのイリ ノイ州立大学シカゴ校を視察し情報交換を行う機会を持った。その結果,本学における高度実践看護の位置 づけの視点や国際交流の必要性と可能性についての示唆を得た。看護教育システムの違いや保健医療体系に よる看護実践へのニーズの違いがあるため,海外の大学院教育の内容をそのまま導入することは現実的では ない。しかし,本学にとってより進化し,社会に期待されている高度実践看護に必要な教育課程を志向する 必要がある。さらに,日本の近未来及び茨城県における大学院の看護教育が考えられるような人材育成のた めにも継続的な国際交流の必要性は高い。 キーワード:大学院教育,高度実践看護,NP 1.はじめに 現在,日本における看護の大学院には様々な教育 課程が設置されている。大学院が開設された当初 は,研究能力の育成に主眼が置かれていたが,現 在は高度看護実践へのニーズも高まっている。例 えば, 日本看護系大学協議会は高度実践看護師 を,「大学院教育を受け,個人,家族および集団に 対して,ケアとキュアの融合による高度な看護学 の知識,技術を駆使して,疾病の予防及び治療・ 療養課程の全般を管理・実践できるもの」1)と定義

し,専門看護師(Certified Nurse Specialist:以下

CNSとする)とナースプラクティショナー(Nurse Practitioner:以下NPとする)を位置づけた。CNS は,病院等の医療現場において,卓越した直接ケア を行うとともに,相談,調整,倫理的調整を行い, ケアシステム全体の改善と看護ケアの質の向上に努 めるという役割を担う1)。現在 156 校を超える大学 院で 13 分野の CNS の課程がある。今後さらに取得 する単位が現行の 26 単位から 38 単位に増え,その 専門性をさらに高めようという流れになっている。 日本看護系大学協議会が開設している NP は,看護 クリニック,訪問看護ステーション,外来におい て,一定の範囲で自律的に健康上の問題の診断と治 茨城県立医療大学紀要  第 22 巻 A S V P I Volume  22

資  料

連 絡 先: 山口  忍  茨城県立医療大学保健医療学部看護学科   〒300–0394  茨城県稲敷郡阿見町阿見4669–2 電  話: 029–840–2189  FAX:029–840–2289 E–mail:yamaguchis@ipu.ac.jp

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療的もしくは予防的介入を行い,卓越した直接ケア を提供する」というプライマリケアに重点を置く役 割が期待されている1)。日本では NP 養成の教育課 程を持つ大学院は 1 校と数は少ないが2),プライマ リケア領域においてキュアとケアを融合し,あらゆ る場面で幅広い対象に対して,自律して看護実践を 行う NP の養成が行われており,平成 29 年 3 月に 修了生が輩出される。 日本 NP 協議会は,医師の包括的指示のもとで特 定行為を行う看護師育成を進めており3),賛同する 複数の大学院がその養成課程を開講している3)。同 時に,研究能力育成に主眼をおいた教育課程も平行 して存在している4)。この協議会が推進する NP は 診療看護師とも表現されている。これらのことか ら,日本の看護系大学院の教育課程は多方面への広 がりを見せている。 このような背景をふまえ,本学の大学院博士前期 課程において,研究的能力と高度実践のどちらに主 眼をおくべきか,研究的能力と高度実践を併せ持つ 人材を育成するには,どのような教育課程が適切で あり社会のニーズに合ったものであるか,実現可能 であるかについて考える必要がある。 今回海外の二大学の大学院視察ではスケジュール の都合上情報に差はあるが,高度実践看護師教育に ついて,カリキュラムやその構造,開講されている 授業内容などを含めた現状の情報収集を行った。こ れらの情報は,本学の大学院博士前期課程の方向性 を検討する上での基礎資料となると考えた。 2.研修内容 海外研修は平成 28 年 9 月 11 日~18 日で実施され, 今回の報告は 14 日 15 日の二日間で,視察先は,ト ロント大学(UNIVERSITY OF TORONTO)(図 1,2),イリノイ州立大学シカゴ校(UNIVERSITY OF ILLINOIS at Chicago:以下UICとする)(図 3, 4,5)の二大学であった。視察者は,本学の看護学 科教員 4 名であり,それぞれの担当領域は母性看護 学,成人看護学,小児看護学,公衆衛生看護学で あった。 トロント大学では,広大なキャンパス構内見学と 准教授である国際担当局ディレクターから,イリノ イ州立大学では,小児臨床准教授,パブリックヘル スナーシング臨床准教授,コミュニティヘルス臨床 准教授から情報を収集した。 3.イリノイ州立大学とトロント大学の概要 1) 大学院カリキュラムの概要 イ リ ノ イ 州 立 大 学 看 護 学 部 で は 近 年, カ リ キ ュ ラ ム 改 訂 を 行 い, 従 来 の 修 士 課 程(Nurse 図 1 トロント大学看護学部 図 2 トロント大学看護学部の外観

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Practitioner;NP,Clinical Nurse Specialist;CNS, Nurse Midwife) は, 博士課程 Doctor of Nursing Practice(DNP)と高度ジェネラリスト養成の修士 課程 Master of Science(MS)に置き換えられ5) 2014 年冬から運用を始めた。これまでの修士課程 は,それぞれ専門分野を特定したコースであった。 それが,分野を特定しない高度ジェネラリスト養成 と,従来以上のレベルで高度実践を特定分野に限っ て行う DNP へと切り替えられ,CNS の養成は廃止 となった。 修士課程を博士課程の DNP コースに移行した背 景には,今日の複雑なヘルスケアをとりまく環境変 化により,さらに高いレベルでの科学的知識と実践 による患者ケアの質の保証が要求されるようになっ たことがある。 こ れ ら の 改 訂 は, ア メ リ カ 看 護 大 学 協 会 (American Association of Colleges of Nursing; AACN)の方針6)に対応したもので,直接ケアや専 門分野での役割実践において,複雑なケアニードに 対処できる高度な看護実践者を育成するという位置 づけになっている。 イリノイ州立大学看護学部大学院のプログラムと そこに進む学生の背景は多岐にわたる。例えば,看 護学士(Bachelor of Science in Nursing;BSN)か ら修士(MS)のコース,看護学士(BSN)から実 践能力を重視する博士課程 DNP のコース,看護学 士(BSN)から研究能力を重視する博士課程 PhD のコースなどがある。カリキュラムは,大学組織で 実践している研究結果を反映させた質の高いプログ ラムを継続的に提供している。今回の視察の目的で あった,海外における NP 教育に焦点をあててプロ グラムの概要を紹介する。 DNP コースの専門分野(Specialty)には 11 のプ ログラムがある。成人老年急性期ケア DNP,成人 老年プライマリケア DNP,新生児 DNP,小児急性 期ケア DNP,小児プライマリケア DNP,助産師, 図 5 イリノイ州立大学シカゴ校看護学部 シミュレーションセンター室 図 4 イリノイ州立大学シカゴ校   看護学部アナウンスメント 図 3 イリノイ州立大学シカゴ校看護学部

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ウィメンズヘルス DNP,ファミリー DNP,精神科 メンタルヘルス DNP の DNP プログラムに加え,ヘ ルスシステムリーダーシッププログラムとして,ア ドバンスドポピュレーションヘルス,ヘルスリー ダーシップアンドインフォーマティクス7)である。 学生の入学時の条件により,それぞれ DNP を取 得できるコースは以下の通り多様である8) ・看護学士保持者→BSN to DNPコース

・ 修 士 保 持 者 → Master of Science in Nursing (MSN)のコースで習得した資格,能力をベース にカリキュラムを構成 ・修士保持者で別の専門分野の役割の習得を目指す 者→追加のコース(臨地実習とプロジェクト含む) ・RN(登録看護師)であるが,BSN 以外の学士保 持者→DNPトランジッショナルコース コースによって,就学年数は変わるが,多くは 2 年から 6 年で修了する。BSN to DNP コースに在 籍するすべての学生は,1000 時間以上の臨床実習 (臨地実習とプロジェクト)を修了しなければなら ない。 NP は,臨床で患者の診察と治療を行うという役 割以外に,地域において健康問題に影響を及ぼすさ まざまな要因を同定し,地域住民の健康に資する対 策を講じるという役割も担う。そのためリーダーと して,郡,州の利害関係者などと,対策について交 渉する能力も求められ,それらを育成するための実 習も組み込まれている。 トロント大学では修士課程プログラムに NP を位 置付けている。海外からも NP への関心は高く,海 外の看護に協力することも役割と考えている。 2)学習環境 DNP での授業ではオンライン教育が取り入れら れていた。働きながらキャリアアップを目指す学生 の背景は多様でありオンライン教育は好評価であ る。教員は,パワーポイント資料や課題を作成しオ ンラインで学生に公開し,学生は各自がその課題を 行う。その学習内容は,クラスメート同士,ときに は教員も加わりオンライン上のディスカッション ボードを通して議論をする。全てオンラインで行う 科目,オンラインと対面授業の両方を使って行う科 目がある。図書館でも本や雑誌の電子化が進んでお り,書棚も空いているような状況である(図 6)。 また歴史展示室では,古くからあるアーカイブや 現物の展示を行っており自分たちの歴史に誇りを 持っているように思えた。イリノイ州立大学はオル ソン少佐の母校でもあることから日本とのつながり を垣間見ることができた(図 7.8)。 トロント大学,イリノイ州立大学にともに,緑が 多い構内のあらゆるところで学生が石段に腰掛けパ ソコンを開いて学習していた。思索の時間を緑の中 で行える環境を整えている(図 9)。 図 6 イリノイ州立大学シカゴ校図書館 図 7 イリノイ州立大学シカゴ校看護学部内歴史展示室

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尚,これらで使用している写真は,施設の許可を 得て掲載した。 4.各国における NP の起こり アメリカにおいては 50 年ほど前から医師不足に 対応するために NP が誕生した。当時,都市部から 離れた田舎の地域には,医師が不在であることが多 い一方,都市部で働く医師は,多忙で十分患者に対 応ができない状況があった。さらに看護師が過疎地 への訪問看護を行った際に,重症度が高い疾患への 対応が RN の持つ資格でできる医療行為の範囲では 十分ではなく,患者を救命できないこともあった。 その状況に対応する必要性が高まり,医師との協議 を経て NP を育成することになった。それに伴い, スキルアップが必要となり,特別な病気に対応する ためのライセンス化を図った。近年では,都心にお いても NP が必要とされている。特定の専門分野で 医療を行う専門医が増加し,その医療が高度化して いく中で,一般診療を行う医師が減少し,NP がそ の役割を担い,一般診療を行うことで機能してい る。アメリカで NP が始まった背景をたどれば,田 舎や僻地での医師不足により NP のニーズが高まっ たことにあるが,今日のように発展してきた基盤に は,医師と看護師の信頼関係がある。日本において も信頼関係は重要なことである。 カナダオンタリオ州において,看護は高度実践と いう考えのもと,NP はライセンスが必要であり, 昨今,徐々に NP の数が増加している。CNS はライ センスは必要ではなく,カナダの看護協会からの認 可となっている。 5.NP の活動拠点とその役割 アメリカ,カナダともに,NP の活動の拠点は, クリニックであり,そのクリニックに来所した人が 対象者となる。NPは,予防,教育,安全,プロモー ションを重視し,看護の質の向上に徹している。患 者が病気を発症してから大病院に行ってケアを受け るのではなく,住んでいる地域のNPによって発症 前に予防ケアを受けることができるため,国民の健 康改善に大きく貢献している。CDC(Centers for Disease Control and Prevention)が示すヘルスイン パクトピラミッドの一番下位の層が健康に影響を及 ぼす部分として重視され,NP は,病気になる前の 予防的ケアを重視し,病気にならないような習慣を つくり,文化として定着を図っている(図 10)。 カナダでは,プライマリヘルスケア(PHC)が 看護実践の大きなフレームワークであり,多くの NP が PHC 領域で働き,NP を雇うクリニックも増 えている。PHC のチームには,家庭医,NP,その 他の専門職がおり,多職種の中で協働していくため には看護師の力が大きく NP は重要である。例とし て,医学部の家庭医学の授業の中で,多職種との協 働に支障があるときの対応として,看護の立場から NP の役割を医学部の学生たちに教えていることが 挙げられる。 図 8 イリノイ州立大学シカゴ校看護学部内歴史展示物 図 9 トロント大学構内

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6.海外研修から得た本学への示唆 1) 高度実践看護の考え方 日本において高度実践看護とは高度医療に伴う 看護の意味合いが強いが,アメリカにおいて DNP (NP含)は,医師との対等な信頼関係のもとプライ マリヘルスにおける診断を行い,診断や治療の結果 についても責任を持つということであった。それら のプライマリケアはクリニックを拠点に行われてお り日本とは保健医療の組織体系が大きく異なってい た。また,アメリカとカナダでは NP 導入の進捗状 況は異なっていた。 日本では,離島等での医師不足に対応し,プライ マリケア領域で幅広い対象に自律したケアおこなう ことを重視した修士課程のみで養成している日本看 護系大学協議会の NP と,病院内での医師の包括的 指示のもとでの特定行為を行う診療看護師と称さ れる NP を養成する修士課程プログラムが存在し, 「NP」について,統一した見解がないままに養成が 進んでいる現状がある。本学においての NP の導入 の可否については,看護全体での慎重な議論を含め 検討することが望まれる。筆者は,地域で生活する 健康な人々が病院に行かずとも健康を保持するため の機能強化が必要と考える。具体的には,予防接種 や乳幼児健診,健康診査などは病院とは異なる施設 で,看護職が行えるような役割拡大が必要と考え る。 2) 多様な背景をもつマスターコースへの対応 本学は主に社会人を対象としたマスターコースで あり,週末に開講することにより社会人対応をきめ 細かくしている。情報機器が発展している昨今,オ ンライン教育の活用等それを最大限に活用した授業 形態を検討することも必要と考える。すでに資格と 経験を有している学生であるため,本人の生活形態 に即した方法で授業内容を達成できる方法を今後検 討することが必要と考える。 3) 海外交流の可能性 今回の海外研修は短期間ではあったが,日本とは 異なる文化を背景とする看護の実際について触れる ことができた。そのことは日本の看護を考えるうえ で貴重な体験であった。その国の成り立ちを把握し たうえで新しいシステムを導入することが望まれ, それらを考える看護職を一人でも多く輩出するため に学生の海外交流の機会を作ることが必要と考え る。今後,そのような機会を作ることを視野に入れ て教育内容を検討する必要性は高い。 謝辞 視察の受け入れに際し,多大なるご協力を頂きま したイリノイ州立大学の石田佳奈子さんに心より感 謝いたします。 本海外視察は平成28年度茨城県立医療大学プロ ジェクト研究の助成(1656-1)を受けた。 文献 1) 一般社団法人日本看護系大学協議会 高度実践 看護制度推進委員会平成25年度事業活動報告書. http://www.janpu.or.jp/wp/wp-content/uploads/ 2013/08/H25-APN.pdf,(参照 2016-09-29). 2) 一般社団法人日本看護系大学協議会高度実践看 護師教育課程一覧(平成 28 年 2 月現在). http://www. janpu.or. jp/download/pdf/koudo_list. pdf,(参照 2016-12-12). 3) 洪愛子.特定行為に係る看護師の研修制度の活 用について.https://www.nurse.or.jp/nursing/ tokutei/pdf/document.pdf,(参照 2016-09-29). 4) 一般社団法人日本看護系大学協議会平成28年度 会員校(大学院一覧) http://www. janpu.or.jp/campaign/file/glist. pdf,(参照 2016-09-29).

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5) College of Nursing, UIC homepage. http://www.nursing.uic.edu/academics-admissions/master-science#program-overview, (参照 2016-09-29). 6) 看護の大学のアメリカンアソシエーション-看 護の進む高等養育- http://www. aacn.nche. edu/dnp/dnp-position-statement,(参照 2016-09-29).

7) College of Nursing, UIC homepage.

https://www.nursing.uic.edu/academics- admissions/doctor-nursing-practice#program-overview,(参照 2016-09-29).

8) College of nursing, UIC homepage. https:// www.nursing.uic.edu/academics-admissions/ doctor-philosophy#program-overview,(参照 2016-09-29).

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図 10 CDC’s Health Impact Pyramid

参照

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