米国の国際資金フローの構造変化について
―2007 年以前と以後の比較を通して―
信用理論研究学会 於九州大学 2013年3月24日 北九州市立大学 前田 淳
目次
Ⅰ 問題の設定
Ⅱ 2007年以前の米国の国際資金フローの構造
Ⅲ 2007年以降の変化
Ⅳ 結論 補足
主要参考文献
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Ⅰ 問題の設定
① ドル体制:ドルの基軸通貨性、および、ドルによる国際資金フローによって成り立 っている国際金融のシステム。
⇒ドルによる国際資金フローは、米国の国際収支とりわけ資本収支レベルの取引に、
最も顕著に表れている。
⇒トリフィンの流動性ジレンマ論とそれに対するデプレ・キンドルバーガー・サラン トの反論以来、米国の国際収支は大きな論争を度々起こしてきた。最近では、キャサ リン・マンなどの経常収支赤字ないし対外債務の持続可能性論争も(竹中、2012)。
⇒焦点は、しだいに経常収支や基礎収支から、資本収支に移ってきた。
⇒資金の国際的な運動が、各国の経常収支をはじめ、様々な影響を及ぼす状況になっ ている。
② 米国を巡る国際資金フロー、米国の対外資産負債は、巨大。対GDP比ではそれほ どでもないが、実額としては、極めて大きい(図1~図6)。→世界経済へ大きな影 響力を持っている。Hirata, Kose and Otrok (2013)―貿易ないし金融取引による世 界景気の同時性を分析。「グローバルな因子は、世界のビジネスサイクルにおける
主なピーク・落込みに密接に関係しており、1974-75年、および、1980年代初頭・
90年代初頭の不況、2000年代初頭の景気減速、昨今の世界的な不況などがこれに 含まれる。さらに、クローバルな因子と米国の成長がかなりの程度でオーバーラッ プしており、とりわけ米国の景気後退では、その傾向がみられる。」(Hirata, Kose
and Otrok, 2013, P. 18)→このように、世界と各国経済に大きな影響を及ぼして
いる国際資金フローの中で、米国を巡るそれは、いわば主役。
③ 問題の設定―ⅰ) 米国の国際資金フローの構造はどのようなものであり、どのよう な役割を果たしてきたのか、ⅱ) その構造は、2007年を境に変化しつつあるのか、
あるとすれば、その影響は何か。
Ⅱ 2007年以前の米国の国際資金フローの構造
① 1982年から、米経常収支が赤字化。86年からは、米国は対外純債務国に。
② ボルカーの引締め政策とレーガン大統領の「強いドル」政策で、高金利・ドル高→
大量の資本が世界中から流入。
③ 90年代中頃までは、先進国からの資金流入が多く、一方で米国からの資金流出は、
それほど大きくない。
④ 90 年代後半から、各国の金融規制緩和や生産のグローバル化に対応して、米国か らの対外直接投資と株式投資が増加。
⑤ 2000 年代には、途上国からの対米資金流入、および、途上国への米国からの投資 が、とくに活発化。
⇒チャート参照。
⇒以上から、米国は1980年代以降に世界の国際資金フローにおける中軸的な性質を形 成してきた、といえる。
その通貨別・形態別の特徴と米国と世界への影響(図7~図10)
① 対外負債は、ドル建てがほとんどで、対外資産は各国通貨建てが多い。→ドル安時 には、米国にキャピタルゲインが発生して、対外ポジションの悪化にブレーキがか かる。対外負債は、対民間部門が大きいが、通貨当局はオフショアセンター経由で 米国に投資することが多々あると思われるので、実際は外貨準備の影響はもっと大 きいだろう。
② 資金需要に対するファイナンスの容易さ、2000 年代中頃の住宅バブルの一因(←
長期金利が政策金利・短期金利に反応せず、異例の低位安定←外国からの資金流入)。
Warnock and Warnock (2006)―「外国(通貨当局を含む―前田、補注)からの米
国国債の大量購入は、過去数年間の米国の低金利に大いに寄与したことを我々の作 業は明らかにした。過去1年間に、もし米国国債を外国が全く購入しなかったとし
たら、長期金利はほぼ 100 ベーシスポイント高かったであろう。」(Warnock and Warnock, 2006, p. 21)。
③ 対外資産は直接投資を除くと株式投資が多く(図10)、収益率が高い。逆に、対外 負債は、直接投資を除くと、(対外資産に比較して)債券が多く(図9)、対外資産 に比べると利回りが低い。→米国の対外ポジションの悪化を緩和する要因(所得収 支は黒字が続いてきた。)米国からの対外株式投資先としては、直接投資の受入れ が多い国ほど投資額が伸びている(表1・表2・表3→表3 から、スピアマンの順 位相関を調べたところ、5%有意。つまり、米国も含めた世界からの直接投資の受 入れの伸びが大きい国ほど、米国からの株式投資の伸びも大きい―2001-06年につ いて)。
④ 地域別では、欧州からのABSを中心とした投資が2000年代に増加した(Bernanke, et. al., 2011、表4・表5)。また、米国からの投資でも、対欧州のシェアは大きい
(福田・松林、2013)。
⑤ 米国への資金流入が、米国の好況とバブルを醸成→米国への輸出や投資を梃子に、
途上国などで経済発展→世界景気の同時性・スピルオーバー。さらに、米国からの 対外投資は、株式投資の形態をとりつつ、途上国を中心とした資金需要をファイナ ンスして、各国の経済成長にプラスに作用した。
Ⅲ 2007年以降の変化
① 米国の国際資金フローの変化
・米国の経常収支、所得収支の動向→経常収支赤字は減少。所得収支の黒字は増加(図 12・図13)。
・米国からの資金流出では、変動が激しくなりつつも、直接投資も含めて、対外投資は 堅調(図14)。
・米国への資金流入では、社債(民間の資産担保証券を含む)と政府機関債が激減した が、株式と財務省証券は比較的安定。とりわけ、質への逃避ゆえに財務省証券への投 資は堅調(図 15~図 19)。※ギャップ指数=(購入額-売却額)/(購入額+売却 額)(図20)
・米国からの対外投資については、図21~図23。
・地域別では、欧州からの対米投資が減少し、日本など他の地域からの投資がやや増加 している(図24~図28)。
② 2007年以降の変化を生み出したいくつかの事象。
・リスク回避行動(ホームバイアス、質への逃避)
・欧州の危機に伴う対欧州取引の急減
・ドルの金利低下による途上国などへの資金流入
・公的流動性供給
・その他
Ⅳ 結論
① なぜ、2007年以降の危機は、ドル体制に致命的なダメージを与えなかったのか?
・危機が米国にとどまらず、欧州を初め世界金融危機に発展したため、ドルの信認や流 動性に対して、他の通貨と比較して、、、、、、、、、
、決定的な変化が及ばなかった。
・米国の対外資産と対外負債が並行して拡大と収縮した。
・景気と金融資産価格の世界的な連動性が確立していたために、米国の危機が世界金融 危機、そして、世界的な不況へと拡大した。つまり、米国のみが致命的な危機に陥っ たわけではない。
・とりわけ、欧州への危機の波及については、2007 年までの米国の資産担保証券への 欧州からの大量の投資も一因であった。
・欧州からの対米証券投資の急減に対しては、他の地域からの資金流入が代替した。
・ドルの流動性不足に対する公的なサポートによって、最悪の事態を回避できた。
② 2007年以降の危機は、どのような変化を見せてきたのか?
・米国への資金流入では、財務省証券が大きくなっている。
・経常収支の赤字は縮小した。とりわけ、所得収支の黒字が拡大した。
・米国の対外資産・対外負債のいずれにおいても、資金の変動が大きくなっている。
・国際資金フローの中軸的な位置に米国が座っていた状況が、減退しつつある(←→米 民間部門への外国からの投資が復活してゆけば、旧に復する可能性も)。
・つまり、2007 年中頃までに形成された国際資金フローの構図は、社債と政府機関債 については、一度崩壊ないしマヒした―その反動で財務省証券への投資が伸びた―が、
直接投資と株式投資については、安定していた。さらに、先進各国の低金利によって、
途上国や資源への国際資金フローの増大という新しい構図も生まれつつある。
補足
◎通常、為替取引におけるボラティリティーの増大は、取引コスト(Offer-bid spread) にプラスの影響。
・Bollerslev and Melvin (1993, p. 371)―ボラティリティーの増大は、Bid-ask spread を高める。
・なぜ、Bid-offer spreadに注目するのか? Offer-bid spread―ここでは、“(Offer
マイナスBid)÷Bid”であり、以下、OBS(Offer-bid spread)比率と呼ぶ―の低 さは、ドルの基軸通貨としての性質である流動性の指標。また、国際資金フローに 対して、取引コストは影響を与えている。
・ドルを通貨ペアとする取引は、そうでない取引に比べて、OBS比率が低い。
・問題―“2007 年以降の米国を巡る国際資金フローの混乱と変化の結果、対ドル為 替取引のボラティリティーが高まり、OBS が上昇して、ドルの他の通貨とのこう した非対称性が弱まったのか?”
・確かに、ドルのボラティリティーは増大(表6)しているが、他の主要通貨でも増 大。
・OBS比率は全ての通貨で高まった(図29・図30)。
⇒つまり、単独でみると、ドルのOBS 比率は高くなっているが、他の通貨と比較し、、、、、、、、
ての、、
流動性の高さは、低下しなかった。
・2007年6月末までは、金利差とボラティリティーが、このOBS比率に正の有意な 相関(回帰分析の結果 1、3)。しかし、2007 年 7 月以降は、負の相関(回帰分析 の結果2、4)。
主要参考文献
岩壷健太郎(2009)「円キャリー・トレードと世界金融危機」神戸大学『国民経済雑誌』
第200巻第5号、11月、35-49頁。
岩壷健太郎(2010)「グローバル・インバランスと世界金融危機―円キャリー・トレー ドによる分析」藤田誠一・岩壷健太郎編(2010)『グローバル・インバランスの経 済分析』有斐閣、第7章。
大溝一登(2012)「2000 年以降の円キャリー・トレードとホームカントリー・バイア スに関する一考察」神奈川大学『マネジメント・ジャーナル』、Vol. 4、3月、99-120 頁。
加藤晴子・福永一郎・山田健(2012)「リスク・リバーサルからみた為替変動へのリス ク認識」『日銀レビュー』2012-J-14、8月。
(http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2012/data/rev12j14.pdf、2013 年 2 月10日アクセス)
木下悦二(2008)「21世紀初頭における『金融資本主義』とその挫折(上)(下)」『世 界経済評論』Vol. 52、No. 9、9月、27-39頁、Vol. 52、No. 10、10月、43-49頁。
坂本正弘(2008)「サブプライム問題とドル体制」『世界経済評論』Vol. 52、No. 3、3 月、8-13頁。
竹中正治(2012)『米国の対外不均衡の真実』晃洋書房。
福田慎一・松林洋一(2013)「金融危機とグローバル・インバランス」日本金融学会編
『金融経済研究―特別号』第8章、1月。
Bernanke, Ben. S., Carol Bertaut, Laurie Pounder Demarco, and Steven Kamin (2011), “International Capital Flows and the Returns to Safe Assets in the United States, 2003-2007,” Board of Governors of the Federal Reserve System, International Finance Discussion Papers, No. 1014, February, pp. 1-35.
(http://www.federalreserve.gov/datadownload/pubs/IFDP/2011/1014/ifdp1014.p df, accessed on December 21, 2011)
Bollerslev, Tim and Michael Melvin (1993),“Bid-ask spread and volatility in the foreign exchange market,”Journal of International Economics, Vol. 36, Issues 3-4, May, pp. 335-372.
Hirata, Hideaki and M. Ayhan Kose and Christopher Otrok (2013),“Regionalization vs. Globalization,”IMF Working Paper, WP/13/19, January, pp. 1-64.
Warnock, Francis E. and Veronica C. Warnock (2005), “International Capital Flows and U.S. Interest Rates,” Board of Governors of the Federal Reserve System, International Finance Discussion Paper, No. 840, September, pp. 1-46.